イケメン従者とおぶた姫。
“…ああ、いいぜ。【お前だから】教えてやる。つっても、その事を思い出したのは、今さっきだけどな。
【もしもの世界でアレが体験した人生をオレ様が辿ったらどう変わるか】
だから、アレとは異なる部分も多いだろうが、おかげでアレがどんな人生を歩んできたのか体験する事ができたから言える事もある。”
と、ダリアが、フウライの質問に答えると言ってきたのだ。それには、フウライだけでなくオブシディアンも驚いている。
“オレ様の記憶とアレの人生をオレ流で過ごした今なら分かる。(…まあ、能力や力の違いもあってか結構な誤差は生じたが。)
オレ様は、誰よりも何よりもオレ様の天を愛してる。オレ様なんかより、ずっとずっと大切な存在。
いや、愛するって言葉だけじゃ足りねー。自分より大切って軽い気持ちじゃねー。多分、その気持ちフウライなら何となく分かるんじゃないか?”
と、問われ、フウライはドキリとした。
そう、フウライがハナに感じる感情は、愛や恋じゃ語りきれない。
上手く説明できないが、愛や恋など可愛い感情だけでない嫉妬や執着、尊敬や師匠的な何か…色んな複雑で深い感情が幾つも絡み合ってギュウギュウに凝縮されて“好き”というカテゴリーの一つにまとめられてる感じ。
何より大切で狂おしいほど愛しい、大事に大事に自分の手元に置いておきたい。だけど、ハナは野生児で思いもよらない行動に出て、時折憎たらしくもなる存在。
けど、そこが自分の想像を越してきて驚かされっぱなしだ。口では説教や小言を言ってはいるが、実は心の中では興奮し面白いと感じるのも事実。
大親友のピンチを知れば必ず駆けつけるのは側から見れば素晴らしい事なのかもしれないが、フウライにとってみれば凄く嫌だ…不安と緊張、心配ばかりで生きた心地がしない。
そのせいで、何回ハナを監禁してしまおうか考えたか分からない。だが、そんなハナを誇らしくも思う自分もいるからどうしようもない。
まだまだ、いい足りないくらいだが。
…本当だ。この感情は簡単な言葉などでは語りきれないな。
いつだったか、サクラともう一人の親友と語り合った事のある話。つい、さっき見たショウとダリアの“もしもの世界”での、自分とダリア(キキョウ)とも嫌ってほど語り合ったソレだ。
“…そう、少し前までのオレ様はオレ様の感情を認める事ができなかった。オレ様は、オレ様よりずっとずっと大切な天の存在を…。
それと等しく、いやそれ以上にオレ様は自己愛が強かった。そして、人一倍…いや、何十、何百倍も世間体が気になっていた。
周りから羨望の眼差しで見られたい、全てが完璧なオレ様でいたい。そんな願望が強かった。
そのせいで、いつの間にか天を否定して蔑ろにする様になっていった。
今、考えればマジで頭沸いてんのかって…地獄へ堕ちたまま二度と帰って来るなってくらい最悪に思う。…マジでオレ様…何してんだよ…!”
と、過去の自分を深く悔いて、ダリアは言葉を詰まらせた。
“…そっか、だからか。…ハハ…馬鹿なオレ様。
オレ様は、何となくその罪悪感を分かってた。分かってたけど、自分の醜態や失態なんて認めたくなくて最終的に【過去にタイムリープしてやり直そう】って、禁術を使っては失敗。それを何度も何度も繰り返してた。
“オレ様の天には通用”しないってのにな。
オレ様が、禁術に失敗しても無事でいられるのはオレ様の能力や力ってのも大きいが【天の加護】のおかげだ。だから、オレ様はここにいられる。
そんな事すら忘れて、ひたすら禁術に手を出してた。
そして、……汚れきった体を浄化して色々なかった事にして、真っさらな状態にしてやり直したかったんだ。
でも、もしその禁術に成功してたとしても同じ事の繰り返しになってただろうって、今なら思う。…ああ、だけど…そっか。
自分の事なのに、自分で自分が分かんなかったんだな。いや、分かろうとしなかった。あまりに愚か。滑稽過ぎて…恥ずかしい事この上ないな。”
と、自傷するダリア。
“そうだ。それで、オレ様はやっちゃなんねー事をしてしまった。
一番最初のオレ様。オレ様が、周りからダリアって呼ばれてた頃の話だ。…天を独り占めしたくて、色んなモンぶっ壊して奪って無理矢理手に入れた天守の力と座。
けど、天が成長するにつれて周りの奴らの、天に対する評価。そして、オレ様に対する評価が強く噂される様になってきた。その噂は、瞬く間に自分の王国に留まらず多くの王国にまで知れ渡った様だった。
それが気になってきたオレ様は、段々とこの天はオレ様には不釣り合いだと思うようになってきた。そしたら、だんだん天が煩わしくなってきて…けど、やっぱり大好きで何より大切で。
その内、天を愛する気持ちと世間体とで悩み葛藤していた時、思ってしまった。
天に対する気持ちは、そういう風に誰かに洗脳されて刷り込まれた気持ちだ。自分がこんなに完璧なんだから、自分の側には自分に釣り合う奴じゃなきゃ駄目だ。
だけど、洗脳のせいで天を思う気持ちが捨てきれない。なら、それを捨てればいいんじゃないか!?
そう思ってしまった。
そうすれば、この苦しみから解放されて自分は幸せになれると思った。
…そして、この時初めて禁術に手をつけた。
【感情の一部を捨てる禁術】
それで、オレ様は天に対する【恋や愛、執着、崇拝、思いやり等】を取り出しそれを固く固めて木っ端微塵に砕いて、粉々になったソレをひとまとめにしてありったけの力でそれを投げ飛ばした。
ソレ【天を想う気持ち】が、時間をかけてゆっくりと意識と意思を持ち始め、それが段々と強くなっていき実態を持ち【天を想う気持ち】だけで行動していたんだろう。
おそらく実態は、初めて見た生き物を参考に形を変えたんだろうと想定する。
ソレの中心は【天への想い】が凝縮されてできている。それ以外ない。つまり、ソレにとって【天が全て】と断言できる。
だが、日々を過ごすうちに自分に様々な感情も芽生え始め、様々な感情もできてきて一人の個体になったんだろう。
それが、サクラって存在だ。
そして、オレ様の一部だった感情。
けど、おかしな事にさ。ソレを捨てた筈なのに、オレ様のどの感情にも天の存在があったみたいでさ。そのちっちゃい感情がどっか集中的に集まってきて、また天の事が大好きになった。
その感情から色々と枝分かれして色んな感情が増えていって、結局は以前と変わらねーオレ様の出来上がりってわけだ。
そのあとも、色々あったけど。
つまり、オレ様が心の底から変わって行動に移さなきゃ、どんなにやり直したって変わらねーって話な。
そして、天への変わらぬ愛。…いや、今回の事で、自分の気持ちを素直に認められたからかな?もっともっと好きになっちまった。
多分、この気持ちは増えていくばっかなんだろうなぁ。
…けど、オレ様の犯した過ちは消える事なんてない。これから、ずっとこの罪を背負い続けなきゃなんねー。
それくらいの事をオレ様はした。それだけじゃ、足りねーくらい取り返しのつかないとんでもない事をしちまった。”
と、ダリアが言うと
「…いいよ、大丈夫だよ。許すよ。」
ショウから、思いもよらない言葉が出てきた。
「…いっぱい、いっぱい辛かったね。苦しんだね。でも、もう大丈夫だよ。」
そんな言葉を掛けるショウに、ダリアだけではない。オブシディアンとフウライも、目を見開き驚いている。
ダリアの件の事は、ショウは詳細を知らないはず。詳しく知らなければ、今のダリアの話を聞いても何がなんだか全く分からない話だろう。
その場の雰囲気に合わせて適当に答えるにしては、言葉が適切で正確すぎる。
「…よく分からないけどね。キキョウが、とっても苦しそうで辛そうだから、どうしてかな?って思ったの。
知りたいなって思ったら、たくさんキキョウが生まれ変わって色んな所に行って。
…色んな痛い事をいっぱいされたり…いっぱいいっぱい怖い事が見えたの。
…凄く痛そうで…辛そうで!可哀想だし、怖くて見てられないって思ったら見えなくなったけど。
…でも、キキョウはどこに行っても、空っぽの心で嫌な気持ちばっかり。寂しかったね。」
ショウの語彙力の無さにも驚くが…この言葉で、そこにいるみんなは確信した。
ショウは一瞬のうちに、ダリアの長い長い何度生まれ変わったか分からない人生を全て(見たくない所は飛ばして)見て理解したのだと。
その瞬間、フウライはショウは一体何者なのかと得体の知れない恐怖を感じ全身がゾクリと冷たくなった。
“…ああ、そうか。ショウ、そうか。
さすが、【オレ様達】の天だ。”
と、噛み締める様に呟いていた。そんなダリアに、ショウは
「ねえ、キキョウ。私の中にね、さっきの私の心と記憶があるの。だから、それを取り出すと“さっきの私”を創る事できるよ?どうしたい?」
そう、聞いてきたのだ。その言葉に、オブシディアンとフウライ固まる。そんな事ができるのか?冗談だろと。
ダリアはそれに近い事を最も簡単にやってのけた様だが、それとは似ていて異なるモノだ。
それは、もはや禁術であり失敗すれば体どころか魂さえも消滅してしまう恐ろしい術。
そもそもだ。それは、人間がどうこうできる代物ではない。S級大魔道士フウライでさえ、使おうと思っても使えない術なのだから。
だが、そう考えたのは一瞬の事。最近、あまりに規格外と接する機会が多すぎて、自分の常識がバグっていたとフウライは冷静になって考え直した。
ショウという子供は、まだ12才であり少々オツムが足りない少女だとサクラやリュウキから聞いた事がある。その事を思い出しフウライは、一瞬でも真剣に考えてしまった自分が馬鹿馬鹿しく思えた。
だが、一方のオブシディアンはあり得ない話ではないと思った。何故なら、サクラが自分の正体を隠しショウと共に旅に出た時の事。
色々あって少しの間だがダイヤ一行と共に旅をする事となった、あの日。
オブシディアンは、魔力を使い過ぎて体調を崩していた。その時、ショウが心配そうにオブシディアンの手を握りお祈りをしている様だった。
その気持ちだけで十分だと、ショウの気持ちを嬉しく思っていたオブシディアンだったが次の瞬間、ショウは何かのゾーン入ってしまい、
人の形を保ったまま全身が海のような湖のような…何とも形容しがたい姿に変わってしまった。
そして、握られた手から膨大な量の魔力の素ともいえる、何の癖もなく良質で純度100%といえる魔力が注ぎ込まれてきたのだ。
しかも、オブシディアンの魔力にピッタリと合った魔力、しかもオブシディアンの魔力のゲージにピッタリ満タンに補充されていた。その調節も相当なまでに難しい筈なのに。
ショウが赤ちゃんの時から見守っていたし、他からの情報を踏まえて自分が見てもショウは魔力は一切なく、魔法の素質も属性も全く持ち合わせていなかった。
人口の殆どが、ショウと同じく魔力も無ければ魔法も使えない。属性すら無いという人が殆どなので、そこは驚きはしないが。
無いはずなのに、ショウは“何処かに隠し持っていた”のだ。残念な事に、本人には何も自覚はない。だから、今は感じられないが確かにショウは魔力を持っているのだ。
だから、そんな事ができると言ってもあり得ない話ではないとオブシディアンは考えたのだ。
それに、あのサクラが何故か崇め心酔しているショウ。だから、漠然と何かあるとは思っていた。
そして、旅を続ける度に稀に起こる不思議な出来事。
“天”やら“天守”といった、この世界では聞いた事も見た事もない言葉。そして、前世・前前世、生まれ変わりという話など。
そんな話が簡単に出てくる様になり、物語上や伝説の人物ダリアが現存していた事実に、きっとこれは普通という概念に囚われてはついていけない。
もっと視野を広げて見て、自分の想像や想定を遥かに越える事があってもどんな事が起きても受け止めなければならないと感じ覚悟もした。
しかし、オブシディアンはショウが何者でも構わない。自分の欲からビーストキングダムでの出来事があってから心に誓ったのだ。何があってもショウを守る、ショウの味方であり続けると。
そんな事を思い出しながら、オブシディアンは二人のやり取りを見守っていた。
“…………。それは、この上ないいい話けどさ。少し考える時間がほしい。大丈夫か?”
ダリアは、しばらく考えたが直ぐには答えは出ず、ショウに聞いてきた。
「うん。…でも、時間が掛かっちゃうとそれが薄れてきて創れなくなっちゃうよ?」
と、ショウは申し訳無さそうにダリアに忠告すると
“…だろうな。で、タイムリミットはいつだ?”
「……えっと、1時間くらい???」
“…フハッ!早っ!…でも、こんなオレ様にも一筋の希望が与えられるって訳か。願ってもねーいい話だ。じゃあ、そのタイムリミットまでオレ様とお話ししようぜ?”
「お話し?」
“そう、お話しだ。その間に、オレ様は自分の心を整理してよく考えた上でお願いするかどうか決めたい。”
と、ダリアは言っていたものの、心の中では
オレ様は貪欲だ
今までのオレ様の行動を振り返れば
オレ様にキキョウの名前をくれたショウを貰っても、元々のショウが欲しくなるって想像できる
そしたら、ショウの一部からできたショウも可哀想だし、お互いが不孝になっちまうかもしれねぇ
だが、これは願ってもねーいい話だ
どうする?どうするのが最善なんだ?
と、ダリアは、ごく短いタイムリミットの中で究極の選択を迫られていた。
そこでショウと話をして、ショウの気持ちや現状を知った上で自分の方向性を決めようと考えていた。
「…お話しって言っても…」
何を話せばいいのか分からない。困った様子のショウにダリアは言った。
“今、凄く悩んでる事あるよな?お前と【キキョウ】の仲だ。教えてくれるか?”
と、ショウの心を見透かしたかの様に言ってくるダリアに、何で私が悩んでる事知ってるの!?と、ショウはビックリして思わず「…ヒェッ!」と、声をあげてしまった。…恥ずかしい。
けど、まだ
“もしもの世界から抜けきってないショウ”は、ショウの中にいる“もしもの自分”と恋人であるキキョウに非常に言いづらい悩み事を打ち明けた。大好きなキキョウには、隠し事はしたくないから。
「…じゃあ、キキョウにだから話すけどね。…私、すっごく気が多いフラチモノのアバズレなの!」
“……は?どういう事だ?”
ショウのフラチモノ、アバズレという言葉を聞き、恐らくは一緒に旅をしているというヨウコウ一行から悪影響を受け汚い言葉をたくさん聞いたのだろう。
しかし、その汚い言葉もショウは、よく意味が分かってないに違いない。
その場の雰囲気や話の流れから何となくこんな感じかな〜???と、自分の中で勝手に何とな〜く解釈したつもりになっているのだろうと推察した。
多分、それらの多くは解釈違いしているものが多いだろう。
しかし、ヨウコウ一行はショウにとって悪影響でしかないなと苦虫を噛んだ気持ちになった。
「…私、ずっとずっとサクラが好きで、サクラと結婚できたらいいなぁって思ってた。なのに、ロゼが来てロゼも好きになっちゃったの。
私はどっちを選ぶとかできない最低な人。
二人が一生懸命に私を好きだって伝えてくれるの。そんな二人の気持ち考えたら凄く、最低だなって悩んで…それくらいなら、恋人もいらないし一生独身でいいかなって考えてるの。
二人は、とってもとぉ〜〜〜っても凄いし、すっっっごくカッコいいから、この先二人にお似合いのすっごい人が現れるんだと思う。」
と、言うショウの言葉を遮りダリアは言った。
“ないな!それに、オレ様ならショウの気持ちを知った上で受け入れる。”
「……へ?」
“いいか?そもそもだ。サクラの他にロゼが好き。その好きは、全く同じ好きか?”
「…同じ…好き?」
“もし、サクラに対する好きとロゼに対する好きが違った場合。どちらかが恋愛対象で、もう一人は別の好きの可能性があるぜ?”
「…別の好きって?」
「例えばだ。ショウは、お父さんが好きか?」
「…う、うん。好き。」
と、ちょっと恥ずかしそうに答えるショウに柔らかい気持ちになる。
“じゃあ、メイド長のお婆は?”
「もちろん、好きだよ?」
どうして、そんな事聞くの?って、不思議そうなショウに、ここまでヒント出しても分かんねーなんてバカワイイなと思うダリア。
“お父さんとお婆を好きって言ってたけど、ショウは二人を恋愛対象として見てるのか?”
と、言われてショウはギョッとした。
「…え!?何で、そうなるの?お父さんとお婆は確かに好きだけど、恋とか考えられないよ!
だって、お父さんとお婆だよ?」
なんて、訳が分からないとばかりに全力で否定するショウにダリアは苦笑いして
“そういう事だよ。一重に好きって言ったって、いっぱい種類があるんだ。
だけど、今、ショウはサクラとロゼに、恋愛対象として好きだって告白された。だから、それを強く意識してしまったショウは、きっとそれが恋愛の好きなのか、別の好きなのか分からない状態になってるのかもしれねー。”
なんて言われて、ショウは確かに好きって言ってもいっぱい種類あるんだなと驚いていた。
好きについて、こんなに考えた事なんてなかったから驚きだ。目から鱗である。
“それに、仮にだ。ショウが本当に二人の事を恋愛対象として好きだったとしても大丈夫だと思うぜ?”
…ちょっと、分からない。ダリアは、何を言ってるんだろう?二人を好きでも大丈夫って、全然大丈夫じゃないんだけど…と、ショウは困惑した顔でダリアを見た。
“…まあ、普通はそうなるよな。
だけど、オレ様は別にお互いの気持ちを確かめ合って親しい周りの人達も納得できたなら、一人に絞らなくてもいいんじゃねーかって思う。
…まあ、普通の倫理観からかけ離れてて批判浴びそうな話になっちまうけどさ。”
なんて、ぶっ飛んだ話をしてくるダリアに、ショウは有り得ないと首を振った。
過去、数えきれない程の愛人を作り、ハーレムも築いたり遊び放題やりたい放題遊んでいたダリアだったが、誰に言っても信じてもらえないだろうが、ショウが否定するその気持ちはよく分かる。
そう考えながら、ダリアは本来自分達がいるべき世界の恋愛事情、結婚事情について思い出していた。
ショウは覚えてるか分からないが、オレ様達が【本来居るべき場所】では、天の一夫多妻•一妻多夫制が常識だぜ?
天以外は許されねーけど、それも常識
ただ、内情ドロドロしてて凄かったなぁ
大概の天は、自分の気に入ったやつを自分の妻或いは夫として囲ってる。
天に気に入られたら最後。天の言葉一つで強制的に、恋人あるいは妻・夫にされてしまうのだから。
中には、制欲処理・鬱憤晴らしの為だけに容姿が好みの人達を集めてハーレムを作っている者も多い。天によって、ハーレムといっても奴隷か道具の様に扱う外道もいた様だが。
恋人や婚姻関係にある者達の中には、天に隠れて浮気や不倫を楽しむ強者もいたし。
…まあ、監視もついてるから即刻バレて、死んだ方がマシだってくらいの生き地獄が待ってるんだが(監視がついてるって知ってりゃ、浮気や不倫なんて恐ろしい真似はしてなかったんだろう。)本人達は、自分の他にもこんなに大勢いるしバレないだろう、上手くやれる自信があると思っての事だったんだろが。
酷い話の一つで、元々恋人がいる・婚姻関係がある人でも、天が気に入ると家族や恋人と無理矢理引き裂かれて泣く泣く連れてこられるケースもある
そいつらの中には、恋人や婚姻関係の人や自分の子供が忘れられなくて逃げ出したり、隠れてこっそり会ったりなんて奴も多かったみたいだ
天や他の奴らにそれがバレた日にゃ、とんでもねー残酷で悲惨な罰が待ってるんだけどな
…まあ、これは相手の気持ちを無視して、一方的に気持ちを押し付ける悪い例だけど。胸糞悪いよな。だけど、それもそこじゃ普通なんだ
何かかしらを司る天がいて、それぞれに自分の天の国を持っている。一つの国が、こちらでいう世界規模だから大きい。
そして、その国によって大きさも環境も、そこに住む人達の能力や力など何もかもが違う。
それは、天の偉大さを表していると言われている。
…まあ、そこは置いといてだ
オレ様が言いたいのは、そこに住む国や地域によって人の価値観や常識は色々あるって話
だけど勘違いしないでほしいのは、
だからといって、人が嫌がる事や心身的苦痛を与える様な人道に反した事はしちゃ絶対ダメだって事。これだけは共通してると思う
天の中にも、相手の気持ちを大事にして、一夫多妻・一妻多夫制にも関わらず
一人を愛し、他には一切目もくれないって天もいたが。そんな奴、稀にしかいなかったな。
だが、裏を返せば稀にそんな奴もいるって事だ。稀にもちゃんとした理由があって、いわゆる“運命人”って呼ばれるソレが多かった
多いってだけで例え運命人でなくても、その人の性格や人柄で誰もが羨む仲睦まじい夫婦、恋人達もたくさんいる
オレ様は、それに憧れてた。オレ様には運命人を見る力はねーけど。それでも、オレ様は天の運命人であり天守だって疑わなかった…そうだって信じたかった
ただ、天にとって天守は特別。それがオレ様の他にもう一人いるって知った時、すっげーショックでさ
どうしても天を独り占めしたかったオレ様は、その存在を消そうと企てた。そのもう一人ってのが【ロゼ】な
って、ショウに言いたかったが、ダリアはこの話をショウにするのはやめておいた。
ショウにとって情報量の多い話だ。時間を掛けてゆっくり話せば分かるだろうが、なにせ今は時間がない。
それに、こんなドロドロした話を話したら、なんだかショウが汚れてしまう気がして言えなかったというのもある。
“世の中ってさ。うまくいかない事が多いだろ?どうしても、嫌な事に直面して逃れられない時だってある。
その時は、どうすれば極力相手を傷つけず解決できるか一番いい方法をを考える。
だから、まず、相談!”
「…そうだん?」
“ああ、相談だ。悩み事や問題事ってさ。一人で抱え込んで失敗する事が多い。
むしろ、自分一人で悩んで出した答えのせいで状況が悪化。気がついた時には、全てが手遅れだって事もある。”
「…悪化!て、手遅れ…!!?」
“ああ。だから、極力いい方向に向かうように信頼できる人に自分が悩んでいる事を相談する。これ、すっげー大事な。ここまで、大丈夫か?”
「…う、うん。なんとなくだけど…。一人で悩んでないで信用できる人に相談しなさいって事?」
“ああ、それだけ分かってりゃ十分だ。
そういう事。さっき、ショウはオレ様に、サクラとロゼを好きになってしまった。二人に対する罪悪感があるから身を引くって話してくれたよな?”
と、優しく問いかけるダリア。
「…うん。」
“これだけは言える。その話は、二人にしっかり相談するべきだ。二人が真剣だからこそ、ショウはそれに向き合わなければならない。
そこで、二人がどう判断してどんな方向に向かうのかは分からねーが。”
「…え?分からないの!?
じゃあ、どうして二人に相談しなきゃいけないの?…こんな話しちゃったら、…二人に嫌われちゃう。」
と、ダリアの分からないという発言にビックリして、しょんぼりするショウにダリアは困ったように笑い
“…嫌われたくないよな。
中には、自分の心の中だけにしまって墓場まで持っていくって事が必要な事もあるが…。”
「…は、はかば???」
“…あ、分からねー?
これは、ショウは知らなくていい事だから気にすんな。”
「はかばは、気にしなくていいの?」
“そこは、マジで気にしなくて大丈夫。
けどな。このままじゃ、サクラとロゼを悩ませるだけ悩ませて苦しめ続ける事になる。
その結果、二人の心はずっと迷子のままであまりに可哀想だ。
それよりだったら、二人の本気にショウの本気をぶつけた方がずっとマシ。そうする事で自ずと出口も見えてくるはずだ。”
「…でもね。もし、私がどっちか一人選んじゃったら、もう一人がとっても可哀想だし…。
私は二人が、とっても大切だから選べない…」
“…苦しいな。好きの種類が違っても、同じくらい大切な存在なら選ぶなんてできねーよな。
世の中ってうまくいかない事が多いのな。
だからこそだ。二人に相談して、二人の意見を聞いてそこでショウの気持ちを固めていけばいい。”
そう言って励ますものの、今すぐショウを抱きしめたくても抱きしめられないこの体をもどかしく思うダリア。
そして、ショウと話しているうちにダリアは、ある決心が固まってきていた。
…すっげーダメダメなオレ様だけど、今度は間違えない。いや、もう間違えようがない
ショウ、どうしようもないくらい愛してる
…オレ様にとって、ショウを諦めるって方が無理がある。ショウと離れるなんて無理な事は色々経験して身をもって知ってる。マジで、もう、あんな思いはしたくない…二度と…!
本当なら、ショウに酷い事をし続けてきたオレ様は身を引くべきだって分かっている
だけど、ごめんな
それは、オレ様にはできない
それくらいなら、あいつらと共有した方が全然マシだ。それぐらいの地獄を体験し続けてきたから言える
…けど、ショウの今の話の中にオレ様はいなかった
きっと、そういう事だ
それだけの事をオレ様はしてきた。今さら、悔い改めたって…それこそ、もう遅い
…今思い返せば、いっときだったけどショウとオレ様は恋愛的に結ばれてた時期はあったと思う。…そう、思いたい
そして、やり直しの効く時はたくさんあった。むしろ、その機会は誰よりも多かった気がする。チャンスはいつだってあったはずだった
だけど、オレ様はその全てを自ら壊し続けたんだ…マジで、どうしようもねぇ…本当に馬鹿な事した!
けど、もしも
もしも、ほんの少しでもオレ様にも可能性があるなら。そういう願望が止まらない
“…なあ、ショウ。こんな時だけど、聞いてほしい。オレ様はーーー”
「……え?」
ショウの答え次第で、オレ様はーーー
その話が終わって直ぐに、ダリアはたわいもない話をしながら、オブシディアンとフウライだけに聞こえるようテレパシーを送った。
“…最後に。サクラについて少し話しておく。
多分、さっきの“もしもの世界”でのオレ様を見て、オレ様でこんなに変わったなら何故サクラはオレ様ほど変わる事がなかったのかと疑問を感じているはずだ。
オレ様の一部だったというなら、ショウの体型も学習能力も標準レベルにする事が可能だったんじゃねーかとも思ってるはずだ。”
と、言われた時、図星をつかれた二人はドキリとした。
“…クフフ!確かに、アレだってショウの体型の管理や学習面でもやろうと思えばできた。
できるが、敢えてやらなかった。”
『…何故?』
と、テレパシーでフウライが問いかけると
“ただの独占欲だ。”
『……?』
『ああ、なるほどね。』
ダリアの話をよく分かってないフウライと、ショウとサクラをずっと見守ってきたオブシディアンは“やはり、そうか”と、納得していた。
“ アレの素となってるのは【天への想い】。
アレの大半はそれでできてる偏った個体だ。
だから、アレは天を思うがあまり歪んでる部分が多い。
アレの本心は、誰もいない所で天と二人きり、天を独占して何から何まで自分がお世話して幸せに暮らしたいって思ってる。
…アレにとって、ショウをお世話する事が趣味であり楽しみだ。それにやりがいと感じ、楽しいし幸せを感じている。
それに、ショウにおねだりや命令されると自分は頼られてる、必要とされてると思い有頂天になるほどの喜びと幸福を感じるド変態だ。
アレにとって、ショウ以外どうでもいいんだ。ショウ以外は、眼中にないか害虫程度にしか思ってない。
もし、少しでもショウの害になるような輩がいたら抹殺候補だ。【本来のアレ】なら、ショウが目につかない所で即殺してるだろう。”
…ドクン、ドクン…
《本来のアレ》とは、何なんだ?と、不穏な話を聞き、動揺するオブシディアンとフウライ。
サクラを見ている限り、不器用な性格な為、彼にとって社会生活を送る事には厳しいだろうくらいに思っていたが。
確かにサクラは冷淡で冷酷な所はあるが、それでも常識は弁えているし少なからず思いやりも無いわけではない。
だから、気に入らない相手がいたら即殺すなどどうしても考えづらい。
“つまり、ショウがとんでもないデブになったのも、ショウとリュウキの間に親子の溝ができたのも全てサクラの計画だ。ショウが自分だけ見るように仕向けたんだ。
アレはショウに誠心誠意尽し世話をする事が生き甲斐だ。ショウが幸せで笑顔でいられる事が最も優先すべき事だ。一方でショウに対する執着や願望、欲望も半端なくて貪欲だ。
ショウの為、自分の欲のためなら手段は選ばねーぞ、アレは。
だけどな。軽薄で冷淡だし人として色々と欠けてる所が多く感じるだろうが。実はそれでも、アレはまともにしっかりと人の道を生きている。
それがオレ様にとって驚きでしかない。なんで、アレがこんなにまともになってるんだってな。
だって、考えてもみろ。素はオレ様の捨てた感情の一部だって事を。他の感情なんてなかったんだぞ?
時間をかけて、色んな社会勉強を経て様々な別の感情が芽生えてきたんだろうが。それにしたってだ。あの、あまりに偏り過ぎた感情を持つアレが真っ当な人の心や感情を持つなんてある訳がない。
だが、しっかりと一人の人として成り立っている。驚くしかないだろ。
けど、その理由が分かった。
もしもの世界でオレ様は、アレの辿ってきた環境を体験して感じた。
本来のアレはほぼ90%の確率で、ショウの為だけに生きる悪魔・大魔王、あるいはバーサーカーになってた。
突かなければ大丈夫だが、ほんの少しでも突つけばスズメバチの様に凶暴化して死ぬまで襲ってくるとんでもねーモンになってたはずだった。
後の7%は、理性なんて皆無でひたすらに、ショウを崇拝し崇め、そのくせ己の愛欲をショウに注ぐだけの変態、狂人。
残りの3%は予測不能。そんな感じか。
だが、驚くべき事にそうはならなかった。これは、マジで奇跡としか言いようがない。
特にアレが、人になれた理由としてお婆とリュウキの存在が大きかった。
あの二人が居なければ、サクラはこんな真っ当な人になれなかったとハッキリ言える。”
『…しかし、内容が内容だ。ショウ姫に聞かれたくなくてテレパシーで、俺達に話したんだろうが…ショウ姫に聞かれてるという心配はないか?』
と、心配するフウライに
“ああ、そこは全く問題ない。だって、ショウは心の底から望まなきゃ、何にもできないからさ。一応だけど、ショウの【それ】は本気と心の底からとは別と思っていい。
だから、ショウが本気で望んでも願っても何もできねーよ。”
聞いていると、ショウの能力は発動条件がとても複雑らしい事が分かる。
“だから、ショウは自由自在には扱えない。と、言うより、まず自分で自分の能力が分かってねー。だけど、それでいい。そうじゃなきゃ駄目なんだよ。”
何か、複雑な事情がありそうだ。話の流れから察するに、ショウの能力を知った者がショウを使って悪用する可能性。
そして、ショウ自身が調子に乗っておかしな事をしてしまう恐れがあるのかもしれない。と、オブシディアンとフウライは、ほぼ似たような推測をしていた。
それを察したダリアは、マジで優秀だなと二人に感心していた。
“それは、ショウの天守と生みの親、創造主だけが知ってればいい。それ以外みんな知ってはいけない、ショウを含めて、な。
あと、ショウが無理矢理、心の底から望もうたってできねーからな。”
なんて、軽い調子で言っていたが…それは、とても重大で危険な事ではないのか?
と、フウライはショウに何らかの危険性を感じていた。…どこからどう見ても、とてもとても太り過ぎたちょっとオツムの足りない普通の子供にしか見えないがと、どうしても気になりショウをチラチラ見てしまった。
フウライの様子にダリアは、自分がフウライの立場であったら自分も似た様な事を思ってただろうなと苦笑いする。
一方でフウライの視線を感じとったショウは、都合悪そうに下を俯いていた。
“…ショウ、大丈夫だ。アイツは、ショウの事を悪く思ってる訳じゃないよ。ちょっと、人見知りな恥ずかしがり屋さんなだけなんだ。気にしなくていい。”
と、いち早くショウの異変に気づき、ダリアはショウを慰めつつフウライをフォローした。
人見知りの恥ずかしがり屋ってのは…ちょっと不服だが、ショウに不快感を与えるよりマシかとフウライは思う事にした。
そして、「良かった。(てっきり、私がおでぶでブスで気持ち悪いって思われてるのかと思った)」と、ショウが安心したところでダリアは、二人だけに再びテレパシーを送る。
その間に、器用にショウと普通に会話を楽しんでるのだから驚く。どこに意識を持ち、二つ同時に事を進めているのか不思議だ。
もはや、驚きを通り越してそんな事までできてしまうのかと感心するばかりだ。
“忠告しておくからな。ショウを心の底から失望或いは絶望させんなよ?
だから、アレとロゼは、本気でマズイと思った時にはショウにソレを見せなかったり、話をはぐらかす、聞かせないといった具合に回避してる筈だぜ?”
そこでオブシディアンは、思い当たる節があったのか心の中で『…なるほど。』と、妙に納得していた。
【もしもの世界でアレが体験した人生をオレ様が辿ったらどう変わるか】
だから、アレとは異なる部分も多いだろうが、おかげでアレがどんな人生を歩んできたのか体験する事ができたから言える事もある。”
と、ダリアが、フウライの質問に答えると言ってきたのだ。それには、フウライだけでなくオブシディアンも驚いている。
“オレ様の記憶とアレの人生をオレ流で過ごした今なら分かる。(…まあ、能力や力の違いもあってか結構な誤差は生じたが。)
オレ様は、誰よりも何よりもオレ様の天を愛してる。オレ様なんかより、ずっとずっと大切な存在。
いや、愛するって言葉だけじゃ足りねー。自分より大切って軽い気持ちじゃねー。多分、その気持ちフウライなら何となく分かるんじゃないか?”
と、問われ、フウライはドキリとした。
そう、フウライがハナに感じる感情は、愛や恋じゃ語りきれない。
上手く説明できないが、愛や恋など可愛い感情だけでない嫉妬や執着、尊敬や師匠的な何か…色んな複雑で深い感情が幾つも絡み合ってギュウギュウに凝縮されて“好き”というカテゴリーの一つにまとめられてる感じ。
何より大切で狂おしいほど愛しい、大事に大事に自分の手元に置いておきたい。だけど、ハナは野生児で思いもよらない行動に出て、時折憎たらしくもなる存在。
けど、そこが自分の想像を越してきて驚かされっぱなしだ。口では説教や小言を言ってはいるが、実は心の中では興奮し面白いと感じるのも事実。
大親友のピンチを知れば必ず駆けつけるのは側から見れば素晴らしい事なのかもしれないが、フウライにとってみれば凄く嫌だ…不安と緊張、心配ばかりで生きた心地がしない。
そのせいで、何回ハナを監禁してしまおうか考えたか分からない。だが、そんなハナを誇らしくも思う自分もいるからどうしようもない。
まだまだ、いい足りないくらいだが。
…本当だ。この感情は簡単な言葉などでは語りきれないな。
いつだったか、サクラともう一人の親友と語り合った事のある話。つい、さっき見たショウとダリアの“もしもの世界”での、自分とダリア(キキョウ)とも嫌ってほど語り合ったソレだ。
“…そう、少し前までのオレ様はオレ様の感情を認める事ができなかった。オレ様は、オレ様よりずっとずっと大切な天の存在を…。
それと等しく、いやそれ以上にオレ様は自己愛が強かった。そして、人一倍…いや、何十、何百倍も世間体が気になっていた。
周りから羨望の眼差しで見られたい、全てが完璧なオレ様でいたい。そんな願望が強かった。
そのせいで、いつの間にか天を否定して蔑ろにする様になっていった。
今、考えればマジで頭沸いてんのかって…地獄へ堕ちたまま二度と帰って来るなってくらい最悪に思う。…マジでオレ様…何してんだよ…!”
と、過去の自分を深く悔いて、ダリアは言葉を詰まらせた。
“…そっか、だからか。…ハハ…馬鹿なオレ様。
オレ様は、何となくその罪悪感を分かってた。分かってたけど、自分の醜態や失態なんて認めたくなくて最終的に【過去にタイムリープしてやり直そう】って、禁術を使っては失敗。それを何度も何度も繰り返してた。
“オレ様の天には通用”しないってのにな。
オレ様が、禁術に失敗しても無事でいられるのはオレ様の能力や力ってのも大きいが【天の加護】のおかげだ。だから、オレ様はここにいられる。
そんな事すら忘れて、ひたすら禁術に手を出してた。
そして、……汚れきった体を浄化して色々なかった事にして、真っさらな状態にしてやり直したかったんだ。
でも、もしその禁術に成功してたとしても同じ事の繰り返しになってただろうって、今なら思う。…ああ、だけど…そっか。
自分の事なのに、自分で自分が分かんなかったんだな。いや、分かろうとしなかった。あまりに愚か。滑稽過ぎて…恥ずかしい事この上ないな。”
と、自傷するダリア。
“そうだ。それで、オレ様はやっちゃなんねー事をしてしまった。
一番最初のオレ様。オレ様が、周りからダリアって呼ばれてた頃の話だ。…天を独り占めしたくて、色んなモンぶっ壊して奪って無理矢理手に入れた天守の力と座。
けど、天が成長するにつれて周りの奴らの、天に対する評価。そして、オレ様に対する評価が強く噂される様になってきた。その噂は、瞬く間に自分の王国に留まらず多くの王国にまで知れ渡った様だった。
それが気になってきたオレ様は、段々とこの天はオレ様には不釣り合いだと思うようになってきた。そしたら、だんだん天が煩わしくなってきて…けど、やっぱり大好きで何より大切で。
その内、天を愛する気持ちと世間体とで悩み葛藤していた時、思ってしまった。
天に対する気持ちは、そういう風に誰かに洗脳されて刷り込まれた気持ちだ。自分がこんなに完璧なんだから、自分の側には自分に釣り合う奴じゃなきゃ駄目だ。
だけど、洗脳のせいで天を思う気持ちが捨てきれない。なら、それを捨てればいいんじゃないか!?
そう思ってしまった。
そうすれば、この苦しみから解放されて自分は幸せになれると思った。
…そして、この時初めて禁術に手をつけた。
【感情の一部を捨てる禁術】
それで、オレ様は天に対する【恋や愛、執着、崇拝、思いやり等】を取り出しそれを固く固めて木っ端微塵に砕いて、粉々になったソレをひとまとめにしてありったけの力でそれを投げ飛ばした。
ソレ【天を想う気持ち】が、時間をかけてゆっくりと意識と意思を持ち始め、それが段々と強くなっていき実態を持ち【天を想う気持ち】だけで行動していたんだろう。
おそらく実態は、初めて見た生き物を参考に形を変えたんだろうと想定する。
ソレの中心は【天への想い】が凝縮されてできている。それ以外ない。つまり、ソレにとって【天が全て】と断言できる。
だが、日々を過ごすうちに自分に様々な感情も芽生え始め、様々な感情もできてきて一人の個体になったんだろう。
それが、サクラって存在だ。
そして、オレ様の一部だった感情。
けど、おかしな事にさ。ソレを捨てた筈なのに、オレ様のどの感情にも天の存在があったみたいでさ。そのちっちゃい感情がどっか集中的に集まってきて、また天の事が大好きになった。
その感情から色々と枝分かれして色んな感情が増えていって、結局は以前と変わらねーオレ様の出来上がりってわけだ。
そのあとも、色々あったけど。
つまり、オレ様が心の底から変わって行動に移さなきゃ、どんなにやり直したって変わらねーって話な。
そして、天への変わらぬ愛。…いや、今回の事で、自分の気持ちを素直に認められたからかな?もっともっと好きになっちまった。
多分、この気持ちは増えていくばっかなんだろうなぁ。
…けど、オレ様の犯した過ちは消える事なんてない。これから、ずっとこの罪を背負い続けなきゃなんねー。
それくらいの事をオレ様はした。それだけじゃ、足りねーくらい取り返しのつかないとんでもない事をしちまった。”
と、ダリアが言うと
「…いいよ、大丈夫だよ。許すよ。」
ショウから、思いもよらない言葉が出てきた。
「…いっぱい、いっぱい辛かったね。苦しんだね。でも、もう大丈夫だよ。」
そんな言葉を掛けるショウに、ダリアだけではない。オブシディアンとフウライも、目を見開き驚いている。
ダリアの件の事は、ショウは詳細を知らないはず。詳しく知らなければ、今のダリアの話を聞いても何がなんだか全く分からない話だろう。
その場の雰囲気に合わせて適当に答えるにしては、言葉が適切で正確すぎる。
「…よく分からないけどね。キキョウが、とっても苦しそうで辛そうだから、どうしてかな?って思ったの。
知りたいなって思ったら、たくさんキキョウが生まれ変わって色んな所に行って。
…色んな痛い事をいっぱいされたり…いっぱいいっぱい怖い事が見えたの。
…凄く痛そうで…辛そうで!可哀想だし、怖くて見てられないって思ったら見えなくなったけど。
…でも、キキョウはどこに行っても、空っぽの心で嫌な気持ちばっかり。寂しかったね。」
ショウの語彙力の無さにも驚くが…この言葉で、そこにいるみんなは確信した。
ショウは一瞬のうちに、ダリアの長い長い何度生まれ変わったか分からない人生を全て(見たくない所は飛ばして)見て理解したのだと。
その瞬間、フウライはショウは一体何者なのかと得体の知れない恐怖を感じ全身がゾクリと冷たくなった。
“…ああ、そうか。ショウ、そうか。
さすが、【オレ様達】の天だ。”
と、噛み締める様に呟いていた。そんなダリアに、ショウは
「ねえ、キキョウ。私の中にね、さっきの私の心と記憶があるの。だから、それを取り出すと“さっきの私”を創る事できるよ?どうしたい?」
そう、聞いてきたのだ。その言葉に、オブシディアンとフウライ固まる。そんな事ができるのか?冗談だろと。
ダリアはそれに近い事を最も簡単にやってのけた様だが、それとは似ていて異なるモノだ。
それは、もはや禁術であり失敗すれば体どころか魂さえも消滅してしまう恐ろしい術。
そもそもだ。それは、人間がどうこうできる代物ではない。S級大魔道士フウライでさえ、使おうと思っても使えない術なのだから。
だが、そう考えたのは一瞬の事。最近、あまりに規格外と接する機会が多すぎて、自分の常識がバグっていたとフウライは冷静になって考え直した。
ショウという子供は、まだ12才であり少々オツムが足りない少女だとサクラやリュウキから聞いた事がある。その事を思い出しフウライは、一瞬でも真剣に考えてしまった自分が馬鹿馬鹿しく思えた。
だが、一方のオブシディアンはあり得ない話ではないと思った。何故なら、サクラが自分の正体を隠しショウと共に旅に出た時の事。
色々あって少しの間だがダイヤ一行と共に旅をする事となった、あの日。
オブシディアンは、魔力を使い過ぎて体調を崩していた。その時、ショウが心配そうにオブシディアンの手を握りお祈りをしている様だった。
その気持ちだけで十分だと、ショウの気持ちを嬉しく思っていたオブシディアンだったが次の瞬間、ショウは何かのゾーン入ってしまい、
人の形を保ったまま全身が海のような湖のような…何とも形容しがたい姿に変わってしまった。
そして、握られた手から膨大な量の魔力の素ともいえる、何の癖もなく良質で純度100%といえる魔力が注ぎ込まれてきたのだ。
しかも、オブシディアンの魔力にピッタリと合った魔力、しかもオブシディアンの魔力のゲージにピッタリ満タンに補充されていた。その調節も相当なまでに難しい筈なのに。
ショウが赤ちゃんの時から見守っていたし、他からの情報を踏まえて自分が見てもショウは魔力は一切なく、魔法の素質も属性も全く持ち合わせていなかった。
人口の殆どが、ショウと同じく魔力も無ければ魔法も使えない。属性すら無いという人が殆どなので、そこは驚きはしないが。
無いはずなのに、ショウは“何処かに隠し持っていた”のだ。残念な事に、本人には何も自覚はない。だから、今は感じられないが確かにショウは魔力を持っているのだ。
だから、そんな事ができると言ってもあり得ない話ではないとオブシディアンは考えたのだ。
それに、あのサクラが何故か崇め心酔しているショウ。だから、漠然と何かあるとは思っていた。
そして、旅を続ける度に稀に起こる不思議な出来事。
“天”やら“天守”といった、この世界では聞いた事も見た事もない言葉。そして、前世・前前世、生まれ変わりという話など。
そんな話が簡単に出てくる様になり、物語上や伝説の人物ダリアが現存していた事実に、きっとこれは普通という概念に囚われてはついていけない。
もっと視野を広げて見て、自分の想像や想定を遥かに越える事があってもどんな事が起きても受け止めなければならないと感じ覚悟もした。
しかし、オブシディアンはショウが何者でも構わない。自分の欲からビーストキングダムでの出来事があってから心に誓ったのだ。何があってもショウを守る、ショウの味方であり続けると。
そんな事を思い出しながら、オブシディアンは二人のやり取りを見守っていた。
“…………。それは、この上ないいい話けどさ。少し考える時間がほしい。大丈夫か?”
ダリアは、しばらく考えたが直ぐには答えは出ず、ショウに聞いてきた。
「うん。…でも、時間が掛かっちゃうとそれが薄れてきて創れなくなっちゃうよ?」
と、ショウは申し訳無さそうにダリアに忠告すると
“…だろうな。で、タイムリミットはいつだ?”
「……えっと、1時間くらい???」
“…フハッ!早っ!…でも、こんなオレ様にも一筋の希望が与えられるって訳か。願ってもねーいい話だ。じゃあ、そのタイムリミットまでオレ様とお話ししようぜ?”
「お話し?」
“そう、お話しだ。その間に、オレ様は自分の心を整理してよく考えた上でお願いするかどうか決めたい。”
と、ダリアは言っていたものの、心の中では
オレ様は貪欲だ
今までのオレ様の行動を振り返れば
オレ様にキキョウの名前をくれたショウを貰っても、元々のショウが欲しくなるって想像できる
そしたら、ショウの一部からできたショウも可哀想だし、お互いが不孝になっちまうかもしれねぇ
だが、これは願ってもねーいい話だ
どうする?どうするのが最善なんだ?
と、ダリアは、ごく短いタイムリミットの中で究極の選択を迫られていた。
そこでショウと話をして、ショウの気持ちや現状を知った上で自分の方向性を決めようと考えていた。
「…お話しって言っても…」
何を話せばいいのか分からない。困った様子のショウにダリアは言った。
“今、凄く悩んでる事あるよな?お前と【キキョウ】の仲だ。教えてくれるか?”
と、ショウの心を見透かしたかの様に言ってくるダリアに、何で私が悩んでる事知ってるの!?と、ショウはビックリして思わず「…ヒェッ!」と、声をあげてしまった。…恥ずかしい。
けど、まだ
“もしもの世界から抜けきってないショウ”は、ショウの中にいる“もしもの自分”と恋人であるキキョウに非常に言いづらい悩み事を打ち明けた。大好きなキキョウには、隠し事はしたくないから。
「…じゃあ、キキョウにだから話すけどね。…私、すっごく気が多いフラチモノのアバズレなの!」
“……は?どういう事だ?”
ショウのフラチモノ、アバズレという言葉を聞き、恐らくは一緒に旅をしているというヨウコウ一行から悪影響を受け汚い言葉をたくさん聞いたのだろう。
しかし、その汚い言葉もショウは、よく意味が分かってないに違いない。
その場の雰囲気や話の流れから何となくこんな感じかな〜???と、自分の中で勝手に何とな〜く解釈したつもりになっているのだろうと推察した。
多分、それらの多くは解釈違いしているものが多いだろう。
しかし、ヨウコウ一行はショウにとって悪影響でしかないなと苦虫を噛んだ気持ちになった。
「…私、ずっとずっとサクラが好きで、サクラと結婚できたらいいなぁって思ってた。なのに、ロゼが来てロゼも好きになっちゃったの。
私はどっちを選ぶとかできない最低な人。
二人が一生懸命に私を好きだって伝えてくれるの。そんな二人の気持ち考えたら凄く、最低だなって悩んで…それくらいなら、恋人もいらないし一生独身でいいかなって考えてるの。
二人は、とってもとぉ〜〜〜っても凄いし、すっっっごくカッコいいから、この先二人にお似合いのすっごい人が現れるんだと思う。」
と、言うショウの言葉を遮りダリアは言った。
“ないな!それに、オレ様ならショウの気持ちを知った上で受け入れる。”
「……へ?」
“いいか?そもそもだ。サクラの他にロゼが好き。その好きは、全く同じ好きか?”
「…同じ…好き?」
“もし、サクラに対する好きとロゼに対する好きが違った場合。どちらかが恋愛対象で、もう一人は別の好きの可能性があるぜ?”
「…別の好きって?」
「例えばだ。ショウは、お父さんが好きか?」
「…う、うん。好き。」
と、ちょっと恥ずかしそうに答えるショウに柔らかい気持ちになる。
“じゃあ、メイド長のお婆は?”
「もちろん、好きだよ?」
どうして、そんな事聞くの?って、不思議そうなショウに、ここまでヒント出しても分かんねーなんてバカワイイなと思うダリア。
“お父さんとお婆を好きって言ってたけど、ショウは二人を恋愛対象として見てるのか?”
と、言われてショウはギョッとした。
「…え!?何で、そうなるの?お父さんとお婆は確かに好きだけど、恋とか考えられないよ!
だって、お父さんとお婆だよ?」
なんて、訳が分からないとばかりに全力で否定するショウにダリアは苦笑いして
“そういう事だよ。一重に好きって言ったって、いっぱい種類があるんだ。
だけど、今、ショウはサクラとロゼに、恋愛対象として好きだって告白された。だから、それを強く意識してしまったショウは、きっとそれが恋愛の好きなのか、別の好きなのか分からない状態になってるのかもしれねー。”
なんて言われて、ショウは確かに好きって言ってもいっぱい種類あるんだなと驚いていた。
好きについて、こんなに考えた事なんてなかったから驚きだ。目から鱗である。
“それに、仮にだ。ショウが本当に二人の事を恋愛対象として好きだったとしても大丈夫だと思うぜ?”
…ちょっと、分からない。ダリアは、何を言ってるんだろう?二人を好きでも大丈夫って、全然大丈夫じゃないんだけど…と、ショウは困惑した顔でダリアを見た。
“…まあ、普通はそうなるよな。
だけど、オレ様は別にお互いの気持ちを確かめ合って親しい周りの人達も納得できたなら、一人に絞らなくてもいいんじゃねーかって思う。
…まあ、普通の倫理観からかけ離れてて批判浴びそうな話になっちまうけどさ。”
なんて、ぶっ飛んだ話をしてくるダリアに、ショウは有り得ないと首を振った。
過去、数えきれない程の愛人を作り、ハーレムも築いたり遊び放題やりたい放題遊んでいたダリアだったが、誰に言っても信じてもらえないだろうが、ショウが否定するその気持ちはよく分かる。
そう考えながら、ダリアは本来自分達がいるべき世界の恋愛事情、結婚事情について思い出していた。
ショウは覚えてるか分からないが、オレ様達が【本来居るべき場所】では、天の一夫多妻•一妻多夫制が常識だぜ?
天以外は許されねーけど、それも常識
ただ、内情ドロドロしてて凄かったなぁ
大概の天は、自分の気に入ったやつを自分の妻或いは夫として囲ってる。
天に気に入られたら最後。天の言葉一つで強制的に、恋人あるいは妻・夫にされてしまうのだから。
中には、制欲処理・鬱憤晴らしの為だけに容姿が好みの人達を集めてハーレムを作っている者も多い。天によって、ハーレムといっても奴隷か道具の様に扱う外道もいた様だが。
恋人や婚姻関係にある者達の中には、天に隠れて浮気や不倫を楽しむ強者もいたし。
…まあ、監視もついてるから即刻バレて、死んだ方がマシだってくらいの生き地獄が待ってるんだが(監視がついてるって知ってりゃ、浮気や不倫なんて恐ろしい真似はしてなかったんだろう。)本人達は、自分の他にもこんなに大勢いるしバレないだろう、上手くやれる自信があると思っての事だったんだろが。
酷い話の一つで、元々恋人がいる・婚姻関係がある人でも、天が気に入ると家族や恋人と無理矢理引き裂かれて泣く泣く連れてこられるケースもある
そいつらの中には、恋人や婚姻関係の人や自分の子供が忘れられなくて逃げ出したり、隠れてこっそり会ったりなんて奴も多かったみたいだ
天や他の奴らにそれがバレた日にゃ、とんでもねー残酷で悲惨な罰が待ってるんだけどな
…まあ、これは相手の気持ちを無視して、一方的に気持ちを押し付ける悪い例だけど。胸糞悪いよな。だけど、それもそこじゃ普通なんだ
何かかしらを司る天がいて、それぞれに自分の天の国を持っている。一つの国が、こちらでいう世界規模だから大きい。
そして、その国によって大きさも環境も、そこに住む人達の能力や力など何もかもが違う。
それは、天の偉大さを表していると言われている。
…まあ、そこは置いといてだ
オレ様が言いたいのは、そこに住む国や地域によって人の価値観や常識は色々あるって話
だけど勘違いしないでほしいのは、
だからといって、人が嫌がる事や心身的苦痛を与える様な人道に反した事はしちゃ絶対ダメだって事。これだけは共通してると思う
天の中にも、相手の気持ちを大事にして、一夫多妻・一妻多夫制にも関わらず
一人を愛し、他には一切目もくれないって天もいたが。そんな奴、稀にしかいなかったな。
だが、裏を返せば稀にそんな奴もいるって事だ。稀にもちゃんとした理由があって、いわゆる“運命人”って呼ばれるソレが多かった
多いってだけで例え運命人でなくても、その人の性格や人柄で誰もが羨む仲睦まじい夫婦、恋人達もたくさんいる
オレ様は、それに憧れてた。オレ様には運命人を見る力はねーけど。それでも、オレ様は天の運命人であり天守だって疑わなかった…そうだって信じたかった
ただ、天にとって天守は特別。それがオレ様の他にもう一人いるって知った時、すっげーショックでさ
どうしても天を独り占めしたかったオレ様は、その存在を消そうと企てた。そのもう一人ってのが【ロゼ】な
って、ショウに言いたかったが、ダリアはこの話をショウにするのはやめておいた。
ショウにとって情報量の多い話だ。時間を掛けてゆっくり話せば分かるだろうが、なにせ今は時間がない。
それに、こんなドロドロした話を話したら、なんだかショウが汚れてしまう気がして言えなかったというのもある。
“世の中ってさ。うまくいかない事が多いだろ?どうしても、嫌な事に直面して逃れられない時だってある。
その時は、どうすれば極力相手を傷つけず解決できるか一番いい方法をを考える。
だから、まず、相談!”
「…そうだん?」
“ああ、相談だ。悩み事や問題事ってさ。一人で抱え込んで失敗する事が多い。
むしろ、自分一人で悩んで出した答えのせいで状況が悪化。気がついた時には、全てが手遅れだって事もある。”
「…悪化!て、手遅れ…!!?」
“ああ。だから、極力いい方向に向かうように信頼できる人に自分が悩んでいる事を相談する。これ、すっげー大事な。ここまで、大丈夫か?”
「…う、うん。なんとなくだけど…。一人で悩んでないで信用できる人に相談しなさいって事?」
“ああ、それだけ分かってりゃ十分だ。
そういう事。さっき、ショウはオレ様に、サクラとロゼを好きになってしまった。二人に対する罪悪感があるから身を引くって話してくれたよな?”
と、優しく問いかけるダリア。
「…うん。」
“これだけは言える。その話は、二人にしっかり相談するべきだ。二人が真剣だからこそ、ショウはそれに向き合わなければならない。
そこで、二人がどう判断してどんな方向に向かうのかは分からねーが。”
「…え?分からないの!?
じゃあ、どうして二人に相談しなきゃいけないの?…こんな話しちゃったら、…二人に嫌われちゃう。」
と、ダリアの分からないという発言にビックリして、しょんぼりするショウにダリアは困ったように笑い
“…嫌われたくないよな。
中には、自分の心の中だけにしまって墓場まで持っていくって事が必要な事もあるが…。”
「…は、はかば???」
“…あ、分からねー?
これは、ショウは知らなくていい事だから気にすんな。”
「はかばは、気にしなくていいの?」
“そこは、マジで気にしなくて大丈夫。
けどな。このままじゃ、サクラとロゼを悩ませるだけ悩ませて苦しめ続ける事になる。
その結果、二人の心はずっと迷子のままであまりに可哀想だ。
それよりだったら、二人の本気にショウの本気をぶつけた方がずっとマシ。そうする事で自ずと出口も見えてくるはずだ。”
「…でもね。もし、私がどっちか一人選んじゃったら、もう一人がとっても可哀想だし…。
私は二人が、とっても大切だから選べない…」
“…苦しいな。好きの種類が違っても、同じくらい大切な存在なら選ぶなんてできねーよな。
世の中ってうまくいかない事が多いのな。
だからこそだ。二人に相談して、二人の意見を聞いてそこでショウの気持ちを固めていけばいい。”
そう言って励ますものの、今すぐショウを抱きしめたくても抱きしめられないこの体をもどかしく思うダリア。
そして、ショウと話しているうちにダリアは、ある決心が固まってきていた。
…すっげーダメダメなオレ様だけど、今度は間違えない。いや、もう間違えようがない
ショウ、どうしようもないくらい愛してる
…オレ様にとって、ショウを諦めるって方が無理がある。ショウと離れるなんて無理な事は色々経験して身をもって知ってる。マジで、もう、あんな思いはしたくない…二度と…!
本当なら、ショウに酷い事をし続けてきたオレ様は身を引くべきだって分かっている
だけど、ごめんな
それは、オレ様にはできない
それくらいなら、あいつらと共有した方が全然マシだ。それぐらいの地獄を体験し続けてきたから言える
…けど、ショウの今の話の中にオレ様はいなかった
きっと、そういう事だ
それだけの事をオレ様はしてきた。今さら、悔い改めたって…それこそ、もう遅い
…今思い返せば、いっときだったけどショウとオレ様は恋愛的に結ばれてた時期はあったと思う。…そう、思いたい
そして、やり直しの効く時はたくさんあった。むしろ、その機会は誰よりも多かった気がする。チャンスはいつだってあったはずだった
だけど、オレ様はその全てを自ら壊し続けたんだ…マジで、どうしようもねぇ…本当に馬鹿な事した!
けど、もしも
もしも、ほんの少しでもオレ様にも可能性があるなら。そういう願望が止まらない
“…なあ、ショウ。こんな時だけど、聞いてほしい。オレ様はーーー”
「……え?」
ショウの答え次第で、オレ様はーーー
その話が終わって直ぐに、ダリアはたわいもない話をしながら、オブシディアンとフウライだけに聞こえるようテレパシーを送った。
“…最後に。サクラについて少し話しておく。
多分、さっきの“もしもの世界”でのオレ様を見て、オレ様でこんなに変わったなら何故サクラはオレ様ほど変わる事がなかったのかと疑問を感じているはずだ。
オレ様の一部だったというなら、ショウの体型も学習能力も標準レベルにする事が可能だったんじゃねーかとも思ってるはずだ。”
と、言われた時、図星をつかれた二人はドキリとした。
“…クフフ!確かに、アレだってショウの体型の管理や学習面でもやろうと思えばできた。
できるが、敢えてやらなかった。”
『…何故?』
と、テレパシーでフウライが問いかけると
“ただの独占欲だ。”
『……?』
『ああ、なるほどね。』
ダリアの話をよく分かってないフウライと、ショウとサクラをずっと見守ってきたオブシディアンは“やはり、そうか”と、納得していた。
“ アレの素となってるのは【天への想い】。
アレの大半はそれでできてる偏った個体だ。
だから、アレは天を思うがあまり歪んでる部分が多い。
アレの本心は、誰もいない所で天と二人きり、天を独占して何から何まで自分がお世話して幸せに暮らしたいって思ってる。
…アレにとって、ショウをお世話する事が趣味であり楽しみだ。それにやりがいと感じ、楽しいし幸せを感じている。
それに、ショウにおねだりや命令されると自分は頼られてる、必要とされてると思い有頂天になるほどの喜びと幸福を感じるド変態だ。
アレにとって、ショウ以外どうでもいいんだ。ショウ以外は、眼中にないか害虫程度にしか思ってない。
もし、少しでもショウの害になるような輩がいたら抹殺候補だ。【本来のアレ】なら、ショウが目につかない所で即殺してるだろう。”
…ドクン、ドクン…
《本来のアレ》とは、何なんだ?と、不穏な話を聞き、動揺するオブシディアンとフウライ。
サクラを見ている限り、不器用な性格な為、彼にとって社会生活を送る事には厳しいだろうくらいに思っていたが。
確かにサクラは冷淡で冷酷な所はあるが、それでも常識は弁えているし少なからず思いやりも無いわけではない。
だから、気に入らない相手がいたら即殺すなどどうしても考えづらい。
“つまり、ショウがとんでもないデブになったのも、ショウとリュウキの間に親子の溝ができたのも全てサクラの計画だ。ショウが自分だけ見るように仕向けたんだ。
アレはショウに誠心誠意尽し世話をする事が生き甲斐だ。ショウが幸せで笑顔でいられる事が最も優先すべき事だ。一方でショウに対する執着や願望、欲望も半端なくて貪欲だ。
ショウの為、自分の欲のためなら手段は選ばねーぞ、アレは。
だけどな。軽薄で冷淡だし人として色々と欠けてる所が多く感じるだろうが。実はそれでも、アレはまともにしっかりと人の道を生きている。
それがオレ様にとって驚きでしかない。なんで、アレがこんなにまともになってるんだってな。
だって、考えてもみろ。素はオレ様の捨てた感情の一部だって事を。他の感情なんてなかったんだぞ?
時間をかけて、色んな社会勉強を経て様々な別の感情が芽生えてきたんだろうが。それにしたってだ。あの、あまりに偏り過ぎた感情を持つアレが真っ当な人の心や感情を持つなんてある訳がない。
だが、しっかりと一人の人として成り立っている。驚くしかないだろ。
けど、その理由が分かった。
もしもの世界でオレ様は、アレの辿ってきた環境を体験して感じた。
本来のアレはほぼ90%の確率で、ショウの為だけに生きる悪魔・大魔王、あるいはバーサーカーになってた。
突かなければ大丈夫だが、ほんの少しでも突つけばスズメバチの様に凶暴化して死ぬまで襲ってくるとんでもねーモンになってたはずだった。
後の7%は、理性なんて皆無でひたすらに、ショウを崇拝し崇め、そのくせ己の愛欲をショウに注ぐだけの変態、狂人。
残りの3%は予測不能。そんな感じか。
だが、驚くべき事にそうはならなかった。これは、マジで奇跡としか言いようがない。
特にアレが、人になれた理由としてお婆とリュウキの存在が大きかった。
あの二人が居なければ、サクラはこんな真っ当な人になれなかったとハッキリ言える。”
『…しかし、内容が内容だ。ショウ姫に聞かれたくなくてテレパシーで、俺達に話したんだろうが…ショウ姫に聞かれてるという心配はないか?』
と、心配するフウライに
“ああ、そこは全く問題ない。だって、ショウは心の底から望まなきゃ、何にもできないからさ。一応だけど、ショウの【それ】は本気と心の底からとは別と思っていい。
だから、ショウが本気で望んでも願っても何もできねーよ。”
聞いていると、ショウの能力は発動条件がとても複雑らしい事が分かる。
“だから、ショウは自由自在には扱えない。と、言うより、まず自分で自分の能力が分かってねー。だけど、それでいい。そうじゃなきゃ駄目なんだよ。”
何か、複雑な事情がありそうだ。話の流れから察するに、ショウの能力を知った者がショウを使って悪用する可能性。
そして、ショウ自身が調子に乗っておかしな事をしてしまう恐れがあるのかもしれない。と、オブシディアンとフウライは、ほぼ似たような推測をしていた。
それを察したダリアは、マジで優秀だなと二人に感心していた。
“それは、ショウの天守と生みの親、創造主だけが知ってればいい。それ以外みんな知ってはいけない、ショウを含めて、な。
あと、ショウが無理矢理、心の底から望もうたってできねーからな。”
なんて、軽い調子で言っていたが…それは、とても重大で危険な事ではないのか?
と、フウライはショウに何らかの危険性を感じていた。…どこからどう見ても、とてもとても太り過ぎたちょっとオツムの足りない普通の子供にしか見えないがと、どうしても気になりショウをチラチラ見てしまった。
フウライの様子にダリアは、自分がフウライの立場であったら自分も似た様な事を思ってただろうなと苦笑いする。
一方でフウライの視線を感じとったショウは、都合悪そうに下を俯いていた。
“…ショウ、大丈夫だ。アイツは、ショウの事を悪く思ってる訳じゃないよ。ちょっと、人見知りな恥ずかしがり屋さんなだけなんだ。気にしなくていい。”
と、いち早くショウの異変に気づき、ダリアはショウを慰めつつフウライをフォローした。
人見知りの恥ずかしがり屋ってのは…ちょっと不服だが、ショウに不快感を与えるよりマシかとフウライは思う事にした。
そして、「良かった。(てっきり、私がおでぶでブスで気持ち悪いって思われてるのかと思った)」と、ショウが安心したところでダリアは、二人だけに再びテレパシーを送る。
その間に、器用にショウと普通に会話を楽しんでるのだから驚く。どこに意識を持ち、二つ同時に事を進めているのか不思議だ。
もはや、驚きを通り越してそんな事までできてしまうのかと感心するばかりだ。
“忠告しておくからな。ショウを心の底から失望或いは絶望させんなよ?
だから、アレとロゼは、本気でマズイと思った時にはショウにソレを見せなかったり、話をはぐらかす、聞かせないといった具合に回避してる筈だぜ?”
そこでオブシディアンは、思い当たる節があったのか心の中で『…なるほど。』と、妙に納得していた。