イケメン従者とおぶた姫。
リュウキやショウの召喚従候補三人を交え、それぞれが席に着きコクレンの話が始まる前にリュウキはコクレンの前に行き

「長らくご挨拶も無くすみません。今更ですが、私はマナさんと結婚させていただいておりますリュウキと申します。…ですが、私が不甲斐ないが為にお嬢さんのマナさんは……」

と、深々と頭を下げ最後の方は感極まり涙を堪え言葉に出せなかった。鍛えあげられた強靭な体を小刻みに震わせながら話すリュウキ。

「…うん、分かってるよ。それに、オレやオレの奥さんの存在を今の今まで知らなかったんだから挨拶も何もできなくて当たり前だよ。君は悪くない。」

コクレンが優しい雰囲気でそう言ってくれたが、次の瞬間には少し険しい表情に変わり


…むしろ、リュウキ君は異世界の鬼夫婦のいざこざに巻き込まれた犠牲者だと思ってるよ。
オレは、娘や孫…そして、娘をこんなにも愛し大切にしてくれている娘婿をこんなにも酷い目に遭わせている“あの人達”を許せないと思ってる。
だから、君が責任を感じる事はない。むしろ、最初から命が尽きかけようとしていたマナを献身的に支え愛してくれた事。心から感謝してるくらいなのに…。
君のお陰で娘はとても幸せだったよ。」

コクレンは、惜しげもなくポロポロと涙を流しながらリュウキにお礼を言っていた。

そんな一幕があってからのコクレンの話が始まる。


「少し時間を取っちゃってごめんね?
じゃあ、オレが“今”話せる話の一部。オレの娘マナについて話すね。」

と、穏やかに話すコクレンに

コクレンの娘が何だというのか?

そもそも、今抱えている大きな二つの問題に本当に関係のあるものなのだろうか?

孫のショウや娘婿であるリュウキ達だけの問題ではないのか?

それを自分達が聞いてどうするんだ。自分達には関係ない話じゃないか。そんな話は、時間が空いた時にでも家族会議でもしてくれ。時間が勿体ない!

など、それぞれ不満を持っている者達が多い中、そんな不満だらけの雰囲気の中

みんな嫌がってるなぁ

気持ちは分かるけどね

なんて、コクレンは心の中で苦笑いしている。



「まず、マナは本来【生まれる筈ではなかった魂】。」

と、いう衝撃的な言葉がみんなの耳に飛び込み、みんなの不満も頭から消し飛ぶ程の疑問が生まれた。

「…話をはじめて直ぐに、茶々を入れるのはルール違反だって思うが。
【この世に、生まれる筈のない魂。必要のない魂。など、存在しない。みな、必要とされている魂だ。】コクレン様の言葉は、生きてる者達や存在する者達を真っ向から否定する発言!コクレン様のその言葉には納得いかん!」

炎の精霊王は、そう言って立派な長テーブルをバンと叩き怒りを露わにした。

その意見に賛同するものばかりがいる中


「確かに、その通りだよ。だけど、マナの場合は異例中の異例…創造主達から外れた外部で生まれる筈のない魂が生まれてしまった。
それによって、世の中が乱れ【この世界が創られるキッカケとなった】」

命や魂をなんだと思ってるんだ!あまりに軽く見てやしないか!?など、みんなのバッシングの中

みんなの怒りも想定内だとばかりに、コクレンは淡々と話を進めた。

そこで、【生まれる筈のなかったマナの魂】が、誕生した事によって【この世界が創られるキッカケになった】と、いう言葉によりみんなの罵声はピタリと止み、それぞれ声掛けをして大人しくコクレンの話を聞く事となった。



--------


《この世界が出来る前。コクレンのいた異世界での話から始まる》


かなり高い地位にいたコクレンは、王自ら極悪非道な研究者達が隠れて実験していた場所へ数人の部下を引き連れ来ていた。

目的は、ある闇の研究者達への制裁と研究所の破壊の為だ。

これは、コクレンが直々に出向かなければならないほど危険であり、もしかしたらコクレンでなければ対処できない事態になりかねないものだったからだ。

そして、【百発百中の予知能力のあるコクレンの妻】から

『今回の事件はコクレン直々に行かなきゃダメだよ。
これは、今後コクレンにもアタシにも大きく関わる運命だから。そして、運命を見つけたならば、誰がなんと言おうとも自分の意思を貫き通す事。』

なんて、予言をされてもいた。だから、何が何でも今回の事件は…真王(まおう)自らが出向かなければならなかった。

…そう。コクレンは、名前こそ明かせないが悪魔や魔族といった種族のいる魔界を統べる王の一人である。
王の一人というのは

実は魔界には二つに分かれている。

魔族といっても、ざっくり言ってしまえば人間や動物達と一緒でいい人もいれば悪い人もいる。
だが、魔族の悪い人は想像を絶する悪で手のつけられない恐ろしくも悍ましい魔族である。
その者達の事を【悪魔】と、区分して呼ばれている。

何をしでかすか考えただけで恐ろしい悪魔達なので、野放しにできる筈もなく彼らは魔界の中心に境界線があり魔族の住む地域、悪魔の住む地域二つに分けられている。

悪魔の住む地域は【禁断区】と呼ばれ警戒され、その魔族達が住んでる地域には禁断区の王である魔王(まおう)と、魔界の王である真王(まおう)二人の強力な結界により閉じ込められ、そこから出られないようになっている。もちろん、魔族も禁断区に入られない。

そして、とてつもない力を持つ悪魔も多いので、警戒に警戒を重ね結界の5つの方向に見張り番がいる。

そこまで、厳重にしなければならない程気狂いで恐ろしい輩なのである。

しかし、そこから出られない魔族ではあるが、命や心もあるので存外にはできない。
なので、せめてではあるが禁断区といっても
魔族と悪魔の土地は半分に分けられてるので広さは申し分ないし建物、食べ物、暮らしなども彼らなりに十分に生活できている。
ただ、海外には旅行に出られない事と、彼らは強欲で欲深いので欲が尽きず不満だらけのようだが。

しかし、そこから抜け出せる方法もある。

それが、【召喚】である。本来、こんな危険な輩を召喚などしてはならないのだが、どこの世界にも極悪非道な輩はいるし…たまに興味本位でやってみる阿呆もいる。

そこで、上手く召喚されればこっちのもの。中には、強欲な人間であったり特殊な能力を持った人間を見つけ出し遠隔操作で召喚させるという猛者もいるらしいが…

そこで、…まあ、色々ある訳だが話がとてつもなく長くなるので割愛する。


そんなある日、コクレンにとんでもない報告があったのだ。

それは、一ヶ所の場所で【高等な悪魔召喚】を何度も行っている人間達がいる。そこで、数えきれない程の多くの犠牲者がいる事。中には、魂を消滅されてしまった人間も数多くいるらしい話だった。

これは、只事ではないともう一人の魔界の王を交えて何度も会議を重ねた結果。

王の一人であるコクレン直々に、そこへ出向く事になったのだ。もう一人の王は、禁断区の悪魔達を抑え束ねなければならないので魔界から動かれないのだ。

おそらく、王二人が魔界から離れた瞬間。力を持った悪魔達が結界を破り手が付けられない状況に陥ってしまうであろう。

一人で魔界を支えるだけでも相当な負担だ。だから、もう一人の王の負担を減らす為にも早くに、コクレンはこの問題を解決して魔界に戻らなくてはならないのだ。


そして、今に至るのだが


コクレン達の仕事は順調で、最奥部で研究者の巨悪達を見つけさっさと片付けようと音もなく突入しようとした時だった。何やら、研究者達の話声が聞こえた。

何故、こんなにも頻繁に高等な悪魔召喚ができたのか。目的は何なのか知る絶好のチャンスでもある。コクレン達は身を潜め研究者達の会話を盗み聞く事にした。

今後、このような事件が起きても迅速に動く材料でもあるからだ。

まさか、魔界から魔族が研究所に来ているなんて夢にも思わない人間の研究者達は声を荒げて不満を口にしているようだ。


研究者A「…ちっ!これも失敗か。これには、計算に計算を重ね緻密で入念な分量と配合で貴重なもんを色々ぶち込んだんだが全然じゃねーか!
どの数式が間違ってたんだ?チクショウッ!何度も入念に確認したんだ。間違ってなかったはずなのに。あの【悪魔】が俺達に嘘でも教えたのか?
〜〜〜っっっ!!!?に、しても、クソッ!!!
もう手に入らないアイテムや素材も多くあったってのに!」

研究者B「我々に従順な【最強の人間兵器】を作り出す為に、欲張り過ぎて色んな力や能力が相殺しあってカスができてしまったのか。」

研究者C「貴重で良いもんを何でも入れればいいって事じゃない。引き算も大事だっていい勉強になったかも〜」

研究者A「それにしたってだ!もう、二度と手に入らない物ばかり使い切ってしまったんだぞ!なのに、こんなガラクタができるなんて誰が想像できる!?」


この闇の研究所最高権力者三人は、大正解間違いなしだと確信して取り組んだプロジェクトが大失敗に終わり、もう二度と手に入らない様な貴重なアイテムを全て使い果たしてしまったようだ。

コクレンの部下の調べでは
その貴重なアイテムは【悪魔との契約】という恐ろしい代償で手に入れたもの。それにより、この研究者達に大勢の人達が騙されたり身寄りのないたくさんの子供達が拉致されその命…或いは魂が犠牲となった。

この研究者達は、そんな恐ろしくも残忍な事ばかりして二つとない貴重な研究アイテムや材料を手に入れてきたのだ。


…だが、気になるのは…


ドックン、ドックン…!


失敗したと雑に片足を持ち上げられ泣いている女の赤ん坊だ。

まだ、目も開かないような赤ん坊が、まるでオモチャか物のようにあんな風に扱われるなんて

…ああ、痛いだろう苦しいだろう

見ていられない…!

今すぐにでも奴らから奪い優しく抱擁し、大丈夫だと落ち着かせたのちに怪我などないか、早く医者に診てもらいたい

と、コクレンは研究者達の生まれたてであろう赤ん坊の酷い扱いに、酷く心を痛め今にも飛び出したい気持ちでいっぱいだった。

そこを心を鬼にして、赤ん坊の状態を気にしながら研究者達の会話に耳を澄ませていた。


なんて、心ない会話なんだ

…酷い…あまりに酷すぎる



あの赤ちゃんは、人間の姿形はしているが人間族ではない。どの世界を見ても、どの種族にも属さない決して存在しない未知なる生物が誕生してしまった。

…これは、とんでもない事だ。

これにより、世界の異質な存在ができた影響でこの世界に何らかの異変が起きかねないとても恐ろしい事だ。

そんな事をグルグルと考えながら、研究者達の会話を聞いてると遂に


研究者C「……はあ、コレを作る為にどれだけの費用と代償を払った事か。なのに、完成してみれば“何のクソ役にも立たないただのガラクタ”。ガッカリもいい所だ。」

研究者B「…まさか、全てに置いて平々凡々な人間ができてしまうなんてね。逆にビックリだ〜」

研究者A「こんなガラクタいらねーから、さっさと始末するか。」

そんな不穏な会話に変わっていき、赤ん坊を持っていた研究者は泣き喚く赤ん坊がうるさいと赤ん坊の小さな顔を手で塞ぎ、別の研究者が用意したあからさまにヤバそうな液体の入った一般の浴槽くらいの大きさのガラスの入れ物にゴミでも捨てるかのように赤ん坊を放り投げた。

だが、赤ん坊が液体に落ちる音も無く

いつの間にか、赤ん坊の姿は消えていたのだ。それに驚いた研究者達は、何事が起きたのかと焦り消えた赤ん坊を探し始めた。

もちろん、赤ん坊が研究者の手から離れた瞬間にコクレンが赤ん坊を救い出したのだが。

そして、自分の腕の中にいる赤ん坊を優しく抱きながらコクレンは考えた。


…何が、“ガラクタ”だ!自分達が、“とんでもない生物”を創り出した事にも気づけないのか?

…まずいぞ

本来、この世界にない生物の誕生。宇宙のバランスが崩れる可能性が大きい

そうなれば、研究者でなくても“お偉いさん達”が、この赤ん坊を消そうとするだろう。特に、秩序の乱れを大きく嫌う“あの人”なら特にだ

だけど、ここに“命”がある、“魂”がある。それを、どんな理由があろうとそれを奪う権利なんて誰にもない


そんな葛藤の中、コクレンはこの小さな命の体温と小さい心臓の鼓動を感じ


…この小さな命は、一生懸命生きようとしている!

そして、赤ん坊の顔を見ると


…トクン…!

さっきまで、あんなに泣いていたというのにコクレンの顔を見てニッコリ笑い掛けてくれたのだ。

その瞬間、コクレンはこの赤ん坊にハートを射抜かれ


…守らなきゃ…!

この小さな命をオレが……!

そう、思うようになっていた。そして、思い出される自分の奥さんの言葉。

【運命】

…そうか、これが…!

なら、オレの心は決まった!

この子は、子供のできないオレ達夫婦への奇跡のギフト

この子は……


そして、コクレンは今ここに居る部下達に宣言した。


「今から、この子は【オレ達夫婦の子供】になった。今後ともよろしくね。」

なんて言うものだから、コクレンの部下達は大慌てで

「もっと慎重になりましょう!」

「…な、何を言ってるんですか!他の子ならまだしも、その子はマズイです。考え直して下さい。」

「せめて、その赤ちゃんをしっかり調べてから判断して下さい。こんな大事な事、奥様に相談も無しに決める事ではないかと…。…それに、その赤ちゃんは…」

「何より、その赤ん坊を養子にすれば貴方様の命も危うくなるのですよ?それに、貴方だけでない!奥様も!
そこの所をしっかり考えて下さい!」


コクレンの暴走を止めようと必死になっていた。

ちなみに、研究者達は魔界へ落とし【魔界の裁判所】へ送った。そこで、彼らの罪状と刑罰が下される。

赤ん坊を連れ魔界へ帰り、みんなに自分に子供が出来た事を報告しひと騒動あったのだが…そこも割愛する。
色々な問題もありつつ、無理矢理に魔王や信頼ある部下達を説得して何とか赤ん坊を自分達の子供とかなり強引に認めさせた。
他の人達には、事実は伏せ遂に待望のオレ達に赤ちゃんが生まれたという事にした。

それから、月日は流れコクレン達の娘であるマナは夫婦や周りの人達に大切にされ、順調に元気でとてもいい子に育っていた。

些か、みんなマナに甘い気がするが…

特に、コクレンの奥さんはマナが可愛くて仕方なくデレデレで魔具の写真やら動画やら撮りまくっている。


ちなみにだが一番厄介な三大核の一人。智慧の核だが


【赤ん坊の影響で少しでも宇宙に変化があった場合は容赦しないけど。その赤ん坊は何ら影響はないよ。】

なんて、ニコニコしながらそんな事を言ってきたので、その言葉を聞いて体の力が抜けて腰が抜けるかと思うくらい拍子抜けしたのを覚えている。


【君は、この赤ん坊に“何らかの異質な力”に怯えているようだけど。怯える必要はないよ。正体を明かしちゃうと、その赤ん坊は、“極小規模ではあるけど別の宇宙を創り出すの母胎”といった所かな?】

「……え?宇宙…を創り出す“母胎”?」

智慧の核のとんでもない言葉に頭がついていかず、ポカーンとしているコクレンに

【宇宙の作り方は、作り手の能力によってそれぞれ違うんだ。おそらく、君の統治している魔界の禁断区の上級悪魔が禁断区だけじゃ物足りない。
もっともっと欲しいって欲望から、欲望に忠実な種族である人間族の中から程のいい人間を使って、“別の宇宙”つまりは“異世界”を創りそこに移り住んで好き勝手しようと目論んでたんだろうね。】

詳しく説明してくれた。この人が、そういうのだからそうなのだろう。

そんな欲望を満たす為だけに、マナが作られたのかと思うとコクレンは、はらわたが煮えくりかえりそうな気持ちになりどうしようもない怒りが湧いてきた。

【だけど、君達にその計画を邪魔されて“今はその計画も一旦保留”になったみたいだね。
なにせ、長い時間と労力を掛けてその悪魔達も相当なまでに様々な犠牲と魔力も使ったはず。
そこに、“目的をバレてはいけないという悪魔の契約のルール”があったのかもしれないね。そのルールが破られた時、本人達にそれ相応のしっぺ返しがくるからね。
だから、君達にバレちゃったから魔力どころか肉体や魂に相当なダメージを喰らってしまって当分は全く動けないだろうからね。】


確かに、契約系の術はルールが厳しい。その術の代償が大きければ大きいほど、ルールを破った時の代償はそれに比例する恐ろしい術だ。

だから契約系の術式を使う場合は、相手が信頼に値するかどうか見極めなければならない。


【そして、宇宙を創り出す母胎を持ってる赤ん坊だって、宇宙を創り出すにはそのとてつもないエネルギーが必要でその母胎に見合った選ばれし種と合体しなければならない。そんな種なんて滅多にあるものじゃない。】

…つまりは、異性と結ばれても異世界が出来る可能性はないに等しいって事か。

と、コクレンが少しホッとしたところに


【うん、大丈夫だよ。もし、そんな何処を見渡したって無いに等しいよ、うん。
あるとしたら唯一無二であろう希少な種、まさに奇跡としか言えないよ。そもそもの話だよ?
そんな二人が出会う事すら奇跡だし、更に恋に落ちて結婚して二人が一つになって子供が生れ異世界が誕生するって無理があるよ。
あまりに、条件が厳し過ぎるし奇跡を連発しなきゃ無理な事だよね。夢物語でもあるまいし、あり得ない話になっちゃうね。」

なんて、更に安心できる言葉ももらえて、コクレンは安堵した。


「もしもだよ?あり得ないかとは思うけど、万が一にでもそんな奇跡の連発が起きて二人に子供が出来た瞬間。
彼女と種である男性の創った異世界へ自然と居る事になるよね。
そこで今までに類を見ない形だけど、二人は生まれた赤ん坊を育てて…そこからは彼ら次第だよね。
だから、彼女達が別の世界を創り出したら彼女達はそこの世界の“核”に似た存在になる。
だから、彼女達は僕達三大核と一緒の立場となってその世界から出る事は許されない存在にもなるって事だね。】


…ドックン…

ないとは思うけど、もしそんな種があったとしてマナの異世界が誕生したら……俺達は、もう二度とマナには……


ドクン、ドクン…!


そんな事が脳裏に浮かんだが、智慧の核は

“そんな種は何処を見渡したって無いに等しい唯一無二であろう希少な種”

と、言っていた。つまり、無いに等しいって事。
これ以上深く考えるのはやめておこう。


しかし、智慧の核がマナに関して大丈夫だと言っていたので安心だ。

そして、とても意外な事が起きた。

本来、母性本能が溢れに溢れ、赤ん坊や幼い子供達が大好きな魔の核。

【一般の者達に干渉しない。】

というルールを無視して、可哀想な子供達を見かける度に救ってはその罰として酷い拷問に耐えるような“あの人”が、何故かマナにだけは冷たい。

せっかく来たのだから、マナと触れ合ってみないかと何度誘った事か。それでも、断固と断られ拒絶までされた。

そのくせして、毎日のようにマナの様子を見に来るのだ。

おそらく、この世界にとって異物であるマナにあまり干渉しないようにしているのかもしれない。…いつでも、消せるように。

…だけど、おかしい。

タブーを犯してまでも、弱き者を助けてしまう心優しいこの人が……やっぱり、“異物”ともなれば誰にでも平等に接するこの人でさえ違うのだろうか?


それから、何年経っても魔の核の行動は同じだった。

しかし、マナが15才の思春期に事件は起きた。


オレと奥さんと娘一家団欒で、リビングでお茶をしながらいつものように家族の会話を楽しむ。

そんな中、マナはオレにとって衝撃的でショックな話をしてきた。

マナは、花を咲かせるような笑顔でオレ達を見ると


「んふふっ!実は、好きな人できちゃった!」

なんて爆弾発言をして、コクレンは危うくお茶を吹き出すところだったし奥さんは知ってたとばかりにニマニマしながらマナの顔を見ていた。

「…え?好きな人って誰?同じクラスの子?先輩かな?」

なんて、内心ショックを受け焦ったようにマナに聞いた。

ここで、ウソだよ、パパが一番大好き!って、言ってくれたらどんなにいい事か。だけど、雰囲気と奥さんの様子からそうでない事だけは分かってしまった。

まだまだ、幼い子供のように思っていたのに…コイ…え?恋しちゃったの!?ショック過ぎる。

一体、誰に事が好きになってしまったんだろう?変な輩じゃなきゃいいけど。

なんて、ぐるぐる考えていると


「…実は、相手は魔族の子じゃなくて“人間”なんだ。」

と、言ったところで


「コラッ!また、べつの界に行ったね。前は、妖怪達の住む妖界に行って危険な目に遭って怒られたばかりだったよね?その前は、花人達の住む花人界にも行っちゃって…。…ハア、好奇心が大きいのはいい事だけどね。
世界には法律やルールが存在するの。それを守ってみんな生活してるんだよ?」

コクレンは、みっちりと天真爛漫で好奇心旺盛なマナをお説教した。

「ごめんね?だけど、いつだってパパが助けに来てくれるもん。いつも、ありがとパパ。」

なんて、腕にギュッと抱きつかれたら……可愛すぎて許しちゃうよね?

「…だけど、本当に別の界層に行くのは全界層でも禁止されてる事なんだよ。マナはまだ子供だって事で許されてる部分はあるけど、大人になってもそんな事したら警察に捕まっちゃう事なんだよ?」

再度、コクレンはマナにしっかりと注意すると

「だからよ!だって、もったいないよ!世界中には、色んな種族や生活や風景があって、それを体験できないなんて。だから、法律で守られてるうちに色んな階層で色んな種族や世界を見てみたいって思ったの!」

なんて、強く力説してきた。気持ちは分からなくもないが、基本的に別の種族のいる界層へ行くのはタブーだ。どんな危険があるかも分からないし、種族によってはかなり驚かせ問題視されてしまう。

別の界層へ行くには審査を通り許可を得て行く事は可能ではあるが。

基本的に、別の界層へ行けないよう各界層では結界を張り選りすぐりの門番までいるくらいに厳重になっている。

門も5個あり進むごとに、門を開ける状況や門番の強さも格違いに強くなっていく。

だが、何故かマナは何事も無いかのように結界やバリアをすり抜け門番達も目暮らしてしまう。

つまりは、マナはオツムや武術の方は少々弱いものの、こちらの世界の三大核の魔の王に匹敵する程の無限の魔力を持ち、様々な魔導を操る天才でもあったし何より運動神経までとても良かった。

魔界でも屈指のスポーツに特化した中学生でも、毎回魔導とスポーツでは一番を取ってくる自慢の娘だ。
勉強の方は…後ろから数えた方が早いけどね。

武術関係は魔族の中ではとても非力な方なので、重い武器など持てる訳もなく武器など必要ないくらいのオリハルコン並みの肉体も持ってない為
マナにとっては、魔界での武術では分が悪すぎる。しか、お得意の運動神経でそれをカバーして何とか平均をキープしている。

その為、マナは周りの人達に

“勉強と武術はお母さんの方に似ちゃったかぁ。他の才能はお父さん譲りなのに勿体無いなぁ。”

“だけど、両親がこんなにも美しいのに娘の容姿は平凡だなぁ。”

“多分、どちらかの先祖の誰かに似てしまったんだろうなぁ。容姿も、お二方…特に父親に似てば良かったのに可哀想になぁ。”

なんて勝手な評価をされ、オレも奥さん、マナを可愛がってくれている城の部下や使用人達はそれに対してとても気分を害していた。

それは、さておき

マナが大人になった頃には、おそらくはオレに匹敵する…或いはオレを超える程の魔導士になる事だけは間違いない。

だから、かなり困ったことになっている。

マナが小さい頃から、結界の外別の界層に興味深々で少し目を離すとそこへ行こうとしてそれを止めていけない事だよとお説教する。

だが、稀にみんなの目を誤魔化しスルーッと結界を通り抜けて何処かの界層へ行ってしまう。

その度にマナを探し連れ帰ってくる。

そして、毎回その界層のお偉いさんに謝罪して魔界へ戻って来てからも同じ地位の禁断区の王やら四天王やら…まあ、色んな人達にかなりきついお説教をくらう。

もちろん、コクレンだけでなくマナも周りからもかなりきついお説教をされるのだが。

…何処で学んだのか、マナは反省しましたというションボリした姿を見せた所でみんなのお説教は終わるのだが(何だかんだで、みんなマナに甘いのだ。)、お説教が終わった瞬間にはケロリとしてコクレンを見てテヘって笑って見てくるので…おそらく、多分…絶対、マナは全然反省なんかしてない。

それを見かねて、更にコクレンはその事についてのお説教をするが全然聞いちゃいない。

本当に困った娘でもある。

それ以外でも、ちょっとヤンチャ気味で少しハラハラさせられる事も多くありはするが、基本的にはチョッピリ甘えん坊なとても優しい子なのだ。


…しかし…いつまでもヤンチャが過ぎる子供だと思ってたのに、あのマナが“恋”か

好奇心と冒険心が強いせいか、ちょっとした冒険ごっこや探検ごっこなど大好きで、今の今まで恋や愛にさほど興味がなかったというのに…

突然やって来るものなんだなぁ…

ずっと、パパ大好きってオレの周りをチョロチョロして、たまにおいたして怒られたりする日々が続くのだとばかり漠然と思ってのに

…ショックだなぁ

…ハア。本当にショックで泣きそう

だけど、この子のハートを射止めちゃった相手って誰だろう?そこも、かなり気になるなぁ

でも、やっぱり父親としてすっっごくショック!!!


なんて、その日の夜はマナの恋バナといういつもと違った会話ではあったが、いつも通り一家団欒幸せな時間を過ごし就寝時間を迎えいつも通りそれぞれ寝室で眠った筈だった。

…いや、その日はオレ達一家はマナの恋について色々考えちゃって、なかなか寝付けなかったのだが……あれ?急に睡魔が…と、みんな気持ちよく眠った。



これが、オレがマナに会った最後。


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