イケメン従者とおぶた姫。
ダリアは、ショウに言った。

“最後に、オレ様の事【アイビー】って…呼んでくれねーか?”

「…最後?」

何が最後なのだろうか?よく分からず、キョトンとしているショウに、ダリアは再度

“【アイビー】って、呼んで?”

そうお願いされたので、ショウはよく分からないままその名前で呼んでみた。

「アイビー。」

すると、紫色の光の玉(ダリア)は、小刻みにフルフルと震えていて…まるで、感動のあまり心の底から喜びを感じているように見えた。

“さよならだ。”

そう言って、ダリアはショウの額にピトッとくっ付くと

“…今まで、ごめんな。そして、ありがとう。
永遠に愛してる、オレ様のミア。”

そう言って、ダリアはショウの記憶から自分の記憶を全て消した。

その瞬間、ショウはスゥ〜っと心地良さそうに眠りについた。その巨体がベットに倒れそうになるのを事前に近くで構えていたオブシディアンは支えソッとベットに寝かせた。

“…ワリーな。”

そう、ダリアはオブシディアンに申し訳なさそうにお礼を言った。本当なら、その役目は自分がやりたかったが生憎、今のダリアにはそれを支えられる体はないのだ。

紫色の光の玉(ダリア)は、何色にも染まっていないとてもとても小さな玉を大事そうに包み込むと

“じゃあな、オレ様のミア。オレ様の記憶からミアが消えようと、いつだってオレ様は遠くからお前の幸せを祈ってる。幸せになれ、ミア。”

と、言い残し、ショウの胸にポッカリ空いた不思議な空間の中へと入っていった。

紫ともう一つの玉がその中に入ると、自然とその空間は閉じていつものショウに戻った。

これで、ショウが目覚めた時にはショウから“キキョウ(ダリア)”は記憶の中から消える。

それを神妙な面持ちで、オブシディアンとフウライは最後まで見守っていた。

その報告を無事リュウキへ伝え、ダリアの件は無事に解決し幕を閉じた。


ーーー


ダリアがパラレルワールドへ行ったという報告を受け、未知なる話なので色々と不安はあるものの解決した事には変わりないので少し安堵したリュウキ。

しかし、こちらはまだ解決には程遠い話ばかりで頭が痛くなる。だが、サクラの話を聞いていてふと思った。

サクラは魔導より波動が得意。それは知っていたが何せ、波動を扱える者の多くは波紋王国に限られている為波動について知識で知っているつもりだが、こちらの王国ではサクラしか使えないし、波紋王国の訓練所で少し見学した事がある程度なので実際に波動を見る機会がさほどなかった。

だが、その知識だけでリュウキはサクラに鎌をかけてみる。

「なるほどな。波動の力で空気や光などの振動で部屋の内部を探り、自分が知りたい情報の集まる場所を特定して音を拾い情報を得ていたんだな。」

と、内心では、まあ、ミッション系のアクション映画ではあるまいし、
そんな特殊な機械装置みたいな事などできないかと苦笑いしつつ、表面上では真面目な顔を装って確信めいた風に言ってみた。すると

「…チッ!分かってんなら、そんな事いちいち確認してくんじゃねー。うぜー。」

なんて、イライラしながら、さも当たり前かのようにサクラは答えたのだが…表情や態度には出さなかったがリュウキは驚きで思わず大きな声で叫びたい気持ちになっていた。

…驚いた…

洞窟や建物内の構造や生き物の有無、人数の把握などできる能力があるとは書物で調べ知識として知っていたが…

現在一人だけ、波動使いで経験や相当な知識量を持った者がおり、
その者は建物内や洞窟などあらゆる場所において細部まで空間を把握し、そこに居る人数や種族、そこに居る個々の強さや能力まで探知・感知できると信じがたい報告を受けていた。

その能力を持っている者こそ

現在の特S波動士。

会った事はないが、その者は冒険者としてその能力をフルに活用し大活躍しているのだとか。

探知魔導の場合は使える者の報告は過去も現在も今だにない。だが、そんな特殊魔導があってもおかしくない。

しかし、報告されてないだけで実はそんな特殊魔導を使える者は身近にいた。ダリアである。逆に奴に使えない魔導などあるのか知りたくなるくらいのチートな男である。…もう、この世界にはいない存在だが。

もしかしたら、ロゼやフウライも使える可能性も否定できない。今度、聞いてみるか。

実は、リュウキも前々世が全ての水を司っていたので、ありとあらゆる水や原子から情報を集める能力を持っていた。なので、ありとあらゆる場所で全てにおいて実際にその場で見聞きしているような状態だ。
だが、その膨大な情報量さえもその時のリュウキは即座に整理・処理する事など朝飯前だった。

なので波動や探索魔導とは違えど、似たような能力を持っていた時期があったので何となくその経験を交えて言ってみただけなのだが…。

どうやら、サクラは幼くして高等な波動を使いこなしていた様だ。


「しかし、サクラが聞いたという“養分”気になるな。養分について、他に知っている事があれば教えてほしいんだが。」

と、リュウキはサクラに聞くと

「あ〜〜っ!メンドクセーッ!!」

なんて、苛ついて頭をワシワシ掻きながらも、何だかんだ悪態は吐きながらも防音波動を施してくれてるサクラにリュウキは、少しだけ可愛く思った…が、それは気のせいだと思いたい。

そして、重要な話と判断した瞬間から即座に防音魔導を掛けたロゼにも感謝だ。二重の強大な防音効果が発動しているので安心して、ここに来てからずっと重要な話を堂々と話せているのだから。


「幼少期の話だから覚えてる事は少ない。ただ、俺が覚えているのは一般的に公表されてる話とごく一部の奴らの話では、話の内容が全く違っているという事だ。」

「…い、いきなり難しい話になったね。」

と、サクラの話にもうついていけなそうなハナは、もうなんの話やらでポケーとしはじめていた。それを息子のルナは、オモシレー顔と自分の母親を笑っている。

緊張感走る話のはずが、この二人のおかげか少しだけ雰囲気が和らいでいた。


「一般的には、“あまりに膨大な魔力を持った子供は将来、世界を破滅させる悪魔になるだろう。それを阻止する為に、政府に引き渡さなければならない。”と、されているが
何の上層部かは分からないが、一部の権力と力を持った奴らの話では

“精霊王を封じている今、世界の秩序が乱れ精霊の星は消滅してしまう。だから、養分が必要だ。世界を維持する為に、膨大な魔力量を持つ子供達を集め魔力量が安定した時期にその魔力を星に注ぎ込めばいい。”

そんな話をしていたな。」


と、何とも恐ろしい話をしてきた。

そもそも…


「…精霊王を封じた?…何故…?」

思わず、シープはサクラに問いかけた。


「あんまり覚えてないが、何でも精霊王と精霊王のお友達達は一番偉いから仕事しなくていいし、人間関係のしがらみもない。それどころか精霊王ってだけでみんなから崇められ、好き放題、贅沢放題、遊び放題でも誰にも何も言われない所か、何やっても許される存在なんだとよ。やめらんねー、俺らスッゲー勝ち組じゃん!とか何とか言って笑ってた気がする。」

と、サクラ自身そんな奴らの為に星の養分にされんのかよって胸糞過ぎて鮮明に覚えてた一部を話した。その話を聞き、みんな更に忌ま忌ましい気持ちになる。

そいつらの自堕落な生活の為だけに、多くの未来ある子供達が犠牲になっているというのか!と。

「…しかし、本物の精霊王はどこに封じられているんだ?」

「そこまでは知らない。」

「精霊王のいう“世界の破滅を防ぐ宝”とは何だ?」

「今の流れで、大方お前も感じているだろうが多分“ソレ”で間違いないかもな。俺は“宝”だの何だの聞かなかったが

“無限に湧き出る魔力量の女”は消えてしまった!アレが居なければ、マジで世界はヤバイ事になるぞ!”

“他の秀でた魔力量持ち達を使って、どのくらい持つか分からない。”

“そうなれば、本物の封印を解かなければならない!俺たちのこの生活を壊されたくない!だから、それだけはギリギリまで何とか阻止したい。”

“だから、探せ!何としてでも、あの魔力が永遠と溢れ出てくる女を探せっ!”

って、会話は聞いた事はあったな。多分、奴らのいう“宝”はソレの事だろう。」

その言葉にリュウキは妻のアクアを思い胸がギュッと苦しくなり、同時にアクアをそんな目にあわせた奴らに対し復讐心から腹の底からドロドロメラメラと怒りや憎悪が渦巻いていた。絶対に許さない。

「そもそも、どういった経緯があってサクラはそこを抜け出す事ができたんだ?」

「…何度も逃げようとしては失敗して、余計な感情を与えられないという事で罰などはなかったが、その失敗から、俺は入念に計画を練ってそれを実行してここに来た。
逃げる途中で大きな誤算やトラブルも多々あったが…」

と、言ったところで都合悪そうにチラッとリュウキを見ると「…チッ!」と、何故か舌打ちされ

「……最終的に何とかなった。」

なんて言った所をみると、色々と危なっかしい場面や思いもよらない出来事。様々において紙一重で、逃げ出す事ができたのだろうと予測できた。

最後の“最終的に何とかなった”は、リュウキに出会えた事を言っているのだろう。

当時のサクラは、自分一人で何とかできると考えていたのだろう。
恐れを知らない子供の考えだ。自分ではよく考えたつもりでも逃げる算段も不十分。目的までたどり着いたとして、それからどうするのかまではあやふやだったに違いない。

それは置いておいて、答えなければ解放されなそうだったのでサクラは何度もため息を吐きながら嫌々に答えた。

その詳細が知りたいのだがなとリュウキは思ったが、ショウが居ないにも関わらずここまで喋ってくれただけでも大きな収穫だ。

これで、今まで違和感しか感じなかった精霊王やアクアの謎が大分解き明かされてきた。

おそらく、少なからず今後ショウに関わってくる事だろうと考え仕方なく答えただけなのが丸分かりだ。

でなければ、無視を決め込むかその場を立ち去っていたであろう。

そしてダリアの件が終わった事で、サクラ達が待ちに待ったショウとの数時間ぶりの再会である。リュウキが行っていいと声を掛けた瞬間にロゼのワープにより二人は消えてしまった。

ロゼはダリアに大分魔力を吸い取られてグッタリしていた筈なのに無理してワープを使ったようだ。宿も直ぐそこだから、歩いて5分程度で着くというのに。そこまでして、直ぐに会いたいか。やれやれ…と思うリュウキだが、無意識に自然と急足で宿に向かっていた。

ルナは、何も言わず別の宿に置いて来てしまった婚約者のチヨを迎えに行き、ハナとシープは、急ぎ足のリュウキの後に続いて歩いていた。


ーーー

その頃、ゴウランとタイジュはヨウコウから許可を得て、タイジュからショウに会ってみたいという要望を叶える為ショウ達のいる宿へ向かっていた。

二人がショウ達の宿に向かっている途中、ゴウランの頭の中にオブシディアンの声が響いてきた。

『ゴウラン、“君達”はボク達のいる近くまで来ているようだけど早急に確認しておきたい事があってね。
色々と事情が変わってね。急だけど、ショウ様とサクラ、シープ、ボクの4人は君達のチームから抜ける事になった。』

なんて、いきなり言われてパニックになるゴウラン。

「…は?え?…なんで、いきなり?」

混乱しているゴウランに

「…どうした?大丈夫か?」

と、心配そうにタイジュがゴウランの顔を覗き込んできた。

「…あ、いや。なんか、ちょっと…俺にもよく分からないが、俺の先生からテレパシーっていうのか?先生の声が、俺の頭に響いてきててさ。」

ゴウランが、そう説明するとタイジュはそれだけでゴウランの先生は只者じゃないという確信できた。どのくらい凄いのかは分からないが。

テレパシーという事は、特殊魔導か風魔導の類を得意とする人なのだろうかと目処をつけていた。

「テレパシーで話し掛けるって事は、よっぽど大事な話なはずだ。俺の事はあんまり気にしないで先生と話してくれ。」

というタイジュの配慮に、お礼を言い

『この事は極秘で本来なら、君は知らなくていい事なんだけど。ショウ様が、召喚士として開花した。』

「…は???ショウがーームグッ!!?」

『…君も、いちいち騒がしいね。ちょっと、お口チャックね。』

と、ゴウランは空気の圧のようなもので口を塞がれてしまった。

『今は頭の中だけで伝わるようにしてるから。言いたい事があったら頭の中で言ってね。
だけど、ショウ様の召喚従は何処かに封印されている上に場所も特定できていない。
だから、ショウ様の召喚従を見つける為の旅に出る事になったんだよ。』

「(…ちょっと、話についていけないんだけど…!)」

『ボクは、ショウ様直属の護衛の様なものだからショウ様についていくだけだけどゴウランは違う。君には選択肢がある。』

「(…せ、選択肢?)」

『そう。一つは、このままヨウコウ王子達と旅を続ける事。もう一つは、ボクの弟子としてショウ様の旅に着いてくる事。』

「(いきなり、そんな選択肢迫られても…!)」

『そうだろうね。だけど、こちらは事情があって一刻を争う。ここは、ゴウラン君にとって大きな分岐点になると思う。

ヨウコウ王子達と旅を続けるのであれば今まで通り、本来の道筋に沿った人生を送るだろう。

ボクの弟子として、ショウ様と旅をするのであれば命の保証はない。』

「(…は???い、命の保証がないって…いや、でも、今までの旅だってそうだっただろ!何が違うっていうんだ?)」

『比べる規模が全く違うと断言できる。今までの生温い旅とは全然違う…何とは詳しく言えないけど色々と桁外れだって事だよ。
そして、命の保証がないって言ったのは、ショウ様の危機とあらばボクは簡単に君を切り捨てショウ様を選ぶって事だよ。』

「(……意味が、さっぱり分からない。)」

ゴウランは思った。(サクラ達が来る前)今までだって命懸けの厳しい旅をしてきたつもりだったが、今までの旅が生温いと思える程であのオブシディアンが桁外れという、命の保証がないという。

と、いう事はオブシディアンでさえ身の危険を感じる程だという解釈で間違えていないはず。
何か起きても、ゴウランをフォロー或いは助ける事ができないほど余裕のない旅なのだろう。

ゴウランは、思わずゴクリと生唾を飲み下した。

『この件に関しては、ごく一部の人達しか知らない。だから、今の君には詳しく説明する事ができないんだよね。
申し訳ないけど、その中で君は判断しなければならない。』


ここで、ゴウランは考えた。

このまま、ヨウコウ王子達と旅を続けると今までと変わらない日々が待っている。
自分の親はなかなかに高い地位に就いてるし、母親も伯爵出身の貴族。

自分はヨウコウ王子のお友達役なのでそれだけで色々と優遇される立場だ。それに両親のコネもあるので、将来ある程度いい役職に就けるのは約束されたも同然である。
このままヨウコウについていけば、いい暮らしもできて、いい役職も与えられ、見た目にも自信はあるし金にも困らないので女も選び放題、遊び放題だろう。

…だが、それでいいのか?と自問自答している自分もいる。ここで、悩むなんて贅沢な話なのだろうが…。

旅をする前は、こんな事は考えなかった。思いもしなかったと思う。だけど…旅を続けている内に色々あり自分は変わりたいと思った。
だから、恥を承知でオブシディアンに弟子入りを願い出たのだ。

けど、確実に保証された未来と、何の保証もない命の保証さえない未知なる世界。

これは、絶対的に前者を選ぶべきだ。

オブシディアンに今すぐに答えを出せと性急に迫られパニック状態ではあるが、ここで間違えたら今後自分の人生に大きく関わってくる事だけは分かる。


「(…オブシディアン、俺は……ーーー)」


ゴウランの答えが出た所で、ゴウランとタイジュはショウ達のいる宿へと向かって行った。

その時だった。

ゴウランとタイジュの携帯が同時に鳴った。しかも、この着信音或いはバイブ機能は城からの緊急連絡だ。

二人は顔を見合わせて頷くと、同時に携帯のメッセージを開いた。

すると

【《至急》レッカチーム、ギョウコウチーム、コウチーム、ヒサメチーム、スティーブンソンチーム、ソウチーム、サイウンチーム、ヨウコウチームは、ディヴェル城に集まる事。】

と、きた。


「…あ、俺のチームは載ってないな。けど、このチームの面々って…!
いや、でもこの中に、スティーブンソン殿と、コウ姫がいるってのは…チーム内の誰かに問題があるパターンかな?」

タイジュが、城からのメッセージを読みもしかしたらとおおよその検討をつけていた。

「…なんか、このメンバー達って…」

城に呼ばれたメンバーを見て、何となく嫌な予感がしたゴウラン。

と、二人が少し考えていたら連絡がきて5分もしないうちに、顔を隠した黒づくめの人間が

『ゴウラン殿ですね。王からの命により、無事にディヴェル城まで送り届けるよう仰せつかりましたので迎えに参りました。』

そう言って、自分が商工王国の兵だという身分証明書を見せるとゴウランを移動用の魔獣車に乗るよう促したのだった。

飼い慣らされた三匹の魔獣の首輪とキャリッジにも商工王国の紋章がついているので間違いなさそうだ。

しかし、こんな問題がありそうなチームだけが一度に呼ばれるなんて…不安しかない。

タイジュも、せっかくできたばかりの友達を心配そうに見送った。


「…なんか、ヤバそうだな。それに、末っ子がどんな奴か会えるのを楽しみにしてたんだけど…それどころじゃなくなってしまったな。」

と、ゴウランを乗せた空飛ぶ魔獣車が見えなくなるまで見送り、新しくできた友を心配した。

「本当、大丈夫かな?」
< 114 / 125 >

この作品をシェア

pagetop