イケメン従者とおぶた姫。
〜その日の夜〜


「何故ですか、ショウ様!?…どうして、そんな事…」


と、いうサクラの悲痛な叫びが部屋中に響いた。何事かと、ヨウコウ達は興味津々である。

おそらく、王の命令によりやも得ない事情でショウの事をサクラが甘やかしてくれるから、
何か勘違いしたショウが、女王様にでもなったつもりで調子に乗った事でも言ったのだろうと予測できた。

恥ずかしくも痛々しいやつだなと、ヨウコウ達はアチャ〜、アイタタタァ〜…と、心の中で笑っていた。

これで、サクラがショウに愛想を尽かし離れてくれたら自分に目を向けてもらえるのではないかと、ヨウコウやミミ、ゴウラン、ミオは淡い期待をしていたのはゆうまでもない。

そんな中、ヨウコウの頭の中では
サクラがショウに対し、愛想が尽きた所で自分がカッコよく登場しサクラに救いの手を差し伸べてやる算段だ。
なので、しばらく様子を見て頃合いを図ろうと考えていた。

さてさて、ショウはどんなキチガイな事を言ってサクラを困らせているのだろう。
ソワソワしながら、ヨウコウ達は遠くからチラチラとショウ達の様子を窺っていた。


ヨウコウとミミは、だいたい同じ様な事を考えニマニマし、ミオもまたショウが悪いと全面的に決めつけ軽蔑し呆れていた。

そんな中、

ゴウランは、ついさっきシープがミオに対し発した言葉が引っかかっていた。

“何様のつもりだ。よく考えれば分かるものも、自分の都合の良いように解釈し、現実を受け入れようとしない。”
そんな感じの事を言っていた。

つまり、現実逃避している。視野が狭いという事だろうか?

もっと、周りを見て柔軟に物事を考えなければ、見えるものも見えなくなる。
そう言っているように感じ、なんだか自分も気にしないといけない気がして少し周りの様子を見てみる事にした。

ヨウコウとミミは、…ニヤニヤが抑えられない様子。
なんだか、悪巧みでも考えてそうな雰囲気だ。中身も何となくだが分かる。おそらく、少し前の自分だったら同じ事を考え実行していたと思うから。

ミオを見れば、ショウに対し呆れた眼差しを送っている。ショウが、とんでもない我が儘を言ってサクラを困らせていると決めつけているっぽい。
そこは、ヨウコウやミミと考えが同じらしい。…自分だって、そう思ってる。そうとしか考えられない。


次にオブシディアンに目を向けると、オブシディアンは少し驚いている様子だ。何故、驚いているのだろう?

続いてシープに目線を移すと、シラけた顔をしサクラを見ている。

ヨウコウやミミ、ミオ…俺。オブシディアン、シープの大きく分けて二つ。考えや見てる観点が全然違うように思う。

…何故だ?

よくよく考えてみれば、オブシディアンはショウやサクラと深く関わっていて二人の性格などもしっかり把握しているだろう。
なんだか、シープもショウやサクラの事をよく知っている様に感じる。

自分達もショウと旅をしていたが、ショウの事は……気にかけ見た事はなかったので、彼女の本当の姿や気持ちなんて考えた事はないから分からない。

と、なれば、オブシディアンとシープの反応が正しい可能性が高い。

そこまで見て、ショウとサクラに目を向けた。

サクラが酷くショックを受けている原因を探る為、ショウ達の会話に耳を澄ませて聞いてみる。


「…ショウ様、どうして…」

ベットに座るショウの前で、床に膝をつきショウの手を両手で包み許しを乞うように見上げるサクラ。

ここだけ見れば、サクラはショウに何か非道な命令をされ、それはできないと許してほしいと必死に訴えかけている様にしか見えず、一見すればショウが悪者にしか見えない。

圧倒的、悪者のショウだ。

側から見ると、サクラのこの必死に懇願する様子は可哀想で見ていられなく心が痛む。

しかし…

ゴウランは、しっかり話の内容を聞きよくよく様子を窺っていておかしな事に気づいた。


「…どうしてですか、ショウ様。もう、私など必要なくなったという事ですか?」

サクラは必死になって、ショウに訴えかける。その様子にショウは困った表情を浮かべ


「…あのね、サクラ。私にとってサクラは、とってもとっても大切な人だよ?サクラはとっても大好きだよ?」

「…なら、何故!!?」


「…えっと、旅の間だけでも自分でできる事は自分でやってみたいって思ったの。ご飯も歯磨きも着替えとかお風呂も!歩くのも、自分の足で歩いてみたい。」

「…そ、そんな…!」

ショウのお願いに、絶望的な顔をするサクラ。それをどうしたらいいものかと困ったように見るショウ。


「…どうしてもと仰るのですか?」

「うん!やってみたい!」


「今まで旅の中で十分過ぎる程、辛い思いをしてきましたよね?なのに、何故自分から苦しい道を選ばれるのですか?…納得できません。」

「…うまく言えないんだけど。このままじゃダメな気がするの。いっぱい失敗すると思うけど頑張ってみたいの!…お願い、サクラ。」


ショウは、頑固なサクラを説得するのに必死だ。だが、勉強不足と頭の悪さが邪魔し語彙力も無さ過ぎて、全然中身が伝わってこない。
…必死だという事だけは分かるが。

そんな必死の説得に、サクラは何かを耐えるようにギュッと口を結びショウを見る。
けれど、ショウの決意は固いらしく考えを変える様子はない。それを察したサクラは絶望感溢れる顔を下に俯かせると


「……大変な思いをするのはショウ様なんですからね?分かっていますか?」

「う、うん。」


「……分かりました。ショウ様がそこまで仰るのであれば、これ以上は言いません。」

ショウの頼み事には弱いのだろう。もの凄く嫌そうではあるが渋々サクラは頷いたようだった。

了承を得たショウは、パァァ…と嬉しそうな顔をし


「サクラッ!ありがと!だ〜い好きッ!!」

と、サクラに抱き付いた。

こんな事をされると…男は弱い。
あんなに苦渋の判断をし落ち込んでいたのだが、今は嬉しくて堪らない。どんどん気持ちが上がっていくのを感じる。サクラは自分の心はなんて現金なんだと苦笑いするしかない。

サクラは喜びをいっぱいに表現するショウの体を抱き返し


「…ただし、もうダメだと思ったら言って下さい。厳しい事を言うようですが、この旅はショウ様一人の旅ではないのです。ショウ様の我が儘でチームを乱す可能性もあるのです。

なので、チームに大きな迷惑が掛かりそうだと私が判断した時は、強制的に手伝わせていただきます。それでも宜しいのでしたら頑張ってみて下さい。」

「……!?ありがと、サクラ!」


「……もう一つ。」

「…?」


「寝る時は一緒に寝てもいいですか?…私が耐えられません。」

と、サクラは寂しそうにショウにお願いした。


「うん!もちろん!」

ショウは当たり前のように快諾し、それにサクラはホッとし、そして少し複雑そうな表情を浮かべると離したくないとばかりにショウの体にしがみ付いた。


この様子を見ていて、ゴウランはショウとサクラを見る目が変わった。

最初は自分の独断と偏見、ヨウコウ達の話などから

サクラとオブシディアンは王様の命令で、無理矢理ショウの世話役にさせられたと思った。
ショウのあまりの底辺っぷりに見兼ねての事。
足手まといで邪魔でしかない者をフォローをするには相当な優秀者を付けなければならなかった。

しかも、一人では足りなく二人付けなければならない程にショウはダメな人間だ。

それでも、まだショウは旅の邪魔でしかなく致し方なく急遽シープも加わる事となった。

そう決めつけ勝手な解釈をしていた。


だが、ゴウランは旅を続けているうちに色んな出来事があった。

ミオの指摘から始まり、お喋りな商工兵からボロクソに批判された事。

そこから少しづつではあるが色々と考える事が多くなった。

そこに今回のシープの単刀直入な言葉で、思い当たる事がありもっと自分を見つめ直さなければならないと感じたのだ。

そこで、ショウとサクラについて客観的に見て感じた事。


ショウとサクラは、旧知の間柄なのではないかと思った。

サクラは、ショウの世話にあまりにも慣れ過ぎている。あんなにスムーズにこなすには相当な年月を共にし相手の事を知り尽くしてなければできない事だと思う。

ヨウコウの“遊び相手(お友達役)”としての自分の経験からそう感じた。

それに、サクラはそれを面倒だとか嫌だと思っていない。むしろ、自分から率先して好き好んで世話をしている。それを喜び、やりがいを感じているように見える。


しかし、ここまで考えて思う事がある。

サクラのショウの世話の手練れっぷりを見ても、二人の間から流れる自然な雰囲気。そうとしか思えない。

おそらく、ショウとサクラは昔も今も変わらない関係なのではないか?

思い出して見れば、シープも言っていた。
“二人の関係性もサクラの正体も見たまんまだ。それ以外、答えようがない。”
それって、つまりそういう事だろう。

そして、オブシディアンについてもそうだ。
オブシディアンもショウとサクラを昔から知っている様に感じる。

…シープに関しては…

思い出せ!今までで何か、ヒントがあったはず…

そう思った所で、昨日の騎士団長の

“シープはオブシディアンのお手伝いさん”

という言葉を思い出した。

オブシディアンは、何処かの地位の高い武人でシープはそこの使用人だった。…いや、仕事に使用人を連れて来るか?…なんか、しっくりこないな。それは何だか違う気がする。

…ちょっとシープについては謎だが、何か深い理由があるはず。


きっと、ショウがこのチームに選ばれた理由も深い理由がある。

そうなれば、必然的に考えられるのはショウは相当身分が高いのではないかという事だ。


…ドクン…


…あれ?

なんか、妙にしっくりくる。
今までを思い返してみれば分かる事だったんじゃないのか?

ショウが食事や入浴など全くできなかったのも、サクラの熱心な世話っぷりを考えれば納得だ。

サクラが、今の今までショウの何から何まで世話をしてたなら、ショウが日常生活のあれこれを満足にできなくて当然。当たり前の事だ。

何故、ショウに対して団長クラスの実力者が二人もつけられているのか。普通に考えて、それだけショウが特別な存在だから???
これについては、ショウ如きがという自分優位でショウを蔑む気持ちが大きくてなかなか受け入れられないし考えたくはないのが本音だ。

しかし、色々考えている内に何となくだが、そんな考えもうっすら思い浮かぶようになってきたのだ。

では、どうしてショウはこの旅に参加したのか。

…思い出せ…

旅に出る前、ショウが旅に参加する理由。
ショウ本人の希望ではなかった気がする。

なら、なぜ…あ…父親…。そうだ!ショウの父親だ!!甘え過ぎてるショウに世間を勉強させたいという“父親の希望”だったはずだ。

本来、こんなふざけた理由で未来の国を掛けた大事な旅の選考に通る訳がない。単純に考えて、ショウの父親はそれをやってのけられるだけの力を持っているって事になる。

そんな力を持ってる権力者なんて限られてるはずだ。

まして、今回のように国や王が大きく関わっている事には将官である自分の父親だって、そんな無茶苦茶な事はできない。

そんな無茶苦茶が通るのは、王様くらいしかいないだろう。

…え???


…ドックン!!


…は?

いや、本当にちょっと待て…。そうなってくると…いや、まさかな…

…って、あれ?

そういえば、ビーストキングでショウを置いて自分達だけで前に進んだ事があったな。
その時、何故か王様が俺達の前に現れて…あの時は本当に恐ろしい目にあった。

あの時の王様は、憔悴しきって情緒不安定だった。
何より狂気の沙汰で、恐ろしい悪魔か大魔王のように見えた。狂ってしまったとしか思えなかったし…あの時の事は恐ろし過ぎてもう思い出したくもない。

だから、あの時の出来事はトラウマで、なかった事にして蓋をしていた。それはヨウコウ達も同じだろう。あの時の事は一切触れようともしないし避けている。

だが、そこで王様は俺達になんて言った?
“何で、お前達だけが生き残っているんだ”
“俺のーーーを返せ”
“あれは誰よりも弱い存在なんだ”
そんな事を言ってなかったか?

それは丁度、ショウが不在の時ではなかったか?

もし、その時ショウの身に何かかしら危険に晒されてたとしたら?

その時の俺達は、自分の事ばかり考えていて虫ケラ以下でしかないショウの事なんて何一つ考えなかったし考える必要などないと思っていた。

だから、その時ショウに何があったのか知らないし、知ろうともしなかった。あんなゴミ同然の命と思いどうでもよく考えていたから。

尊いのは自分と、自分より地位が上の人か自分が好む相手だけ。
あとの人間は、下等な奴らで何もかもが乏しく卑しい存在だと考えていた。だから、対等な立場とは全く思えなかったし、同じ人間だとも思ってなかったように思う。

だが…それにしたってだ。

だからといって、足手まといだと
自分達より劣ってると感じる相手を置き去りにするのは違う。

国や王はもちろんの事、民を守りたいと軍人や武人の心得を学び、魔法や武術の訓練を受けている自分達ですら、ビーストキングダムの自然災害や魔獣の多さにみんなで助け合いながらでも命からがら苦労した。

…なら、なおさらだ…

あの時の自然災害、妖魔達だらけの所に、何の力もない一般市民の子供が一人放置されて何もないはずがないんだ!

少し考えただけで分かるような事だったじゃないか!!!いや、考えなくても分かる…


…ドクン…


それを俺達は…


…ドクン…


今更だけど、俺達はなんて恐ろしい事をしたんだ。これが、まともな人間のする事なのか?これで、将来国や民を守る軍人になると?

ゴウランは、色々と考えているうちに今までの自分の行いを思い出し、客観的に自分を見つめる事ができるようになった今、罪悪感から心の中心から冷たくなっていくのを感じた。

そんな恐ろしい真似をしていたにも関わらず、自分の都合の良いようにばかり考え自分こそが正義だ。自分は選ばれし者だ、なんて、心のどこかで思ってなければできない事をしていた。
…なんて、傲慢で恐ろしい事ができていたんだと震えが止まらない。

みんなにいい人だと立派だと思われたくて、表面は正義を振りかざし立派ないい事ばかり並べて話をしていた。
結局、蓋を開けてみれば嘘偽りだらけの中身のない空っぽの正義感や優しさであり、下衆の極みでしかない。

…ダメだ。

本当はその事に向き合わなければならないし、もっと考えなければいけないのは分かっているが…耐えられない。今は、少し蓋をしておかなければ、罪悪感からおかしくなってしまいそうだ。

向き合うには、もう少しだけ時間がほしい。


と、後悔と懺悔については一旦、少しの間だけ保留にして置いて。

ショウについて考える。


もし、ビーストキングダムでショウの身に何かありショウが生死の境を彷徨っていたとしたら?そう仮定してみて、あの時の自分達の状況を考える。

そう考えると、そうとしか考えられなくなる。


…ドックン…


そうなると、あの時の王様の状態やあの言葉の意味が分かってしまう。

あくまで、仮定だが…

だが、あまりにも…


そう思った所で、ゴウランは


…ま、まさか、ショウは…


ドクン、ドクン…


いやいや!王様は自分の子供を赤の他人と言い切る人だぞ?さすがに、それはないか…


と、ゴウランがグルグル考えていると


『…何がキッカケかは分からないが。
まさか、あなたがそこまで考えられる人だとは思わなかった。そんな、あなたに少しだけ教えよう。

多分、今考えてる事で合っていると思う。』


オブシディアンの声がし、思わずそこを見るとほんの一瞬だけオブシディアンと目が合った気がした。

ゴウランは混乱した。

オブシディアンは声がない代わりに、頭に直接話しかける術を身につけたと言っていた気がするが。何故、俺の考えている事が分かったんだ?

たまたま、何かのタイミングとぶつかったか?

もし、俺の考えている事が分かって話しかけてきたとしてだ。

もし本当にそうだとしたら何故、王宮でショウの名前を聞いた事がなかったんだ?
それに、王様の子供は既に28人いるのに、そこにショウが入ったら29になってしまう。そんな話聞いた事ないぞ。おかしくないか?

…やっぱり、この仮定はキツイものがあるな。違うな。

だが、やっぱり、どう考えてもショウの身分が高い事には違いない気がするけど。


と、ゴウランの考えは至りまとまったようだ。

そこに、またしても


『…惜しいな、残念。』


ゴウランの脳内にオブシディアンの声が響き


…ビクゥッ!?


「…オワッ!!?」

思わず声を出し、ビックリするゴウランだった。


『…惜しいから、もう少しだけヒントを与えよう。噂やそこにあるものだけが真実ではない。何かかしらの理由で隠された真実というものもある。』

と、言うオブシディアンに驚き、ゴウランは再度オブシディアンを見るがオブシディアンは全くこちらを向く事はなく、シープとあれこれ話している様だった。


…ドクン、ドクン…
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