イケメン従者とおぶた姫。

ロゼと大聖女。

大聖女エマであった。

彼女は森の精の加護で気配を消し、空の精の加護を借りフワリと宙を浮きロゼのいる屋上へと現れた。

金色のウエーブがかった絹糸の様な髪は風に流れるようにふわふわと揺れ、透き通る様な白い肌と淡い青緑色の目。鼻は小さく、唇は小さく少しだけぷっくりしている。

絵に描いたような穢れなき乙女の様な美少女だ。

「お初にお目にかかります。私はサンクチュアリ大聖堂の大聖女エマと申します。
ディヴァイン様にお目にかかれる事を光栄に思います。今後ともお見知り置きをお願い致します。」

と、両手でスカートを小さく持ち上げ、頭を下げてきた。動作もとても洗練されていて美しい。

…が…

「我はディヴァインとかいう者でもないし、そちを覚える必要もない。」

ロゼは、無表情のままエマの挨拶をバッサリとぶった斬った。

その事にエマはひどく驚いた。と、いうのも今の今までこんなにもハッキリと切られたのは初めてだったし、こんなに冷めた様子で接してこられるのも初めてだった。

それには、とても困惑し…気のせいかと思った。まさか、自分が冷たくあしらわれるなんてあるわけがないと。


「ディヴァイン様は、自身の穢れを落とす為に、パワースポットであるこの地で身を清めていらっしゃったのですよね?
そして、私達、聖女と民達の清らかな祈りにより、より清めの効果を高める事により穢れなき新たな体へと生まれ変わりここに居らっしゃるのでは?」

そう、問いかけた。

「知らん。」

またも、バッサリ否定されエマは困惑した。

何故なら、あの幻想的で美しい景色の中、確かに神聖なる何かが生まれたのを感じたのだ。
その気配は正しく目の前にいる子猫に似た神獣の気配と一致する。

おそらく、この神獣は生まれたばかりで気配を消す事がまだできないのか、そもそも消す必要がないとあえて消さずいるのだろう。

「…お言葉ですが、ディヴァイン様。
三日程前に、穢れが消えた貴方様は自身の力で女神像と教会の鐘、薔薇を使いこの地に誕生しましたよね?」

と、更に質問してきてロゼは、内心ウゲェ〜面倒くさいと今すぐにでも逃げてしまいたい気持ちだったが、あまりに必死なエマの姿を見て、このまま逃げたらこの女は地の果てまで追いかけてきそうだと、ゾッとし正直に答える事にした。

「確かに、我はこの地に思いを込め魔力で作った薔薇を作り置いた。じゃが、教会の鐘や女神像の事は我は知らぬ。それは我の誕生とは無関係の事。」

そう答えると、エマは驚きかなり困惑した様子で

「…では、あの幻想的な光景は一体何だったというのでしょう?ちょうど、その時に貴方様が誕生したのを感じ取りました。間違いありません。」

と、思わず声を漏らしていた。

そこで、はて?と、ロゼは考えた。

…何故、この地に自分が居るのか分からない。
だが、自分はこの地でお主様を待っていたのは間違いない。

だって、何故か分からないが身動き出来ずこの地から出られなかったのだから。
どう足掻いてもここから出られず、来るかも分からないお主様がここに来る事をひたすら待つしかなかった。

実態もない自分が何処に居るかも定かではない朧げな意識の中。
人々の様子を見てこの国の様々な知識を得て薔薇の花言葉を知り。薔薇をプレゼントする本数によっても意味が違うという事を知った。

なんとロマンチックなのだろう。

そう思ったら居ても立っても居られず、何故か魔力も僅かしか無く魔導すら上手く操れない。そんな状態の中

我はここにいるよ。

見つけて。

まだ、見ぬ我のお主様。

会った事もないはずなのに、ずっとずっと一緒にいた事がある懐かしさを感じる。

愛おしい気持ち、側に居たいという気持ちで溢れてくる。

何故にこんなにも恋焦がれているのか…会いたい…会いたい…愛するお主様に…


その思いだけを希望に、消えそうになる意識を何とか保っていた。

…何故だか、自分の意識を保たなければ“自分が消えてしまう”恐怖があったからだ。

朦朧とする意識の中、何故か体力も魔力もガス欠状態の自分が出せるだけの魔力を使い少しずつ少しずつ思いを込めて気の遠くなる様な作業をし、せっせと枯れる事も傷つく事もない無敵の薔薇を作った。

お主様を思う気持ちと自分の存在を薔薇であらわした。

それが、その時のロゼの精一杯だった。

そして、何故かこの地から離れる事のできなかったロゼは薔薇の中でお主様が来るのをずっとずっと待っていたのだ。

だが、ロゼの気持ちが伝わったのか奇跡が起きた。

お主様がこの地に足を踏み入れた瞬間だった。

朦朧とし消えかけていたロゼの意識はハッキリと目覚め、殆ど失いかけていた力も戻った。

その力でロゼは自分の作った薔薇に閉じ込めて置いた自分の魂の分身達をかき集め、薔薇の実体を駆使し自身の実態ある体を手に入れ誕生する事ができたのだ。


しかし、エマの話を聞いていて違和感があった。

ロゼがディヴァインではないと断固として否定していたので、ロゼがディヴァインだと信じ切っているエマは

「…ま、まさか、誕生とともに記憶を無くされたのでは?」

そう憶測を立て、この国の成り立ちやらディヴァインの事やら詳しく話し始めてきたのだ。

…ゲェ〜…なんだか長くなりそうだとゲンナリしていたロゼだったが、聞いているうちに何か引っかかりを感じた。

その時だった。


『バカ猫!時間はとっくに過ぎてるぞ。なに、やってるんだ。』

と、耳から伝導し脳内にサクラの声が聞こえてきた。これは波動の術の一つ“言葉飛ばし”だ。
どんなに遠くにいても、相手の気を辿り空気中の振動を使い伝えたい相手だけに喋りかける事のできる技である。

サクラの言葉でもうそんな時間になってたとはと、ロゼは帰ろうとし

『仕方なかろう!大聖女とかいう女子が、我とディヴァインとやらを勘違いして話しかけてきたんじゃ!いくら、人違いじゃと言うても引かんくて困っとったんじゃ!
今すぐ、帰る!きっと、我が居なくてお主様が寂しくて泣いてる!!」

なんて、帰るに帰れなかった事情をサクラに、脳内に直接喋りかける事のできるテレパシーで喚きながら説明した。

すると

『…少し、そこで待て。』

と、サクラが言った後に少しの間、間があいたかと思うと

『オブシディアンとも相談したが、もしかしたらショウ様や俺達に関わる事かもしれない。
だから、お前は出来るだけ大聖女から情報を聞き出せ。今、オブシディアンがそっちに向かった。』

なんてムカつく事に、命令口調でロゼに言ってきた。だが、ショウに関わる事かもしれないと知った以上面倒くさいがやるしかないと思った。


「…ホウ。なれば、そのディヴァインとやらは穢れに塗れた自分を清める為にパワースポットの中心であるこの地を選び、聖堂院まで建て人々の清らかな祈りを自身に捧げさせる事で更に穢れを落とす精度を高めたとな。」


「はい。代々の大聖女様達は、聖女の力を授かったと共に神よりそのお告げが告げられるのです。」

エマは、真っ直ぐな目でロゼを見て答えた。
嘘偽りはないという意思を伝えているのだろう。ディヴァインだと信じロゼと対面しているエマの体は恐れ多いという緊張から小刻みに震えている。

と、そこでロゼは、ほんの微かだがオブシディアンの気配を感じ取った。おそらく、オブシディアンがここに来るという情報が無ければ気付けなかったかもしれない。

そして何より早い。
ロゼはワープ(瞬間移動)や、空間移動のテレポーションを使う事ができるがオブシディアンはそういった事ができない様だ。

代わりに、もの凄いスピードで障害物を避けながら走って来る。走ってこのスピードでここまで来た。なのに、息をする呼吸の音すら聞こえないどころか気配まで消している。

それで、ここまで気配を消せるとは…

ロゼはオブシディアンの能力に驚いていたが、そこに

『ボクの事は気にせず、ロゼ君はとにかく彼女から聞き出せるだけ情報を聞いてほしい。』

と、オブシディアンの声が聞こえハッとした。

『わ、分かっとるわ!我に命令するでない!愚か者めが!!』

そう言い返し、ロゼは気を取り直し

「…して、聖女の力とはいつ授かる事ができるんじゃ?」

と、聞いた。

「はい。それは生まれた時から分かります。」

「…生まれた時からじゃと?」

「はい。先代の聖女様が命を落とす時。
聖女様は次の聖女の予知をします。何年後のいつ次の聖女が生まれるのかを。」


それを聞いてロゼは驚いた。
次の聖女が生まれる時が予知できるものなのかと。…正直、何だか不気味だなと思ってしまった。

「聖女が生まれた時も分かりやすいです。
聖女には、生まれた時からこの痣があるのです。」

そう言って、エマは服を脱ぎ形もよく膨らみの中心に付いている小粒はサーモンピンク色で美しい胸を見せてきた。

エマが服を脱いだ時、ロゼはエマを痴女かとドン引きして見てたがエマの胸の中心にハートに似た金色の紋様があった。


「この痣が白色ならば聖女。金色だと大聖女と分かるのです。
聖女だと分かると、立派な聖女としてある為に親から離され修道院で育てられます。
もちろん、自分の産みの親をエコ贔屓するのを防止する為に親の事は一切知らされません。」


その話を聞いてロゼは思った。そこまでして、ディヴァインを崇拝するのかと。おかしくないか?

もし、我とお主様に子供ができて国の為に犠牲になれと子供を取り上げられたら…そう考えると耐えられない。気がおかしくなってしまうのではないかと思う。

考えただけで胸がギュッと縮まる思いがした。

自分の子供なのに自分の子供と言う事も許されず、いつ姿を見せるのか分からない自分の子供を一般市民としてただ遠くから見るだけ。

聖女達も親の愛情を知る事もなく、自分のやりたい事も出来ずに日々聖女として精進しなければならない。

自分の将来を選ぶ事ができない国の…いや、
自分の為にこの国を作り上げたディヴァインの操り人形の様に思えてしまう。

この国の人々は、ディヴァインにいいように使われ信仰させられそれが正しいと信じきっている。

だが、それで彼女達が幸せなのなら自分は何も言えないが。…だけど、やっぱり…

何とも、やるせない気持ちになるロゼだ。


「私達聖女はディヴァイン様に身も心も捧げています。」


そう言い切ったエマに、ロゼはいい子ちゃん過ぎるエマに人間味を感じず、気持ち悪く見え


「もしも、我がディヴァインだったとしたらの話じゃ。今すぐに我とまぐわえと言われたら、ソチはこの獣の姿である我とまぐわえるのか?」

なんて、品行良好で優等生過ぎるエマの焦る姿見たさにおちょくってみた。

すると


「もちろんです。その為に、聖女は幼き頃からディヴァイン様が体を求めてきた時、喜んで頂けるよう訓練もします。
もちろん、穢れがないようディヴァイン様の為に貞操はまもり初めてをディヴァイン様に捧げるようにしています。」


なんの戸惑いもなく、そう言ったのだ。

それに対し、逆にロゼの方がたじろぎ焦ってしまった。

…え?

小さい時からディヴァインの性欲を満たす為の訓練してる…???

ディヴァインの為に初めてはとっておいてる?

…なんじゃ、そりゃ…

そもそもの話。ディヴァインは穢れを落とす為にこの地で身を清めているという話だというに、ディヴァインの肉欲を満たす為に聖女がその身を差し出すなど、おかしな話ではないか?

それでは、穢れを落とす意味がなかろうに。また新たに穢れがつくとは思わんのじゃろうか?

…我には理解し難いよう分からん話じゃ。


…ゾッ…!


何やら、この話は闇が深そうじゃ。これ以上深入りせんとこ。

なんか、怖くて眠れなくなりそうじゃ…

…今、無性にお主様に会って、いっぱい甘えて不快なこの気持ちを晴らしたい気持ちじゃ。

お主様…今すぐ会いたい…


なんて、ロゼはもうこんな悍ましい話聞きたくないと耳を伏せたくなった。


「安心せい。我はそち達には微塵も興味はない。何より、ずっと言っておるが我はディヴァインではないからの。じゃから、服を着よ。興味もない女子の肌を見ても不快になるだけじゃ。」

と、ロゼは服を脱ぎっぱなしのエマに服を着るよう促した。


「……っ!!?も、申し訳ございません!お見苦しい姿を見せてしまいました。」


エマは、とても驚いた表情を浮かべ焦ったように服を着た。

何をそんなに驚いているのかよく分からないが


「…して、ディヴァインの容姿の特徴は分かっているのか?我と似ておるとでもいうのか?」


と、自分とディヴァインは別人だという事を証明し諦めてほしくてそう問いかけてみた。


「はい。聖女の力はディヴァイン様によって作られたものです。」


「………ッッッ!!?」


エマの言葉に驚くと同時に、ディヴァインの容姿の特徴を聞いただけなのに、こやつ何か余計な事まで語り出したぞとビックリした。

ビックリしたが、もの凄い情報を知ってしまった。

人に力や能力を授けるなど…我とてできるかどうか…

それをやってのけてしまうディヴァインとは一体何者なんじゃ?


「ディヴァイン様は、人の能力や力、潜在能力までも見抜き、魔導の光や治癒に特化した人間に聖なる力を与えて下さいました。
そして、ディヴァイン様はこの聖地全体に、ディヴァイン様が定めた光・治癒魔導の基準値を超えた者だけに聖女の力が宿るようにして下さいました。」


「…基準値?」


「はい。聖なる力は強大な為、その基準値を上回らなければ力が暴発し命を落としてしまうからです。
そして、聖なる力は光・治癒に共鳴しているので、その能力者でかつ魔導の力・ゲージが高くなければ聖なる力を宿す事はできません。
それ以外の能力しかない者が無理矢理その能力を与えようとしても授かる事はできないらしいのです。」


なるほど。だから、この地でしか聖女が存在しないのかとロゼは納得した。

そして、なかなか聖女が誕生しない理由も分かった。そんな高すぎる条件をクリアできる者はそうそう現れるものではない。
50年…いや。もしかしたら、100年に一人、現れるか現れないか…そのくらいに稀少な存在であろう。

聖女というだけでとんでもない逸材で人々から尊敬され高貴な存在なのだろう。
ならば、大聖女ともなれば存在するだけでもありがたい王様的存在なのかもしれない。


では、目の前の大聖女を名乗る女子はすんごい人だって事になるなぁ

でも、我には関係にゃ〜い!

どーでも、いいにゃんにゃんにゃーん


なんてロゼは他人事の様にお気楽に考えていた。


「そして、この国で一番最初にディヴァイン様直々に力を与えられた大聖女様は、大層お綺麗な方だったそうです。
そして、二人は愛し合いディヴァイン様の頼みとあらばと大聖女様はこの国を作り、愛するディヴァイン様の穢れを落とす為に毎日祈りを捧げていたそうです。」


…穢れとは、どういう類の穢れかは分からぬが、ディヴァインとやらは、すんごく美人な大聖女とちゃっかり恋仲になっておったんか

穢れがどうのと大層な事を仕込んでいるから切羽詰まってるのかと思いきや、随分と余裕じゃのぉ

そう思うに、その穢れとやらはディヴァインにとってその程度くらいのものなんじゃろうな

その程度の事に、この国の者達はずっと振り回され続けておるのか…


と、ロゼは何とも言えない気持ちでいた。
そして、心の中では色々感情豊かに騒いでいるが、あくまで表面上は無表情を決め込んでいる。


「初代大聖女様が残した書物の中に、ディヴァイン様の容姿についても書き記しています。
ディヴァイン様の容姿はこの世の者とは思えぬ程の美貌で、そのお姿を見るだけで腰が抜けてしまう程。中には、あまりの美しさに失神してしまう者もいたとか。」


…なんじゃ、そりゃ

失神してしまうなど、そんな大げさな

さすが、言い伝えじゃ。時代の流れとともに誰かの手によって面白おかしく色付けされたんじゃろ


なんて遠い目をしながら興味のない話を適当に聞いているロゼだ。何なら、寝転んで鼻くそでもほじりたり気持ちだ。


「そして、ディヴァイン様の容姿の特徴として髪や肌は黒真珠の様に真っ黒く髪の毛の先端にいくほどに赤いグラデーションになっていたとか。目の色は美しいルビー色の赤。

ディヴァイン様は、自分の目とグラデーションの色の“赤”は、“本来の自分の色ではない”と仰っていたそうです。」


そこまで聞いて、ロゼは何か聞いた事がある話だなと眠かけていた目が嫌な予感で覚めていくのを感じた。


「本来の目の色と髪のグラデーションの色は、菫色…つまり紫色だったらしいのです。
ですが、ディヴァイン様は大きな罪を犯し“裏切りの赤”で、その目と髪が赤く染まってしまった。そのせいで、命よりも大切な宝を失ってしまったというのです。
穢れてしまった自分の体を清め穢れを洗浄し綺麗にし、宝を迎えに行こうと考え実行していると示されています。」


体を清めという事は、犯されでもしたか?

それとも、浮気関係であろうか。

はたまた、肉体関係の爛れた生活を続けてきたのか。

いくつかパターンはあるだろう。

しかし、自分の意思とは関係なく無理矢理に犯されたというなら穢れを落としたい。巻き戻せるなら穢れなき時に戻りたいというなら分かる気がする。

だが、自分の愚かな行為のせいで後になってから後悔しようが自業自得としか言えない。
まして、そこで相手を傷つけていたというなら尚更だ。

それで、穢れを落とすとか何とか抜かすのはあまり感心できないなとロゼは小さくため息をついた。

おそらく、“裏切り”“宝を失った”というからには、浮気三昧で恋人或いは妻に愛想を尽かされ逃げられたという事だろうと想像した。

ショウ一筋のロゼには理解し難い世界だし、理解しようとも思えない。

聞けば聞くほど愛妻家(?)であるロゼは腹が立ってしまう。


…無理じゃ!

もう、聞いてられん!!


と、ディヴァインの話を聞いていて、あまりの倫理観の無さ、モラルの欠ける話に、不愉快極まり過ぎてショウの所へ戻ろうかと考えていた時だった。


『我慢してほしい。これは、やはりショウ様に大きく関わる何かの可能性がかなり高まった。』

そう言ってきたオブシディアンの声に緊張が走っているのを感じた。

大聖女の話で、どこがショウに関わりあるのか分からないが、取り敢えずもう少し話に付き合っておくかとロゼは嫌々ながらもつまらない話を聞く事にした。


「ディヴァイン様が誕生した時の気配。そして、気配を追い実際に会って更に確信しております。あなた様は、ディヴァイン様だと。
きっと、いまのお姿は仮の姿だと思っております。神獣の姿であっても、その漆黒の美しい毛並み。オッドアイは、紫色と金色。
…何より、今まで見た事もない程に美しいお姿。」


エマはホゥ…と、うっとり惚ける様な表情でロゼを見ている。


…ゲェッ!?

まだ、我をヤリ◯ンディヴァインだと思うとるのか!

そんな下半身ユルユルと我を一緒にせんでほしいわ!


そんな奴と同一人物だと思われてるとはとゾワワ…!と、悪寒し、一緒にされたくない、許せん!なんて、プンスコ憤慨し


「…まったく!特別じゃぞ?
我がディヴァインなどではない確たる証拠を見せようぞ。」

ロゼは、変化の魔導を解き元の姿に戻って見せた。

その姿を見て、エマはかなり驚いた表情をし固まっている。


「フフン!どうじゃ?
これで、我がディヴァインではないと分かったであろう。」


と、自慢げにドヤ顔をするロゼ。

しかし、大聖女は


「…な、なんと美しいのでしょう。
初代様が残して下さった書物通り…こんなにも美しい方がこの世に存在するなんて…!」


と、顔を熱らせ感動で全身が震えていた。


「…やはり、ディヴァイン様はあなた様で違いありません。少々、記述とは異なる部分もありますが。

ディヴァイン様は、“雫型の黄色い宝石”を大切にされていたそうです。何でも、その宝石を自分の体の一部にするのだと、そう仰っていたらしいのです。

あなた様のその金色の目の中にある瞳孔。よく見れば“雫型”をしています。」


そう言われ、ロゼは思い出していた。

ショウと初めて会って会話した時だった。

「わぁ!ロゼの金色の目、よく見たら黒目の所が涙の形してるね!すっごくすっごくキレイ!!」

と、言って珍しがってはしゃぐショウの姿を。

その時は、お主様が喜んで下さってると気分が高揚し嬉しく思っていただけだったが。


…嫌な予感しかしない。


胸が、冷たくざわつき

早くここから立ち去りショウに抱き締めてもらいたい気持ちでいっぱいだ。


「髪も肌の色も漆黒色。特に肌の色が漆黒色なんてディヴァイン様とあなた様しか知りません。髪こそグラデーションではないものの、ウエーブがかった腰より長い髪。
男性とも女性ともとれる中性的な容姿。
少々悪役を思わせる顔立ち。
何より、紫色のその目です。浄化で穢れが落ちた証拠。そして、涙型の金色の瞳孔。
そして、美の全てが集まったかの様な美貌。」


そこまで大聖女が言った所で、ディヴァインと一緒にされたくないロゼはカッとなって


「その様な不埒者と我を一緒にするでない!!」


と、ふくらはぎまであった長い髪をバサリと切り短髪にした。

それを見た大聖女は

「…ヒッ…なっ、なんて事を!?
せっかくの美しい髪が……!!?」

小さく悲鳴を漏らし狼狽えていたのを尻目に怒りのままにロゼは大聖女の前から姿を消した。


「…ディ、ディヴァイン様ッッ!!!?」

大聖女がハッとした時にはロゼの姿は無く、いくらロゼの気配を探っても少しも感じとる事ができなかった。


「…わ、私は、なんて事を…!!?
ディヴァイン様を怒らせてしまいました。」


と、腰が抜けたのか、ふにゃりと膝から崩れ落ちポロポロと涙を流した。


「…またです。また、ディヴァイン様の気配が消えました。…さっき、ようやくディヴァイン様の気配を感じ取る事ができ…会う事が叶ったというのに…。…私は何という事を…」

そう言って項垂れた大聖女の言葉を聞き、物陰に隠れ二人の会話を聞いていたオブシディアンは

大聖女の言葉を聞く限りでは、ショウ様と離れ別行動をしていた時にロゼの気配を感じとる事ができたという事になるな

ロゼの気配は、ロゼが誕生した瞬間の気配を覚えたのだろう

一瞬の気配さえ覚えてしまうとは恐れ入る

しかし、何故ショウ様の側にいるだけでロゼの気配が消えてしまうのか

…確かに、今探ってみてもボクでもロゼの気配を感じとる事ができない

どうなっているんだ?


と、オブシディアンは考えつつも、“一人弟子も増えた”し、仕事が増える一方だなと苦笑いしながらショウ達の元へと戻っていった。



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