イケメン従者とおぶた姫。
ムーサディーテ国。
さてさて、ウキウキと胸を弾ませムーサディーテ国へ入国したヨウコウ達はあまりの光景に絶句していた。


何故なら


見渡す限り、美男美女だらけ。
それはいいのだが。その美形のレベルが問題だった。

だって、ムーサディーテ国の人達の美形のレベルがあまりに高すぎたのだ。

一行の中で一番の美形であるヨウコウですら、ムーサディーテ国の中では中の上。言ってしまえば普通よりちょい美形だな程度の容姿。

ゴウラン、ミオ、ミミに至っては中の下…あるいは下の上。…つまり、標準より少し劣る容姿をしている。


今まで、すごい美形だのめっちゃ可愛いだので人の注目を集めるのは当たり前。チヤホヤされてきたヨウコウ達は、この光景を現実として受け入れられずいた。

しかもだ。性に奔放だと(勝手に)思ってウキウキして来たのに、自分達の想像していたものとは全然違う。自分達の国と大して変わらないように思う。


それはさて置き

ムーサディーテ国は、芸術と美の国と言われるだけあり地域によって、その芸術の種類が違うので自分好みの地域を見つけるのもこの国に来る醍醐味の一つである。
例えば、アートに特化した地域、演劇に特化した地域、音楽にと、分野が分けられ、地域の中でもそれらの分野は更に細かく分けられる。

何はともあれ、ヨウコウ達は気分を取り直し観光…いや、旅を楽しむ事ができた。

ただ、やはり今の今までイケメン、美女だと注目を浴びてきた自分達が誰にも相手にされる事もなく更には周りに引け目を感じてしまうという何とも屈辱的で惨めな気持ちが拭いきれない。

この中に居ると自分達の容姿は醜いのではないかと錯覚してしまいそうになり、ゴウラン達は恥ずかしくて、まともに前を向いて歩けない気持ちになっていくし

人の目が気になりだし、自然となるだけ人目の少ない場所を選び前を進んでいく。

…早く、早くこんな国から出たい!

そんな気持ちで、いつの間にかフードなどで自分の顔を隠し足早になっていた。


一行は、自分達が想像していたものとは全く違う現実にとてもガッカリした。

そこで頭をよぎるのが、ベス王の部下の青年の『ガッカリしないで下さいね。』と、いう言葉。

こういう事だったのか!ヨウコウ達は、ようやく青年の言葉の意味を理解し顔を真っ赤にしたのだった。



その頃、商工王国では


『王様。“醜女と絶美の宝石”の物語について調べましたが、ヨウコウ様達から聞いたベス帝国に伝わる物語の他にも、もう一つ少し違う物語がありました。』


ムーサディーテで情報収集している隠密の言葉飛ばしがリュウキの頭の中に響いてきた。


「もう一つの物語だと…?」


『はい。この物語はムーサディーテ国に伝えるもう一つの物語です。
この物語は、あまりポピュラーではないマイナーな物語らしく知っている者も少ない物語のようです。』


「…ほぉ?で、その内容とは?」


『はい。


美しい男は、金と権力が欲しいが為、自身の自由が欲しいが為、己の欲の為に
世界一の大富豪、世間知らずで騙されやすそうなバカな娘に近づき結婚した。

美しい男には、大勢いる愛人の中でも気に入っている5人の愛人がいた。
美しい男が気にいるくらいだから、5人の愛人達は大勢の愛人達よりも特に美しく才も優れ立ち振る舞いから何から選りすぐりのパーフェクトな者達ばかり。何で、物分かりも良かった。

愛人の存在に気づいた妻はショックのあまり美しい男から逃げ出した。

美しい男は妻を血眼で探し、ようやく見つけた時には

妻は、墓の中に眠っていた。

その時、美しい男は酷く取り乱した。

妻の墓を掘り出し、遺体を探すも遺体は無かった。美しい男は


『…二度目だ…』


と、いう言葉を残し

信頼のおける愛人の一人に自分を封じさせ管理を任せた。


それが、もう一つの物語です。
ですが、この物語の最後にはこう綴られ終わっています。

“美しい男は、罪を犯し天界から追放された堕天使。
自らの罪を償う為に地に落とされたものの、同じ過ちを繰り返し彼は‘また、一番大切なものを失った”。』


リュウキは、3つの醜女と絶美の宝石の物語を聞き思った。

美しい男は、何故そこまで醜女に執着しているのかと。

大勢の愛人を作り、妻である醜女には一切手を出さず罵って嘲笑い蔑ろにしていたにも関わらず、手放さない。

…美しい男は、何がしたかったんだ?

底辺と馬鹿にできる相手を虐めて楽しむ事が趣味のゲスか?

そんな悪趣味なゲスが…妻の墓を掘り出し遺体を探しただと?頭が狂ってる異常者としか思えない。

その前に、遺体があったらどうするつもりだったんだ?

美しい男の心情がいまいちよく掴めない。


美しい男の心は分からないが


ベス帝国の事件、物語を聞き、少しだけ思い当たる節がリュウキにはあった。

それは、一人娘であるショウの事。

ショウの容姿は、中の下程度。そこに加え大デブときた。恋愛対象として誰も見てはくれないだろう。

あの美形だらけのムーサディーテ国に行けば醜いと判断され“醜女”と言われるだろう。

運動も勉強も魔法もダメダメで。

だけど、ショウは物心つく頃には物の価値が分かっていた。

これは、物語に出てくる醜女と共通する部分が多い。

それに、“もしも”ショウが醜女と同じ立場なら、どういう行動を取るのかは親であるリュウキは何となく分かる気がする。

もし、ショウが結婚するとなれば
ショウは至って一般的な普通の願望を持って結婚するだろう。むしろ、人より夢見がちな傾向にあると思う。
だから、不倫や浮気はドラマや小説など架空のものであり非現実的なものとして捉えている。

物語を聞けば、美しい男とやらは醜女を欺き醜女の前ではいい夫を演じていた…と、なれば、夫の裏切りを知った時の絶望たるや想像を絶するものに違いない。
しかも、大勢の愛人がいた上に、愛人は女にとどまらず男までいたとなれば尚更。挙げ句、自分の悪口を言っては嘲笑っていたのだからな。

詳しくを知らなくとも、その内容だけで想像がつく。夫を信じていた分だけ、精神的苦痛に悩まされ精神崩壊してもおかしくない。


だが、ショウは…復讐する度胸なんてないだろうから、耐えきれず最終的に夫の前から逃げ出してしまうだろう。

そして、時間が経つたびに夫を嫌悪し汚物に思えてくるに違いないし、人を疑う事しかできなくなってしまうかもしれない。

確実に、人間不信の引きこもりになるな。

だから、二度と夫と関わる事はしたくないし顔も見たくない声すら聞きたくもなくなるんだろう。


極端なヤツだからな、アイツは。


そこも、物語の醜女の行動と似てるんだよなぁ。


…まあ、たかだか誰かが作った物語であって
たまたま、ショウと醜女が重なる部分が多いだけなんだが。

しかし、同じ物語の筈なのに、何故こうも物語が違うのか。そして、共通点も多いのか。

ムーサディーテ国に伝えるポピュラーな物語は、美しい男を崇める者が作ったかのような話だった。

ベス帝国に伝わるという怪しい物語は、まるで醜女の身近にいた人間が自分が見て感じた事を伝えたような感じがする。

…そして、最後の話…
美しい男をよく知る人物しか知り得ない様な内容になっている。例えば
“お気に入りの愛人が5人いる”
“妻の墓を掘り出す”
“美しい男は罪人”

しかし、引っ掛かる物語だな。

二度目だと…?
二度目とは、どういう事だ?

そして、信頼できる愛人に自分を封じさせ管理させてる?

…堕天使?これは、何らかの比喩で美しい男はこことは別の世界から来たとも思われる内容だ。…幻の国から来たという事だろうか?


それに、ベス王も何かおかしい。
視察に出る前に通信機で消息不明になっているショウ達の事について会話をしたが、どこか話の辻褄が合わないようなところがあった。

…何かが、おかしい…

リュウキは、ショウに付けたあの二人の事も考える。
あの二人がいるなら大丈夫だと思いたいが…もしもの事があったら?そう思うと居ても立っても居られない、不安でどうしようもない気持ちに襲われた。

…後悔しても遅いのは分かっているが、ショウを旅に出さなければ良かったとリュウキは何度も何度も自分の判断の甘さを悔いた。



ショウ達が行方不明になり商工王国とベス帝国の一部がてんやわんやになっている頃

ヨウコウ一行に少し変化が起きていた。

…それは…


「ねえ!あなた、この国の人じゃないよね?
どこの国の人?良かったら、この街を案内してあげる!いい所知ってるんだぁ。」


「いや…宿のチェックインの時間があるので申し訳ないが…」


「えぇ〜っ!?残念!」


たびたび、ヨウコウが女性に声を掛けられるという事。

ムーサディーテ国の中では、ヨウコウの容姿は中の上でしかないのに何故こうもムーサディーテ国の女性達にモテるのか。

予約していた宿に入ると、その謎は解けた。

宿のカウンターで手続きをしていると、宿のアルバイト男性がヨウコウに近づくと


「お客さん、モテるでしょ?」


と、羨ましそうに話し掛けてきたのだ。


…は?何を言っているんだ、この男はと、ヨウコウが疑わし気にアルバイトの男を見ると男は


「…あ!そっか、お客さん旅行者だから、知らないんだ!
ほら、オレの国のヤツらって肌の色は薄褐色で、毛の色は白いし、目の色も赤っぽいだろ?

だから、この国では珍しい黒か白の肌
黒か金の毛色が人気で
目の色は黒かブルー、グリーンが
好まれてモテポイントが高いのさ。

そこに加えて、よその国から来た人でお客さんレベルの美形なんて滅多にいない。

そりゃ、モテるに決まってるよな!」



と、教えてくれた。

なるほど、納得だ。
このアルバイト、口の聞き方は最悪だがいい事を聞いたとヨウコウ達は思った。

思ったのだが、それはあくまで、肌の色、髪の色や目の色も厳選され、かつ、ヨウコウレベル以上の美形(外国人)でなければ意味がないという話。

ゴウランとミミは、ガックリと項垂れた。


それを知ってからヨウコウは、近づいてくる美女達とそれはそれは楽しく遊びまくっていた。

しかし、想像に反して
ミミも何故かモテていた。

…それは何故か…

ミオは不思議でしょうがなかったが、ゴウランは何となくだが予想できた。

ミミのような女は都合がいいのだ。
平凡だったりほんの少しばかり容姿が劣っていようが、女子力が高く全身くまなく手入れがされ小綺麗にしている。スタイルも悪くない。
ぶりっ子して、イチャイチャしてくれる。
それに、ちょっとばかり良くしてあげただけで調子に乗るタイプだから扱いやすいキープちゃん。

隅々まで手入れしてるしファッションやメイクもバッチリな為、一瞬可愛く見えるし遠目からだと美人っぽく見える。雰囲気美人でもある。

何より、美人じゃないから緊張せず楽しめるのがいい。あざといのも最高。

だが、それはあくまでスタイルが悪くなく、全身くまなく手入れがされて、ファッションやメイクにも気を使った雰囲気美人に限るである。


いつだったか、ゴウランの悪友の一人が微妙にブス気味な彼女を作った時、そんな話を自慢げに話してたのを思い出す。

自分は、ちょいブスも平凡も雰囲気美人もお断りだが。

まさに、ミミがこの国でもモテているのはそういう事である。

そんな男達の心など、梅雨も知らないミミは
やっぱり、この国でも自分は可愛いんだと自信がつき調子に乗った。

…そう、調子こいたのである。


ヨウコウとミミは、調子に乗りに乗り自分達の為すべき目的すら放置して、ナンパしてくるムーサディーテの遊び人達と遊びまくっていた。


これには、ミオはもちろん流石のゴウランですら呆れていた。

何度か、ミオやゴウランは
早くムーサディーテ国王に会い次の国を目指さなければと説得するも

「余に逆らうのか?自分達がモテないから僻んでいるのか?可哀想な奴らだな。」

と、憐れんだように笑われるだけだった。

ミミに関しては、ヨウコウのようにたくさん声を掛けられる訳ではないが自分の努力(逆ナン)と振られても振られてもめげない強靭で超絶前向きなハートと、数うちゃ当たるで遊び相手をゲットして相手に都合よく遊ばれていた。

遊ばれている事に気づかないミミは、また勘違いしご満悦になり何かとミオにマウントをとるようになっていた。


「もぉ〜!ミミ、モテちゃって困るぅ〜。
全身傷だらけで女子力のカケラも無いどこかの誰かさんと違ってぇ〜。」


くだらないとミオは思うけど、馬鹿にされたらやっぱりムカつくものはムカつく。
腹が立ってしょうがないが、こんな馬鹿を相手にするだけ無駄な事も分かっているので無視を決め込んでいた。


それが数週間続いたある日



調子に乗りすぎたヨウコウとミミは、呆れた恥ずかしい事件を起こしてしまうのである。



それは

一行が観光目的で街を歩いている時だった。

数メートル先で、黄色い歓声が湧き起こっている。

いつもなら、人通りの多い場所に出ると
ヨウコウはチラチラと好意的な眼差しで女性達に見られる事が多かったのだが、今は誰一人ヨウコウに興味を示す者はいなかった。

それどころか


「ちょっと!邪魔っ!!どいて!」


「もぉ〜!あんた達のせいで見えないんだけど!」


と、自分達の横を通り過ぎる人達から邪魔だと苛立ちを露わにされ雑に押しのけられる始末。


「え!?こんな事ってある!?し…信じられない!!」


「キャーーーー!!アラガナ様ーーーーー!
こっち、向いてェェーーーー!!!」


「リンデ様ぁぁ〜〜〜!かっ、可愛い…」



まるで、人気絶頂のアイドルを見つけたかのような騒ぎである。

今までこんなお粗末な扱い受けた事の無いヨウコウは腹立たしい気持ちのまま、何事かと興味もあり注目を集めているその場所を見てみた。


すると、そこには


美男美女だらけのムーサディーテ国でも、群を抜いて一際美しいと分かる二人の姿が、人の群れの間から一瞬だけ見えた。

美男美女だらけで美的感覚がバグっている一行でさえも、こんなに美しい男女がいるのかと言葉を失ってしまう程美しい。

そこで、目をキラキラ輝かせたミミは近くにいた男性にあざと可愛く首を傾げ目をウルウルさせながら聞いた。



「あのぉ〜!あの二人わぁ、誰なぁんでぇ〜すかぁ?有名人?とぉ〜っても、綺麗で気になっちゃってぇ〜。」



「…あ"?」


美貌二人を眺められまさに眼福といった様子の男性は、それを邪魔されたが為に機嫌悪く振り向き、ミミを見るなり



「……旅行者か。
この国で、あの二人を知らねー奴はなかなか居ないですからね。
この国の“三大美”のうちの二人ですよ。」


「“三大美”?」


ミミが、ほっぺに人差し指をくっつけて首を傾げ聞くと


「あ〜〜、それすら知らないかぁ。」


男は、マジかよって呆れ気味に呟くと


「その名の通り、ムーサディーテ国の中でも圧倒的美しさを誇る三人の事です。

他国でも、結構有名で観光目的の他に
三大美の三人を見たいが為にこの国を訪れる人も多いんですよ。そのうち、一人でも見れたらラッキー。
それは、この国に住んでいる自分達だって同じ事です。

それが、たまたまの偶然!どういう訳か三大美のうちの二人が揃ってるんですよ!?

みんな興奮して当たり前でしょ!!?」


と、早口で一通り説明し終わると男性は、すぐさまに人の群れの中に飛び込んで行った。


確か、ベス帝王もそんな事言っていた気がすると一行は思い出していた。


しかし、話を聞く限り自分達はかなりラッキーなのだと思う。

広い国の中、たまたまとはいえこの国のトップレベルの美貌を拝めるのだから。

周りの様子や声を聞いていれば


アラガナは男性、リンデは女性である事が分かった。
…が、人の群れのせいでアラガナとリンデの姿は一瞬しか拝む事ができず、しっかり容姿の細部まで把握する事はできなかったのが残念である。

しかし、この国に来て調子ぶっこいていたヨウコウとミミはとんでもない行動に出た。
< 35 / 125 >

この作品をシェア

pagetop