イケメン従者とおぶた姫。
新たな出発。
ディヴェル城へ着いてゴウランは驚いた。
街全体が超巨大型遊園地。城は目立つようにその中心にあり、どういう仕組みか空に浮き雲の上の城が建っているかの様に見える。
だからなのか、城も超巨大型遊園地に欠かせない夢のある外観となっていた。とても素敵な演出である。
そして、案内人の誘導でディヴェル城の会議室へ案内され、用意してあったゴウランの席へと招待された。
自分の席の順番は、ヨウコウ、ゴウラン、ミオ、ミミとなっておりショウ達の姿は見えなかった。席の順番は、チームのリーダーの歳の順で決められているようだ。そして、地位の高さでチーム内の順番も決まっていた。
ヨウコウは「一体、何なのだろうか?」と、ゴウランに聞いてきた。しかし、ヨウコウに嫌気の差しているゴウランだがその気持ちを何とか抑えいつも通りを装いヨウコウに話を合わせ当たり障りのない返事を返していた。
チラッと自分の他のメンバーを見るとミオは緊張した面持ちで姿勢正しく座っており、これから何が始まるのかと色々考えているようだった。
ミミは、いかにも性格のいい女性を演じているが、ミミの本性を知っている自分とミオから見れば、ミミが心の中でいい男がいっぱいいる!誰を落とそうかな?と、ウキウキソワソワしているのが見え見えである。…怖い、怖い…こういう奴には関わらないのが一番だ。
そして、みんなが揃った所で聞き慣れた豪快な笑い声と共に、聖騎士団長ハナと高位魔導服を纏いフードを深く被った人物もハナのすぐ後ろに着いてきていた。
その二人が、テーブルの議長席に座った。
「さて、始めるか!知ってる奴は知ってると思うが一応、挨拶しておく。
私は商工王国聖騎士団長のハナだ。そして、私の隣にいるのが副騎士団長のフウライ。」
と、紹介があった所で少し騒つく声もあった。旅を始めて重要な事があった時、聖騎士団長のハナが来る事はあれど副騎士団長が来る事なんてなかったのだから。一部、会った事のあるチームもいるようではあるが。
「何となく察している奴もいるだろうが、今、集まってもらったチームはメンバーの人数が足りていないチームだ。何かかしらの理由ででメンバーの追放・離脱・リタイアがあった為だ。」
その内容に対し、チーム内でヒソヒソ喋る者達や何かに耐えるようグッと唇を噛みハナを見る者、怠そうにしている者、目が泳いでいる者など反応は様々だ。
「旅も後半に突入し、更に厳しい旅となるのは見えている。そこで、メンバーが足りてないチームはどうしても不利になるから、命の危険性も大きく高まるんだよ。
だから、メンバーの編成と人数の足りないチームには新しいメンバーを入れようという事に決まった。」
と、言うハナの言葉にヨウコウ達は疑問が湧く。…あれ?自分達はメンバーなんて欠けてないし、特別だから他のチームより人数が多いんだけど???そう考え、疑問に思っていたのだが…
ヨウコウ達の脳裏に、ふとビーストキングダムでショウを置き去りにして行動していた自分達の過去がよぎった。
そういえばだが、今気付いたがショウ達の姿が見えない。やはり、その事と何か関係あるのかもしれないとヨウコウ達は考えていた。
「我々はお前達の今までのチーム内での様子や言動・動向、相性などをおおよそではあるが把握し、その上でこちらでチーム編制をし決定したから、新しく編制また新たに加わるメンバーを発表する。そして、中にはメンバー変えする者達もいるが異論は認めないぞ。」
と、いうハナの言葉に
「…え!?こちらの意見も聞かずにですか!?」
いきなり、こんな決定事項を伝えられ、思わず誰かが口に出してしまっていた。
「組織とはそういうものだ。あまり言いたくは無いが、上司の命令は絶対。口答えなんて言語道断。軍人なら尚更だ。あくまで、滅多な事がない限りだが。」
と、少々厳しめに注意した。
「我々は常に命と隣り合わせにいる。だから、確かに仲間との絆は大事だ。だが、馴れ合いだけで人々の安全や命は守れないぞ?
それに、お前達の殆どは自分の仲間達と上手くいかずチーム内に亀裂が入り、仲間達が離脱、仲間を追放したんじゃないのか?」
そう、指摘され少し顔色が変わった者達も多くいた。
「それに、どうしたって相性というものもあるだろうし。そこは、どうしようもない。」
と、した上で
「では、新しいチームを発表する。」
の声に、みんなドキドキしてハナの言葉を待つ。
「不公平がないように、実力とか関係なく単純にリーダーの年齢順でチームを発表するよ。
まず、レッカチームな。ここは、大体の奴は知ってると思うが、レッカが馬鹿やって国の恥さらしになったもんでね。レッカというリーダーが抜けた。しかし、そこに丁度、サイウン姫と相性の悪かったサイウンチームメンバーが一度にみんな脱退しちゃったからね。
“リーダーが抜けた”レッカチーム。
“リーダーしか残らなかった”サイウン姫チーム。
ここは、単純にレッカと入れ替わる形でサイウンをリーダーにすれば良いんじゃないかって事になってね。
だから、レッカチームはこれから“サイウンチーム”とする。」
そして、サイウンは紹介されたレッカチームを品定めする様に見ると
「……ゲロ最悪!まともなのが誰一人いないじゃん。」
と、ゴミクズでも見るかのように、あからさまな嫌悪を見せてきた。
清楚系美人がギャル化した様な容姿のサイウンのこの態度に、新生サイウンチームのみんなはカチンときていた。だが、サイウンは姫…ムカつくのを抑えて軽い挨拶をした。
だが、サイウンはそれを無視。サイウンの態度に、新生サイウンチームのユコ達は“なに、コイツ!初対面から、めちゃくちゃ態度悪い!!”と、怒り心頭だった。…が、護衛と一般人専用用心棒の男性陣二人はサイウンの美貌と露出の多いセクシーファッションにやられてデレデレだった。
そんな二人に、ユコはイラッとしている。既に先行き不安である。
「暁紅王子(ぎょうこう)チームだが、ギョウコウの一般人がギブアップしちゃってね。そこで、コウ姫チームの一般人であるサラを入れる。
コウ姫の所も色々あってね。一般人のサラ以外、離脱してしまったんだよ。」
それには、驚く面々が多かった。何故なら、完全無欠と思われたコウ姫の離脱。だが、コウ姫は敵とみなした者に容赦がない冷酷非道の戦場好きと聞く。もしかしたら、旅に飽きて戦場に戻ったのかもしれないとそれぞれ勝手な想像をしていた。
しかし、ギョウコウはおっとりのほほんとしていて少しぼんやりしている為、頼りなさそうな綺麗系イケメンだ。
そのせいか、護衛と一般人専用用心棒は自分達がしっかりせねば!という強い気持ちからか、結束力がありキリリっとしていて頼りになりそうだ。
そこに、お節介大好きセクシー美女のサラが一般枠でギョウコウチームの仲間になる。なんだか相性が良さそうに思える。
「氷雨(ひさめ)姫チームは、護衛と一般人専用用心棒が大怪我を負い泣く泣く旅を辞退した。よって、二人が復帰するまでの間だけ護衛と一般人専用用心棒をつける事となった。」
ヒサメは、とても冷たくジメジメ暗いイメージの美女。美女ではあるが…何だか黒魔術とか呪いとかやってそうな感じで関わると呪われそうで怖い。あまりに暗いので、負の力や不幸を呼び護衛や一般人専用用心棒が大怪我でしばらく旅ができないのではないかと勝手な妄想が止まらない。
「次に、スティーブンソンチームだが。
護衛がスティーブンソンの強さや志の規模のデカさに圧倒されちまったらしい。そして、自分は護衛にも関わらずスティーブンソンに頼りっきりになってしまっている、自分の存在価値がないと挫折しちまってね。
できれば、ずっと一緒に旅をしたかったが自分ではスティーブンソンの足を引っ張ると辞退。
だが、そんな時にソウチーム護衛のルンが、スティーブンソンの志や強さに惹かれて、是非ともスティーブンソンの護衛に付きたいって駄々をこねてな。こっちも、そんな我儘は許さないと言ってはいたんだが、スケールの大きいスティーブンソンに萎縮してしまって着いていける奴はなかなか居ないのも事実だし、スティーブンソンに着いて行きたいと言うルンは奇特な存在。
だから、スティーブンソンチームの護衛としてルンに入ってもらう事になった。」
スティーブンソンは、身体はプロレスラーの様に大きく強そうである。それでいて、ずっと笑顔を絶やさずおおらかで寛大な心の持ち主に思える。ルンは、スティーブンソンチームに入れる事をとても喜んでいて大はしゃぎである。
「ソウ王子チームに関しては、護衛のルンが抜けるという事で新しく護衛を付ける事となった。」
と、治癒魔法を得意とする魔法使いが着る、白の女性用魔法衣を着た癒し系美女が小さく頭を下げて柔らかな微笑みを浮かべていた。まるで、聖女様を見ている様な気持ちになる。だが、護衛と言うからには、戦える治癒魔法使いなのだろう。
「そして、ヨウコウ王子チームだが、ここはちょいと複雑な事になっていてね。
急だが、一般人のショウがヨウコウチームを抜ける事となった。」
そうハナが言った途端に、ヨウコウとミオ、ミミはかなり驚いていたものの直ぐに内心ガッツポーズをしていた。
役立たずで厄介、邪魔でしかなかったショウが自分達のチームから抜ける事実に三人とも嬉しくなってパァッと明るい表情になった。しかし、自然と出る喜びの笑みを堪えるのが大変そうだ。
そんな三人の様子を見て、何故喜んでいるのかおおかたの想像のつくゴウランは、ミオまでも喜んでいた事に少し驚いてしまった。
「だから、もちろんだがショウの従者や配下の者達…つまりは、サクラ、ロゼ、オブシディアン、シープもチームを抜ける。」
そこで、ヨウコウ達は少し冷水を被った気持ちになった。
…サクラ達は、かなり物凄く苦手だが化け物級の力を持っているので安全面だけは安心して旅ができた。だが、そんな彼らが居なくなるという事は…何だか急に不安になってきた。
「そして、オブシディアンの弟子になったゴウランもヨウコウチームから抜け、ヨウコウの友達役からも外れる事となった。」
と、言うハナの言葉に
「…な、何を言っているんですか?余のチームの護衛であるゴウランが抜けたら、一体誰が護衛をやるというのですか?
それに、余はゴウランから何も聞いていない!?」
ヨウコウは、酷く取り乱し椅子から立ち上がるとハナに抗議した。そして、何故黙ってたんだと裏切られた様な表情でゴウランを見下ろしてきた。
そんなヨウコウを見て、ゴウランも今まで友達として一緒にいたのだから話すべきだったと申し訳ない気持ちになったが。
直ぐに、ヨウコウの裏切り行為を思い出した。
そして、ゴウランが自分を見直すべく、その事をヨウコウやミオに対して“このままではいけない!何度か一緒にトレーニングや勉強をしよう”と、説得しても
ミオは“自分を見直す事はいい事だけど、それは勝手にやって。あなたと一緒だと私の質が落ちてしまうから。それに、私には私のやり方や考えがあるの。私を巻き込まないでくれる?”と、興味がないとばかりに、これ以上話しかけないでという雰囲気をバンバン出しながら去って行った。
ヨウコウの場合は“何を馬鹿な事を言っているんだ?命懸けのハードな旅をしているんだ。そんな暇があったら休める時に休まなくては体がもたないぞ?
力や戦闘に対する知識などは、旅をしている内に自ずとついてくる。少し前まではお前だって、そう言っていただろう。学校からの課題だって上手い事理由をつければ免除してくれてる。それで、いいじゃないか。”と、自分の考えは正しい。お前の言っている事はおかしいとゴウランを全否定してきた。
そんな日々が続くと、ゴウランに対するヨウコウの態度は変わってくる。
ゴウランが一緒に遊んでくれない、付き合いが悪いと不貞腐れて、ヨウコウが何処か行くにも何も声を掛ける事もなくミミと一緒に遊びに行くようになっていった。
それからは、お互いぎこちない関係になっていった。だが、それでも裏切られはしたが今までの友達役としての情があったのでケジメとして、ゴウランからオブシディアンとの関係や今後の話をしようとヨウコウに声を掛けるも無視されるばかりで話もさせてもらえなかったのだ。
だから、直接聞いてもらえないなら仕方ないと事情や自分の気持ちなどを綴ったメッセージをヨウコウの携帯に送信したはずだ。
今の様子を見る限り、メッセージを見てないかだいだいの予想がついてウザくてメッセージも見ないまま削除したか…そんなあたりだろう。
ヨウコウは表向きはゴウランといい友達を演じて、裏ではミミと一緒になってゴウランの事を散々悪く言ってるのも知っている。
…色々あって最近知った事ではあるが、それに気付けず少し前までヨウコウの事を友達だと疑わず信じていた自分が恥ずかしい。
話も聞いてくれなかったくせに、聞いてないとヨウコウに怒りをあらわにされゴウランは心が冷えていくのを感じていた。
そんなヨウコウを冷えた目で見てしまっている自分に気付かず、それでも理不尽だろうが何だろうが逆らう事の許されない立場のゴウランは、王子であるヨウコウに心にもないが謝らなければと口を開きかけた時
「あー、ヨウコウ王子。違う、違う!」
と、ハナは、アハハと笑いながら二人の会話に割って入ってきた。
水をさされる形でゴウランとの会話を中断させられ、ヨウコウはイライラが収まらないまま、キッとゴウランをキツくひと睨みしてからハナの方を向いた。
「この話が決まったのは、ついさっきだ。
上層部の方で少々問題が起きてね。この話も、ゴウランに考える時間も与えず、今直ぐに答えろと急かした。もし、お前が責めるとしたら我々上層部を責めているという判断になるが?」
と、言うハナにまだ納得のいってないヨウコウは「…ですが!」なんて、聞き分けがないので
「黙って聞けないのか?今は、騎士団長直々に話している。今のお前如きが、軽々しく話せる相手ではない。身の程を知れ、無礼にも程がある!」
それまで、ハナの横で黙って静観していた副騎士団長フウライは、ヨウコウの出過ぎた態度に一喝した。
その冷たい声と、フウライの醸し出す厳正かつ厳格なオーラに場の雰囲気は一気にピリリ…と冷たく凍りついた。
ここで、みんな思う事は同じ。
ヨウコウ王子のせいで、場の雰囲気が重苦しいし緊張感が半端なくなってしまったじゃないか!どうしてくれるんだ!!
そんな感じだ。現に、さっきまで態度悪くだらしない感じに座っていたルンやサイウンまでも、この雰囲気に恐怖して背筋までピンと伸ばし俯いてしまっているくらいなのだから。
フウライに雷を落とされ、一気にギュンと気持ちと肝が縮まったヨウコウは
「…はい、すみませんでした。」
と、小さく消え入りそうな声で謝り大人しく席に座った。見れば、フウライの威圧感に耐えきれず顔は青ざめ体は小刻みに震え萎縮してしまっている。
周りを見ても、先程までデカい態度をとっていた面々もヨウコウ同様、態度が一変していた。
「…あ、いやぁ〜。私はーー」
と、この重苦しい雰囲気に耐えきれずハナは、もっと気を楽にしていいと言いそうになった所に、直ぐ横から鋭い視線が突き刺さり言いかけた言葉がヒュッと引っ込んだ。
『これでいい。お前はもっと威厳を持て。だから、コイツらに舐められるんだ。』と、わざわざテレパシーでフウライに説教されるハナだった。そんな、恐ろしい鬼の様な副騎士団に見張られながら、ハナは話を続けた。
…いつも説教ばかりしてくるし、おっかないから、こういう場にフウライを連れて来たくないんだよねぇ
と、ハナは苦笑いしながら
「“定期的に”、チームの安否確認の為に兵にお前達の様子を見に行かせて報告してもらってるんだがね。その中の報告に、ゴウランは大事な話があるとヨウコウ王子に何度も声を掛けていたが、それを無視して遊びに行ったりミミと仲良く乳繰り合ってるとあったよ。」
それを聞いて、
そんな都合の悪い所を見られてたなんて…“タイミングが悪過ぎる”
…運が悪かった…!
と、“たまたま”のタイミングで、定期的に安否確認しに来たという商工兵に見られていた事にヨウコウはなんてツいてないんだと思った。
そんなヨウコウの様子に“青いねぇ〜““ある意味ピュア過ぎるな”“…嘘だろ、コイツ!マジでそう思ってんの?馬鹿すぎね?”と、心の中で苦笑いや馬鹿にしてる者が多く居るとも知らず。
「それなのに、ゴウランを避けて話も聞かなかったお前が“ゴウランから何も聞いてない”なんてさ。自分勝手もいい所だと思うがね。違うかい?」
その言葉に、ヨウコウは羞恥でカッと赤くしますます俯いてしまった。
「それはさて置きだ。今回、ゴウランはこの旅から抜ける事になったからね。
本来なら優遇されて当たり前の事もできなくなるし、親のコネも使えない悪条件になったわけだが再度確認する。ゴウラン。」
「…は、はい!」
いきなり声を掛けられたゴウランは、まさか声を掛けられるとは思っておらずビックリして緊張のあまり姿勢正しく立ち上がってしまうし、声も上擦ってしまった。…凄く、恥ずかしい。
「お前は、このままヨウコウ達と一緒に旅を続ければ色々と優遇されるからね。将来は約束されたも同然だよ。将来安泰ってやつだ。
だが、オブシディアンの弟子になるという事は、それを全て失う事となる。
それでも、お前は地位も何もかも捨てて過酷な旅へ出るというのかい?」
と、言うハナの話に、そこに居る殆どの者達は驚きどよめきの声があがる。ヨウコウやミオも同様に、一体何を考えているのかと信じられないという顔をしてゴウランを見ている。
「きっと、想像を絶するとんでもない旅になる事だけは言える。命の保証も何もない不利だらけの旅だ。そして、そこで何かあっても真っ先に切り捨てられるのはお前だよ、ゴウラン。
それでも、オブシディアンに着いていくと言うのかい?
考え直すなら今のうちだよ?最後の私の情けだ。さあ、どっちを選ぶんだい?」
と、珍しくハナは真剣な顔をして、ジッとゴウランの回答を待つ。それくらい重要な話なのだろう。
内容が内容だけに、この場にいるみんなこんなの迷うまでもないなと思っていた。しかし
「俺は、オブシディアンに着いていきます。」
ハナが情けを掛け選ばせてくれたにも関わらずゴウランは、ハナの質問のあと直ぐにハッキリと答えたのだった。
それには、ハナとフウライさえも驚いているようで
「…いや、本当にヤバイ旅だぞ?今のうちなら引き返せるぞ?」
「少し時間をやる。しっかり、考えて決めろ。」
ハナどころか、フウライまでも焦ったように考え直せと誘導してきた。だが
「もう、決めました。俺の気持ちは変わる事はありません!」
と、真っ直ぐにハナを見てゴウランは言った。一切目線を逸らさず強い眼差しでハナを見てくるゴウランに
「分かった。ここで、ゴウランは正式にヨウコウチームから抜ける事が決定した。
そして、ヨウコウ王子チームの護衛は引き続きミオ、一般人としてミミ。そして、コイツがお前達の一般人専用用心棒となる者だ。」
と、紹介された青年は中性的な美人だった。
イケメンが来てラッキーと思うミミだったが、後々これがキッカケでミミにとって最悪な出来事になろうとはこの時は考えもしなかった。
「よし!各自、ここで解散。新チーム一丸となって旅をしてくれ。そして、ゴウランお前は、ヨウコウ達とはここでお別れだ。最後に、挨拶しておけ。」
なんて、いきなりの事だらけでパニックになるも、ゴウランは幼い頃から今までの記憶と…実は、裏切られていた事など走馬灯の様に頭の中にヨウコウとの思い出がはしり
「今まで、大変お世話になりました。」
結局、これしか言えなかった。深く頭を下げたゴウランに
「本当にな。これまで、お前に目を掛けてやった恩も忘れて余を裏切るのだな!こんな薄情な奴とは思わなかった!!」
と、いうヨウコウの言葉に、ゴウランの中の今までずっと我慢していた何かが、プツー…ンと切れた。
「…裏切った?裏切ったのは、どっちだよ!!
俺がミミの事が本気で好きだって知ってたくせに、俺がいてもお構い無しにワザと見せつけるようにイチャついたり。
俺に隠れてヤリまくっては俺の悪口言いまくってたのはどこのどいつだ!?
…今まで、ヨウコウ様の事を疑いもせず信じてきた俺の今までを返せよっ!!」
ハッと気がついた時には、ゴウランはここまで喋ってしまっていた。
本当は、まだまだ言いたい事はたくさんあるが、それは言うべきではないとグッと抑え胸の中にしまっておいた。
今まで、自分に声を荒げる事や逆らう様な真似をしてこなかったゴウランだったので、ヨウコウは驚きでポカーンとしていた。
そして、ハッと我に返ると
「…ああ、なるほどな。余とミミが仲良くしていたのが気に入らなかったのか。ゴウラン、それくらいで怒るなんてお前は小さい男だよ。
だが、安心しろ。余とミミは恋人ではない。割り切った大人の関係だ。
それに、お前を悪く言ってたのは謝ろう。すまなかったな。」
全然、心のこもっていない謝罪はこんなにも、はらわたが煮えくりかえる様な不快極まりない気持ちになるものなんだと初めて知った。
ゴウランは怒りでどうにかなりそうな気持ちを抑え、まだ言いたそうにしているヨウコウの言葉を待った。
「だが、いくら友達でも不満があったりしたら悪く言う事もあるよね。本人には言えない事だってない?それくらいも許せないというのか?」
「…いや。確かに、それなら全然許すさ。
もちろん、怒りはするし喧嘩まで発展するかもしれない。ショックを受けて凹むだろうけど。でも、友達なら仲直りできると思う。
けど、今回のヨウコウ様のケースは違う。人を嘲笑い馬鹿にする様な人を見下した悪口だ。それは、友達のする事じゃない。」
「お前が、何を言っているか分からないな。
こんなに話の分からない奴だとは思わなかったよ。確かに、お前のような友達はいらないな。
残念だけど、お前との友達関係もここまでのようだね。」
そう言って、ヨウコウは新チームを従えてゴウランの元を去って行ったのだった。
…薄情者はどっちだ!
残念なのは、こっちの方だ!!
と、ゴウランは、ヨウコウの為に尽くしてきた12年間を振り返り、それがこんなにアッサリと…!なんて、悔しくなって泣いてしまった。
それを、いつの間に来ていたのか、オブシディアンは
『今は思い切り泣いていい。その涙と共に、今までの嫌な自分とサヨナラできればいいね。
けど、ヨウコウ王子を恨んではいけないよ。
いつからお互いの気持ちがズレてきてしまったのかは分からないけど、君とヨウコウ王子は友達という絆で結ばれてた時は必ずあったはずだから。』
そう声を掛け、ゴウランの背中を優しくポンポンと叩き慰めた。
その様子をシープは恨めしそうに見ている。
「…オブシディアンは、ゴウランに甘過ぎる。俺だって、オブシディアンにポンポンされたい!」
なんて、頬をプクゥ〜と膨らませていた。
オブシディアンは、ヨウコウ達と一緒に旅をしていて感じていた。ヨウコウとゴウランは確かに兄弟に近い様な友達だったのだ。
だが、長年一緒にいたせいか、ヨウコウはどんな事をしても自分は許される存在だと勘違いしていった。
つまり、ヨウコウはゴウランに甘えきっていたのだ。だが、周りの大人達からの圧力により身分の違いを弁えていたゴウランは、大人達からのお叱りや折檻が恐ろしく少々の注意程度は言う事もあったようだが、それ以上はヨウコウに何も言えなかった。立場上、逆らう事などできるはずもなかったのだ。
それを、どう勘違いしたのかヨウコウはどんどん調子に乗っていった。自分が何をやってもゴウランなら許してくれる、それが当たり前くらいに思っていたのかもしれない。
結局、その事が原因で今があるのだが。
どうか、これを機にヨウコウも自分を見直して、ゴウランの立場や気持ちなども考えられる様になってほしいとオブシディアンは願うばかりだ。
街全体が超巨大型遊園地。城は目立つようにその中心にあり、どういう仕組みか空に浮き雲の上の城が建っているかの様に見える。
だからなのか、城も超巨大型遊園地に欠かせない夢のある外観となっていた。とても素敵な演出である。
そして、案内人の誘導でディヴェル城の会議室へ案内され、用意してあったゴウランの席へと招待された。
自分の席の順番は、ヨウコウ、ゴウラン、ミオ、ミミとなっておりショウ達の姿は見えなかった。席の順番は、チームのリーダーの歳の順で決められているようだ。そして、地位の高さでチーム内の順番も決まっていた。
ヨウコウは「一体、何なのだろうか?」と、ゴウランに聞いてきた。しかし、ヨウコウに嫌気の差しているゴウランだがその気持ちを何とか抑えいつも通りを装いヨウコウに話を合わせ当たり障りのない返事を返していた。
チラッと自分の他のメンバーを見るとミオは緊張した面持ちで姿勢正しく座っており、これから何が始まるのかと色々考えているようだった。
ミミは、いかにも性格のいい女性を演じているが、ミミの本性を知っている自分とミオから見れば、ミミが心の中でいい男がいっぱいいる!誰を落とそうかな?と、ウキウキソワソワしているのが見え見えである。…怖い、怖い…こういう奴には関わらないのが一番だ。
そして、みんなが揃った所で聞き慣れた豪快な笑い声と共に、聖騎士団長ハナと高位魔導服を纏いフードを深く被った人物もハナのすぐ後ろに着いてきていた。
その二人が、テーブルの議長席に座った。
「さて、始めるか!知ってる奴は知ってると思うが一応、挨拶しておく。
私は商工王国聖騎士団長のハナだ。そして、私の隣にいるのが副騎士団長のフウライ。」
と、紹介があった所で少し騒つく声もあった。旅を始めて重要な事があった時、聖騎士団長のハナが来る事はあれど副騎士団長が来る事なんてなかったのだから。一部、会った事のあるチームもいるようではあるが。
「何となく察している奴もいるだろうが、今、集まってもらったチームはメンバーの人数が足りていないチームだ。何かかしらの理由ででメンバーの追放・離脱・リタイアがあった為だ。」
その内容に対し、チーム内でヒソヒソ喋る者達や何かに耐えるようグッと唇を噛みハナを見る者、怠そうにしている者、目が泳いでいる者など反応は様々だ。
「旅も後半に突入し、更に厳しい旅となるのは見えている。そこで、メンバーが足りてないチームはどうしても不利になるから、命の危険性も大きく高まるんだよ。
だから、メンバーの編成と人数の足りないチームには新しいメンバーを入れようという事に決まった。」
と、言うハナの言葉にヨウコウ達は疑問が湧く。…あれ?自分達はメンバーなんて欠けてないし、特別だから他のチームより人数が多いんだけど???そう考え、疑問に思っていたのだが…
ヨウコウ達の脳裏に、ふとビーストキングダムでショウを置き去りにして行動していた自分達の過去がよぎった。
そういえばだが、今気付いたがショウ達の姿が見えない。やはり、その事と何か関係あるのかもしれないとヨウコウ達は考えていた。
「我々はお前達の今までのチーム内での様子や言動・動向、相性などをおおよそではあるが把握し、その上でこちらでチーム編制をし決定したから、新しく編制また新たに加わるメンバーを発表する。そして、中にはメンバー変えする者達もいるが異論は認めないぞ。」
と、いうハナの言葉に
「…え!?こちらの意見も聞かずにですか!?」
いきなり、こんな決定事項を伝えられ、思わず誰かが口に出してしまっていた。
「組織とはそういうものだ。あまり言いたくは無いが、上司の命令は絶対。口答えなんて言語道断。軍人なら尚更だ。あくまで、滅多な事がない限りだが。」
と、少々厳しめに注意した。
「我々は常に命と隣り合わせにいる。だから、確かに仲間との絆は大事だ。だが、馴れ合いだけで人々の安全や命は守れないぞ?
それに、お前達の殆どは自分の仲間達と上手くいかずチーム内に亀裂が入り、仲間達が離脱、仲間を追放したんじゃないのか?」
そう、指摘され少し顔色が変わった者達も多くいた。
「それに、どうしたって相性というものもあるだろうし。そこは、どうしようもない。」
と、した上で
「では、新しいチームを発表する。」
の声に、みんなドキドキしてハナの言葉を待つ。
「不公平がないように、実力とか関係なく単純にリーダーの年齢順でチームを発表するよ。
まず、レッカチームな。ここは、大体の奴は知ってると思うが、レッカが馬鹿やって国の恥さらしになったもんでね。レッカというリーダーが抜けた。しかし、そこに丁度、サイウン姫と相性の悪かったサイウンチームメンバーが一度にみんな脱退しちゃったからね。
“リーダーが抜けた”レッカチーム。
“リーダーしか残らなかった”サイウン姫チーム。
ここは、単純にレッカと入れ替わる形でサイウンをリーダーにすれば良いんじゃないかって事になってね。
だから、レッカチームはこれから“サイウンチーム”とする。」
そして、サイウンは紹介されたレッカチームを品定めする様に見ると
「……ゲロ最悪!まともなのが誰一人いないじゃん。」
と、ゴミクズでも見るかのように、あからさまな嫌悪を見せてきた。
清楚系美人がギャル化した様な容姿のサイウンのこの態度に、新生サイウンチームのみんなはカチンときていた。だが、サイウンは姫…ムカつくのを抑えて軽い挨拶をした。
だが、サイウンはそれを無視。サイウンの態度に、新生サイウンチームのユコ達は“なに、コイツ!初対面から、めちゃくちゃ態度悪い!!”と、怒り心頭だった。…が、護衛と一般人専用用心棒の男性陣二人はサイウンの美貌と露出の多いセクシーファッションにやられてデレデレだった。
そんな二人に、ユコはイラッとしている。既に先行き不安である。
「暁紅王子(ぎょうこう)チームだが、ギョウコウの一般人がギブアップしちゃってね。そこで、コウ姫チームの一般人であるサラを入れる。
コウ姫の所も色々あってね。一般人のサラ以外、離脱してしまったんだよ。」
それには、驚く面々が多かった。何故なら、完全無欠と思われたコウ姫の離脱。だが、コウ姫は敵とみなした者に容赦がない冷酷非道の戦場好きと聞く。もしかしたら、旅に飽きて戦場に戻ったのかもしれないとそれぞれ勝手な想像をしていた。
しかし、ギョウコウはおっとりのほほんとしていて少しぼんやりしている為、頼りなさそうな綺麗系イケメンだ。
そのせいか、護衛と一般人専用用心棒は自分達がしっかりせねば!という強い気持ちからか、結束力がありキリリっとしていて頼りになりそうだ。
そこに、お節介大好きセクシー美女のサラが一般枠でギョウコウチームの仲間になる。なんだか相性が良さそうに思える。
「氷雨(ひさめ)姫チームは、護衛と一般人専用用心棒が大怪我を負い泣く泣く旅を辞退した。よって、二人が復帰するまでの間だけ護衛と一般人専用用心棒をつける事となった。」
ヒサメは、とても冷たくジメジメ暗いイメージの美女。美女ではあるが…何だか黒魔術とか呪いとかやってそうな感じで関わると呪われそうで怖い。あまりに暗いので、負の力や不幸を呼び護衛や一般人専用用心棒が大怪我でしばらく旅ができないのではないかと勝手な妄想が止まらない。
「次に、スティーブンソンチームだが。
護衛がスティーブンソンの強さや志の規模のデカさに圧倒されちまったらしい。そして、自分は護衛にも関わらずスティーブンソンに頼りっきりになってしまっている、自分の存在価値がないと挫折しちまってね。
できれば、ずっと一緒に旅をしたかったが自分ではスティーブンソンの足を引っ張ると辞退。
だが、そんな時にソウチーム護衛のルンが、スティーブンソンの志や強さに惹かれて、是非ともスティーブンソンの護衛に付きたいって駄々をこねてな。こっちも、そんな我儘は許さないと言ってはいたんだが、スケールの大きいスティーブンソンに萎縮してしまって着いていける奴はなかなか居ないのも事実だし、スティーブンソンに着いて行きたいと言うルンは奇特な存在。
だから、スティーブンソンチームの護衛としてルンに入ってもらう事になった。」
スティーブンソンは、身体はプロレスラーの様に大きく強そうである。それでいて、ずっと笑顔を絶やさずおおらかで寛大な心の持ち主に思える。ルンは、スティーブンソンチームに入れる事をとても喜んでいて大はしゃぎである。
「ソウ王子チームに関しては、護衛のルンが抜けるという事で新しく護衛を付ける事となった。」
と、治癒魔法を得意とする魔法使いが着る、白の女性用魔法衣を着た癒し系美女が小さく頭を下げて柔らかな微笑みを浮かべていた。まるで、聖女様を見ている様な気持ちになる。だが、護衛と言うからには、戦える治癒魔法使いなのだろう。
「そして、ヨウコウ王子チームだが、ここはちょいと複雑な事になっていてね。
急だが、一般人のショウがヨウコウチームを抜ける事となった。」
そうハナが言った途端に、ヨウコウとミオ、ミミはかなり驚いていたものの直ぐに内心ガッツポーズをしていた。
役立たずで厄介、邪魔でしかなかったショウが自分達のチームから抜ける事実に三人とも嬉しくなってパァッと明るい表情になった。しかし、自然と出る喜びの笑みを堪えるのが大変そうだ。
そんな三人の様子を見て、何故喜んでいるのかおおかたの想像のつくゴウランは、ミオまでも喜んでいた事に少し驚いてしまった。
「だから、もちろんだがショウの従者や配下の者達…つまりは、サクラ、ロゼ、オブシディアン、シープもチームを抜ける。」
そこで、ヨウコウ達は少し冷水を被った気持ちになった。
…サクラ達は、かなり物凄く苦手だが化け物級の力を持っているので安全面だけは安心して旅ができた。だが、そんな彼らが居なくなるという事は…何だか急に不安になってきた。
「そして、オブシディアンの弟子になったゴウランもヨウコウチームから抜け、ヨウコウの友達役からも外れる事となった。」
と、言うハナの言葉に
「…な、何を言っているんですか?余のチームの護衛であるゴウランが抜けたら、一体誰が護衛をやるというのですか?
それに、余はゴウランから何も聞いていない!?」
ヨウコウは、酷く取り乱し椅子から立ち上がるとハナに抗議した。そして、何故黙ってたんだと裏切られた様な表情でゴウランを見下ろしてきた。
そんなヨウコウを見て、ゴウランも今まで友達として一緒にいたのだから話すべきだったと申し訳ない気持ちになったが。
直ぐに、ヨウコウの裏切り行為を思い出した。
そして、ゴウランが自分を見直すべく、その事をヨウコウやミオに対して“このままではいけない!何度か一緒にトレーニングや勉強をしよう”と、説得しても
ミオは“自分を見直す事はいい事だけど、それは勝手にやって。あなたと一緒だと私の質が落ちてしまうから。それに、私には私のやり方や考えがあるの。私を巻き込まないでくれる?”と、興味がないとばかりに、これ以上話しかけないでという雰囲気をバンバン出しながら去って行った。
ヨウコウの場合は“何を馬鹿な事を言っているんだ?命懸けのハードな旅をしているんだ。そんな暇があったら休める時に休まなくては体がもたないぞ?
力や戦闘に対する知識などは、旅をしている内に自ずとついてくる。少し前まではお前だって、そう言っていただろう。学校からの課題だって上手い事理由をつければ免除してくれてる。それで、いいじゃないか。”と、自分の考えは正しい。お前の言っている事はおかしいとゴウランを全否定してきた。
そんな日々が続くと、ゴウランに対するヨウコウの態度は変わってくる。
ゴウランが一緒に遊んでくれない、付き合いが悪いと不貞腐れて、ヨウコウが何処か行くにも何も声を掛ける事もなくミミと一緒に遊びに行くようになっていった。
それからは、お互いぎこちない関係になっていった。だが、それでも裏切られはしたが今までの友達役としての情があったのでケジメとして、ゴウランからオブシディアンとの関係や今後の話をしようとヨウコウに声を掛けるも無視されるばかりで話もさせてもらえなかったのだ。
だから、直接聞いてもらえないなら仕方ないと事情や自分の気持ちなどを綴ったメッセージをヨウコウの携帯に送信したはずだ。
今の様子を見る限り、メッセージを見てないかだいだいの予想がついてウザくてメッセージも見ないまま削除したか…そんなあたりだろう。
ヨウコウは表向きはゴウランといい友達を演じて、裏ではミミと一緒になってゴウランの事を散々悪く言ってるのも知っている。
…色々あって最近知った事ではあるが、それに気付けず少し前までヨウコウの事を友達だと疑わず信じていた自分が恥ずかしい。
話も聞いてくれなかったくせに、聞いてないとヨウコウに怒りをあらわにされゴウランは心が冷えていくのを感じていた。
そんなヨウコウを冷えた目で見てしまっている自分に気付かず、それでも理不尽だろうが何だろうが逆らう事の許されない立場のゴウランは、王子であるヨウコウに心にもないが謝らなければと口を開きかけた時
「あー、ヨウコウ王子。違う、違う!」
と、ハナは、アハハと笑いながら二人の会話に割って入ってきた。
水をさされる形でゴウランとの会話を中断させられ、ヨウコウはイライラが収まらないまま、キッとゴウランをキツくひと睨みしてからハナの方を向いた。
「この話が決まったのは、ついさっきだ。
上層部の方で少々問題が起きてね。この話も、ゴウランに考える時間も与えず、今直ぐに答えろと急かした。もし、お前が責めるとしたら我々上層部を責めているという判断になるが?」
と、言うハナにまだ納得のいってないヨウコウは「…ですが!」なんて、聞き分けがないので
「黙って聞けないのか?今は、騎士団長直々に話している。今のお前如きが、軽々しく話せる相手ではない。身の程を知れ、無礼にも程がある!」
それまで、ハナの横で黙って静観していた副騎士団長フウライは、ヨウコウの出過ぎた態度に一喝した。
その冷たい声と、フウライの醸し出す厳正かつ厳格なオーラに場の雰囲気は一気にピリリ…と冷たく凍りついた。
ここで、みんな思う事は同じ。
ヨウコウ王子のせいで、場の雰囲気が重苦しいし緊張感が半端なくなってしまったじゃないか!どうしてくれるんだ!!
そんな感じだ。現に、さっきまで態度悪くだらしない感じに座っていたルンやサイウンまでも、この雰囲気に恐怖して背筋までピンと伸ばし俯いてしまっているくらいなのだから。
フウライに雷を落とされ、一気にギュンと気持ちと肝が縮まったヨウコウは
「…はい、すみませんでした。」
と、小さく消え入りそうな声で謝り大人しく席に座った。見れば、フウライの威圧感に耐えきれず顔は青ざめ体は小刻みに震え萎縮してしまっている。
周りを見ても、先程までデカい態度をとっていた面々もヨウコウ同様、態度が一変していた。
「…あ、いやぁ〜。私はーー」
と、この重苦しい雰囲気に耐えきれずハナは、もっと気を楽にしていいと言いそうになった所に、直ぐ横から鋭い視線が突き刺さり言いかけた言葉がヒュッと引っ込んだ。
『これでいい。お前はもっと威厳を持て。だから、コイツらに舐められるんだ。』と、わざわざテレパシーでフウライに説教されるハナだった。そんな、恐ろしい鬼の様な副騎士団に見張られながら、ハナは話を続けた。
…いつも説教ばかりしてくるし、おっかないから、こういう場にフウライを連れて来たくないんだよねぇ
と、ハナは苦笑いしながら
「“定期的に”、チームの安否確認の為に兵にお前達の様子を見に行かせて報告してもらってるんだがね。その中の報告に、ゴウランは大事な話があるとヨウコウ王子に何度も声を掛けていたが、それを無視して遊びに行ったりミミと仲良く乳繰り合ってるとあったよ。」
それを聞いて、
そんな都合の悪い所を見られてたなんて…“タイミングが悪過ぎる”
…運が悪かった…!
と、“たまたま”のタイミングで、定期的に安否確認しに来たという商工兵に見られていた事にヨウコウはなんてツいてないんだと思った。
そんなヨウコウの様子に“青いねぇ〜““ある意味ピュア過ぎるな”“…嘘だろ、コイツ!マジでそう思ってんの?馬鹿すぎね?”と、心の中で苦笑いや馬鹿にしてる者が多く居るとも知らず。
「それなのに、ゴウランを避けて話も聞かなかったお前が“ゴウランから何も聞いてない”なんてさ。自分勝手もいい所だと思うがね。違うかい?」
その言葉に、ヨウコウは羞恥でカッと赤くしますます俯いてしまった。
「それはさて置きだ。今回、ゴウランはこの旅から抜ける事になったからね。
本来なら優遇されて当たり前の事もできなくなるし、親のコネも使えない悪条件になったわけだが再度確認する。ゴウラン。」
「…は、はい!」
いきなり声を掛けられたゴウランは、まさか声を掛けられるとは思っておらずビックリして緊張のあまり姿勢正しく立ち上がってしまうし、声も上擦ってしまった。…凄く、恥ずかしい。
「お前は、このままヨウコウ達と一緒に旅を続ければ色々と優遇されるからね。将来は約束されたも同然だよ。将来安泰ってやつだ。
だが、オブシディアンの弟子になるという事は、それを全て失う事となる。
それでも、お前は地位も何もかも捨てて過酷な旅へ出るというのかい?」
と、言うハナの話に、そこに居る殆どの者達は驚きどよめきの声があがる。ヨウコウやミオも同様に、一体何を考えているのかと信じられないという顔をしてゴウランを見ている。
「きっと、想像を絶するとんでもない旅になる事だけは言える。命の保証も何もない不利だらけの旅だ。そして、そこで何かあっても真っ先に切り捨てられるのはお前だよ、ゴウラン。
それでも、オブシディアンに着いていくと言うのかい?
考え直すなら今のうちだよ?最後の私の情けだ。さあ、どっちを選ぶんだい?」
と、珍しくハナは真剣な顔をして、ジッとゴウランの回答を待つ。それくらい重要な話なのだろう。
内容が内容だけに、この場にいるみんなこんなの迷うまでもないなと思っていた。しかし
「俺は、オブシディアンに着いていきます。」
ハナが情けを掛け選ばせてくれたにも関わらずゴウランは、ハナの質問のあと直ぐにハッキリと答えたのだった。
それには、ハナとフウライさえも驚いているようで
「…いや、本当にヤバイ旅だぞ?今のうちなら引き返せるぞ?」
「少し時間をやる。しっかり、考えて決めろ。」
ハナどころか、フウライまでも焦ったように考え直せと誘導してきた。だが
「もう、決めました。俺の気持ちは変わる事はありません!」
と、真っ直ぐにハナを見てゴウランは言った。一切目線を逸らさず強い眼差しでハナを見てくるゴウランに
「分かった。ここで、ゴウランは正式にヨウコウチームから抜ける事が決定した。
そして、ヨウコウ王子チームの護衛は引き続きミオ、一般人としてミミ。そして、コイツがお前達の一般人専用用心棒となる者だ。」
と、紹介された青年は中性的な美人だった。
イケメンが来てラッキーと思うミミだったが、後々これがキッカケでミミにとって最悪な出来事になろうとはこの時は考えもしなかった。
「よし!各自、ここで解散。新チーム一丸となって旅をしてくれ。そして、ゴウランお前は、ヨウコウ達とはここでお別れだ。最後に、挨拶しておけ。」
なんて、いきなりの事だらけでパニックになるも、ゴウランは幼い頃から今までの記憶と…実は、裏切られていた事など走馬灯の様に頭の中にヨウコウとの思い出がはしり
「今まで、大変お世話になりました。」
結局、これしか言えなかった。深く頭を下げたゴウランに
「本当にな。これまで、お前に目を掛けてやった恩も忘れて余を裏切るのだな!こんな薄情な奴とは思わなかった!!」
と、いうヨウコウの言葉に、ゴウランの中の今までずっと我慢していた何かが、プツー…ンと切れた。
「…裏切った?裏切ったのは、どっちだよ!!
俺がミミの事が本気で好きだって知ってたくせに、俺がいてもお構い無しにワザと見せつけるようにイチャついたり。
俺に隠れてヤリまくっては俺の悪口言いまくってたのはどこのどいつだ!?
…今まで、ヨウコウ様の事を疑いもせず信じてきた俺の今までを返せよっ!!」
ハッと気がついた時には、ゴウランはここまで喋ってしまっていた。
本当は、まだまだ言いたい事はたくさんあるが、それは言うべきではないとグッと抑え胸の中にしまっておいた。
今まで、自分に声を荒げる事や逆らう様な真似をしてこなかったゴウランだったので、ヨウコウは驚きでポカーンとしていた。
そして、ハッと我に返ると
「…ああ、なるほどな。余とミミが仲良くしていたのが気に入らなかったのか。ゴウラン、それくらいで怒るなんてお前は小さい男だよ。
だが、安心しろ。余とミミは恋人ではない。割り切った大人の関係だ。
それに、お前を悪く言ってたのは謝ろう。すまなかったな。」
全然、心のこもっていない謝罪はこんなにも、はらわたが煮えくりかえる様な不快極まりない気持ちになるものなんだと初めて知った。
ゴウランは怒りでどうにかなりそうな気持ちを抑え、まだ言いたそうにしているヨウコウの言葉を待った。
「だが、いくら友達でも不満があったりしたら悪く言う事もあるよね。本人には言えない事だってない?それくらいも許せないというのか?」
「…いや。確かに、それなら全然許すさ。
もちろん、怒りはするし喧嘩まで発展するかもしれない。ショックを受けて凹むだろうけど。でも、友達なら仲直りできると思う。
けど、今回のヨウコウ様のケースは違う。人を嘲笑い馬鹿にする様な人を見下した悪口だ。それは、友達のする事じゃない。」
「お前が、何を言っているか分からないな。
こんなに話の分からない奴だとは思わなかったよ。確かに、お前のような友達はいらないな。
残念だけど、お前との友達関係もここまでのようだね。」
そう言って、ヨウコウは新チームを従えてゴウランの元を去って行ったのだった。
…薄情者はどっちだ!
残念なのは、こっちの方だ!!
と、ゴウランは、ヨウコウの為に尽くしてきた12年間を振り返り、それがこんなにアッサリと…!なんて、悔しくなって泣いてしまった。
それを、いつの間に来ていたのか、オブシディアンは
『今は思い切り泣いていい。その涙と共に、今までの嫌な自分とサヨナラできればいいね。
けど、ヨウコウ王子を恨んではいけないよ。
いつからお互いの気持ちがズレてきてしまったのかは分からないけど、君とヨウコウ王子は友達という絆で結ばれてた時は必ずあったはずだから。』
そう声を掛け、ゴウランの背中を優しくポンポンと叩き慰めた。
その様子をシープは恨めしそうに見ている。
「…オブシディアンは、ゴウランに甘過ぎる。俺だって、オブシディアンにポンポンされたい!」
なんて、頬をプクゥ〜と膨らませていた。
オブシディアンは、ヨウコウ達と一緒に旅をしていて感じていた。ヨウコウとゴウランは確かに兄弟に近い様な友達だったのだ。
だが、長年一緒にいたせいか、ヨウコウはどんな事をしても自分は許される存在だと勘違いしていった。
つまり、ヨウコウはゴウランに甘えきっていたのだ。だが、周りの大人達からの圧力により身分の違いを弁えていたゴウランは、大人達からのお叱りや折檻が恐ろしく少々の注意程度は言う事もあったようだが、それ以上はヨウコウに何も言えなかった。立場上、逆らう事などできるはずもなかったのだ。
それを、どう勘違いしたのかヨウコウはどんどん調子に乗っていった。自分が何をやってもゴウランなら許してくれる、それが当たり前くらいに思っていたのかもしれない。
結局、その事が原因で今があるのだが。
どうか、これを機にヨウコウも自分を見直して、ゴウランの立場や気持ちなども考えられる様になってほしいとオブシディアンは願うばかりだ。