イケメン従者とおぶた姫。
さて、場所は変わり

この屋敷の主であり、ショウの父親の部屋では

上質な皮の大きなソファーにショウが座り、テーブルを挟んで向かいのソファーに足を組みユルリと座るショウの父、龍麒(りゅうき)。

部屋の前には、リュウキの護衛の強面で厳つい男が立っている。サクラはいつもあまり使っていない自室で待機させられている。
使っていないというのは、いつもショウに付きっきりで世話をし寝る時まで一緒だからだ。自室に入る時といえば、着替え、身なりを整える、勉強する時くらいしか使っていない。


二人に学校を休ませてまで話をするのだから、よほど大切な話なのだろう。

サクラを自室に待機させるという事は、話の内容をサクラに邪魔される恐れがあるから。つまり、お説教なのだと想像がつく。

ショウは、何とも居心地の悪い気持ちでいた。お説教の事もそうだが、父親は近くて一カ月に一回、遠くて半年に一回とあまり家に帰って来る事が無いので自分の父親だというのに少しばかり緊張してしまうのだ。


「…ハア。ショウは、よくそこまでブクブクと太れたもんだな。しかも、身の回りの事も全てサクラ任せの甘ったれになったと。」


リュウキは、呆れたように頭をガクリとさせ


「…確かに、父親である俺がお前を放置し、サクラに任せっきりだったのも悪い。悪いが、お前も悪い。
知っているか?今、世界が大変な事を。」


そう話してくる父にショウはコクリと頷いた。遅くとも30年後には世界が滅びるという話は有名で勉強の苦手なショウでさえ、その事についてはザックリ知っている。


「自然災害や妖魔、魔獣の狂乱。場所によって人々の多くは貧困で苦しんでいる。
そんな中、お前は贅を尽くしそんなブクブクと…ハア…。
そんなんじゃ、お前…何かあった時一人で生きていけなくなるぞ。」


そうリュウキが言っても、あまりピンとこないショウは何でここまで言われなきゃいけないんだとムスッとしていた。

今まで、困った事を体験した事のないショウはリュウキの言っている事がイマイチ理解できなかった。困った事と言えば…友達ができない事と周りの自分に対する悪口くらいで…。学校は休みがちではあるが生活には何不自由しないのだから。

世界が滅びると言われても遠い世界のようにも感じる。現実味がしない。


そんな様子の我が娘を見て、リュウキは自分の膝を指でトントン叩きながら考えていた。

考え、しばらく沈黙が流れた後



「よし、決めた!」


いきなり、そう声を出すと



「ショウ、お前は明日にでも旅に出ろ。」



なんて突拍子もない事を言ってきた。



「…へ?」



何を言い出すんだとキョトンとしているショウに



「それも、世界一周だ。8大陸全ての国を旅しろ。そして、学べ。今、世界がどんな状況になっているのか。その肉に埋もれた目でしっかり見て来い。」



この親父…なんか、とんでもない事を言い出したぞ。

いや、でも武器や商業に優れた自分の国。
商工王国(しょうこうおうこく)。

商業の国ともあって、色々流通があり他の国に比べて裕福な国である。
武器は、銃や剣など様々ありショウ達のいる国では武器術に優れた者が多く存在するらしい。


飛鳥機に乗って行けば、快適な旅行ができるか…空港まで移動するのが面倒だけど。大嫌いな学校も休めて、世界の美味しい食事と娯楽が楽しめるなんて最高じゃないか!

そう甘い考えをしていたショウに、リュウキはニヤリと悪い笑みを浮かべ



「飛鳥機、禁止。世界中の空港出入り禁止させておく。あと、海の豪華泳魚機も禁止な。
基本、歩き。持ち金は…そうだな、10万ゼニー渡しとくわ。…って、言ってもお前はお金の使い方も知らなかったな。
ちょうどいい、お金の大切さも分かるな。いい勉強になるだろう。」



なんて、恐ろしい事を言い出した。

けど、旅に出るフリしてこっそり家に帰って来ればいい話だ。

※飛鳥機(ひちょうき)→オオワシの形をした空を飛ぶ白色の大型機械の乗り物。
だいたいの飛鳥機は定員約300人。
※永魚機(えいぎょき)→クジラの形をした海を渡るピンク色の大型機械の乗り物。
永魚機の定員、約2000人。


そう軽く考えていると



「ああ、お前が世界一周するまで、うちの国には入国禁止命出しとくから。こっそり家に帰って来る事なんてできないからな。」



「…えっ!?で、でも…あの、お父さん?
本気で言ってるの?ウソだよね?」



半ベソ状態で、ショウはリュウキに聞いたが


「本気だ。世の中を見て、勉強してこい。
でないと、お前のこの先が心配だ。
サクラだって、ずっとお前の側にいて世話などしたくないだろう。
アレは、様々において優秀だ。あれほどの逸材はまずいないだろう。
だから、ほとんどの国や最高峰の職に居る奴らがアレを欲しているし俺達の国の王も目をかけるているって話だ。本人も何かやりたい事があるはずだ。」



…え?なに、それ…知らない。
様々に、優秀って何が優秀なの?逸材って、何の逸材なの?

と、ショウはイマイチ分かっていない風だ。



「…ハア。お前にとって、サクラはただの世話役で家族的な存在でもあるだろう。
ただな、それはお前だけの話であって
世間一般では、サクラはお前の世話役に終わらせるのが勿体無い、宝の持ち腐れだと思われている。
実際、この俺さえもそう思っている。」




リュウキの話を聞いていても、何一つピンとこなくてただただボーっと聞いていただけのショウだったが、一つ気になった事があった。


…え?

サクラは、ずっと私の側にいるんじゃないの?



サクラはいつでもどこでも自分の側にいて、あれこれ世話をしてくれるのが当たり前なショウにとって衝撃的な言葉だった。



「この際、はっきり言うが。
お前は、サクラにとって足枷。お荷物だ。
お前のせいで、サクラは将来を潰してしまうだろう。」



…ガーン…



……私が、サクラに酷い事してるって事?



「サクラの将来もそうだが、趣味、恋愛においても全てお前の世話のせいで我慢を虐げられ潰されている。」



…ズーン…


そんなつもりは無かったし考えた事も無かった。

サクラは、私と一緒にいたせいで色んな事たくさんずっとずっと我慢してたの?



「お前のワガママのせいで、サクラは自分の自由の時間がない。
誰もお前みたいな容姿も醜ければ、勉学も運動もダメ。性格も褒められたもんじゃない、唯一の取り柄は家が金持ちなお前の世話なんて誰がすき好んでやるんだ?」



リュウキのズバズバ言ってくる言葉に、ショウは悲しくなってポロポロ涙を流した。

…お父さん、そんな風に私の事見てたんだ。
だから、私が嫌いだから家にあんまり帰って来てくれなかったんだ。

サクラも、そんな風に私の事見てるの?



「サクラは家族も身寄りがなく、住む所と金が無かったから俺に雇われお前の世話をするっていう住み込みの仕事をしていただけに過ぎない。
それでも、生きる為とはいえ今までお前みたいなのをよく世話し仕事をしてくれたと思ってる。」



サクラは、お仕事だから私の側にいていつも私を守ってくれてたの?

私が悪口言われても、“気にしなくて大丈夫ですよ。私は、ショウ様はとても魅力的な女性だと思ってます。”“私は、いつでもショウ様の味方ですよ。”って、抱き締めてくれるのも全部、お仕事だったから?



「見ていて、さすがに不憫に思えてな。
分かるか?
そろそろ、サクラを自由にしてやれ。お前という邪魔な存在から解放してやれ。」



…私と一緒にいると、サクラが可哀想なの?

サクラは、私が居ない方がいいの?



なんだか、突然に崖から突き落とされた様な気持ちだ。

でも、突然そんな事を言われても信じられなくて



「…サクラは、ずっと側にいるって言ってくれたよ?」



大丈夫だよね?と、すがる様な気持ちで父にそう言ってみると



「仕事だから、どんなに嫌な相手だろうとコビを売る言葉くらい言うに決まってる。
なにせ、それで金を貰って生活してるんだからな。
俺は、サクラの雇い主。サクラはお前の世話をするのが仕事。分かるか?」



…つまり、今の今まで

サクラはお仕事だから、私に良くしてくれたって事なの?

じゃあ、サクラは私の事…本当はどんな風に思ってるの?

お父さんが言ってるみたいに、いっぱいいっぱい我慢して嫌々に一緒にいてくれたっていうの?

…生活の為、生きる為に?


ショウは、ショックが大きくもう悲しくて悲しくて何も考える事ができなかった。ただただ、俯いてエグエグ泣く事しかできなかった。

けれど、サクラが居ないこの空間で誰もショウを慰めてくれる者など居なかった。

チラッと父親を見れば、呆れた様に自分を見ているだけだった。


しゃくり上げ泣くショウに、溜め息を吐きながらリュウキは更なる言葉をかけた。



「もう一つ、お前に言わなければならない事がある。
その話を聞いて、お前とサクラの関係についてよく考えろ。
なぁに、どうせお前は一人で旅に出るんだ。旅に出ていたら、色々ゆっくりと考える事もできるだろう。その間、その足らない頭でじっくり考えるんだな。」



そう言うと、ショウに衝撃的な話を暴露してきた。その内容に、ショウは愕然としたし
サクラに合わせる顔が無くなってしまった。

そのあと、どうやって部屋に戻って来たのかあまり覚えていないが

ショウはベットに座り呆然としていた。

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