イケメン従者とおぶた姫。
さて、今はサクラを部屋に帰し
リュウキは、疲れたと言わんばかりに
ハァと息をつきソファーにもたれかかった。
そこに、お婆…もといメイド長がリュウキにお茶を出した。
「旦那しゃまは、本気でお嬢しゃまを一人で世界一周の旅に出させるおつもりでしゅかな?」
怒るでもなく静かにクスリと笑っている。
「お婆には…バレバレって感じだな。
多分、お婆が察している通りだ。」
リュウキが、お婆の様子に参りましたと言わんばかりに小さく降参のポーズをとって苦笑いして見せた。
「ショウは、どうせ半日も保たずに降参するだろう。ただ、その経験があるだけで十分だ。少しでも周りの世界を知る事ができただけでも意味があると思っている。
…それに、サクラと距離をとるいい機会だとも思っているしな。」
リュウキは、大きなソファーにもたれ掛かり疲れたような笑いを浮かべている。
「でしゅが、そのやり方はどうかと思いましゅよ?
社会勉強の為なら、もっと他にもお嬢しゃまに合ったいい方法がいくつもあるはじゅ。
それをあえて、このような荒々しい真似をしなければならない理由はあるのでしゅか?」
お婆の質問に、リュウキは苦笑いし何かを誤魔化しているように見える。
「…何故に、そんなにお嬢しゃまとサクラしゃまを離したがりましゅ?
あの日、サクラしゃまが現れた時これみよがしにとお嬢しゃまの世話を任せたはじゅなにょに。
今、その罪滅ぼしに或いはサクラしゃまを哀れんでの行動だけでしゅか?」
「何が言いたい、お婆。
あんな大ブタ、貰い手がいればいいが誰もあんな醜い容姿の女なんて相手にしないだろう。それどころか邪険に扱うだろうな。最後まで売れ残るのは確実だ。
ただ、そんな醜く何もできない奴だが、あんなのでも俺にとっちゃたった一人の子供なんだ。親として責任がある。
サクラは、将来有望な男だ。こんな所で終わらせたら流石にこの俺も居た堪れなくてな。このやり方が最善の策だと思った。」
「確かに、サクラしゃまは異常なくらいにお嬢様に執着している。しかも…。二人を隠密に見張らせ情報を得ている旦那しゃまはご存知かと思いましゅが、サクラしゃまの行動はとてもじゃありましぇんが従者、世話役とは言いがたい。サクラしゃまは、まるで…」
みなまで言わなくてもいいとばかりに、リュウキはお婆の言葉を遮るようにこう言った。
「あー、例えばショウに対し必要異常の世話をする他に、一緒に風呂に入るだとか一緒の布団で寝るだとか。
際どい所もあるらしいが男女の行為には至ってないようだ。
もし仮にだが、そんな事したらサクラは子供に手を出した性犯罪者になる。」
※この国(商工王国)の法律では
14才未満の子供に2才以上年が離れた者が
性行為をしてしまった場合犯罪になる。
(合意の上、恋人であっても)
刑務所暮らし二カ月と経歴に関わる。
これが、レイプだったり強姦など本人同士の合意がない場合は年齢的に関係なく拷問がかされる。
被害者の年齢が幼ければ幼いほど、犯罪者の罪は重く拷問もキツくなる。拷問中、耐えきれず亡くなるケースも少なくない。
※商工王国
成人年齢→22才以上。
商工王国では、15才から男女共に婚姻が認められる。
「そうなったら王の娘に手を出したって事で、容赦なく牢獄にぶち込んで死んだ方がマシだと思うような拷問を受けてもらおうか?
しかし、どうやら残念な事にサクラは隠密の存在に気付いてもいるらしい。
だから、かろうじて犯罪者にならずに済んでいるのかもな?
優秀過ぎるというのも困ったものだな。
だが、それもこれも、サクラがショウに付きっきりで気がおかしくなっているせいだ。
なにせ、幼い頃から思春期の今も自分の欲を抑え片時も離れずショウの側にいるんだ。
だから、気が狂いあんな醜い大ブタを“女”として意識してしまう“錯覚”を起こしている。」
ショウを馬鹿にするような発言をしリュウキはあざ笑うと、お婆は顔を顰め
「…いくら親でも言っていい事と悪い事がありましゅ。それに、サクラ様の事も…。
旦那しゃまは、お二人をどうしたいのでしゅか?」
リュウキに説教をし始めた。リュウキは、参ったなぁという顔をして
「だからな、お婆。
サクラの世話がなきゃ生活できない俺の子、
ショウに対し洗脳にも近い“何らかの間違った意識、錯覚”を起こし正気を失ったサクラ。
二人を離す事で、ショウには心の成長を期待しているし。
サクラには正気に戻す為のリハビリをし洗脳を解いてやりたい。」
そう話すと、お婆は
「…確かにそれは一理あります。
けれど、このお婆の目から見てサクラしゃまは…」
と、言いかけるお婆にリュウキはまたお婆の言葉を遮り
「サクラは、正気を失っているだけだ。
ショウが居なくなる事で最初こそ混乱するかもしれないが時間が解決してくれるだろう。
ショウしか見えなかった狭過ぎる視野も広がり周りに目を向ける事ができる。
そうなった時、今まで自分がショウに対し
してきた事は全て黒歴史になってしまうだろうがな。なんで、あんなクソ豚の世話なんかしてたんだろうとな。」
と、黒歴史になった時のサクラを思い浮かべリュウキはクッと笑っていた。
「サクラが正気になった時、今までの時間を返せと俺は相当なまでに責められ恨まれるんだろうな。」
など、リュウキがお婆に話している時だった。
廊下が騒がしい。何事だろうか?
隠密の言葉が早いか、部屋のドアが開くのが早いか…隠密がリュウキに何かを伝えようとしたと同時に部屋のドアが壊れんばかりに勢いよく開いた。
…バンッッ!!!
そこに居たのは、血相をかいたサクラの姿。慌て来たのだろう、ハアハアと息を切らしている。
「…ショウ様が…ショウ様がいない!」
サクラは、今にも泣き出しそうな表情でリュウキを見てきた。
「…何っ!?」
それを聞いたリュウキも驚き声をあげ思わず立ち上がった。
「…どこにも、ショウ様がいない。
ショウ様の存在を確認しようと気配を探しても…何も…何も感じなかった。」
サクラの顔は青ざめ、全身がガタガタと震えている。
…サクラは、ショウ個人の気配を感じ探す能力もあるのかとリュウキはそこにも驚いたが、それよりも今はいきなり姿を消した我が子が心配だ。
そこに、隠密の声がリュウキの耳に入ってきた。
『王様。どうやら、お嬢様は旦那様が用意させた荷物を持ち外へ出て行ったようです。』
と、隠密特有の術“言葉飛ばし”で離れながらにリュウキに話をした。
※言葉飛ばしとは→波動を使い、離れた場所からでも自分が伝えたい相手だけに聞こえるよう話す事ができる隠密特有の術。
すると、リュウキにしか聞こえないはずの言葉飛ばしなのに
「…それでも!どこに居ようと、俺はショウ様を探し出す事ができる。それが例え“異世界”だとしても!!生まれ変わったとしてもだ!
なのに、そんな俺がショウ様の気配を感じる事ができないなんて…。」
と、いつも冷静沈着なサクラが取乱し、隠密の言葉飛ばしに答えている。
リュウキは驚いた。隠密は、自分にしか聞こえないよう隠密特有の術を使っていたはずだ。なのに、それをどうやって聞く事ができるのかと。
「……まあ、いい。遅かれ早かれ、ショウには“旅行”をさせるつもりだった。ショウが屋敷から出て行ったのならちょうど良かった。」
リュウキは内心、予想外の事が起きて少しばかりパニックになっていたが何とか平静を装った。
すると、何を思ったかサクラは
「……外に、外にショウ様がいるんだな?
ショウ様は無事なんだな?」
と、隠密に確認すると血相をかいて自室に戻って行った。
何となく予想はしていたが、ゆっくりとサクラの後を追いリュウキ達がサクラの自室へ入ると
サクラは慌てたように荷物をまとめていた。
「何をしている?」
リュウキは冷めたい目つきでサクラに聞いた。
「決まっている。必要な物をまとめている。
早く、ショウ様のもとへ行かなければ!」
「…連れ戻すという事は考えないのか?」
「考えている。だが、もしもの事を考え準備するに越した事はない。お前だって言ってただろう。ショウ様に世界一周旅行させると。なら、俺はそのお供をするだけだ。」
いそいそと旅の準備をするサクラに、リュウキは
「言っただろう?ショウには一人で行かせると。お前は、ここに残り学校へ行きしっかりと学べ。」
すると、サクラは
「お前の指図は受けない!ショウ様は、俺が守る。ショウ様は、俺がいないと生きていけない!」
怒りを露わにし、そう言ってきた。
そんなサクラに
「勘違いするな。俺の一声で、俺はショウをどうにもできる。頭のいいお前なら分かるだろう?
そうなれば、例えお前がショウを養う為に働いたとしてもショウは貧困生活を余儀なくされるだろうなぁ。」
リュウキは悪い笑みを浮かべサクラを見下ろした。それに対しサクラは怒りと悔しさでワナワナと肩を震わせながら
「…なぜ…なぜ、俺とショウ様を引き離そうとする!俺の幸せを壊そうとするんだ。
…ああ、こうしてる間にもショウ様は…」
サクラは、情けなくもついにボロボロと泣き出してしまった。
「…どうすればいい?どうすれば、俺はショウ様の側にいられる?」
サクラの悲痛な質問に
「まずは、3年間ショウから離れろ。
その間、ショウと連絡を取る事を禁止する。ショウの部屋も立ち入り禁止とする。
あと、ショウの私物も持ち出してはならない。」
「…なっ!!?」
「なぁに、たった3年だ。
3年経ったらショウに会わせてやる。」
リュウキの言葉に愕然とするサクラ。そんなサクラをよそにリュウキは話を続けた。
「知っているだろう?この国では、男女共に15才で結婚できる事を。3年経てば、ショウは15才になる。
その間に、お前は修業も学業も怠る事無く様々なスキルを磨け。
学校では友達を作り遊び、人間関係も学ぶといい。聞けば、お前…友達の一人もいないらしいじゃないか。
3年経った時、お前に再度同じ質問をする。
つきたい職業の事。これから、どうしたいのか。その時、お前が出した答えなら俺は否定しない。
それで、どうだ?」
そう提案してきたリュウキ。
サクラは俯きしばらく考えた後
「…ショウ様の世界一周旅行は本当にお一人で行かせるつもりなのか?
俺がいない間、ショウ様はずっとお一人なのか?」
と、静かに尋ねてきた。
「お前も知っての通り、ショウにはいつも通り隠密をつけている。
それに、旅行中のショウの世話役を一人。
ショウの身の安全を守る為に腕っぷしのいい“護衛”も2人ばかりつける予定だ。だから、安心して大丈夫だ。」
「…旅行から帰って来てからのショウ様のお世話は?」
「メイド達がしてくれる。若いメイド達が不安って言うなら大丈夫だ。若いメイド達はショウの世話役から外し、信用ある古いメイド達だけに頼む。何よりお婆がいる。」
そうリュウキに説得され
「…ショウ様を不自由させたり悲しませる事は絶対に許さない。
約束は絶対に守れ。それこそ、約束を破った時は覚えていろ。何をしてでもお前を苦しめてやる。」
サクラは、涙をボロボロ流し、怒りでブルブルと体を震わせ憎悪に満ちた顔でリュウキを睨むと声を絞り出しそう言った。
「約束しよう。」
あんな醜い大豚に、何をこんなに必死になるんだ?アイツにそんな価値あると思ってるのが不思議だ。謎過ぎる。
そう本気で思う、リュウキであった。
リュウキは、疲れたと言わんばかりに
ハァと息をつきソファーにもたれかかった。
そこに、お婆…もといメイド長がリュウキにお茶を出した。
「旦那しゃまは、本気でお嬢しゃまを一人で世界一周の旅に出させるおつもりでしゅかな?」
怒るでもなく静かにクスリと笑っている。
「お婆には…バレバレって感じだな。
多分、お婆が察している通りだ。」
リュウキが、お婆の様子に参りましたと言わんばかりに小さく降参のポーズをとって苦笑いして見せた。
「ショウは、どうせ半日も保たずに降参するだろう。ただ、その経験があるだけで十分だ。少しでも周りの世界を知る事ができただけでも意味があると思っている。
…それに、サクラと距離をとるいい機会だとも思っているしな。」
リュウキは、大きなソファーにもたれ掛かり疲れたような笑いを浮かべている。
「でしゅが、そのやり方はどうかと思いましゅよ?
社会勉強の為なら、もっと他にもお嬢しゃまに合ったいい方法がいくつもあるはじゅ。
それをあえて、このような荒々しい真似をしなければならない理由はあるのでしゅか?」
お婆の質問に、リュウキは苦笑いし何かを誤魔化しているように見える。
「…何故に、そんなにお嬢しゃまとサクラしゃまを離したがりましゅ?
あの日、サクラしゃまが現れた時これみよがしにとお嬢しゃまの世話を任せたはじゅなにょに。
今、その罪滅ぼしに或いはサクラしゃまを哀れんでの行動だけでしゅか?」
「何が言いたい、お婆。
あんな大ブタ、貰い手がいればいいが誰もあんな醜い容姿の女なんて相手にしないだろう。それどころか邪険に扱うだろうな。最後まで売れ残るのは確実だ。
ただ、そんな醜く何もできない奴だが、あんなのでも俺にとっちゃたった一人の子供なんだ。親として責任がある。
サクラは、将来有望な男だ。こんな所で終わらせたら流石にこの俺も居た堪れなくてな。このやり方が最善の策だと思った。」
「確かに、サクラしゃまは異常なくらいにお嬢様に執着している。しかも…。二人を隠密に見張らせ情報を得ている旦那しゃまはご存知かと思いましゅが、サクラしゃまの行動はとてもじゃありましぇんが従者、世話役とは言いがたい。サクラしゃまは、まるで…」
みなまで言わなくてもいいとばかりに、リュウキはお婆の言葉を遮るようにこう言った。
「あー、例えばショウに対し必要異常の世話をする他に、一緒に風呂に入るだとか一緒の布団で寝るだとか。
際どい所もあるらしいが男女の行為には至ってないようだ。
もし仮にだが、そんな事したらサクラは子供に手を出した性犯罪者になる。」
※この国(商工王国)の法律では
14才未満の子供に2才以上年が離れた者が
性行為をしてしまった場合犯罪になる。
(合意の上、恋人であっても)
刑務所暮らし二カ月と経歴に関わる。
これが、レイプだったり強姦など本人同士の合意がない場合は年齢的に関係なく拷問がかされる。
被害者の年齢が幼ければ幼いほど、犯罪者の罪は重く拷問もキツくなる。拷問中、耐えきれず亡くなるケースも少なくない。
※商工王国
成人年齢→22才以上。
商工王国では、15才から男女共に婚姻が認められる。
「そうなったら王の娘に手を出したって事で、容赦なく牢獄にぶち込んで死んだ方がマシだと思うような拷問を受けてもらおうか?
しかし、どうやら残念な事にサクラは隠密の存在に気付いてもいるらしい。
だから、かろうじて犯罪者にならずに済んでいるのかもな?
優秀過ぎるというのも困ったものだな。
だが、それもこれも、サクラがショウに付きっきりで気がおかしくなっているせいだ。
なにせ、幼い頃から思春期の今も自分の欲を抑え片時も離れずショウの側にいるんだ。
だから、気が狂いあんな醜い大ブタを“女”として意識してしまう“錯覚”を起こしている。」
ショウを馬鹿にするような発言をしリュウキはあざ笑うと、お婆は顔を顰め
「…いくら親でも言っていい事と悪い事がありましゅ。それに、サクラ様の事も…。
旦那しゃまは、お二人をどうしたいのでしゅか?」
リュウキに説教をし始めた。リュウキは、参ったなぁという顔をして
「だからな、お婆。
サクラの世話がなきゃ生活できない俺の子、
ショウに対し洗脳にも近い“何らかの間違った意識、錯覚”を起こし正気を失ったサクラ。
二人を離す事で、ショウには心の成長を期待しているし。
サクラには正気に戻す為のリハビリをし洗脳を解いてやりたい。」
そう話すと、お婆は
「…確かにそれは一理あります。
けれど、このお婆の目から見てサクラしゃまは…」
と、言いかけるお婆にリュウキはまたお婆の言葉を遮り
「サクラは、正気を失っているだけだ。
ショウが居なくなる事で最初こそ混乱するかもしれないが時間が解決してくれるだろう。
ショウしか見えなかった狭過ぎる視野も広がり周りに目を向ける事ができる。
そうなった時、今まで自分がショウに対し
してきた事は全て黒歴史になってしまうだろうがな。なんで、あんなクソ豚の世話なんかしてたんだろうとな。」
と、黒歴史になった時のサクラを思い浮かべリュウキはクッと笑っていた。
「サクラが正気になった時、今までの時間を返せと俺は相当なまでに責められ恨まれるんだろうな。」
など、リュウキがお婆に話している時だった。
廊下が騒がしい。何事だろうか?
隠密の言葉が早いか、部屋のドアが開くのが早いか…隠密がリュウキに何かを伝えようとしたと同時に部屋のドアが壊れんばかりに勢いよく開いた。
…バンッッ!!!
そこに居たのは、血相をかいたサクラの姿。慌て来たのだろう、ハアハアと息を切らしている。
「…ショウ様が…ショウ様がいない!」
サクラは、今にも泣き出しそうな表情でリュウキを見てきた。
「…何っ!?」
それを聞いたリュウキも驚き声をあげ思わず立ち上がった。
「…どこにも、ショウ様がいない。
ショウ様の存在を確認しようと気配を探しても…何も…何も感じなかった。」
サクラの顔は青ざめ、全身がガタガタと震えている。
…サクラは、ショウ個人の気配を感じ探す能力もあるのかとリュウキはそこにも驚いたが、それよりも今はいきなり姿を消した我が子が心配だ。
そこに、隠密の声がリュウキの耳に入ってきた。
『王様。どうやら、お嬢様は旦那様が用意させた荷物を持ち外へ出て行ったようです。』
と、隠密特有の術“言葉飛ばし”で離れながらにリュウキに話をした。
※言葉飛ばしとは→波動を使い、離れた場所からでも自分が伝えたい相手だけに聞こえるよう話す事ができる隠密特有の術。
すると、リュウキにしか聞こえないはずの言葉飛ばしなのに
「…それでも!どこに居ようと、俺はショウ様を探し出す事ができる。それが例え“異世界”だとしても!!生まれ変わったとしてもだ!
なのに、そんな俺がショウ様の気配を感じる事ができないなんて…。」
と、いつも冷静沈着なサクラが取乱し、隠密の言葉飛ばしに答えている。
リュウキは驚いた。隠密は、自分にしか聞こえないよう隠密特有の術を使っていたはずだ。なのに、それをどうやって聞く事ができるのかと。
「……まあ、いい。遅かれ早かれ、ショウには“旅行”をさせるつもりだった。ショウが屋敷から出て行ったのならちょうど良かった。」
リュウキは内心、予想外の事が起きて少しばかりパニックになっていたが何とか平静を装った。
すると、何を思ったかサクラは
「……外に、外にショウ様がいるんだな?
ショウ様は無事なんだな?」
と、隠密に確認すると血相をかいて自室に戻って行った。
何となく予想はしていたが、ゆっくりとサクラの後を追いリュウキ達がサクラの自室へ入ると
サクラは慌てたように荷物をまとめていた。
「何をしている?」
リュウキは冷めたい目つきでサクラに聞いた。
「決まっている。必要な物をまとめている。
早く、ショウ様のもとへ行かなければ!」
「…連れ戻すという事は考えないのか?」
「考えている。だが、もしもの事を考え準備するに越した事はない。お前だって言ってただろう。ショウ様に世界一周旅行させると。なら、俺はそのお供をするだけだ。」
いそいそと旅の準備をするサクラに、リュウキは
「言っただろう?ショウには一人で行かせると。お前は、ここに残り学校へ行きしっかりと学べ。」
すると、サクラは
「お前の指図は受けない!ショウ様は、俺が守る。ショウ様は、俺がいないと生きていけない!」
怒りを露わにし、そう言ってきた。
そんなサクラに
「勘違いするな。俺の一声で、俺はショウをどうにもできる。頭のいいお前なら分かるだろう?
そうなれば、例えお前がショウを養う為に働いたとしてもショウは貧困生活を余儀なくされるだろうなぁ。」
リュウキは悪い笑みを浮かべサクラを見下ろした。それに対しサクラは怒りと悔しさでワナワナと肩を震わせながら
「…なぜ…なぜ、俺とショウ様を引き離そうとする!俺の幸せを壊そうとするんだ。
…ああ、こうしてる間にもショウ様は…」
サクラは、情けなくもついにボロボロと泣き出してしまった。
「…どうすればいい?どうすれば、俺はショウ様の側にいられる?」
サクラの悲痛な質問に
「まずは、3年間ショウから離れろ。
その間、ショウと連絡を取る事を禁止する。ショウの部屋も立ち入り禁止とする。
あと、ショウの私物も持ち出してはならない。」
「…なっ!!?」
「なぁに、たった3年だ。
3年経ったらショウに会わせてやる。」
リュウキの言葉に愕然とするサクラ。そんなサクラをよそにリュウキは話を続けた。
「知っているだろう?この国では、男女共に15才で結婚できる事を。3年経てば、ショウは15才になる。
その間に、お前は修業も学業も怠る事無く様々なスキルを磨け。
学校では友達を作り遊び、人間関係も学ぶといい。聞けば、お前…友達の一人もいないらしいじゃないか。
3年経った時、お前に再度同じ質問をする。
つきたい職業の事。これから、どうしたいのか。その時、お前が出した答えなら俺は否定しない。
それで、どうだ?」
そう提案してきたリュウキ。
サクラは俯きしばらく考えた後
「…ショウ様の世界一周旅行は本当にお一人で行かせるつもりなのか?
俺がいない間、ショウ様はずっとお一人なのか?」
と、静かに尋ねてきた。
「お前も知っての通り、ショウにはいつも通り隠密をつけている。
それに、旅行中のショウの世話役を一人。
ショウの身の安全を守る為に腕っぷしのいい“護衛”も2人ばかりつける予定だ。だから、安心して大丈夫だ。」
「…旅行から帰って来てからのショウ様のお世話は?」
「メイド達がしてくれる。若いメイド達が不安って言うなら大丈夫だ。若いメイド達はショウの世話役から外し、信用ある古いメイド達だけに頼む。何よりお婆がいる。」
そうリュウキに説得され
「…ショウ様を不自由させたり悲しませる事は絶対に許さない。
約束は絶対に守れ。それこそ、約束を破った時は覚えていろ。何をしてでもお前を苦しめてやる。」
サクラは、涙をボロボロ流し、怒りでブルブルと体を震わせ憎悪に満ちた顔でリュウキを睨むと声を絞り出しそう言った。
「約束しよう。」
あんな醜い大豚に、何をこんなに必死になるんだ?アイツにそんな価値あると思ってるのが不思議だ。謎過ぎる。
そう本気で思う、リュウキであった。