イケメン従者とおぶた姫。
さてさて、ショウ達が公園でランチをとっている中、ヨウコウ達はというと…

観光地で有名なオシャレなショー会場へやってきていた。

そこは、野外にテーブルや椅子が設置されていて、お客さんは食事やお酒、デザートなど楽しみながら寸劇を交えた演奏や歌などを楽める場所だ。
お値段もリーズナブルな事から一般の人達でも気軽に楽しめるというデートスポットの一つでもある。

ミミの熱望で、ヨウコウとミオのお供としてついて来たはいいが…ミオはげんなりしていた。

いつもの如く、ヨウコウとミミは目も当てられない程のイチャつきを見せつけてきた。
その光景にミオが慣れてきてからは、日々イライラが積み重なる毎日。いつ、どこでこの苛つきが爆発してもおかしくない状態だった。

ミオは何とかその気持ちを抑え平常心を装い同じテーブルで食事をとっていた。

こんな時にゴウランが居ないのは辛い。
気は合わないしお互い反発しあいはせど、ヨウコウとミミの度を越えたイチャつきに関してだけは気持ちは一緒なはずだ。今、その気持ちを共有できる人が居ないのはかなりシンドイ。

こんな時に限ってショウ達もいない。

普段なら、サクラとオブシディアンにお姫様よろしく大切に扱われるショウにムカついて

それくらい自分でしてよ!

甘えんのもいい加減にして!

何の取り柄もない、家柄も悪いただのデブスのくせにお姫様気取りなの?

底辺のくせに、つけ上がりすぎ!

と、ムカついて顔も見たくない。

特にサクラの本当の姿を知ってからは、ショウへのムカつきはかなり強くなった。

何であんな綺麗な人がショウなんかの世話をしてるの!?

しかも、サクラはショウのまるで恋人…いえ、性奴隷みたい!

何で、底辺デブスのショウなんかにあそこまでするわけ!?

信じられない!!?

意味が分からない!!

ショウさえいなければ良かったのに。

と、思っているが…

こういう時だけは、そんなショウやゴウランが居てくれるだけ気が紛れるので居てほしい。

だが、居てほしい時に限ってアイツらはいないのだ。
…本当に役に立たない奴らである。

ミオはイライラしながらも、ひたすらにショーや食事に集中しようと心掛けた。だが、どうしても二人のイチャイチャが目についてしまう。

最悪だと思っていた時だった。

少し離れた所に、ソウチームの姿が見えた。
しかも、ソウはミミがいる事に気が付いたようでヨウコウとミミのイチャイチャを見て驚いた顔をしていた。

ソウのあの様子じゃ、まだミミの事を信じていたのかもしれない。
だが、新しい彼氏のレッカでないヨウコウとイチャイチャしているのを見てどういう事だと混乱してるように感じられた。

ソウの様子に気が付いたゴロウとピピも、ミミの存在に気が付き複雑そうな顔をしていた。

と、いうのも、ミミの件で落ち込み部屋に引きこもって出て来なくなったソウを元気付けようと、ゴロウとピピは気分転換になると思い無理矢理ソウの部屋をこじ開け引きずり出しここへ連れて来たのだ。

だが、まさかのコレである。

タイミングが悪すぎる。

「…あ、えっと、あれだな。次の国は世界一の大聖堂がある国だったな!そこには、凄い力を持った“聖女様”がいる事で有名だよな。」

焦ったピピは、違う話題で気を逸らそうと、次に向かう国についてアプリ携帯で次の国の情報を調べながら話し始めた。


「…そ、そうそう!なんでも、聖女様は魔物や毒を消しさる力があるらしい。
加えて、怪我を治す事のできる上級魔導の“治癒魔導”も使えるのだとか。
しかも聖女様のうちの一人がSランクの治癒魔導使いだって話も聞いた事があるよ。」

「Sランク!!?すごっ!!Sランクの魔導使いなんて実在するんだな!」

と、驚きを隠せないピピ。

「実は、最近商工王国の副騎士団長が若干17才にしてSランクの魔導使いに認定されたそうだよ。」

なんて、ゴロウが新たな情報を持ってくると

「…17才で聖騎士副団長!!?
しかも、Sランクの魔導使い!!?
とんでもない天才がいたもんだな。」

なんてピピは驚いていたが、聖騎士副団長が魔導レベルSになったという話にはソウも驚いた様子でゴロウを見ていた。

「まだ、驚くのは早い。聖騎士副団長は近いうちにSSランクの魔導使いになる事は確定しているらしい。
もしかしたら前代未聞のSSSランク…いや、伝説でしかなかったM(マスター)ランクの魔導使いになる逸材かもしれないとその筋に詳しい人達が大騒ぎしてるようだよ。」

「…SSランクなんて聞いた事ないぞ?それどころかSSSランクとかリアリティーに欠けすぎていて夢物語としか思えないのに、……Mランク…そんなランクが存在するなんて聞いた事もないよ。」

と、ピピは言葉を失っていた。


「…あ。大きく話が逸れてしまったね!ごめん、ごめん。
Sランクの魔導使い繋がりで自分の国にも凄い魔導使いがいた事を思い出して興奮しちゃって。…つい。…ハハ…
さっきの話に戻るけど。現在の聖女様は3人いらっしゃって「…え!?聖女様って3人もいるの!!?てっきり1人だけなんだと思ってた!!じゃあ、Sランクの治癒魔導使いが3人いるって事!!?」

あまりに驚いたのだろう、ゴロウが話してる途中にピピが割って入って質問をぶつけた。


「今回は特別らしいよ。」

「…特別?」

「…そう。聖女様っていうのは神に選ばれし者。だから、そうそう誕生するもんじゃない。
300年くらい聖女様が誕生しなかった時もあったらしいからね。今回のように複数人誕生したってのは今までの歴史にはなかった事みたいで、おそらく今世界中が危機に晒された事で3人の聖女様が誕生したと言われてる。」

「…へぇ。」

「そして、3人の聖女様もそれぞれに力の差がある。
Sランクの治癒魔導を使える聖女様は、その中の一人だけ。その聖女様は3人の中でも飛び抜けて“浄化”が強く、そして、容姿もとても美しいらしいよ。」

と、ゴロウが話し終えると

「…美人ねぇ…。そんな話聞いてしまうと世の中は不公平で溢れてると、つくづく思うな。
美形ってだけで優遇されるのに、そういう人に限ってスペックも高いよな。」

なんて、ため息をつくピピに、ゴロウはそれはピピにも当てはまる言葉なんだけどなと…ハハと苦笑いするしかなかった。

「ちなみだけど。聖女様っていっても、過去に2回ほど男の聖女様が誕生した事もあったらしいよ。ちょっと、面白いよね。」

「…え?聖女様っていうからには、女性ばかりが選ばれるんだと思ってたよ。」

「確かにそう思うよね。だけど、聖女って名前がついたのは一番初めに聖女様になった人が女性だったってだけの話らしいよ。
そして、しばらく聖女様に生まれた人が女性だった為。だから、聖女様って名前はもう伝統的なものになってしまって今さら名前も変えられなかったんだろうね。」

「男なのに聖女様って呼ばれるのは、ちょっと複雑だったろうな。」

「ハハ。確かに。」


「しかし、ゴロウは昔の事から最新の事まで世界中のありとあらゆる情報を知っているな。」

と、ピピが改めてゴロウの情報の多さや見解の広さに驚いていた。ゴロウの情報があったからこそ、それぞれの国での常識やマナー、タブーな事まで知る事ができスムーズに旅をできている。


ゴロウとピピが会話している間、ソウはどうでもいいとばかりに食事も取らなければショーも見ずに思い出していた。

…ミミの事だ。

ミミにこっ酷く振られてから宿の部屋に引きこもり、ただただボーっと窓の外を眺める日々を過ごしていた。

外を見ていてミミらしき女性を何度か見かけた事があった。そのいずれも男性と一緒だった。しかも、毎回別の男性だ。

ソウの泊まっている宿は、安いかわりに治安が少々悪い場所にあった。だからなのか、宿のすぐ近くにホテル街が密集している。
ミミと何度か行った事があるので知っている。

その経験がなければ、ホテル街についてここまで詳しく知る事はなかっただろう。下手をすればホテル街という存在すら知らなかったと思う。

…だが、ミミと他の男が絡み合うようにイチャイチャしながら歩いていても信じられなかった。

あの可愛いミミに限ってと。

これは自分の見間違いだ。きっと、ミミの事が忘れられない自分がミミの面影を探して、ミミに似た女性と見間違えたのだろうと自分に言い聞かせていた。

天使のように愛らしいミミが、男をとっかえひっかえだなんて。

そんな訳ない!きっと、何か深い事情があるに決まっていると信じていた。

…あんなに、かわいいのに…

と、信じたくなかったのだ。


チヨに、ミミとヨウコウ王子が浮気していると忠告された時もだ。
あまりにミミが可愛いからチヨが醜い嫉妬をし、自分にミミの悪い印象を植え付け別れさせようとしていたのだと思っていた。

チヨは俺のことが好きだから。

けど、あんなチビデブに好かれたって嬉しくないし寒気がする。一緒にいて周りに付き合ってるとか友達だなんて思われたくなくて、わざと酷い態度をとって遠ざけてたのに。

それにも気付けなくて、鈍感でおめでたいお花畑の頭してたよね、チヨは。だって、それでも俺の側に居続けてたんだから。どれだけ俺の事が好きなんだよってウザく思ってた。


…まさか、そんなチヨの言ってる事が本当だったなんて…


この目で、しっかり見てしまった。

こんなに近くで見たから間違いない。

あれは、どこをどう見たってミミとヨウコウ王子。しかも、親密でただならぬ関係だってのは誰の目から見ても分かるほどだ。


ここにきて、ようやく現実を見る事ができた。


…そっか…

チヨは、俺に本当の事を教えていたんだね。

そこで、いまさら過ぎるけど。

幼少期の頃から今までの自分とチヨを思い出し考える。

…あ…

そういえば、そうだった。
ルナ殿も言ってたけど、最初に出会った頃のチヨはガリガリに痩せ細った子供だったな。

それが、どうしてあんなデブになったんだっけ?

…ああ、よく俺が泣いてたからだ。

俺は幼いながらに、大人達の思惑やしがらみに敏感でそれが怖くて悲しくてよく泣いていた。
そこで、人間が怖く感じたんだったな。

チヨはそんな俺の側にいて慰めて元気づけようとしていた。余計なお世話だと、いくら俺が突っぱねてもしつこかった。
あまりに、しつこいから一度チヨに俺の気持ちをぶち撒けた事があった。

そしたらチヨは大泣きして、俺も釣られて大泣きしたんだっけ。

そこでチヨは俺に言ったんだ。

「…大丈夫!オラがソウを悪い奴らから守ってあげるっぺ!!だから、安心してけろ!」

それから、チヨは俺を泣かせたとして大人達に折檻されたという話を噂で聞いた事があった。
俺のせいだと責任を感じた俺は、誰とも関わっちゃいけない。自分の王子という立場はそういう事なんだと感じた。

そして、自分の置かれてる立場から目を背けたくて引きこもった。

そこから俺は、色々とシャットアウトし周りを見ないように自分を守る為に自分の殻に閉じ籠った。

そこから徐々に全てに無関心になっていった。

ただ、周りが俺の事を嘲笑い悪く言ってる中、みんな俺を見捨てていく中、チヨだけは俺の側にいて世話してた。余計なお世話だと思った。

…けど、心のどこかで心強く思ってたのも事実だ。その気持ちは、認めたくなくて気付かないふりをしてたけど。


今回、俺がチヨを追い出した騒動。

そこでルナ殿にチヨについて言われて、初めて知った事だらけで驚いた。

チヨは、聖騎士団長の弟子だったっていうのは驚きでしかない。あの弟子を取らないで有名な…。どうやって弟子になったんだ?

だが、ルナ殿の話の時系列から言って、チヨが俺に“守ってあげる”と言ったあの時だという事が分かる。

チヨは、俺を守る為に聖騎士団長に弟子入りしたんだ。

色々と思い返してみても、そういえばチヨは真っ直ぐ過ぎるほど真っ直ぐでお節介が過ぎるお人好しだったな、なんて事も思い出した。

そんなチヨが、自分の欲のために人を陥れるような真似をするだろうか?

いつでも、自分の事は二の次で他人の為に精いっぱい頑張るチヨが?

あまりに真っ直ぐ過ぎて嘘なんてつけない、あのチヨが?


冷静になって、ちゃんと考えれば分かる事なのに。

…いや、考えなくたって分かる事だった。

チヨをちゃんと見てあげていれば。

チヨを分かってあげようと関心をもっていればの事ではあるが、自分はそれをしなかった。

ずっとずっと、チヨといた筈なのにチヨの事を何も知らない。

むしろ、数ヶ月だけだが一緒に旅をしたゴロウやピピの方が自分なんかより、ずっとチヨの事を知っている。

ルナ殿の話が頭の中に蘇ってくる。

それは誰がどう考えても、自分を犠牲にしてまでもソウを守る為に必死になって頑張ってきたチヨの姿。

それを自分は否定したのだ。


ソウはミミに振られたショックで自暴自棄に逆戻りしていた。が、ソウの為に自分の今までを捧げてきたチヨ。それを全否定されたら、その比でないくらいの絶望を感じた事だろう。

本当に今更だが

ここにきて、ソウは自分がとんでもない酷い事をチヨにしたんじゃないのかと思えてきた。

考えれば考えるほど、自分がチヨに甘えてきた事が思い出される。
それをチヨは嫌がる素振りも見せず、どんな時も一緒にいてくれた。どんなに八つ当たりしても、自分を投げ出さずずっとずっと側に寄り添ってくれていたのだ。

しかも、チヨはソウを守る為に強くなろうと努力した。

その間、自分は何をしていた?


ミミに恋をし、チヨの気持ちも考えずチヨの前で見せつけるようにミミとイチャついた。

当てつける為だ。

チヨが自分の事を好きだと気がついてから、ウザい、気持ち悪いという気持ちから。
こんな可愛いコと恋人なんだ。だから、お前みたいなデブスなんてお呼びじゃないんだと。

チヨを傷つける目的で、あえてチヨの前では特にイチャついてみせたんだ。

ミミがレッカと一緒に、俺を馬鹿にし嘲笑い…わざと自分の前でイチャついてるのを見た時。
なんて酷い真似ができるんだ、最低過ぎる、人間のクズだと腑が煮えくりかえる思いをしたが…よくよく考えてみれば自分も似たような事をチヨにしていた。


本当に最低なのは、自分だったんだ。


そう思い立ったソウは、居ても立っても居られずショー会場を後にし商工城へと連絡した。

理由はもちろん、チヨをチームに戻してもらう為だ。

時間は掛かったが、今ならチヨを受け入れられそうな気がする。チヨの頑張りも認めてあげられそうな気がする。

ソウの為だとか恩着せがましい所はあるが、そこは多目にみてあげよう。

今なら!と。

だが、いくら説明しても城側からの答えはNOだった。“もう決まった事だからと。新しい護衛を送る。”それだけだった。どう粘ってもとりあってもらえなかった。


ならば、せめての罪滅ぼしに

チヨに恥ずかしくない姿になろう。

どうせ、旅を終えたらまたチヨと一緒にいる事になるのだ。おそらく、チヨは俺の側近として働くことになるだろう。

それまでに、チヨが胸を張って誇れるような主になるよう努力しよう。

そしたら、チヨだって喜んでくれる筈だとソウは決意した。

そして、ソウの後を追ってきたゴロウとピピに


「…次の国へ行こう。」


と、声を掛けた。

そのソウの姿を見たゴロウとピピは驚いたが、ソウの目に光が宿るのを見て希望が出てきた。何がソウの気持ちを変えたのかは分からないが見捨てず、頑張った甲斐があったとゴロウとピピは喜んだ。


次の国、聖なる国…サンクチュアリ大聖堂。
国の全体が大聖堂という聖なる国である。
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