イケメン従者とおぶた姫。
「…お、おにょれ…!!?アレは悪魔じゃ!正真正銘の大魔王じゃァァァッッ!!!
…ガキの癖に、未来の自分を召喚するなど…そんな事できるとか…!
未来のマオの恐ろしか事…ガラつきの悪さがサクラ以上ってどんだけ危険な男なんじゃ!

ずっと、酒呑んでおるし!アヤツの威圧感で我…ちびりそうになったわ!!酔っ払いめ!!
アヤツは絶対、巨悪の組織のボスか、大魔王じゃ!!そうに違いないっ!!?

それに、あの様な恐ろしか修行を天女の様な慈愛溢れる笑顔で見ておるモモ…イカれとる…モモの頭のネジはぶっ飛んでおる。、、、じゃが、我にはお主様がおる!お主様だけが心の支えじゃぁぁ〜〜…。我はお主様の為に頑張れ…る…」


…パタリ…!

と、相当なまでに鬱憤が溜まっていたのだろう。ロゼは息継ぎもせず言いたい放題叫んで、ショウの隣で力尽きていた。

帰って来るなり、汗や血…泥だらけで汚れに汚れきったロゼであったが、風呂にも入らず倒れるように寝てしまうくらいにロゼはグッタリとしていた。

傷など外傷は全く見受けられないものの、服もボロ雑巾の様にボロボロだ。

これだけで、相手に扱きに扱かれた事が分かる。ロゼが、ここまでグッタリするなんてロゼが師とする相手とは一体、どの様な人物なのか気になるところである。

そんなロゼを労り、オブシディアンに手伝ってもらいながらショウはロゼの体を綺麗に拭いて(ショウは一生懸命やってはいるが不器用かつ鈍臭いので、ほぼほぼオブシディアンがやった様なものだが。)一緒の布団で眠った。


「…ロゼ、いっぱいいっぱい頑張ったんだね。きっと、サクラも…」

そう呟き、彫刻の様な肉体美を誇るロゼの体をギュッと抱きしめ眠った。

だって、ショウだっていっぱいいっぱい頑張ってとっても疲れてるから。

ロゼを抱きしめ眠るショウに


『とても頑張ったね。おやすみ、ショウ様。ロゼ。』

と、オブシディアンは囁き、ソッと二人に掛け布団を掛け直してあげた。



ーーーーー


一方、サクラは


……まずいな。確かに、サクラは努力次第で驚くほど力をつけている。
それに、サクラは手を抜くという事を知らないくらいに真面目が過ぎる。頑張り過ぎて体を壊してしまうタイプだ。…だが!

それでも、時間が足りな過ぎる

と、マーリンはサクラに厳しい修行をつけつつサクラの実力と潜在能力、そして伸び代を見ていた。

鬼と呼ばれている者の気配は、マーリンも感じとっていた。

放たれるものも【気】でもなければ【魔力】でもないこの世界には存在しない異質なもので、かつ特S波動士である自分でさえ足元にも及ばないどころか身動き一つできずいた。自分はその場にはいなく、遠く離れた地にいたというのにだ。

しかも、不完全体…未完成のようなブレも感じたので、その鬼とやらが完全体であったなら…
そう思うと、底無しの沼に落ちる様な恐怖に襲われた。

そんな未知なるモノを相手にするのだ。
だから、少なくともサクラは短期間でマーリンを超える力を身につけなければならない。

悔しいが、いずれマーリンを超えるであろうサクラだがいずれでは駄目だ。
今、この限られた短期間にマーリンの実力を超えてもらわなければならない。

サクラには、それだけの潜在能力が眠っているのだ。

しかし、それは一気に身につくものではない。
自分の体の成長と共に時間をかけ、ゆっくりと時間をかけトレーニングを続け自問自答しながら悩み苦労して手に入れるもの。

さて、どうしたものかと頭を抱えるマーリンに、オブシディアンからの言葉飛ばしがきた。

その報告を得てマーリンは一筋の光が見えた。


「…ま、マジかよ!そんな事ができる奴がいるなんて!そいつ、チート過ぎじゃねーか!?
…バケモンかよ!だが、希望は見えてきたぞ!!」

そして、その趣旨をサクラに伝えると途端にサクラの表情が明るくなった。


「…ショウ様と離れずにいられる!」

さっきまで、負のオーラ出しまくりで死んだ魚の様な目をしていたというのに、今は水を得た魚の様にキラキラと輝いている。

全身からキラキラと眩しい程の輝きが見えるようだ。

こんな風に喜ばれると、次に言う言葉はとてもじゃないが言いづらい。だが、言わなばならない。


「駄目だ。」

「……ア''?」

「いいか?よく聞け、サクラ。明日から、ロゼと一緒の特殊な空間での修行が始まるが、サクラとロゼとではスタート地点から備わっているもの全てが違う。
お前は頭がいいから、もう分かっているだろう?
ロゼはその空間の中だけで事足りるが、お前の場合それだけでは足りないんだ。
モモという男が創ったという特殊な空間での修行、それが終わり次第お前はショウの所へは戻らずオレと旅を続けながら別のメニューもこなしてもらう。」

…可哀想だとは思うが、ショウと離れ孤独や絶望など負のエネルギーで、自分自身を追い込み修行だけに集中してもらわなければ間に合わない。…それでも、間に合うかギリギリのラインだ。

おそらく、少しでもサクラがショウに会い癒されると、そこから余裕が生まれるだろう。
本来ならば、それはとてもいい事だし伸びも早い。

時には、大きな壁に打ち当たりスランプになっても、その癒しと休息から心に余裕ができそれを打破、更なる高みへと繋げる事ができるだろう。

だが、今はそんな伸び代を待ってる余裕がない。極限状態まで追い込み何事にも動じないよう精神を鍛える。

極限の中で生まれる進化。

動物は極限状態にまで追い詰められると思いもよらない力、発想など発揮する事が多い。マーリンはそれに賭けている…賭けるしかない。


「そんな絶望的な顔をするな。お前がやるべき事は一つ。強くなれ、サクラ。
お前には、二つの分かれ道がある。
一つ目は、オレの修行を卒業してショウの元へ帰る。二つ目は、お前が力をつける前に鬼が現れ、ショウもろとも全滅。」

そう、言われサクラはハッとした。


…そうだった!

これは、ショウ様を守る為の修行

何を甘えてるんだ!馬鹿か、俺はっ!!

…絶対に強くなって、ショウ様を守る


「…お!いい目になったじゃないか。
じゃあ、ロゼが迎えに来るまで修行を軽いウォーミングアップでも始めるか!」

「……クッソ…!…最っ悪だっっ!!」


だが、食う寝る以外の時間、ほぼ休憩無しで修行している。しかも、寝ると言ってもぶっ倒れるか、気を失った時だけといっていい。

時間がないとはいっても、適度な休息を取らなければ伸びるものも伸びない。バランスが大事なのだと勉強したが、その事を伝えてもこの脳筋マーリンには通じずこの様だ。

マーリンには計画性という概念がないのだろうか?
いくら、とてつもなく強いからといって人に教える才能があるとは限らない。天才という類の連中は特にだ。
何なくの感覚で、少しでもその道筋が見えれば直ぐにできてしまう。

その典型がロゼだ。おそらく、このマーリンもロゼと同じ天才型なのだろう。

そんな、天才が果たして人に教えて上手くいくのだろうかという疑問が生じる。

そして、力をつける前に地獄のような修行で力尽きてしまいそうだ。…不安しかない。


そして、ロゼの迎えが来てモモが創った空間に入って驚いた。

そこには、ダリアと同等レベルの美貌の美少女と、全身包帯巻きにされお札まみれの…大きさからいって3才くらいの幼児がいた。

そして、自己紹介の後

その幼児は、異質な力を使ってニット帽を深く被った美丈夫へと変わったのだ。

何でも、未来の自分と入れ替える奇術なのだとか。

幼児は未来の自分と入れ替わる術を施す事しかできないが(十分、あり得ない様な凄さだが)未来の幼児は、この時間に留まる術を施し幼児の負担を負いながら6時間という短い時間だがここに居る事ができるという。

6時間過ぎれば、勝手に術は解けるという。

その美丈夫…マオは、危険な香りのする様な魅惑的な容貌でいかにも只者ではない威圧感と覇気が漂う。

ダリアとは違ったカリスマ性を持ち、危険な色気と絶対的王者の覇気を同時に感じる。
マオは尊大な態度ではあるが、あまりに似合いすぎて不思議と反感はなくそれが普通だと思ってしまう。

そんなマオは、サクラをチラッと見て

「…ハンッ!おもしれー。お前、術より武術の方が性に合ってるだろ?」

片方の目を大きく開け、やや大きめの口の端をクイっとあげ笑みを浮かべる姿は…ヴィランそのものだった。
声も、女であったなら腰が砕ける程の美低音。男なら憧れる声でもある。

マオの言葉にサクラはドキリとした。
確かに、サクラは波動や魔導の練習より体を使った武術を好む。

「いいんじゃねーか?お前は、そっちの方が合ってるぜ?ここに居る滞在時間、半分はそこに居る……“お義母さん”に武術を叩き込んでもらえよ。
最終的に波動と武術両方を融合できれば、雑魚(ロゼ)と他にも仲間いろんだろ?ソイツらと力でも合わせりゃ、何とかなるかもな?」

「…おかあさん?」

と、サクラとロゼが首を傾げると


「…未来では、どうなっているのか分かりませんが、あなたに“お義母さん”なんて呼ばれる筋合いはありませんわよ?…今、ここで分からせましょうか?小童くん?」

モモは笑顔で額にビキリと青筋を浮かべ、マオを見ている。

すると、マオは少し後退り


「……とにかく、この提案は有りじゃねーか?」

と、モモに言った。すると、モモは確かにその通りだとうなづき


「しかし、これではリスクも高いですわ。上手くいけば相当なものになりますが、失敗すれば波動も武術も中途半端で何の役にも立たなくなってしまいますわよ?」

「確かに、モモさんの言う通りだ。オレは、マオさんの提案には反対だ。」

と、二人。特にマーリンに反対されたが、サクラもマーリンと同じ意見だった。中途半端になるよりなら一つに絞り徹底的に仕上げる。それがベストだと思った。

なので、何も言わなかったのだが…


「…ハッ!お前、随分舐められてんだな?
期待されてねー出来損ないってわけか!だから、自分は聞き分けのいい良い子ちゃんなんで無難な方に逃げますって?とんだ腑抜けヤローだな。
お前の守りたいもんってその程度か?お前の守りたいもんって大した事ないんだな?」

と、マオはサクラを腰抜けヤローだと罵り、挙げ句ショウの事まで馬鹿にしてきた。

そこでカッとなったサクラは


「…ア''?ふざけた事抜かしてんじゃねーーーッッッ!!!俺の事だけならまだしも、ショウ様の事まで…テメェ〜、絶対、許さねぇーーーーーッッ!!!」

ブチ切れて、マオに飛び掛かっていった。

しかし、何となく想像していたが

サクラが気が付いた時には、急に悶絶どころでない激痛が全身に走り声にならない悲鳴をあげる事しかできなかった。

その惨劇を見たロゼとマーリンは

「…………む、酷い…酷すぎる……!サクラッ!こんな状態じゃ、オレの回復波動を使っても……無理だ…何故、こんな事に……ッッ!!?」

「…さ、サクラァァーーーーーッッッ!!!!??」

と、サクラであった筈のミンチ状になった肉の塊を見て慄いた。

これでは、どんな高位医療魔導や治療を施しても治らないし命が尽きるのも時間の問題だ。


「……加減しても、こんな弱いなんてヤベーだろ?こんなんで“奴”に挑もうって?
忠告してやる。お前が、波動をお前自身の限界まで高めようと奴には勝てねー。
他の連中と力を合わせようが、手の内を見極められてあっという間に負けが決定だ。
確かにお前は波動の祖が備わってるが、それを使いこなした所で奴には歯も立たねーのは目に見えてる。」

と、激痛にもがくサクラに何の感情も持たないかのように、マオは「…チッ!」と舌打ちするとサクラの頭を蹴り

「…聞いてんのか?」

そう言って、感情のない表情でサクラを見下ろした。それを見て


「…き、貴様ッ!!…サクラの頭から足を離さんかっ!!?」

「お前に、人の心はないのか!?」

ロゼとマーリンは、マオの絶対的王者の威圧感に押し潰されそうになりながら叫んだ。しかし、マオの圧倒的オーラに二人は全身滝のように汗が噴き出し呼吸の仕方を忘れ息ができなくなっていた。

そんな二人を見下ろし

「…ああ、この腑抜けを心配してんのか。
安心しろ。ギリギリ死なない程度に急所外してボコったからしばらくは死なねーよ。…それに…」

と、マオがチラッとモモを見ると

気がつけば、マオの鼻と片方の口から血が流れていて…なのに、「…ハ。」と、マオは何か悟ったかの様に小さく笑っていた。

何が何やらだ。

「…やり過ぎです。」

いつの間にかマオの目の前に立っていたモモは、キッとマオを睨みつけると自分の拳についた血を気にせずサクラに向かい手をかざした。

すると、真っ黒なものがサクラを覆い、瀕死でいつ死んでもおかしくない状態だったはずのサクラは傷一つない綺麗な状態に戻っていた。

…服は無残なままなので、ボロ切れとかした服は服の役割を果たせず裸同然になっていたが。


「…ここまで、しねーと分かんねーよ。コイツら。」

と、マオはモモに言うと、フゥ〜と深いため息を吐きながら

「…やり方は、どうかと思いますがマオの言う事には一理ありますわ。本当、やり方はどうかと思いますが。
正直に言うと、今のあなた方が2倍、3倍に増えて束になってかかってもワタクシの師匠に傷一つつける事など不可能です。」

なんて、絶望的な事を言い出してきた。


「…そうですわね。勝てるとしたら、マオが2倍に増えればワタクシの師匠にギリギリ勝てるといったところでしょうか。
ですが、マオの動きすら把握できず…こんな状態になって、ようやく自分がコテンパンに負けたのだと気づく。気付いて、ようやく痛みにも気がつく。それくらい差があるのでは、絶望しかないですわね。」


…ドクン…


そこで、サクラやロゼ、マーリンは、自分達は一体何に勝負を挑もうとしているのかと、目の前が真っ黒になるのを感じた。


「ワタクシの師匠は、主に“法術”“神通力”を得意としています。あなた方の世界には無い力です。そして、ワタクシの妻は“妖術”を使います。これも、あなた方の世界には存在しない力でしょう。

なにせ、あなた方の世界は魔導の祖が創った世界。だから、魔導、魔法、精霊が存在します。ただ、例外に波動が存在するのは…魔導の他にもう一つの力を保有した存在と共に創った世界だという事が分かります。」


…ドックン…

もう一人の創造主が、存在する…だと?

サクラとロゼは、その真実にゴクリと喉を鳴らした。


「……どうせ、“あの人”の受け売りだろ?」

シラけた顔をしてボソリとマオは呟いた。ロゼも、…あ、“例のモモの妻”とやらに教えてもらったんじゃな。そして、モモは自分で言っていてよく分かってないと、可哀想な目でモモを見た。

そんな二人の視線に気づき、モモは


「…もー!もー!もーっ!!
何なのですの!?今、大事な話をしてますのに!その残念そうな目でワタクシを見るのは、おやめ下さいまし!!」

顔を真っ赤にして、プンプン怒っていた。


「アハハッ!!モーモーって、牛じゃねーか!
いい加減、その女装と女言葉やめれば?
どう足掻いたって、アイツは変わんねーよ。」

そんなモモに豪快に笑って見せたマオは、女装とか女言葉とかよく分からない話をしてきた。それに対し、モモは


「仕方ないじゃないですか!!?
ワタクシの子供…
“あんなに可愛い女の子なのに…
一人称は【俺】、語尾は【だぜ】…言葉使いも行動もヤンチャが過ぎる男の子。”
それもこれも……ッッッ!!…もうっ!!
だから!うちには、お手本となる女性がいないので、ワタクシが女性とはこの様な感じなのだと見本を見せているのです!人の教育に、口を出さないでいただけますか?」

と、マオにプンプン怒っていた。

何となく事情は察したが、モモの発想が子供染みてるし…ちょっとバカっぽい。見た目がとても賢そうに見えるだけとても残念な頭をしている。ただ、自分の子供の将来を考え一生懸命に考え大切にしてる事だけは伝わってくる。

それは分かるが残念な頭である。


「ハハッ!無理だろ、そりゃ。
容姿こそ、あんたにソックリだけどよぉ。中身は親父ソックリだろ。あれを矯正するとか人格変えるようなもんだろ。アレはアレで、可愛いだろ。」

「…ウッ…!確かに、ガサツでヤンチャが過ぎますが、真っ直ぐで素直な可愛い子です。…が、やっぱり世の中に出るのであれば女の子なんですし、少しはお作法とか…」

「…ブッハ!アレが、お作法ってガラかよ。人には向き不向きってのがあんだろ。
お作法ってなら、あんたより俺の方がアイツに教えられんぜ?茶道?社交ダンス?王族のマナー?食事の作法?花道?一応、ある程度は学んでお墨付きももらってんぜ?」


…え?このアラくれ(マオ)が、お作法…それはいくら何でもないだろと一同は思ったが


「……もーっ!うちの人もそうですが、あなたも何か何かですのよ!!キーーーッッッ!!!」

つまり、マオとモモの妻(?)は、やれば何でも器用にこなせちゃう人って事かとロゼは目をパチクリさせていた。


「ハ!そんな褒めんなよ。俺だって苦手なもんくらいあるんだぜ?あんたと同じく料理は苦手だし、大事なもん守るって口先ばっかの腑抜けは大嫌いだ。」

と、マオは人を殺めそうなくらい冷たい視線をサクラに向けてきた。


「保身に逃げても絶対勝ち目なんてねーぞ?お前の場合、そのくらいにまでロゼに出遅れてる。
それに、もし何かかしらの希望があるとすれば、お前が波動と共に武術も限りなく極限まで高める事だ。
一か八かテメーの可能性に掛けてみろって言ってんだ。腑抜けヤロー。」


そう言われ、サクラはグッと地面に指を食い込ませ俯きしばらく考えたのち、意を決した様に顔を上げると

「…じゃあ、テメェーが俺に教えろよ。」

とても嫌そうに…だが、ショウを守れるのならと自分のプライドをへし折りマオに武術の稽古をつけてくれるよう頼んだ。

悔しいが、マオの強さは異常でそのくらいでなければあの鬼に対抗する事ができないとも考えたのだ。


「断る。」

「…は?」

散々、サクラを煽っておいて、そりゃないだろうとサクラだけでなく、ロゼやマーリンは思った。

「確かに、俺は誰かさんの影響で武術が好きになった。だが、それはそれだ。
俺とお前の戦うスタイルが、あまりに違い過ぎて相性が悪い。」

「…相性?」

「ああ。一重に武術といったって数えきれないほど流派があるように様々なスタイルがある。自分に合わない戦い方を学んだって、何のクソ役にも立たねーんだよ。」

確かにその通りだと、そこはみんな納得できる所だった。


「この人(モモ)の武術は正統派で何に対しても対応できる万能なら、俺の武術は喧嘩流かつ力押しで偏ってる。
だから、この人に教えてもらった方がいい。」

そういって、マオは親指でモモを指さした。


「…は?」

と、サクラは間抜けな声を出してモモを見る。

身長は160cmほど、桜に攫われてしまいそうに儚くも美しい。そして、慈愛に溢れる天女を思わせる様な想像を絶する様な美少女。
まさに、絵にも描けない美しさという歌が頭に浮かんできそうな美貌の持ち主。

血生臭い事とは無縁で、穢れを知らない幻想的な美しい森の中で、小動物達に囲まれるどこかの物語にでも出てきそうな虫も殺せないような心優しい少女のように物腰の柔らかい雰囲気がある。


「……俺を馬鹿にしてるのか?」

サクラは、揶揄われてるのだと思いマオをギロリと睨みつける。

「……マジか。実力を見極める事もできねーくらい弱いの、お前。それ、かなりヤバイぜ?
まあ、いい。とにかく、二択だ。
波動のみ絞って全滅するか、一か八かだが少しの一筋の希望をとるか。
後者なら、その人に教えてもらえ。それでも文句あるなら、俺が身を持って教えてやってもいいぜ?また、グッチャグチャのミンチになってもいいならな。」


「…ハア。あなたは、何故そうやって人を挑発ばかりするのですか。…とにかく、ハオ……ハッ!違った!!ま、マオは、人に教えられるとは思えませんので、サクラさんにとって不服かと思いますがワタクシに稽古つけさせて頂けませんか?」


「…は?あんたが、俺に…?」


「ものは試しですわ。やってみなければ分からない事もあります。お願いします。」

サクラ達の有無など無視で、サクラ達の意図せずもうそういう方向へと勝手に話が進んでいた。

「そうと決まれば、今のサクラさんの実力が知りたいッス!何処からでもいいし、どんな卑怯な手を使ってもいいんで、僕を倒してみて下さいッス。」

と、緩やかに結んでいた髪をポニーテールに結び直し、女性用の着物はいつの間にか脱いでおり白のジャージ姿になっていた。しかも、言葉使いまで変わっている。

本来の姿はこっちなのだと分かる。だって、こっちのモモの方がとても自然に見えるから。

「でも、マオがこんなに面倒見がいいとは知らなかったッス。」

と、微笑ましそうな顔でマオを見るモモに、少し忌々しそうに

「…まあ、アイツら、俺の双子の弟の性格に似てんだよ。だから、何となくな。」

と、マオは生意気過ぎる弟二人の顔が頭によぎり顰めっ面をしていた。

決して仲が良いって訳ではないし、粗暴で横暴ヤンチャが過ぎる片方には苦手意識を持たれ顔が合わないように逃げれるし。だが、明るく裏表がない為か、意外にも友達も多く学生生活をエンジョイしているようだ。

もう片方は表向き優等生だが、裏ではとんでもないクズらしい話を姉から聞いている。
それも、マオに憧れマオのようになりたいと何をどう勘違いしたのか、そういった勘違い行動をしているらしいのだ。

学生生活は誰にでも分け隔てなく接する善人のフリをしているので、みんなの憧れの的、高嶺の花。しかし、誰にも心が開けず友達という友達がおらず取り巻きしかいない。
裏では、女は取っ替え引っ替えの入れ食い状態で飲酒や喫煙までしているらしい。

…その裏の姿てのが、マオに憧れての真似事だと言うんだったら大きな間違いである。

周りの目から、自分はどう写っているのかとマオは頭が痛くなる気持ちだ。

その内の一つの例が

マオの知らない所で知らないうちに、マオを総帥或いはボスとした巨悪の組織ができてたと知った時。
マジでビビった。身に覚えがないのに、知らないうちにマオを崇拝する巨悪組織ができてるんだから、そりゃビックリするし胸糞悪い。

最初のうちは、誰もそんなの許可してねーとムカついて片っ端から組織を潰していったが…

何故か、潰しても潰してもいつの間にかマオを崇拝する新たな組織ができあがってしまう。相手にしてもキリがなく無駄な足掻きだった。

だから、もうウンザリして今はもう勝手にやってろと放置してる。


話は大分逸れてしまったが、何はともあれサクラとロゼの本格的な地獄の修行が幕を開けたのであった。
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