イケメン従者とおぶた姫。
サクラとダリア。
「…そもそもダリアの名前が違う。」


と、面倒臭そうに話すサクラに一同は驚くしかない。
ダリアという名前を導き出すのに相当苦労したし、どの書物の記述にもそんな名前など存在しないのだから。それを何故、このサクラという少年が知っているというのか。


「ダリアの本当の名前は俺も知らない。知っているのはダリアとダリアの“天(てん)”のみ。
その名前は天のみ呼ぶ事が許される名前でもある。」


何故、そんな事まで知っている?一同は、ますます食い入る様にサクラの話に耳を傾ける。
こちらから質問したい気持ちはあるが、こっちから声を掛けただけで話さなくなりそうな危うさがサクラにはあった。

それをシープとシープの従者は身を持って知っている。


「それに、元々ダリアの本来の目の色は紫色だった。髪の色だって根本の黒色から毛先に向かって黒から紫色に変わってくるグラデーションカラーだった。“俺達にとっての赤は、裏切りの赤。”」


本当に驚く。この事はかつてのダリアの愛人達ですら知らない事かもしれない。
しかし、裏切りの赤とは一体なんなんだ?
何故、ダリアの目と髪は紫から赤へと変化したのだろうか。


「別にあのクズが、復活しようがしまいが俺にはどうだっていい。だが、あのクズがショウ様に関わってこようとする限り、そのまま永遠とそこから出てこなきゃいいと思ってる。
…いや、滅んでしまえばいいと思ってる。」


ダリアの事を語るサクラからは恐ろしいくらいの憎悪を感じ、フウライ達は全身ゾッとしてしまうほどだった。


「だが、俺があのクズについて話せるのはこれくらいだ。俺の記憶は所々欠けてる。
ただ、強く心が覚えてる事は俺にとってダリアはこの世で一番に憎むべき存在だって事だ。」


その恐ろしい程までの剣幕にシラユキやベス帝王達は声を失ってしまった。そんな中


「ほう?何故、そこまでしてダリアはショウに関わろうとしているんだ?」


リュウキは平然とサクラに質問を投げかけていた。流石、王でありながらも先陣を切って幾多に渡り戦をくぐり抜けてきただけの事はあるとシラユキとベス帝王は瞠目した。

「…それは…」

その質問に関しては、サクラは知っていても答えたくない様だった。言葉に詰まり少し目線を逸らしてしまっている。その様子にシラユキは


「もしかしてだけど。ショウ姫がダリアの“天”。ダリアはショウ姫の“剣”。それが関係しているのかしら?」


自分が知っている物語の一部を抜粋してサクラに聞いてみた。すると、サクラの目は驚きで大きく見開かれ動揺しているのか少し目が泳いでいる。

どうやらビンゴのようだ。


「…そんな情報まであるのか。」


驚き、思わず声に出していたサクラ。その小さな呟きに対し


「“天を守る為の剣”だが、優秀な剣に与えられたのは“無能な天”だった。
こんなに優秀な自分が、何故こんな無能な天を守らなければならないのか。ダリアは、天を捨てた。捨てたけど、天を守るように“創られた”ダリアはその定めから逃れる事ができず、どう足掻いても天の元に戻ってしまう。」


シラユキが、そう話すと

サクラは…ハン!と、ここに居ない誰かを嘲笑うかのように短く笑った。


「それは随分、話が捻じ曲がってるな。
ダリアが天を守る剣だったってのは真実だ。
だが、天を守るように創られたってのは偽情報だ。」


サクラは、そう言った。


「そもそもだ。ダリア自身、何を勘違いしてるのかおかしな事をほざいて“自ら剣の能力を捨てた”くらいだ。それが語り継ぎとなれば、どう真実が捻じ曲がって伝わってもおかしくない。」


「…ダリアが何を勘違いしているというんだ?」


驚きのあまりシープは思わず自分が思った事を口に出してしまっていた。


「さあな。ただ、ダリアが何かを勘違いしなければ天を蔑ろにし、自ら剣の能力を捨てるなんて愚かな行為はしないはずだ。おかげで俺はいい事もあったけどな。」


サクラは悪い笑みを浮かべてながらクツクツ笑ってる。まるでヴィランのようだ…

…いや、それよりも…


「…サクラ。お前は、まるでダリアと会って話をした事がある言い方だな?お前はダリアの何なんだ?
…まさか、お前もダリアの愛人とか言わないよな?」


リュウキは大事な質問をしつつ、嫌味ったらしい余計な一言まで付け加えサクラに聞いた。そのリュウキの余計な一言と憎ったらしい顔に、サクラはとんでもない侮辱を受けたとばかりに


「ふざけ過ぎるのも大概にしろっ!!!
このクソヤローッ!!本当に信じられないッ!
言っていい事と悪い事の分別もつかないのか!!このキチガイヤローーーッッ!!!
この俺が…ショウ様一筋の俺が、あんな…あんな汚物ヤローの愛人な訳ないッッッ!!!
…最悪だ。ありえない…ありえない…!!!
その言葉、撤回しろ!今直ぐにだ!!」


もの凄い形相であり得ないと声を荒げると、見る見る顔は青ざめ肌にブツブツと鳥肌が立っていた。
拒絶反応が出るほどダリアを嫌悪している事が判明したところで


「では、何故“ダリアが何かを勘違いし天を蔑ろにした。”“剣の能力を捨てた”と、分かる?お前とダリアは一体どんな関係性だったんだ?」


と、サクラを煽りに煽っているリュウキは、冷静に質問を続けた。


「…は?ダリアとの関係性だと…?
そんなの!“ただの他人”だ。」


サクラの発言には矛盾が生じる。
ただの他人が何故、ここまでダリアの事を知っているのか。サクラを煽って怒りに任せて色々吐かせるつもりが…

まさか絶対にあり得ないだろと口から出まかせを言ったつもりが…まさかの???と、リュウキは少しヒヤ…とした。
そんなダリアの元愛人とうちの愛娘が後々に結婚とか絶対に嫌だぞ…なんて一瞬のうちに嫌なシチュエーションをバリエーション豊富に様々考えてしまった。


「あのクズは、俺が欲しくて欲しくてたまらないものを最初から当たり前のように持っていた。何もかも…全て。
俺はそれが羨ましくて、遠くからずっとずっと見ていた。

だが、ダリアはそれを捨てようとしていた。

だから俺はダリアに言った。
『要らないんだったら、それを俺にくれないか。』と。

そしたら、あのクズは言った。
『こんなガラクタが欲しいのか?お前、毎日毎日飽きもせず羨ましそうに見てたもんなぁ?
丁度良かった。たった今、あの無能を捨てて来た所だ。だから、こんな無能な能力も要らない。喜べ、くれてやる。こんな何の役にもたたねーガラクタをな!』と、俺を見下すように嘲笑って、俺に“剣の能力”を渡してきた。

俺がダリアと会ったのも話したのもこれが初めてだった。」


最初から話してもらわなくては、よく分からない部分も多いが。つまりは、ダリアとサクラは何の関わりもない赤の他人。

だが、ダリアが持っていてサクラが持ってない“それ”をサクラは羨ましくて遠くから眺めて羨んでいた。
だが“それ”はダリアにとって邪魔で仕方がないもの。それを捨てたダリアは、羨ましそうに見ている事しかできなかったサクラに“それに関わる能力”をサクラにあげた。

そんな感じだろう。

あまり人と話したがらないサクラは、必要最小限にしか話さないので、リュウキは、あえてサクラを挑発し言葉が少ないサクラからより多くの情報を引き出そうと試みてはいるのだが。

どうも、サクラの話を聞いている限り現代の話ではなさそうに思う。

もしかしたら、いや、前々から薄々は感じていた事だが、サクラは前世の記憶を持っているとしか考えられない。

時折、サクラの話は今と前世をごちゃ混ぜにして話している節があった。
まさか前世の記憶とごちゃ混ぜにして話してるとも想像が付かなかった頃のリュウキは、サクラの話は理解しがたく首を傾げる事が多かった。

現に、サクラの話を聞いている者のほとんどは、ぶっ飛んだサクラの話についていけていない。


「…サクラ、それは“いつの話”だ?今ではないな?前世の記憶か?」


リュウキは、自分の考えを口に出し聞いてみた。すると、サクラは


「いや。前世の前。前々世の記憶の話だ。」


と、言ってきたのだ。
それには、みんな、サクラの現実離れした話に耳を疑いサクラの顔を凝視した。


「お前らがいう、“醜女と絶美の物語”については、“前世”それに似た出来事を見た事があるってだけだ。」


つまり、サクラは二度転生し、前世と前々世の記憶を持って現代に生まれてきたという事になる。前世というものが存在するとう事実に驚くと同時に記憶を持って生まれたというサクラにも驚く。

何より、直接ではないにしろ、何かかしらでダリアと関わり知り得る所にたまたまサクラが居たというのは驚きである。


チグハグで聞いても分からない事だらけだったサクラの話は、リュウキの巧みな話術、そしてサクラの性格を把握してる者にしかできないであろう緻密な誘導により徐々にではあるが内容が見えてきた。

何より、話の内容や話す相手の状態などを見て、様々な要素から僅かに見え隠れする答えを想定し導き出すリュウキの柔軟な考えや推測力、鋭さには、一同は感服するしかなかった。

フウライは、こんないい勉強の時間はないとリュウキの巧みな話術と推察力などを盗み取ろうと熱心に見聞きしている。
話についていけてないハナは、そんな勉強熱心なフウライの姿に内心(自分の旦那ながら、かっこよすぎて困るなぁ〜。こんな凄いのが自分の男だなんて信じられないよ…全く…)なんて、よく分からない話そっちのけでフウライにポケ〜…っと見惚れていた。


「ショウ様と俺は、今でニ度目の転生になる。
あのクズは何度転生したんだろうな?何度かあのクズは記憶を消されて異世界に飛ばされ、こっちの世界に戻ってこれないようにしたんだが。
どうやって記憶を取り戻したのか分からないが、どういう訳か奴はしつこくこっちの世界に戻って来た。
そして、これが最後だと与えたチャンスをヤツは棒に振って今に至る。以上だ。」


もう、これ以上話す事はないと、サクラは矢継ぎ早に話をし話を強制終了させようとしていた。サクラにとってダリアが関係する話は、耳にもしたくないし話したくもない事なのだろう。

何より、とても面倒くさそうである。もう、ウンザリといった顔をしている。


「これ以上、お前達の下らない話に付き合ってられない。そろそろ、ショウ様の元に戻らなければならない。」


と、サクラは席を立った。


「いや、待て待て!!まだ、話は全然終わってないだろう!?」

「いやいや、これで終わりはないだろ!?」

「まだ、何か知っている事があるだろ。教えてくれないか。」


ベス帝王やシープ、シープの従者は焦り、サクラを引き止めるがサクラは、それを無視し部屋を出て行こうとしている。


「…サクラ。お前にとっても、今話しておいた方がプラスになる可能性は高いぞ。ショウの為にも。」


そう話したリュウキの言葉に、サクラはピタリと動きを止め


「…ショウ様の為だと?」


と、後ろを向いたまま答えてきた。


「ああ、ショウの為だ。
お前に言ったはずだ。あのダリアという男がいつショウの前に現れてもおかしくないと。
もしかしたら、お前が知ってる事を知る事でダリアについて何かかしら対処ができる可能性ある。
現に、お前の話の中に、ダリアは生まれ変わっても異世界に飛ばされてもショウの前に現れるといった事を話しただろ?」


そう説得され、思う所のあるサクラはこう言った。


「前々世、俺は……神獣(しんじゅう)と呼ばれる獣だった。」


……!!?


突然、話してきた内容に一同は驚く。
神獣…???もはや、人間がどうのって話じゃない。

一同は、ぶっ飛んだサクラの話に困惑し、これは本当に前々世の話なのか?サクラの妄想じゃないのか?と、更に疑い始めていた。

あまりに現実味がない、このサクラという男は頭は大丈夫なのだろうかと。


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