イケメン従者とおぶた姫。
ショウ達が宿泊している宿は、大型宿で大人数で泊まれる他リーズナブルなので旅人に大人気の宿である。
その為、食堂や大浴場、売店、フロントなどで、いくらか見知った顔触れがいた。
ソウチーム、コウチームに、レッカチーム。
他にも噂で見知っている姫、王族もいる。
そんな中、白金髪にユニコーンカラーを入れたボン・キュッ・ボンのスレンダーボディーの派手な美女が、三人のイケメンとイチャイチャしながら宿に入ってきた。
気分転換にたまたま、フロント近くのロビーで一人休んでいたゴウランはそれを見てギョッとした。
その派手な美女には見覚えがある。
この美女は、確か…第24姫の彩雲(さいうん)。真っ白な肌に、目は外側がブルー内側がグリーンのグラデーションカラーのヘーゼル。
目はぱっちり大きく、鼻は小ぶり。唇は小さいのにぷっくり柔らかそう。
清楚で可憐な顔に反して、体は出る所は出る、引っ込む所は引っ込んでいる欲情を誘う魅惑的なスレンダーボディー。
確か、ヨウコウと同じ年だと思った。
誕生日までは知らないが、そうなると今は14才か15才な筈だ。
王子、姫達はみんな母親違いなので、同い年も多く存在する。
しかし、チームの人数が多い自分が言うのもなんだが…なんだ、この人数の多さは…。
しかも、サイウン姫の左右、すぐ後ろとイケメンが恋人のように寄り添っている。
その後ろを更に八人のイケメンが着いてきていて、距離を置いて三人がその後に続いて歩いている。
…まさかだが、11人のイケメンが姫の恋人って事はないよな?
なんて驚いて見ていたが、信じられないがどうやら、そのまさからしい。
サイウンが少し頭を傾けただけで近くにいたイケメンが吸い付く様なキスをし
サイウンがイケメンの手をいやらしく自分の胸元に導けばイケメンはサイウンの胸を捏ね
後ろのイケメンはサイウンの後ろから抱きしめサイウンの短いスカートのスリットに手を入れ弄ってる。
サイウンもイケメンの股をいやらしい手つきで捏ね回している。
…ドキドキ…
なんて羨まし…いやっ、卑猥集団なんだ!
しかも、交わす言葉もエロい事しか言ってない。今夜の相手は誰にしようか、何人でするか…なんて羨ま…乱れてるんだ。
…ドキドキ…
本当に14才かよって、ゴウランはお股を元気し、けしからんと思いつつドキドキしていた。体は欲望に忠実にできているのだ。
卑猥集団の後ろにいる三人は、とても沈んだ雰囲気だ。
とても、同じチームとは思えない。
この三人がサイウンと同じチームだと思ったのは、ゴウランがサイウンが姫だと知っていた事と自分達と同じ目的で旅をしている事。
旅には、王族の他に、護衛、一般人、一般人を守る為の用心棒の三名がいる筈だから。
三名を見れば、ボーズ頭の厳つい男と、何とも平凡な容姿の女性が二人。みんな薄汚れていて顔色も悪い。
サイウンとイケメン達だけは、元気ハツラツ健康的で全身ブランド物だらけだ。
そして、サイウンは後ろをチラリと見ると
「…ゲロ最悪なんだけど!あんた達みたいなブスで下等な奴らと旅するとかキモすぎてあり得ない!同じ仲間なんて思われたくないから、もっと離れて歩いてよね。」
清楚で清純そうな顔から想像もつかない、どギツイ言葉が後ろの三人を襲う。
その言葉に、厳つい男は目線を下げグッと耐え、一人の女性は顔面蒼白で震えている。それをもう一人の女性が慰めながらも悔しさを我慢しているのだろう…空いてる片方の手をグッと握りフルフルと怒りで震えている。
そんな三人の様子を目敏く見ていたサイウンは、イケメン達を押しのけ三人の前に立つと
「テメー、存在自体がキモすぎんだよっ!」
バチンッ!!!
厳つい男の顔面を高級バックで殴り付け、次に平凡な女性に向かって
「…なに?その顔、ムカつくんだけど。被害者面してさぁ。あんた達みたいな身分も卑しければ容姿も不細工な連中は生きる価値なんてないのよ。
あんた達と同じ空気吸ってるって思うだけで気分悪くなるったら!」
と、厳つい男を殴りつけたバックで女性を殴りつけようとしていた。それを、もう一人の女性がサイウンの腕を掴み止め
「この子は、一般市民です。どうか、手をあげるのはやめて下さい。」
そう言って、サイウンを睨み付けた。様子を見る限り恐らく、この女性は一般人を守る為の用心棒だろう。
「マジで、おまえ何?ゲロむかつく。ブスのくせに調子乗ってんじゃねーよ!!
お前のお望み通り、ソイツを助けてやるけどさぁ。分かってるよね?」
サイウンは有無は言わせないと不機嫌に声を出し、イケメン達にも合図し、よって集って用心棒の女性を暴行し始めた。
一般人女性はヒィ…と声にならない声を出すと腰を抜かし、消去法で護衛であろう男はその場に突っ立ったまま、ただただ下を俯いているばかりだった。
宿のフロア係や従業員達も、止めたいがとばっちりが怖くて動けない。
どうしようもない状況に警察を呼ぼうと動いていたが相手が他国の姫だという事でなす術がなく、商工王国とは身分や容姿で差別し人を人と思わない下劣な人間だらけの恐ろしい所なんだとヒソヒソ話しているのが聞こえた。
同じ人間として許せないという宿泊客の声も聞こえる。
なのに、権力や力により何もできない自分達が悔しくてしょうがない様だった。
サイウンのこの軽率な行いのせいで、自分達の国の品位がガッタリと下がっていく事を彼女は分かっているのだろうか?
「ああ、そうだった。お前達は素泊まりだから食事がないんだっけ?」
そう言ってサイウンは、イケメンの一人に合図すると、そのイケメンは三人の前で食べかけのお菓子を見せてから、バサバサとお菓子の中身を全て床に出し空の袋を三人に投げつけた。
「喜びなさい。お前達の食事だよ。
ヒャハハ!私って、優しすぎなぁ〜い?」
サイウンは、高笑いしながら11人のイケメン達とこの宿でいいお値段のする部屋に向かって歩き出した。イケメン達もサイウンと一緒になって三人を嘲笑っている。
サイウン達が居なくなると、女性二人は床に散らばった菓子を拾い集めた。一般人の女性なんて声を出して泣いている。
護衛の男はひたすらに「…クソッ!クソッ!!」と、悔しさを声に出し俯いている。
その内、三人は一番格安の部屋へと入って行った。
…とんでもないものを見てしまったと、ゴウランは胸糞な気持ちだった。あんな苛酷で非道極まりない事を平気でするなんてと。
だが、止めに入らなかった。…いや、止めようにも体が動かなかったのだ。
彼女達が怖いからとか、勇気がないとか、そういう事ではない。
…ダブって見えたのだ…
あの虐げられている三人とショウが…
悪事を行うサイウンと自分達が…
肉体的な暴力は無かったものの、自分達はアレに近い悍ましい事を平気で行っていたのだ。
自分達は、それを正当化し王様か神様になったつもりで底辺な奴には制裁を与えて当たり前だ。自分達と同じく、生きようとするなんて烏滸がましいにも程がある。自分達とお前じゃ何もかもが違い過ぎるんだよ!とまで、心のどこかで思っていた。
自分もそんな事をしていたと思ったら…体が固まりピクリとも動かなかったのだ。
そんな俺には、あの人達を助ける資格なんてないと思ってしまった。
ドッドッドッ…
全身が凍りつくような感覚に苛まれ、嫌な心臓音だけが身体中に響き渡る。
サイウン達の行動を見た事で、その行為がいかに愚かで恐ろしい事なのかまざまざと見せられた気分になった。
いまさら後悔した所で、過去に戻ってやり直す事なんてできない。そんな事ができたなら、お前は何様なんだと言って過去の自分をブン殴って排除してやりたい。
そんな事を考えていたら、ヨウコウ達やショウの顔を見るのが何だか怖くて部屋に戻る気が失せた。
しばらく、ここに居て落ち着いてから戻ろう。
そう考え、気晴らしにアプリ携帯で溜まりに溜まっていた学校の課題をこなしていた。そうでもしなければ、自分が辛すぎて壊れてしまいそうだったから。
ちょうど良かった。サボり過ぎて課題が溜まっていた。と、自分に言い聞かせ課題に集中した。
どれほど時間が経っただろう。
ゴウランが一息つこうと顔を上げた時、ロビーには自分以外の人間は居なかった。
一休みをしようと自販機でコーヒーを買い、何となくロビーの窓を開け外を眺めていた。
今日は星が無いが月明かりが強いな、なんて思いながら。
すると、何やら人の声が聞こえた気がした。
声のする方を探し見ると、宿の外で人影があり凝らして見ればミミの今彼氏のレッカだった。
ミミとイチャイチャしてんのかなとか考えたが、レッカの他には誰もいない様子。
でも、人の声はするよな?と、不思議に思い耳を研ぎ澄ませ聞き耳を立ててみる。
すると
「…本当だって。浮気なんかしてねーって。
信用しろって。」
なんて、必死に説明してるレッカの声が聞こえた。
…ん?浮気??
ミミとでも電話してるのか?
いや、同じ宿に居るんだし会えばいいだろ。
なんて、考えていると
「俺にはお前と、子供がいるんだぜ?お腹にも子供がいるのに家族を裏切る訳ないだろ?
それに、過酷な旅だし浮気する暇なんてないって!愛してるのは、お前だけだよ。本当だって!」
…は?子供?家族?
レッカって、結婚してたのかよ!?
マジかぁ〜
「…ああ、お前もな。生まれてくる子供の為にも体、大事にしろよ?
じゃあな。マジで忙しいから、滅多に連絡できないけど大丈夫だからさ。浮気なんて絶対ないから安心しろって。」
えぇ〜〜…
子供ってさぁ〜、おいおい…
しかも、お腹に子供いるって…えぇ〜…
絶対浮気しないとか…
奥さぁ〜ん、コイツ
バリバリ浮気してますよぉ〜
コイツ、平気で嘘ついてますよぉ〜
余裕で家族、裏切ってますよぉ〜
なんて、心の中でレッカの奥さんにチクっておいた。
それにしても、浮気が忙しくて家族に連絡できないって、スゲー楽な言い訳だよな。
…まあ、俺には関係ない事だけど。
こんな最低なクズ選んだ奥さんもレッカと同類って可能性大だな。
コイツらは、どうでもいいとして…
ただ、可哀想なのは子供だよな。
奥さんであろう人からの電話が終わって、すぐレッカの携帯に連絡がきていた。忙しい奴だな。
「…ん?ああ、お前か。どうした?
…え?赤ちゃんができたって?」
…マジですか!!?
これ、別の人だよな?
おいおい…どうすんの、お前…
それにしても、また赤ちゃんネタ。
「…そんなのオロせよ。お前、オロすの慣れてるだろ?金ならやるしさ。
そうそう!簡単じゃん。お前、サイコーにいい女!オロしたら、すぐ気持ちいー事できんぜ?だろぉ〜?分かってんじゃ〜ん!はいはーい、オッケー。」
なんて、軽い調子で電話を切りやがった。
全然オッケーじゃねーよっっ!!!
人の命を何だと思ってんだ、コイツ。
人の命や人生を簡単に奪おうとしておいて、はいはーいじゃない!!!
コイツ、本当に人の父親かよ!ふざけ過ぎてる。
この殺人者がっっ!!!
ゴウランは、激しい怒りを感じつつまたロビーで、胸糞な気持ちを発散すべく、もの凄い集中力で学校の課題に打ち込んだ。おかげで、課題は終わり…気がつけば朝日が昇りはじめていた。
…なんてこった…
今日は寝不足確定だ。
課題は終わったのは嬉しいが、胸糞を2回も目撃してしまうわ、寝る時間が少なくなるわで
いいんだか悪いんだか微妙な気持ちだ。
さて、寝ようかなと思った所で、今度はサクラの姿を見かけた。
みんな寝ていると油断しているのか、少人数だったら別にいいかと思っているのかは不明だが、サクラは指示された魔法衣を身に付けておらず珍しくジャージ姿だ。
薄明かりではあるが、やはりサクラは形容し難いくらいに綺麗だ。この時間帯ならではの宿の絶妙な薄暗さが、またサクラを妖しい美しさに変えいつもとは違った美しさを感じる。
そして、宿の外に出ると目にも留まらぬ速さで何処かへ走って行ってしまった。
あの調子だと、恐らくランニングかトレーニングにでも行ったのだろうかと思う。
こんな薄暗い時間から、よく頑張るなぁと感心した。ショウの世話の合間合間に、学校の課題をこなしてショウが寝てる間にトレーニング。
ハードスケジュール過ぎやしないか?
いつ、休んでるんだろうか?
自分の時間ってあるのか?
化け物級に強いサクラでもトレーニングしてるんだな…知らなかった。
天才だから何もしなくても強いんだと思ってたし、旅をしてたら自然と強くなったり授業以外の様々な知識が付いていくんだと思ってた。
…それは俺の勝手な思い込みで、結局の話、自分から知ろうと行動し学ぶ努力をしてはじめて色々と知識も増えていくって事か。
多分、俺らが知らないだけで、サクラやオブシディアンも見えない所で勉強とかトレーニングしてるのかもな。
なんて人の心配をしてみたり、自分の事を振り返ってみたりしていたが、朝方近くまで勉強してグッタリなのでフラフラしながらみんなが寝静まっている部屋に戻りベットに倒れ込むようにして眠った。
その為、食堂や大浴場、売店、フロントなどで、いくらか見知った顔触れがいた。
ソウチーム、コウチームに、レッカチーム。
他にも噂で見知っている姫、王族もいる。
そんな中、白金髪にユニコーンカラーを入れたボン・キュッ・ボンのスレンダーボディーの派手な美女が、三人のイケメンとイチャイチャしながら宿に入ってきた。
気分転換にたまたま、フロント近くのロビーで一人休んでいたゴウランはそれを見てギョッとした。
その派手な美女には見覚えがある。
この美女は、確か…第24姫の彩雲(さいうん)。真っ白な肌に、目は外側がブルー内側がグリーンのグラデーションカラーのヘーゼル。
目はぱっちり大きく、鼻は小ぶり。唇は小さいのにぷっくり柔らかそう。
清楚で可憐な顔に反して、体は出る所は出る、引っ込む所は引っ込んでいる欲情を誘う魅惑的なスレンダーボディー。
確か、ヨウコウと同じ年だと思った。
誕生日までは知らないが、そうなると今は14才か15才な筈だ。
王子、姫達はみんな母親違いなので、同い年も多く存在する。
しかし、チームの人数が多い自分が言うのもなんだが…なんだ、この人数の多さは…。
しかも、サイウン姫の左右、すぐ後ろとイケメンが恋人のように寄り添っている。
その後ろを更に八人のイケメンが着いてきていて、距離を置いて三人がその後に続いて歩いている。
…まさかだが、11人のイケメンが姫の恋人って事はないよな?
なんて驚いて見ていたが、信じられないがどうやら、そのまさからしい。
サイウンが少し頭を傾けただけで近くにいたイケメンが吸い付く様なキスをし
サイウンがイケメンの手をいやらしく自分の胸元に導けばイケメンはサイウンの胸を捏ね
後ろのイケメンはサイウンの後ろから抱きしめサイウンの短いスカートのスリットに手を入れ弄ってる。
サイウンもイケメンの股をいやらしい手つきで捏ね回している。
…ドキドキ…
なんて羨まし…いやっ、卑猥集団なんだ!
しかも、交わす言葉もエロい事しか言ってない。今夜の相手は誰にしようか、何人でするか…なんて羨ま…乱れてるんだ。
…ドキドキ…
本当に14才かよって、ゴウランはお股を元気し、けしからんと思いつつドキドキしていた。体は欲望に忠実にできているのだ。
卑猥集団の後ろにいる三人は、とても沈んだ雰囲気だ。
とても、同じチームとは思えない。
この三人がサイウンと同じチームだと思ったのは、ゴウランがサイウンが姫だと知っていた事と自分達と同じ目的で旅をしている事。
旅には、王族の他に、護衛、一般人、一般人を守る為の用心棒の三名がいる筈だから。
三名を見れば、ボーズ頭の厳つい男と、何とも平凡な容姿の女性が二人。みんな薄汚れていて顔色も悪い。
サイウンとイケメン達だけは、元気ハツラツ健康的で全身ブランド物だらけだ。
そして、サイウンは後ろをチラリと見ると
「…ゲロ最悪なんだけど!あんた達みたいなブスで下等な奴らと旅するとかキモすぎてあり得ない!同じ仲間なんて思われたくないから、もっと離れて歩いてよね。」
清楚で清純そうな顔から想像もつかない、どギツイ言葉が後ろの三人を襲う。
その言葉に、厳つい男は目線を下げグッと耐え、一人の女性は顔面蒼白で震えている。それをもう一人の女性が慰めながらも悔しさを我慢しているのだろう…空いてる片方の手をグッと握りフルフルと怒りで震えている。
そんな三人の様子を目敏く見ていたサイウンは、イケメン達を押しのけ三人の前に立つと
「テメー、存在自体がキモすぎんだよっ!」
バチンッ!!!
厳つい男の顔面を高級バックで殴り付け、次に平凡な女性に向かって
「…なに?その顔、ムカつくんだけど。被害者面してさぁ。あんた達みたいな身分も卑しければ容姿も不細工な連中は生きる価値なんてないのよ。
あんた達と同じ空気吸ってるって思うだけで気分悪くなるったら!」
と、厳つい男を殴りつけたバックで女性を殴りつけようとしていた。それを、もう一人の女性がサイウンの腕を掴み止め
「この子は、一般市民です。どうか、手をあげるのはやめて下さい。」
そう言って、サイウンを睨み付けた。様子を見る限り恐らく、この女性は一般人を守る為の用心棒だろう。
「マジで、おまえ何?ゲロむかつく。ブスのくせに調子乗ってんじゃねーよ!!
お前のお望み通り、ソイツを助けてやるけどさぁ。分かってるよね?」
サイウンは有無は言わせないと不機嫌に声を出し、イケメン達にも合図し、よって集って用心棒の女性を暴行し始めた。
一般人女性はヒィ…と声にならない声を出すと腰を抜かし、消去法で護衛であろう男はその場に突っ立ったまま、ただただ下を俯いているばかりだった。
宿のフロア係や従業員達も、止めたいがとばっちりが怖くて動けない。
どうしようもない状況に警察を呼ぼうと動いていたが相手が他国の姫だという事でなす術がなく、商工王国とは身分や容姿で差別し人を人と思わない下劣な人間だらけの恐ろしい所なんだとヒソヒソ話しているのが聞こえた。
同じ人間として許せないという宿泊客の声も聞こえる。
なのに、権力や力により何もできない自分達が悔しくてしょうがない様だった。
サイウンのこの軽率な行いのせいで、自分達の国の品位がガッタリと下がっていく事を彼女は分かっているのだろうか?
「ああ、そうだった。お前達は素泊まりだから食事がないんだっけ?」
そう言ってサイウンは、イケメンの一人に合図すると、そのイケメンは三人の前で食べかけのお菓子を見せてから、バサバサとお菓子の中身を全て床に出し空の袋を三人に投げつけた。
「喜びなさい。お前達の食事だよ。
ヒャハハ!私って、優しすぎなぁ〜い?」
サイウンは、高笑いしながら11人のイケメン達とこの宿でいいお値段のする部屋に向かって歩き出した。イケメン達もサイウンと一緒になって三人を嘲笑っている。
サイウン達が居なくなると、女性二人は床に散らばった菓子を拾い集めた。一般人の女性なんて声を出して泣いている。
護衛の男はひたすらに「…クソッ!クソッ!!」と、悔しさを声に出し俯いている。
その内、三人は一番格安の部屋へと入って行った。
…とんでもないものを見てしまったと、ゴウランは胸糞な気持ちだった。あんな苛酷で非道極まりない事を平気でするなんてと。
だが、止めに入らなかった。…いや、止めようにも体が動かなかったのだ。
彼女達が怖いからとか、勇気がないとか、そういう事ではない。
…ダブって見えたのだ…
あの虐げられている三人とショウが…
悪事を行うサイウンと自分達が…
肉体的な暴力は無かったものの、自分達はアレに近い悍ましい事を平気で行っていたのだ。
自分達は、それを正当化し王様か神様になったつもりで底辺な奴には制裁を与えて当たり前だ。自分達と同じく、生きようとするなんて烏滸がましいにも程がある。自分達とお前じゃ何もかもが違い過ぎるんだよ!とまで、心のどこかで思っていた。
自分もそんな事をしていたと思ったら…体が固まりピクリとも動かなかったのだ。
そんな俺には、あの人達を助ける資格なんてないと思ってしまった。
ドッドッドッ…
全身が凍りつくような感覚に苛まれ、嫌な心臓音だけが身体中に響き渡る。
サイウン達の行動を見た事で、その行為がいかに愚かで恐ろしい事なのかまざまざと見せられた気分になった。
いまさら後悔した所で、過去に戻ってやり直す事なんてできない。そんな事ができたなら、お前は何様なんだと言って過去の自分をブン殴って排除してやりたい。
そんな事を考えていたら、ヨウコウ達やショウの顔を見るのが何だか怖くて部屋に戻る気が失せた。
しばらく、ここに居て落ち着いてから戻ろう。
そう考え、気晴らしにアプリ携帯で溜まりに溜まっていた学校の課題をこなしていた。そうでもしなければ、自分が辛すぎて壊れてしまいそうだったから。
ちょうど良かった。サボり過ぎて課題が溜まっていた。と、自分に言い聞かせ課題に集中した。
どれほど時間が経っただろう。
ゴウランが一息つこうと顔を上げた時、ロビーには自分以外の人間は居なかった。
一休みをしようと自販機でコーヒーを買い、何となくロビーの窓を開け外を眺めていた。
今日は星が無いが月明かりが強いな、なんて思いながら。
すると、何やら人の声が聞こえた気がした。
声のする方を探し見ると、宿の外で人影があり凝らして見ればミミの今彼氏のレッカだった。
ミミとイチャイチャしてんのかなとか考えたが、レッカの他には誰もいない様子。
でも、人の声はするよな?と、不思議に思い耳を研ぎ澄ませ聞き耳を立ててみる。
すると
「…本当だって。浮気なんかしてねーって。
信用しろって。」
なんて、必死に説明してるレッカの声が聞こえた。
…ん?浮気??
ミミとでも電話してるのか?
いや、同じ宿に居るんだし会えばいいだろ。
なんて、考えていると
「俺にはお前と、子供がいるんだぜ?お腹にも子供がいるのに家族を裏切る訳ないだろ?
それに、過酷な旅だし浮気する暇なんてないって!愛してるのは、お前だけだよ。本当だって!」
…は?子供?家族?
レッカって、結婚してたのかよ!?
マジかぁ〜
「…ああ、お前もな。生まれてくる子供の為にも体、大事にしろよ?
じゃあな。マジで忙しいから、滅多に連絡できないけど大丈夫だからさ。浮気なんて絶対ないから安心しろって。」
えぇ〜〜…
子供ってさぁ〜、おいおい…
しかも、お腹に子供いるって…えぇ〜…
絶対浮気しないとか…
奥さぁ〜ん、コイツ
バリバリ浮気してますよぉ〜
コイツ、平気で嘘ついてますよぉ〜
余裕で家族、裏切ってますよぉ〜
なんて、心の中でレッカの奥さんにチクっておいた。
それにしても、浮気が忙しくて家族に連絡できないって、スゲー楽な言い訳だよな。
…まあ、俺には関係ない事だけど。
こんな最低なクズ選んだ奥さんもレッカと同類って可能性大だな。
コイツらは、どうでもいいとして…
ただ、可哀想なのは子供だよな。
奥さんであろう人からの電話が終わって、すぐレッカの携帯に連絡がきていた。忙しい奴だな。
「…ん?ああ、お前か。どうした?
…え?赤ちゃんができたって?」
…マジですか!!?
これ、別の人だよな?
おいおい…どうすんの、お前…
それにしても、また赤ちゃんネタ。
「…そんなのオロせよ。お前、オロすの慣れてるだろ?金ならやるしさ。
そうそう!簡単じゃん。お前、サイコーにいい女!オロしたら、すぐ気持ちいー事できんぜ?だろぉ〜?分かってんじゃ〜ん!はいはーい、オッケー。」
なんて、軽い調子で電話を切りやがった。
全然オッケーじゃねーよっっ!!!
人の命を何だと思ってんだ、コイツ。
人の命や人生を簡単に奪おうとしておいて、はいはーいじゃない!!!
コイツ、本当に人の父親かよ!ふざけ過ぎてる。
この殺人者がっっ!!!
ゴウランは、激しい怒りを感じつつまたロビーで、胸糞な気持ちを発散すべく、もの凄い集中力で学校の課題に打ち込んだ。おかげで、課題は終わり…気がつけば朝日が昇りはじめていた。
…なんてこった…
今日は寝不足確定だ。
課題は終わったのは嬉しいが、胸糞を2回も目撃してしまうわ、寝る時間が少なくなるわで
いいんだか悪いんだか微妙な気持ちだ。
さて、寝ようかなと思った所で、今度はサクラの姿を見かけた。
みんな寝ていると油断しているのか、少人数だったら別にいいかと思っているのかは不明だが、サクラは指示された魔法衣を身に付けておらず珍しくジャージ姿だ。
薄明かりではあるが、やはりサクラは形容し難いくらいに綺麗だ。この時間帯ならではの宿の絶妙な薄暗さが、またサクラを妖しい美しさに変えいつもとは違った美しさを感じる。
そして、宿の外に出ると目にも留まらぬ速さで何処かへ走って行ってしまった。
あの調子だと、恐らくランニングかトレーニングにでも行ったのだろうかと思う。
こんな薄暗い時間から、よく頑張るなぁと感心した。ショウの世話の合間合間に、学校の課題をこなしてショウが寝てる間にトレーニング。
ハードスケジュール過ぎやしないか?
いつ、休んでるんだろうか?
自分の時間ってあるのか?
化け物級に強いサクラでもトレーニングしてるんだな…知らなかった。
天才だから何もしなくても強いんだと思ってたし、旅をしてたら自然と強くなったり授業以外の様々な知識が付いていくんだと思ってた。
…それは俺の勝手な思い込みで、結局の話、自分から知ろうと行動し学ぶ努力をしてはじめて色々と知識も増えていくって事か。
多分、俺らが知らないだけで、サクラやオブシディアンも見えない所で勉強とかトレーニングしてるのかもな。
なんて人の心配をしてみたり、自分の事を振り返ってみたりしていたが、朝方近くまで勉強してグッタリなのでフラフラしながらみんなが寝静まっている部屋に戻りベットに倒れ込むようにして眠った。