イケメン従者とおぶた姫。
「…ウッワ!…エッグッ!キンモッ!!
なんて邪な心で充満してるんだ、お前は!」
と、サクラを見て驚いた表情を浮かべ呆れるマーリン。
「お前の魂の中身はショウを中心に回ってる…というか、ほぼほぼショウで占められてるな。
ショウへの愛欲、劣情、執着、献身、奉仕、…ショウへの様々な欲で満ちている。自分の全てをショウに捧げる事に尽くす事に歓喜し多幸感を感じている。…キモッ!」
部屋を出て、すぐにこんな事を言われ苛つくサクラだがここで疑問。
「…何で、初対面の相手にそんな事言われなければなんねーんだ?それに、魂ってどういう事だ?」
「カァーーーッッ!!見た目は、性にも人にも興味ありませんってスカした容姿をしてるが、中身はショウ限定ドMのド変態のエロ助だな。その人形みたいな容姿やすました態度してるくせに、中身はショウへの執着でドロドロ。
挙げ句にエロエロ過ぎてそのギャップにビックリするわっ!ドン引きだわ…わぁ〜、マジでキモ〜…。
リュウキが、ショウからお前を引き剥がしたくなる気持ち。よぉ〜く分かるわぁ。」
と、ウヘェ〜とゲンナリしながら、サクラの質問なんて聞いてなかったかの様にマーリンは言いたい放題言っていた。
自分の質問は無視されるわ、散々な言われ様に元々短気なサクラはカッチーンときて
「…何で、テメーにそれが分かるんだ?
それに、キメェのはテメーだ。あのクソカスリュウキを好きとか本気か?男の趣味悪過ぎんだよ。クソババァ。」
と、マーリンが熱を上げてるらしいリュウキの名前を引っ張り出してきた。すると
「おいおい、お前の目は節穴かよ?
リュウキ程のいい男なんざ、世界中どこ探したっていねーぞ?
なんだ、リュウキがいい男だからって嫉妬か?男の癖に嫉妬なんて、見っともないったらありゃしないな。クソガキ。」
愛しい男を貶されマーリンはサクラの話を無視できなくなったようだ。
「…テメー、ムカつく。」
「ハンッ!そっくりそのままお返しするね。
だが、愛しの未来のダーリンに頼まれちゃ、しゃーねーよな。惚れた弱みってやつだ。」
「…は?よく、言うな。あのクソカスの頼みを今の今まで断りづづけてたくせに、よく言う。」
ここで、二人は互いに確信した。
コイツとは、相性最悪だ!大っ嫌いだ!!と。
「そりゃ、お前みたいなスカしたヤローが嫌いなだけだ。それに、お前の波動は異質だ。」
「…異質だと?」
「ああ、異質も異質。ムカつくが、お前の波動は“祖”と、言っていい。」
「“祖”?」
「そうだ。“祖”とは“ものの初め”。そこからその力が幾重にも枝分かれしていく。当たり前の話だが、力は“祖”に近ければ近い程強い。
枝分かれするにしたがって、その力は薄れていくのだからな。それは、魔法・魔導も同じ。
だから、驚いた。あそこにいる、子猫は“魔導の祖”を持ち、ゴリラ女と一緒に居た少年は魔導の祖に非常に近い。もはや、“祖”と言っても過言でない程だった。」
「…あのクソ猫なら分からないでもないが…」
「近いうちに、あの少年は得S魔道士以上になるよ。あの子は異質だよ。
あの子が存在するなら、波動や魔導のランクをもう一つ作るべきだ。
ちなみに、あの子猫はランクに収めるなんて考えたらダメだ。あの子猫は私達とは別次元にいる。人と思ってないよ、私は。だから、あの子猫の場合はランクに入れたら失礼になっちまうと思ってね。」
と、マーリンが言った所でサクラは驚いた。コイツ、人を褒める事もできるのか!?と。
それに、フウライが強いのは知っていたが、まさかそこまでとは思ってなかったし、ロゼなんかに敬意をはらってるのが…なんか悔しい。
「本来なら、“祖の波動”を持っているサクラも、子猫同様に強くなって当たり前なんだが…おそらくお前と子猫とでは全然違うな。」
と、可哀想なものを見る目でサクラを見てマーリンは力無く笑った。
ロゼと比べられるという地雷に、サクラはギリッとマーリンを睨み米神にピキッと青筋が浮かぶ。本当は胸ぐらを掴もうと手を伸ばしたのだが、スルリとかわされ挙げ句、マーリンの姿を見失ってしまった。
「…全然違うだと?同じ祖の力を持っているって言ってなかったか、テメー。」
「…あー、ヤダヤダ!レディーに優しくできない男はモテないよ?」
声のする方を見れば、マーリンはサクラの頭上に胡座をかき座っていた。気配も重さ、体温さえ感じなかった。どうなってるんだと焦る前に、ムカつく方が勝りサクラはマーリンをブン殴る為に拳を振るった。
しかし、手も足も出ないという事はこういう事なのかと思うほどに簡単に避けられ
最悪な事に
「ほーら、がんばれ〜!」
なんて、アハハと笑われ応援されてしまっている。悔しいし、何より屈辱だ。
サクラは、魔導や波動よりも武術や武器術が得意だ。根っからの武闘派。
だから、武術に関しては自信があったのだ。
「ハハッ!いいね!お前、面白いよ。そんな形して、ゴリッゴリの武闘派かよ!!オレもビックリだ。」
それを、面白そうに目を輝かせサクラの実力を見ているマーリン。
「オレのいうお前とロゼの違いってのは単純さ。ロゼは“天才”、お前は“努力”って、感じだ。つまり、ロゼは一を知り十を知る。思いついたら、すぐできちゃう天才。しかもだ、最初から力が備わっていて、そのコントロールもすぐにマスターしてしまう。
潜在能力も眠っている様だ。それは子猫の努力次第で目覚めさせ更に力を引き延ばす事ができる。だが、お前は違う。」
「クソ猫と俺を比べてんじゃねーっ!クソババァッ!!」
ガムシャラに、様々な体術の技を駆使してマーリンをぶちのめそうとサクラは奮闘するも
「お前の場合は、その筋のトップレベルの師匠や先生に教えてもらって死ぬほどの努力を重ねなければ力をつけられないタイプの努力型なんだよ。」
「…は?」
「“同じくらいの力や才能を持ってる”って言ってもね。ザックリ分けて二種類あるとオレは考えてるよ。」
「…?」
「そもそも、この世は何に対しても不平等だ。
金や権力、美も含めて。特に、才能や力なんざ潜在能力として個々の中に眠っている。
だから、みんなそれを持ってるとは限らないし、最初からどこまでが限界か決まってる。
もし、何かかしらの才能や力があったなら、その力をどう引き伸ばし才能を開花させるか。」
…これって、つまりは…
「いくら才能があっても、どう足掻いても“差”があるって事さ。才能のない奴が、どう足掻いて努力したって無駄。
無駄な努力がないってのは、そもそも才能あってこその話。…あとは、己を知る事ができるってあたりかな?
それに、同じポテンシャルを持っていても感覚的に直ぐにできてしまう“天才型”少し習っただけでできてしまう“秀才型”。
…そして、血反吐を吐きながら誰よりも惜しみない努力を重ねなければ習得できない“努力型”。」
ここで、サクラはマーリンに心の中で突っ込んだ。ザックリ分けて二種類って言ったじゃねーか!三種類に増えてんじゃねーか!と。
だが、マーリンに攻撃しても全然当たらなく体力ばかりが削られ、喋る気力もなくなっていたのだった。
「お前は、その中の“努力型”だ。
下手な師に教えてもらえば、変な癖がつきせっかくの才能も崩れてしまう。それに、一つの事に集中する時間が無ければ、出来るものもできなくなってしまう。
だから、敢えてリュウキは今までお前に師匠を付けなかった。そして、今回オレがサクラの師匠になる事を承諾した事で、それに集中させる為にお前からショウを引き剥がしたと考えてる。」
…あの、スソカスがそこまで考えるか?と、サクラは疑問を持つも、マーリンの言っている事も一理ある。悔しいが、またあの鬼が出てきたらリュウキの言う通り真っ先に狙われるのは自分。…今の自分では足手まといにしかならない事も確か。
ショウを守るどころか、吐き気がするほど気持ち悪いが、ショウの目の前で自分が鬼にいいようにされる可能性も高い。それは、何よりの屈辱だし…そうなったら、穢れた自分はもうショウの側にはいられない。
…そんなのは絶対に嫌だ!
こうなったら、血反吐を吐こうが何だろうが死にものぐるいで習得してやる!天才とか、ぶっ壊してやる!!
見てろ、クソ猫がァァァッッ!!!
と、サクラはメラメラと闘志を燃やすのだった。
「…いいね、いいねぇ!お前、意外と熱い漢だったんだな!ハハハ!」
ーーーーー
「…ブエェーーークショィンッッッ!!!?
…おお?何じゃ??先程から、寒気が止まらぬ。知っておる誰かの殺意を感じる…」
と、ロゼはブルブルと悪寒を感じながらショウのほっぺにピッタリとくっ付いた。
「…大丈夫?」
そんなロゼを心配して、ショウはロゼを抱っこして撫でてあげた。
「おにゅししゃまぁぁ〜〜ん!ゴロゴロ…」
ロゼは、ここぞとばかりにショウに甘えつつも考えていた。
…むふぅ〜!お主様の匂いだぁぁ〜い好きじゃぁ〜
それに、むふむふぅ〜!この何とも言えぬ触り心地…こんにゃ、我をダメにする心地よいふわふわ、プニプニ…はわぁ〜幸せじゃぁ〜
…じゃなかったわ!
サクラが修行に出るのは良いとして問題は我じゃ。我は、あの鬼我目の前にして身動きどころか声さえ出んかった…
あれで、鬼は不完全じゃという
不完全とはいえ、この世界最強の魔道士ダリアでさえ敵わなかった相手
…いや、それでもダリアとて不完全ではあったが…
じゃが、ここで言える事はあの鬼を目の前に、抵抗できたのはダリアのみであった
そして、鬼はダリアより格上だという事実
ならば、我はどうすればいいのか
我は魔道士ではあるが、残念な事にダリアには及ばない
…及ばない?そういえば、我は今まで努力をした事があったじゃろうか?
いや、かなりの努力はしてきたつもりじゃ
…じゃが、今は“つもり”では、いかん次元にきておる。かなりでも、つもりでもいかん…
自分の限界を超えなければならぬ時
死ぬ気で、力をつけねばお主様を守る事はおろか…中性的で男とも女ともとれる容姿のダリアや、しっかり男と分かるものの中性よりのサクラなら分かりたくないが、分からんでもない。
あの二人に対し“嫁”と呼びたくもなるやもしれぬ。
じゃが!我は、よく大剣使いの剣士と勘違いされるくらいには男らしい容姿をしておると自負しておる。
そんな我に向かって“嫁”などいう、あの鬼は…美的感覚がおかしいんじゃろか?
…ゾワワ…!!
このままでは、お主様を守るどころか我の尻を守る事もできぬやもしれん…やじゃぁ〜…オエェ〜…!無理無理無理!!!絶対、無理じゃ!!我の身も心もお主様だけのものじゃぁ〜〜〜!!!
それには、限界を超えて更なる高みを目ざさねばならぬ!ダリアをも超える大魔道士にならねば!
…その為には…!
…すっごく嫌じゃが、本当に嫌じゃが致し方あるまい…!!
それもこれもあの鬼のせいじゃ!
そして、お主様と我の尻を守るんじゃ!!
と、ロゼは心の中で強く誓うのであった。
そうと決まれば
「…お主様、相談しとぉ事があるんじゃが…、あと、ソチ達にもじゃ。」
ロゼは、そう言うとキリッと表情を引き締めた。…が、ショウに抱っこされてるので、その場が全然引き締まらなかった。
「今度、鬼が出てきても我は鬼に対抗する術がない。そこでじゃ、我は朝から夕方まで修行に出ようと思う。じゃから、その間ソチ達は今まで以上に気を張ってお主様をお守りしてほしいのじゃ。もちろん、お主様のピンチには瞬時に駆けつけられるから安心してほしい。」
と、ロゼはショウの耳を着飾る美しい薔薇の飾りにキスをした。それを見て、オブシディアンとシープはなるほどと思った。
『分かった。もとより、そのつもりだよ。』
そうオブシディアンは答えた。
「お主様ぁ〜、少しの間離れてしまうが大丈夫かの?」
ロゼは心配そうに、ショウを見上げと
「サクラもロゼも頑張るんだもん!私も頑張る!!」
と、ショウは泣かないように顔に力を入れ、クシャクシャになって出ないように踏ん張っても勝手に出てくる涙に、ロゼは心苦しく感じショウの涙をひと舐めすると
「夕方には帰ってくるゆえ……っ!!?我も寂しいっ!本当の本当は、お主様と少しも離れとうないっ!!じゃが、今はそうは言ってられんのじゃ…!」
ロゼは人の姿に戻ると、ギュッとショウを抱きしめた。一向に離れようとしないロゼにオブシディアンは苦笑いし
『少しの時間さえ惜しい。寂しいだろうけど、ロゼ時間だよ。』
と、言ったところでロゼは名残り惜しそうにショウから離れると
「ロゼ、いってらっしゃい。」
なんて、ショウに言ってもらえてロゼの心はキュンとした。
「…行ってきます、お主様。」
ロゼは、ショウの頭にキスをするとどこかへ消えてしまった。
「ショウ様、行き先が決まりました。向かうのは、幻の国である精霊の国です。」
「「…せ、精霊の国!?」」
オブシディアンから、思いもよらない行き先を告げられ目が飛び出すほど驚くショウとゴウラン。
「…い、いや、幻の国ってマジであるのか?そもそも、どこにそんな国が存在するんだ?」
と、ゴウランはオブシディアンの言葉がいまいち信じられず、だがオブシディアンが冗談や嘘をつくような人ではないとも思っているので混乱していた。
そんなゴウランを「…プッ!ダサいな。」と、シープは鼻で笑っていた。…ムカツク!と、ゴウランはシープを睨む前に
『さあ、行こうか。』
オブシディアンは、そう言って不思議な形をした鍵に何ら呪文を唱え、何もない空間へ鍵を突き出し回すとカチャっと鍵が開いたような音がした。
その瞬間何も無かった筈の空間に、巨漢が一人通れるくらいのマーブル状の様々な色が複雑に混じり合った割れ目ができた。
そして、オブシディアンはショウを抱き抱えるとショウの悲鳴と共にその割れ目へと入っていった。それに続き、シープ…破れかぶれのゴウランも入り割れ目は元の空間へと戻った。
ーーーーー
ショウ達が、幻の国へと入っていった時。
ロゼは途方に暮れていた。
「…ヤバイ。…ここは、どこじゃ!?…あれぇ?ダリアが行った異世界とやらに行こうと思うとったんじゃが…はて…?」
そう。ロゼは、新たな人生を歩む為に異世界人となったダリアに、修行をつけてもらおうと微かに残るダリアの気配を頼りに空間移動をしてみたのだが“異世界へ行く”と、いう未知なる試みは失敗し何処か分からない空間に入ってしまった様だった。
しかも、いくら魔導を使おうとしても使えない。何がどこにあるかも分からない何も見えない真っ暗な空間。だが、動く事はできる為とりあえず歩いてみるも果てが無い様な気がしてきた。
どのくらい歩いたか分からない。ここに来て散々魔導を使おうと試みて悪あがきしても魔導が使えないと分かってからロゼは、もうヘトヘトで足の裏も痛くて立ってる事も辛くなるくらい歩きに歩きまくった。
こんなに歩いた事のないロゼは、足がパンパンで汗も滝のように流れていた。
「…こんな筈じゃ…」
歩きすぎて体力の限界を迎えたロゼは、とうとう地面に座り込み天を仰ぎ途方に暮れていた。
だが、何も見えない為、本当に自分はそこに座っているのか上を見上げているのかよく分からない気持ちになる。
…あまり時間が経ってないような、随分時は過ぎ何日…何週間経ってしまったような時間の感覚さえ分からない。
魔力さえも感じない。諦めきれず、何度も何度も魔導を使おうとしたが一向に発動する気配すらない。
少し体力が回復し、ロゼは出口を探し再び歩き出す。
それを、どのくらい続けただろうか?
何度も何度も諦めず
「…お主様の元は必ず帰るっ!!」
それだけを心の支えにして。
どのくらい時間が経ったのだろう?ショウは大丈夫だろうか?また、あの鬼が現れていないだろうか?
…もしかしたら既に何年も経っていてロゼは行方不明になっているとみなされ、もうこの世に居ないものとしてみなされてるのかもしれない。
そして、お主様とサクラは…我など忘れ…否!お主様はお優しい方、そんな事はなくとも思い出としサクラと結婚してラブラブいちゃいちゃ…そんなの…そんなのは
「…嫌じゃぁぁぁーーーーーッッッ!!!」
ロゼが、腹の底から叫んだ時だった。
「…わっ!び、ビックリしましたわ!」
と、近くから鈴の音のような心地いい澄んだ声が聞こえた。
…ビクゥゥーーーッ!!?
まさか、自分以外にも人が居ると思わなかったロゼは「ギャーーーーッッッ!!!?」と、悲鳴をあげ飛び跳ねてしまった。
「これは、これは!驚かせてしまい、申し訳ございません。大丈夫でしょうか?」
と、ロゼを心配しロゼに見上げてくる、ダリアと同等レベルの美少女が立っていた。
だが、おかしい。この空間は真っ暗で何も見えない筈なのに、なぜこの美少女だけ見えるのだとロゼは美少女を不審な目で見ていた。
すると、美少女は
「ワタクシの名前は、明かす事はできませんが名前が無いと不便ですわよね?
…そうですわね…う〜ん、そうだ!!ワタクシの娘にちなんで“桃(もも)”と、呼んでくださいまし。そして、あなたはどちら様ですの?何処から、ここへいらっしゃったのでしょう?」
と、ロゼに質問を投げかけてきた。
「…我の名は、ロゼ。我の力の強化の為に、異世界へおるある人物に会いに空間移動したんじゃが、どうやら失敗してここへ迷い込んでしもうたらしい。」
相手が誰かも分からないのに詳しい話をする訳にもいかないし、何の気配も感じられないモモが不気味で仕方なかった。だから、下手に嘘もつけなかったのだ。
しかし、見た目は12才くらいだろうか?自分とさほど年が離れていないように見えるが…いや、世の中には大人に騙されたり売られたりして幼くして子供を産む可哀想な子供も大勢いる。そんな感じなのだろうか?
「…ソチは、何故にこのような場所へ来たんじゃ?」
と、ロゼがモモに質問すると
「……え?……ハッ!!?そうだった、そうでしたわ!!思い出しましたわ!!?お仕置きです!」
なんて、最初なぜ自分がここに居るのか分からないといった感じに首を傾げ、しばらく考えた後、ハッと何かを思い出したようで意味不明の事を口に出していた。
「…む?」
「あのですね!ワタクシのお師匠様がご乱心なさいまして、一つの異世界を滅ぼそうとしておりますの。」
「…い、異世界を滅ぼす…じゃと?」
「はい。これはお師匠様の自業自得でありますのに、あまりに無責任かつ惨忍!残酷、バカ!ですので、お師匠様の唯一の弟子であるワタクシが責任を持って止めなければとここへ参りましたの。ワタクシの妻なら即解決できますが…少々問題もありまして…ハァ…」
……ん?
ちと、言ってる意味が分からぬのぉ〜
そもそも、妻って…同性婚じゃろうか?では、娘とは…?
「…ソチは、奥さんがおるのか?子は里子かえ?」
デリケートな話なんだろうが、どうしても気になって思わず聞いてしまったロゼ。
「…確かに、妻というと“彼”は怒りますでしょうね。ですが、娘を産んだのは正真正銘“彼”ですし、種付けしたのはワタクシ。
そして、妻のお産に立ち合い我が子をこの手で受け取りましたので、娘はワタクシと彼の子供で間違いございませんわ。」
聞けば、聞くほど意味不明である。このまま聞いてると頭が混乱しそうなので、一旦話題を変える事にした。
「では、モモ殿の師匠が一つの異世界を滅ぼそうという話は、どういった経緯で知ったんじゃ?そもそも、何故ソチはここに?」
「ワタクシ達の世界では、“大きな三つの核”と“12の核”が宇宙を支えております。このうちの一つでも消えれば、ワタクシ達の世界は大きく乱れます。そして、その中でも三つの核が消えれば確実に消滅しますわ。
その内の一つ“魔”を司る者は、自身の力を別の者に託して消滅致しました。」
「…なっ!?では、ソチの世界は大きく乱れておるのではないのか?今は、どうなっておるんじゃ?」
と、ロゼは驚き、声を荒げモモに聞いてきた。もしかしたら、モモはその乱れた世界から命からがら逃げ、この空間に迷い込んでしまったのかもしれないと思ったのだ。
「大丈夫ですわ。さっきも言った通り、核の一人はある人物に自分の力を託したと。
本来なら、そのような事など不可能ですが“魔導”とは何でもアリなのですね。それを彼はやってのけてしまったのです。
ですので、彼の力を引き継いだ方々が存在しており、慈悲深い彼は自身の抜け殻を核となるよう術を施しておりますのでそこは大丈夫らしいです。」
と、聞いてロゼは体の力が抜けた。
「…ただ、問題はそこにあるのです。」
「…問題じゃと?やはり、抜け殻になった核に欠陥でもあったかのかえ?」
「いえ。そこは、魔の核には抜かりはなかったようですわ。」
「…と、いうと?」
「魔導の核は、自身の魂や意識だけ消滅させたと聞きました。…お恥ずかしい話…ワタクシは、自分で言っててよく分かってないのです。妻が話していた一部をお話ししているだけなので…。他にも色々言ってましたが…忘れちゃいました。家に帰ったら聞いてみますわ。」
…知的な容姿なのに、頭の中身は残念な女子…じゃなかった!男の子じゃったかぁ…あちゃー
「とにかく!よく分からないのですが、魔の核は自身の全魔力を自分の愛する人の子供に与えたそうです。
そして、自分の血を使った魔術を行い、自分の魔導の能力に耐え得る器を作ったらしいのです。その器達は、器の限界まで魔導の核の能力を吸い取り全てを器達に与えた魔の核の能力と力、魔力は抜け殻となったと聞きました。
…何を言ってるのか、さっぱり分かりませんが!」
ほんにっ!!めちゃくちゃ大事な話じゃし、見た目が賢そうなだけに残念な男の子じゃ!
「そして、ワタクシの妻が言うには、魔の核には軽薄で最低な旦那さんが居て、その旦那さんを見限りたいけど愛するあまり振り切れず。
そんな自分が嫌で、自分が消滅する事で解決しようとした卑怯者だと。
そして、魔の核が消えて初めて、魔の核の大切さに気付いた間抜けな旦那さんは、魔の核を復活させようと躍起になってると言ってました。…難しい話ですが…」
…うむむぅ〜
残念過ぎる頭じゃ。商工王国聖騎士団長のハナといい勝負ができそうな頭の出来じゃ
じゃが、この話は…まるで…
「…そうです。その魔の核を復活させようと躍起になってるバカが、ワタクシの元師匠なのです。」
馬鹿にバカって言われる師匠って一体…
「ワタクシの師匠は、元来とても頭のいい方なのですが、大切な方を失って正気を失っているのでしょう。
ワタクシの妻の話では、魔の核が自分の能力を与える為だけに作った器達を集め一つにして元に戻すつもりだと言ってました。」
こ、この話の内容は…!
…ドクン、ドクン…!
「魔の核が創り出した器達は、魔の核の分身ではなくその器に魂が宿り個々として存在しているというのにです。
おそらく、師匠は自分の知り得るありとあらゆる知識と能力、力を駆使して無理矢理にでも、魔の核を復活させようとしているのでしょう。
己の欲の為だけに、人の命を犠牲にする事は決して許されない!しかも、自業自得な自分の不始末でだ!!
ボクは、ボクの尊敬する師匠が愚かな事をする事なんて見てられない!」
…あれ?途中から口調が、かわっちょるが…
我の考えが正しければ、この話は我らに大きく関係する大事な話の可能性が高い
しっかり、聞かねばならぬ気がする
「だけど、師匠の愚行を止めようにもボクには異世界に行く術がない。師匠の行方を探し出すのも困難。
なら、師匠が狙っている魔の核の器達のうち、ボクの力を扱える能力がある子にボクが徹底的にボクの教えられる限りの事を叩き込み師匠を止めてもらいたい!
そう思い、ボクの術で魔の核の器の中から、ボクか或いはボクの知人の能力に適する器をボクの創り出したこの空間に呼び寄せたッス!」
そう、モモは言ってきた。
「ボクの師匠のせいで申し訳ないッス!
ただ、君達の命が狙われてる今、ボクにできる事といえば君にボクが修行をつける事しか思いつかなかった。…と、言いたい所ッスが、君の世界にボクの能力を強える人がいない!!
だけど、魔導から枝分かれし独自の進化を遂げた能力“奇術”を使える最高峰をボクは知ってるし、話はつけてあるッス!」
…え、エェ〜〜〜!!?
奇術とは何ぞや???
…まあ、確かにモモのような貧弱そうな男の子が我に稽古なんぞつけられるとは思うとらんかったし不安しかないから、その最高峰の奇術使いが師匠となってくれるんじゃったら…
まあ、ギリそこだけは良しとするか
「…だけど、薄情と思われるかもしれないですが、ワタクシには愛する家族がおりますので時間は限られております。
どうか、その時間内に力をつけてワタクシの師匠を正気に戻してほしいのです。お願いします…どうか、ワタクシの知り合いに稽古つけさせてもらえないでしょうか?」
と、知人をロゼの師匠にさせてくれと志願してきたのだ。だが、残念だけど、こんな儚そうなダリアと同等の美しさを持つ美少女…じゃなかった、美少年はとても軟弱そうで強そうには感じなかった。
「…ちなみにですが、ご察しの通りワタクシの修行の妨げになりますので、ロゼ君の魔導を封じさせていただきました。」
と、モモが言ったところで、ロゼは前言撤回した。つまり、ロゼの魔導を封じる事が容易いほど、モモの実力は相当なものだという事。
…ゴクリ…!
「…質問じゃが。ソチの師匠は人形で赤い肌。白髪のワイルドイケメン。そして、10本程の角が生えておる2M程の大男かえ?」
「その通りです。分類するなら、人型の鬼とでも言いましょか。」
…ドクン、ドクン!
やはり、そうじゃったか!
これは、間違いない
「…ソチと師匠が戦えば、どちらが強いかのぉ〜」
ロゼは、答えなんて分かりきっているものの意地悪でこんな質問をモモにぶつけた。
別にモモが悪い訳じゃないのは分かっているが、何か色々と気に入らない話、受け入れがたい話ばかり。それに、いきなりこんな場所に連れて来られロゼの計画も台無し。だから、八つ当たりみたいなものだ。
「……実際に本気で戦ってみなければ分かりませんが、恐らくですが五分五分といった感じでしょうか?」
と、言うモモに、ロゼは
「……へ?…あ、聞き間違いかの?」
信じられないとばかりにモモを凝視した。
「師匠の愚行がワタクシの耳入れば、ワタクシが止めに行く事など師匠はお見通しだったのでしょう。
ですから、師匠は自分の居場所をあちこちに移動させワタクシに見つからないようにしているのです。先程も言いましたが、師匠はワタクシ達のいる世界で一番知識のある方です。智の頂点だといっても過言ではないかと思います。」
…いや、頭がいいとは聞いたがそこまでは聞いとらんぞ?
「ですから、頭のいい師匠からすれば、ワタクシの目から逃げる事は容易い事でしょう。
史上最強を誇るワタクシの妻が動けば一発なのですが、なにせワタクシの妻は唯我独尊の傍若無人男ですから…ハア…。
こんな事では、決して動かないです。これは自信を持って言えますわ!
なので、ワタクシができる事といったら、これくらいしかできません。どうか、ワタクシの知人の修行を受けて下さいまし!」
…師匠に弟子入りは分かるが、知人の弟子になってほしいと志願する鬼の弟子…なんか複雑な関係じゃのぉ〜
何はともあれ、信じられん話じゃが
今は藁にもすがらねば
とりあえず、やってみるしかない
時間がないのじゃ!
「…ソチの話は、信じられん話も多いが。今はそうも言ってられん。その修行とやら受けてみようぞ。もし、これで何の成果もなかった時には……速攻で修行をやめるからの!そのつもりでの!!」
「……ッッッ!!?あ、ありがとうございます!ありがとうございます!!」
と、ロゼに感極まったように、パアァァ!と、純粋な喜びを見せ何度も頭を下げるモモと上から目線のロゼ。
二人の間で時間指定込みの条件付きで、モモの知人抜きで勝手に師弟の契約が交わされた。
「ちなみにですが、この空間は時間がとても早く進むように創りました。そして強力な結界術も施しましたので師匠に見つかる事もないでしょう。ここでの10年は、ロゼ君の世界ではたったの半日。早くロゼ君が、力をつけてくれる為にワタクシ、ちょっと無茶して頑張って創りました。おかげで、最初ちょっと記憶がぶっ飛んじゃいましたが。ふふっ!」
「…にゃっ!?そ、そんな事が可能なのか!!?ソチは一体、何者なんじゃ!!」
「そう言われましても、もう現役を退いてますし…敢えて言うなら娘を溺愛する母であり、妻を愛する愛妻家ですわ!」
と、天女の様に美しい笑みを浮かべるモモに
…いかん…
こやつと話せば話すほど、頭がこんらがってくるわ…こやつ、頭がイカれとるんじゃろうか?
「…あ!ちなみにですが、ロゼ君は何かの気配を頼りに異世界へ行こうとしていたみたいでしたが無駄でしたよ?
基本的に、異世界へは自由自在に行き来する事なんてできません。中には、異世界者を召喚するなんて術もある様ですが。自らが異世界へ行くという事は不可能に近く、行けたとしてもそれなりのリスクがあるのだとか。
よくありがちなのは、時空や空間の歪みができて運悪くその中に入り込んでしまった人達もいるようですが…。
そうなると、異世界へ行くかパラレルワールドへ行くのか…はたまた、タイムトラベルなる過去だったり未来だったりに迷い込むか。そんな事も結構あるようですわね。」
…へ、へぇ〜
そこまで詳しくは知らんかったわ
と、ボヘ〜と聞いていたロゼだが、次のモモの発言により大きな衝撃を受ける事となる。
「あのまま空間を移動していたら、今頃ペシャンコになって魂は空間の狭間から抜けられなかったでしょう。
その前に、ワタクシがロゼ君をここに連れて来れて良かったですわ。」
……ゾォ……
う、うっそぉぉ〜〜んっ!!?
異世界に行くって、そんな大変な事だったんか!?
ダリアが簡単そうに異世界へ行ったのを見て、我でもできそうな気になっとったわ!!
…あ、危なかったぁ〜〜〜
何気に、モモに助けられた形になっておったのね、我!何はともあれ、モモのおかげで命拾いしたんじゃな
と、ロゼはモモにお礼を言おうとしたが、モモの説明を遮る事ができずタイミングを逃しっぱなしでお礼を言いそびれていた。
「自らの力で、異世界へ行き来できるとしたら“それぞれの世界の核”“そういった特殊な能力の持ち主”で、それを発動させる何らかの力量も必要ですわ。それに、核は自分達の世界の均衡を守る為にその世界から出る事は禁じられてますし。」
…な、なるほど
異世界への行き来は、少なくとも不可能ではないが様々な条件を満たさんと無理があると言いたいのか?
「さ、時間がありませんわ!ちゃっちゃと修行しちゃいましょう!」
「…う、うむ!」
「…あ!言い忘れてましたが、肉体年齢は元の時間と同じ速度で進むので安心なさって下さいまし。そして、元の時間が半日、ここの時間が10年経過するのは力と精神のみ。
そういう風にこの空間を創りました。さすがに、元の世界に戻って自分だけお年寄りになってたら可哀想なので。そこを妻に指摘されるまで気が付きませんでしたが。
代わりに、肉体と精神には多大な負荷が掛かりますので心して頑張って下さい!」
「…へ?妻の指摘がなければ我だけお爺ちゃん…?それに、ふ、負荷じゃと…!?」
「まあ、それはさて置き、そろそろ来ます。」
と、モモが視線を向けるとそこには、凶々しいドス黒い紫色の不気味な巨大なドアが出現した。
それは、ゆっくりと開き
中なら、…3才くらいの男の子が出てきた。その瞬間、巨大な門は消え
「よく、来て下さいました。ここで、本名は名乗れないので、マオって事にしておきました。マオ、この方がマオの弟子になるロゼ君です。遠慮なくビシバシ鍛えて下さいましね。」
と、勝手に紹介されたロゼ。
そして、いつの間にか玉座を作り偉そうにロゼを見下ろす幼児。
顔は布で隠されていて、その姿を見る事はできなかった。
「……オイ、雑魚。俺が気に入らなかったら即刻、修行はやめにするからな。」
「…は、はあ?だ、誰が雑魚じゃ!?誰がっ!!?」
「キーキー、ウッセー。…あと、約束ちゃんと守れよ?」
と、幼児はモモに視線を向けると
「もちろんですわ!」
モモは天女の様に微笑んだ。
「…チッ!しゃぁーねー。」
マオ(仮)という幼児は、仕方ないとばかりに面倒くさそうに怠そうなため息を吐き頭をガシガシかいた。
そして、何やら聞き覚えのない奇妙な呪文と複雑な手の組み式を行うと、いきなり大きな箱が現れ幼児は大きな箱の中に飲み込まれてしまった。…と、思ったら
さっきまで、そこに何も無かった筈なのに
いつの間にか、黒髪サラサラのロングヘアーの美丈夫がいた。帽子を深く被ってはいるものの、溢れ出るフェロモンと美貌は隠しきれていない。おそらく、規格外の美貌の持ち主なのだろう想像がつく。
身長は、190cmは越えているだろう。筋肉もガッチリついてるが、ハッキリとした逆三角形でそれがまた美しい。
立ち姿で分かる。コイツは、奇術云々抜きで規格外に強いと。鬼の時とは違う恐怖。
…ただただ、この美丈夫が怖い。圧倒的、悪のカリスマ性を持ち危険な香りが漂う様だ。
「ガキの俺の召喚だ、時間も限られてる。時間ねーんだろ?さっさと始めるぞ。」
と、何故かロゼの事情を知っている風な美丈夫は………
「…ヘッ…?…ヘアッ…!!?ギャッ…ギャァァーーーーーーッッッ!!!!??」
…ここから、ロゼの地獄の修行が始まる。
なんて邪な心で充満してるんだ、お前は!」
と、サクラを見て驚いた表情を浮かべ呆れるマーリン。
「お前の魂の中身はショウを中心に回ってる…というか、ほぼほぼショウで占められてるな。
ショウへの愛欲、劣情、執着、献身、奉仕、…ショウへの様々な欲で満ちている。自分の全てをショウに捧げる事に尽くす事に歓喜し多幸感を感じている。…キモッ!」
部屋を出て、すぐにこんな事を言われ苛つくサクラだがここで疑問。
「…何で、初対面の相手にそんな事言われなければなんねーんだ?それに、魂ってどういう事だ?」
「カァーーーッッ!!見た目は、性にも人にも興味ありませんってスカした容姿をしてるが、中身はショウ限定ドMのド変態のエロ助だな。その人形みたいな容姿やすました態度してるくせに、中身はショウへの執着でドロドロ。
挙げ句にエロエロ過ぎてそのギャップにビックリするわっ!ドン引きだわ…わぁ〜、マジでキモ〜…。
リュウキが、ショウからお前を引き剥がしたくなる気持ち。よぉ〜く分かるわぁ。」
と、ウヘェ〜とゲンナリしながら、サクラの質問なんて聞いてなかったかの様にマーリンは言いたい放題言っていた。
自分の質問は無視されるわ、散々な言われ様に元々短気なサクラはカッチーンときて
「…何で、テメーにそれが分かるんだ?
それに、キメェのはテメーだ。あのクソカスリュウキを好きとか本気か?男の趣味悪過ぎんだよ。クソババァ。」
と、マーリンが熱を上げてるらしいリュウキの名前を引っ張り出してきた。すると
「おいおい、お前の目は節穴かよ?
リュウキ程のいい男なんざ、世界中どこ探したっていねーぞ?
なんだ、リュウキがいい男だからって嫉妬か?男の癖に嫉妬なんて、見っともないったらありゃしないな。クソガキ。」
愛しい男を貶されマーリンはサクラの話を無視できなくなったようだ。
「…テメー、ムカつく。」
「ハンッ!そっくりそのままお返しするね。
だが、愛しの未来のダーリンに頼まれちゃ、しゃーねーよな。惚れた弱みってやつだ。」
「…は?よく、言うな。あのクソカスの頼みを今の今まで断りづづけてたくせに、よく言う。」
ここで、二人は互いに確信した。
コイツとは、相性最悪だ!大っ嫌いだ!!と。
「そりゃ、お前みたいなスカしたヤローが嫌いなだけだ。それに、お前の波動は異質だ。」
「…異質だと?」
「ああ、異質も異質。ムカつくが、お前の波動は“祖”と、言っていい。」
「“祖”?」
「そうだ。“祖”とは“ものの初め”。そこからその力が幾重にも枝分かれしていく。当たり前の話だが、力は“祖”に近ければ近い程強い。
枝分かれするにしたがって、その力は薄れていくのだからな。それは、魔法・魔導も同じ。
だから、驚いた。あそこにいる、子猫は“魔導の祖”を持ち、ゴリラ女と一緒に居た少年は魔導の祖に非常に近い。もはや、“祖”と言っても過言でない程だった。」
「…あのクソ猫なら分からないでもないが…」
「近いうちに、あの少年は得S魔道士以上になるよ。あの子は異質だよ。
あの子が存在するなら、波動や魔導のランクをもう一つ作るべきだ。
ちなみに、あの子猫はランクに収めるなんて考えたらダメだ。あの子猫は私達とは別次元にいる。人と思ってないよ、私は。だから、あの子猫の場合はランクに入れたら失礼になっちまうと思ってね。」
と、マーリンが言った所でサクラは驚いた。コイツ、人を褒める事もできるのか!?と。
それに、フウライが強いのは知っていたが、まさかそこまでとは思ってなかったし、ロゼなんかに敬意をはらってるのが…なんか悔しい。
「本来なら、“祖の波動”を持っているサクラも、子猫同様に強くなって当たり前なんだが…おそらくお前と子猫とでは全然違うな。」
と、可哀想なものを見る目でサクラを見てマーリンは力無く笑った。
ロゼと比べられるという地雷に、サクラはギリッとマーリンを睨み米神にピキッと青筋が浮かぶ。本当は胸ぐらを掴もうと手を伸ばしたのだが、スルリとかわされ挙げ句、マーリンの姿を見失ってしまった。
「…全然違うだと?同じ祖の力を持っているって言ってなかったか、テメー。」
「…あー、ヤダヤダ!レディーに優しくできない男はモテないよ?」
声のする方を見れば、マーリンはサクラの頭上に胡座をかき座っていた。気配も重さ、体温さえ感じなかった。どうなってるんだと焦る前に、ムカつく方が勝りサクラはマーリンをブン殴る為に拳を振るった。
しかし、手も足も出ないという事はこういう事なのかと思うほどに簡単に避けられ
最悪な事に
「ほーら、がんばれ〜!」
なんて、アハハと笑われ応援されてしまっている。悔しいし、何より屈辱だ。
サクラは、魔導や波動よりも武術や武器術が得意だ。根っからの武闘派。
だから、武術に関しては自信があったのだ。
「ハハッ!いいね!お前、面白いよ。そんな形して、ゴリッゴリの武闘派かよ!!オレもビックリだ。」
それを、面白そうに目を輝かせサクラの実力を見ているマーリン。
「オレのいうお前とロゼの違いってのは単純さ。ロゼは“天才”、お前は“努力”って、感じだ。つまり、ロゼは一を知り十を知る。思いついたら、すぐできちゃう天才。しかもだ、最初から力が備わっていて、そのコントロールもすぐにマスターしてしまう。
潜在能力も眠っている様だ。それは子猫の努力次第で目覚めさせ更に力を引き延ばす事ができる。だが、お前は違う。」
「クソ猫と俺を比べてんじゃねーっ!クソババァッ!!」
ガムシャラに、様々な体術の技を駆使してマーリンをぶちのめそうとサクラは奮闘するも
「お前の場合は、その筋のトップレベルの師匠や先生に教えてもらって死ぬほどの努力を重ねなければ力をつけられないタイプの努力型なんだよ。」
「…は?」
「“同じくらいの力や才能を持ってる”って言ってもね。ザックリ分けて二種類あるとオレは考えてるよ。」
「…?」
「そもそも、この世は何に対しても不平等だ。
金や権力、美も含めて。特に、才能や力なんざ潜在能力として個々の中に眠っている。
だから、みんなそれを持ってるとは限らないし、最初からどこまでが限界か決まってる。
もし、何かかしらの才能や力があったなら、その力をどう引き伸ばし才能を開花させるか。」
…これって、つまりは…
「いくら才能があっても、どう足掻いても“差”があるって事さ。才能のない奴が、どう足掻いて努力したって無駄。
無駄な努力がないってのは、そもそも才能あってこその話。…あとは、己を知る事ができるってあたりかな?
それに、同じポテンシャルを持っていても感覚的に直ぐにできてしまう“天才型”少し習っただけでできてしまう“秀才型”。
…そして、血反吐を吐きながら誰よりも惜しみない努力を重ねなければ習得できない“努力型”。」
ここで、サクラはマーリンに心の中で突っ込んだ。ザックリ分けて二種類って言ったじゃねーか!三種類に増えてんじゃねーか!と。
だが、マーリンに攻撃しても全然当たらなく体力ばかりが削られ、喋る気力もなくなっていたのだった。
「お前は、その中の“努力型”だ。
下手な師に教えてもらえば、変な癖がつきせっかくの才能も崩れてしまう。それに、一つの事に集中する時間が無ければ、出来るものもできなくなってしまう。
だから、敢えてリュウキは今までお前に師匠を付けなかった。そして、今回オレがサクラの師匠になる事を承諾した事で、それに集中させる為にお前からショウを引き剥がしたと考えてる。」
…あの、スソカスがそこまで考えるか?と、サクラは疑問を持つも、マーリンの言っている事も一理ある。悔しいが、またあの鬼が出てきたらリュウキの言う通り真っ先に狙われるのは自分。…今の自分では足手まといにしかならない事も確か。
ショウを守るどころか、吐き気がするほど気持ち悪いが、ショウの目の前で自分が鬼にいいようにされる可能性も高い。それは、何よりの屈辱だし…そうなったら、穢れた自分はもうショウの側にはいられない。
…そんなのは絶対に嫌だ!
こうなったら、血反吐を吐こうが何だろうが死にものぐるいで習得してやる!天才とか、ぶっ壊してやる!!
見てろ、クソ猫がァァァッッ!!!
と、サクラはメラメラと闘志を燃やすのだった。
「…いいね、いいねぇ!お前、意外と熱い漢だったんだな!ハハハ!」
ーーーーー
「…ブエェーーークショィンッッッ!!!?
…おお?何じゃ??先程から、寒気が止まらぬ。知っておる誰かの殺意を感じる…」
と、ロゼはブルブルと悪寒を感じながらショウのほっぺにピッタリとくっ付いた。
「…大丈夫?」
そんなロゼを心配して、ショウはロゼを抱っこして撫でてあげた。
「おにゅししゃまぁぁ〜〜ん!ゴロゴロ…」
ロゼは、ここぞとばかりにショウに甘えつつも考えていた。
…むふぅ〜!お主様の匂いだぁぁ〜い好きじゃぁ〜
それに、むふむふぅ〜!この何とも言えぬ触り心地…こんにゃ、我をダメにする心地よいふわふわ、プニプニ…はわぁ〜幸せじゃぁ〜
…じゃなかったわ!
サクラが修行に出るのは良いとして問題は我じゃ。我は、あの鬼我目の前にして身動きどころか声さえ出んかった…
あれで、鬼は不完全じゃという
不完全とはいえ、この世界最強の魔道士ダリアでさえ敵わなかった相手
…いや、それでもダリアとて不完全ではあったが…
じゃが、ここで言える事はあの鬼を目の前に、抵抗できたのはダリアのみであった
そして、鬼はダリアより格上だという事実
ならば、我はどうすればいいのか
我は魔道士ではあるが、残念な事にダリアには及ばない
…及ばない?そういえば、我は今まで努力をした事があったじゃろうか?
いや、かなりの努力はしてきたつもりじゃ
…じゃが、今は“つもり”では、いかん次元にきておる。かなりでも、つもりでもいかん…
自分の限界を超えなければならぬ時
死ぬ気で、力をつけねばお主様を守る事はおろか…中性的で男とも女ともとれる容姿のダリアや、しっかり男と分かるものの中性よりのサクラなら分かりたくないが、分からんでもない。
あの二人に対し“嫁”と呼びたくもなるやもしれぬ。
じゃが!我は、よく大剣使いの剣士と勘違いされるくらいには男らしい容姿をしておると自負しておる。
そんな我に向かって“嫁”などいう、あの鬼は…美的感覚がおかしいんじゃろか?
…ゾワワ…!!
このままでは、お主様を守るどころか我の尻を守る事もできぬやもしれん…やじゃぁ〜…オエェ〜…!無理無理無理!!!絶対、無理じゃ!!我の身も心もお主様だけのものじゃぁ〜〜〜!!!
それには、限界を超えて更なる高みを目ざさねばならぬ!ダリアをも超える大魔道士にならねば!
…その為には…!
…すっごく嫌じゃが、本当に嫌じゃが致し方あるまい…!!
それもこれもあの鬼のせいじゃ!
そして、お主様と我の尻を守るんじゃ!!
と、ロゼは心の中で強く誓うのであった。
そうと決まれば
「…お主様、相談しとぉ事があるんじゃが…、あと、ソチ達にもじゃ。」
ロゼは、そう言うとキリッと表情を引き締めた。…が、ショウに抱っこされてるので、その場が全然引き締まらなかった。
「今度、鬼が出てきても我は鬼に対抗する術がない。そこでじゃ、我は朝から夕方まで修行に出ようと思う。じゃから、その間ソチ達は今まで以上に気を張ってお主様をお守りしてほしいのじゃ。もちろん、お主様のピンチには瞬時に駆けつけられるから安心してほしい。」
と、ロゼはショウの耳を着飾る美しい薔薇の飾りにキスをした。それを見て、オブシディアンとシープはなるほどと思った。
『分かった。もとより、そのつもりだよ。』
そうオブシディアンは答えた。
「お主様ぁ〜、少しの間離れてしまうが大丈夫かの?」
ロゼは心配そうに、ショウを見上げと
「サクラもロゼも頑張るんだもん!私も頑張る!!」
と、ショウは泣かないように顔に力を入れ、クシャクシャになって出ないように踏ん張っても勝手に出てくる涙に、ロゼは心苦しく感じショウの涙をひと舐めすると
「夕方には帰ってくるゆえ……っ!!?我も寂しいっ!本当の本当は、お主様と少しも離れとうないっ!!じゃが、今はそうは言ってられんのじゃ…!」
ロゼは人の姿に戻ると、ギュッとショウを抱きしめた。一向に離れようとしないロゼにオブシディアンは苦笑いし
『少しの時間さえ惜しい。寂しいだろうけど、ロゼ時間だよ。』
と、言ったところでロゼは名残り惜しそうにショウから離れると
「ロゼ、いってらっしゃい。」
なんて、ショウに言ってもらえてロゼの心はキュンとした。
「…行ってきます、お主様。」
ロゼは、ショウの頭にキスをするとどこかへ消えてしまった。
「ショウ様、行き先が決まりました。向かうのは、幻の国である精霊の国です。」
「「…せ、精霊の国!?」」
オブシディアンから、思いもよらない行き先を告げられ目が飛び出すほど驚くショウとゴウラン。
「…い、いや、幻の国ってマジであるのか?そもそも、どこにそんな国が存在するんだ?」
と、ゴウランはオブシディアンの言葉がいまいち信じられず、だがオブシディアンが冗談や嘘をつくような人ではないとも思っているので混乱していた。
そんなゴウランを「…プッ!ダサいな。」と、シープは鼻で笑っていた。…ムカツク!と、ゴウランはシープを睨む前に
『さあ、行こうか。』
オブシディアンは、そう言って不思議な形をした鍵に何ら呪文を唱え、何もない空間へ鍵を突き出し回すとカチャっと鍵が開いたような音がした。
その瞬間何も無かった筈の空間に、巨漢が一人通れるくらいのマーブル状の様々な色が複雑に混じり合った割れ目ができた。
そして、オブシディアンはショウを抱き抱えるとショウの悲鳴と共にその割れ目へと入っていった。それに続き、シープ…破れかぶれのゴウランも入り割れ目は元の空間へと戻った。
ーーーーー
ショウ達が、幻の国へと入っていった時。
ロゼは途方に暮れていた。
「…ヤバイ。…ここは、どこじゃ!?…あれぇ?ダリアが行った異世界とやらに行こうと思うとったんじゃが…はて…?」
そう。ロゼは、新たな人生を歩む為に異世界人となったダリアに、修行をつけてもらおうと微かに残るダリアの気配を頼りに空間移動をしてみたのだが“異世界へ行く”と、いう未知なる試みは失敗し何処か分からない空間に入ってしまった様だった。
しかも、いくら魔導を使おうとしても使えない。何がどこにあるかも分からない何も見えない真っ暗な空間。だが、動く事はできる為とりあえず歩いてみるも果てが無い様な気がしてきた。
どのくらい歩いたか分からない。ここに来て散々魔導を使おうと試みて悪あがきしても魔導が使えないと分かってからロゼは、もうヘトヘトで足の裏も痛くて立ってる事も辛くなるくらい歩きに歩きまくった。
こんなに歩いた事のないロゼは、足がパンパンで汗も滝のように流れていた。
「…こんな筈じゃ…」
歩きすぎて体力の限界を迎えたロゼは、とうとう地面に座り込み天を仰ぎ途方に暮れていた。
だが、何も見えない為、本当に自分はそこに座っているのか上を見上げているのかよく分からない気持ちになる。
…あまり時間が経ってないような、随分時は過ぎ何日…何週間経ってしまったような時間の感覚さえ分からない。
魔力さえも感じない。諦めきれず、何度も何度も魔導を使おうとしたが一向に発動する気配すらない。
少し体力が回復し、ロゼは出口を探し再び歩き出す。
それを、どのくらい続けただろうか?
何度も何度も諦めず
「…お主様の元は必ず帰るっ!!」
それだけを心の支えにして。
どのくらい時間が経ったのだろう?ショウは大丈夫だろうか?また、あの鬼が現れていないだろうか?
…もしかしたら既に何年も経っていてロゼは行方不明になっているとみなされ、もうこの世に居ないものとしてみなされてるのかもしれない。
そして、お主様とサクラは…我など忘れ…否!お主様はお優しい方、そんな事はなくとも思い出としサクラと結婚してラブラブいちゃいちゃ…そんなの…そんなのは
「…嫌じゃぁぁぁーーーーーッッッ!!!」
ロゼが、腹の底から叫んだ時だった。
「…わっ!び、ビックリしましたわ!」
と、近くから鈴の音のような心地いい澄んだ声が聞こえた。
…ビクゥゥーーーッ!!?
まさか、自分以外にも人が居ると思わなかったロゼは「ギャーーーーッッッ!!!?」と、悲鳴をあげ飛び跳ねてしまった。
「これは、これは!驚かせてしまい、申し訳ございません。大丈夫でしょうか?」
と、ロゼを心配しロゼに見上げてくる、ダリアと同等レベルの美少女が立っていた。
だが、おかしい。この空間は真っ暗で何も見えない筈なのに、なぜこの美少女だけ見えるのだとロゼは美少女を不審な目で見ていた。
すると、美少女は
「ワタクシの名前は、明かす事はできませんが名前が無いと不便ですわよね?
…そうですわね…う〜ん、そうだ!!ワタクシの娘にちなんで“桃(もも)”と、呼んでくださいまし。そして、あなたはどちら様ですの?何処から、ここへいらっしゃったのでしょう?」
と、ロゼに質問を投げかけてきた。
「…我の名は、ロゼ。我の力の強化の為に、異世界へおるある人物に会いに空間移動したんじゃが、どうやら失敗してここへ迷い込んでしもうたらしい。」
相手が誰かも分からないのに詳しい話をする訳にもいかないし、何の気配も感じられないモモが不気味で仕方なかった。だから、下手に嘘もつけなかったのだ。
しかし、見た目は12才くらいだろうか?自分とさほど年が離れていないように見えるが…いや、世の中には大人に騙されたり売られたりして幼くして子供を産む可哀想な子供も大勢いる。そんな感じなのだろうか?
「…ソチは、何故にこのような場所へ来たんじゃ?」
と、ロゼがモモに質問すると
「……え?……ハッ!!?そうだった、そうでしたわ!!思い出しましたわ!!?お仕置きです!」
なんて、最初なぜ自分がここに居るのか分からないといった感じに首を傾げ、しばらく考えた後、ハッと何かを思い出したようで意味不明の事を口に出していた。
「…む?」
「あのですね!ワタクシのお師匠様がご乱心なさいまして、一つの異世界を滅ぼそうとしておりますの。」
「…い、異世界を滅ぼす…じゃと?」
「はい。これはお師匠様の自業自得でありますのに、あまりに無責任かつ惨忍!残酷、バカ!ですので、お師匠様の唯一の弟子であるワタクシが責任を持って止めなければとここへ参りましたの。ワタクシの妻なら即解決できますが…少々問題もありまして…ハァ…」
……ん?
ちと、言ってる意味が分からぬのぉ〜
そもそも、妻って…同性婚じゃろうか?では、娘とは…?
「…ソチは、奥さんがおるのか?子は里子かえ?」
デリケートな話なんだろうが、どうしても気になって思わず聞いてしまったロゼ。
「…確かに、妻というと“彼”は怒りますでしょうね。ですが、娘を産んだのは正真正銘“彼”ですし、種付けしたのはワタクシ。
そして、妻のお産に立ち合い我が子をこの手で受け取りましたので、娘はワタクシと彼の子供で間違いございませんわ。」
聞けば、聞くほど意味不明である。このまま聞いてると頭が混乱しそうなので、一旦話題を変える事にした。
「では、モモ殿の師匠が一つの異世界を滅ぼそうという話は、どういった経緯で知ったんじゃ?そもそも、何故ソチはここに?」
「ワタクシ達の世界では、“大きな三つの核”と“12の核”が宇宙を支えております。このうちの一つでも消えれば、ワタクシ達の世界は大きく乱れます。そして、その中でも三つの核が消えれば確実に消滅しますわ。
その内の一つ“魔”を司る者は、自身の力を別の者に託して消滅致しました。」
「…なっ!?では、ソチの世界は大きく乱れておるのではないのか?今は、どうなっておるんじゃ?」
と、ロゼは驚き、声を荒げモモに聞いてきた。もしかしたら、モモはその乱れた世界から命からがら逃げ、この空間に迷い込んでしまったのかもしれないと思ったのだ。
「大丈夫ですわ。さっきも言った通り、核の一人はある人物に自分の力を託したと。
本来なら、そのような事など不可能ですが“魔導”とは何でもアリなのですね。それを彼はやってのけてしまったのです。
ですので、彼の力を引き継いだ方々が存在しており、慈悲深い彼は自身の抜け殻を核となるよう術を施しておりますのでそこは大丈夫らしいです。」
と、聞いてロゼは体の力が抜けた。
「…ただ、問題はそこにあるのです。」
「…問題じゃと?やはり、抜け殻になった核に欠陥でもあったかのかえ?」
「いえ。そこは、魔の核には抜かりはなかったようですわ。」
「…と、いうと?」
「魔導の核は、自身の魂や意識だけ消滅させたと聞きました。…お恥ずかしい話…ワタクシは、自分で言っててよく分かってないのです。妻が話していた一部をお話ししているだけなので…。他にも色々言ってましたが…忘れちゃいました。家に帰ったら聞いてみますわ。」
…知的な容姿なのに、頭の中身は残念な女子…じゃなかった!男の子じゃったかぁ…あちゃー
「とにかく!よく分からないのですが、魔の核は自身の全魔力を自分の愛する人の子供に与えたそうです。
そして、自分の血を使った魔術を行い、自分の魔導の能力に耐え得る器を作ったらしいのです。その器達は、器の限界まで魔導の核の能力を吸い取り全てを器達に与えた魔の核の能力と力、魔力は抜け殻となったと聞きました。
…何を言ってるのか、さっぱり分かりませんが!」
ほんにっ!!めちゃくちゃ大事な話じゃし、見た目が賢そうなだけに残念な男の子じゃ!
「そして、ワタクシの妻が言うには、魔の核には軽薄で最低な旦那さんが居て、その旦那さんを見限りたいけど愛するあまり振り切れず。
そんな自分が嫌で、自分が消滅する事で解決しようとした卑怯者だと。
そして、魔の核が消えて初めて、魔の核の大切さに気付いた間抜けな旦那さんは、魔の核を復活させようと躍起になってると言ってました。…難しい話ですが…」
…うむむぅ〜
残念過ぎる頭じゃ。商工王国聖騎士団長のハナといい勝負ができそうな頭の出来じゃ
じゃが、この話は…まるで…
「…そうです。その魔の核を復活させようと躍起になってるバカが、ワタクシの元師匠なのです。」
馬鹿にバカって言われる師匠って一体…
「ワタクシの師匠は、元来とても頭のいい方なのですが、大切な方を失って正気を失っているのでしょう。
ワタクシの妻の話では、魔の核が自分の能力を与える為だけに作った器達を集め一つにして元に戻すつもりだと言ってました。」
こ、この話の内容は…!
…ドクン、ドクン…!
「魔の核が創り出した器達は、魔の核の分身ではなくその器に魂が宿り個々として存在しているというのにです。
おそらく、師匠は自分の知り得るありとあらゆる知識と能力、力を駆使して無理矢理にでも、魔の核を復活させようとしているのでしょう。
己の欲の為だけに、人の命を犠牲にする事は決して許されない!しかも、自業自得な自分の不始末でだ!!
ボクは、ボクの尊敬する師匠が愚かな事をする事なんて見てられない!」
…あれ?途中から口調が、かわっちょるが…
我の考えが正しければ、この話は我らに大きく関係する大事な話の可能性が高い
しっかり、聞かねばならぬ気がする
「だけど、師匠の愚行を止めようにもボクには異世界に行く術がない。師匠の行方を探し出すのも困難。
なら、師匠が狙っている魔の核の器達のうち、ボクの力を扱える能力がある子にボクが徹底的にボクの教えられる限りの事を叩き込み師匠を止めてもらいたい!
そう思い、ボクの術で魔の核の器の中から、ボクか或いはボクの知人の能力に適する器をボクの創り出したこの空間に呼び寄せたッス!」
そう、モモは言ってきた。
「ボクの師匠のせいで申し訳ないッス!
ただ、君達の命が狙われてる今、ボクにできる事といえば君にボクが修行をつける事しか思いつかなかった。…と、言いたい所ッスが、君の世界にボクの能力を強える人がいない!!
だけど、魔導から枝分かれし独自の進化を遂げた能力“奇術”を使える最高峰をボクは知ってるし、話はつけてあるッス!」
…え、エェ〜〜〜!!?
奇術とは何ぞや???
…まあ、確かにモモのような貧弱そうな男の子が我に稽古なんぞつけられるとは思うとらんかったし不安しかないから、その最高峰の奇術使いが師匠となってくれるんじゃったら…
まあ、ギリそこだけは良しとするか
「…だけど、薄情と思われるかもしれないですが、ワタクシには愛する家族がおりますので時間は限られております。
どうか、その時間内に力をつけてワタクシの師匠を正気に戻してほしいのです。お願いします…どうか、ワタクシの知り合いに稽古つけさせてもらえないでしょうか?」
と、知人をロゼの師匠にさせてくれと志願してきたのだ。だが、残念だけど、こんな儚そうなダリアと同等の美しさを持つ美少女…じゃなかった、美少年はとても軟弱そうで強そうには感じなかった。
「…ちなみにですが、ご察しの通りワタクシの修行の妨げになりますので、ロゼ君の魔導を封じさせていただきました。」
と、モモが言ったところで、ロゼは前言撤回した。つまり、ロゼの魔導を封じる事が容易いほど、モモの実力は相当なものだという事。
…ゴクリ…!
「…質問じゃが。ソチの師匠は人形で赤い肌。白髪のワイルドイケメン。そして、10本程の角が生えておる2M程の大男かえ?」
「その通りです。分類するなら、人型の鬼とでも言いましょか。」
…ドクン、ドクン!
やはり、そうじゃったか!
これは、間違いない
「…ソチと師匠が戦えば、どちらが強いかのぉ〜」
ロゼは、答えなんて分かりきっているものの意地悪でこんな質問をモモにぶつけた。
別にモモが悪い訳じゃないのは分かっているが、何か色々と気に入らない話、受け入れがたい話ばかり。それに、いきなりこんな場所に連れて来られロゼの計画も台無し。だから、八つ当たりみたいなものだ。
「……実際に本気で戦ってみなければ分かりませんが、恐らくですが五分五分といった感じでしょうか?」
と、言うモモに、ロゼは
「……へ?…あ、聞き間違いかの?」
信じられないとばかりにモモを凝視した。
「師匠の愚行がワタクシの耳入れば、ワタクシが止めに行く事など師匠はお見通しだったのでしょう。
ですから、師匠は自分の居場所をあちこちに移動させワタクシに見つからないようにしているのです。先程も言いましたが、師匠はワタクシ達のいる世界で一番知識のある方です。智の頂点だといっても過言ではないかと思います。」
…いや、頭がいいとは聞いたがそこまでは聞いとらんぞ?
「ですから、頭のいい師匠からすれば、ワタクシの目から逃げる事は容易い事でしょう。
史上最強を誇るワタクシの妻が動けば一発なのですが、なにせワタクシの妻は唯我独尊の傍若無人男ですから…ハア…。
こんな事では、決して動かないです。これは自信を持って言えますわ!
なので、ワタクシができる事といったら、これくらいしかできません。どうか、ワタクシの知人の修行を受けて下さいまし!」
…師匠に弟子入りは分かるが、知人の弟子になってほしいと志願する鬼の弟子…なんか複雑な関係じゃのぉ〜
何はともあれ、信じられん話じゃが
今は藁にもすがらねば
とりあえず、やってみるしかない
時間がないのじゃ!
「…ソチの話は、信じられん話も多いが。今はそうも言ってられん。その修行とやら受けてみようぞ。もし、これで何の成果もなかった時には……速攻で修行をやめるからの!そのつもりでの!!」
「……ッッッ!!?あ、ありがとうございます!ありがとうございます!!」
と、ロゼに感極まったように、パアァァ!と、純粋な喜びを見せ何度も頭を下げるモモと上から目線のロゼ。
二人の間で時間指定込みの条件付きで、モモの知人抜きで勝手に師弟の契約が交わされた。
「ちなみにですが、この空間は時間がとても早く進むように創りました。そして強力な結界術も施しましたので師匠に見つかる事もないでしょう。ここでの10年は、ロゼ君の世界ではたったの半日。早くロゼ君が、力をつけてくれる為にワタクシ、ちょっと無茶して頑張って創りました。おかげで、最初ちょっと記憶がぶっ飛んじゃいましたが。ふふっ!」
「…にゃっ!?そ、そんな事が可能なのか!!?ソチは一体、何者なんじゃ!!」
「そう言われましても、もう現役を退いてますし…敢えて言うなら娘を溺愛する母であり、妻を愛する愛妻家ですわ!」
と、天女の様に美しい笑みを浮かべるモモに
…いかん…
こやつと話せば話すほど、頭がこんらがってくるわ…こやつ、頭がイカれとるんじゃろうか?
「…あ!ちなみにですが、ロゼ君は何かの気配を頼りに異世界へ行こうとしていたみたいでしたが無駄でしたよ?
基本的に、異世界へは自由自在に行き来する事なんてできません。中には、異世界者を召喚するなんて術もある様ですが。自らが異世界へ行くという事は不可能に近く、行けたとしてもそれなりのリスクがあるのだとか。
よくありがちなのは、時空や空間の歪みができて運悪くその中に入り込んでしまった人達もいるようですが…。
そうなると、異世界へ行くかパラレルワールドへ行くのか…はたまた、タイムトラベルなる過去だったり未来だったりに迷い込むか。そんな事も結構あるようですわね。」
…へ、へぇ〜
そこまで詳しくは知らんかったわ
と、ボヘ〜と聞いていたロゼだが、次のモモの発言により大きな衝撃を受ける事となる。
「あのまま空間を移動していたら、今頃ペシャンコになって魂は空間の狭間から抜けられなかったでしょう。
その前に、ワタクシがロゼ君をここに連れて来れて良かったですわ。」
……ゾォ……
う、うっそぉぉ〜〜んっ!!?
異世界に行くって、そんな大変な事だったんか!?
ダリアが簡単そうに異世界へ行ったのを見て、我でもできそうな気になっとったわ!!
…あ、危なかったぁ〜〜〜
何気に、モモに助けられた形になっておったのね、我!何はともあれ、モモのおかげで命拾いしたんじゃな
と、ロゼはモモにお礼を言おうとしたが、モモの説明を遮る事ができずタイミングを逃しっぱなしでお礼を言いそびれていた。
「自らの力で、異世界へ行き来できるとしたら“それぞれの世界の核”“そういった特殊な能力の持ち主”で、それを発動させる何らかの力量も必要ですわ。それに、核は自分達の世界の均衡を守る為にその世界から出る事は禁じられてますし。」
…な、なるほど
異世界への行き来は、少なくとも不可能ではないが様々な条件を満たさんと無理があると言いたいのか?
「さ、時間がありませんわ!ちゃっちゃと修行しちゃいましょう!」
「…う、うむ!」
「…あ!言い忘れてましたが、肉体年齢は元の時間と同じ速度で進むので安心なさって下さいまし。そして、元の時間が半日、ここの時間が10年経過するのは力と精神のみ。
そういう風にこの空間を創りました。さすがに、元の世界に戻って自分だけお年寄りになってたら可哀想なので。そこを妻に指摘されるまで気が付きませんでしたが。
代わりに、肉体と精神には多大な負荷が掛かりますので心して頑張って下さい!」
「…へ?妻の指摘がなければ我だけお爺ちゃん…?それに、ふ、負荷じゃと…!?」
「まあ、それはさて置き、そろそろ来ます。」
と、モモが視線を向けるとそこには、凶々しいドス黒い紫色の不気味な巨大なドアが出現した。
それは、ゆっくりと開き
中なら、…3才くらいの男の子が出てきた。その瞬間、巨大な門は消え
「よく、来て下さいました。ここで、本名は名乗れないので、マオって事にしておきました。マオ、この方がマオの弟子になるロゼ君です。遠慮なくビシバシ鍛えて下さいましね。」
と、勝手に紹介されたロゼ。
そして、いつの間にか玉座を作り偉そうにロゼを見下ろす幼児。
顔は布で隠されていて、その姿を見る事はできなかった。
「……オイ、雑魚。俺が気に入らなかったら即刻、修行はやめにするからな。」
「…は、はあ?だ、誰が雑魚じゃ!?誰がっ!!?」
「キーキー、ウッセー。…あと、約束ちゃんと守れよ?」
と、幼児はモモに視線を向けると
「もちろんですわ!」
モモは天女の様に微笑んだ。
「…チッ!しゃぁーねー。」
マオ(仮)という幼児は、仕方ないとばかりに面倒くさそうに怠そうなため息を吐き頭をガシガシかいた。
そして、何やら聞き覚えのない奇妙な呪文と複雑な手の組み式を行うと、いきなり大きな箱が現れ幼児は大きな箱の中に飲み込まれてしまった。…と、思ったら
さっきまで、そこに何も無かった筈なのに
いつの間にか、黒髪サラサラのロングヘアーの美丈夫がいた。帽子を深く被ってはいるものの、溢れ出るフェロモンと美貌は隠しきれていない。おそらく、規格外の美貌の持ち主なのだろう想像がつく。
身長は、190cmは越えているだろう。筋肉もガッチリついてるが、ハッキリとした逆三角形でそれがまた美しい。
立ち姿で分かる。コイツは、奇術云々抜きで規格外に強いと。鬼の時とは違う恐怖。
…ただただ、この美丈夫が怖い。圧倒的、悪のカリスマ性を持ち危険な香りが漂う様だ。
「ガキの俺の召喚だ、時間も限られてる。時間ねーんだろ?さっさと始めるぞ。」
と、何故かロゼの事情を知っている風な美丈夫は………
「…ヘッ…?…ヘアッ…!!?ギャッ…ギャァァーーーーーーッッッ!!!!??」
…ここから、ロゼの地獄の修行が始まる。