イケメン従者とおぶた姫。
「此方の都合で、長らく席を空けてすまなかった。」


と、闇の精霊王は、ショウや他の精霊王達に対し
とある理由により、先程まで本題の会議から離脱していた闇の精霊王は自分達の用事が終わった事と私情の為に勝手ながらしばらく大事な会議から外れていた事に対する謝罪を述べた。

そこに、オブシディアンも謝罪の言葉と共にショウやサクラ、シープ、三人の精霊王に深々と頭を下げた。それに習い、慌ててゴウランも頭を下げる。


そこから、本題の会議に入ったのだが火の精霊王、土の精霊王と草の精霊王の空の精霊王の愚行について怒り心頭で、もはや会議と言うより空の精霊王の悪口大会になっていた。

この三人の精霊王達は熱血タイプで似たり寄ったりな部分があるので、何となくそうなっているだろうと予測していた闇の精霊王は


「怒る気持ちも分かる。だが、今は空の精霊王の愚行を咎めるよりも先に、空の精霊王と繋がりのある者達を漏れなく探し出し、その者達の真の目的とそれを阻止する事。そして、異世界からの鬼をどうするべきか、そしてその対処を考えねばなるまい。」

と、ど正論をかまし、ヒートアップしていた空の精霊王の悪口大会は一瞬にして幕を閉じるのだった。
少し、しょんぼりして元気のなくなった精霊王三人に、何となく人間味を感じ親近感を覚え緊張でガチガチになっていたショウやゴウラン、シープは、けっこう緊張がほぐれホッと息を吐いていた。

ずっと気付いていたが、あまりの緊張にショウは無意識でサクラの手をぎゅっと握っている。

そんなショウの様子に、サクラは

「…かわいい…」

と、無意識に呟き、微笑ましそうにショウに笑い掛け

「大丈夫ですよ。ここにいる精霊王達は、怖い精霊ではありません。安心して下さい。」

なんて、誰しもがうっとりと見惚れてしまうような慈愛溢れる笑みを浮かべている。優しく響く声も口調も心地よく美しい。

そんな中、闇の精霊王はサクラの美貌に当てられる事もなく平然とした様子で

「さて、御子よ。少し前に話したと思うが、御子の召喚従を希望する者達がいるという話をしたな?」

ショウを向き、そう問いかけてきた。

それに、ショウはドキドキと緊張した面持ちでコクリとうなづいて見せた。そんな様子のショウを心配そうに見ているサクラ。

「御子が、その方達を望んでいる事に歓喜したその方達が“早く闇から抜け出して御子の側に行きたい”と、喚き暴れそうなのでな。さっそくだが、御子の召喚従3名を封印から解き放ち、御子の召喚従としたいと思うが準備はいいか?」

なんて、物凄い事をするかのように言う闇の精霊王に、ショウは緊張でバクバクである。

少し広い場所がいいと、二人…とサクラは席から離れた場所に移動した。

何が起こるのかと、席からショウと闇の精霊王…何故かさほど関係ない筈のサクラがショウに引っ付いて行ったのは……過保護にも程があるだろと、ゴウランやシープは元より他の精霊王達も呆れている。

「……御子よ。そんなに緊張する事などない。大した事をする訳ではない。ただ、“元いる場所に、その方達を帰すだけ”なのだから。」

そう言われたって、ショウにとって未知なる事をするのに緊張するものは緊張する。ショウは、緊張から頭真っ白のパニックである。

そんなショウをサクラは後ろから優しく抱きしめ


「ショウ様には、私がついてます。安心して下さい。」

と、魅惑的な唇をショウの耳元へ近づけ囁いている。完全に二人だけ…いや、サクラだけの世界である。

しかし、ショウの側にサクラがいてくれて良かったと思う。ショウから離れず側にいるサクラのおかげで、ショウの緊張は解れはじめている。

ショウだけでは心許なかった。目に余るモノが多すぎるがサクラの存在はありがたいと、そこにいる誰もが思った事だろう。

それくらいに、ショウの緊張で頭は真っ白パニック状態、恐怖から冷や汗が滝のように流れ全身が大きく震えていた。今にも、腰を抜かしそうになっているショウは、目に見えて可哀想に思える程だったから。

緊張はあるものの、サクラのおかげである程度正常に戻っていったショウを見て闇の精霊王は安堵し

「…さあ、貴方達の主がお待ちだ。」

自分の胸に手を置き、そう話しかけると闇の精霊王の胸に大きな穴が空きそこから3つのシルバー・青・黒の手のひらサイズの光の玉が飛び出してきた。

その三つは、ショウの目の前まで来ると

ぐにゅぐにゅと形を変えていき、人の形へと変わっていったのだ。

シルバーの光の玉は

3M程の美丈夫で、肌や髪の色が陶器のように真っ白。
額には紅葉の様な形の宝石のように色とりどりの目がある。手の甲や後頭部、目に見える場所にも宝石と見間違う目がついている。おそらく、服の中にもたくさんの目があるのだろうと想像できる。
しかも、腕も6本付いていて異形としか思えない。

「…マスター…俺の名は“ヴォイド”と、言う。」

その美丈夫な異形は、静かに涙を流し騎士の如くショウの前で騎士の如く膝をついた。

次に人の形になったのは、青の光の玉

155cmくらいの女性で、人型ではあるが全身青い半透明でその中身には様々な青い炎を閉じ込めている。
ゴウラン好みの儚くも守ってあげたくなる様な愛らしい姿をしている。

「妾の名は、“クエーサー”と申す。」

王族の様な口調でちょっと変わっているが、声までとても愛らしくゴウランのドストライクだ。やはりというか、クエーサーの穢れを知らない純粋無垢な天使のようにとても可愛い女の子なもんで、ゴウランはポ〜ッとクエーサーに見惚れている。

また、いつもの如く好みの女性を見て一目惚れしたんだなと、オブシディアンは苦笑いし懲りない奴めとシープは呆れ果てていた。

最後に人の形になったのが、黒い光の玉

三人の中では比較的一番人間に近いが、瞳の中や、爪、髪の毛の一本一本に黒炎が揺らめいている。
髪と爪の色は黒く、肌の色は青白い。目の色は濃い黒紫色。唇と瞼は薄っすらとした黒紫。

そして、ダリアもビックリな程人知を超越した美貌の持ち主だ。

…だが、あれれ???

彼は何となく、サクラとダリアを掛けわせた様な容姿をしてる。まるで、ダリアやサクラの兄弟、従兄弟といった血縁者と言っても過言でない程に何処か似ている気がする。

「…ずっとずっと会いたかった。何よりも大好きな主様(あるじさま)。オレは、灼 黒蓮(しゃく こくれん)って名前だよ。」

と、それぞれがショウに会えた喜びに感極まったがその気持ちをグッと抑え、ショウを驚かせないように丁寧に挨拶をしていた。

まるで、サクラの様にショウと共に暮らしているかのような親近感があり、ショウの性格などを熟知している様に見える。

その様子に、少し離れた場所で傍観していたオブシディアン、ゴウラン、シープ、三人の精霊王達はとても驚いて色々喚いていた。


そんな中、ショウは目の前にいる三人が二つの同じピアスを身に付けている事に気づいた。

一つは、金色と白銀色の男女の記号を模した形のスタッドピアス。もう一つは、透明な宝石の中に立体的に人間マークが彫られたゴツめのリング方のピアスだ。

それぞれ自分が気に入った場所に身に付けている為、付けている場所はバラバラである。


「……あれ?みんな、同じピアスしてる。」

思わず呟いたショウの言葉にいち早くヴォイドが反応して


「これは【魔具(まぐ)】っつーもんだ。
これを身に付ければ【性別を無くす事ができる】。だから、マスターを無闇に傷付ける事はない。だから安心してほしい。
だが、これを外せば性別は元通りだ。何故、完全に性別を無くさなかったかという理由は三人とも違う。
俺の場合は【マスターに対する恋愛への未練と希望】そして、【マスターの伴侶が主を悲しませる事があれば、いつでもマスターを奪えるという牽制】でもある。」

と、説明されサクラは、とてつもなく嫌な顔をしていた。

「もう一つのこの魔具は【人間の姿になる事ができる】。主が“人の形”をしているので、今の主の種族に近づきたいという思いと見た目があまりに違い過ぎて主を怖がらせない為に身に付けている。」

つまりは、この三人の本当の姿は人の形すらしてない可能性があるという事。
正直、どんな姿をしているのか興味はあるが、恐ろしいという気持ちの方が勝りできる限り本当の姿は見せないでほしいと願うゴウラン達だ。

と、ここで


「……さっきからきになってたんだがよぉ〜。
マスターにへばりついてる軟弱者は誰だ?知らねーぞ、こんな奴。マスターの天守になる試験でも見た事なんざねーな?」

ショウへの挨拶を終え、すぐさまにヴォイドはサクラの存在にツッコミを入れた。

「……ア"?テメーらこそ、誰だよ?
…ああ、思い出した。さっき、闇の精霊王が説明してたな。ショウ様の天守になれなかったと逃げ出した“軟弱者達”か。…ダッサ。」

それに対し、ヴォイド達を見下すようにサクラはハンッ!と、鼻で笑ってやった。


…うっわ!性格悪っ!!?

そんなサクラを見た面々は、みんなこぞってそう思った。

さっきまで、ショウに見せていた姿とは真逆過ぎて同一人物かと疑うレベルに、サクラはクソムカつくヤロー大魔王に大変身していた。

そんな最低最悪の姿を見せないよう、サクラはショウの後ろにピッタリとくっ付きちゃっかりとショウの耳を塞いでいる。
もちろんサクラは、ショウの耳を塞ぐ前
きちんと「怖い話をするので、少しの間耳を塞いでよろしいでしょうか?」なんて、とても申し訳なさそうにしながらショウの承諾を得ていた。

サクラを信じ切っているショウは、何も疑う事もせず「…いつも、守ってくれてありがと。サクラも無理しないでね?」なんて、やり取りがあっての事。

サクラの心配をしてくれたショウに悶え悦びながらもサクラは優しくショウの耳を塞ぎ、堂々と目の前の輩に言いたい放題言っている…言おうとしているのだ。

とんだ、クソヤローである。


「……こちらは、サクラ様といい御子の【盾の天守】様だ。」

サクラの言動により、ピリついた空気と化してしまった1対3名。そこに、このままでは状況が悪化しかねないと闇の精霊王は仕方なく合いの手を入れた。


「……え???天守の試験会場に、こんな奴いなかったよね?何が、どうなってるの?」

サクラを見ても、どうしても覚えのない顔にコウレンは首を傾げている。もちろん、コクレンだけでなくヴォイドやクエーサーもだ。

「あなた方は試験に落ちてから、色々あり…ずっと闇の中で眠っていたのだから知らぬのは当然。」

と、闇の精霊王は三人に、これまでの経緯を簡潔に説明した。簡潔と言っても、結構な時間が掛かってしまったが。

闇の精霊王から聞かされた話に三人は絶句し、どうして自分は天守に選ばれなかったと絶望し逃げてしまったのだろう。

その間に、まさかショウがそんな酷い目に遭い続けていたなんて……どうして、今までショウの側にいてあげなかったのかと後悔してもしきれない気持ちが三人を襲った。

どんな形であれ、ショウの側に居れば良かった。自分の欲に負け、逃げ出してしまった自分達にサクラにどんなに罵られようと何を言う資格もない。


「…てっきり妾は、ダリア様とロゼがショウ様の天守になっているとばかり思うておった。
……そして、今はもうダリア様はこの世界には居らぬのだな……」

と、何だか全体的に気高い雰囲気のクエーサーは驚きの表情をし、何故かとても悲しそうにそれでいて複雑そうに俯いた。

「そうだよね!その事実には、オレもビックリしちゃった。まさか、史上最強のダリアがどうあがいても真の天守にはなれなかったなんて。理由を聞いたら納得しちゃったけど。
だけど、皮肉だよね。本体のダリアが天守に選ばれなかったのに、ダリアの一部の感情から誕生したサクラが盾の天守になれちゃったんだから。」

なんて、苦笑いするコクレン。

「…俺達よりも、全然弱い癖によりにもよって、こんな貧弱者が盾の天守に選ばれちまうなんて納得できねー。
だが、そんな話聞いちまったら認めざる得ねーじゃねーか!…クソッ!」

悔しそうに、綺麗な顔を歪ませるヴォイド。

それぞれ、様々な反応を見せていた。

しかし、ここで疑問が生じる。


「かなり引っかかってるんだけど、…まさかとは思うけど。あの人達も、サクラやロゼみたいにショウの事を恋愛対象として見てるわけ?
サクラやロゼには劣るかもしれないけど、超極上の美形の人達だよ?初対面の人達だから、才能や能力・性格とか全然分からないけどさ。いくら、なんでもあり得ないと思うんだけど。」

ショウ達と旅をするようになり、天守について些か知識を持ってしまったシープが遠くから茶々を入れてきた。ぽっと出のこの三人がショウの召喚従になるだなんて納得できないし、どうも何か裏があるのではないかと疑わしく思ったからだ。

「…は?あのイケメン二人と美女が、ショウを恋愛対象に見てるって?ない、ない!絶対にない!
そんな事言ったら、あの三人に失礼過ぎるだろ!」

と、ショウを全否定するゴウランは、ショウに物凄く失礼にも程がある。その事にオブシディアンは頭を抱え、サクラは眉間に深いシワを寄せ鬼のようにゴウランとシープを睨んでいる。…メチャクチャ怖い。

ゴウランの話を聞いて、シープは


「…ち、違う!そういう意味じゃなくて……っっ!!?」

ゴウランのまさかの解釈違いな回答に、シープは慌てて訂正しようと口を開くが時すでに遅いし。

他の精霊王三人は、シープとゴウランの話を聞き三人で顔を見合わせ不愉快そうな雰囲気になっている。

「…あのさぁ。お前たちがどれくらい自分に自信があるのか分からないけど。それは、あんまりな言いよう出し傲慢過ぎるにも程があるんじゃないか?」

と、土の精霊王は怒りを露わにしながらゴウランとシープに注意してきた。

そんな土の精霊王の言葉に、シープはそういう事が言いたいんじゃないのに!

いくら何でも、あの三人がショウの召喚従を希望してるとか不自然だし出来すぎてる気がするって思っただけなのに!

疑わしいって怪しんでるって話がしたかったのに!

これじゃ、まるで自分がショウの悪口を言ってるだけの最低な人間じゃないか!?

…違うのに!

そういう事じゃないのに!もうっ!!


と、シープは他人に自分の思った事を他人に伝える事がこんなに難しいなんて。言葉一つ間違えるだけで人によって解釈が違って聞こえるようだ。

まさか、自分の話が通じずゴウランの解釈違いな返答にみんな乗ってきてしまうなんてと、まさか自分の話が通じてないなんてとシープは何でだよ!と、グルグルと頭を悩ませていた。

オブシディアンは、シープのそれを分かりつつこれもいい社会勉強になると考え敢えて口を出さなかった。


「自分達が住んでる小さな世界しか知らないんだから仕方ない乏しい考えなのは仕方ないかもしれないわ。
けどね。思っていても、口に出していい事と悪い事があるって事を知らないのかしら?
その言葉で、深く傷つく人がいるって分からないの?」

幼い子供に語りかけるように、草の精霊王は声を荒げる事なく二人を静かに咎める。

「お前達のいう、その意識はお前達の住んでる星の一部の種族の話だろ?我々が話しているのは、天界・中界・下界などこの世界に住む全ての者達の話をしているのだ。全ての世界で、お前達のちっぽけな常識が通用すると思うな。
それぞれの星や世界で、好むモノもまたそれぞれ違うものだ。自分達だけの物差しで話をしない事だ。恥をかくだけだぞ。」


「それに、あなた達の星ではモテなくても宇宙や世界はとてつもなく広いのよ?
そんな膨大な中、誰一人にも好かれない人が居るとは思えないわ。たまたま生まれた世界では、まったく無向きもされないモテない人だって、宇宙や世界隈なく探せば自分を好きになってくれる人に出会う可能性は高いわ。」

「…だから、正直そんな中で選りすぐりの人材を集結させてたとはいえ、ショウを恋愛対象として見てくれる人は……これだけしかいないって事なのよね。」


…結局のところ、ショウはどこへ行っても全然モテないらしい事が判明。

自分達から、こんな話題を振って置いてゴウランはショウに酷く申し訳ない事を言ってしまったと罪悪感が芽生えてしまった。

しかしだ。しかしなのだ。


「…ショウがモテないって事はないと思うんだけど。
だって。サクラとロゼっていう、どこを探したって見つからないくらい誰もが羨む超ハイスペックな美貌の持ち主にモテモテだから。」

と、シープは、何とか自分の誤解を解きたくて必死にそんな事を言ってきた。そこに便乗するように

「そうよね!それなのよ!!
そこに、またあそこに居る美形三人組にまで愛されるって事?この中の一人だけに好かれるだけでも、夢のような話なのに!
あの三人も超上玉過ぎて、どれだけ選び抜かれた美貌達を独り占めしちゃうの!?って、嫉妬心が出るくらいだわ!羨ましいにも程があるわ。」

草の精霊王が、ショウが羨まし過ぎるとジタバタと地団駄を踏んでいた。

そう言われてみれば、本当にそうだと思う。

世界中の選び抜かれた選りすぐりが、ショウが大好きだと集結している状況なのだから。

「……選りすぐりに、モテ過ぎだろ。」

と、ゴウランは遠い目をしていた。

みんなで話していて、自分達の事を思い返してみるが。確かにゴウランやシープ、精霊王達はモテにモテまくっているが……そういう事じゃない。

大勢にモテまくるか、一人の選りすぐりの超絶極上に脇目もふらず一途に愛を向けられモテるか。

そんな風に考えてしまえば、自分はなんて惨めなんだろう。…あんな風に、大切に愛されてみたい。(サクラとロゼ級の美貌+ハイスペックに)と、急にショウが羨ましくなってしまったゴウラン達であった。

ギャーギャー喚いている外野がうるさく、思わずヴォイドやクエーサー、コウレンは気が散ってしょうがなかったのでそっちを見た。

「……火や土、草の精霊王はオーラや特徴で分かるが。あの人間達は一体、何者なんだ?」

不愉快極まりない険しい顔をしながら、ヴォイドは闇の精霊王に聞いた。

「あの人間達は、縁あって旅の目的は違うが御子と共に旅をする者達だ。御子の事を知らない者達だから、大目に見てやってほしい。」

闇の精霊王は、ゴウランとシープをフォローしている。

しかし、何やら思う事があるのだろうクエーサーは

「天守と言っても、主に対する気持ちは様々。
我々とて、最初から自分の運命を受け入れられた訳でもなければ何度も否定し拒んでは葛藤をし。その繰り返しだ。…妾の場合は、闇に眠る直前までショウ様の存在を否定し忌み嫌っていたのだから。
そして、心底ダリア様に惚れ込み心酔していた妾は、取り返しのつかない大きな罪を犯した。
…しかし…これ以上はショウ様の前では言えない。…家よう筈がない!」

と、クエーサーは何かを悔いる様に、両手に握り拳を作り歯を食い縛りワナワナと震えていた。その目には、大粒の涙が溢れ出している。

「……つまりね。みんな、色々あったんだよ。色々あって、それを乗り越えて今があるんだ。」

と、コクレンが言うと

「その女は、ある大きくて絶大な力を誇る星を束ねていた女帝だったからか、クソみてーにプライドも高えんだわ。だが、俺もコクレンもこの女より、ずっと先に闇の中にいたからな。その間に、この女に何があったかは知らねー。」

と、コクレンとヴォイドは、クエーサーの補足をしてきた。


「…全ては話せぬが、主であるショウ様を裏切り愚かな真似ばかりしてきた妾だ。ダリア様の愛人の一人だったあの愚かな女の罠によって、ダリア様とショウ様は……。そこで初めて妾は、自分の愚かさに気付いたのだ。だが、もう妾にはどうする事もできなかった。
もう、何もかもが遅かったのだ。



そして、妾は拭っても拭いきれない罪の意識は日を追うごとに強くなっていく一方。もう、気がどうにかなりそうだった。気が触れおかしくなっていく自分をどうにかしたくて、自分をどうにか抑えねばと調べていくうちに【闇の精霊王の闇の空間】なる存在を知った。藁を掴む気持ちで救いを求め闇の精霊王の元へ向かい今に至る。」


「だが、ショウ様が近くにいると分かった瞬間、妾はショウ様への罪の意識から何か役に立ちたいと居ても立っても居られず闇から解放してもらった。
動機は不純でショウ様にとっては不愉快なだけだろう。しかし、【自分の全てを捧げる】そうでもしなきゃ、自分が壊れてしまいそうなのだ。
だから、赦されようとは思わない。だが、罪を償わせて妾の心を救ってほしい。どうか、妾をショウ様の為に使ってほしい。」

と、クエーサーは地に頭をつけ、震える声でショウに救いを求めてきた。

しかし、驚きだ!

ショウに仕えたいと出てきたくせに、クエーサーはダリアに恋し心酔しきっていたなんて。挙げ句、ショウの事を心の底から忌み嫌ってたとは。

いやいや、それもそうだが!一つの絶大な力を誇る星を束ねていた女帝だったというのも驚くしかない。

…ただ、ショウの事は恋愛対象ではなく逆に嫌っていたクエーサー。
色々あったんだろうが、罪の意識が芽生えてショウの手助けでもしなければ自分の心が罪の意識で壊れてしまいそうだという話は信憑性がある。

裏を返せば、罪を償う事でクエーサーの心が軽くなっていくから自分を助けろという我が儘な要求でもある。
罪を償うんだか、己の心を救いたいだけなのか分からないが、クエーサーがショウに自分の全てを捧げるという話が本当ならこれ程ショウ達にとっていい話はない。

しかし、クエーサーの懺悔の言葉は、オブシディアンとゴウランの痛い所をつき自分達も思い出したくもない嫌な記憶を蒸し返す事になり、酷く嫌な気持ちになっていた。

クエーサーの話に、シープや他の精霊王達が驚く中。

もしかしたら、クエーサーはダリアの愛人の一人だったのかもしれないなとサクラとオブシディアンは想像していた。


「……で?後の二人は、どういった理由でショウ様をお守りしたいと思った?理由次第で、クエーサー含めショウ様の召喚従として認めないしさせない。」

サクラは、憎しみの籠った目でギロリとクエーサーを睨んだのち、冷たい表情でヴォイドとコウレンを見てきた。


「……クッ!俺より、全然弱えーくせに偉そうにしやがって!」

と、ヴォイドはよほどサクラが気に入らないのか、ムカつくと言わんばかりにサクラを睨み付けた。

「ヴォイド君!そんな失礼な態度は良くないよ。
いくら、今は凄く弱くても天守の力を使いこなせない未熟者なだけなんだから!
それに、オレ達よりもずっとずっと地位が高いんだから我慢しなきゃ。」

コウレンは、今にもサクラにとって掛かりそうなヴォイドを落ち着かせようと声を掛けるが…コウレンもコウレンで天守としてのサクラを認められずいる様だ。

「……クソッ!!俺は、今はダリアとロゼとか言ったか?この二人さえ居なけりゃ、俺が最強だと自負できる。それくらいには戦闘能力には絶対の自信があるぜ!
俺は強えー奴と戦うのが好きで、毎日のように戦いに明け暮れてた。そんな中、命懸けで守りてーって初めてそう思える相手に出会った。それが、マスターだ。
俺が住んでた星は、どいつもこいつもプライドも戦闘力バカ高い奴らばかりで自信に満ち溢れている。」

そこまで、自分の力に自信があるって言えるとは余程の実力者なのだろう。だが、ヴォイドの話を聞いて思った事。…コイツ、鍛え上げられた肉体に負けないくらいの脳筋だと。

そして、ヴォイドの話を聞く限りだとヴォイドのいた星の民族達もヴォイドに似たり寄ったりなプライドの高い脳筋ばかりなのだろうと想像してしまう。

「そんな、ある日だ。いつものように暴れに暴れまくってたらよぉ。
天守候補に選ばれたと急にどっかも分からねー場所に強制召喚され、本人こそ不在だったがマスターの紹介をされた時に全然雷に打たれた気持ちになった。」

確かに、いきなりこの人があなた達の主ですよなんて、ショウの紹介をされたら色んな意味で驚くだろう。


「…こ、こんな、弱っちいのが存在するのか?力だけじゃねー。全部だ。性格も能力も何もかもが弱々し過ぎて、こんなんじゃ世の中生きにくいだけだろうって可哀想過ぎて衝撃を受けた。こいつは、俺が守ってやらなきゃってギュンって胸が締め付けられた。
生まれて初めての感情と衝撃だった。そこで、俺は思った。これは恋に違いねー。こいつは、俺が嫁にしてずっと守ってやるべき存在だって直感した。」

……え???

それって、本当に恋なの?

脳筋でバカそうなヴォイドだから【可哀想】と【恋】を間違えてしまってるんじゃないのかと、みんな頭を抱えてしまっている。

「マスターの【偉大さ】や【能力】の説明を受けた時には衝撃が強すぎて色んなもんがぶっ飛んだ気持ちになったぜ?だが、この俺を部下にするくらいはあるって納得した。だから、そこから敬意と尊敬の念を持って【マスター】と呼ぶ事にした。」

と、いうヴォイドの言葉に驚いたクエーサーは

「……ショウ様の【偉大さや能力】だと?ショウ様がどの様に偉大だというのだ?そして、能力とは…」

思わず、そう口に出しヴォイドを見た。


「…ああ、そっか!オレとヴォイドが闇の中にいる時、闇の精霊王から薄ら聞いてた話だ。“ほぼ無”に近い状態でいたオレは、闇の精霊王が話しかけてきても朧げにしか聞き取れないし考える事すら困難だったけど。」

“完全な無”ではなく“ほぼ無に近い”状態だと、コクレンは言っている。
これは、完全な無というものが不可能なのか、何か闇の精霊王の考えあっての配慮なのかは分からない。が、後者の方が可能性が高いとコクレン、クエーサーをはじめ、他の精霊王とオブシディアンは考えていた。


「“何かが起こって、ダリアを含めた主様(あるじさま)の星の住人みんな絶対に失ってはならない記憶が消えてしまった”って、聞いた気がしたけど…この事を言ってたんだね。
…ああ、だからか。みんな、そんな愚かな事をして主様を裏切ったのは。それでも!偉大さや能力も大事かもしれないけど、何の罪もない自分の主を裏切るって行為はどうかと思うけど。」

だが、コクレンのショウを裏切った者達への怒りは相当なものでヴォイドも、それに大きくうなづき「そいつら、みんなとっ捕まえてぶっ殺してやる!!」なんて、物騒な事まで言い出している。

その横で、クエーサーは「……ショウ様の何もかもを忘れ、あのような…」と、更に精神的に追い詰められ人間であったら真っ青な顔が真っ白になっていた。震えと滝汗も止まらない。

そんなクエーサーなんてお構いなしに、ヴォイドは自分の話を戻して話を再開した。

ヴォイドもコクレンも、今は公正しようとしているクエーサーの過去は許せないらしく【ショウの秘密】について一切教える気がないらしい。
それを察し、これも自分への戒めの一つとばかりにクエーサーはショウの秘密を聞こうとはしなかった。


「だから俺には天守なんざ、どーでもよくてよ。マスターを嫁にできるならどんな形でもいいって思ったが、天守最終試験で“もしも玉”で、何度もマスターと結婚できるかシミュレーションしたが全て惨敗。ショックのあまり、試験が終わった直ぐに闇の精霊王をとっ捕まえて闇の中に入った。」

何はともあれ、ショウに対する気持ちはとてつもなく強いのだという事だけは分かった。

「だが、マスターの気配を強く感じたらもうダメだった。俺が闇の中で“ほぼ無”になってる間、闇の精霊王はずっとマスターの召喚従として側にいてはどうだという説得があり今に至る。
長く時間は掛かったが、どんな形であれ俺はマスターの側に居たいって思った。だから、“マスターの召喚従”としてずっと側でマスターを守ると決めた。」


クエーサーの話はクエーサーの心変わりでいつ裏切られてもおかしくない話だし、クエーサーの絶対の一番はダリアだろうからショウを任せる事に信用していいものかどうか迷う所がある。

真っ直ぐで率直な脳筋ヴォイドは、暴走癖がありそうと決めれば断固として揺るがない鋼の頑固さも持ち合わせていて色々と面倒くさそうだ。

「最後は、オレの事だね。
オレの場合は、ちょっと特殊で出身は恐らく君達が言っている“異世界の鬼”の住んでいた世界。」

と、話すコクレンに衝撃が走る。

< 123 / 125 >

この作品をシェア

pagetop