イケメン従者とおぶた姫。
黒い靄。
リュウキは、状況を把握できず困惑しているショウに


「ショウ、おいで。」


と、手招きしショウは意味の分からないまま、ベットから降りリュウキの隣に座った。

もちろん、サクラは当然と言わんばかりに何故かドヤ顔でショウの後ろに控えている。

しかも、オブシディアンやハナ、ベス帝王の部下はある一定距離空けて王達の後ろに控えているのに対し、サクラは恋人かってくらいピットリとショウのすぐ後ろに立っている。
おそらく、握り拳一つ分程しか離れていないだろう。…少しばかり異色な従者に見える。

ショウは、何で目の前の椅子にベス帝王の部下が座っていて、その後ろにベス帝王が控えているのか不思議だったが“夢”なら、こんなアベコベもあるか、と、納得した。
この事が決定打となり、ショウは本格的にこれは夢なのだと信じ込んでしまっている様だ。

その証拠として

分かり合えたとはいえ、まだまだギクシャクしている親子関係。まだ、リュウキに対して警戒しどこか遠慮がちなショウ。
なのに、先ほどまでリュウキとの間に少しだけ距離を空け座っていたのだが“夢”だと信じ込んだ瞬間、いそいそとその間を詰めピットリとリュウキに体をくっつけてきたのだ。ちょっと恥ずかしそうにしてはいたが。

それには、リュウキは驚きの表情を隠せずショウを凝視したが、直ぐに愛おしさが込み上げショウの頭をワシャワシャなでるとショウと自分の頭をコツンと軽くくっつけ

「いい子だ。」

と、優しい笑みを浮かべショウを見た。
かと思うと

「実はな、ショウ。これは夢なんだが、少々困った事が起きてな。」

少し困った表情を浮かべ、そんな事を言ってきた。ショウは、そんなリュウキに不安を覚え

「…どうしたの?何があったの?お父さん。」

と、聞いてみた。

「ああ。…実はな。この夢から出るには、お前の力が必要らしい。」

「…私の力?…私、魔法なんて使えないよ?」

ショウは、そんな力なんてないよと首を傾げ不安げにリュウキを見ている。
リュウキは、ショウの不安を和らげる為に頭を撫でながら少し笑みを浮かべ


「そこは大丈夫だ。ここは“夢”だって事を忘れるな。ただ、夢の中と言っても、敵の術者によって、みんな思い通りにならない様になってもいるようだ。そんな難しい状況だが、抜け出せる唯一の方法が見つかってな。」


なんて、おかしな説明をしていたが…
この状況を知るショウ以外の者達は、嘘も方便とは言うが…なんてスラスラと泳ぐ様に嘘を並べられるもんだとポカンと呆気に取られた。

しかも、どう考えたっておかしな話だし、ショウのオツムに合わせた幼稚な作り話だと言うのにリュウキが話せばあたかも本当かの様に思えてくる。
そもそも、相手に合わせて話を作り話せると言うのが凄いと感心せざるを得ない。なかなか出来る事ではない。ここで、リュウキの頭の良さも窺えた。

嘘っぱちと分かっている自分達だからこそ、この話がどう考えてもおかしな話だと分かるが。それでも、出鱈目だと分かっていても聞いている内に危うくそうなのかもしれないと納得しかけてしまう程リュウキの口はよく回ると舌を巻いた。思わず、さすがは国のトップだと感心してしまう。

挙げ句、ショウはショウで純粋というのかバカと言うのか…それもあいまってショウはすっかりその気になって食い入る様にリュウキの話を聞いている。


「それは“サクラが鍵”となっている。」

と、リュウキが言うと

「…なっ!!?」

リュウキの趣旨を瞬時に理解したサクラは苛立ちと驚きで、してやられたと言わんばかりに思わず声を上げリュウキを見た。
その様子に、流石理解が早いなとリュウキは感心しつつニヤリと悪い笑みを浮かべた。


「…サクラが鍵?」


そして、不思議そうに首を傾げサクラを見ているショウに


「そうだ。“サクラの隠し事”を聞き出せれば、この夢から抜け出せて、みんなが助けられる。
みんな、この“夢から抜け出せずに困ってる”。
…みんなを助けてくれないか?ショウ。」


憂いを帯びた表情を浮かべお願いをしてくるリュウキにショウは


「…サクラ、内緒にしてる事があるの?
みんなに教えちゃって大丈夫なの?」


と、すぐ後ろにいるサクラに振り返り、心配そうに聞いてきた。


「…ショウ様…」


ショウに弱いサクラは、今にも泣き出してしまいそうに表情を歪ませると


「……はい、申し訳ありません。私はショウ様に隠している事があります。」


言い出し辛そうに俯いた。
かと思うと、すぐさま顔を上げ


「ですが、信じて下さい!!
私は、ショウ様を裏切る様な事は一切いたしません!言えない事もありますが、ショウ様には決して嘘はつきません!」


と、必死の形相でショウに訴えかけてきた。
それを見てショウは


「…サクラ、秘密って誰にでもある事だと思うの。けど、うまく言えないけど人を傷つける様な事はダメだけど、秘密くらい大丈夫だよ?
サクラが言いたくなかったら言わなくていいよ?」


そう言って、サクラに手を差し伸べた。
その手にサクラは何の戸惑いも無く、自分の手をそっと乗せた。それをショウはぎゅっと握って


「ね?」


と、笑いかけた。それに反応しサクラも


「はい。」


嬉しそうに笑みをこぼし返事を返した。
その様子を見ていたリュウキは、まるでペットと飼い主だな、と、少々呆れ気味にサクラを見ていた。そして、ショウに対し我が子はこんなにも優しいと父性がひょっこり顔を出してしまっている。

「…ごめんね、お父さん。嫌がってるのに無理矢理、秘密を聞いちゃうのが可哀想だと思って…」

申し訳無さそうにリュウキを見てくる我が子に


「…いや、それでいい。人を思いやれる事はいい事だし、無理強いは良くないからな。」


リュウキは、よく言ったなとショウを褒め頭を撫でた。これで、サクラの秘密を聞く事はできないだろうし、ここに長居する訳にもいかない。少々強引になるが、あの手でここを出るとするかとリュウキが考えていた時だった。


「…ショウ様が望むのでしたら、何でもお答えします。先程も言いました様に、私はショウ様に嘘はつきません。…つける訳がありません。
…ですが、答え辛い事もあります。」


そう、サクラは言ったのだ。
そこを聞き逃すリュウキではない。


「そうか。なら、“今”答えられない事はいい。
今、答えられる範囲で話してくれ。」


配慮に配慮を重ねた言葉で王たるリュウキが譲歩する形で妥協案をサクラに出すが、そんなリュウキなど居ないかの様にまるで無視のサクラ。

サクラの無礼たる姿にショウとオブシディアン以外は驚きを隠せず、なんて無作法な…!と、憤りを覚えた。
そんな事などお見通しだし慣れっこなリュウキは、なんて事ない態度で


「そういう訳だ。サクラは、俺達には手に負えない。サクラの心を動かせるのはお前だけだ。
…ほら、お前の目の前にいるお兄さんがいるだろ?とても困っている事があってな。その解決策をサクラが知っているらしい。
だから、あのお兄さんの代わりにサクラに聞いてほしい。」


ショウにしかできない。みんなを助ける事ができるのはショウだけだ。頼めるか?と、リュウキは言葉巧みにショウのやる気を焚きつけた。

自分がみんなの役に立てるんだ。助けになるんだと思ったらショウも俄然やる気が出てきたようでフンス、フンスと鼻息を荒げていた。

…バカワイイなと、サクラとリュウキは心が絆され、二人は思わず少し目尻が下がり柔らかな笑みが浮かんでしまっていた。

そして、俺はここまで誘導した。後はあなた次第だとリュウキはベス帝王に目配せした。
それを合図に、ベス帝王は感謝の気持ちを込めリュウキに少し頭を下げると


「…ショウ姫、頼めるかな?
頼りの綱は、もうあなたしかいない。」


ベス帝王にそんな事を言われショウは


「…え!?ひ…姫!??私の事姫って…??」


お姫様でもなんでもないのに“ショウ姫”って呼ばれた事にビックリして思わずリュウキを見た。


「……まあ、“夢”だからな。気にするな。
“ショウ姫”」


と、リュウキは苦笑い。

ショウは“姫”って呼ばれた事に興奮して、“私、姫って呼ばれちゃった!”と、目をキラキラさせてサクラやオブシディアン達を見た。

みんな、なんだか生温かい目で自分を見てくるのは何故だろう?まあ、よく分からないけど頑張るぞと思うショウだ。

本当にこんな事で、曲者のサクラが簡単に口を開くのかという不安は拭いきれないもののダメ元でベス帝王は


「…あ〜…、えっと…。…ゴホン!
サクラは、何故この宝箱が“空っぽのガラクタ”だと思うのか?」


と、ベス帝王がショウに質問を投げかけると、質問の意味も分からなければ覚えきれなかったショウが“よく分からないけど、どうなの?”って感じでサクラを見た。

すると、サクラは膝をおりショウと目線の高さを同じくすると


「私は“分かる”のです。」


と、柔らかな口調であっさり答えた。
それに驚き、ベス帝王は


「分かるとは何だ!?
サクラ…お前は、絶世と呼ばれる各国の美男美女達と比べても、その者達よりも遥かに美しく思う。
ムーサディーテ三大美…いや、歴代世界一と謳われる美貌の持ち主“太一(タイチ)”と並んでも引けを取らない美貌と思う。
そして、頭脳明晰、文武両道…非の打ち所がないときた。

…サクラ、お前は何者だ?お前は本当にこの世界の者なのか?

もしかして、お前が“絶美の宝石”なんじゃないのか?」


と、サクラに直接疑問を投げかけた。
しかし、サクラは何の反応も見せずただただ、ニコニコとショウを見ているだけだ。

それには、リュウキやハナも苦笑いで見ている。内心、面倒くせぇの一言である。

ベス帝王は、なんて面倒くさいんだとイライラしながらも要求するようにショウを見ると、任せてと言わんばかりに目をランランにして“答えてあげて?”と、サクラを見た。
すると、少し考える素振りを見せ


「…少々答えづらい所はありますが、私はこの世界とは“違う世界”の生まれです。
そして、私は絶美の宝石などではありません。
あの様な外道と一緒にしてもらっては困ります。あのクズの事は…思い出したくもない…!」


そう言ったのだ。

この答えには一同みんな驚きしかない。
つまり、そういう事である。
これが真実であれば、とんでもない驚愕の事実となる。もしかしたら、歴史的、格分野の学者達をも揺るがす発言である。

ショウとハナは、何が起きたかよく分かっておらずキョトンとしていたが…。


「サクラ!!お前は絶美の宝石の正体を知っているのか!?」


ベス帝王は、思い余ってガタリと椅子から立ち上がり、バンとテーブルを叩き前のめりになってサクラを見た。

…が、相変わらずの態度である。
その態度を見てハッとし、ベス帝王は渋々ショウの顔を見た。
ショウは、任せて!と言わんばかりにサクラを見る。

そんなショウに、サクラはきっと内容なんて全然分かってないだろうなと、苦笑いしつつ


「絶美の宝石の正体は知っております。」


と、答えると…なんと今度は


「え!?絶美の宝石ってなんなの?
どんな宝石なの?」


なんて、宝石と聞いてショウが食いついてきた。ずっと気になっていたのだろう。ドキドキした様子でサクラを見ている。


「…ショウ様。絶美の宝石は宝石ではありません。“人”です。」


「…人?人が宝石なの??」


ショウは、言葉をそのまま素直に受け取っているのだろう。宝石と人がどうも結びつかず首を傾げていた。もちろん、ハナもだ。
このままでは、バカな二人は考え過ぎで知熱を出し、寝込んでしまいそうだとリュウキは苦笑いしていた。

しかしとも思う。
あんなに頑なに自分の秘密を明かす事のなかったサクラ。だが、ショウの口から聞けばアッサリと何でもペラペラと喋る。
このまま、サクラの秘密全てを喋ってもおかしくないなとリュウキは、今までの自分の苦労は何だっかのかと馬鹿らしい気持ちになっていた。


「宝石の様に美しい人と、いう意味です。
それも絶美の宝石と謳われる程に、想像を絶する美しさの人という事でしょう。」


と、説明するサクラに


「…サクラよりも美人なの?」


なんて、何て事ないような軽い気持ちでショウが質問すると…どうしてだろう?
サクラは一瞬大きく目を見開くと、表情をクシャリと歪ませ都合悪そうに目を伏せると


「…私など…足元にも及ばない程に……」


と、よほど答えたくない質問なのか、なかなか言葉を声に出せずいる。
まるで酷い屈辱を受けているかのようだ。
その様子に一同は、何故こんなにも苦痛を味わう様に言葉を出せずいるのだろう?

自分の美貌より勝る相手がいる事を認めたくないのか?自分の美しさが一番でなければ気がすまないのだろうか?

…いや、少なくともサクラはそういう事はさほど気にしない性格だと思うが。

…では、何故?

それ以外に考えられる事と言ったら…と考察している時だった。


「…サクラ、嫌なら答えなくていいんだよ?」


ショウは心配そうにサクラに言葉を掛けた。

そして


「サクラは、絶美の宝石が嫌い?」


と、純粋に思った気持ちを聞いてきたのだ。
これは、ショウにしか聞けない質問だなとリュウキは苦笑いしながら二人の様子を見守っている。


「…はい。何よりも一番、嫌いです。
私にとって、奴は最も憎むべき存在です。なので、奴の事を考える事も話す事も苦痛で仕方ないのです。…まして、奴の事を褒める言葉など…」


と、ショウと手を繋いでいない方の手に、握り拳を作りフルフルと肩を震わせていた。

ショウはサクラの握り拳を両手でソッと包むと


「…ゴメンね。サクラに嫌な事言わせちゃって。私もサクラの気持ちちょっとは分かるよ?
…だって、嫌いな人の話…私だってしたくないし、嫌いな人を褒めるとか…とってもとっても嫌だから!」


そう言ってきた。そこで、ようやくサクラは俯いていた顔を上げショウの顔を見る事ができた。

ベス帝王は、そんな二人を少しばかりイライラしながら見ていた。
…だって、あからさまに“絶美の宝石”について知っているサクラの話に進展がないから。
早く、有力な情報が欲しいというのに。
早く“絶美の宝石の正体”と“復活の方法”を聞き出したいというのに。焦りでイライラが爆発しそうだと思った、その時だった。


「…サクラが嫌いなら、“私も絶美の宝石なんか嫌い”“絶美の宝石なんか興味ない”から、もう言わなくていいよ。」


そう、ショウが言った瞬間。


…ゴゴゴ…


地鳴りの様な音が響き、城が揺れ始め


「…地震かっ!?」


ベス帝王は驚いた様に声を出した。
ショウは「ひゃー!」と、悲鳴をあげパニックになっている。
地震が起きた瞬間、リュウキとサクラ、オブシディアンはショウを、ハナはリュウキを、ベス帝王を部下が庇う様に立った。


ガタガタとガラス窓や棚などの音も大きくなっていく。と、同時に


『……ーーか?…ーーんでーーない……』


と、微かに人の様な声も聞こえるような気がする。一同は、物の音かと聞き間違いかと思うも、揺れが大きくなっていくにしたがってその声も言葉もハッキリ聞こえてきた。


『……どうし…、ありえ……い。…俺さ………だと……!?』


どこからともなく聞こえてくる声に一同は何が起きているのかと焦りつつも警戒し周りを見渡す。


「…何が起きている!?何なんだ、この声は!?」


と、ベス帝王は青ざめた顔で周りをキョロキョロ見ていた。


「…おいおい、とんでもない事になってきたな。」


「…これは、もしかしたらもしかするかもな。」


リュウキは、ショウを庇う様にショウの前に立ちながらハナと会話をした。
サクラは、ショウを包み込む様に抱き締め守っている。まるで、ショウを守る盾の様だ。


…と、建物が崩壊するのではないかと思うほど一気に揺れが強くなったかと思うと



『お前が、俺様を“嫌い”“興味ない”なんて言うなァァァーーーーー!!!!!!!』



悲痛にも似た叫びと共に


パーーーーーンッ!!!!!


何かが弾けたような大きな音と目が眩む様な真っ白な光、次に意識を失ってしまったかのような真っ暗な闇を感じたかと思うと

…ハッと気がついた時には


自分達は、えも知れない異空間にいた。
光が無く暗闇の様に黒に塗れているのに、みんなの姿形がハッキリ分かる。
上も下もない。不思議な空間だ。


「…な、何だ?…ここは…」


ベス帝王は思わず、声を出す。

そこには、シャボン玉の様な物が無数にあり、そこには見た事のない生物や植物、人の様な未知の生物など映し出されている。しかも、モニターの様に場面が様々に移り変わってもいる。

が、キョロキョロと見渡す暇もなく、目の前が柔らかな光に包まれると

金や銀、白に包まれた柔らかな空間へと変わった。かと、思えば虹色な何かが広がり

赤や青、緑、茶など様々な色と形が入り混じる空間…そしてと、パッパッ、パッパと目まぐるしく色んな空間へと変わり

そして、ようやく移動が止まったかと辺りを見渡せば、上も下も横もない全くもって何もない空間にいた。

光も闇も無ければ色もない不思議な空間。普通では考えられない空間だ。

なのに、自分達は姿形、色が存在するのだ。

そんな奇妙な空間に自分達はいる。

あまりの異質さに、一同は一体何が起きているのか頭が全くついていけない状態であった。
未知なる恐怖と緊張をどうにか抑え驚愕に震えながらも辺りを見渡すと


『……久しぶ…り…だな……』


と、どこからとも無く少年の声がし
どこからとも無く、目の前に人の形をした様な黒い靄があった。丁度、人の目に当たる場所に丸くて赤いこの世の物とは思えない程の何とも言いがたい美しい宝石がこちらを向いている様に見える。

さっきまで、そこには何もなかったし見ていたはずなのに、そこにソレはいた。


……ゾゾゾォー……


自分達は、開けてはならないパンドラの箱を開けてしまったのではないかと嫌な予感が脳裏をよぎり背筋が凍りついた。

「…怖いよぉ〜…。何が起きたの?怖いぃぃ〜!!」

ショウはあまりの恐怖に、サクラに必死にしがみついてボロボロ泣きながら助けを乞うていた。

サクラはショウを強く抱きしめ、ガタガタと身を震わせながらも果敢に黒い靄をギッと睨んだ。すると、二つの赤い宝石はサクラを向き


『…………ん?お前…どっかで…???
気のせいか?まっ、いいか。
それよか、それはお前如きが触れていいものじゃねぇ。』


と、何重にも重なりブレた様な声を出してきた。だが、それでも分かるのは、その声は“少年から大人に変わる丁度境目くらいの声”だと言う事。大人になりかける少年とでもいうのだろうか。そんな感じだ。

“お前は何者なのだ。”“ここは、何処だ。”“何故、自分達をここに連れて来たのか。”“目的は何なのか。”

リュウキ達は、そういった疑問を持ちながらも
、あの黒い靄に只ならぬ圧を感じ畏怖から金縛りにあったかの様に体は動かず、声を出す事すら出来ずいた。

今、ここで声を出しているのは「怖いよぉ〜、怖いよぉ〜」と、泣きじゃくっているショウのみであった。

しかし、ここでリュウキは疑問を感じた。
恐怖に震え泣きじゃくるのは分かるが…あの黒い靄からは、そんな恐怖の声さえ奪う程の強力な圧がある。

心身ともに鍛え上げられた自分達ですらこんな感じなのに、普通の人間なら失神してもおかしくない程のとんでもない威圧感だ。

現に、ベス帝王の部下はあまりの圧に耐えきれず泡を吹き倒れてしまったし、ベス帝王も膝から崩れ落ち全身からは滝の様な汗を流し、呼吸もままならなく軽い呼吸困難を起こしている。顔面蒼白で顔に血の気がなく、辛うじて意識を保っている状態だ。

なのにだ。我が子は、それを吹っ飛ばし“恐怖で普通に言葉を発し身動きし泣けている”のだ。

おかしい事この上ないとリュウキは驚き、ハナを見ればハナも驚いた表情でショウを見、それからリュウキの顔を見て“どうなっているんだ?お前の娘は。”とでも言いたげな顔を向け、すぐさま得体の知れない靄に集中を向けていた。

サクラとオブシディアンは、自分の事で精一杯でそこまで気にする余裕がないようだ。

リュウキは黒い靄の様子を窺いつつショウの事も気にしていた。


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