イケメン従者とおぶた姫。

……え???

一方、ショウの意識の中に入り込んだサクラとロゼは不思議な空間へと来ていた。

そこは海なのか空なのか、果てしなく青が広がっている。上には大小様々な大きさの色とりどりな星がキラキラと輝いている。
下を見れば、上にある星が映し出されていて上下が分からなくなる。

しかし、下をよくよく凝らして見れば

奥底の方に真っ白な分厚い雲が覆っており、所々隙間が開いている。
その隙間を集中して見ていると、妖精かエルフでも住んでいそうな緑豊かな森の中心にとても大きな大樹が聳え立ち、その大きな枝の先から虹色の水が流れその水は大樹を覆う様に美しい湖になっている。

別の隙間を見れば、円柱形や円盤型が幾重にも重なった様な形の空に浮かぶ真っ白な建物がたくさんある。円柱形のビルの様に高い建物には螺旋状の階段がある。

別の隙間は、たくさんの朱色の四角い門と提灯、六角形の屋根の建物の周りは赤や黄色、その中にアクセント的に緑の木があり色鮮やかだ。

他にも数えきれないほどに雲の隙間があり、その隙間一つ一つが別世界になっていると容易に想像できた。

ただ、この雲は意識して相当凝らして見なければ見えなく、雲の隙間を覗くにはかなりの集中力がいった。

だから、普通にしていれば宇宙を映し出す湖の様に見える。だが、湖と思うがそこに沈む事なくその上に立つ事ができている。

その上を歩けば波紋が広がるが足音も出ることはないし重力も感じない。ただただ、心地いい空間だった。

幻想的でとても不思議な空間だ。


「…こ、ここがショウ様の意識の中…」

と、サクラは驚きつつも感慨無量そして恐れ多いと胸が詰まる思いがした。

そこに、ロゼが


「…サクラよ。あったぞ。」

緊張した面持ちで声を掛けてきた。
サクラが、ロゼの視線の先に目を向けると


…ドックン…!


そこには、美しい紫の中に赤と黒が僅かに入り込んだ様なマーブル状の霧状の歪みがあった。その歪みの赤と黒部分はおどろおどろしく、神秘的で美しいこの空間にはとても不釣り合いで異質に見えた。

歪みは人一人が通れるだけの大きさがあり、その奥から微かに声がする。

ショウの意識の中に入った為、ショウの気配に包まれているこの空間ではショウ本体が何処にいるのか探すのが困難であったが、歪みに近づき集中して気配を探った所。
やはり、このあからさまに怪しい歪みの中からショウの気配の芯を感じ取る事ができた。

サクラはロゼとアイコンタクトを取ると、意を決し歪みの空間へと飛び込んで行った。

中に入ってすぐに、ショウの姿を見つけ二人は急いでショウの所に駆け寄った。

「ショウ様っ!!」

「お主様っ!」

二人の声にショウは


「…サクラ!ロゼ!!」

と、心細かったのだろう助けを求めるように手を伸ばし二人に抱きついてきた。そして、二人の体の体温を感じホッとしたのだろう。強張っていた体の力が向けるのを感じる。

「もう、大丈夫ですよ。」

と、サクラがショウを安心させる言葉を掛ける隣で

「我はお主様が心配で心配でぇ〜!お主様が無事で良かったぁぁ〜〜!もう、我、生きた心地がせんかったぁぁ〜〜!!」

ロゼは、ショウをギュウギュウに抱きしめおいおい泣いていた。

そんなロゼにショウは

「ロゼとサクラが来てくれたんだもん!もう、大丈夫だよ。ありがと!」

と、ロゼの背中をポンポン優しく叩いてロゼを落ち着かせるという謎の光景に、サクラは逆だろと若干引き気味にロゼを見た。
が、ロゼの大げさなくらいの主張により、自分が言えない不安や苦しさ、葛藤などの気持ちがショウに伝わった気がして少し気持ちが楽になった。

そして、ロゼが大騒ぎするおかげか、ショウはいつの間にか落ち着きを取り戻していたようだ。

…なんか癪で認めたくないが、ロゼが居てくれて良かったかなとサクラは感じていた。

そして、少し落ち着いた所で、ようやくここの空間の様子を見る余裕ができた。

ここも、また不思議な空間だ。

だが、真っ赤な他人の世界に入り込んだ気持ちがしてすこぶる居心地が悪かった。
ここは、お前達の踏み入っていい場所ではない。早く、出て行けという様な空気さえ感じる。

しかし、ここも美しい風景だ。

桔梗の花があたり一面に咲いている自然豊かな落ち着いた場所。

その中にポツンとお城の形をしたお洒落な一軒の小さな家がある。
空も雲も木も…全ての色が、紫色で統一されている。綺麗ではあるが、人が住むには寂しい場所だ。

そこに


「…しかし。これは、ほんに…」

「…ああ。こんなのが、ずっと頭の中に響いてたんじゃ心を病んでしまうな。」

サクラとロゼは、この居心地の悪い空間に響く


“こっちだよ”

“早く、おいで”

“…どうして、来てくれないの?”

“ここだよ”

“…ここに、いるよ”

“…寂しいよ…助けて…”


相手の感情が言葉や声の様な形になって自分の心に伝わってくる。だけど、言葉や声では決してない。不思議な感覚だ。

それは、不安と孤独、寂しさが感じられ、まるで捨てられた子供のようだと思った。

だが、自分が捨てられた事にも気付かず…いや、気づきたくなくて“どうして?”“何で?”と、不安でいっぱいになりながら“ここに自分はいるよ”と、必死に訴えかけているように感じる。


こんな声をずっと聞いていたんじゃ、心苦しくてたまったもんじゃない。すぐに精神がイカれてしまいそうだ。

この国に来てから、ずっと、こんなのがショウの頭の中に響いていたんだと思うと
“何故もっと早く気づけなかったんだ。もっと早く対処すべきだった”
と、サクラは自分の注意不足のせいだとショウに申し訳なく感じていた。

ロゼもまた、この中でお主様は悩まされながらも我を優先して助けてくれたのかと感謝と共に、心苦しさも入り混じり切なくギュッと胸が締め付けられる思いがした。

と、その時だった。

先程までの紫色の美しい風景はガラガラと崩れていき、次第に血に塗れた様なおどろおどろしい赤黒い空間へと変化し

心に訴え掛けてくる内容もガラリと変わってしまった。


“…犠牲者が二人、入り込んで来たな。”


“入り込んだ”“二人”と言うからにはサクラとロゼの事だろう。

だが、引っ掛かる。


「…犠牲者じゃと?」

思わず、ロゼは疑問を口にし首を傾げた。


“…何故、オレ様より劣るお前らが天守なんだ?”

“可哀想になあ。”

“そこに居る、能無しのデクの棒の為にまた犠牲者が増えるなんてな。”

“運命に縛られ抗う事も許されない操り人形でしかない奴らがノコノコとこんな所までやって来るとはな。”


今度は何を言い始めるんだと、サクラとロゼが困惑していると


“…なあ?お前らは、何回…いや、何百回でその出来損ないを受け入れる事ができた?”


何やら、引っ掛かる内容が飛び出してきた。


「…何回でとは…どういう事じゃ…?」


“…お前らは、本当にそのデクの棒を心から愛し守りたいと思っているのか?何故?”


デクの棒という言葉に苛つきを覚えるが矢継ぎはやで語り掛けてくる言葉の内“何故”という問いに、サクラもロゼも愚問だな。
それは、心からショウ様を愛しているからだと心の中でドヤッとしていた。

ところが


“疑問に思わないか?”


「…疑問?」


“オレ様よりだいぶ劣るが、スペックの高いお前らがこんな底辺を気にかけるなんておかしくないか?”

“こんなのを好きになるなんてあり得ねーだろ?”


…いやいや、スペックとか関係なく好きになってしまったんだから、いいじゃないかとロゼは思ったし

サクラも、何言ってるんだコイツ。どんだけ、自分が好きなんだよと、シラーっとしていた。


…のだが…


“しかも、ただの好きじゃねー。不明な噂話の様な運命人ってやつだぞ!?こんなのが実際にある事すらおかしい話だ。そんなの誰が決めた?自分の意思でか?”


“違うだろ!?自分でこんなの選ぶわけがない!
何者かがオレ様達の心の中を弄って洗脳にしてるはずだ。そうでなきゃ、こんなのある訳がない。”

“なあ、考えてもみろよ。
この底辺のデクの棒を誰が好きになれるよ?”

“オレ様は別格だが。三人の超ハイスペックが、こんなのと運命人なんだぜ?運命人が居るってだけで宝くじの一等賞が当たるくらいにとんでもない話だ。なのに、コイツは運命人が三人もいる。しかも、全て恋愛の方だ。
加えて、三人が三人全てが備わってる極上だ。”

“おかし過ぎるだろ?出来過ぎだと思わねーか?仕組まれてるとしか…操作されてるとしか思えねーだろ!?”


そこまで言われた所で、確かにとサクラとロゼはここ別々の疑問を感じてしまった。


…ドックン…


かなりの肥満児で肥満というだけで恋愛から遠ざけられる存在だ。加えて、見た目も中の下あるいは下の上という所だろうか。

つまりは、超肥満児のややブサイク気味である。

性格も至って普通の性格で、特別いい所というものも見当たらない。

才能や能力についても皆無。

面白い話の一つもできない。

女性としても人としても、何の魅力も見出せない。

考えれば考えるほど、誰にも見向きもされない恋愛対象外な可哀想な女子だ。
つまらない人間なので友達すらできないだろう。


そんな女子に、眉目秀麗・文武両道な男が三人も夢中になっているのだ。


…確かに、出来すぎている…


…おかしい気がしてきた…


今までそこまで思う事も考える事もなかったが、そんな風に言われ考えてみれば見るほどに疑問が生じる。


徐々に、そう感じてしまってきたサクラ。


更に、疑問を感じるのが



…ドックン…!



“その上で、もう一度聞く”



…ドックン…!



“お前らは、何回目でその無能なデクの棒を受け入れる事ができた?”


しかし、コイツの言っている“何回”という意味が分からない。分かるのは、天守の試験内容だという事だけだ。


“なあ、その気持ちは本物か?本当に自分の意思か?”


と、問われ

…自分の気持ち…?

サクラは、この気持ちが本物なのか。本当に自分の意思でショウを愛しているのか分からなくなり気持ちがグラクラと不安定になってしまっていた。その時

近くで愛しい人の泣く声が聞こえた。

何故、胸の中から聞こえてこないと思ったサクラとロゼは、泣き声のある場所を見て驚き凍りついた。

何故なら


ずっと抱き締めていたはずのショウをいつからかサクラは、両手で押しのけ遠ざけていたからだ。


…ゾックン…


自分の腕の長さだけ離れたショウは、声を押し殺しながら俯き泣いていた。

その姿を見て、自分はなんて事をしてるんだと心を痛めショウを抱き締めようとするが…ゾワリと拒否反応が出て動けなかった。
ショウの心を慰める言葉も、どうしてか嫌で声に出せなかった。


…おかしい…

気持ちがぐちゃぐちゃで何が何だか分からない。

この気持ちは自分のものなのか、偽物の気持ちなのか…分からない…どうしたらいいんだ。

何なんだ、この感情は……。


そんな風に、サクラは混乱していた。


“…クククッ!やっぱ、お前らも疑問感じたか。
もっと、おもしれー話もあんだゼ?”


と、いう言葉にサクラとロゼはビクッと体を強張らせた。


“オレ様は、そのデクの棒の絶対的な天守だった。
…だが、オレ様が“天守の能力”を捨てた時、試験で三位。つまり、試験に落ちた奴が繰り上がって“天守”になった。それが、お前だよ。”


いつの間にいたのか、人の形をした黒い靄がロゼを指差した。


…ドギィィーーッッ!!?


「…え?」


指を刺されたロゼは、今度は何を言われるのかと凍りついた心臓が飛び跳ね痛く感じた。


“天守の力を【捨てた】オレ様は、捨てた事を死ぬほど後悔したんだよな。
だから、微かに残る自分の天守の残りカスを頼りに“天守の剣”を探し見つけ出した。
そしたらよぉ〜、お前が”天守の剣”として生まれ変わってんだもんな。その能力は元々オレ様のもんだったのに。”


……え?

と、サクラとロゼは驚いた。

だが、サクラは確かにコイツは、天守としてショウ様と一緒にいた事がある。
そして、天守の力なんていらないと自分に与えた事も。だが、コイツの天守・剣の力は自分に宿らなかったようだ。

その力は、次の天守候補者に与えられたんだなと思ったら妙に怖く感じてしまった。

…自分が使い物にならなくなったら、いつでも替えがいるという事なのではないか?


…ゾッ…!


“しかも、天守の剣とお前の相性が良かったのか分からねーが、天守の剣とお前が上手く融合し一体化しちゃってんだ。
それには流石のオレ様も驚いたゼ?
オレ様と馴染めずブレブレだった天守の能力だったのに、その能力がお前に与えられた瞬間にスッと入り込んだんだもんよ。最初からお前の一部だったかの様だったゼ。”


天守の力がロゼには適応され、ダリアには拒否反応が出ていたという事だろうか?

…何故?

サクラとロゼは、その事がどうも腑に落ちなかった。



“…ふざけんなって思った。
だってよ、それは元々オレ様のモンなんだ。返せよって思ったが、取り出す事なんざ無理だった。”


どういう事だ?

天守の力を捨てる事は可能でも、取り戻す事は不可能?

一度でも手放せば、もう二度と自分には戻る事のない仕組みにでもなっているのだろうか?

そもそも、天守の力は自由自在に取り入れたり捨てたりできるものなんだろうか?

少なくとも、自分は捨て方すら知らないとサクラとロゼは困惑している。

困惑しているが、この内容の話を聞いているうちに段々と天守の力に疑問が湧いてくる。そして、自分のモノなのに何故別のヤツが持ってるんだという怒りと衝撃を覚える様な気持ちになっていく。


そこで、ロゼはハッとした。


…ん?おかしいのぉ

なんだか、我の気持ちの他にコヤツの話で徐々に気持ちが影響を受けてる部分もある

同じ内容の話が長ければ長い程、コヤツの感情に我の気持ちが引っ張られておる気がする…


と、思った所でハッとした。


なるほどの!


そう思ったが


聞けば、ディヴァイン…ダリアでしか知りえない貴重な情報が多い。

だから、ロゼはダリアから聞けるだけ情報を引き出しさなければと感じ、少々危険ではあるが少しの間だけ黙って聞く事にした。

もう一つ、大事な事。
間接的かつ部分的ではあるがコイツの感情を感じ取る事で、何故こんなにもコイツがショウに執着するのか知る事ができると思ったから。

そこで、なんらかの対策ができるかもしれない!

これは、ピンチでもあるが同時に願ってもないチャンスだと考えた。



“なら、オレ様の体の血肉にすればいいと考えが至った。だから、お前が天守になって生まれた瞬間を見計らってお前をオレ様の体に吸収してやった。”


…ゾッ…


コヤツ…自分本位もいい所だろ。自分の欲望の為なら人の命を奪う事すら何とも思わぬのか


“だが、お前はオレ様の精神、体の中でしぶとく抗っていたな。大人しくオレ様の血肉になればいいものをよ。”


…コヤツ、イカれとる

ロゼは自分の中に流れ込んでくるディヴァイン…ダリアの情報や気持ちの情報の整理に精一杯でショウとサクラの様子までみる余裕がなかった。


“ああ、そうそう。バカなお前らに教えてやるよ。お前らがソイツに対して抱いてる感情は、【合うまで】何回も何回も色んなシュチュエーションで試した結果。
つまり【無理矢理に手繰り寄せ芽生えたさせた気持ち】だ。ソイツにとって都合良い話だよなぁ?”

…どういう事だ?

無理矢理、芽生えさせた気持ち?

一体コイツは、何を言ってるんだ?


“本来なら、見向きもされない人間のくせにさ。”


それにしても、コヤツ…あまりに人を軽視し過ぎてはないか?

独断と偏見が凄まじい気がするのぉ

じゃが、サクラから聞いた話とコヤツの話を聞いて思ったが…

コヤツには、容姿、才能、カリスマ性など完膚なきまでに全てが備わっておるのじゃろう

じゃから、大きな

苦労を知らない

辛抱する事も知らない

傷つく事も知らない

屈辱なんて知らない

周りから称賛の声しかない


そりゃ調子こきにもなるじゃろうて

チヤホヤされるのが当たり前に過ごしたせいで、自分こそ頂点、最高じゃ。
自分に勝る者などおらぬと、自分以外の全てはちんけじゃと見下しておる感じが伝わってくる

じゃが!コヤツの気持ちが分かる所も大いにある!!

分かる気がしないでもないが、全く理解不能な所がある


ロゼは、自分の気持ちではない別の気持ちが流れ込みその気持ちを感じ考えてみる。


我は無比の存在じゃと思うておるし、我の他みなクソの様にしか思えん!

我、最高!我、凄い!

そこの部分だけはよく理解できるが…

どうも、【アレ】だけは理解できん



“お前らはどうにか受け入れる事ができたみたいだが、オレ様は何度、試してもダメだった。
どうしても、ソイツを受け入れる事ができなかった。

そんで、姿も現さねー試験官に、
【これは何千、何万回とシュチュエーションを変えても、魂を引き合わせ気持ちの強さを高めても無駄だ】
って、言われたんだゼ?”


サクラ、ロゼ共に、試験官?シュチュエーションを変えて??何の話だ???と、ダリアの言ってる意味が分からずいると


“…ああ、頭も悪ければ察しも悪いお前らじゃ、何の事を言ってるか分からねーよな。
まあ、それはどうでもいい。とりあえず、オレ様の要求はたった一つ。そのデ「……もう、イヤ……」


ディヴァインが要求を出そうとした所で、ショウが苦しそうに声を漏らした。
その声によりディヴァインの要求の声を止まった。

ハッとし、サクラとロゼがショウを見るとボタボタと大粒の涙をこぼし俯いていた。


「…ショウ様…」

自分のせいでショウを泣かせてしまっていると自覚しているサクラは、ショウに何の言葉も掛けてあげる事もできなかった。

可哀想なショウを直ぐにでも抱きしめて大丈夫だと安心の声を掛けたいのに。

…苦しい…

胸がはち切れそうだ


愛しい人が、こんなにも悲しんでいると言うのに原因である自分達は安心させる言葉さえ掛けられる訳がない。そんな資格なんてない。

すぐ目の前にいるというのに、まるで空気のように何もできないとサクラは悔しそうに肩を震わせ俯いている。


なんだか嫌な感じの空気を感じ取りロゼは


……え?


と、驚きショウとサクラを見た。

二人の空気の悪さにビックリし過ぎてロゼはフリーズした。


「……サクラもロゼも、私の事キライだったんだね。でも、よく分からないけど【天守】に選ばれちゃって無理矢理、私のお世話をしなきゃいけなくなったって事だよね?」


…違う…!


そう思っても、後ろめたさもありサクラは声に出せない。

ロゼは、…え?え?え?なに、コレ…?どうした?何があったんじゃ?と、二人の様子に理解が追いつかずキョトーーーンと首を傾げている。


「…もう、いいよ。そんなのに囚われなくていいんだよ?二人は自分の好きな様に自由にして…」


と、ショウが涙を流しながら言った。

きっと、この言葉はショウの本心ではないだろう。裏切りに似た感覚を覚え、気持ちが投げやりになってしまい勢いに任せ思ってもない事を口走っている。

相手に対し、感情のままに不快な言葉をぶつけてる自覚はあっても止められないのだろう。

…いや。だが、しかし。勢いだけだろうが、
ここまですんなりと言葉が出るのはその言葉の中で少なからずそう思っている、否定してほしいという気持ちも混ざっているのかもしれない。


ショウに焦心苦慮させている原因は自分だという事実にサクラはショックを受けて下を俯いたまま、どの面下げてショウ様の顔を見ればいいんだと顔をあげられないでいた。


ところが


「…お主様もサクラもどうしたというんじゃ?」


ロゼは首を傾げながら、ショウとサクラの顔を往復して見ていた。


「……へ?」


首を傾げキョトーーーンとしているロゼに、ショウはまの抜けた声を漏らしサクラと共にロゼを見た。


「…もしや、お主様も心に入ってくるダリアの感情に惑わされちょるのかえ?」


と、問い掛けるロゼの言葉にショウもキョトンとした顔で見返し、サクラはギョッとした表情でロゼを見た。


「…ダリアの感情だと…?」

サクラがぎこちなくロゼに聞くと


「うむ。なんじゃ、サクラは今の今まで気がつかんかったのか?」


どういう事だと、サクラは無言でロゼの顔を見ている。


「ちとばかり考えみぃ。そもそもの問題、この場所は何処じゃと思うておるんじゃ。」


と、ダリアが言った所でサクラはハッとした表情をした。

その様子を見て、ようやくか…と弱者を見るかのような表情を一瞬だけ浮かべ、
すぐに、いつものようなおっちゃらけた様子に戻りロゼは話を続けた。


「お主様の心の中に侵入したダリアの精神の中じゃ。ダリアの心に入ってるという事はダリアの感情や気持ちが伝わってくるのは当たり前じゃ。自分の精神をしっかり保っておらんとダリアの心に乗っ取られてしまうぞ。」


ここまで言われてサクラは、ダリアの感情に自分が飲まれていた事に気づいた。
それも、少しずつ少しずつシワジワとダリアの感情に感化されていたので、ダリアの感情に飲み込まれていた事にも気づけなかったのだ。

このまま、それに気づく事なくここに居続けていたら…そう考えると全身凍りつく思いがした。

…悔しいし認めたくないが、ロゼと自分との実力の差をむざむざと見せつけられたような気がした。

…最悪な気分であると同時に、ムカつくが…やはり、ロゼが居てくれて助かったと思った。

そして、ショウ様を蔑む気持ちが自分の感情でなくて本当に良かったと心の底からホッとした。

…だが、ロゼに言われてもなお、自分の感情とダリアの感情の区別が難しく

これに対し、どう対処すればいいのか
今のサクラの実力では捌き切れないのも事実で…悔しかった。


「…ま、まさか!…ブフッ!嘘じゃろ?
サークラ、そち、まさかとは思うが、自分の心の他に伝わってくる感情も自分の気持ちじゃと勘違いしとったんかえ?
マジであり得ん!…ブフッ!ブフフッ!…弱っ!弱すぎる。」


悔しくて下唇を噛むサクラを見て、ニマァ〜とロゼは意地悪な笑みを浮かべおちょくってきた。

サクラは、羞恥でカッと顔を赤くすると


「…なっ!?…し…知ってたし。わざとだし。」

と、大人気なく見栄を張ってロゼに対抗した。


「ハァーン!本当かのぉ?さっきまでお主様への気持ちを疑っちょったように見えるがのぉ〜。サークラせんぱぁ〜い。」

「…あ''?テメェ、ちょっとくらい早くに気づいたくらいで調子のんじゃねぇーぞ?生まれたてのヒヨッコが。」


サクラとロゼの幼稚な言い争いは続き、次のロゼの言葉にみんな驚く事になる。


「ハァァ〜〜ン?弱っちいくせに調子乗るでないぞ?
お主様は弱々の貧弱くんより、我のような超スーパーウルトラハイパー強くて超絶どえらいイケメンの方が断然好きに決まっとる!
【他を寄せ付けぬ美貌】と【愛らしさ】をも持ち合わせるお主様と我!!お似合いではないか!!!
ヌァーハッハッハ!!!」


と、腰に手を当てて自信満々に言うロゼに、ショウをはじめサクラ…ダリアまでもが


…………は?


一瞬、時が止まったように呆然とし固まってしまっていた。


「…おまえ、今なんて…?」


思わず、聞き返してしまったサクラに対しロゼは


「…はて?我は何かおかしな事をいうたかの?」


ロゼはまだ幼さのある顔で、あざとくコテンと首を傾げてみせた。女子が見たら発狂するくらいに可愛らしい仕草だ。現に


「…はうぅっ!!」


ショウはきゅぅ〜〜んと胸を鷲掴みにされていた。


…ろ、ロゼ、可愛いっっ!!!

かわい過ぎて、今すぐにでもギュッって抱き締めたいっ!!!


と、見た目はヴィラン顔のワイルド系イケメン。そこに、まだ幼さの残るあどけない顔。
それを存分に生かし、あざとさを見せてくるこのギャップ!今のこの時期だからこそ使えるギャップ萌えのこのあざと技!
可愛いが過ぎてキュンキュンが止まらないとショウは悶えていた。

そこに、サクラがショウの耳を塞ぎ


「……お前、さっきショウ様の事を【他を寄せ付けない美貌】と、言ったか?」


まさかと思うが…いや、まさかと、サクラはある意味ドキドキしながらロゼに聞いた。

ダリアは、未だ混乱し声を失っている。

すると


「はて?我は何か、おかしな事を言うたかの?
お主様は、どんな美貌の持ち主でさえ霞んで見える程の至極、絶世の美女じゃ。
これ以上ない美貌の持ち主じゃ。それでいて、究極に愛らしい。我は、そんなお主様にメロメロじゃ。」


と、誇らしげに言い切った。

そこで、思わずダリアは


“…は…ハアァァッッ???!!!”


と、疑問の声をあげ

サクラとダリアは、まさかの自体に驚愕の目でロゼを凝視した。

ロゼは、何故そんな顔をして自分を見てくるのか分からずキョトンとサクラとダリアを往復して見ていた。


「……む?」


本日、何度目か分からないロゼの首をコテンと傾げる仕草。そして、頭の上には、たくさんのクエスチョンマークが浮かんでいた。
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