イケメン従者とおぶた姫。
ヨウコウとミミが、美男美女だらけのこの国をえらく気に入ってしまっている為、なかなか先に進もうとしない事にゴウラン、ミオ、シープは本来の目的を忘れているんじゃないかとイライラしていた。

だが、気持ちは分からなくはない。
この国では、珍しい目や髪、肌の色を持ち、なおかつこの国でもやや美形の類に入るヨウコウは珍しいブランド感覚でモテた。

ミミに関しては、この国では普通よりやや劣る中の下程度らしいが。普通より少々劣ってる方が気が楽だと都合の良い女として相手があまり途切れる事はなかった。モテ術、モテテクニックが凄いという一種の才能もあっての事だろうが。

そりゃ、美男美女ばかりにチヤホヤされたら離れがたくなるのは当たり前だろう。

この国の基準では普通よりやや容姿が劣るゴウランとミオ。ミミの様に振る舞えば、都合良く相手してもらえるのかもしれないが。
あいにくミミのようにはできないし、プライドがありやりたくもない。

ついでに言えば、ミミと同じ仲間だと思われるのが恥ずかしくて嫌だというのが本音だ。


ヨウコウ達とは別に、ショウ達も街へ出ていた。城の中から出た事のないシープは行き交う人々や店、民家など興味深々である。
もちろんお金も使った事はなく、店で自分で商品を選びお金を払って買うという事に感動しはしゃいでいた。


「オブシディアン!これは何なのだ?どういう風に使うものなのだ?」

あれは何だ?これは?と、オブシディアンにピッタリくっ付いてあちこち連れ回していた。
社会勉強の為に旅に出たシープの面倒を任されているオブシディアンは、…やれやれと思いつつ丁寧に説明した。色々なものに関心を示し勉強する姿勢は嫌いじゃない。

そんなシープを遠目から見てショウは、な…なるほど!知らなかった…と、シープの行動力により、知らず知らずショウも何かかしらの勉強になっているようだ。

いい傾向だとオブシディアンは思った。

それに、極端に歩くスピードが遅い、体力もないショウと一緒に居て王様気質のシープが不満を漏らすのではないかと危惧していたが


「ショウは、体力がないんだな。」

と、オブシディアンに言い何か考えている風だったが、それ以上何も言う事はせず驚く事にショウの歩みに合わせ行動していた。

シープは今まで隠れて過ごしていたものの王様として自由気ままに暮らしていたので、わがまま放題で手を焼かされるだろうと考えていたオブシディアンの読みは大きく外れ少し気が抜けてしまっていた。


街の中を探索しショウの体力の限界がきそうな所で、近くの店でご飯をテイクアウトしすぐ近くの公園で食事をとっていた。その方が安上がりでお金の節約ができる為だ。

と、たわいもない話をしながら昼食を楽しんでいる時だった。


「かわいいぃ〜!すごく可愛い赤ちゃんですね。私、子供好きなんです。」

なんて声が聞こえてきた。

…ゾク…

その声にショウは少し凍りつく感覚を覚えた。

…この声、まさか…

そう感じるも、こんな所に居るはずがないと思い気を取り直そうとした。

…ドクンドクン…!

「良かったねぇ、美人なお姉ちゃんに褒められたね。フフ!あなたみたいに優しくて可愛い子だったら、将来、可愛い赤ちゃんができるよ?彼氏いないの?」

「…え!?いない、いない!!
いないんです。私、全然モテないんですよ。」

「えぇ〜〜〜!!?うっそぉ〜!!
あなたみたいに可愛い子ほっとくなんて、みんな見る目がないね。あなただったら、いつだって彼氏できると思うよ?それとも、好きな人がいるから作らないとか?」


と、さっき出会ったばかりの相手だというのに、早々に打ち解け話が弾んでいた。
赤ちゃんを抱いているママの質問に図星だったのか、その女の子はカァ〜っと真っ赤になっていた。

そして、女の子はすぐ近くにいるグループをチラリと見ていた。

もしや、近くに女の子が好きなコがいるのかと赤ちゃんのママは、女の子の視線の先を辿ってみた。

目線の先にあるグループは、25才前後と思われる赤髪の男と、少々小太りな30代前半の男性、眼鏡をかけた武道着を着た20代前半の男性がいた。

あの赤髪さんの事が好きなのかな?でも、この女の子は中学生くらいだから…今はまだ早すぎるかなぁ〜。
女の子の年齢的に年上に憧れる気持ちも分からなくはないけど。年齢的にオススメできないなぁ。
女の子が結婚できる年になったらいいと思うけど。もし、あの赤髪の男性が女の子に手を出してたら大問題だし犯罪って…ないか!あったら、ただただ気持ち悪いだけだわ!!
あんないい子に限ってあり得ないし。と、赤ちゃんのママは心の中で変な事考えちゃったなんてカラカラ笑っていた。

それはないと思ったので、赤ちゃんのママはその子の視線の先をよぉ〜く思い出してみた。そういえば、もっと奥を見ていた気がすると更に奥の方を凝らして見てみた。

…ドキッ!

奥の方にもグループがいる。

地味で野暮ったい小学生くらいの女の子と、身の丈もある様な巨大ハンマーを担いでる20代くらいの女性。
170cmは超えているだろうか、まるでフランス人形のプリンセスドールを思わせるような美少女。
そして、ブルーブラック色の髪色の垂れ目がちな目元が、なんだかセクシーなイケメンがいた。

おそらく、この女の子はあのブルーブラックののイケメンが気になっているのだろう。

けれど、この女の子には申し訳ないけど。
あのブルーブラック色の髪色のイケメン君とフランス人形みたいに綺麗な美人ちゃんが並んだ姿はあまりにお似合い過ぎて…絵になっちゃう二人だと思ってしまった。

この女の子はもしかしたら“よその国”では美人なのかなぁ???とは思うが、あのブルーブラック色のイケメン君とこの少女だとあまりに不釣り合い過ぎるなと思った。

あのイケメン君は、このムーサディーテ国の中でも美形だと思うしこの国で好まれる髪や肌、目の色をしているので尚更だ。
でも、恋するっていい事だよね。これからの出会いにファイト!と、赤ちゃんママは、勝手に女の子は失恋すると決め付け次の出会いを応援していた。

しかし、和やかムードはここまで。


「本当に赤ちゃんかわいいと思ってるんだかっ!?」

と、いうワザとらしい大きい声が聞こえてきた。

ショウもこの声にビックリして、そこに注目して見てしまった。

気のせいかと赤ちゃんママと女の子が話していると、いちいち遠くから会話のイチャモンをつける言葉が聞こえる。


「…え?なんなの?あの人、頭おかしいの?
大丈夫?優仔(ゆこ)ちゃん。」

赤ちゃんママは、嫌な顔をしながらその声のする方へと顔を向けた。すると、先程見た地味で野暮ったい女の子がユコに向かってイチャモンをつけていたのだ。


「…なに、ほんと性格悪い子!ああいう自分の事しか考えられない常識外れの子って大嫌い。
きっと、ユコちゃんが可愛いから嫉妬してるんだよ!あー!嫌だ嫌だ!!もう最低な気分!
ブスってさ、心の中までブスなんだよ。だから、容姿が醜い奴って大嫌い!!」

と、赤ちゃんママは怒りまくっていた。そして、気分が悪いとばかりにプンプン怒りながら公園を出て行ってしまった。


それから、ユコはしょんぼりしながら自分のチームの所に戻ると、みんなに慰められていた。

「あー!マジでクソだな!!
こんな性格ブスもいたもんだ。」

赤髪の男、レッカは、野暮ったい小学生女子に向かって睨んだ。すると、野暮ったい小学生女子は地面に崩れて落ち「絶対、許さない!!許せない!!!」と、ヒステリックになって泣いていた。

「あ〜あ、ブスが泣いてもウゼーし、キモイだけだ。こんな奴が仲間で足手まといで困ってるだろ?気の毒にな?」


レッカは、バカにする様に野暮ったい小学生のチームに話し掛けた。

その様子を見ていたシープは


「…うわぁ…。嫌なもん見てしまったな。
あからさまに、あの地味な少女が悪いな。何言われたってしょうがない。反省するべきだな。
それに、あんな泣き方されたら同じチームの者達は恥ずかしくてしょうがないだろうに…。
人の迷惑も考えない、どうしようもない人間だな。」

と、こんな性格悪い奴とは関わりたくないとばかりに野暮ったい少女を罵った。

すると、オブシディアンはシープに

『確かに、あの少女は良くない行いをしたが、どうしてそんな行いをしたと思う?』

そう問いかけ、もう少し野暮ったい少女達の様子を見てみろと静かに促した。


すると、何故か野暮ったい少女に優しく声を掛ける彼女のチーム達。
その間にも、レッカチームの野暮ったい少女に対する罵倒は止まない。そこに、ブルーブラック色した髪のイケメンが、レッカチームの前までやってくると


「うちの仲間が失礼な事をしてしまいました。この度は、申し訳ありませんでした。」

と、深々と頭を下げて謝った。
すると、すかさず

「どうして、大樹(たいじゅ)君が謝るの?
どう考えたって悪いのは、喜雨(きう)でしょ!
タイジュ君は悪くないんだから謝らなくていいんだよ?
それに、ウチは大丈夫だから!あんな事言われたくらいヘッチャラだよ?」

ユコが走り寄ってきて、いっぱい涙を流しながらも懸命に笑顔を作って見せた。


…へえ。健気でいい子だなとシープが見ていると

「…不愉快だっ!!」

と、勢いよく立ち上がり、ショウを抱っこして公園を出て行くサクラの姿があった。
…え!?いきなり、どうした???と困惑しつつサクラの後を追わなくていいのかとオブシディアンを見ると

『もう少し、見て行こう。いい勉強になるだろう。』

もう少しこの場に留まり行く末を見ようと言ってきたのだ。これ以上、見てもしょうがないのにとシープは思ったが、オブシディアンがそう言うのでとりあえず言う事を聞いておいた。


「それでも、キウはオレ達の仲間だ。
だから、仲間であるオレの責任でもある。本当に、すまなかった!!」

と、また頭を下げるタイジュの姿を見て

後ろで、フランス人形のように美しい美女の胸の中で「ごめんなさい、ごめんなさいぃ〜」と、泣きじゃくってるキウが見える。


「ごめんって泣くくらいなら、あんな風に悪態つかなきゃ良かったのにな。」

シープは、呆れながらぼやくと

『あの子のごめんは、誰に向けて言ってると思う?』

なんて、すぐ答えられそうな質問をオブシディアンはしてきた。

「そんなの考えなくたって簡単だ。何故、そんな簡単な答えを聞いて…」

と、シープが言いかけた時、その答えを遮るように

「ユコという少女に、強い恨みごとがあるから。違うか?」

いつの間に来たのか、ゴウランが向こうの様子を見ながらやってきた。

「…向こうでトレーニングしてたら、なんか騒がしくてさ。そしたら、お前達の姿が見えたから一応、声を掛けてやろうかと思って来てみた。」

なんて、小さな声でポソポソ言い訳していた。素直に、姿が見えたから来たって言えばいいのに。

『…フフ。そうか。しかし、ゴウラン。
その読みはいい線をいっている。』

オブシディアンの答えに、シープは

「そんな訳ないだろ!?誰がどう見たって、あのユコという少女はいい子で、キウって少女は癇癪持ちの性格の悪い子だろ!何をおかしな事を言っているんだ?」

あり得ないとばかりに、オブシディアンに意見した。

『もう少しだけ見てみよう。』

オブシディアンは、再度二つのチームに目を向けた。納得できないシープも、分かりきってる事なのにと渋々見てみた。


気丈に振る舞うユコに、ユコの味方をしここぞとばかりにキウの事を悪く言うレッカチーム。
しかしながら、シープはキウに何の感情も湧かなかった。自業自得だろと。

「…あんな風に、悪態を吐かなければならないくらいに嫌な事が積み重なって、我慢の限界を超え自分で自分を制御できなくなってしまった。
おそらく過去二人の間に問題があり、ユコにキウの心が壊されてしまった。そして、キウは自分のせいで迷惑を掛けてしまった自分のチームに対して謝っている。」

ゴウランが、そんな風に解釈すると

『…おおよそは、そうだと言える。』

オブシディアンは、まさか、ゴウランがここまで人の心理・行動が読めるなんて…侮っていたと驚きを隠せずいた。


「…いや。本当は、そこまで考えた訳じゃないんだが。オブシディアンが、そんな簡単な質問するのは変だと思った。だから、そんな簡単な答えじゃない。なら、キウが被害って逆パターンを考えたらさ…」

ゴウランの考えを聞いて、なるほどと納得するオブシディアンだ。だが、色んな視点で考える事の必要性が分かっただけでも大きな成長だと感じた。

これには、シープもなるほどと

そういう観点から、再度二つのチームを見ると全然違って見えた。


キウが悪者なら、何故こんなに仲間が心配し大丈夫だと慰める言葉を掛けるのか。フランス人形の様に美しい美女アーロラはハスキーボイスで

「…僕がついてたのに気が付けなくてごめん。分かってたはずなのに。…こんなに深刻な事だって思わなかったんだ。本当にごめん。」

と、震え泣くキウを抱きしめ、悔しそうに顔を顰めていた。

「…誰も悪くない。悪いのは私だから…ごめんなさい。」

なんて、会話も聞こえてきてシープは大変驚いた。

「…ん?!あのアーロラって…!!!」

「…ゲェェッ!!?お、男かよぉ〜!!!嘘だろぉぉ〜〜…」

シープに続き、ゴウランから非常に残念そうな声が漏れ早速失恋した顔になっている。ゴウランは美人に弱いなとオブシディアンは苦笑いした。
シープもゴウランの様子に、一目惚れして早速失恋とかウケるとちょっと面白くて笑ってしまった。


『あのユコって少女とキウって少女は、ボクもよく知ってる子達だ。』

オブシディアンがそう言うと

「…は?知ってたなら、あの質問狡くないか?」

ゴウランとシープは不服そうだった。

『確かにな。だが、目に見える事だけが真実かどうかは分からない。

そこに至るのには、どういった事情・経緯があるのか考える事も大切だと言いたかった。そして、みんな自分の事を正当化する中で、それをどう見極め判断するか。そこも考えてほしかった。

今回のケースは確かにキウが悪いが、キウの心を壊すくらいまで苦しめてきたユコにも非があるという事だ。』

なるほどなと二人は思いつつも

「なんで、あの子達の事を知ってるんだ?」

ゴウランは、疑問を投げかけた。

『ああ。あの二人は、ショウ様の同級生でユコは、ショウ様をイジメて不登校にさせた主犯格だからだ。
そして、ユコとキウはイトコ同士。

ユコの家族は、キウの家族を馬鹿にして酷い扱いをしている。だが、ユコ一家は上面が良くずる賢い。だから、自分達の得意とする上部っつらの良さをフルに活用してキウ家族を馬鹿にしいいように扱っている。
しかし、ユコ家族の裏の顔を周りの誰もが疑う事は無く、むしろ協力者までいるくらいだ。

だから、キウ家族はただただ泣き寝入りするだけの生活を余儀なくされている。』

なんて、オブシディアンの情報にゴウランとシープは何とも言えない気持ちになっていた。

それもそうと、なるほど!だから、ユコの存在に気付いたサクラはショウを抱き抱えてこの場から居なくなったのかと思った。

何でも、決めつけは良くないなと学ぶ二人だ。

けど、それを見極めるのは、なかなか至難の業じゃないかとも思った。

現に、今の事態だって
完璧にキウが悪いって思ったし、それ以外考えられなかったから。


そして、気になりまた二つのチームを見ると、タイジュチームはキウを気遣いながらその場を去っていた。

レッカチームは、かなり頭のおかしい奴もいたもんだ。今日はとんだ災難だったなと、プンプン怒りのままにキウの悪口を言いたい放題言っていた。


と、ここでオブシディアンの爆弾情報が出てきた。

『ちなみにだが、ユコとキウは一般市民として旅に参加しているが。これといった高い能力も才能もないのに旅の選考で選ばれた。どうしてだと思う?』

おそらく、これも意地悪な質問なんだと考えた二人は考える。…うん、分からない。

『正解は、ユコをよく思ってないどこかの誰かお偉いさんの意地悪だ。ユコに痛い目を見せる為だけで選ばれた。
キウが選ばれた理由も、何故キウが選ばれたんだとユコ一家に不快な気持ちを与える事ができるだろうと考えた為。以上。』

エェェ〜〜〜ッッッ!!!?
嘘だろぉぉ〜〜〜!?そんなくだらない理由でそんな大事な事が簡単に決まっちゃうのかよぉ〜…。ゴウランとシープはただただ口をあんぐり開くしかなかった。

『そのくだらない事が、大きな取り返しのつかない事態へと発展していく事もある。』

オブシディアンは相当なまでに深刻な話をしたが、これには二人は何を言っているのか理解ができなかった。
そして、それ以上オブシディアンは教えてくれなかった。

余計な情報は教えてくれたが

『ああ、そうだ。ちなみだが、ユコはレッカと体の関係があるみたいだ。
ショウ様と同い年とは思えない早熟さだな。』

ええぇ〜〜〜
そんな話なんて知りたくなかったし、レッカ…未成年どころか小学生に手出して犯罪ってか…キモ…本当に気持ち悪い。
うわぁ…マジで勘弁してくれよぉぉ〜〜〜

ゴウランとシープは、今日は夢見が悪くなるだろう。


そして、レッカとユコの事を考えてゴウランはハタっと考えた。

…あれ?このユコって女の子…タイジュ王子に好き好きアピールしてなかったか?

なのに、レッカと…。レッカに体の関係を強要されてるのか?だとしたら虐待だ。
…だが、ユコを見てる限り…レッカに恐怖心や嫌悪を感じてる様には見えない。
それどころか自分からレッカに女をアピールしてる様に思う。

もし、これがユコが望まぬ事だったら許されるものではない。絶対にだ。

だが、ユコ自らが望んでいるのであれば…
うわぁ…無理。と、嫌悪で全身ブルブルっとさせたところで脳裏にミミの姿が浮かびユコとダブって見えてしまった。
二人とも、レッカと恋人なのかセのつくお友達なのかは分からないが…類は友を呼ぶという言葉まで頭に浮かんでげんなりしてしまった。

ユコの将来の姿にミミを見てしまった。
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