イケメン従者とおぶた姫。
次の日、キキョウとお婆とで嫌がるショウを何とか宥め幼稚園バスが来る場所まで、お婆はワザと安い車でショウを送りバスが来るまで一緒に待った。

と、言うのもお家まで迎えに来られるとショウが大金持ちのお嬢様でエコ贔屓されるか、いい鴨にされるか危惧した為である。

同時に、キキョウは最後まで抵抗したが、キキョウにはショウの送り迎えを禁止させた。

理由はキキョウの送り迎えなら、キキョウの大魔導で一っ飛びであっという間だし楽なのだが、その場のキキョウの激甘判断やキキョウの少しの間でさえショウを手放したくないという気持ちからショウを連れ帰って来る恐れがあったからだ。

ショウが幼稚園に行ってる間、キキョウは大学へ向けての勉強や魔導、武器術、武術の稽古と大忙しである。

だが、昨日の話をお婆に相談しキキョウの考えを汲んでくれたお婆の許可があり…許可が無くてもやっていたが。

これから一週間。こっそり隠れて、ショウと園の様子を調べる事となった。

そして、キキョウは周りから自分が見えない様に魔道具を使い透明人間となった。

しかしと思う。こんな高度な技術の魔道具が揃ってる家って…つまり、そういう事だよな?他にも、色々思う所がいっぱいあるんだよな。と、ショウの父親であるリュウキの正体に薄々気が付いていた。

キキョウが園に入ると、幼稚園バスから降りて来た園児達。園まで自分の子どもを送って来た母親達の姿が見えた。

母親達は、幼稚園の先生に子どもを預けると、いわゆるママ友というやつなのかリーダーの偉そうにしているおばさんと井戸端会議が始まっていた。聞いていても、旦那の事やら子どもの事。習い事。よその子の話やよその家庭の話まで、本当かどうかも分からない様な話を面白おかしく言っている。

それを園児達も部分的ではあるが聞こえているらしかった。

それから、そのママ友達はこれからどこかの店へ行って何かお話しをするようだ。

…ママ友…怖っ!!?
めちゃくちゃ上下関係あるし、ここでもイジメっぽい事あるじゃん。と、キキョウは親御は親御で色々あるんだなと人間関係って、本当に面倒で難しいと感じて思わず身震いしてしまった。

…あ!今は、こんなのに構ってらんねー!オレ様のショウだよ!オレ様のショウは、どうしてるかなとショウを見た。

すると

…ズキ…

ショウはみんなの輪から離れ、一人ぼっちションボリしながら園の中に入って行った。

ご挨拶、お歌、踊りの時間もみんな個性豊かに歌ったり踊ったりするが、みんなくっついたりはしゃいでる中でも

どうも、ショウの隣や前後の子達はショウと微妙に距離をとっているように感じる。先生方はこれに気づいてないのだろうか?キキョウ自身が敏感になり過ぎているだけなのだろうか?

だが、ショウの様子を見ると周りに気を使って自らも周りから距離を取っている様に感じる。
よくよく観察して見れば周りの子達も、何だかクスクス笑ったりあからさまに嫌な顔をしたりしている。中には、ヒソヒソとショウの悪口を言ってる子達もいる。

それをショウは敏感に感じ取り、どうしたらいいのか分からなくなっている。

「こーら、ナルちゃんふざけ過ぎないでねー。うふふ!」

「ショウちゃんも、“みんなみたい”に元気良く歌ってね。」

と、ショウに追い討ちを掛けるように、そんな状況で歌えと注意する。

…は?“みんなみたいに”って!他にも歌ってない子もいるだろ!他の子と比べる発言って、どうかと思うぜ?
それに、ショウと他の子との注意する温度差が違い過ぎるだろ。

注意されたショウは、泣きそうになりながらも歌を歌うと

隣や後ろの子達がワザと、ショウに近づいて耳を近づける真似をして

「声、聞こえないんだけどぉ〜!」

「センセイの言う事聞いて、ちゃんと歌えよな。」

なんて、偉そうに注意している。

いやいや!めっちゃ、歌ってたじゃん!お前らの耳は飾りもんかと怒りが込み上げてくる。今すぐ、ゲンコツして説教してやりたい気持ちだ。

先生も先生で、それを見てショウに呆れて一瞬だけ嫌な目を向けていた。ため息こそついてないが、呆れて深いため息をついてるかのような雰囲気で最悪だ。

それを感じ取りショウは、ますます自分に自信を失い、周りの子達は自分達は偉い!いい事したと自信満々になっている。

それは、踊りの時間でも同じくて…。

そんな先生を見て、ショウは何やってもダメなんだと周りの子達は更にショウを馬鹿にするようになっていった。
自分達とショウは違うんだと。自分達は優秀で、ショウはダメダメなんだと。

同級生達からも先生方からも、ダメダメ言われてショウは身動き取れなくなっていた。


この時点で、キキョウはもう無理だ。見てられない!今すぐにでもショウを家に連れ帰って、グズグズに甘やかして慰めたい気持ちにかられる。

ショウの気持ちを考えれば考えるほど、見てるのが辛い…


次は自由時間。

みんな、それぞれお友達と遊んで楽しそうな子が多い。そんな中、ショウは中で絵本を見るフリをして羨ましそうに楽しくお友達と遊んでいる子達を眺めていた。

そんな中、ショウと一緒で一人で砂遊びをしてる子を見るけたショウは、何度もその子をチラチラ見て、ついにショウの全身にグッと力が入った。

そして、意を決したように外に出てみたものの人見知りと内気な性格も災いしてか、なかなかその子に声を掛けられず
物陰から見て一歩出ては物陰に隠れて、それをいくつやっただろう。やっとの思いで、ショウは勇気を振り絞ってその子に声をかけた。

「あたちも一緒にあちょんでいい?」

おー!よく言えたじゃん、偉い!
あんなに人見知りな子がこんなに頑張って…!と、キキョウはショウの成長に感動していた。だが…


「…来んな!ブスッ!おまえとなんて遊んであげない!あっち行け!バーカ、ブース!」

と、怒鳴られ、プイッとソッポを向かれ拒絶されてしまった。ショウは、とてもショックを受け振り絞った勇気も粉々に砕けてしまっていた。ガックリと肩を落とし、トボトボと去って行くショウ。

そんなショウを見て、周りの一部の子達がクスクス笑って何か言っている。まあ、何となく察しはつくし、ショウも敏感にそれを感じ取って更に傷ついている。

キキョウも、そんなショウの姿に大きく傷付き泣きたい気持ちになっていた。

また、再度一人で砂遊びしてる子を見てみると、この子も周りの目を気にしていたらしくチラチラと周りを気にしていたし、追い払ったショウの後ろ姿を傷ついた顔をして後悔する様に見ていた。

きっと、この子も本当はショウを追い払いたいわけじゃなかったのだろう。でも、周りの子達の反応が怖かった。ショウと一緒にいる事で自分まで嫌われるのを恐れた。
もしくは、嫌われ者同士遊んでるって言われるのがとても屈辱だと想像して恐怖したのかもしれない。こちらはこちらで、とても可哀想な状況らしい。

そんな事に、気づける訳もないショウはガックリしながらトボトボ歩いている。

それでも、ショウはションボリ歩く足を止めてグッと自分に気合いを入れた。そして、「やくちょくちた!がんばれ、あたち。あたち、がんばるっ!」と、何回も何回も自分に言い聞かせて、震える足を別の子達の方向へ向けて歩いて行った。

そして、おままごとをしてる子達に


「…あ、あたちもまじぇてくだちゃい!一緒にあしょぼ。」

と、ありったけの勇気で声を掛けた。すると、おままごとをしてた子達はお互い一斉に顔を見合わせると、「…プッ!プクク…!」と、思わず吹き出し遂にゲラゲラ大笑いした。

なんだろう?と、ショウが首を傾げてその子達を見ていると

「あんたみたいなブスと遊ぶわけないでしょ!」

「おまえのうち、親がいないんでしょー!
親がいない子はロクな子じゃないから、一緒にいちゃダメってママ言ってたよ。」

「そうそう。それに、知ってるよー。
あんたん家、ビンボーなんでしょ。いつも、中古のボロボロな車で送り迎えしてもらってるんでしょ?

幼稚園バス乗る子はみんな、お家の前までバスが迎えに来るのにおかしいって。
みんなに見せられないくらい、ビンボーな家で恥ずかしいからお家見せないようにしてるんだって、ママ達が言ってるの聞いた事あるんだからー。」

「あとあと!ショウさ、ちゃんと言葉喋れないじゃん。わたしたちは、しっかり喋れてるのにショウは喋れないじゃん。
親もいなくて、おばあちゃんに育てられてるビンボー人だから頭おかしいんだって、お母さん達と先生が言ってたよ。」

と、親同士、ママ友会議、親や先生方のどこの部分の話を聞いてか、子供達は寄ってたかってショウを誹謗中傷してきた。

そんな心ない言葉に、ショウは酷く傷つけられ泣いてしまった。


「…やめてよねー!わたしたちがワルモノみたいになるじゃん。わたしたち、なーんにもワルイ事してないのにー。」

「泣けば、仲間に入れてもらえるとか思ってんの?いくらブスが泣いたって、気持ち悪いだけだよ?」

「…ど〜しよぉ〜。泣いちゃったよ?
かわいそうだから、いまだけでもナカマ入れてあげない?」

「泣かせたって、先生に怒られちゃうかもだし…分かった!じゃあ、あんた“ドレイ役”ね!
それか“外で飼われてるペット”。どっちか選ばせたげる。」

なんて、酷い提案を出されたショウは、あまりのショックにそこから逃げ去ってしまった。

「あ〜あ、せぇ〜っかくナカマ入れてあげるって言ったのになぁ。」

「わたしたち、とっても優しいね。なのに、あいつったら、イヤなやつだね。」

「ねー。せっかく、遊んであげるって言ったのにサイアクなブス!」

と、たくさんの嫌な言葉を背で受けながら。

それを見ていて、遂にキキョウは耐えきれず泣いてしまった。それに、ショウがこんなにも頑張っているのにはキキョウに覚えがあった。

それは、キキョウとお婆で、幼稚園に行きたくないと泣くショウを宥めている時のこと。キキョウはショウに言ったのだ。

“ショウは、言葉に出してお友達になろう。遊ぼう。って、言った事があるか?もし、無いなら声を掛けてみ?お友達ができるかもよ?
もし、一回だめでも勇気を出して別の子に声を掛けてみればいいよ。頑張ってみて!”

と。その言葉を信じてショウは自分なりに一生懸命になって頑張っているのだ。
なんて、健気なんだろう。そして、自分はなんて無責任な言葉をショウに言ってしまったのだろうか…。

泣きながらショウは、一人になれる場所を探し幼稚園裏に行った。すると、そこには汚れた子犬を木の棒で叩いている男の子がいた。

ショウは、それに驚き思わず

「…らめーーーっ!!」

と、子犬を叩いていじめている男の子を止めに入った。男の子は、ショウの声にビックリして子犬を叩く腕が止まってしまった。

その隙間に子犬は、どこかに逃げて行き代わりにショウが男の子の標的にされてしまった。


「おまえ、ブス菌じゃん!せっかく、面白い事してたのにジャマするとかあり得ない!」

「…で、でも…!」

「うっせー!おまえ、そんなんだからみんなに嫌われんだよ。みーんな、おまえの事が大っ嫌いなんだってさー。
そんな、ワルモノのおまえをオレがやっつけてやる!」

と、男の子はショウに向かって木の棒を振りかざしてきた。

キキョウは、直ぐに男の子の手を掴みそれを阻止すると、何にも無いのに何かに腕を掴まれて動けなくなった腕に恐怖を覚えた男の子は

「…うわぁーーーッッ!!!?な、なんだよ、これっ!!」

と、大騒ぎして、その声を聞いて先生が駆けつけてきた。なので、良かったとキキョウは安堵して男の子の腕を離した。

そして、この男の子をしっかり叱ってやれよセンセーと、心の中で男の子に対しフンっと鼻を鳴らした。しかし…

泣きながら説明する男の子に話を聞く先生。そんな先生に、ショウも一生懸命に説明するも…おかしい。この先生、ショウの話をろくに聞きもせず男の子の話にばかり耳を傾けている。

そして、次の瞬間、先生から耳を疑うような言葉が飛び出してきた。


「ショウちゃん。イジメられる方に原因があるの。だから、イジメられるあなたが悪いのよ?ぜぇ〜んぶ、あなただけが悪いの。」


「……えっ?」

当然、ショウは驚き先生を凝視する。もちろん、キキョウも聞き間違いかと耳をほじってよぉ〜く聞き直す。


「先生も忙しいんだから!ショウちゃんだけに構ってられないのっ!先生の手を煩わせるなんて、なんて悪い子なのかしら?」


…あ…

全然、聞き間違いじゃなかった。ショウも、先生のよく分からない言葉になんで自分が怒られてるのかと理解できず固まっている。そんなショウの態度に苛ついた先生は


「ほら!イジメられて、ごめんなさいって言いなさい。ホラッ!!言えっ!!クソガキ!」

と、ショウを怒鳴った。そういえば、この男の子どっかで見た事あると思ったら、ママ友達のリーダー的存在の子供だった。

ああ、そういう事なとキキョウは理解した。

先生の後ろでは、ショウをバカにするジェスチャーをし口パクで『バーカ、ブース』と、ドヤ顔で言ってくる男の子の姿。


…コイツッ!!

今すぐ、殴り倒してやろーか!!?

と、キキョウは思ったが、その気持ちもグッと抑え、直ぐに園で起きた事を録画した魔道具をお婆に送った。


そうやって、調子乗って笑ってられんのも今のうちだけだからな

お前ら、誰を敵に回したと思ってんだ?

と、キキョウは心の中で、あの娘を超絶溺愛する親バカ。そして、あまりの仕事の忙しさから滅多に帰って来れない国のトップを思い浮かべていた。


終わったよ、お前ら

これから、楽しい生き地獄を楽しんでくれ、な?

と、魔道具を解除して


「あ!ここでしたか。先生を探したのですが、職員室にもいらっしゃらなかったようなので。失礼かと思いましたが、先生の声が聞こえたのでここに来ました。はじめまして、ショウの家族です。家に急用ができまして、ショウの迎えを頼まれて来ました。」

そう言って、身分証を先生に見せた。
そこには、確かに国で発行された家族であるという身分証カードだった。

「はい、確かに確認できました。…ところで、ご家族に何かあったのですか?」

と、先生は魔法衣のフードで顔を隠している少年に訊ねた。

この時、先生はこう思ったに違いない。フードで顔を隠すなんて、よっぽど顔に自信がないのね。
それにしても、いくらブサイクだからって目上の人に対する礼儀として顔を隠すのは失礼だわ。やっぱり、ショウがショウなら兄も兄ね、と。まあ、キキョウの想像でしかないが、いい線はいっていると思う。

そんな先生を無視し、キキョウは


「ショウ、帰るよ。おいで。」

と、しゃがんで手を広げた。ショウは、キキョウの登場にこれでもかってくらい目を見開き、安心からか大泣きしてキキョウに勢いよく抱きついた。

「…えーん!…ちちょう、ちちょうっ!!」

何か、言いたいのに何も言葉が浮かんでこない。心の中では、悲しい、辛い、苦しいとか色んな嫌な感情が複雑に入り乱れてるのに、それをいっぱい伝えたいのに…それが、また悲しい。

何より、こんなに心が痛い時に迎えに来てくれたキキョウは、ショウにとってヒーローのように思えて救われた気がした、凄く嬉しかった。

泣いているショウを包み込む様に優しく抱き上げると

「…うん。辛いのに、よく頑張ったな!嫌な事に立ち向かったショウは偉いよ。すっげー、カッコ良かった。…もう大丈夫!」

キキョウは、ショウにそう言って小さな頭に安心していいよとキスをした。

キキョウの言う、何が大丈夫なのか分からなかったがキキョウに、頑張った事を褒められてとてもくすぐったい気持ちになったショウ。

泣いてはいるものの、笑顔になったショウを見てキキョウはホッとした。そして、再度先生を見ると


「今まで、散々お世話になりました。
これから、皆さんが良い生き地獄を味わい続ける事を心より祝福いたします。」

と、満面の笑みを浮かべているのだろう。少年のフードの隙間から見えた口元はニッコリと弧を描いていた。


「…なっ!生き地獄なんてっ!!なんていう事を言っているのですか!?言葉の意味を理解してますか?」

先生は、なんて失礼な事を言うんだと腹が立って少年に向かい声を荒げた時には

いつの間にか、少年はその場から消えていた。


「……え?」

「…せ、先生、怖いよ。あのお兄ちゃん消えちゃったよ?」

ブルブル震える男の子を見て、あの少年は確かに自分達の目の前で消えたのだと実感すると何だか急に恐ろしくなり先生は職員室へ急いだ。

すると、園長先生が必死になって電話で謝ってる姿を見た。何が起きたのだろうか?

園長先生は、青を通り越して真っ白な顔になっている。暑くもないのに汗もダラダラ止まらない様子。それをハラハラしたように、見守る他の先生方。

…なんだか、もの凄く嫌な予感しかない。

そして、思い出されるあの少年の言葉。


“良い生き地獄を…”


…なに!?

何がどうなってるの?

私、何も悪い事なんてしてないわよ!

…してないはず、してない……あ、あの子の事は仕方なかったのよ…“特別な子”だったから

もし、あの子が関係してるなら違うわ!

そもそも、貧乏で親もいない、全てにおいて他の同年代の子達より劣ってるんだもの

だから、全部あの子が悪い

この私の手を煩わせるのが悪い

みんなに虐められて、面倒事を起こすあの子が悪い

そんなダメダメなあの子の面倒を見てあげただけ感謝してほしいくらいだわ!

と、先生は心の中で一生懸命に自分を肯定してショウを大きく批難していた。


だが、そうやって言い訳を言ってられるのも今のうちだけだ。

…だって、これから国を代表する教育委員と警察、裁判官達を相手にしなければいけなくなるのだから。

キキョウやリュウキの優秀な部下達にによって集められた数々の証拠とも戦わなくてはならなくなる。


「…まっ…待って下さい!私は知らなかったんです!全て、他の先生方に任せてましたので…!!私だけは無実です!」

と、涙ながらに、既に切れていた電話に向かい必死に縋っている園長。…ようやく、通話が終わっていた事に気がついた園長は、糸の切れた人形の様に地べたにグシャリとへたり込み


「……もう、おしまいだ……」

と、一言呟くと生気を失ったように項垂れしばらくの間動けなくなってしまっていた。

そして、扉越しに心配そうに園長を見ていた先生方に向かい


「…お、お前らぁーーーっっっ!!!
何て事してくれたんだっ!一体、何をどうすれば、国の最高機関が動くんだっっっ!!!?
おかしいだろ…おかし過ぎるだろぉぉーーーッッッ!!」

「……えっ?…国の最高…機関って…え?」

「…???」

園長に狂気して泣きながら叫ばれた先生方は、かなり困惑している。だが、冷静になって園長の話を聞いていた先生の一人が


「何かの間違いでは?何故、こんな一般の幼稚園に国の最高機関が動くって言うんですか?
あり得ませんよ。王子様やお姫様に問題を起こしたなら分かりますが。そもそも、王子様やお姫様がこんな一般の幼稚園に入園する訳ないじゃないですか。…くすっ!」

と、言ったところで他の先生方も確かにその通りだと。もし、この園に問題があり動くとしたら市や町の専用相談窓口だ。まず、そこから連絡がくるはずだ。

そんな事もなく、いきなり国の最高機関が動くとか絶対にあり得ないと思った。


「そうですよ!それに、なんの問題もなくみんな仕事してるから大丈夫です。問題ある子を躾けているのを勘違いしてる方がいらっしゃってもその問題児の家では、訴える力も後ろ盾もお金もないので安心ですよ。」

「きっと、今の電話も、何処かの園と間違えただけだと思いますよ。」

「そもそも、本当にその電話は国の最高機関からの連絡だったんですか?単なる、イタズラ電話の可能性が高いですよ?」

「冷静になって下さい、園長!大丈夫ですから。」

だから、何かの間違いだろうと先生方はたかを括っていた。そして、先生方にごもっともな意見を言われて

「…ハッ!イタズラ電話…?」

園長も冷静さを取り戻していった。確かに、そうだ。よくよく考えてみれば、この園は御坊ちゃま・お嬢様幼稚園でも超エリート幼稚園でもない。一般的な幼稚園にすぎない。

ましてや、王子様やお姫様なんて絶対あり得ない。資産家などの超お金持ちが、こんな一般の園に入園するはずなどあるはずがない。

…なんだ、ただのイタズラ電話かと園長は納得し良かった…と、心から安堵した。

そして、なんと“それらしい”イタズラ電話だったんだ。イタズラ電話にしては、手がこみすぎていると腹が立ってその話を先生方にして何て悪質なイタズラ電話なんだと怒っていた。

先生方も、園長の話を聞いて
そんな感じだったら本物だと思っても仕方ないと、最近のイタズラ電話は本当に手が込んでると納得し一緒になって憤慨していた。

その電話が、イタズラ電話などではなく本物だと分かるまで、あと数時間。

それまでの間、先生方はそのイタズラ電話の話で持ちきりで、いつの間にか笑い話に変わっていた。
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