イケメン従者とおぶた姫。
ショウは少しだけ驚いていた。

宿泊費節約の為、大部屋に8人は泊まっているのだが。どうも、ヨウコウ達の様子が変だとショウは感じていた。


今日は何故か、ヨウコウ達の中で一番の早起きの筈のゴウランなのに昼近くまで起きる事はなかった。

今日のゴウランは本調子ではないらしく見える。


そんな風に自分の事を見ているなんて知るはずもないゴウランに、ヨウコウがいつもの調子でこれから街に行こうと誘った。

しかし、今日のゴウランはいつもと違った。

「…悪いけど、今回はやめておく。次の出発に向けてトレーニングしておきたいんだ。」

と、ゴウランがヨウコウの誘いを断ったのだ。いつもなら絶対に断らないのに。ヨウコウは凄く驚いた顔をして

「どうした?トレーニングなんていつでもできるではないか。それに、優秀な余達ならそんなつまらない事などせずとも十分に強いだろ?
どうせ過酷な旅で自然と強くなるではないか。」

ヨウコウは、何をおかしな事を言っているんだと笑っている。


「……いや。俺は…ここにいる誰よりもずっと弱いし、誰よりもトレーニングしなければ強くなんてなれない。」

「は!何を言うかと思えば、そんな事。
アイツらの事を言っているんだろう!アイツらは国から派遣されて来た護衛達だろう?
余達はまだまだ学生であって、アイツらはプロだ。実力差があって当たり前であろう。
余達も大人になれば、おのずとあれくらい…
いやっ!あれ以上の力になろだろう!!」


…いや、何を言ってるんだ?

確かに学生とプロは全く違うが、そうじゃないだろ!?

思い出してみろよ!少しの間だがダイヤ王子と旅を共にした時、あの時でさえダイヤ王子と自分達の実力差は圧倒的に違ってただろ!

あれから、また月日が流れてる。その間にも、ダイヤ王子は血も滲む様な努力をしている筈だ。
それなら、今はあの時よりも更に差がついてる筈だ。

それに比べて自分達はなんの努力もしないで、夢ばかり見て現実から目を背けてばかりじゃないか。理想ばかり語っていて現実逃避もいいところだ。

それに大人になればって…サクラを見てみろよ。サクラは俺やミオと同い年の17才。
自分達と同じ、旅の中、学校の課題もこなさなければならない学生だぞ?
なのに、どうして自分だけが特別だと思えるんだ?


ゴウランは、ヨウコウのお花畑な言葉にフラストレーションが溜まる一方で、ここで自分の考えや意見を言ってしまいたい衝動に駆られるが相手は王子。
王子に逆らうなという“王子の遊び相手(友達役)”の掟が邪魔し、何も言い返せない自分にモヤモヤしっぱなしで発狂してしまいたい気持ちになる。…我慢、我慢!相手は王子、逆らったらダメだ。


「そぉ〜でぇすよぉ〜!ゴウラン様、どうしちゃったんでぇすかぁ?
いつものゴウラン様らしくないですよぉ?
いつもの自信に満ち溢れたカッコいいゴウラン様はどこ行っちゃったんですかぁ?

ヨウコウ様とゴウラン様は、特別なんですから、そんなみみっちい事しなくったってぇ大丈夫でぇすよぉ〜!
いつもみたいに一緒にあそびましょぉ〜。」


ミミは、甘えた声を出しながら可愛らしくゴウランの腕に触れてきた。
だが…その手が何故だか汚く見えてしまい…
ゾッ…!と、全身に小さく身震いする様な悪寒が走った。

…パシッ!

ゴウランは咄嗟に、ミミの手を振り払ってしまった。振り返ってからゴウランは…あ…と思ったが


「…え???…ど、どうしちゃったんでぇすかぁ?ミミ…何かいけない事しちゃいましたかぁ?」

「ゴウランッ!貴様、ミミに何をしたか分かっておるのか!?」

ヨウコウは物語に出てくる王子様の如く、よろけるミミを受け止めゴウランを叱りつけた。

ゴウランは少し俯くと


「…すまない…」

二人に謝った。それを見て、ヨウコウは

「…本当にどうしたのだ?何かあったのか?」

と、心配の声を掛けるがゴウランは押し黙ったまま下を俯いていた。

「少し、余の言い方がきつかったかもしれんが、女性に手をあげるなどあってはならぬ事。どの様な事があろうと、女性には優しくしなければならぬ。お前もーーー」

と、ヨウコウが立派な事を言って諭しているのを聞いて“女性には優しくしなければならない?”だと?

じゃあ、あんたがショウに対してやってる事はなんなんだ?それが、優しくしてるって言えるのか?

ゴウランはそんな事を思い返しながら、ヨウコウの中身の伴わない話を聞いていてイライラした。
こんな口先だけの話を聞いていても時間の無駄でしかないし何より非常に苛つくだけなので紛らわしに、ショウ達の会話に耳を傾けそっちに意識を集中させた。


「まさか、シルバーさんがサクラだったなんてビックリしちゃった!どうして、変装してたの?」

と、ショウはサクラに疑問を投げかけている様だった。それは、自分も気になっていた事だったのでゴウランは丁度良かったとばかりに耳をダンボにして聞いた。


「…はい、実は、あのクs……あ、いえ…ゴホンッ!
ショウ様のお父上であるリュウキ…サマ…が、急にショウ様を旅に出すとかおかしな事を言い出しまして私は断固反対しました。
そしたら、リュウキサマは大変お怒りになってショウ様と旅をしてはならないと命令があり屋敷に軟禁されてしまったのです。」

「…え?私が嫌になった訳じゃないの?」

サクラの話に驚き、そしてサクラを家に閉じ込めちゃうなんて…自分のお父さんって悪者なんだろうかとショウはリュウキに対しちょっと不快感を感じてしまった。


「あり得ません!私がショウ様を嫌になるなんて絶対にないです!!」

と、サクラが説明していると、すかさずオブシディアンが話の中に入り


『…その説明では、リュウキ様だけが悪者みたいになってしまう。少しリュウキ様について補足させてくれ。
そもそも、リュウキ様がショウ様に旅に出るよう言ったのは、ショウ様の為だ。』

「…へ?どうして、それが私の為なの?」

ショウは、首を傾げオブシディアンを見た。


『仕事が忙しくショウ様と接する機会が少なかったリュウキ様は、いつまで経っても食事はおろか風呂や着替えなど幼稚園児ですらできる事もできないショウ様の将来に不安を覚えた。
このままではいけないと、少々荒治療ではあるが旅に出し世の中を見て勉強してほしいと思った。』

「…そうだったんだ。お父さん、ちゃんと私の事考えてくれてたんだ。知らなかった。
でも、どうしてサクラをお家に閉じ込めちゃったの?お父さん、悪い人なの?」

『それは、サクラがショウ様を甘やかすからだ。それだと、ショウ様はいつまで経っても成長できない。そう思って、わざと離した。』

と、オブシディアンが言った所でショウに素朴な疑問が浮かんだ。


「…え?じゃあ、どうしてサクラは変装して旅に参加したの?名前まで変えちゃって…」

「それは、あのバk…リュウキサマに、ショウ様と一緒にいたいと私が反抗し続けたからです。
それに折れたリュウキサマは、私だと分からないよう変装してショウ様にあまり近づかない事を条件に旅を許したのです。」

『お前は…どうして、リュウキ様の事をそんな風にしか言えないんだ。…まったく。』

オブシディアンは、リュウキを悪者みたいに言うサクラに少々参っていた。これでまた、ショウ様とリュウキ様の親子関係にヒビが入ったらどうするんだと。


「…じゃあ、どうして今は変装しなくても良くなったの?」

と、いう質問にサクラは口籠ってしまった。
ショウ様にだけは嘘がつけない…いや、サクラは不器用な性格なので誰に対しても嘘はつけないだろう。嘘をついても、すぐに態度に出てしまうに違いない。

ダリアの件で、うっかり変装を解いた姿でショウと接してしまい、そのままなあなあになってしまっただけだという事をどう説明すればいいのか悩んでる風だ。
ダリアの事は言えないし、どうしよう…と困っている事だろう。


『…サクラの必死の訴えかけに、リュウキ様が心打たれて変装を解きショウ様と一緒に旅をしてもいいと許しを出したからだ。』

「…そうなんだ。あれ?でも、私はサクラの邪魔してるんだよね?
お父さん…私といるとサクラに自由が無いし将来が潰されて可哀想だって言ってたよ?私と一緒にいると恋人を作りたくても作れないとか…」

と、ションボリと言うショウに間髪入れず


「ないです。それは、本当にない話です。
まず、ショウ様が邪魔など決してあり得ません。ショウ様のお側にいる事が私の幸せです。ショウ様のお世話は、私が好きでやってる事です。趣味と言っても過言ではありませんし、楽しみでもあり癒しでもあります。
ショウ様が居るから私は頑張れます。

私は、ショウ様以外の恋人も伴侶もいりません。ショウ様以外なんて考えられません。
この世の中に、私とショウ様以外必要ないと思ってます。自分達以外滅べばいいと考えています。」

それはもう力いっぱいに説明していた。必要以上に必死になって余計な事まで言っていた。

…あれ?これ、何気に告ってないか?と、聞き耳を立ててるゴウランはハタ…と思った。

…いや、まさかな!俺の聞き間違いか!!

いや、その前に色々とヤバい事言ってないか?
コイツの頭の中イカれてないか!?

スッゲー危険過ぎるだろ、コイツ!!

野放しにしておいて大丈夫かよ!?

なんてゴウランはサクラに対し恐怖を覚えていた。


「そっかぁ!私、サクラの邪魔じゃないなら良かった。サクラと一緒に旅ができるの嬉しいっ!」


ショォォ〜〜〜!!!

違がーーーーーうっっ!!そこじゃない!!!

お前、自分が知りたい所が聞けたらそこで満足して、後は適当に受け流して聞いてるだろ!?

お前、人の話は最後まで聞きましょうって習わなかったのか!?

お前が、勉強できない理由が分かった気がする…こりゃ、どんな優秀な先生でもお手上げだぞ…。

そして、どうしてお前の父親に、国が関わる旅を弄れる力があるって事をおかしく思わないんだ!?

どう考えたっておかしいだろがっ!!?

ゴウランは、ショウのあまりのおバカ加減にヤキモキしてしまい、心の中で大いにツッコミ

「…どうしてっ(気づかない!!)」

思わず、声が出てしまっていた。

……ハッ!!?

そこで我に返ったゴウランは、驚いた様子でコッチを見るヨウコウ、ミミ、ミオの姿があった。

その視線に気付いたゴウランは慌てて、下を俯き「…すまない…」と、気不味そうに小さな声で謝った。


「…お前、本当にどうしたのだ?おかしいぞ?」

と、ヨウコウは首を傾げゴウランを見ていた。すると、そこにミミがウルウルした目でヨウコウを見つめていた。


「…お友達の心配をしてあげるなんて、ヨウコウ様はお優しいですね。それに、私を庇ってくれた時、私…凄く嬉しかったですぅ。
あの時、本当に怖くって…私…グスッ…」

「…ミミ…。大丈夫だ、お前には余がついておる。安心してかまわないよ?」

ヨウコウは強い眼差しをミミに向ける。ミミはうっとりとヨウコウを上目遣いで見る。

二人の世界の完成だ。


「それにヨウコウ様のお話は、本当に本当にためになるお話ばかりでぇ勉強になります。
さすがは未来の王様ですぅ!尊敬しちゃいます。ヨウコウ様が王様になったらぁ、国の人達みんな幸せになって大喜びですね。」

ヨウコウ様が王になったら速攻で国が滅びるわっっっ!!!

そして、人々は不幸のどん底で悲しみと苦しみしかなくなるだろ!!!

と、ゴウランは間髪入れず心の中で突っ込み

ミミは、よくも、まあ…そんな思ってもない出まかせがポンポンと出てくるもんだと思うし、ヨウコウ様もよくその言葉を間に受けて調子づけるもんだなとゴウランは、呆れを通り越してある意味スゲ〜二人と寝不足でなのか呆れてなのか痛む頭を押さえつつ

なんて、くだらない茶番を見せられてるんだ、自分は。と、心の中でどんより気分で重いため息をついていた。


…ちょっと前まで、自分もヨウコウ様と一緒になって調子こいてたんだよな。

周りから、自分もこんな風に思われていたのかなと思うと恥ずかしすぎて、穴があったら入りたい気分だとゴウランは落ち込んだ。


なんだか少しいつもと違うゴウランを宿に残しヨウコウ、ミミ、ミオは、どこかへ出掛けて行った。
本来なら護衛の一人である自分もついて行かなければならないのだが、このチームには何故か“試験者”護衛が自分とミオ、二人もいる。他のチームは一人しかいないというのに。

だが、ヨウコウの命令で途中から自由行動になるのだが。特にこの国に入ってから、ヨウコウの自由行動が多くなった。
だから、護衛の意味があるのかと今更に少しだけ考えてしまう。

…まあ、本来護衛が一人だという事を考えればミオがついてるしいいと思うが。

ゴウランは気持ちが沈んだまま、トレーニングの為に宿を出て行った。


その一部始終を何となしに見ていたショウは


「…ゴウランさん、元気なかったみたいだけど…何かあったのかな?」

と、心配していた。最近、ちょっとづつ何か様子がおかしくなっていくゴウラン。今日は特におかしかった。…ヨウコウ達とケンカしたのかな?仲間外れにされちゃったのかな?なんて、考えていた。

すると


『心配だろうが、ゴウランは人として成長し始めてるだけだ。成長するにあたって誰しもが通る道だ。』

と、オブシディアンは教えてくれたが、人として成長するって事がいまいちピンとこないショウはう〜ん、う〜ん唸って考えていた。

人としての成長というのは、正当化する事なくそのままの自分を見つめ直し受け入れ、それに対してどう行動するべきか。いい所は伸ばし、悪い所はどう改めていくか考え行動していかなければならない。

頭の良し悪しではない、人としてのモラルの話だ。今まで自分がおこなってきた事が、人道に反していればいるほど受け入れ難く辛く厳しい

しかし、それはあくまで自分の間違いに気付きそれを受け入れなければできない事。

できそうで、できない事である。

みんな誰しもが直面する事だろうが、それを受け入れる事などできないし、そこにフィルターをつける或いは目を瞑って自分を正当化してしまうだろう。もしくは、そこの部分だけ見なかった、気づかないスルースキルばかり向上させる。

そうでもしなければ、自分の心が辛くて持たなくなってしまうから。

だからこそ、自分と向き合うのは難しい事だと考える。

さらに、向き合い自分を成長させるという事は至難の業だ。できる事じゃない。

自分だって、それはまだまだできていない。

それを、このゴウランという男はやってのけようとしている。

正直な話。ボクはゴウランの事はヨウコウと同類だと思い、どうしようもない呆れた人間だと、最低の類の人間だ。気に留めるに値しない人間だと決めつけていた。

しかし、ボクの見立てに反しゴウランは、色んな間違いを経てそれを見直し成長しようともがき始めた。

元々、ゴウランは真っ直ぐで素直な人間だったのかもしれない。そして、嫌な部分も真っ直ぐに見つめ直せる強い心があるのだろう。

何がキッカケとなり、ここまでゴウランを成長させたかは分からないが素晴らしい成長だと思う。

ボクにはそんな強さはない。ボクもその強さが欲しくて日々向き合うよう努力はしているが、なかなかに難しい。

そこに向き合う姿勢を見たら…つい、手を貸してしまいたくなる。

と、オブシディアンはゴウランに対し関心を持ち始めていた。
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