イケメン従者とおぶた姫。
サクラは、少し俯き観念したかの様に口を開いた。



「…そこまで、“幻の国”について知ってるなら、だいたいの察しはついてるだろうし…
おそらくお前が想像した通りだろう。

俺は、空の精霊王国…出身だ。」



やはりな、とリュウキは思った。

サクラの髪色は白銀髪で角度や光によってブルー色にキラキラ輝くキューティクル。
雪の様に透明な白い肌、スカイブルーの目。

他を寄せ付けないほどに美しすぎる容姿。

これまで世界中数多という美女や絶世と言われる美女をも見てきたリュウキ。だが、そんな美女達ですら霞んで見えるほどにサクラの美貌は群を抜いている。

どれをとっても、この世の人間では無いと思った。

サクラが、自分の前に現れた時は
天から舞い降りた女神かと本気で思ったくらいには。


サクラが、自分の前に現れたのは
もう12年も前になる。


本当の偶然、奇跡的なタイミングだった。

その事を話さなければならない時が来た。それが、今だとリュウキは思っている。

12年前に、そう決めていたのだ。

そうでもしなければ、自分の心に踏ん切りが付かなかったのだ。



「…サクラ、おそらくお前はまだ俺に隠してる事がたくさんあるだろう。
だが、それは俺も同じ事だ。それでお前だけに口を割らせるには不公平すぎる。

だから、お前に幾つか秘密をバラそう。


まずは、ショウの事だ。」



ショウの名前が出た事で、サクラは思わず顔を上げた。



「ショウは、俺と血が繋がった正真正銘の親子だ。」



それを聞いたサクラは耳を疑った。



「……それは、あり得ない。だって、ショウ様は…」



「俺の子供だ。

12年前、大嵐のあったあの日…ーー



ーー12年前、リュウキ回想ーー




昔から、何をやらせても卒なく万能にできたリュウキ。頭脳明晰、波動や攻撃魔法も上級レベル、武器術の腕にいたっては右に出るものはいないと言われる程の腕前。

しかも、商工王国第3王子ともなれば、周りが放っておかない。

挙げ句、かなりのイケメンときたもんだ。


だから、モテた。とにかく、モテまくった。

なので、寄ってくる自分好みの美女は片っ端から食いまくった。もう、一桁の年から。

性事情は本当にクズでどうしようもなかったが、リュウキは上に立つ者として
この人について行けば大丈夫だと思わせるカリスマ性、実力、人望もあった。


その為、前王が亡くなった時、前王の希望もあり上の兄2人を差し置いて若干、22才にして王位に就いた。

だが、女癖だけはどうも治らず…一人に縛られたくないという理由で妻は娶る事などせず

今まで通り、気に入った女と遊んで暮らす日々。妊娠した女がいれば、検査やあれやこれやで自分の子供と認定されればリュウキの次期後継者候補として城で引き取り女には報酬を渡しおさらばしていた。

妻を娶ることがないのだから世継ぎ問題も出る訳で…と、なると遊んだ女の妊娠であろうが家臣達にとってとてもありがたい事だった。

今までで出来たリュウキの子供達は、男女合わせて28人。もちろんの事だが、いずれも母親が違う。

ちなみに言うと、リュウキは子供達に一切関心はなく興味も無かった。
だから、自分の子供とも思えなかったし、真っ赤な他人としか感じなかった。

リュウキにとっての28人の子供達は、あくまで将来の王候補達。それだけだ。


そんなある日だ。

リュウキは、運命的な出会いをする。


何となくだった。夜中、妙に目が冴えて自分と同じベットで眠る裸の美女5名ほどを残し、夜風に当たろうと外に出た。

そして、何となく夜空を眺めていた時だった。

そんなに離れてない場所で空間がグニャリと歪み一瞬虹色の亀裂が入り、直ぐに元に戻ったのだ。

寝ぼけているのかとも思ったが、今現在リュウキの頭は冴えに冴えわたっている。

何が起こったのかと、空間が歪んでいた場所に向かうと

そこに、見た事も無い衣服を纏った女が横たわっていた。

思わず、その女の所に駆け寄り


「大丈夫か?」


と、声を掛けた。見れば、女はまだ若そうだ。自分と同じくらいの年齢に見える。
見えるが、気になるのは女の髪。真っ白なのだ。髪を染めて白っぽい色にするにしても若ければ髪に艶がある。
この女の髪には、艶がなくゴワゴワで言ってしまえば老人の白毛。

しかも、痩せ細っていて顔色も土気色だ。

首や腕、足首には、妙な紋様の入った5色の高価そうなアクセサリー。

服も、高価そうな四角い布の真ん中に穴が空いていて、そこから頭を通してかぶるポンチョのような服を着ていた。
服の内側を見れば、何やらここにも妙な紋様がビッシリと入っているし、この女性は衣服はそれ以外身につけてはいない。下着さえ身につけてはいないのだ。

こんな高価そうな物を身につけてる割には、何かがおかしいとリュウキは感じた。

どこからか、逃げ出してきたのだろうか?その割に足は汚れてはいない。しかし、風呂に入ってないのだろう。全体的に、垢で薄汚れていて…とてつもなく臭い。あまりの臭さに吐き気が止まらない。

何とか吐き気を抑えながら


「今すぐに、医者を呼ぶから安心しろ。」


リュウキが女性に声を掛けると、女性はそれに反応し目を開いた。その女性の目の色にリュウキはゾッとし驚き声を失った。

その女性の目が死んだ者のように白いのだ。…いや、よくよく見れば本来黒目にあたる部分が微かに金色に見えなくもない。

目の色は、全世界を見ても
青系、緑系、茶色系、しかない。

金色の目なんて聞いた事もないし見た事もない。

しかも、うっすらで分かりづらいが金色の目が虹色で細く縁取られている。

こんな目は見た事がない。

すると、女性は痩せ細った手でリュウキの着物を掴み



「…や、やめて…私の事は……誰にも…言わ…ないで…」


と、声も絶え絶えに、声を出すのもやっとなのだろうか細いしゃがれた声でリュウキに必死に訴えかけた。



「…いや、そんな訳にはいかないだろう。
それに、ここは俺の所有する土地だ。
そこに見ず知らずのお前が不法に侵入してきたんだ。出す所に出したって構わないんだぞ。」



リュウキは、そう言うと



「そう言う訳だ。早急に主治医を連れて来い。それも、内密にだ。」



どこに向かってか、声を掛けた。



「御意!」



すると、どこから男とも女ともとれない声が聞こえた。

そんな様子に女性は絶望を感じたのか涙を流していた。しかし、得体も知れぬ見ず知らずの女をこのままにする訳にもいかない。
ましてや、今に息絶えそうな人を自分の敷地内で放置する事もできるはずもない。
そこで死なれたら、後味も悪いし気持ち悪いだけだ。



「大丈夫だ。今のところは内密に動いてやる。だから、そんなに怯えるな。」



と、恐怖でガタガタと震える女性にそう言ってやった。医者を呼んでから3分も無いうちに隠密に連れられ音も無く主治医は現れた。




「聞いた通りだ。この者を診てやってくれ。」



そう言い、リュウキはその場を離れ主治医に女性を託した。

主治医は、女性を見て酷く驚いていた。



「…こ、こんな事って…!!あり得ないわ。
よく、こんな状態で生きて……」



その様子に、後ろで見ていたリュウキが主治医に問いかけた。



「…どういう事だ?」



「…は、はい、王様。この女性は、病気でも大きな怪我をしているでもありません。
ただただ、衰弱しているだけです。なので、安静にしてゆっくり休めば徐々に体力だけなら回復していくでしょう。…しかし…」



「…しかし、なんだ?」



「…はい。この女性の魔力が尋常で無いほど、何かに奪われているのです。
しかも、魔力を吸われ過ぎたせいか生命力が弱過ぎる。今、こうやって生きている事すら奇跡的なくらいです。
…おそらく、残念ですが体力が回復しても
寿命はそこまで長くは持たないでしょう。」



主治医は、信じられないものを見ているかのように驚き冷や汗まで流している。



「…通常、こんな量の魔力を吸われれば私達一般人は一秒も持たず死んでしまうでしょう。仮にS級の魔法士が居たとしても…一年も持つかどうか…。」



それを聞いてリュウキは何か思いたったのか、女性に近づき女性の身に付けているアクセサリーの一つに手を触れてみた。

すると



「……グゥッ!!?」



幾つもの困難な戦場を潜り抜け今までもたくさんの大怪我をした事もあるリュウキ。
そんなリュウキですら、思わず声を出してしまう程の何とも言われがたい気持ち悪さ。

痛みとかではない。全身、内臓、魂ごと引っ張られ吸い込まれる感じ。例えるなら、絶叫系アトラクションで落下する時の浮遊感を何倍にも凝縮した様な感じと、自分の体力の限界を超えても全力でマラソンを走り続ける感覚に似ていて二つの感覚を混ぜ合わせたような辛さ、気持ち悪さがある。
呼吸すらままならない苦しさだ。


リュウキは、思わず女性の身に付けているアクセサリーから手を離した。



「…ゼェ、ゼェ……!」



リュウキは、肩で息を吸い滝のように汗が流れ落ち、立っていられない程の疲労感で地面に膝をついた。




「…王様!!?」



それを見た主治医と隠密は、慌てたようにリュウキに駆け寄ってきた。



「…ゼェ…ああ、大丈…夫だ。」



リュウキは二人に支えられるようにして地面に座ると、ゼェゼェと息の整わない状態で女性を見た。

リュウキは、土と水、2つの属性魔導を操れる。どちらの属性もレベルBであるが、レベルAに近いほどリュウキは魔導にも優れている。それに、属性を2つ以上操れる者もなかなかいない希少な存在なのだ。

そんな自分が、この女性のアクセサリーの一つに一瞬触れただけでこんな状態になってしまった。


それを、この女性は5つも身に付けているのだ。

女性の計り知れない魔力にゾクリとしたし、ある事にも気がついた。

そして、リュウキは二人に支えられながらヨロヨロと女性に近づき女性の上半身を支えると



「…ゼェ…今まで、さぞ苦しかっただろう。今、楽にしてやるからな。」



そう女性に声を掛けると、女性のアクセサリーの一つに手を掛けた。



「王様!!?何て事を!!!??」



先ほどの一部始終を見ていた主治医は、青ざめ悲鳴の様な声を出しリュウキを止めようとした。

次の瞬間



…カチッ!



リュウキは、女性のアクセサリーの一つを取り外した。取り外しは普通のアクセサリーと変わりなく簡単に外す事ができた。




「…一か八かであったが…。やはり、そうだったか。」



「…どういう事ですか?王様…」



心配そうに見てくる主治医。そんな主治医に対しリュウキは



「このアクセサリーは、どうやら魔力を吸い込む能力があるらしい。
そして、アクセサリーに埋め込まれている色違いの宝石と紋様。
例えば、この緑色の宝石が埋め込まれているアクセサリーだ。」




と、女性の腕についているアクセサリーに手を触れた。しかし、何が起こるわけでもなく呆気なくアクセサリーを外すリュウキ。



「おそらく、色からの想定でこれは“風”の属性だ。だが、俺は風の属性が無い。
だから、力を吸おうにも吸えないのだ。
最初、俺が触れたのは茶色の宝石があるアクセサリーだった。土の属性がある俺は、それに触れた瞬間力を吸い取られていった。」




そこで、主治医と隠密はハッとし女性のアクセサリーをそれぞれで取り外し

女性を城から離れた場所にある、滅多に使っていない別荘へと連れて行った。

ここは一人になりたい時、時々休息の為に使っているリュウキの隠れ場所だ。

たまに使うので、定期的に近くに住む老夫婦に頼み掃除や換気をしてもらっている。もちろん、バイト料は払っている。



女性をベットに寝かせるのを見届けると



「この事は公に出してはならない。くれぐれも内密にな。」




と、リュウキは二人に命じた。




「御意。」


「…はい、分かりました。」




主治医に、女性の着替えをさせ

女性の着ていた服を調べてみる。アクセサリーの事もあったので慎重に。

すると、少し分かった事があった。
この衣服は、強制的に相当な集中力を高めさせられる。
おそらくは、少しの取りこぼしもないように魔力を高めそのエネルギーをアクセサリーに吸わせていたのだろう。


何の為に、何の目的があってそうしているのか分からないが。


全ては、この女性に聞くしかない。


まずは、この女性が喋れるくらいまで回復させなければ。
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