イケメン従者とおぶた姫。
強いメイドさんと用心棒さん。
次の日、ヨウコウ一行とコウ一行は
ビーストキングダム城へ到着していた。
思っていたより早くに着いた事に
ヨウコウ一行は驚いていた。
だって、前回は一ヶ月ほどかかってようやく辿り着いたビーストキングダム城なのに
今回は、足手まといのお荷物がいるにも関わらず約1週間程で到着しちゃったから。
それもそのはずで、前回の旅で道順を覚えたというのもあるし
何より、天気があまり崩れないうえに
魔物の出現が大幅に減っているから。
…しかも、魔物もどうしてか温厚だし。
…なんか、今回は呆気ないなとヨウコウ一行は思いつつ緊張しながらビーストキングダム
国王と再会した。
コウ姫一行の横に並び、国王に敬意を払い頭を下げ挨拶する。
前回、失格になっていたので一瞬不安が脳裏をよぎるも今度こそ大丈夫だと自分達に言い聞かせる。一行に緊張が走る。
すると、王冠をかぶった
人の形をした赤毛のライオンは言った。
まるで、人間にライオンの頭をくっ付け
(ライオンの頭も人間の頭と同じ大きさ)
人間の首や身体中にライオンの体毛を生やした感じに見える。手はライオンの手をしている。
…なんか、見慣れないせいか奇妙な姿に見える。
「それが、お前の理想とする国なのだな。」
と。ヨウコウは、国王の言葉に
また、何かあるのかと何も答えられず嫌な汗をかき俯いた。
すると、隣で
「はい。」
と、はっきりと答えるコウ姫の姿があった。
それに対し国王は「うむ」と、答え
隣の将軍(黒虎の耳と尻尾の生えた人間。コスプレしている人に見える)から印章を受け取ると、コウ姫の持っている
カードに印を押した。
それから、国王はヨウコウを見て
「それがお前の理想とする国か?」
と、訊ねてきた。
ヨウコウは、コウ姫を見習い
「はい。」
と、答えると、なんと呆気ない事だろう。
簡単に印をもらえた。
すると、そのすぐ後に
将軍の斜め後ろに立っていた副将軍
(青狼の耳と尻尾の人間。腕も青狼の毛で覆われている。)が
「楽な旅もここまで。城から出て次の国に進む度に、天候も荒れ妖魔や魔獣が強くなっていき数も増えていく。心して旅をせよ。」
と、説明してくれた。
その話に、ヨウコウ一行は内心どうしよう…
と思ってしまったが、最近の天候と魔物の様子にいけそうだ。
それに、自分達も実戦を重ね当初と比べ物にならないくらいに強くなった。大丈夫だ、と思った。
そして、城のすぐ近くの宿に泊まり
次の日にはコウ姫一行と別れ旅に出た。
コウ姫一行は、ヨウコウ一行の後ろ姿を見て
「姫、こっそり後を着いて行かなくて大丈夫なの?行っちゃうわよ?」
と、サラが不安そうに聞くと
「ある連絡が入ってな。ショウは、
もう大丈夫だ。」
コウ姫は、うっすら笑って見せた。
何故かタイガが少し浮かない顔をしているのが気になったが、サラはコウ姫が大丈夫と言うのでそれを信じる事にした。
さて、コウ姫と別れ次の村に向かい旅を続けるヨウコウ一行だが
ビーストキングダム副将軍の言う通り
城を離れれば離れるほど、天候は酷く
魔物も格段に強くなってきていた。
それに、治安も悪く盗賊や悪党などの輩がゴロゴロしていて
これから先、何の力も持たないショウとミミを抱えどうやって旅を乗り切ろうかと頭を悩ませていた。
そうして、数日経ち
一行は、からがら何とか旅を続けていたが、
更に天候は荒れ狂い、魔物の強さも数も半端なく強くなっていった。
もう、自分を守るだけでも精いっぱい…
いや、自分の命すら守るのも危うい!限界だ…
次の国まで、まだ数ヵ月はかかるだろうに。
なのに、これ以上現状が悪化するというのだ。
ここに来て、ヨウコウ達は力のない一般人を一人抱えるだけでも無理があるというのに、自分達は二人も抱えていると理不尽だと
ヨウコウとゴウランはブチ切れていた。
まだ、少しの余裕がある時は
ミミをまるで自分のものと言わんばかりに
側に置いて一緒になってショウをいじめていたというのに…。
こんな状況になって、ショウほどではないが
ミミもヨウコウ達に八つ当たりされ暴言を吐かれるようになってきていた。
容赦なく降り続ける雨と吹き荒れる風。
自分達の手に余る魔物達…
森を抜けるには、あと数時間はかかりそうだ。木や岩などに身を隠しながら、魔物に見つからないよう慎重に先を進む。
…が。
「…ヒャーーッッ!!!?」
ショウは、鈍い運動神経とむだに横に大きい体を持て余し、素早くうまく隠れる事ができず空を飛ぶ魔獣に見つかってしまった。
ショウは、恐怖で腰を抜かし
助けてと叫びながらヨウコウ達を見る。
しかし、ヨウコウ達は身を隠したまま出て来る気配がなかった。
ショウが悲鳴をあげたせいで、ショウは魔物達の注目を浴び
魔物達はショウを目掛け一斉に飛びかかってきた。
そんなショウを見て、ヨウコウ達は心の中で謝りながらこれ幸いとばかりにショウを犠牲にして
「今のうちだ!」
と、ヨウコウはゴウラン達に合図をした。
ゴウランは、それに頷くと狼狽るミミの腕を掴み
「…仕方ないんだ!目をつむれ。逃げるぞ。
ショウの死を無駄にするな!」
そう、小声で話し青ざめた顔でヨウコウの後に続き走った。
ミミも、怖くて怖くて…ゴウランの言葉に頷き腰を抜かしかけながらも死にたくないと
無我夢中に走った。
しかし、ここで
「…ショウッ!!」
ミオは己の心との葛藤の末、ヨウコウの命令に背き槍を手にショウの元へ走った。
「…バカなっ!!?」
ミオのまさかの行動に、ヨウコウ達は驚きのあまり逃げる足を止めミオの姿を見送った。
しかし、今ミオがショウの所に行ったとして
絶対に間に合わないし、魔物の数が圧倒的に多すぎる。勝機など何一つない。
自ら、死にに行くようなものだ。
…ショウの無残な死を見ないよう
ヨウコウとゴウランは、後ろを振り返らず
ひたすら前ばかり見ていたしミミなんて目と耳を塞ぎ泣きながら走っていた。
なのに、ミオがショウを助けようと飛び出したから。まさか、冷静なミオが判断を見誤るなんて思わなかったから
ヨウコウ達は思わず振り返って見てしまった。
…クソッ!!!
これじゃ、後々夢見が悪いじゃないか!
それもこれも、鈍臭いショウが悪い!
こうなってしまった以上、全滅するより
生き残れる者を最優先して先に向かわなければならない。
これは、間違ってなどない冷静な判断だ。
それは、ミオだって分かっていたはずだ。
…なのに!!
ざっと数えて、30匹以上の魔物。
ヨウコウ一行の中で一番強いミオの実力と魔物一匹の力は互角か、それ以上。
なのに、どうやってショウを助けられるというのか。
辺りは、ショウの悲鳴と魔物の声が轟く。
もう、ダメだ!
こんなものを見る羽目になるとは…!と、
ヨウコウ達は胸糞悪い気持ちで諦めた、
その時だった。
…ビリビリ、ビリリ…ドッカーーーーン!!!
と、鋭い刃物の様な白い稲妻が、空飛ぶ魔物に大雨の様に物凄いスピードで無数に落ちていき
風と炎の混じった螺旋状の壁が地面を走る魔物達を吹き飛ばす。
一部の地面が地響きと共にガタガタと大きく割れ、周りにいた魔物達の行き手を封じる。
そして、群がる魔物達が中心から勢いよく
パーーーーンッッ!と、内側の魔物達が弾き飛ばされた。
しかも、群がった全ての魔物は地に伏せ
残った魔物達は、恐れおののき逃げて行ってしまった。
何が起きたのかとヨウコウ達は、恐る恐るそこを見ると…土煙の中から人影が見え…
…ドクン…ドクン…!!?
そこに居たのは…
ショウの前後を守るように立つ三人の人間。
しかし、あれ?気のせいか?
三人いたと思っていたのに、二人しか見えない。…どうやら土煙のせいで見間違えたようだ。
ショウは、二人の真ん中で身を隠すように蹲りガタガタと震えていた。
まだ、自分に何が起きたのか分からず悲鳴をあげ俯き目をつむっている。
……つ、強すぎる!!
こんな強い人間がいるのかと腰を抜かしそうになる。
これは、魔導レベルA以上なんじゃないかと思う。
二人の圧倒的強さに、一行は驚きその場を動けずいた。
そこに後から
「すまん、すまん!遅くなったな!アッハッハ!」
と、商工王国騎士団長が笑いながら呑気な顔でヨウコウ達の前にやって来た。
それから、騎士団長達と共に乗り物用として
飼い慣らされた魔獣に乗り近くの宿までひとっ飛びした。
宿の大部屋に通された一行に、騎士団長は
椅子に伸び伸び座りアハハと笑いながら言った。
「お前達、危なかったなー!」
ヨウコウ達は、笑い事じゃないと内心ブチ切れそうになったが、何とかその感情をグッと抑え騎士団長の話を聞いた。
「なぜか、最近ビーストキングダムの魔物達が大人しいわ、天候も良好。
しかし、それでも先に進めば進むほど、厄介になる事は変わりない。
…いや、これでも本当に、大分マシというか、かなりいい方なんだ。
運がいいぞ、お前達!アッハッハ!」
騎士団長の話に、一行はゾッとし体を硬直させた。
あれで、マシ?かなりいい方?
では、通常通りでは一体どんなだったのか。
想像もつかない。
「お前達の前を進んでいた王子達一行もな。
死者が出たり負傷者多発でな。
これでは、いかんと試験の旅を見直す事になった。
そこでだ。実戦に長け我々団長クラスの実力を持つ強者を用心棒としてつける事となった。」
もの凄い重大な話なはずなのに、騎士団長は
何でもないかのように軽い調子で話す。
「で、用意されたのが、こいつだ。
ただし、他の王子グループにも言ってあるし
条件に出している事だが。
用心棒は、王子を守らない。」
その言葉を聞いて一行は驚いた。
では、何のための用心棒なのかと。
驚く一行を見て、騎士団長は面白そうに話を続ける。
「これは、王子と護衛の将来の為の試験。
一般市民の試験などではない。
だが、この先からは自分達の命を守る事で
精いっぱいになり一般人を守る余裕がなくなるだろう。」
その言葉に、さっきまでの出来事を思い出し
ヨウコウ達は顔は青ざめ俯けた。震えも止まらない。
「本来なら、一般市民を王子が守ってこそ
王子と一般市民を守ってこその護衛だが…」
ミオが悔しそうに顔を顰め、ヨウコウとゴウランは都合悪そうに目を泳がせる。
「しかし、まだ、お前達は未熟な候補生達だ。お前達の命を守ってこその我々。
しかし、これはお前達の試験でもあるのだ。
そこで、急遽会議が開かれ決定したのがソレだ。」
それが、今回用意された団長クラスに強い
用心棒が、王子を守らないというのと何が関係しているのか。
「これは、試験である。よって、自分の使命はしっかりとこなせ。
しかし、一般市民に試験などない。まして、我々は無事に家まで送り届ける義務がある。
よって、用心棒は王子や護衛より最優先に
一般市民を守る事。王子達が、危ない時でも
ギリギリのギリギリまで手は貸さない事とした。余裕がなければ、一般市民だけ守り王子達は見捨てて構わないと。
一般市民専用護衛ってところか。
つまり、用心棒を当てにするな。甘ったれるんじゃねーぞって事だ。」
そう念を押され、ヨウコウ達は青ざめゴクリと生唾を飲み込んだ。
「あ、そうだった。紹介が遅れたな。
コイツが、ショウの用心棒をする事となった
シルバー・ストーム。ディアンカダ王国出身だ。
同じ国の者だと、王子や護衛をエコ贔屓する可能性があるからな。ワザと他の国の者を選んだ。」
そう紹介された人物は
真っ白な肌に、黒髪。顔の上半分にお面をしていて顔立ちが分からない。
出ている下半分は、大きな傷だらけでボコボコしている。
身長は180センチあるかないか。
細身だが、しっかりした筋肉がついている。
武器は、腰に日本刀が差し込まれているだけだ。
一行は、アレ?と、思った。
もう一人いるぞと。
すると、騎士団長は苦笑いしながら
「もう一人のコイツも一緒に旅する、
ショウ専属のメイドだ。
最初に付けていた、ショウのメイドは
旅を続けるうちにいつの間にか
“ヨウコウとゴウラン専属メイド”になったらしいからな。
だから、仕方なく大急ぎでショウのメイドを用意した。コイツは、ベス帝国出身。
オブシディアン。
面倒をかけんように、メイドも強い奴を選んできたぞ!強いメイドさんだ!
ハッハッハ!」
オブシディアンは、何というか…背格好が
シルバーと似たり寄ったりでぱっと見だと、見分けがつかなそうだ。
目の色は黒、髪の色は鉛色で、全身包帯を巻いていて顔立ちどころか肌の色すら分からない。
背中に、鉄製の120センチはあるだろうか
長い棒を背負っている。
しかし…
強いメイドがいるんだったら、ミミは要らなくないか?と、ヨウコウとゴウラン、ミオは思ったのだが。
「ゴウランは、今までと変わらず“ヨウコウの護衛だけ”を“しても構わない”
ミミは、“変わらず、ヨウコウとゴウランの世話”をしろ。
そして、ミオは“自分の意思で自分の思う通り”に護衛しろ。
ヨウコウは、自分で考え行動しろ。」
そう、騎士団長は命じてきた。
…言っている意味がよく分からない。
何か、含みのある言葉にヨウコウとゴウランは顔を顰めた。
「よし!これで、お前達もまともな旅できるだろう。それじぁ、頑張れよ!」
そう言って、騎士団長はアッハッハ!笑いながら帰って行ってしまった。
ビーストキングダム城へ到着していた。
思っていたより早くに着いた事に
ヨウコウ一行は驚いていた。
だって、前回は一ヶ月ほどかかってようやく辿り着いたビーストキングダム城なのに
今回は、足手まといのお荷物がいるにも関わらず約1週間程で到着しちゃったから。
それもそのはずで、前回の旅で道順を覚えたというのもあるし
何より、天気があまり崩れないうえに
魔物の出現が大幅に減っているから。
…しかも、魔物もどうしてか温厚だし。
…なんか、今回は呆気ないなとヨウコウ一行は思いつつ緊張しながらビーストキングダム
国王と再会した。
コウ姫一行の横に並び、国王に敬意を払い頭を下げ挨拶する。
前回、失格になっていたので一瞬不安が脳裏をよぎるも今度こそ大丈夫だと自分達に言い聞かせる。一行に緊張が走る。
すると、王冠をかぶった
人の形をした赤毛のライオンは言った。
まるで、人間にライオンの頭をくっ付け
(ライオンの頭も人間の頭と同じ大きさ)
人間の首や身体中にライオンの体毛を生やした感じに見える。手はライオンの手をしている。
…なんか、見慣れないせいか奇妙な姿に見える。
「それが、お前の理想とする国なのだな。」
と。ヨウコウは、国王の言葉に
また、何かあるのかと何も答えられず嫌な汗をかき俯いた。
すると、隣で
「はい。」
と、はっきりと答えるコウ姫の姿があった。
それに対し国王は「うむ」と、答え
隣の将軍(黒虎の耳と尻尾の生えた人間。コスプレしている人に見える)から印章を受け取ると、コウ姫の持っている
カードに印を押した。
それから、国王はヨウコウを見て
「それがお前の理想とする国か?」
と、訊ねてきた。
ヨウコウは、コウ姫を見習い
「はい。」
と、答えると、なんと呆気ない事だろう。
簡単に印をもらえた。
すると、そのすぐ後に
将軍の斜め後ろに立っていた副将軍
(青狼の耳と尻尾の人間。腕も青狼の毛で覆われている。)が
「楽な旅もここまで。城から出て次の国に進む度に、天候も荒れ妖魔や魔獣が強くなっていき数も増えていく。心して旅をせよ。」
と、説明してくれた。
その話に、ヨウコウ一行は内心どうしよう…
と思ってしまったが、最近の天候と魔物の様子にいけそうだ。
それに、自分達も実戦を重ね当初と比べ物にならないくらいに強くなった。大丈夫だ、と思った。
そして、城のすぐ近くの宿に泊まり
次の日にはコウ姫一行と別れ旅に出た。
コウ姫一行は、ヨウコウ一行の後ろ姿を見て
「姫、こっそり後を着いて行かなくて大丈夫なの?行っちゃうわよ?」
と、サラが不安そうに聞くと
「ある連絡が入ってな。ショウは、
もう大丈夫だ。」
コウ姫は、うっすら笑って見せた。
何故かタイガが少し浮かない顔をしているのが気になったが、サラはコウ姫が大丈夫と言うのでそれを信じる事にした。
さて、コウ姫と別れ次の村に向かい旅を続けるヨウコウ一行だが
ビーストキングダム副将軍の言う通り
城を離れれば離れるほど、天候は酷く
魔物も格段に強くなってきていた。
それに、治安も悪く盗賊や悪党などの輩がゴロゴロしていて
これから先、何の力も持たないショウとミミを抱えどうやって旅を乗り切ろうかと頭を悩ませていた。
そうして、数日経ち
一行は、からがら何とか旅を続けていたが、
更に天候は荒れ狂い、魔物の強さも数も半端なく強くなっていった。
もう、自分を守るだけでも精いっぱい…
いや、自分の命すら守るのも危うい!限界だ…
次の国まで、まだ数ヵ月はかかるだろうに。
なのに、これ以上現状が悪化するというのだ。
ここに来て、ヨウコウ達は力のない一般人を一人抱えるだけでも無理があるというのに、自分達は二人も抱えていると理不尽だと
ヨウコウとゴウランはブチ切れていた。
まだ、少しの余裕がある時は
ミミをまるで自分のものと言わんばかりに
側に置いて一緒になってショウをいじめていたというのに…。
こんな状況になって、ショウほどではないが
ミミもヨウコウ達に八つ当たりされ暴言を吐かれるようになってきていた。
容赦なく降り続ける雨と吹き荒れる風。
自分達の手に余る魔物達…
森を抜けるには、あと数時間はかかりそうだ。木や岩などに身を隠しながら、魔物に見つからないよう慎重に先を進む。
…が。
「…ヒャーーッッ!!!?」
ショウは、鈍い運動神経とむだに横に大きい体を持て余し、素早くうまく隠れる事ができず空を飛ぶ魔獣に見つかってしまった。
ショウは、恐怖で腰を抜かし
助けてと叫びながらヨウコウ達を見る。
しかし、ヨウコウ達は身を隠したまま出て来る気配がなかった。
ショウが悲鳴をあげたせいで、ショウは魔物達の注目を浴び
魔物達はショウを目掛け一斉に飛びかかってきた。
そんなショウを見て、ヨウコウ達は心の中で謝りながらこれ幸いとばかりにショウを犠牲にして
「今のうちだ!」
と、ヨウコウはゴウラン達に合図をした。
ゴウランは、それに頷くと狼狽るミミの腕を掴み
「…仕方ないんだ!目をつむれ。逃げるぞ。
ショウの死を無駄にするな!」
そう、小声で話し青ざめた顔でヨウコウの後に続き走った。
ミミも、怖くて怖くて…ゴウランの言葉に頷き腰を抜かしかけながらも死にたくないと
無我夢中に走った。
しかし、ここで
「…ショウッ!!」
ミオは己の心との葛藤の末、ヨウコウの命令に背き槍を手にショウの元へ走った。
「…バカなっ!!?」
ミオのまさかの行動に、ヨウコウ達は驚きのあまり逃げる足を止めミオの姿を見送った。
しかし、今ミオがショウの所に行ったとして
絶対に間に合わないし、魔物の数が圧倒的に多すぎる。勝機など何一つない。
自ら、死にに行くようなものだ。
…ショウの無残な死を見ないよう
ヨウコウとゴウランは、後ろを振り返らず
ひたすら前ばかり見ていたしミミなんて目と耳を塞ぎ泣きながら走っていた。
なのに、ミオがショウを助けようと飛び出したから。まさか、冷静なミオが判断を見誤るなんて思わなかったから
ヨウコウ達は思わず振り返って見てしまった。
…クソッ!!!
これじゃ、後々夢見が悪いじゃないか!
それもこれも、鈍臭いショウが悪い!
こうなってしまった以上、全滅するより
生き残れる者を最優先して先に向かわなければならない。
これは、間違ってなどない冷静な判断だ。
それは、ミオだって分かっていたはずだ。
…なのに!!
ざっと数えて、30匹以上の魔物。
ヨウコウ一行の中で一番強いミオの実力と魔物一匹の力は互角か、それ以上。
なのに、どうやってショウを助けられるというのか。
辺りは、ショウの悲鳴と魔物の声が轟く。
もう、ダメだ!
こんなものを見る羽目になるとは…!と、
ヨウコウ達は胸糞悪い気持ちで諦めた、
その時だった。
…ビリビリ、ビリリ…ドッカーーーーン!!!
と、鋭い刃物の様な白い稲妻が、空飛ぶ魔物に大雨の様に物凄いスピードで無数に落ちていき
風と炎の混じった螺旋状の壁が地面を走る魔物達を吹き飛ばす。
一部の地面が地響きと共にガタガタと大きく割れ、周りにいた魔物達の行き手を封じる。
そして、群がる魔物達が中心から勢いよく
パーーーーンッッ!と、内側の魔物達が弾き飛ばされた。
しかも、群がった全ての魔物は地に伏せ
残った魔物達は、恐れおののき逃げて行ってしまった。
何が起きたのかとヨウコウ達は、恐る恐るそこを見ると…土煙の中から人影が見え…
…ドクン…ドクン…!!?
そこに居たのは…
ショウの前後を守るように立つ三人の人間。
しかし、あれ?気のせいか?
三人いたと思っていたのに、二人しか見えない。…どうやら土煙のせいで見間違えたようだ。
ショウは、二人の真ん中で身を隠すように蹲りガタガタと震えていた。
まだ、自分に何が起きたのか分からず悲鳴をあげ俯き目をつむっている。
……つ、強すぎる!!
こんな強い人間がいるのかと腰を抜かしそうになる。
これは、魔導レベルA以上なんじゃないかと思う。
二人の圧倒的強さに、一行は驚きその場を動けずいた。
そこに後から
「すまん、すまん!遅くなったな!アッハッハ!」
と、商工王国騎士団長が笑いながら呑気な顔でヨウコウ達の前にやって来た。
それから、騎士団長達と共に乗り物用として
飼い慣らされた魔獣に乗り近くの宿までひとっ飛びした。
宿の大部屋に通された一行に、騎士団長は
椅子に伸び伸び座りアハハと笑いながら言った。
「お前達、危なかったなー!」
ヨウコウ達は、笑い事じゃないと内心ブチ切れそうになったが、何とかその感情をグッと抑え騎士団長の話を聞いた。
「なぜか、最近ビーストキングダムの魔物達が大人しいわ、天候も良好。
しかし、それでも先に進めば進むほど、厄介になる事は変わりない。
…いや、これでも本当に、大分マシというか、かなりいい方なんだ。
運がいいぞ、お前達!アッハッハ!」
騎士団長の話に、一行はゾッとし体を硬直させた。
あれで、マシ?かなりいい方?
では、通常通りでは一体どんなだったのか。
想像もつかない。
「お前達の前を進んでいた王子達一行もな。
死者が出たり負傷者多発でな。
これでは、いかんと試験の旅を見直す事になった。
そこでだ。実戦に長け我々団長クラスの実力を持つ強者を用心棒としてつける事となった。」
もの凄い重大な話なはずなのに、騎士団長は
何でもないかのように軽い調子で話す。
「で、用意されたのが、こいつだ。
ただし、他の王子グループにも言ってあるし
条件に出している事だが。
用心棒は、王子を守らない。」
その言葉を聞いて一行は驚いた。
では、何のための用心棒なのかと。
驚く一行を見て、騎士団長は面白そうに話を続ける。
「これは、王子と護衛の将来の為の試験。
一般市民の試験などではない。
だが、この先からは自分達の命を守る事で
精いっぱいになり一般人を守る余裕がなくなるだろう。」
その言葉に、さっきまでの出来事を思い出し
ヨウコウ達は顔は青ざめ俯けた。震えも止まらない。
「本来なら、一般市民を王子が守ってこそ
王子と一般市民を守ってこその護衛だが…」
ミオが悔しそうに顔を顰め、ヨウコウとゴウランは都合悪そうに目を泳がせる。
「しかし、まだ、お前達は未熟な候補生達だ。お前達の命を守ってこその我々。
しかし、これはお前達の試験でもあるのだ。
そこで、急遽会議が開かれ決定したのがソレだ。」
それが、今回用意された団長クラスに強い
用心棒が、王子を守らないというのと何が関係しているのか。
「これは、試験である。よって、自分の使命はしっかりとこなせ。
しかし、一般市民に試験などない。まして、我々は無事に家まで送り届ける義務がある。
よって、用心棒は王子や護衛より最優先に
一般市民を守る事。王子達が、危ない時でも
ギリギリのギリギリまで手は貸さない事とした。余裕がなければ、一般市民だけ守り王子達は見捨てて構わないと。
一般市民専用護衛ってところか。
つまり、用心棒を当てにするな。甘ったれるんじゃねーぞって事だ。」
そう念を押され、ヨウコウ達は青ざめゴクリと生唾を飲み込んだ。
「あ、そうだった。紹介が遅れたな。
コイツが、ショウの用心棒をする事となった
シルバー・ストーム。ディアンカダ王国出身だ。
同じ国の者だと、王子や護衛をエコ贔屓する可能性があるからな。ワザと他の国の者を選んだ。」
そう紹介された人物は
真っ白な肌に、黒髪。顔の上半分にお面をしていて顔立ちが分からない。
出ている下半分は、大きな傷だらけでボコボコしている。
身長は180センチあるかないか。
細身だが、しっかりした筋肉がついている。
武器は、腰に日本刀が差し込まれているだけだ。
一行は、アレ?と、思った。
もう一人いるぞと。
すると、騎士団長は苦笑いしながら
「もう一人のコイツも一緒に旅する、
ショウ専属のメイドだ。
最初に付けていた、ショウのメイドは
旅を続けるうちにいつの間にか
“ヨウコウとゴウラン専属メイド”になったらしいからな。
だから、仕方なく大急ぎでショウのメイドを用意した。コイツは、ベス帝国出身。
オブシディアン。
面倒をかけんように、メイドも強い奴を選んできたぞ!強いメイドさんだ!
ハッハッハ!」
オブシディアンは、何というか…背格好が
シルバーと似たり寄ったりでぱっと見だと、見分けがつかなそうだ。
目の色は黒、髪の色は鉛色で、全身包帯を巻いていて顔立ちどころか肌の色すら分からない。
背中に、鉄製の120センチはあるだろうか
長い棒を背負っている。
しかし…
強いメイドがいるんだったら、ミミは要らなくないか?と、ヨウコウとゴウラン、ミオは思ったのだが。
「ゴウランは、今までと変わらず“ヨウコウの護衛だけ”を“しても構わない”
ミミは、“変わらず、ヨウコウとゴウランの世話”をしろ。
そして、ミオは“自分の意思で自分の思う通り”に護衛しろ。
ヨウコウは、自分で考え行動しろ。」
そう、騎士団長は命じてきた。
…言っている意味がよく分からない。
何か、含みのある言葉にヨウコウとゴウランは顔を顰めた。
「よし!これで、お前達もまともな旅できるだろう。それじぁ、頑張れよ!」
そう言って、騎士団長はアッハッハ!笑いながら帰って行ってしまった。