イケメン従者とおぶた姫。
そして、急遽始まった精霊王会議(怪しい精霊王を除く)に、強制的に参加させられる事となったショウ達。

正直、ラッキーである。

12年前にいきなり、ショウ達の世界に姿を現し
たかと思えば

“このままでは世界は滅んでしまうだろう。それを防ぐためには“宝”が必要だ。世界を救いたければ【宝】を探せ。”

なんて、不穏な予言をし【正体不明の宝】を探せという。

各国首脳達で精霊王を交え、会議をしても肝心の【正体不明の宝】について質問をしても精霊王すら、それが何か分からないときた。

ただ、精霊王は幻術で実際にはショウ達の世界には来ておらず、ただ見せかけの姿を現し自分の言いたい事をいい

この世界の重鎮達の動きに進展がなければ、

“…なんて、無能な輩だ。”

と、自分の事は棚上げで勝手に落胆しここぞとばかりに、ショウ達のいる世界について罵り嘲笑う言動まで見せる。

本当に腹ただしい限りだ。

そして、年に数回ではあるが精霊王都合で無理矢理首脳会議が始まるのも納得いかない。


だが、違うのだ。


やはり、精霊王というだけあって圧倒的力と未知なる能力。自分達が知り得ない膨大な知識量で、皆、逆らえないし…精霊王は偉大なる存在。

いかなる場合でも、滅多な事でもない限り頭を下げるしかない。

…しかし、こんなのが精霊王だなんて世も末だと、各国首脳達は頭を抱え、急な首脳会議の声が掛かるたびに各首脳達はストレスでキリキリ胃が痛むし頭も痛い。

そんな情報をオブシディアンは隠密の情報網で知り得ていたので、その話を精霊王達に話たのだ。

すると、精霊王達それぞれ反応は違うが頭を抱え


「…なんと、馬鹿げた事を…」

「同じ精霊王と思われたくないぞ!」

「…マジぃ〜?えぇ〜〜!?ヤダァ!恥ずかし過ぎぃぃ〜〜〜!!!」


火の精霊王は頭を抱え下を俯き

土の精霊王は頭にきたのか机をバンと叩き怒りを露わにし

草の精霊王は、オネエらしい。オネエ言葉で恥ずかしさのあまり両手で顔を覆っていた。

闇の精霊王は微動だにせず無言だ。


『そして、ここからは精霊王様達が既にご存知であるか不明な為。念の為に、話をさせて頂きたいのですが、よろしいですか?』

と、精霊王達に臆する事なく話すオブシディアンに、闇の精霊王は

「構わぬ。今は、どの様な些細な話でも知りたい所。
下手をすれば、我々の目的とお主達の目的が形は違えど直結している可能性もある。
今は、我々が精霊王だという事を抜きにして互いに知り得る情報を遠慮なく話し合いたい。」

そう、言って自分達も知り得る限り話すから、お前達も知り得る限りの事を話すよう促してきた。

そこで、オブシディアンはショウだけに聞こえないよう、ショウの両親である商工王リュウキと妻であるアクアについての話をしてきた。
また、この話はまだショウが知るには早いという事なので、ショウには知られないようお願いもした。

その内容は残酷極まりない人権も何もあったもんじゃない酷い話ばかりで、その話を聞いた精霊王達やゴウラン達も絶句し青ざめていた。


「……何となく想像はしてたが酷い事をする。
…ああ、なるほど。
俄か信じがたい話ではあったが、空の精霊王国内王族の中で生まれたばかりの子供を選別しているという話を薄っすら耳にした事があった。

何の為の選別か、選別された赤子がどうなったか分からぬが…そんな中、一人だけ逃げ出した幼い王子がいて未だ行方知れずと聞く。

…そうか、お前が…。ならば、お前達がなんの弊害もなく無事にこの世界に来れた事も納得できる。」

と、哀れんだ様に、闇の精霊王はサクラを見てきた。

おそらく、【裏の世界へ行き来できる鍵】をサクラが持っていると推測したのだろう。

なるほど。それなら納得できる。

格精霊国の中でも特に美形が多いとされる、空の精霊王国。その中でも、王族はとりわけ美形が多い。

だが、そんな美形だらけの空の精霊王国に、度肝を抜かすほど美しい赤ん坊が誕生したと聞いた事があった。
その赤ん坊がどうなったかまでは分からないが…

おそらく、いや、ほぼ確実にこのサクラという少年こそがその美貌であり、何があったか分からなぬが空の精霊城から逃げ出した幼児だったのだろう。

それが【天守(てんしゅ)】だというのならそこも納得だ。【“自分の天”の元へと帰っただけ】なのだろうから。

そう、闇の精霊王は結論づけた。


「……もしかしたらだけど。オブシディアンの話を聞く限りじゃ、空の精霊王が要求している【宝】って……」

と、草の精霊王は哀れんだ表情をしながらチラッとショウを見てきた。

「その可能性が高いな。おそらく、“逃げ出した【アクア】”の【膨大な“魔力量”】が目的。
言われてみれば、アクアが裏の世界でそちらに保護された時期と、世界の秩序や均一を守っていた魔力が大きく乱れたのもその時期と重なる。
一体、何が目的でこんな馬鹿げた事をやってるんだ!?
空の精霊王は!!?馬鹿が!」

顔を真っ赤にして怒っている土の精霊王。

「そう考えれば、単純に考えて空の精霊王が欲している【“宝”とは“アクア”】という事で間違いないのかもしれん。」

難しい顔をして火の精霊王はそう言いつつ

「…なんと、愚かな事を……!!!?
そのせいで、どれだけの者達の命が犠牲になった事か!!…そして、どれだけの苦痛にもがき耐えなければならなかった事かっ…!!!」

と、悔しそうに頭を抱えていた。

「そこで、合致するな。」

そこに、土の精霊がハッとし声を出すと

「そうね。12年以上前から格精霊国で魔力の高い赤ん坊や幼い子供達が行方不明になる事件が多発していた問題に繋がるわ。」

草の精霊王は酷く顔を歪めながら土の精霊王の言葉に続いた。


「加えて、新たな問題【異世界者の“鬼”】ね。
その鬼は、私達のいる宇宙を創った創造主様と親密な仲。
しかも、痴情のもつれから私達の創造主様はその鬼と決別したく我々の創造主様は、新たな世界を作り此処にある…聞けば聞くほど複雑な気持ちになるわ。
私達のいるこの世界は、もっと神聖で神秘的な理由で創られ誕生したと思っていたのに…。
そんな理由が始まりだなんてガッカリもいい所だわ。」

と、自分達のいる世界が、そんな理由でできた事に微妙な気持ちになる。
痴情のもつれが理由かよと、ここにいる殆どの者達が残念過ぎるこの世界が作られた真実を知りシオシオ〜っと気持ちが萎えてしまった。

「しかし厄介極まりない。異世界者なら、異世界で大人しくしていていただきたいものだ。
それに対抗するべく御子の天守二人は力をつける為、或いは力を解放する他の修行をしている。また、御子達は【この世界最強の召喚従】を手に入れる為に旅をしている。」

と、その場の空気を切るように闇の精霊王は現在抱えている問題を切れ込んできた。

「……ハア。どちらも厳かにできないわね。
だって、【どっちも“世界の運命”がかかってる】もんねぇ〜。
精霊全国で魔力の高い幼い子供達の行方不明事件から始まって、次は空の精霊王の暴走。かと、思えば異世界から来たって言う【鬼】とか…!次から次へとどんどん問題ばかりが増えちゃうんだから!
あーーーーーっっっ!!もう、嫌になっちゃう!」

と、あまりに重過ぎる問題が二つも浮上してきた事に、お手上げとばかりに草の精霊王は上を向き髪を掻きむしっていた。

確かに、とんでもない話ばかりだ。ゴウランとシープも絶望的な顔をして俯いてしまっている。

そこに


「…みんな、難しい話ばかりでよく分からないけど。困ってる人達がいっぱいいるって事だけは分かったよ!」

なんて、なんとも…まあ、間の抜けたトンチンカンな声が聞こえた。

そんな、単純で簡単なおままごとな話じゃないんだよ!!と、ゴウランとシープは、お気楽におバカ回答をしているショウを睨み付けてしまった。

しかも、この場も考えろよ!

目の前には、本来なら俺達が目にする事もできない様な方々がいらっしゃるんだぞ!?

ショウのその態度と言葉、どうにかできないのか!無礼罪でどうなっても知らないからな!

と、心の中で焦りパニック状態でショウを責め立てていた。自分達にお咎めがくる事を恐れ声には出さないが。

こんな重鎮達のいる場所で、ショウを叱り止める事もできず、伝われ!伝われ!!と、心の中で念を送り睨みつけるしかできない。


「…幻の国に来て最初に感じたのは、この星が悲しんで怒ってるって事。怒ってるんだけど、とっても悲しんで後悔してる事だけは分かったんだけど。それ以上分からなかったの。
だけど、何でかな?闇の精霊王様の所に来たら、どうしてか分からないけど“知りたいな”“どうしてだろ?”って、疑問に思った事が、頭の中に浮かんじゃったの!」

おそらく、ショウが闇の精霊王の住む場所に来て、その空間や土地に適応した体に作り変わったのだろう。その時、闇の能力が全面に出て闇の能力の一つである。千里眼で“見えた”のだろう。

そんな事が出来てしまうショウに、精霊王達は驚いたが“そうだろう”とも納得した。


「ビックリしちゃったけど、そこで分かったのがね!
双子の弟の“ウーちゃん”の事が大切なんだけど“ポンコツ過ぎて大嫌い”。双子なのに全然似ても似つかないの、この二人。」


と、精霊王に双子の弟がいる事を言い当た事に、闇の精霊王以外の精霊王達は驚いた。その精霊王達の様子を見て、ショウの言っている事は“真実”なのだとオブシディアンは確信した。


「…この星が、“ウーちゃん”と仲良くしようとしなかったからかな?
同じ精霊なはずなのに、何の力も能力も無いウーちゃんはみんなから虐められて独りぼっちだったの。それでも、ウーちゃんのお兄ちゃんはウーちゃんが自分の肉親だって事を恥だと思って助けてくれなかったの。

そしたら、それをキッカケにウーちゃんへのイジメはドンドン酷くなっていって…

ある日、誰にも見つからない場所でウーちゃんは、いじめっ子達にたくさんたくさん嫌な言葉を言われて暴力も振るわれて…そのまま死んじゃった。」

と、いう衝撃的な話を聞き、精霊王達は今知ったとばかりに、通りで最近ずっと見かけないわけだ。虐められて引きこもっているのだとばかり思っていたし…ポンコツなウーちゃんを精霊王達でさえ見放していた。

それが、こんな結果を招くだなんて…

いくら、ポンコツであっても同じ精霊種。

その時までは、可哀想にくらいにしか思ってなかったし、何より精霊王が見放しているので敢えて無視していた。その内、虐められている所を見ても空気くらいにしか感じず目にも入らなくなっていた。

今、思い返してみれば、自分達はなんと残酷で愚かな事をしていたのかと罪悪感に押し潰されそうになる。

…今更過ぎるが…

よくよく考えてみれば、“ウーちゃん”は精霊王の唯一の肉親。血統だけ見れば自分達が軽んじていいはずの人ではなかったのだ。

…なのに…自分達は、無力なウーちゃんに何をした?
いくらでも、手を差し伸べる事だって出来たはずなのに。


「あんなに、ウーちゃんの事を自分の半身だと思いたくないって毛嫌いして無視してたくせに。自分の半身であるウーちゃんが居なくなった事が分かったこの星は、悲しくて悲しくて…。その内、だんだんと感情も変わってきてね。
全てを恨むようになっちゃって。精霊の国全部滅ぼしちゃおっかな?なんて考えてたんだけど…」

と、お喋り感覚で話してくるショウの話の内容に、精霊王達は驚いた表情でショウを凝視した。

「それじゃ、“ウーちゃんが、此処にいたって思い出まで無くしてしまう。それは嫌だって、自分が消えちゃった。」

なんて、締めくくったショウに


「…え?それって精霊王様が消えた…亡くなってしまったって事!?でも、おかしい!
精霊王様が本当に消えたというなら、精霊の星は消滅してしまうんじゃっ!??」

と、土の精霊王が言うと

「…よく分からないんだけど、この星にはこの星を守る二つがあるみたい。」

「「…ふ、二つ!?」」

ショウの話の内容に驚き、火と土の精霊王は声がかぶってしまった。

「うん、二つだよ。星とウーちゃんの力は、二つで一つなの。
…う〜ん…、うまく言えないけど星がすっごい力を持ってるんだけど。星の気持ちで暴れちゃう事があるの。ウーちゃんはその力が暴れるのを抑える星……何か違うかも。…やっぱり、うまく言えないよ。…ごめんなさい。」

きっと、ショウの伝えたい事はゴウランやシープにはチンプンカンプンであっても、各精霊王達には何となくのニュアンスで伝わったようだ。

サクラは、しっかり理解しオブシディアンも精霊王達と同様くらいには理解できた。

おそらく、精霊王は膨大な力。だが、精霊王の感情一つで星に何らかの影響を及ぼす。

その力を抑え込みコントロールしているのが、ウーちゃんなのだろう。

つまり、精霊王はエネルギーであり、ウーちゃんはそのエネルギーの均等のバランスを保つなくてはならない大事な存在。

「星が罪悪感から、ウーちゃんを追って消えたんだけど。その時には、ウーちゃんは生まれ変わったんだね。だから、幻の国が消えなかったんだよ。」

…何という事だ。

あんなに出来損ないと見下してきた“あの方”のおかげで、精霊の国が滅びる事なく護られていたとは。

自分達の父親や母親からは

“あれは、出来損ないのゴミ。気にする必要はない。”

と、言い聞かされて育ってきた。

だが、それは全く違う。むしろ、あの方が存在してくれるおかげで、我々はこうやって平穏に暮らしていけるのだと、精霊王達は今の今になってようやく知ったのだ。

なんという事だ

そんな、偉大な存在を我々は……

と、精霊王達が青ざめていく中


「だけど、半分だけじゃこの星は保たないみたい。だから、それからどんどん星が弱ってきてたんだけど。良かったね!
ウーちゃんが生まれ変わってから、結構時間は経ったけど星も生まれ変わってるよ。
そういえば、ウーちゃんには会った事ないけど、星には会った事あるよ。」

なんて衝撃発言をするショウに、精霊王達は信じられないとばかりに言葉を失い呆然とショウを見ていた。

「…会った事があるという事は。では、精霊王様は御子達が住んでいる世界にいるという事かな?」

そう、闇の精霊王がショウに尋ねると


「うん。だけど、ウーちゃんは自分が幻の国の“力と能力”の半分だって事は生まれ変わる前から知らない。星だって、ウーちゃんの力なんて知らないくらいだから、知らなくても仕方ないよ。
ウーちゃんは、自分には何も力や能力がないから、ただの出来損ないだって勘違いしてたし。周りも、そうと決めつけて本当は大切にしなきゃいけない存在だったのに、ウーちゃんにみんな酷い事をし続けたみたい。」

そこまで聞いて精霊王達は、どんより複雑そうな表情に影が掛かっていた。
まるで、死刑執行が決定した罪人のような雰囲気を漂わせている。


「星の魂もその半身のウーちゃんも、私達の世界にいるよ。

精霊の国は自分にとって、とても住みづらいから生まれ変わる時に拒絶反応が出て、精霊の国を無理矢理拒絶して私が住んでる世界に飛ばされたみたい。だけど、本来いるべき場所じゃない所に来たせいで精霊王としての記憶を失ってる。

それに、“精霊王の力”がある事も知らないから精霊王の力も封印されてるようなものになってるよ。

もう、二人は血の繋がりは無いけど二人で一つ。二人のどちらかが欠けてもダメ。二人でこの星に戻って来ないとこの星は怖い所になっちゃう。」

なんて、ゴウランとシープにとっては、意味不明な事を言っていた。

だから、ゴウランとシープは

…はあ?なんつートンチンカンな馬鹿話してるんだよ!今すぐ、意味不明な妄想話はやめてくれ!

星が悲しんでるとか、頭イカれてんのかよ!
そのクソ恥ずかしい妄想癖やめてくれぇぇ〜〜〜!!

同類だと思われたくねぇ〜〜〜!!

最悪だぁぁ〜〜〜!!

赤っ恥、青っ恥もいい所だ!!

多分だけど、精霊王様がショウの事を“お子”と言ってるから、子供の戯言と温かく寛大な心で大人の対応をして

ショウの馬鹿げた話さえ真剣に聞いて、受け答えしてくれてるんだ

精霊王達が偉大なだけでなく、心まで寛大なのはいいけど…凄いとは思うけど…!

だけどだ!

それとこれとでは話は違う!!

と、ショウと同じ仲間と思われるのが恥ずかしくて恥ずかしくて仕方なかった。


オブシディアンは、サクラや精霊王達の様子を見てショウの言っている事は、とてつもなく重要な何か何だと感じとっていた。

だが、ショウの説明下手な事や語彙力のあまりの無さにオブシディアンは理解できないものの、この事について詳しく知っているならば話についていけるのだろう。

だから、精霊王達の顔色がショウの話を聞く度に悪くなっているのだろうと考えていた。


「……そうか。精霊王二人が生きているからこそ、精霊の星は滅びる事なく今がある。
ただ、自分がポンコツだからと精霊王と自覚のない精霊王と、生まれ変わり精霊王だった記憶も消えて精霊王が自分だと知る由もない精霊王。」

と、火の精霊王は腕組みをし難しい顔をしていた。

「本来なら、この世界に居なければならない二人。だが、肝心要の精霊王二人が裏の世界にいる事で、精霊の星は徐々にではあるが様々に置いて乱れ崩れ始めているのか。」

土の精霊王は、ゴンゴンと何度も自分の頭を机にぶつけ暴走しそうな自分を落ち着かせようとしていた。

「精霊王様達が、精霊の星に戻って来てくれさえすれば、乱れは収まり元通り平和が戻るという事なのね…」

草の精霊王は、すっかり落ち込み元気がなくなってしまった。そこに


「そうだね。その人達は本来いるべき場所で、大切にされなきゃいけない存在。どれだけ大切にされているかで、この星に住む人達が幸せになれるか不幸になれるか決まっちゃうもんね。」

なんて、ショウがこの話を締めくくると

「その通りです。さすが、私のショウ様です。」

サクラは、ショウ様がこれくらいできて当然と言わんばかりに【どうだ、凄いだろ】と、ドヤ顔していた。

「…しかし、御子が闇の精霊王の千里眼の能力を使って、ここまで分かったなら闇の精霊王もこの事は知っていたという事じゃないのか?」

土の精霊王は怪訝な顔をして闇の精霊王に聞いてきた。

「…残念ながら、自分のこの能力は【力や潜在能力、地位が同等又は上の者達については“見えない”】」

それを聞いて、精霊王達はなるほど…と、納得し少し疑って悪かったと土の精霊王は素直に謝った。

「いや、疑われて仕方ない能力だ。気にしなくて大丈夫だ。」

この話の流れで、オブシディアンはザックリではあるがだいたいの事を理解できた。その様子に気付いた闇の精霊王は、オブシディアンに対し

精霊界…ましてや天上界について知らぬ事だらけだろう。なのに、状況やそれらについての知識など知らぬ者達の事は置いて、知っている者達だけでどんどん話を進めている

だと、いうのに。

“この女”はほぼ分からぬ状態の中。我々のこの会話だけで、だいたいを正確に理解したようだ

それを、この“女”は素晴らしい推察力と膨大な知識量、柔軟な頭をフルに使って少しではあるが我々の話の内容を理解したのだ

裏の世界にも、こんなに素晴らしい人材がいるものなのだなと深く感心していた。

そして、ショウ達の世界の問題について闇の精霊王は考えていた。

自分達の世界の問題も、ショウ達の世界の問題もどちらも双方の問題である。どちらかを厳かにしても、どちらの世界も滅んでしまう。

聞いた話では、ショウ達が直面している“異世界の鬼”の問題。自分達宇宙最強とされるダリアでさえ、不完全な状態であったのだろうが手も足も出なかったと聞く。

だから、未熟なショウの天守二人が、完全なる天守の力を手に入れ、かつ使いこなせるよう大慌てで無理に無理を重ねた修行をし、
今は不完全な状態であるが、次期我々の宇宙最強になるであろう御子の天守二人が天守として完全体なり偉大なる力を手に入れようと奮闘している。

加えて、この世界から消えた“元この世界最強ダリアの魂がない状態の抜け殻”を、“御子の召喚従”としようとしている。はたして、その“元最強の抜け殻”だけで、どれほどの力があり使い物になるのか一か八かの賭けにも出ている。

そうして、異世界の異次元的な知性と力を持つと聞く鬼に対抗しようとしているらしいが…。

はたして、それだけで十分なのだろうか?


その鬼は、我々すら知らぬ我々の世界ができた始まりまで知っている始祖とも言える偉大で尊大な方。


そんな異次元を相手に、それだけで対抗できると思えないのが率直な気持ちだ。

そう考えて、もしかしたらと頭に思い浮かぶ事もある。一か八かではあるが…

少しでも希望が見えるのであれば、試さない手はない。闇の精霊王は、そういう考えに至り


「御子よ。ならば、“アイビー”の他に、御子しか操れぬ召喚従がいる。
その召喚従達は、アイビー、御子の天守に次ぐ力の持ち主と言われている。その力を得られれば、だいぶ状況も変わり今よりもだいぶ希望が見えると思うのだが。」

と、提案してきた。

「…あのクソヤロー(ダリア改めアイビー)以外の召喚従だと?」

なんだか、もの凄い不機嫌になってしまったサクラの質問に

「【御子の天守に選ばれなかった】と、いう理由から、自らを封じた狂人かつ宇宙屈指の強者が、

“この抑えきれない溢れんばかりのこの思いがいつ爆発し、自分が何をしでかすか分からない。御子にだけは絶対に迷惑をかけたくない。嫌われたくない。”

と、何もない真っ暗な闇の中で“無”を求めて、全ての闇を司る己の所へ来て自分達を闇の中に封じるようお願いされた。

その切実な気持ちを汲み、私は僭越ながら彼らを自分の中に封じました。なので、彼らはこの世界で一番闇が強いここに居る。」


と、何とも言えないような複雑な表情をしながら、闇の精霊王は自分の胸を指差した。

そして、更に話を続ける。



「御子が精霊の国に訪れた事により、御子の気配を敏感に強く感じとり彼らは、“無”でなくなった。微かに意識が浮上し始め【会いたい】【側にいたい】と、いう強い思いから、苦しみもがき、そのせいで天災が始まりそうなのだ。」

「…それで?」

「御子がその強者達を召喚従にできれば
御子に心強い味方が増え、精霊の国も彼らの感情により引き起こされるであろう天災も起こらない。どちらにとっても、いい話だと思うのだが?」

と、急に不機嫌になったサクラに、もの凄い話を持ち掛けてきた。

「…つまり、テメーは俺だけじゃショウ様を守るのに不甲斐なく心許ないとでも言いてーのか?」

どんどん不機嫌まっしぐらになっていくサクラに、場の雰囲気は凍り付きはじめた。

だが

「そんな事できるの!?召喚従さんが増えたら、いっぱい仲間が増えるって事だよね?
いっぱい仲間ができたら心強いし、みんなの負担もいっぱい減るって事だから召喚従さん達が仲間になってくれたら嬉しいね!」

なんて、不機嫌になっていくばかりのサクラに、凄いと目を輝かせながらショウは話しかけた。

「…確かに、その通りですが…」

「…私、ずっと役立たずだから。そんな事が本当にできるなら、少しはみんなの役に立てるって思う!それが、凄く嬉しい。」

なんて、心の底から自分がみんなの役に立てるかもしれないと希望に満ち溢れた顔をされ、身振り手ぶりで熱心に話すショウに

いつの間にか、サクラの不機嫌は直り…ふっ!と、柔らかい笑みまで漏らし

「…ショウ様には参ります。そうですね。確かに、ショウ様の言う通りです。
ですが、私はショウ様にこんな危険な旅などしてほしくないのが本音なのです。」

と、ドロドロした本音の一部は隠して、心底心配した顔に無理矢理笑みを浮かべショウに話しかけた。

その様子に、サクラがどれだけショウの事を考え心配しているのかが窺える。心の底から不安で仕方ない何かあったら怖いという恐怖も感じる。

…だって、それ以上いえば、ショウを困らせてしまう事が分かっているサクラは、色々言いたい気持ちやショウを連れて逃げ出したい気持ちを強く強く押し込めショウの話に肯定的な言葉を言うも

声は震えていて、ショウを思えば不安で押し潰されそうになったサクラは思わずショウを抱き締めサクラの体も小刻みに震えている。


「…私が不甲斐ない為に、ショウ様にこのような危険な旅をさせる事になるなんて…!
しかも、“召喚士”という未知なる術まで操らなければならない。それが、ショウ様のお体や心にどういった影響を及ぼすのか。
そもそも、召喚従はショウ様をしっかり守ってくれるのか…主人に牙を抜けないか。考えれば考えるほど、恐ろしくてたまらないのです。」

と、遂に美しい目からポロポロと、虹色に輝くダイヤのような水滴を流し始めた。

…泣いてる姿が、こんなにも美しいなんてとその場にいる誰もが、サクラの美貌に心奪われていた。

「……そして、先程言ったショウ様が“役立たず”だという言葉は撤回して下さい。ショウ様がいるから、私が存在できる。ショウ様のおかげで、私はこれ以上ないほど充実した幸せな日々を暮らせているのです。
だから、その言葉は大嫌いです!こんなにもショウ様から幸せを頂いてる私に対する冒涜です!」

最後に、ショウの“自分は役立たず”発言に対して、悲しそうな表情をして少し叱っていた。

そんな姿まで、綺麗だなんてこのサクラという男の美しさたるや…。

そんな中、闇の精霊王は考えていた。

サクラは御子の天守だというのに、あまりに弱い。
本来なら、圧倒的力とカリスマ性をもつ宇宙最強でなければならない存在。

…だというのに、我々精霊王よりもずっと弱い。

天守の能力や力を使いこなせていない事もそうだが、そもそも弱すぎてそれに対応できる力さえ持っていないのだ。

天守の能力はあれど、力や体力が無さすぎてその圧倒的能力や力を使えない程にレベルが足りなさ過ぎる。

…何故、こんなにも弱い?

“もう一人の天守”も、サクラ同様に弱いのだろうか?

まさか、御子に記憶がない事が関係しているのか?…いや、まさか違う。

何をどう考えても、御子の天守が弱すぎるのがおかしいのだ。

と、グルグルと考え、

考えど答えが見つからず一旦、それについては考える事をやめた。

それも大事な話だが、今は目の前の問題を最優先に考えなければと頭を切り替えたのだ。


「惜しくも、御子の天守から溢れたその者達は、御子を思う気持ちは本天守に匹敵するほどまでに強い。
そして、力や能力、才能も“本来の力を持った御子の天守”に匹敵する程までに強い。
だから、御子の天守を決める試験でも“御子の天守最終候補”まで残ったのだ。
もはや、【準天守(じゅんてんしゅ)】と、新たな役職がついてもおかしくないレベルにだ。」

と、言ってもショウはさっぱり分からなかったが、サクラとオブシディアンは驚いた表情で闇の精霊王を見た。

闇の精霊王は、ショウ様の事、天守の事についてどこまで知っているのだと。


「なにせ、己は光栄にも御子の天守を決める上位試験官に選ばれ、その一部始終を見てきたのだから。
…だが、その中にサクラ様の姿が見えなかった。
そして、試験に参加してなかったはずのサクラ様が、何故か御子の天守としてここに居る。
何がどうなって、そうなったのか?だからなのか、天守の力や能力は持てど使えずいる事に繋がっているのか不思議でならない。
言葉は悪いが、“宝の持ち腐れ”とは、この事をいうのかといういい例だと感じている。」

と、言ったところでサクラは、一瞬ショックな表情を浮かべ美しい顔を歪め何とも言いがたい複雑な表情をしていた。

そして


「…どんな形であれ、俺が【ショウ様の盾の天守】である事は間違いねぇ。…間違ってねーっ!絶対にだっ!!」

まるで、自分に言い聞かせるように、力強く何度も声に出し安心を求めるようにショウに抱き付いたまま離れなくなってしまった。

何か、複雑な事情がありそうだ。これは、下手に詮索しない方がいいだろう。

何はともあれ、未熟未完成ではあるがサクラはショウの天守である事には間違いないのだから。

それが、“ショウの天守”を選ぶ上位試験官である闇の精霊王には“分かる”のだから。

本来ならば、ショウの天守はこの世界宇宙最強の男“ダリア”しかあり得なかった。
はずだったが、それを上回るほど性格に問題があった為に天守にはなれなかった。

何もかもが、あまりの異次元で天守の“剣と盾”両方の能力や力をも容易く受け入れ、使いこなせていたはずの人物であった。

本当に何度彼が、御子の天守であったならばと考えた事は数知れず。

その為に、彼だけを特別扱いし【もしも〜だったら玉】と、ふざけたネーミングの幻術の魔道具を彼だけに殆ど使った。

なのに、彼は変わる事などできなかった。

代わりに、現代の名前は分からないが“現剣の天守”だけは、過酷な運命に抗い希望を導き出していったのだ。こんな事ができる者がいるのかと驚かされたものだ。

総合的にダリアの足元にも及ばないが、それでも他を圧倒する魔導使い。そして、魔導だけならば、ダリアに引けを取らない偉大なる魔導使い。

この者しか居ないと思った。剣の天守の力や能力も元々彼の一部だったかのように自然と彼に馴染んだ。

そうなれば、もう一つ。盾の天守だが…見つからない。

そう思っていたら、自分の知らない間に何があったのかサクラという盾の天守が現れた。

驚くしかない。

と、闇の精霊王は、サクラというイレギュラーに驚きを隠せずいた。

そこに

『いくつか質問する事を許してもらえるでしょか?闇の精霊王様。』

オブシディアンの声が入り、みんなオブシディアンに注目した。本来ならば、あまりの身分の違い、ましてや自分達のいる星とは別の場所にいるのだ。王達が声を掛ける前に、声を出すなどあってはならないのだろう。

だが、今回は特例だ。
確か、王達もそのような事を仄めかしていた。これを上手く使わない手はない。

ここぞとばかりに、オブシディアンは闇の精霊王の言葉に疑問に感じた事を聞こうと思った。

何故なら、ショウ達と旅をする様になり様々な困難や問題に直面してきた。

その中で、何よりショウは何か“特別な存在”らしく…それが分からないのだが。ショウと共にいれば、おそらくこれからも様々な問題や困難に直面していく事だろう。

だから、生涯ショウを守る立場として、ショウに関わる事はできるだけ知っておかなければならないと感じたからだ。

そんなオブシディアンの心中を察した闇の精霊王は


「過去生のトラウマもあるのだろうが、お前の強い決心が伝わってきた。
お前のその覚悟に免じて質問を許す。答えられる限り答えよう。」

と、言った闇の精霊王に、他の精霊王達は驚いた表情で闇の精霊王を見ていた。


『ありがとうございます。』

「ああ。」

『まず、一つにこの精霊の国についてです。
空、火、水、草、土、風、光には、国が存在して兵や民達もいます。
ですが、闇の国はないように感じました。この国には王以外の住人の気配を感じませんでした。そして、空、火、水、草、土、風、光、闇と、それぞれに精霊王の名がついています。

我々が想像していた“精霊王様”は一人だと思っていたのですが違うのでしょうか?
それにしては、会話の中で精霊王様達よりも身分の高い精霊王様が存在しているように感じたのですが、精霊王様達以上の存在が精霊の国にはおられるのでしょうか?』


「ああ。“裏の世界”のお前達が知らなくて当然の話だ。空の精霊王がそちらに多大な迷惑を掛けている事もあり特別に教えよう。

まず、それぞれの属性の国やそこに君臨する“王達”がいる。
もちろん、その名の通りその属性に特別に特化しその属性の専門達だ。だから、それ以外の属性は使えない。

それぞれの兵や民達が束になって掛かってこようと瞬殺できる程の力や能力を持つのが、“王”である。

そして、お前達の言う“精霊王”とは

それぞれの属性またその他の特別な属性全てを使いこなし、圧倒的力やカリスマ性で国を束ねている王達…いや、この星の全ての者達が束になっても

それこそ、瞬殺してしまうほどの別格の力や能力を持つ存在。」

と、聞いたところで、ゴウランやシープ、オブシディアン…サクラまでもが、…ゾッとしてしまった。

仲間内で圧倒的力や能力を持つサクラでさえ、それぞれ精霊王達に力が及ばない事だけは

ゴウランでさえも何となくであるがヒシヒシと感じてるくらいだ。そこは、オブシディアンの指導のおかげだろう。

それを感じ取れる程までに、ゴウランは着々と力をつけていっているいい証拠である。

そんな王達や、それぞれの魔導に特化した民達が束になっても足元にも及ばない程の力を持っているなんて…精霊王とはとんでもない存在だと感じ想像だけで恐れ慄いた。


「闇の精霊王である我が国もなく民すら居ない理由として、闇には種類がない。ひたすら真っ黒なのだ。
そして、闇が先に生まれた。その中で膨大な時間を掛け様々な物質や生物もできていった。
そんな中、この精霊の星も生まれそれぞれに生物も誕生し王国ができていった。

光もまた一つしかないのだが、光は神秘とされ光の精霊王を崇拝する者達が集まり光の王国ができた。だから、光の王国の住人達は多種多様だ。」

では、闇の精霊王国ができないのは…という質問は、さすがに無粋過ぎて聞こうとは思えなかったし、闇の精霊王もその事については触れなかったので敢えてスルーしておいた。


「そして、最後に誕生したのが全ての属性を持つ偉大なる“精霊王”だ。
精霊王は、その全ての属性が集まるまで誕生できなかっただけ。おそらく、存在だけは下手をしたら我よりも先に存在していたのかもしれない。
また、精霊王の凄さは

“新たな属性が誕生した瞬間には、その属性も既に精霊王の能力の一つとしてある”

と、いうところだろう。」

…精霊王…凄すぎないか?チート過ぎる。と、驚き過ぎて、みんな目をまん丸くしていた。


『そこで不思議に感じたのですが、王国のある精霊王様達には血の繋がったお子様がいらっしゃるようですが。』

と、オブシディアンは、チラッとサクラを見て質問した。


「…ああ。それは、単純に“精霊王”と“光と闇”以外の精霊達には寿命があるからだ。そこは、理由を聞かれても答える事は禁じられている為答えられない。
平均で、3000年生きるとされる民達の10倍程の寿命がある。」

つまり、精霊王と、闇、光の精霊王は生まれてから永遠と生きるという事。寿命ある者にとっては、境遇によってはであるが羨ましい限りである。

昔から不老不死に憧れ、あれやこれと残酷かつ恐ろしい実験をしたり、ありもしない幻想でその話に踊らされ酷い結果になってしまったりと…そんな都市伝説まである。

残念ながら、それは都市伝説でも何でもない事はオブシディアンは隠密の授業で習ってきたので知っている。
幼い頃、社会科見学で命懸けで、そのような実験場所や悍ましい人間工場など見学に行った事もあるので実際に見聞きして知っているのだ。


『…なるほど。だから、精霊王様や、闇、光の精霊王様以外は子孫繁栄が必要なのですね。』

「その通りだ。」

と、あまり時間がない事もあり、精霊の国についてはここまでにしオブシディアンは次の質問をした。
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