イケメン従者とおぶた姫。
入院してから二週間。
ようやく退院できる事となった。
「チィッ!」
「ショ〜〜〜っっっ!!!」
ショウは、久しぶりにチィに会った。
チィに会えて嬉しい!チィも、ショウを見るなり涙ぐみながら駆け寄ってきてくれた。
お互いに、両手で手を握って顔を見た。
そう。ショウの退院が決まった時、リュウキが「退院したら、チィの家に顔を見に行くか?」と言ってくれたのだ。
そして、連れて来てもらったのは
ビーストキングダム。
けど、違うのは、以前チィが住んでいたあの橋の下などではなく、まともな普通のありふれたアパート。
インターフォンを鳴らし、出てきたチィは全然臭くなく石鹸のいい香りがした。
久しぶりに見たチィは、前に見た時より健康的になって大きな真っ黒の目がキラキラしてて可愛かった。
初めて会った時のチィはガリガリで毛並みもジットリ脂っこくて汚れてたのに。
今は、毛も清潔でフサフサで元気いっぱいって感じだ。嬉しい!
リュウキの話では、栄養失調で不衛生なところにいたので身体中にノミ、お腹に虫がいたそうだ。
病院に入院してもらって、今は健康そのものになったと教えてもらった。
「ショウ、もう大丈夫なの?」
「うん!もう、元気だよ。チィは元気?」
と、聞くとチィは嬉しそうに「うんなの!」
って言って、ショウを家の中に招き入れてくれた。
リュウキは、二時間ほどしたら迎えに来ると言ってどこかへ出掛けて行った。
中へ入ると、あの橋の下の家では考えられないようなワンルームで、台所やトイレ、お風呂までついていた。
家具も揃ってあり、小さなテーブルに
あの濁った水ではない果物のジュースが出されていた。
チィは、ピンク色の可愛らしい座布団にちょこんと座ると
「ショウ、ありがとうなの。」
と、頭を下げて何故かお礼を言われてしまった。どうして、お礼を言うのかとショウが少しパニクっていると
「…ショウが、入院したあの日。
ショウのお父さんが、アタシのところに来て
“娘を助けてくれて、ありがとう”って、頭を下げてきたの。」
と、話し始めるチィに
ショウは、…え?と、思った。
お父さんが、お礼を言ったの?しかも、頭まで下げて??
傲慢でプライドの塊のような、あのお父さんが?
「ショウは、お父さんに大事にされてるのね。ショウのお父さん、アタシなんかに何回も何回もお礼言って、たくさんたくさん泣いてたの。」
…それ、人違いじゃない?
チィの話すショウの父親と、ショウが見てきた父親の姿があまりにかけ離れ過ぎていて
どうも、ショウはいまいちピンとこなかった。
「それから、お礼にって健康診断してくれて
治療までしてもらったの!
それに、それにね!寮つきで働ける所も用意してくれて、お給料が入るまでの間の生活費もくれて生活に必要なものも全部買ってくれたの!!
あとね、あとね!住民権と住所までもらえたの。だから、働ける!」
その話を聞いて、ショウは思い出した。
入院初日、リュウキは言っていた。
チィにとって、嬉しい事をしてあげようと。
それをリュウキは実行してくれたのだ。
約束を守ってくれた。ショウは、リュウキの気持ちが嬉しくてジワリと心が熱くなった。
お父さん…お父さん、ありがとう!
「…“こんなにしてもらって、チィはどうお礼を返せばいいか分からないの”って、ショウの
お父さんに言ったら
“本当にこれだけでいいのか?
俺としては、こんなものじゃない。もっと、いい褒美もやりたいのだが…。後から、あれもこれもと言っても受け付けられない。
だから、今のうちに望む事を言ってくれ。”
なんて言ってきて、チィの心臓が飛び出るかと思うくらいビックリしたの。」
なんて、仰天エピソードも話してきた。
それから、チィとたくさんたくさんお喋りして、今度一緒に遊ぼうねって約束して
サヨナラをした。もちろん、アプリ携帯に
お友達追加でチィの名前が入った事は言うまでもない。
嬉しい、本当に嬉しい!
チィとお別れして、リュウキに連れて行かれたのは住み慣れた家ではなく別荘だという
新緑に囲まれた小さな家だった。
そこに入ると、お爺とお婆が待っていて
たくさんご馳走を用意してもらった。
久しぶりに、ゆっくりお風呂にも入れたし
フカフカのベッドは言うまでもなく気持ちいい!サイコーだ!!
楽しいひと時だった。…けど、何か物足りない。いつも、自分の側にいてくれた存在があまりに大きすぎて…。
つい、ここにサクラがいたらなぁと考えてしまう。
もう、サクラの事は考えないようにしようって思うのに。
いつの間にか、自然とサクラの事を考えてしまう。…さみしい…。
それから更に二週間ほど自宅療養していた
ショウ。
「…もう一度、聞く。
お前は、また旅に出たいって言うのか?」
リビングで、隣合ってソファーに座っているショウとリュウキ。
リュウキは隣に座るショウの顔をマジマジと見つめ言った。
「…お前、旅で散々な目にあったろ?
それでも、行くってのか?」
そう心配そうに聞いてくるリュウキに
「…うん。まだ、旅に参加できるんだったら…やってみたいんだけど…」
ショウは、ダメ元でお願いしてみた。
多分、足手まといになるから断られるかもしれないし。ヨウコウ達には、もう新しい一般人の旅の仲間がいるかもしれないから。
すると、しばらく考えていた風のリュウキは
「……少し、考えさせてくれないか?」
と、面白くなさそうな微妙な顔をしてリビングを出て行ってしまった。
ショウは、誰も居なくなったリビングにポツンと一人、美しい景色を眺めながら考えていた。
ここは、とても景色がよくて空気も澄んでいて心地がいい。
リュウキは、ショウが退院してから仕事へ行くが夕方には必ず帰って来た。お爺の話だと、部下に無理を言って無理矢理別荘に帰って来ているのだとか。
だから、仕事仲間の人達は今もの凄く大変な思いをしていて。早く、まともに仕事に戻って来てほしいと泣いてるらしい。
このままだと、お仕事がダメになってしまうのだとか。大変な事だ。
自分は元気になったし、仕事の事を考え
たまにリュウキがソワソワしている事も知っている。だから、リュウキには仕事に完全復帰してほしい。
もう、自分が嫌いだから家に帰って来ないとか思わない。
今回の事でそれが、よく分かった。
リュウキは、本当に本当に仕事が忙しくて
それでも、いつも無理して家に帰って来てるって事。
…そう思うと、その気持ちだけでも嬉しく感じる。
そして
今まで、考えもしなかった事もいっぱい考える事もできた。
ここで思うのが、いかに自分が世の中を知らないかって事。
チィと出会って、それを深く考えさせられた。
いかに自分がダメな人間かって思った。
自分に何ができるとも思わないが、とにかく世界を見てみたいと思った。
そこで、今回のようにたくさん学ぶべき事があるんじゃないかって思った。
それ以上の事は、まだ考えられないが…。
だからこそ、最悪なチームだけど…あそこに参加すれば色んな国を見て色んな人達を見て経験して何かを知る事ができるんじゃないかって思った。
あのチームに戻るのは凄く凄く嫌だけど。
けど、それ以上に自分の知らない世界を見て感じたいと思った。
その事を頭が悪いせいで口足らずではあったが、「もう、お前には旅はさせない。ここで、いつものように暮らせばいい。」と、言うリュウキを懸命に説得した。
どうなるかは分からないけど。
次の日の朝。
ショウが目を覚ますと、一緒に眠っていた
リュウキが珍しく隣にいた。
いつも、リュウキは仕事で朝早く行ってしまうので、ショウが目を覚ます頃にはそこにいないというのに。
眠い目を擦りながら、ショウがリュウキを見上げると
「…本当は行かせたくはないが…許可する。」
と、苦い笑みを浮かべ話しかけてきた。
「…え?」
「ただし、俺の判断でお前には無理だと思ったら容赦なく連れ帰るが、それでもいいか?」
と、聞いてくるリュウキに
「う、うん!ありがとう、お父さん!」
ショウは、まさかの答えに驚きつつ
明るい笑顔でリュウキにお礼を言った。
ようやく退院できる事となった。
「チィッ!」
「ショ〜〜〜っっっ!!!」
ショウは、久しぶりにチィに会った。
チィに会えて嬉しい!チィも、ショウを見るなり涙ぐみながら駆け寄ってきてくれた。
お互いに、両手で手を握って顔を見た。
そう。ショウの退院が決まった時、リュウキが「退院したら、チィの家に顔を見に行くか?」と言ってくれたのだ。
そして、連れて来てもらったのは
ビーストキングダム。
けど、違うのは、以前チィが住んでいたあの橋の下などではなく、まともな普通のありふれたアパート。
インターフォンを鳴らし、出てきたチィは全然臭くなく石鹸のいい香りがした。
久しぶりに見たチィは、前に見た時より健康的になって大きな真っ黒の目がキラキラしてて可愛かった。
初めて会った時のチィはガリガリで毛並みもジットリ脂っこくて汚れてたのに。
今は、毛も清潔でフサフサで元気いっぱいって感じだ。嬉しい!
リュウキの話では、栄養失調で不衛生なところにいたので身体中にノミ、お腹に虫がいたそうだ。
病院に入院してもらって、今は健康そのものになったと教えてもらった。
「ショウ、もう大丈夫なの?」
「うん!もう、元気だよ。チィは元気?」
と、聞くとチィは嬉しそうに「うんなの!」
って言って、ショウを家の中に招き入れてくれた。
リュウキは、二時間ほどしたら迎えに来ると言ってどこかへ出掛けて行った。
中へ入ると、あの橋の下の家では考えられないようなワンルームで、台所やトイレ、お風呂までついていた。
家具も揃ってあり、小さなテーブルに
あの濁った水ではない果物のジュースが出されていた。
チィは、ピンク色の可愛らしい座布団にちょこんと座ると
「ショウ、ありがとうなの。」
と、頭を下げて何故かお礼を言われてしまった。どうして、お礼を言うのかとショウが少しパニクっていると
「…ショウが、入院したあの日。
ショウのお父さんが、アタシのところに来て
“娘を助けてくれて、ありがとう”って、頭を下げてきたの。」
と、話し始めるチィに
ショウは、…え?と、思った。
お父さんが、お礼を言ったの?しかも、頭まで下げて??
傲慢でプライドの塊のような、あのお父さんが?
「ショウは、お父さんに大事にされてるのね。ショウのお父さん、アタシなんかに何回も何回もお礼言って、たくさんたくさん泣いてたの。」
…それ、人違いじゃない?
チィの話すショウの父親と、ショウが見てきた父親の姿があまりにかけ離れ過ぎていて
どうも、ショウはいまいちピンとこなかった。
「それから、お礼にって健康診断してくれて
治療までしてもらったの!
それに、それにね!寮つきで働ける所も用意してくれて、お給料が入るまでの間の生活費もくれて生活に必要なものも全部買ってくれたの!!
あとね、あとね!住民権と住所までもらえたの。だから、働ける!」
その話を聞いて、ショウは思い出した。
入院初日、リュウキは言っていた。
チィにとって、嬉しい事をしてあげようと。
それをリュウキは実行してくれたのだ。
約束を守ってくれた。ショウは、リュウキの気持ちが嬉しくてジワリと心が熱くなった。
お父さん…お父さん、ありがとう!
「…“こんなにしてもらって、チィはどうお礼を返せばいいか分からないの”って、ショウの
お父さんに言ったら
“本当にこれだけでいいのか?
俺としては、こんなものじゃない。もっと、いい褒美もやりたいのだが…。後から、あれもこれもと言っても受け付けられない。
だから、今のうちに望む事を言ってくれ。”
なんて言ってきて、チィの心臓が飛び出るかと思うくらいビックリしたの。」
なんて、仰天エピソードも話してきた。
それから、チィとたくさんたくさんお喋りして、今度一緒に遊ぼうねって約束して
サヨナラをした。もちろん、アプリ携帯に
お友達追加でチィの名前が入った事は言うまでもない。
嬉しい、本当に嬉しい!
チィとお別れして、リュウキに連れて行かれたのは住み慣れた家ではなく別荘だという
新緑に囲まれた小さな家だった。
そこに入ると、お爺とお婆が待っていて
たくさんご馳走を用意してもらった。
久しぶりに、ゆっくりお風呂にも入れたし
フカフカのベッドは言うまでもなく気持ちいい!サイコーだ!!
楽しいひと時だった。…けど、何か物足りない。いつも、自分の側にいてくれた存在があまりに大きすぎて…。
つい、ここにサクラがいたらなぁと考えてしまう。
もう、サクラの事は考えないようにしようって思うのに。
いつの間にか、自然とサクラの事を考えてしまう。…さみしい…。
それから更に二週間ほど自宅療養していた
ショウ。
「…もう一度、聞く。
お前は、また旅に出たいって言うのか?」
リビングで、隣合ってソファーに座っているショウとリュウキ。
リュウキは隣に座るショウの顔をマジマジと見つめ言った。
「…お前、旅で散々な目にあったろ?
それでも、行くってのか?」
そう心配そうに聞いてくるリュウキに
「…うん。まだ、旅に参加できるんだったら…やってみたいんだけど…」
ショウは、ダメ元でお願いしてみた。
多分、足手まといになるから断られるかもしれないし。ヨウコウ達には、もう新しい一般人の旅の仲間がいるかもしれないから。
すると、しばらく考えていた風のリュウキは
「……少し、考えさせてくれないか?」
と、面白くなさそうな微妙な顔をしてリビングを出て行ってしまった。
ショウは、誰も居なくなったリビングにポツンと一人、美しい景色を眺めながら考えていた。
ここは、とても景色がよくて空気も澄んでいて心地がいい。
リュウキは、ショウが退院してから仕事へ行くが夕方には必ず帰って来た。お爺の話だと、部下に無理を言って無理矢理別荘に帰って来ているのだとか。
だから、仕事仲間の人達は今もの凄く大変な思いをしていて。早く、まともに仕事に戻って来てほしいと泣いてるらしい。
このままだと、お仕事がダメになってしまうのだとか。大変な事だ。
自分は元気になったし、仕事の事を考え
たまにリュウキがソワソワしている事も知っている。だから、リュウキには仕事に完全復帰してほしい。
もう、自分が嫌いだから家に帰って来ないとか思わない。
今回の事でそれが、よく分かった。
リュウキは、本当に本当に仕事が忙しくて
それでも、いつも無理して家に帰って来てるって事。
…そう思うと、その気持ちだけでも嬉しく感じる。
そして
今まで、考えもしなかった事もいっぱい考える事もできた。
ここで思うのが、いかに自分が世の中を知らないかって事。
チィと出会って、それを深く考えさせられた。
いかに自分がダメな人間かって思った。
自分に何ができるとも思わないが、とにかく世界を見てみたいと思った。
そこで、今回のようにたくさん学ぶべき事があるんじゃないかって思った。
それ以上の事は、まだ考えられないが…。
だからこそ、最悪なチームだけど…あそこに参加すれば色んな国を見て色んな人達を見て経験して何かを知る事ができるんじゃないかって思った。
あのチームに戻るのは凄く凄く嫌だけど。
けど、それ以上に自分の知らない世界を見て感じたいと思った。
その事を頭が悪いせいで口足らずではあったが、「もう、お前には旅はさせない。ここで、いつものように暮らせばいい。」と、言うリュウキを懸命に説得した。
どうなるかは分からないけど。
次の日の朝。
ショウが目を覚ますと、一緒に眠っていた
リュウキが珍しく隣にいた。
いつも、リュウキは仕事で朝早く行ってしまうので、ショウが目を覚ます頃にはそこにいないというのに。
眠い目を擦りながら、ショウがリュウキを見上げると
「…本当は行かせたくはないが…許可する。」
と、苦い笑みを浮かべ話しかけてきた。
「…え?」
「ただし、俺の判断でお前には無理だと思ったら容赦なく連れ帰るが、それでもいいか?」
と、聞いてくるリュウキに
「う、うん!ありがとう、お父さん!」
ショウは、まさかの答えに驚きつつ
明るい笑顔でリュウキにお礼を言った。