イケメン従者とおぶた姫。
コウテン(ダリア)の意識が浮上すると、フカフカなものに包まれ何やら消毒液やら薬品の独特な匂いがした。

…あ、生きてると感じる前に、コウテンが先に思ったのは


…トクン…

…すぐ近くに“オレ様の天がいる”だった。

近くに天がいる気配がして、それだけでコウテンは嬉しくて嬉しくて泣いてしまった。

泣いて目を覚ますと真っ白い天井が見え、自分を覗き込む白衣姿の女がいた。そして、右腕に違和感があると思ったら点滴をされてるらしく、あと口元には酸素マスクがつけられていた。


「目が覚めて良かったね。安心してね。ここは安全な場所だからね。でも、ちょっといい子で待っててね。」

と、完全に子ども扱いして、点滴の説明と酸素マスクの説明をして酸素マスクは取っては駄目だと、何度も注意してから何処かへ行ってしまった。

白衣の女はコウテンの頭を撫でてこようとしてたが、コウテンは白衣の女の手をぺちっと払いのけた。

その様子に、白衣の女…(多分女医だろう)は、一瞬驚いた表情をするも、また直ぐに笑顔に戻った。

…思い切りはたきたかったが、体力はまだ戻っておらず全然力が入らなかった。声すら出ない。まるで、金縛りにでもあったかのような気分だ。

白衣の女は、それでも笑顔のまま出て行ったのはプロだなと少し感心した。でも、昔から人に触られるのが苦手だから仕方ない。

だけど、やっぱりどうしても天が気になる。

コウテンは、力の入らない体を何とか動かして、点滴の針と酸素マスクを外すと
ググッと寝返りをうちうつ向けになりベットの端に捕まり自分の体を引き寄せると

無理矢理ベットから落ち、ガッと床に体を打ちつけた。打ちつけた場所から激痛が走り『…イッテェ〜!』と、出ない声で呻きながらしばらくの間痛みで身動きできなかった。

しかし、少し痛みが治まってきた所でコウテンは天の気配を頼りに、地面に這いつくばりほふく前進しながら少しずつ前に進んでいった。

呼吸も苦しいし、目も霞むし汗も滝のように吹き出してくるが今はそれどころじゃない!

一刻も早く天に会わなきゃ。少しでも早く!

その一心だった。

そうやって必死になってもがいている内に、ガチャっとドアが開きコウテンはその音の大きさでハッと我に返った。

あまりに必死過ぎて、人が近づいて来る足音にさえ気付けなかった。


…やべー…どうしようと思っていると


部屋に現れた人物は、シーツや掛け布団がグチャグチャになっているベットを見て、次に床に這いつくばっているコウテンを見て


「…驚いた。身動きできない程、体力を消耗していると聞いていたんだが…元気そうだな。」

そう言って、苦笑いしていた。

ボヤけてよく見えないが大男だって事だけは分かる。


「何されるか怖くて逃げようとしたのか?
確かに、いきなり見知らぬ場所に連れて来られたんだ、仕方ない。
かなり怖い思いをさせてしまったな。すまない。だが、これだけは信じてほしい。
お前をどうこうしようという訳ではない。

土砂災害に巻き込まれそうになったお前を一時的に保護しただけだ。お前がいた周辺を調べたが、お前の身寄りの…っと。話を聞いてられる状態じゃないな。」

と、大男はコウテンを抱っこして、グチャグチャのベットに戻した。その間も、コウテンは力いっぱい抵抗したが、コウテンは全身に力が入らなく大男はビクともしなかった。

大男は女医を呼び、女医は酷く驚いた表情をし後は大男が暴れるコウテンを押さえつけてる間に女医はコウテンに注射をうち、それから覚えていない。


再び、目を覚ました時には、自分が眠っているベットの横に大男が座っていて

「よく眠れたみたいで良かった。丸三日は寝てたぞ。…って、言ってもお前の回復の様子を見ては、医療用の睡眠魔導を掛けを繰り返してたんだがな。
また、脱走しようと暴れられたら困る。」

と、イタズラっぽく笑った大男は、自分の目から見てもなかなかのイケメンだった。
ワイルドでいて品と知性も感じられるような…あと、何だかタダもんじゃないオーラがあった。

あとは、すっげー曲者っぽくて自分の苦手とするタイプ。

そして、すぐにコウテンはハッとし


「…オレ様の天っ!!!」

と、言ってベットを抜け出した。それを大男は黙って見ていた事にもコウテンは気付かず

とにかく、天に会いたい!自分の居場所に帰るんだと、天の気配を探って無我夢中で走った。
急いで、自分のいた病院か施設か分からない場所から抜け出すと、とにかく無我夢中でそこに向かい走った。

走って走って、ようやく辿り着いた場所はなかなか大きな屋敷で、そこから天の気配を感じ、使用人らしき人達が自分を見て驚くのを無視して

一直線に、ある部屋へと向かった。

…すぐ、もう直ぐだ!

もう少しで…!!


そう思ったら、胸の高まりがはち切れんばかりにおさまらない


…ドックン、ドックン!

そして、ついに

…ガチャッ!!

その部屋を開けると、ドアを開ける音の大きさにビックリした赤ん坊がエーンエーンと泣いた。

…あ!オレ様が、ビックリさせちまったのか

と、コウテンは直ぐに気付き
泣いている赤ん坊を抱いてあやすメイドから「寄越せっ!」と、赤ん坊を奪い取ると


「…ビックリさせちまったなぁ〜。ごめんな。
ごめんな。」

優しく声を掛け、赤ん坊を抱きしめ離さなかった。

それを見て驚くメイドに、後ろからやってきた大男は口元に人差し指を置き

様子を見てみようと、合図してきた。

メイドは赤ん坊が落とされやしないかハラハラしながら、その様子を見ている。屋敷で働いている使用人と残りの高齢のメイド二人も心配そうに部屋の外から様子を伺っている。

いきなり現れ屋敷を走る幼児に、みんな驚き幼児の顔を見れていなかったが


…なんと、美しい事か…!

汗だくになって、前髪をかき上げた状態だったので幼児の顔がハッキリと見える。

歳の頃は、4、5才だろうか?

肌の色は、黒いが…見た事のない黒さだ。世界には肌の黒い人はもちろんいるが、それでも褐色だったり、小麦色だったりで生粋の黒色の肌なんてない。

この幼児の肌は、生粋の黒で透明感もあり陶器の様な美しい黒い肌だ。

髪の色も、黒ダイヤの様に光の当たり具合でキラキラ輝いて見える。そして、髪の根本は黒いが毛先に行くほど、紫のグラデーションになっていてやはり美しい。

目の色は、アメシストの様に美しい紫。

この世のものとは思えぬ、アニメかCGイラストの美形キャラがこの世界に迷い込んできたのかと目を疑う美貌の女児だとみんな思った。

愛おしそうに赤ん坊を抱く姿は、まさに天使だとみんなこの美貌の女児に心を奪われ釘付けになっていた。

それを察してか、大男は


「…男だぞ?」

と、釘付けになる面々に、声を掛けるとそれに驚いたメイド達は驚きのあまり、「「「…ええぇぇぇーーーーーッッッ!!!?」」」と、大声をあげてしまった。

すると、ようやく落ち着いて泣き止もうとしていた赤ん坊は、再度ビックリしてまた大泣きしてしまった。

すると


「ウッセーーーッッッ!!!オレ様の天が、テメーらのきったねーデッケー声にビックリしちまったじゃねーか!!」

と、天使の様に愛らしくも美しい顔で、とってもとっても汚い言葉で罵ってきた。しかも、その美しい顔をグシャリと顰めてらっしゃる。

とっても怒っているようだ。

それから、幼児は赤ん坊を

「いい子、いい子。もう、大丈夫だからな。お前には、オレ様がいる。ずっとずーーーっと、お前を守ってやるからな。」

と、泣き止むまで、ずっと大丈夫と言葉を掛けて合間合間に、赤ん坊のぷにゅぷにゅの頰っぺたにチュッ、チュッ!と、チュウをしては

壊れ物を扱うように、赤ん坊に頬ずりをしては赤ん坊の顔を天使の様な優しい眼差しで微笑みかけた。そして、感極まったかのように大量の涙を流しながら何か語りかけている。
だが、あまりに小さな声で自分達には全然聞こえなかった、一人を除いて。

それを見て、何故かグッと心打たれるものがあり貰い泣きする使用人やメイド達。


…いやいや、あいつら今日が初対面だからな?

と、大男は心の中で突っ込んだものの、何故か大男もこの幼児の姿に心が動かされてしまい

…つい…


「…お前、名は?」

と、幼児に声を掛けてしまった。
幼児に語りかける言葉使いでもないが。いくら子供慣れしてないからといってこれはないなと、メイド達も少々呆れている。

大男の言葉を無視して、幼児は赤ん坊をあやして喜んでいる。


ショウの事しか目に入らないっぽいな

…しかし、“ようやく会えたオレ様の天“って、言葉が引っかかる

それは、ひとまず置いとくか

…仕方ない


「俺は、その赤ん坊の父親のリュウキという。」

と、言うと、ようやく幼児はその美しい顔をこちらに向けた。すると、あまりの美しさに、メイドや使用人達の何人か腰を抜かしてしまっていた。

本当に驚くほどの美しさだ。おそらく、この世のものではないだろう。
そう思ったから、あの土砂災害の視察に来た時、この幼児を見つけ本来なら一般の病院へ搬送するところを

自分の別荘へ連れて行き、信頼できる専属の女医に診察してもらったのだ。

しかも、あの時、土砂災害の現場で自分は見てしまったのだ。何もないはずの空間からこの幼児が現れたのを。

只事ではないし、只者ではないだろう。

幼児の姿だからといって、幼児とは限らないかもしれない。なにせ、登場が登場なだけに。

だから、何か危害をもたらす為にやってきた者か、或いは単なる異世界からの迷い子か…判断が付かず、こうやって様子を見ているのだが…

どうやら、そのどちらでもなさそうだ。

だが、幻の国か異世界から来たかもしれない事だけは可能性は非常に高いとみていた。

…だが、この幼児の目的が分からない。

分からないが、ここに来てずっと何かを探している様子だった。
そして、体力が回復するなり、一度も迷う事なくここに辿り着きリュウキの子供であるショウを見つけ現在に至っている。

どういう事なのか、いまいち理解できない。

保護対象なのか…敵なのか。


…しかし、今の状況だけ見るとどうも敵には見えない。

そして、ショウを包み込む様な優しさで、まるで壊れ物でも触れるかの様に丁寧に触れるさま。何より、ショウを見るその目と雰囲気は、愛おしい気持ちが溢れている様に見える。

まるで、天より預かった愛し子とでもいうのか。そんな風に見えてならない。

と、ここでリュウキの悪い企みが脳裏に浮かんでしまった。


そして、この幼い幼児を言いくるめて、ショウ専属の従者とする事に決定した。

理由は、この幼児に家族も行く宛もない。自分が帰る場所は“天”だと言い張る幼児。

幼児の言う“天”とはショウの事を指すらしい。…おそらく、何か大きな勘違いをしているんだろうが。

だが、それを上手い事利用させてもらう。

何を勘違いしているのか分からないが、この幼児はショウをここに居る誰よりも大切に育ててくれるだろう。

そして、ブレない強い信念と底知れぬ能力や才能、頭の良さも見てとれる。…天才と言っても過言ではないかもしれない。将来、かなり有望になるだろう。

それに、これほどショウを任せられる適任者はいないだろう。

ただの気まぐれであれ、途中で飽きてもメイド長のお婆もいるし、その時はこの幼児を養子に迎え入れ王候補にしてもいいかもしれない。

粗暴で口は悪いが、ショウにはとことん優しいからショウに関しては問題ないだろう。

しかし、名前が無いってのも問題だ。ちゃんとした名前ができるまで“ナナシ”と呼んでおくか。


そして、住む場所もない、自分一人ではショウを育てられない事から、コウテン…今の名前は“ナナシ”は、仕方なくこの屋敷でショウのお世話をする事となった。

本来の力さえあれば、ここに居る全員を殺して天と自分だけで平和に過ごしたいが。
元の世界に帰れないし、後先の事など色々考えるとここでショウを育てるのが一番だという考えに至った。

だから、皆殺しは断念してある程度はここのルールに従うしかない。…不本意ではあるが。と、コウテンはリュウキの言葉巧みな説得により承諾せざるを得なかった。

身分は、ショウの父親であるリュウキがこの屋敷の主人で屋敷の中で一番偉い。(…従うつもりは無いが。)
次に、天…今の名前はショウというらしい。(めちゃくちゃ可愛い。こんな可愛い生き物がいるのかと驚いてしまう。)
ついで身分が高いのは、ショウ様の専属従者であるオレ様だ。(当然だ。オレ様はショウの天守だからな!えっへん!」

しかし、就任して早々問題が起きた。


…ふぇぇ〜〜〜ん!

ショウの泣き声。懸命にあやすナナシ(コウテン)であったが、一向になく止む気配はなくどうしたらいいか分からなくてナナシもポロリと涙を流したのを見兼ねて、メイド長がナナシに声を掛けた。


「ナナシしゃま。赤ん坊が泣く時、だいたいはお腹が空いた時、オムツを替えてほしい時、寂しい時、体調を崩している時など様々ありましゅが。
大概は、お腹が空いた時とオムツ替えでしょう。まず、それを確かめてから、他の原因を探ってもよろしいかと思いましゅるぞ。」

と、声を掛けると

「…そ、そんな事分かってた!」

なんて、去勢を張りオムツを見れば綺麗なまま、要領もよく頭のいいナナシは誰に教えられる訳でもなくオムツを見ただけで

熟練者の様にテキパキとオムツを付け直し、オムツとショウの腿やお腹が苦しくないか指を入れて締め付け具合を確かめながら慎重にやってのけた。

それを見てメイド長は、ほぉ〜…!と、ただただ驚くばかりだった。…この子は、子育ての天才かもしれないと。

そして、次のナナシの行動にメイド長や部屋の掃除に来た使用人は目が飛び出る程にビックリして固まってしまった。


…だって、この幼児…


ペロリと自分の上着をめくって、陥没した小さな小さな薄ピンク色をショウの口にくっ付けていたのだ。

普通なら、可愛らしい光景なのかもしれないがナナシのあり得ない美貌のせいか…何故か卑猥に見える。

ゴクリと生つぼを飲みながら、何事が起きたのかと頭が追いつかずその様子を伺う使用人。そして、即座にリュウキに報告するメイド長。

リュウキが駆けつけた時

ナナシは泣いていた。


「…なんで?なんで出ないんだ?
ショウの事をこんなに愛してるのに…おかしい…。」

どうやら、愛する力で母乳が出ると信じて疑わないナナシ。なのに、母乳が出るどころか乳首が陥没、そして小さすぎて口に含めないショウ。それを可哀想に思い、痛いだろうにナナシは自分のペッタンコな胸を無理矢理ショウの口に合う大きさにつまみ引っ張ると再度ショウの口にくっ付けた。

それをショウは懸命に吸っている。

だが、相当痛いのだろうナナシは痛みで自然と涙が出ちゃうし少し顔は歪んでしまうが、懸命に笑顔を作って


「…っ!!…お、おいしいか?」

と、ショウにぎこちなく微笑んで見せた。だが、乳が出る訳でもなくショウは直ぐにナナシの胸から口を離し泣いた。

ナナシはショックだった。だって、ショウが一生懸命吸ってたのに乳が出ないんだもん。


「…う、嘘だろ?母乳が出ない。赤ん坊には母乳が一番なんだろ?」

と、ガックリと項垂れて肩を落としていると


「…残念でしゅが、愛情だけでは母乳は出ましぇん。変わりに、これがあるのでしゅ。」

「……ッ!?テメーらには分かんねーだろうが、オレ様のショウに対する愛は底知れねーんだ!…なんつーか、えっと…とにかく、とんでもねーんだ、バーカバーカ。
…クソッ!なのに、母乳くらい出せねーとか情けねー。変化の術で女にでもなれりゃ良かったのに…力が…クソッ!」

「そんな事はありましぇん。いくら女子に変化できたとして母乳など出ないのでしゅ。
しょれに、絶対に母乳でなければならないとは限りましぇんよ?
ささ、ショウ様がお腹を空かせておりましゅ。母乳の代用でしゅが、これだって立派な赤ん坊のご飯なのでしゅ。」

メイド長は、そう言ってナナシを宥め人肌に冷まされた丁度いい温かさのミルクの入った哺乳瓶を渡してきた。

ナナシは、悔しくて溢れ出る涙を乱暴にゴシゴシ拭うと、メイド長から哺乳瓶を奪い取り“変なもん混じってないだろうな”と、疑いの眼差しを向け一度自分が毒見をし異常がないと分かると

哺乳瓶のおしゃぶり部分(消毒済の物)の交換をして、ようやくショウに与えた。

相当、お腹が空いていたのか勢いよく飲むショウを見て父性が止まらないナナシ。


「…そんな腹減ってたの?すっげー飲むじゃん。…へへ!美味しいか?」

哺乳瓶を支えてるにも関わらず、必死に哺乳瓶を両手で掴んでじぃ〜っとナナシを見ているショウの姿にキュンキュンが止まらない。

なんだよ、そんなにオレ様が気になるのか?

かわいいなぁ、チキショー!


と、ニヤけた表情をしながら(自分では気づいてない)心の中でかわいいを連呼しつつ

「…おい、クソババア。後で、ミルクの作り方教えろや。」

…幼児らしからぬ、ヤクザまがいな口調でメイド長のお婆に話し掛けるナナシ。

この子は、一体どんな環境で育ったのかと心配になってしまう。…きっと、酷い状況下で生まれ育ったのかもしれない。…可哀想に…。

…よし!これから自分が、ナナシを徹底的に教育し直し、優しさと思いやりを持つ心、家族の温かさを教えたいと強く心に誓ったのだった。

ドア近くの壁に寄り掛かりながら、その様子を見ていたリュウキはヤレヤレと思いながらもショウに対するナナシの言動に少々不安を覚えるも、ショウにだけはとても優しいお兄さんになるので…もう少し様子を見てみるかと苦笑いしていた。

ショウのご飯が終わると、メイド長による赤ん坊のご飯の後のゲップ講座が始まっていた。

なんでも、赤ん坊は上手くミルクを飲めないので空気もいっぱい飲んじゃうのだとか。特に、哺乳瓶の場合は粉とお湯を入れて振って作るのでミルクの中には空気がいっぱい。

すると、体の未熟な赤ちゃんのお腹に負担が掛かりお腹が張って苦しくなるらしい。そして、せっかく飲めたミルクも吐き出しちゃう事もあるんだとか。

その話を懸命に聞き、「…赤ちゃん、もろすぎる。やべー…早くゲップさせねーと可哀想じゃん!」と、ナナシは青ざめ、早くショウにゲップさせようとメイド長を急かした。

それでも、ナナシはゲップすらメイド長に任せたくないらしく自分がやると言って聞かなかった為、落っことさないか心配しつつもメイド長はナナシにショウを任せた。ショウが落ちない様に補助をしながら。

そして、「…ゲェップ!」と、ショウがゲップをすると

「……ッ!?すっげー立派なゲップじゃん!いい子、いい子!」

と、これでもかってくらいナナシはショウを褒め喜んでいた。
オムツを替える時も、嫌がる事はなくせっせと仕事をこなすのはいい。
…尿や便の処理をして超絶デリケートなお肌が爛れない様に消毒して赤ちゃんパウダーを丁寧にするのはいい…だが、その後が問題で

尿をした後、綺麗にすると「えらいな。」と、言ってそこにキス。便をしても、綺麗にして「綺麗になったぞ!スッキリして良かったな。」と、言ってそこにキス。

幼児のする事だから、純粋な気持ちでショウを褒めて頰っぺやおデコにキスする感覚なんだと思うが…大人から見ると…ヤババ…!!である。

なので、焦ったメイド長がそれはやめた方が良いと注意するも

「…は?何で?」

と、本気で何の事を言っているのか分からないといった感じで、何にも悪い事してないのにと顰めっ面をし首を傾げてる姿を見ると強く言えなくなる。

…だから、嘘では無いが普通は言わないであろう事を言う羽目になるメイド長。


「…しょ、しょれは、しょこは、とってもとってもデリケートでしゅてな。特に赤ん坊は非常にとぉ〜っても感染病に弱いので、しょこからバイ菌が入ると大変な事になるんでしゅ!」

それを聞いたナナシは、サーッと一気に青ざめ


「…バッ、バカ!何で、それをもっと早く言わねーんだ!!」

と、声を荒げ、慌てて自分がキスしたデリケートゾーンを消毒し直しながら

「知らなかったんだ…ごめんな。ショウは、すっげーかわいいから、つい…ごめんな。」

と、泣きながら謝っていた。それを見ていたメイド長や諸々の人達は、なんかナナシが可哀想に思えて心が痛くなってしまった。

そして


「おい!!オレ様はショウに大変な事しちまった。早く、医者呼んでこい!!緊急だ!!」

と、必死の形相でメイド長に命令するナナシを見て

口や態度は悪いけど、ピュアなんだよなぁ〜と、メイド長やその様子を偶然見てしまった使用人達はちょっぴりホッコリしていた。
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