イケメン従者とおぶた姫。
ビーストキングダム。
〜ビーストキングダム〜
ショウは、嫌な空気を感じとりながらも先を進む。
妙な天気だ。雲行きも怪しいし、空の上ではギャーギャーと何の声か分からない恐ろしい鳴き声がする。
ショウは、とても怖くなって
「…サクラぁ〜、サクラぁ〜…」
呪文のように、ひたすらにサクラの名前を呼びながら泣いていた。
そのうちに、天候は大きく崩れ土砂降りの雨に変わっていた。
「…サクラァァーーーッッ!!!!」
もう、どうしようもなくて立ち止まり大泣きしてしまった所で、ショウ専属の隠密が『ギブアップのようです。今から、ショウ様を連れ屋敷に戻ります』と言葉飛ばしをした。
遠く離れた王室では、リュウキがショウが旅に出て10日も経ったんだな。半日と持たないと思ったのに。と、小さく笑っていた。
さて、帰って来たらさすがに労ってやらないとななんて考えていた。
しかし、この数時間後…
隠密の言葉飛ばしで、身の毛もよだつような話を聞く事となる。
隠密は、さて変装して安全な場所まで誘導しなくてはと考えていた。
と、いうのもショウが歩いている場所は足場の悪い道で近くでは雨の影響で大きな川が氾濫していたのだ。
水のたまる勢いと流れ、降り続く土砂降りだ。急いだ方がいい。
あと少しすれば、事前に呼んで置いたタクシーが来るだろう。
そう考えながら変装をしていた時だった。
ほんの僅か…ほんの僅かに目を離した隙に
ショウは足を滑らせ転んでいた。
「わぁっ!」
転んでビックリしてる間に、更に予期せぬ出来事が。
いつの間にか広がっていた水幅と水位、更に勢いづいた川の流れ。
まさか、こんなに早く、しかも川から50メートルも離れた場所にいたショウの所まで5分もないうちに川の水が迫るなど誰が予想できようか。
まさかの事態に隠密は焦り
「ショウ様っ!」
と、炎魔導を使いショウの前に咄嗟的に
炎の壁を作るも川の勢いに負け、ショウは炎の壁ごと川に飲み込まれあっという間に姿が消えてしまっていた。
隠密が懸命にショウの名前を呼び探すも見当たらず、生きた心地のしないまま言葉飛ばしで今の現状をリュウキに伝えた。
一方、ヨウコウ達は土砂降りの雨の中
気が狂った妖魔、魔獣と戦っていた。
ヨウコウは、得意の銃と水の魔法を使い
ゴウランは、大剣と炎の魔法
ミオは、槍を使い戦い
学校の教科書に載っているとてもレベルの低い妖魔や魔獣ばかりであったが、実際戦ってみると話と全然違う。
これがランクの一番低い妖魔や魔獣なのかと疑ってしまうほど強い。一匹倒すのにも苦戦する。
しかも、圧倒的な数と土砂降りの雨で、体力、魔力も底をつき始め
一行は命からがら、人の住む町へ逃げ込む事ができた。
人の住む町には、妖魔や魔獣の嫌がる結界が張ってあり妖魔達はヨウコウ達が町に入ったのを確認するとどこかへ逃げ去っていった。
ゼェゼェと息を切らし、四人は何とか宿にたどり着く事に成功した。
宿では、酷く疲れた様子の四人を心配し
優しい女将があれやこれやと世話を焼き話を聞いてくれた。
「…なるほどねぇ〜。国境を越えて、わざわざこんな危ない所まできやってのかい。
それにしても、あんたらの親はスパルタを過ぎて頭が狂ってるとしか思えないよ。
軍人になる為の勉強とはいえ、こんな危険な…。」
ヨウコウ達は、自分達の本当の目的や身分を隠し女将にあながち嘘ではない自分達の説明をした。
「特に、ここビーストキングダムは他の国に比べて妖魔や魔獣が圧倒的に多いんだ。
だけど、アンタ達は運が良かったよ。この村は、隣の国が平和な商工王国だからか
弱い妖魔や魔獣しかいない。数も少ない方だよ。」
そう説明してくれた女将の言葉に、四人はゾッとした。
魔法すら使えるだけで希少。なのに、ゴウランはその中でも、僅か17才にしてBクラス。ヨウコウなんて14才でBクラスといった天才である。
しかも、武器術に関してはヨウコウ、ゴウラン、ミオの三人は大人顔負けに強い。
とくにミオは、どんな武器で参加してもよしの総合武器術大会で何度も優勝した事があるくらいの槍の名手である。
高校生以下の大会で、年上を打ち負かし優勝を掻っ攫うくらいには。しかも、世界大会というおまけ付きで。
大会っていうなら、ヨウコウだって武器術大会(銃の部)で全国制覇した事もあるし
ゴウランは武器術大会(剣の部)で、国内には敵無しで何度も世界大会に出場かつ世界大会ベスト16にまで登り詰めた事もある実力者である。
だから、自信があったのだ。
上級妖魔と会ってしまったなら分からないが、中級レベルの妖魔・魔獣くらいなら何とかできるだろう。ましてや、人間など大した事などないと。
ところが、この女将は言った。
ここは、レベルが低いから安心だと。数も少ないと。
それを自分達は、命からがらようやく逃げて来たのだ。しかも
「ここいらのヤツら(妖魔、魔獣)は、弱いからね。自分達でもヤツらを伸すくらいはできるがね。
商工王国から離れれば離れただけ、ヤツらの強さはハンパじゃないよ。
ただ、その分珍しい妖魔や魔獣に出会えるがね。恐ろしくて会いたくもないが。」
と、三毛猫の獣人の女将は豪快に笑っていた。宿屋で働く鍛錬も何もしていない一般市民の女将がだ。獣人は身体能力がずば抜けていると話は聞いていたが…。
一般市民の大人で、これほどなのだから鍛え抜いた武人達はどれほどまで強いのか想像できなかった。
だが、獣人は身体能力がずば抜けているが、他の国に比べ魔法を使える者は極端に少なく
魔法の質も悪いと聞く。
さて、少し落ち着きを取り戻した一行は、改めて女将を見た。
女将は人型では無く完全なる獣型であった。人と同じ大きさの猫が服を着て二本足で歩いてる。人間の言葉を喋り、人間と同じ様な生活をしている。
自分の国から出た事がなく、教科書や人の話だけでしか聞いた事がなかったが…実際目の当たりにすると驚きしかない。童話の世界に迷い込んだ気分だ。
女将の手料理を食べ、部屋に戻った四人だったが…
「…あのブタ…どうしてるかな?生きてるかな?」
と、ミミはベッドに膝を抱え込むように座りカタカタと身を震わせていた。そこで、ハッとしたミオは慌ててアプリ携帯で電話をする。だが、何度掛けても繋がらない。
不安になったミオは、震える手でメッセージを送った。…が、送信失敗で送る事ができなかった。
四人の頭に嫌な予感がよぎる。
バクバクと心臓の音が嫌にうるさい。
その時
ガチャ!
いきなり扉が開き、ヨウコウとゴウラン、ミオは何事かと構える。
ミミは怯え、ベッドの隅に体を隠した。
とてつもない殺気を感じ、三人は恐怖で体が固まってしまった。
そこに現れたのは
「…お、王様!」
その姿を見て、思わずヨウコウは声に出していた。
何故、こんな所に?あり得ない!!
…ま、まさか、余の心配をして…?
ドクン、ドクン…!
と、急に現れた王に胸を弾ませた。
ヨウコウの言葉にゴウラン達も驚き、慌てて床に膝をつき頭を下げる。
ゴウランは何故こんな所にとも思ったが、王子であるヨウコウがいるので様子を見に来てもおかしくないかと思った。
しかし、王様は35才と話を聞いた事があったが…見た目が若すぎる。
ミミは19才、ゴウランとミオは17才、王子は14才であるが、王様はミミか下手すればゴウラン、ミオと同い年と言われればそう見える程に若く見える。
しかも、かなりのイケメンなのでミミはドキドキしていた。
身長は190センチくらいあるだろうか?
健康的な肌に鍛え上げられた肉体…なんか、もう色々と凄く好みだ。強い男の色気もあって魅力的だ。
ゴウランとミオは、この方が軍事、政治ともに世界一と評され千年に一人の逸材とまで言われるほどの王かと畏怖した。
まさか、そんな素晴らしい王をこの目で
しかも、こんなに近くで拝む事ができようとは…。あまりの感動と恐れ多さで頭が真っ白である。緊張で全身震える。
しかし、ヨウコウ達はもう一度だけ顔を拝みたいとチラリと王の顔を見た瞬間…みんな凍り付いた。
王の顔は、決して自分達を心配するそれではなく怒りと殺気立つオーラを放っている。
少しでも動けば、即座に殺されてしまう。そんな禍々しい恐ろしい気さえ感じる。
まるで、王の姿を借りた邪神のようだ。
まさかの王の登場に、これは現実かと驚きが先に立ちみんな浮足立っていた。
なので、今の今まで気づかなかったが…少しずつ冷静さを取り戻していったヨウコウ達は、徐々に現実に引き戻されて来たと同時に、気付きたくもない事にもようやく気づき始めてきた。
…何故だろう?王の顔や至る所にベットリと血が付いている。
しかも、王は手に何かを持って引きずって歩いている。それを見れば…
…ゾォッ…!!?
黒づくめの人間が血塗れでグッタリしている。その人間の髪を引きずってここにいるのだ。
…な、何が起きているんだ?
四人は、恐怖のあまり身が縮み上がり身動きが取れず、ミミに至っては「…ヒィィ…!」と恐怖の声を漏らし震え上がりジョボボボ…失禁してしまっていた。
王は手に持っていた血塗れの人間をヨウコウ達の前にボチャッと投げ捨てると、どこからともなく黒づくめの人間が王の前に現れ跪いた。
それを確認すると、王は黒づくめの人間を冷たく見下ろし
「…なんで、お前がここにいる?」
そう言うと、王はガシリと黒づくめの人間の頭を掴み
…ゴジュッ!!!?
思い切り床に叩きつけた。叩きつけられた顔からは鼻が潰れたのか歯が折れたのか大量の血が飛び散っていた。
「…なんで、こいつらだけ生き残ってるんだ?…なあ、教えろよ。」
王は、黒づくめの人間にそう呟きながら何度も何度も黒づくめの人間の頭を床に叩きつけた。
肉の潰れる音と骨の折れる音、血飛沫で
ヨウコウ達は恐ろしい拷問を見せられてる気分になった。あまりの光景に四人は、ガタガタと震えながら、もうやめてくれと声にならない声で叫びすくみ上がっていた。
「ふざけるな!ふざけるな!!…俺の…俺の……を返せよ。俺の………っっっ!!!!!?」
と、王は雄叫びをあげるように叫び…涙を流していた。
四人は何が起きたのか分からず困惑した。
何故、王は泣きながら黒づくめの人間を床に叩きつけているのかと。そもそも、何故こんな所にわざわざ姿を現したのか。
それに、この黒づくめの人間は一体何者なのか。…敵?いや、敵が跪くか?と。
それから、すぐ後にゴウランの父である将官がやってきた。
「…王!どうか、お怒りを鎮めて下さい。
まだ、まだ死体が上がったわけではないです。どうか、捜索隊の連絡を待っては下さいませんか?」
「…待ってどうなる?アレは…誰よりも弱い生き物なんだぞ?」
王は、眉を大きく下げ大粒の涙を流し将官を見た。
「…もしもの場合は、この命…」
と、将官が言いかけた所で
「…足りねぇ〜…足りねぇよ。そんな、軽い命なんかいらねぇ。」
王はそんな事を言ってきた。それには、ゴウランはカッとなり俺の父上の命が軽いだと!!?と、怒りを覚えた。
しかし
「…その時は、俺が死ぬ…」
王は、持っていた黒づくめの人間をボトっと落とすと
「…アレは、俺の命…たった一つの宝。アレがなくなったら、俺の生きてる意味なんてない。」
そう言って、部屋の外へ出て行ってしまった。
それを見送ってから、将官は
「お前らは、一体何をしていたんだぁぁっっ!!!?」
と、ヨウコウ達を怒鳴りつけてきた。
「…な、何の事ですか?父上…」
振り絞るように、ようやく出した声だった。ゴウランが、そう尋ねると
「…もう一人、一緒に旅をしていたはずの人間はどうした?」
怒りに満ちた声で、将官は息子に尋ねる。
しかし、その答えにゴウランはなんと答えたらいいものか口籠ってしまった。
代わりに
「…お前達を信じた俺が愚かであった。」
と、将官は口に出しこの場を去った。
王の後を追いながら将官は考えていた。
王には、あのように言ったが
氾濫した川に飲み込まれたら、すでに死んでいる事だろう。しかも、あそこの川は普段から川の流れが激しくよく水難事故が多発する川らしい。
だから、死体が出てこない事を祈る。
死体さえ出てこなければ、まだ生きている可能性があると王を騙し落ち着いてもらう事も可能だろう。
なにせ、我が王は誰もが認める覇王なのだから。こんな素晴らしい王は歴代…いや、
全世界を見渡してもいないと豪語できる。
もし、死体が見つかったなら王の耳に入る前に跡形もなく処分をし、死にかけていたなら…その場で息の根を止めてしまえばいい。
全ては王の為に
ショウは、嫌な空気を感じとりながらも先を進む。
妙な天気だ。雲行きも怪しいし、空の上ではギャーギャーと何の声か分からない恐ろしい鳴き声がする。
ショウは、とても怖くなって
「…サクラぁ〜、サクラぁ〜…」
呪文のように、ひたすらにサクラの名前を呼びながら泣いていた。
そのうちに、天候は大きく崩れ土砂降りの雨に変わっていた。
「…サクラァァーーーッッ!!!!」
もう、どうしようもなくて立ち止まり大泣きしてしまった所で、ショウ専属の隠密が『ギブアップのようです。今から、ショウ様を連れ屋敷に戻ります』と言葉飛ばしをした。
遠く離れた王室では、リュウキがショウが旅に出て10日も経ったんだな。半日と持たないと思ったのに。と、小さく笑っていた。
さて、帰って来たらさすがに労ってやらないとななんて考えていた。
しかし、この数時間後…
隠密の言葉飛ばしで、身の毛もよだつような話を聞く事となる。
隠密は、さて変装して安全な場所まで誘導しなくてはと考えていた。
と、いうのもショウが歩いている場所は足場の悪い道で近くでは雨の影響で大きな川が氾濫していたのだ。
水のたまる勢いと流れ、降り続く土砂降りだ。急いだ方がいい。
あと少しすれば、事前に呼んで置いたタクシーが来るだろう。
そう考えながら変装をしていた時だった。
ほんの僅か…ほんの僅かに目を離した隙に
ショウは足を滑らせ転んでいた。
「わぁっ!」
転んでビックリしてる間に、更に予期せぬ出来事が。
いつの間にか広がっていた水幅と水位、更に勢いづいた川の流れ。
まさか、こんなに早く、しかも川から50メートルも離れた場所にいたショウの所まで5分もないうちに川の水が迫るなど誰が予想できようか。
まさかの事態に隠密は焦り
「ショウ様っ!」
と、炎魔導を使いショウの前に咄嗟的に
炎の壁を作るも川の勢いに負け、ショウは炎の壁ごと川に飲み込まれあっという間に姿が消えてしまっていた。
隠密が懸命にショウの名前を呼び探すも見当たらず、生きた心地のしないまま言葉飛ばしで今の現状をリュウキに伝えた。
一方、ヨウコウ達は土砂降りの雨の中
気が狂った妖魔、魔獣と戦っていた。
ヨウコウは、得意の銃と水の魔法を使い
ゴウランは、大剣と炎の魔法
ミオは、槍を使い戦い
学校の教科書に載っているとてもレベルの低い妖魔や魔獣ばかりであったが、実際戦ってみると話と全然違う。
これがランクの一番低い妖魔や魔獣なのかと疑ってしまうほど強い。一匹倒すのにも苦戦する。
しかも、圧倒的な数と土砂降りの雨で、体力、魔力も底をつき始め
一行は命からがら、人の住む町へ逃げ込む事ができた。
人の住む町には、妖魔や魔獣の嫌がる結界が張ってあり妖魔達はヨウコウ達が町に入ったのを確認するとどこかへ逃げ去っていった。
ゼェゼェと息を切らし、四人は何とか宿にたどり着く事に成功した。
宿では、酷く疲れた様子の四人を心配し
優しい女将があれやこれやと世話を焼き話を聞いてくれた。
「…なるほどねぇ〜。国境を越えて、わざわざこんな危ない所まできやってのかい。
それにしても、あんたらの親はスパルタを過ぎて頭が狂ってるとしか思えないよ。
軍人になる為の勉強とはいえ、こんな危険な…。」
ヨウコウ達は、自分達の本当の目的や身分を隠し女将にあながち嘘ではない自分達の説明をした。
「特に、ここビーストキングダムは他の国に比べて妖魔や魔獣が圧倒的に多いんだ。
だけど、アンタ達は運が良かったよ。この村は、隣の国が平和な商工王国だからか
弱い妖魔や魔獣しかいない。数も少ない方だよ。」
そう説明してくれた女将の言葉に、四人はゾッとした。
魔法すら使えるだけで希少。なのに、ゴウランはその中でも、僅か17才にしてBクラス。ヨウコウなんて14才でBクラスといった天才である。
しかも、武器術に関してはヨウコウ、ゴウラン、ミオの三人は大人顔負けに強い。
とくにミオは、どんな武器で参加してもよしの総合武器術大会で何度も優勝した事があるくらいの槍の名手である。
高校生以下の大会で、年上を打ち負かし優勝を掻っ攫うくらいには。しかも、世界大会というおまけ付きで。
大会っていうなら、ヨウコウだって武器術大会(銃の部)で全国制覇した事もあるし
ゴウランは武器術大会(剣の部)で、国内には敵無しで何度も世界大会に出場かつ世界大会ベスト16にまで登り詰めた事もある実力者である。
だから、自信があったのだ。
上級妖魔と会ってしまったなら分からないが、中級レベルの妖魔・魔獣くらいなら何とかできるだろう。ましてや、人間など大した事などないと。
ところが、この女将は言った。
ここは、レベルが低いから安心だと。数も少ないと。
それを自分達は、命からがらようやく逃げて来たのだ。しかも
「ここいらのヤツら(妖魔、魔獣)は、弱いからね。自分達でもヤツらを伸すくらいはできるがね。
商工王国から離れれば離れただけ、ヤツらの強さはハンパじゃないよ。
ただ、その分珍しい妖魔や魔獣に出会えるがね。恐ろしくて会いたくもないが。」
と、三毛猫の獣人の女将は豪快に笑っていた。宿屋で働く鍛錬も何もしていない一般市民の女将がだ。獣人は身体能力がずば抜けていると話は聞いていたが…。
一般市民の大人で、これほどなのだから鍛え抜いた武人達はどれほどまで強いのか想像できなかった。
だが、獣人は身体能力がずば抜けているが、他の国に比べ魔法を使える者は極端に少なく
魔法の質も悪いと聞く。
さて、少し落ち着きを取り戻した一行は、改めて女将を見た。
女将は人型では無く完全なる獣型であった。人と同じ大きさの猫が服を着て二本足で歩いてる。人間の言葉を喋り、人間と同じ様な生活をしている。
自分の国から出た事がなく、教科書や人の話だけでしか聞いた事がなかったが…実際目の当たりにすると驚きしかない。童話の世界に迷い込んだ気分だ。
女将の手料理を食べ、部屋に戻った四人だったが…
「…あのブタ…どうしてるかな?生きてるかな?」
と、ミミはベッドに膝を抱え込むように座りカタカタと身を震わせていた。そこで、ハッとしたミオは慌ててアプリ携帯で電話をする。だが、何度掛けても繋がらない。
不安になったミオは、震える手でメッセージを送った。…が、送信失敗で送る事ができなかった。
四人の頭に嫌な予感がよぎる。
バクバクと心臓の音が嫌にうるさい。
その時
ガチャ!
いきなり扉が開き、ヨウコウとゴウラン、ミオは何事かと構える。
ミミは怯え、ベッドの隅に体を隠した。
とてつもない殺気を感じ、三人は恐怖で体が固まってしまった。
そこに現れたのは
「…お、王様!」
その姿を見て、思わずヨウコウは声に出していた。
何故、こんな所に?あり得ない!!
…ま、まさか、余の心配をして…?
ドクン、ドクン…!
と、急に現れた王に胸を弾ませた。
ヨウコウの言葉にゴウラン達も驚き、慌てて床に膝をつき頭を下げる。
ゴウランは何故こんな所にとも思ったが、王子であるヨウコウがいるので様子を見に来てもおかしくないかと思った。
しかし、王様は35才と話を聞いた事があったが…見た目が若すぎる。
ミミは19才、ゴウランとミオは17才、王子は14才であるが、王様はミミか下手すればゴウラン、ミオと同い年と言われればそう見える程に若く見える。
しかも、かなりのイケメンなのでミミはドキドキしていた。
身長は190センチくらいあるだろうか?
健康的な肌に鍛え上げられた肉体…なんか、もう色々と凄く好みだ。強い男の色気もあって魅力的だ。
ゴウランとミオは、この方が軍事、政治ともに世界一と評され千年に一人の逸材とまで言われるほどの王かと畏怖した。
まさか、そんな素晴らしい王をこの目で
しかも、こんなに近くで拝む事ができようとは…。あまりの感動と恐れ多さで頭が真っ白である。緊張で全身震える。
しかし、ヨウコウ達はもう一度だけ顔を拝みたいとチラリと王の顔を見た瞬間…みんな凍り付いた。
王の顔は、決して自分達を心配するそれではなく怒りと殺気立つオーラを放っている。
少しでも動けば、即座に殺されてしまう。そんな禍々しい恐ろしい気さえ感じる。
まるで、王の姿を借りた邪神のようだ。
まさかの王の登場に、これは現実かと驚きが先に立ちみんな浮足立っていた。
なので、今の今まで気づかなかったが…少しずつ冷静さを取り戻していったヨウコウ達は、徐々に現実に引き戻されて来たと同時に、気付きたくもない事にもようやく気づき始めてきた。
…何故だろう?王の顔や至る所にベットリと血が付いている。
しかも、王は手に何かを持って引きずって歩いている。それを見れば…
…ゾォッ…!!?
黒づくめの人間が血塗れでグッタリしている。その人間の髪を引きずってここにいるのだ。
…な、何が起きているんだ?
四人は、恐怖のあまり身が縮み上がり身動きが取れず、ミミに至っては「…ヒィィ…!」と恐怖の声を漏らし震え上がりジョボボボ…失禁してしまっていた。
王は手に持っていた血塗れの人間をヨウコウ達の前にボチャッと投げ捨てると、どこからともなく黒づくめの人間が王の前に現れ跪いた。
それを確認すると、王は黒づくめの人間を冷たく見下ろし
「…なんで、お前がここにいる?」
そう言うと、王はガシリと黒づくめの人間の頭を掴み
…ゴジュッ!!!?
思い切り床に叩きつけた。叩きつけられた顔からは鼻が潰れたのか歯が折れたのか大量の血が飛び散っていた。
「…なんで、こいつらだけ生き残ってるんだ?…なあ、教えろよ。」
王は、黒づくめの人間にそう呟きながら何度も何度も黒づくめの人間の頭を床に叩きつけた。
肉の潰れる音と骨の折れる音、血飛沫で
ヨウコウ達は恐ろしい拷問を見せられてる気分になった。あまりの光景に四人は、ガタガタと震えながら、もうやめてくれと声にならない声で叫びすくみ上がっていた。
「ふざけるな!ふざけるな!!…俺の…俺の……を返せよ。俺の………っっっ!!!!!?」
と、王は雄叫びをあげるように叫び…涙を流していた。
四人は何が起きたのか分からず困惑した。
何故、王は泣きながら黒づくめの人間を床に叩きつけているのかと。そもそも、何故こんな所にわざわざ姿を現したのか。
それに、この黒づくめの人間は一体何者なのか。…敵?いや、敵が跪くか?と。
それから、すぐ後にゴウランの父である将官がやってきた。
「…王!どうか、お怒りを鎮めて下さい。
まだ、まだ死体が上がったわけではないです。どうか、捜索隊の連絡を待っては下さいませんか?」
「…待ってどうなる?アレは…誰よりも弱い生き物なんだぞ?」
王は、眉を大きく下げ大粒の涙を流し将官を見た。
「…もしもの場合は、この命…」
と、将官が言いかけた所で
「…足りねぇ〜…足りねぇよ。そんな、軽い命なんかいらねぇ。」
王はそんな事を言ってきた。それには、ゴウランはカッとなり俺の父上の命が軽いだと!!?と、怒りを覚えた。
しかし
「…その時は、俺が死ぬ…」
王は、持っていた黒づくめの人間をボトっと落とすと
「…アレは、俺の命…たった一つの宝。アレがなくなったら、俺の生きてる意味なんてない。」
そう言って、部屋の外へ出て行ってしまった。
それを見送ってから、将官は
「お前らは、一体何をしていたんだぁぁっっ!!!?」
と、ヨウコウ達を怒鳴りつけてきた。
「…な、何の事ですか?父上…」
振り絞るように、ようやく出した声だった。ゴウランが、そう尋ねると
「…もう一人、一緒に旅をしていたはずの人間はどうした?」
怒りに満ちた声で、将官は息子に尋ねる。
しかし、その答えにゴウランはなんと答えたらいいものか口籠ってしまった。
代わりに
「…お前達を信じた俺が愚かであった。」
と、将官は口に出しこの場を去った。
王の後を追いながら将官は考えていた。
王には、あのように言ったが
氾濫した川に飲み込まれたら、すでに死んでいる事だろう。しかも、あそこの川は普段から川の流れが激しくよく水難事故が多発する川らしい。
だから、死体が出てこない事を祈る。
死体さえ出てこなければ、まだ生きている可能性があると王を騙し落ち着いてもらう事も可能だろう。
なにせ、我が王は誰もが認める覇王なのだから。こんな素晴らしい王は歴代…いや、
全世界を見渡してもいないと豪語できる。
もし、死体が見つかったなら王の耳に入る前に跡形もなく処分をし、死にかけていたなら…その場で息の根を止めてしまえばいい。
全ては王の為に