イケメン従者とおぶた姫。
こんなブタの世話なんて気の毒な奴らだなと鼻で笑いながら、遠くからショウ達のやり取りを眺めるヨウコウ達。

本来なら、いつも通り素泊まり部屋にショウをぶち込んで自分達は各部屋に泊まりたい
ところではあるが。
お金も勿体無いので、今夜は騎士団長が用意した大部屋をそのまま使う事にした。

なので、嫌でもショウ達のやり取りが見えてしまうのだ。



騎士団長が去った後
シルバーとオブシディアンはアワアワと焦っているショウの元へ行き

オブシディアンは、ショウに


『荷物を預かってもいいか?
荷物の中に何があるか把握しておきたい。』


と、聞いてきた。
しかし、驚く事にオブシディアンは声など出していないし言葉も発していない。なのに、何となく言いたい事が伝わってくる。


…え!?

なに??


と、ショウが驚き目をパチクリさせ
オブシディアンを見ていると

それを察したオブシディアンは


『ボクは、昔、全身に火傷を負い、その時の恐怖で言葉を喋る事ができなくなった。
だが、修行により言葉を話せなくても近くの人に伝えたい事を伝えられる術を身に付けた。』


そう説明してくれた。


…あ…

だから、全身に包帯を巻いてるんだ


と、ショウは全身に火傷を負う出来事ってなんだろう…痛かったろうな、怖かったろうなと心が痛くなった。


シルバーは、ショウに何を話すでもなく遠すぎもせず近すぎもしない場所で座っている。

そこに、ミミが


「部屋の中にいる時くらい、お面取った方がいいんじゃないですか?
そんなの付けてたら邪魔ですよね?」


と、シルバーを気遣い話しかけていた。
だって、お面の中の顔が見てみたいから。

シルバーもオブシディアンも、凄くスタイルがいいし服のセンスもいいから顔も気になったのだ。二人とも自分に似合った旅人の服を着ている。

それに、シルバーの一つ一つの仕草が洗練されていて優美に見え、どこの王子様か貴族だよって思いたくなる。スタイルの良さに加えミステリアスな雰囲気もカッコ良く見える。

だから、思わず声をかけたくなった。


オブシディアンは、優男っぽい雰囲気がありとても姿勢がいいため一瞬モデルがいる!?と、ドキリとしてしまう。なので、
いちいちの行動がとても絵になる。

…が、今、オブシディアンはブタとお話中なので先にシルバーに声を掛けようと思い声をかけたのだが…。


「………………。」


シルバーは、ミミを無視し黙々と日本刀の手入れをしていた。
あまりの愛想の無さに、ミミはプゥと頬を膨らませ怒ってるぞアピールをした。

ミミは、自分の可愛さを理解しているので、
どうすれば、より自分が可愛く見えるか
相手が胸キュンするか分かっているのだ。
何気に凄い特技である。

ミミのコレを真似してやろうと思ったって
なかなかできないし、大概の人がこれをやっても周りをしらけさせるだけだ。

ミミだから、使いこなせるハイレベルな技である。

例外なくゴウランはデレていたし
ヨウコウは気にしてないように見えるが、
まんざらでもない雰囲気がある。


だが、シルバーを近くで見た時ミミは思った。

遠くで見てた時は分からなかったが、近くで見れば見るほど

仮面から出た肌。他にも…服の間から見える肌には、大小の無数の傷があり、それは肉が抉れてたり、皮が剥がれ痣となった所など酷いもので。

唇なんかも、抉れたりしてまともな形をしていない。

仮面を取ったら、とても見られたものではない醜い姿が容易に想像できてしまう。


オブシディアンは全身包帯でグルグル巻きになっていて、包帯なのでほつれる事もしばしばあり

たまに見える肌は、火傷で溶けて変色しボコボコに変形した痛々しいものであった。
それが全身となれば、顔面なんて崩壊している筈だ。


いくら、遠くから見て凄くカッコ良く見えたって、近くで見たらゾンビみたいで気持ち悪いなんて最悪だし。同じ空間にいる事すらキモくて嫌だ。

スタイルの良さとファッションセンスの良さに加え、この二人がヨウコウクラスのイケメンであったらどんなに良かったかと残念に思うミミだ。


その様子を見て、ヨウコウは


「ブタの世話なんて気の毒だと思っていたが、デブスと醜怪二人、お似合いで丁度良かったじゃないか。醜い者は醜い者同士、傷を舐め合って仲良くしてくれ。
くれぐれも、余達の邪魔だけはしてくれるなよ?」


と、シルバーとオブシディアンを見て見下すようにフッと鼻で笑っていた。

ヨウコウにつられゴウランとミミも、
ショウ達を見てバカにするようにクスクス
笑っていた。

ミオは、そんなヨウコウ達の姿にあまりいい気分になれなかった。



ショウは、ヨウコウの馬鹿にする言葉に俯き悲しくてポロポロ泣いてしまっていた。

そんなショウに、オブシディアンはハンカチを差し伸べ


『気にする事はない。
…それとも、あなたも醜いボクの側にいるのが嫌か?』


と、聞いてきた。

その言葉にショウは…ドキリとした。

確かに、感じてしまっていた。

シルバーとオブシディアンの服の隙間から見える酷い状態の怪我や火傷痕。
本当の事を言えば、こんな醜い人達と一緒にいなきゃいけないのか。

…火傷の痕とか…
本当に可哀想だし気の毒だと思うけど…
気持ち悪いなぁ…

普通の容姿の人が良かったな。と、思ってしまっていた。

二人は自分の命の恩人で、感謝してもしきれないほどだというのに…。


だが、ここで、ショウはようやく
もし自分が二人の立場だったら?と、気持ちを考える事ができた。

…きっと、きっと二人は今までも辛い思いを
してきたに違いない。

出会いはどうであれ、せっかくこうやって
知り合う事ができたのだ。自分だけでも、
二人と仲良くできたらなと思った。

そして、窓ガラスに映る自分を見て思う。

…むしろ、こんな私の世話をしなきゃいけない二人に申し訳なさや引け目さえ感じる。

ヨウコウ達が手も足も出なかった魔物を一瞬で倒してしまうくらい強い二人なのだ。

自分なんかじゃない、もっともっと
いい人の護衛になれたはずなのに。

と、自分なんかのメイド、護衛をしなければならない二人が気の毒になってしまった。


…むしろ、二人が私と一緒に居たくないって
思ってるはずなのにね…

酷い事、思っちゃって…ごめんね。


ショウは、そう思ったらオブシディアンの
言葉を否定したくて

ブンブンと頭を横に振り


「ち、違うよ!
…そうじゃなくて、私と一緒にいるせいで
オブシディアンさん達までバカにされて。
…その…ごめんなさい…」


と、俯き、泣いていた。

その様子に、ミオの心はズキリと痛んだ。

誰かの側にいるだけで不快に思わせると
心を苦しめてるショウの姿に居た堪れなさを感じる。

そんな事、普通なら思いも感じもしない気持ちだ。
少なくとも、ヨウコウ達はそんな気持ちなんてなった事がないだろうし、そんな感情があるなんて知りもしないだろう。

だが、ヨウコウ達の度重なる酷いイジメによりショウは自分に自信を失い、そんな気持ちが生まれてしまうほど心を病んでしまっているのだろうと思う。

そんな酷い感情を植え付けたのは、他でもない将来、国のトップになるかもしれない人物達…。

人を人と思わない人間が、果たして
人の上に立てるものなのだろうかと疑問を感じてしまう。


『……どうして、謝る?』


オブシディアンは、泣いているショウにどう接すればいいか分からず、しばらくの間硬直していたが

しばらくすると、オズオズと慣れない手つきでショウの涙を拭いてくれた。


食事時になり

自分で上手く食べられない
ショウにシルバーとオブシディアンは驚いていた。

具沢山のポトフスープを食べる為、ショウはスプーンを使っていたのだが上手く口へ運べず大苦戦していた。具をすくい口元へ運ぼうとするもスプーンを上手く使いこなせず
手はプルプル震え


…ポロッ…ベチャッ!


スプーンから具は落ち、スープの汁が飛び散り服やテーブルを汚す失態までやらかしていた。

ショウは、とても恥ずかしそうに顔を真っ赤にして俯き、また食事を頑張っていた。


それを見て、ヨウコウは


「無理はするな。ブタはブタらしく、直接皿に口をつけ食べればいい。道具を使うのは
人間だけなのだからな。」


そう声をかけ、その言葉を聞いたゴウランとミミもせいだいに吹き出し笑っていた。

それには、ミオも申し訳ないと思いつつ
笑ってしまった。

だって、12才にもなってスプーンもろくに使えないなんて。上手く食べられなくて、自然と皿のすぐ近くまで顔も寄せて必死過ぎる。ショウは頑張っているが、頑張れば頑張るほど失敗するその姿が滑稽で面白く感じてしまう。


ショウの後ろ壁側に立っていたシルバーは、その様子を見ると「…はぁぁ…」と、大きなため息をつき食堂を出て行った。

ヨウコウ達は思った。

おそらく、ショウのこのザマに呆れたのだろう。これから、このデブスなうえに無能な
主人を守っていかなければならない。

とてもじゃないが、やってられない気持ちになってしまうだろう。

ヨウコウ達は、シルバーの行動をそう解釈し、ヨウコウとゴウランは面白おかしそうにヒソヒソと何か言っていた。そこにミミも加わって。

シルバーさんに、呆れられて…嫌われてしまったのかな?と、ショウは何となく察して
落ち込んでしまった。


「…ぷっ!さすがに、何にも出来ないブタ
見たら嫌気がさしてしまったみたいだな。」


ゴウランの言葉に続き


「当たり前な話だ。これから先が楽しみだ。」


と、ヨウコウが言うと彼らは盛大に笑っていた。ミミも大笑いだ。

シルバーが去った後

ショウの後ろで、その姿を見ていた
オブシディアンは最初こそ驚いていたが


『スプーンが使えないのか?』


と、ショウに声を掛け、ショウが涙目になりながら恥ずかしそうにコクリと頷くと

オブシディアンは、ショウの後ろからショウの手に触れ


『スプーンは、こう使うんだ。』


と、スプーンの持ち方を教えてくれた。


ショウは、それがとても嬉しく


「ありがとう。」


と、オブシディアンに笑顔でお礼を言った。

だって、どんなに困っていても苦戦しても
誰も教えてくれなかったから。

本当なら恥をしのいで教えてもらえばいいのだろうが、ショウの年になってスプーンや箸など使えないのは恥ずかしいのだと知り
聞くに聞けなかったし

ヨウコウ達に話しかけたら“ブタの分際で
人間様に声を掛けるな。気持ち悪い。”と、罵られ終わるだけなのは目に見えている。


なのに、オブシディアンはショウをバカにするでもなく使い方を教えてくれたのだ。

その気持ちが嬉しくなる。


使い方を教えてもらったショウは、最初こそぎこちなかったものの少しづつ上手に使えるようになってきた。

それも、とても嬉しい!

そのうち、どこかへ行っていたシルバーも戻って来てさっきと同じ場所に立っていた。

シルバーが戻って来た時


「…クスクス!お前も大変だな。」


と、ヨウコウは笑いを堪えながら声を掛けたがシルバーはそれを無視した。
それにヨウコウはムッとした顔をし、
ゴウラン達と何かゴチャゴチャ言っていたが我関せずであった。

それから、場は少し落ち着きを取り戻しそれぞれで食事を楽しんでいる時。

そこで、ショウは思い切って、ずっと気になっていた事を聞いてみた。


「…あの、お仕事なのは分かるけど。
一緒に食べてほしいな?」


そう。シルバーとオブシディアンは、立場を弁え食事中ショウの後ろに立ちショウが食べ終えるのを待っていたのだ。

屋敷で働いてるってなら分かるが、今は一緒に旅をする仲間だし状況が全然違う。
…何より、食事をするのも一人ぽっちはさみしい。

ショウのお願いに、シルバーとオブシディアンは驚いた顔をし互いに顔を見合わせている。


「…お願い。」


と、お願いするショウに

シルバーは、無言でショウの隣に座り食事を始め、それを見たオブシディアンは驚きつつ


『本当に、いいのか?』


そう尋ねるた。


「うん、一人だと…さみしいから…」


今にも泣き出してしまいそうにショウは
オブシディアンの顔を見てそう言ってきた。

オブシディアンは少し戸惑いつつ、ショウの前に座り食事を始めた。

それを別テーブルから見ていたヨウコウは



「せいぜい、今のうちに食事を楽しむといい。なにせ、明日からは過酷な旅が始まり
まともな食事も取れないからね。」


と、ショウ達に声を掛けてきた。
それに対し、ショウは悲しそうに俯き
久しぶりのまともな食事も、なかなか喉を通らなくなっていた。

…ああ、また、あの屈辱的な食事が始まるんだ。

それを、オブシディアンさんやシルバーさん達も…体験する事になるんだ。

まだ、私だけならいいけど
私のせいで二人を巻き込んでしまうのは、凄く嫌だ。

お仕事とはいえ、自分と一緒にいなきゃいけない為にそんな思いまでさせてしまうのかと
ショウの気持ちは大いに沈んだ。


そして、ゴウランはオブシディアンの前に立ち


「お前達二人が、俺達のメンバーに加わったんだから金を支給されてる筈だ。
俺達が管理してやるから支給されたカードを寄越せ。」


と、当然とばかりにドヤ顔で言ってきた。

ショウは、ヨウコウとゴウランの態度に何とも言えない嫌な気持ちになっていた。
しかし、相手は王子と将官の息子。しかも、
このチームのリーダー達だ。

お金の管理も何もできないショウは、
メンバーにこれ以上迷惑掛けないように従うしかなかった。

しかし


『いや、結構だ。金の管理なら自分達でする。お前達には迷惑はかけない。』


と、オブシディアンはゴウランの言い出を
あっさりと断った。
それにイラッとしたゴウランは


「…は?何、調子乗ってんだよ。
このチームのリーダーは、ヨウコウ様だ。
それに、無駄遣いされたらチームの迷惑になるんだ。だから、俺達が管理してやるって言ってんだ。
お前らみたいな、金の使い方も分からない輩に金は預けられないって言ってんだよ!」



と、イライラしたように、早くカードを寄越せと手を出した。

すると、何故かオブシディアンは
包帯で隠し切れなかった火傷でただれた唇をクイっと上に持ち上げ


『悪いが、ボクとシルバーさんはお前達の
メンバーじゃない。お前達の金の施しや温厚は受けるつもりは毛頭ない。
だから、ボク達二人は自分達で金の管理をするから面倒を見てもらわなくていい。』


歪んだ笑みを浮かべゴウランに言った。

それに激昂したゴウランは



「お前ら、愚民風情が舐めた口聞くな!お前らは他の国から来て知らないと思うが、
あそこにいる方は商工王国王子、俺は
将官の息子だ。

本来なら、そんな口の聞き方は許されないんだぞ?恐れ多い、口を慎め!」


と、制圧しようとしてきた。

すると、オブシディアンはすぐさま
下を俯き肩を震わせた。

ミオは、他国の人間で初めて会ったのだから事情を知らないも当たり前。なのに、こんなに追い詰めるなんて、可哀想に…と、オブシディアンを気の毒に思うと同時に、ゴウランに不快感を覚えた。

その様子を見ているヨウコウとミミも薄ら笑っている。

…だが…



「…クッ…ククク…!」


オブシディアンは俯いたまま、自分のおデコに手を当てるとこめかみを押さえ


「…アハハ…!」


堪え切れないとばかりに声に出し笑っていた。

初めて聞くオブシディアンの声は、男と女の声が混じったような奇妙な声だった。声というより笑い声ではあるが。


「何がおかしい!」


急に笑い出したオブシディアンに、ゴウランは

何だ、コイツ。何で笑っているんだ?


と、その場にそぐわない態度にイライラしながら聞いた。


『いや、あまりにお子様過ぎて笑けてしまった。すまない。』


オブシディアンは、笑いを堪えるのに必死なようだ。

その様子に、ゴウランはカッと顔を赤くし


「…なっ!何がお子様だっていうんだ!
バカにするのも大概にしろ。侮辱罪で訴えるぞ!」


と、怒鳴った。

すると、近くで


「……プッ!」


堪え切れず、吹き出している声が聞こえた。そこを見ると、ショウの隣に座って食事をしていたシルバーが笑いを堪えている姿が見えた。


「貴様も、何がおかしいんだ!」


ゴウランがシルバーに、怒りをぶつけ怒鳴るも
シルバーはだんまり無視を決め込んでいた。


『…もう、ボク達を笑わせないでほしい。
笑い過ぎて食事どころじゃない。』


そんな風にオブシディアンが言うと


「…笑いだと…?
貴様らは、俺を馬鹿にしているのか!?」


ゴウランはショウ達が食事の為に使っているテーブルをバンッと叩き怒りをあらわにした。


『お前達があまりに滑稽過ぎてからかい過ぎた。そこは詫びよう。』


オブシディアンの言いように、ヨウコウと
ゴウランはムカッと腹を立てた。


「先ほどから聞いていれば、王子である余に
ずいぶんと上から目線でものを申すではないか。無礼だと言う事も分からないのか?」


さっきまで、ゴウランとオブシディアンの
やり取りを見ていたヨウコウは、もう我慢がならないとばかりに口を挟んできた。


『それは、聞いた話と違うな。』


オブシディアンの言葉に、ヨウコウ達は何を言っているんだと首を傾げる。


『お前達は世の中を知る為、世界を旅し勉強をするのだと聞いた。
身を持って世の中を体験する為、この旅の時だけは身分を捨て市民と対等の立場となり
学び今後の糧にする為の旅と聞いていたが。
違うのか?』


オブシディアンの言葉にミオはハッとした。
ずっと、旅を続けていて忘れていた。

そうだった。旅に出る時、確かにそう言われて旅に出されたはずだった。


しかし、ヨウコウ達は



「余達は、だからお前達と一緒に旅をしてやっている。本来なら、お前達愚民は
こうして余達の側にいる事も口を聞く事も許されない存在。余達と共に居られる事を心から喜ぶといい。」


なんて、言ってきた。

それには、シルバーやオブシディアン、ミオは驚きの表情をし一瞬固まってしまっていた。

それを見て、ようやく分かったかと言わんばかりにゴウランはドヤ顔をし


「分かったら、とっととカードを寄越せ。」


と、見下すようにあざけ笑い手を出した。

すると、オブシディアンは


『…驚いた。ここまで言って話が通じないとは…。話しても無駄という言葉はあるが、
まさにこの事だな。』


と、呆れたように呟いていた。

それに対し、ミオは恥ずかしさのあまりカッと顔を赤くし俯いてしまった。


『では、こちらも言わせてもらう。
ショウ様は、お前達のメンバーだろうから
ショウ様の事はお前達が管理するなり何なり“旅の仲間”として対処すればいい。』


「何を今更、当たり前な事を言っているんだ?それよりも、お前…ブフッ!
ブタに“様”付けはないだろ。ヨウコウ様や俺に“様”を付けるのは分かるが。一般市民であるブタに“様”なんて!」


と、馬鹿にするように盛大に吹き出し大笑いしていた。
それには、ヨウコウとミミ、ミオまでもが釣られて笑ってしまっていた。


『…お前、何か勘違いしてないか?』


そう言ってくるオブシディアンに、ゴウランは腹を抱えヒーヒー笑いながら「どういう事だ?」と、聞いた。



『ボクとシルバーさんは、国から“ショウ様専属”に雇われた身。ならば、ボク達の主は
ショウ様だけであってお前達ではない。
ボク達はお前達のメンバーや仲間ではない。

だから、“国の命令”により

ボク達は、ショウ様以外に誰にも関与しないし助けもしない。
あくまで、ボク達はショウ様に仕えるのみ。』


きっぱり、自分達はお前達とは関係ないと
平然と言ってきたオブシディアンに


「…なっ!!?」


ヨウコウ達は、驚きを隠せずいた。


『それは、お前達も騎士団長様から説明されていたはずだが?
さすがのお前達も、説明の意味さえ理解できない馬鹿ではないだろ?』


そう言われ、ぐうの音も出なくなった
ゴウランに、オブシディアンは更に言葉を続けた。



『特に、ゴウラン。お前なんて…いや、これを言うのはやめておく。そこまで、お前達に
教える筋合いもない。

…しかし、修行の旅なのに、お前達は随分と
贅沢な食べ物を食べているな。何かの祝い事か?』


そう言葉を残してからオブシディアンは、
ヨウコウ達がいくらギャンギャン騒ぎ立てても我関せずでうんともすんとも何も言わなくなった。

食事の指摘をされ、自分達の食事を
見たミオ。


ヨウコウは
ブイヤベース、ローストビーフ、トマトとバジルのブルスケッタ。

ゴウランは
サーロインステーキ、フライドポテト、ライス。

ミオは
エビフライ、サンドイッチ、ミニサラダ。

ミミは
ふわとろオムライス、ミニショートケーキ、ミルクティー。


野宿だと美味しいものは食べられないので、宿に泊まる時の少しばかりの贅沢である。
町から出る時は、その日のお弁当と
野宿に備えレトルトなど非常食を買い溜めする。

しかも、今回特別に騎士団長の奢りで食事できるのだ。

これの何がいけないのかと、シルバー達を見ると


ショウは、ここぞとばかりに

ポトフ、カニクリームコロッケ、ハンバーグ、海老グラタン、ボロネーゼパスタ(大)、マンゴーパフェ、ラズベリーソーダ。

を、頼んでいて、よくそんなに食べられるなと、ミオは見てるだけでお腹いっぱいの気分になった。

けど、それだけでは全然足りないらしく追加を頼もうとしたところで

注文をうかがいに店員が来た時、シルバーが要らないと手で合図し横に小さく首を振り止めた。

ショウは、非常に残念そうな顔をしていたが
シルバーはそれを無視し食事を続けていた。

今日初めて会った人だけど…なんか、感じの悪い人だな。嫌われちゃったかな?と、
ショウはシルバーに少し苦手意識を持ってしまった。


『…さすがに、食べ過ぎだ。』


オブシディアンは、ショウに注意をしている。あれだけ、自分達が仕えるのはショウだけと言いつつ
主人であるショウに対し、ズケズケと物申してる姿に本当に仕えてるって思ってるんだろうか?と、疑問に思ってしまう。

言葉づかいも敬語じゃないし。

でも、それは当たり前の事だろうと思う。
何故なら、ショウは底辺をいく一般市民であって将来性が全くない。

それに、あくまで雇っているのは国…王で
あってショウではないのだから。
この二人は、王の命令に従ってるだけに過ぎないのだ。


まあ、いいかとシルバー達の食事を見る。


シルバーは
ビーンズサラダ、鶏のササミ蒸し、ライ麦パン、ペパーミントティー。


オブシディアンは
温野菜、冷やっこ。


健康趣向なのか、店のメニューの中から選んだにしてはとてもヘルシーで健康的なものばかりだ。あと、オブシディアンに関しては、
それだけの量で足りるのかと思ったが。


…なるほど。

彼らは自分達と一緒で、体を資本として動いている。

健康な体あってこその護衛だ。

いかなる時も健康管理を怠るなと言いたいのかもしれない。

それに、今は大事な旅をしている。
そんな時に体調を崩してしまっては元も子もない。

と、ミオは自分の食事メニューを見た。

エビフライに、サンドイッチ…

確かに、これは一流の軍人を目指す自分にとって反省しなければならない内容の一つだ。

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