イケメン従者とおぶた姫。
ーーームーサディーテ国
廃墟倉庫ーーー


「…あ、アラガナッ!大変だ!アラガナッッッ!!!」

と、慌てて倉庫の扉を開けてくる仲間とはいえないナカマ。


「おいおい、下っ端のくせに無断で入ってくんなよ。ここは、幹部しか入っちゃいけないの分かってんだろ!?」

なんて、アラガナが知らないうちに勝手に出来上がるルールや増えるナカマ。

どうでもいいので、自分に害が及ばない限りは放置している。そして、ナカマ達が何か聞いてくる度に「勝手にしろ」とは言ってはいたが。
いつの間にか、幹部なんてものができてたらしい。

どうでもいい話だが。

しかし、大勢いるであろう倉庫の外が異様なまでに騒がしい。どこか別の不良のチームでも殴り込みに来たのか警察でも来たのだろうか?

珍しいな。

最近じゃ、圧倒的力とアラガナの後ろ盾のせいで他の不良チームや警察まで大人しくなってしまった。

…さて、そろそろ頃合いかな?なんて考えてた矢先の事だ。

どこかの不良にしろ警察にしろ、馬鹿な奴もいたもんだとアラガナはため息をついた。


聞こえてくるのは、大勢が一斉に暴れてる音とどよめきの声。

何かおかしいなと、一応念の為に気配を探ってみても何ら魔力なんて感じない。
少しも魔法が使えないなら、相手は圧倒的に不利だろう。

しかし、おかしい…

勝手にナカマは増えるが、増えるにしたって限度はある。その判断で、警察か敵チームが来たと判断できるのだが。

そんな様子はない。


だが、しかし


「…ち、違うんだ!!一人、とんでもない化け物がいて…あっという間に、ソイツにみんなやられちまって!!!」

と、青ざめながら言ってくるナカマ。


「……ハア?なに、バカな事言っちゃってんの、お前。ソイツ、どこのチームなんだよ?
チームのどんな奴が、強いって?」

幹部のナカマ達は、ナカマの報告に顔を見合わせてゲラゲラ笑っていた。

そりゃ、そうだ。勝手に幹部を名乗ってる奴らだが、外にいるナカマ達とはレベルが違う。

もちろん、魔法にも相当な自信があるようだった。確かに、魔力も外にいる奴らとは格違いだし、外にいる奴らのほとんどは魔法も使えない。

そんなコイツらだからある程度は分かるんだろう。外で強い魔力を感じないから、そんな余裕を持っている。

かく言う“俺”も、そう思っている。


だが、“みんなやられちまって”というのが引っかかる。

ナカマの切羽詰まったような焦り、そして、その言葉に疑問を感じる。


幹部のナカマ達は、自分達のお気に入りのオンナ達と一緒になってナカマを馬鹿にする様な言葉ばかり言ってあざ笑っていたが。

その余裕もそこで終わる事となる。

何故なら


報告に来たナカマの頭の上に、大きな手が乗るのが見えた。恐怖で小さな悲鳴をあげ固まるナカマ。そして


「ずいぶんと偉くなったもんじゃないか。」

と、いう……俺が、ずっとずっと聞きたかったその声。


思わず、アラガナはガタッと勢いよく立ち上がった。


それに対し、幹部達はごちゃごちゃと何か言っていたが今のアラガナには、その声は一切聞こえなかった。

ただ、まさか…嘘だろ!!?と、いう胸の高まりだけが全身に響いてくる。


ドックン、ドックン、ドックンッッッ!!!


そこから、ヌッと姿を現したのは


アラガナが、ずっと、、、ずっと、会いたかった人物。

大好きなあの人。


「……ッッッ!!!!??
は、ハナッ!!どうして…?」

高鳴る鼓動を抑え、震える声で愛しい人の名前を呼んだ。


「あはは!プチ旅行がてら、おまえと遊ぼうと思ってな。」

と、豪快に笑ったハナの姿に、吸い寄せられるようにヨロヨロと近づいていった。

様子のおかしいボスに、幹部達は戸惑いを隠せずいたが


「……デ、デケェ〜〜ッ!?
ウチのボーちゃんと同じくらいデカくないか?」

「…プッ!けどさ。いくら体がデカくたって全然魔力を感じないぜ?」

「魔法も使えないのに、ここに乗り込んできたのかよ。ギャハハ!バカ過ぎんだろ。
いい年こいたオッサンが、わざわざサウンドバックになりに来てくれたよ。ウケるぜ!」

「無謀過ぎんだろぉ〜。ここが何処か分かってんの?」

「ハーイ、お前の人生ここで終わりまぁ〜す。キャハハ!」

「みんな、あんなゴリ男なんて、ボッコボコにやっちゃってぇ〜。」

と、幹部達はハナを見て、ゲラゲラと大笑いしていた。

「ねえ!どうやって、ボコろうか?」

幹部のヤリ友である女の一人が、張り切って幹部の一人に話し掛けると


「……へ?…あれ?」

女達が気がついた時には

………ッッッ!!!!??

幹部達みんな、気を失っていた。


その異常さと、この状態は非常に不味いのではないかとようやく理解した女達は

気がついたら幹部みんな倒れているという理解不能の怪奇現象を目の当たりにして

言われようもない恐怖が彼女達を襲い、女特有の甲高い悲鳴をあげ腰を抜かしへたり込んでいた。


だが、アラガナはそんなのはどうでも良かった。


「……やっぱり、ハナは強いな。まだ、五番隊の下っ端やってるの?」

アラガナは、ゆっくりとハナに近づいていきそんな質問を投げかけてきた。


「いや。あそこは、もう卒業したよ。」

「そっか、良かった。ハナが、まだあんな所で燻ってるようだったら、商工王の洞察力と判断力を疑う所だったよ。

まだ、あんな山奥で暮らしてるの?暮らしは楽になった?」


「前と何ら変わりないよ。」


アラガナは、ハナの屈強な体に手を伸ばすとギュウっと抱きついてきた。それをハナは、ソッと抱きしめ返した。


「おまえ、悪さばっかして王族から外されそうなんだって?」

「…うん。」

「頭のいいおまえだから、この先の事もおおよその予測がついてるんだろ?」

「…うん。」


「おまえは、どうしたい?」


ハナは、深く追及する事なくアラガナの最終的な気持ちを聞いてきた。


「俺は、ハナの事が好き。」

すると、予想外の言葉がアラガナの口から飛び出してきた。聞き間違いかと思ったハナだったがアラガナの真剣な顔を見て、自分の気持ちをしっかりと伝えた。


「“私”は、おまえの気持ちには答えられない。
年齢の事や地位そんなのを取っ払っても、アラガナを恋愛対象として見ていない。」

ハッキリ、スッパリと振られたアラガナではあったが

ふざけるでもない、誤魔化す事もしない
何より、子供の戯言とあしらう事もなく

しっかりと自分と向き合い、真剣に答えてくれたハナの気持ちに熱い気持ちが込み上げてきた。


…トクン…



…ああ、やっぱり好きだなぁ

カッコ良過ぎだよ、ハナ

ますます惚れ直したよ


「…いいよ、今はそれで。
けどね、ハナ。俺は貪欲なんだ。欲しいものの為なら努力は惜しまない。

だから、覚悟しておいて?」


と、アラガナはハナの頬を両手で挟むと


…ちゅっ!


ハナの唇にキスをしてきた。

そして


「絶対、惚れさせてみせるから!」


真っ直ぐな力強い目でハナを見つめ、不敵な笑みを浮かべた。


…ドキン!


不覚にもハナのハートはトキめいてしまい、初めての感覚に驚いたハナは、どうしちまったんだ自分!?と、ドキドキがおさまらなく狼狽えてしまっていた。

そんな様子のハナに


可愛すぎでしょ、あんた


と、アラガナはキュンキュンさせながら、扉の奥に見える商工王と父親の方へと向かっていった。


アラガナの後ろ姿を見送りながらハナは考えていた。

ハナを見るアラガナの目に、何か強い意志を感じ取った。それが何か分からないが。

だが、それはそれだ。

これから、アラガナはどうなってしまうんだろう…そんな、不安ばかりがハナの心に募る。



あれからアラガナがどうなったのかリュウキに聞くと


「結局、悪い噂のあるアラガナは王族から外される事に決まったそうだ。そして、国外追放。」

まだ子供のアラガナに、そんな処分は酷過ぎやしないかとハナは言葉を失った。


「そこでだ。俺は、アラガナ両親との話し合いの末。アラガナに我が国の国民権を与える。そして、我が国の学校に通わせる事になった。」

「……こくみんけん?」

「ああ。本当は、養子にしたいという話も持ち掛けたんだが、あの癇癪持ちの兄妻が“私のアラガナは誰にも渡さない”って、聞かなくてな。
アラガナになら、この国を任せられるって思ってたんだが残念だ。」


アラガナが十分に生きていける場所は与えられたが、まだまだ子供で親が恋しいだろう。

アラガナの国では、寿命と教養の関係で25才まで親元で過ごすのが一般的だ。
なのに、アラガナは王族という地位を無くし国まで追い出された。

まだ、12才の小学生なのにとハナは家族と離れ離れになってしまったアラガナに心を痛めた。


「そして、ここからはこの国の国民になったアラガナと俺の話し合いで決まった話になる。
アラガナ自身の強い意志で、アラガナは“アラガナ”の名を捨てた。」

「…え?名前を…捨てた?」


決定してしまったら、よほどの事がない限りは覆る事はないだろう。
何故、アラガナが不良になってしまったのか、その経緯は知らない。知らないが、アラガナが心を病み荒れている時に、周りの大人達は一体何をしていたのかとハナは居た堪れない気持ちになった。


「この国でアラガナは、“風雷(フウライ)”という人間として生きる。もう、アラガナという人間はこの世には存在しない。そう、決まった。
だが、兄夫婦との親子関係が消える訳ではない。おそらく、それは今後のアラガナ次第で王族と国民権を取り戻せるようにする為だろう。

アラガナは知らない事だが、これは言わば“お仕置き”ってやつだな。これに懲りたら、もう、悪さするんじゃないぞってな。
それくらいにアラガナは、手放すのに惜しい存在だという事だ。」

その言葉を聞いて、ハナは心の底からホッとした。


「あとな。フウライは、学校へ行く傍ら放課後や休みの日には、軍に仮入隊させ軍の訓練に参加させる事になった。
この事は、アラガナの両親達すら知らない事だ。なにせ、アラガナという王族はムーサディーテ国から除外されいない人間だ。
これはフウライという商工王国国民の進路なのだからな。」


商工王国では、部活動として“訓練生”として軍の練習に参加する事ができる。
入隊希望のある優秀者は特例として、学校の傍らで短い時間ではあるが部活動を飛び越え本格的に仮入隊も許されるが、これは特例中の特例であり、あくまでも大学卒業するまでは学校が大優先。本業は学生なのである。


「住む場所の事なんだが。アラガナ改めフウライはハナの家に同居したいという希望を出しているがどうする?」

「……え?」

「別にこっちは設備の整った学生寮を用意してもいいんだが、フウライの強い希望でな。」


「断る!」

自分を好きだと告白してきた人と、気もないのに一緒に住むっていうのは相手に対して失礼だと思ったからだ。

それが無ければ、まだまだ子供だし成人するまでは同居しても全く構わないのだが。
むしろ、アラガナ…フウライは、何でも器用にこなすし一緒にいると家の中はピカピカ、常に布団や衣服も清潔、料理だって美味しいし見た目も綺麗だ。いい事尽くしではある。

…しかし、ハナを好きになるなんて…よっぽどの物好きとしか思えない。

ハナは、生まれてこの方モテた事がない。異性として見られないし、恋愛対象としての魅力が皆無だ。自分は恋愛沙汰には無縁だろうと自覚していた。

なにせ、盗賊団にいた幼少時代。
自分と年が近い子供達が性の犠牲者となり、悲惨な生活を送っていたのを何度も見てきた。中にはそれが理由で死んでしまった者さえいる。

いつ、自分にその魔の手が襲ってくるのかと怯え恐怖していたが、子供達どころか新人、若い大人まで手を出され泣いてるってのにいつまで経っても一向に自分にその気配はなくおかしく思っていた。

けど、いつだったか盗賊団の若い衆のヒソヒソ話が聞こえてきた。

『ハナは、そういう対象として見れないんだよな』

『ハナはどうしても無理だわ』

『あ!分かる、分かる!生理的に受け付けないっての?そんな感じだよな』

『なーんか、全然そそられないんだよなー。
多分、無人島に二人っきりになっても、ハナに手出すくらいなら一人で処理した方が全然マシだわ』

『ない、ない!アレとヤるくらいならスタイルいいブスとヤった方が全然いいな』


もしもの時、どう対処、逃げたらいいかとか色々と模索していたが、どうやらそれは必要なさそうだ。

ここで自分の身の安全が確保されて有り難い限りではあるが、ほんの少しだけ複雑な気持ちだ。

ここで、ハナはようやく自分はそういう対象から外れた人間なんだって気づいた。
なるほど、だから自分の周りは狙われて大変だったというのに自分はそういう気配すらなかったのか。ガッテンした。

リュウキと友達になり、この話をした所


『あー。確かに、お前はないな。』

と、対象外だと断言されてしまった。

そうなれば、気楽っちゃ気楽ではあるが…やはり複雑な気持ちは否めなかったが。

そうやって、この26年間生きてきた。

なのに、26年間恋愛沙汰とは無縁だったハナに転機が訪れた。


12才の小学生に、愛の告白をされるというハナにとって天地がひっくり返る程衝撃的な事件が起きた。

しかも、相手が相手だ。

驚く程モテモテな男の子。ハナとは真逆である。


凄く驚いたし、心が踊り出すほどに嬉しい。
もう、こんな経験はないだろう。

ただ、残念な事は

アラガナ…いや、フウライが“吊り橋効果”で自分の事を好きだと勘違いしている可能性が非常に大きいのだ。


二年前、フウライが社会勉強の為にここに来た時。
当時、フウライは五番隊副隊長であったルカに強姦されかけた。未遂で終わった話ではあるが…
そんな中、フウライを助けに来たのがハナだった。

ピンチに陥ったフウライが、ハナの登場により危機的状況を乗り越え、そのドキドキを恋愛のドキドキと勘違いしたのだろう。…可哀想に…

そして、今回もそうだ。心理的にどうしようもなく荒れていたフウライを誰も止める事なく手を差し伸べてくれる者がいなかった。
そこで登場したのが、またもや、ハナ。そこで、吊り橋効果が再発し今に至るのだろう。

本当に不憫な奴だ。

ならば、あえて距離を置こう。
そうすれば、フウライに新たな出会いがあるだろうし、きっと時間が解決してくれる。


そう、ハナは判断したのだった。


しかし、いっときの勘違いだとは言え、美味しい思いをさせてもらった。

ハナは、そこのところはフウライにとても感謝した。女としての喜びを諦めてるとはいえ、やはり告白されると嬉しいものである。

これを思い出に一生過ごしていけるなとハナは思った。その為にもいい男になれよ。
こんな、いい男に私は告白された事あるんだからなって心の中で自慢できるからな!


だが、ここでハナはフウライの本気を舐めていた。舐めすぎて、ある意味酷い目にあう事となる。



ーーーーーーーー


リュウキに連れられ、学生寮に来たフウライ。


「お前を俺の養子にして、後を継がせたかったんだが残念だ。」

「気持ちだけで嬉しいです、叔父上。けど、俺は叔父上の養子になっても後は継ぎませんでしたけど。」

「ハッ!そういうと思った。しかし、ここからだぞ?」

「覚悟の上ですよ。」

と、不敵に笑うフウライは子供らしからぬ雰囲気を漂わせていて、リュウキはゾクゾク…!っと、全身粟立つのを感じた。


本当に、頼もしくも末恐ろしい子供だ

だが、こんな妙妙たる逸材が我が国に来てくれたのは、かなり嬉しい誤算だ。まさに棚ぼた

これから、どう育っていくのか将来が楽しみでしかないな


ーーーこれからアラガナ改め
フウライの新たな人生がスタートする。ーーー


寮で用意された自分の部屋に入ると
当たり前であるが、ハナの家とは雲泥の差ほどに綺麗で設備が整っていた。

ハナとの生活を経験した事のあるフウライは、整い過ぎて逆にちょっと不安になっていた。

奨学金で学費を補い、寮費と生活費はリュウキからお金を借りる事となった。衣類、日用品などは叔父からの入学祝いという形で一式揃えてもらった。

小遣いがない事に関してはそんな贅沢は言ってられないし、学生であっても訓練生から仮入隊まで昇格できれば時給が出るらしい。
有り難い話だ。早く、仮入隊できるようにしなければ。


その美しすぎる美貌のせいで性的に狙われやすいフウライは、リュウキからの提案でプライベート以外では魔法衣を着てフードで顔を隠す事。体育、魔法の実践は他の生徒達の妨げになる可能性がある為、自主学習時間とする。

と、フウライにとっては、有り難い条件が下された。

こんなにトントン拍子で事が運びすぎるとちょっと不安になってしまうのは何故だろう?


そして、フウライは学校の授業が終わるとすぐさま城の訓練場へと急いだ。


…やった!

やったぞ!!

ようやく、ハナに会える!!!


フウライは、ハナに会えると思っただけで胸が高鳴り嬉しくて嬉しくてどうしようもなくて、時々らしくもなく


「…フッ…フフッ!ハハッ!!」


と、声を出して笑い、浮き立つ足で全速力で城に向かった。

そういえば、ハナは何処の部隊に配属されてるんだろうか?

いくら、リュウキに聞いても『いずれ、分かる』と、だけ言ってそれ以上は教えてくれなかった。


そして、リュウキに指定された場所へ行くと、そこには新人の兵達や中学生以上の訓練生達が集まっていた。

しかし、当然であるが、いくらその場を見渡してもハナの姿を見かける事はなかった。

ヒラであっても、ハナはけっこう長い間兵として働いてるのだから新人や学生が集まるこの場に居なくて当然だとは思うが、ちょっと気持ちが萎えてしまった。

更衣室への移動や休憩時間に、立ち入りが許される範囲でハナの姿を探した。

探して探して…一週間経つが、今まででハナの姿は全く見かけた事がない。

新人の兵や城で働く使用人達に、ハナの事を聞いてもそんな人物は知らないと言われるばかり。兵の数もかなり多く、ヒラ社員ならぬヒラの兵の事なんて関わりのあるごく少数しか知らないだろう。

…正直、城に来さえすれば、見かける事くらいできるだろうと思っていた。そして、たまに会う事ができて少し喋るくらいは…なんて淡い期待は消えていった。


…こんな筈じゃ…


だが、ハナの地位があまりに低すぎて会えないのなら、自分が上に上り詰めればいい。そこで、絶対にハナを見つけ出す!!!

フウライの元々の負けん気の強さで、頑張った。今までにないくらい全力疾走した。

その甲斐もあり、一ヶ月もないうちに仮入隊を許され時給をもらえるようになった。

お陰で、ちょっとしたお小遣いを持てるようになり初めての給料を貰った時は凄く嬉して、そのお金で安物ではあるが調理道具一式と食器類を買った。
仮入隊の身分なので時給は安いし、部活動程度の時間しか働けないので給料も本当に少ない。
そのお金をほとんど使ってそれらを買った。

理由は簡単。

初めての給料でハナに何か買ってあげたい、だった。

けど、ハナと会えていないので、それを渡す機会もなくクローゼットの中に閉まってあるだけだが。渡す事ができなくても、大好きなハナを思うと何かしたくなってしまったのだ。完全なる自己満足である。


そうして、二ヶ月程が経ち冬休み期間へと入った。

長期休みには、訓練生、仮入隊生、新人兵達から希望者を集め、強化合宿を行う。

そこは、とても過酷で厳しいとされているが、大きなチャンスでもあった。

そこでは、なかなかお目にかかれない上官数名と共に実践さながらの野外訓練がある。
上官直々の指導、そして、上の人達の実力を知るいい機会だ。とても、貴重な時間と言える。

それだけでも、十分に素晴らしい体験なのに、それに加えて、訓練生、仮入隊生、新人兵達のその実力次第で特別な処遇がされるという。

だから、この強化合宿はとても人気があり大勢の参加者が集まり、そして、あまりの過酷さから初日から脱落者も多いという。


フウライは、これだ!!!

と、思い、さっそく強化合宿へと参加した。
集まってきた参加者達はざっくり2000人ほど集まっていた。

参加者がこんなに集まるなんてと少し驚いてしまったフウライだが、それを心の中に隠し平然を装うと目の前の上官の挨拶を聞いていた。


「これから、25日間の厳しい訓練が始まる訳だーーー」



そこで、思わぬ嬉しい事があった。


……え!!?

嘘だろ!?なんで、こんな所にっ!?


…ドックン、ドックン、ドックン!!!


ある場所に参加者達は集められ、その先には上官らしき人物が三名ほど。その後ろでは、三十名程の年齢がバラバラな兵達が控えていた。


「これより強化合宿の内容を発表する。
まずは、A班、B班、C班の三つのチームに分かれてもらう。
それぞれチームリーダーの指示に従い訓練をしてもらう。そして、五日後には丸一日掛け、チーム対抗サバイバル訓練で互いに競い合ってほしい。」


「勝利条件は、より多くの敵を捕まえる事。
それぞれの陣地に巨大な檻を用意してある。そこに、捕まえた参加者達を収容する。
ただし、捕まっても時間以内ならば、いくらでも逃げたり助け出す事もできる。もし、捕まえていたとしても、逃げられたらもちろんポイントは0だ。」


「今回の合宿は、魔法、魔導を封じられた想定で行う。なので、訓練場は魔封じの魔具設置されてる為、魔法や魔導は一切使えないようになっている。」


…チッ!

魔導が使えないのかよ

あわよくば、魔導でハナを探し出して接触しようって思ってたんだが


ここで、早くもフウライの淡い期待は消えたが
その分、訓練に集中できる!早い昇進の為に、この訓練でどうにか自分の力をアピールしたいとフウライは目論んでいた。


「ちなみだが、ここにいるお前たちの先輩方は、訓練及び仕事中にミス、失態した愚か者達である。
その為、ペナルティの一つとして学生や新人のいるこの合宿に参加する事となった。
いくら先輩だからと言って参加者に変わりはない。だから、気にする事も遠慮する事もない。」


…ズーン…


ハナ…お前、一体何やらかしたんだよ…

…いや、普通に考えてハナは問題児だよな

遅刻するし、上官や先輩方に対する態度も悪いし…


と、フウライは頭を抱えたものの、だがお陰で同じ空間にハナといられるし近づくチャンスだ!と、思わぬ事態にドキドキが止まらなかった。


「合宿は25日間あるが、10日目まで残った参加者達は脱落は許されず最終日まで強制参加する事とする。」


つまりは、合宿中10日以内ならいつでもリタイアしても構わないという事になる。

「10日目に残った者達でチーム分けをし、それぞれ五日ごとにチーム対抗サバイバル訓練をする。計3回に及ぶサバイバル訓練の総合得点で順位が決まる。」


「合宿終了後は、参加者に5日間の特別休暇を与えるとする。その間、思う存分リフレッシュするように。だが、くれぐれもハメは外すなよ。」

と、嬉しい内容が飛び出してきたが、次の内容にみんな愕然とする事となる。


「なお、最下位のチームの兵達にはペナルティとして、半年間の50%の減給及び外出禁止を課す。」

ペナルティがあるなんて聞いてない、たかが強化合宿でそのペナルティはあまりに厳しすぎるんじゃないか!どうして、訓練生と仮入隊生にはペナルティがないんだ、不公平だ!と、ペナルティ兵と新人兵達はどよめき始める。


「なお、合宿内容、ペナルティについては他言無用!もし、他の者に漏らした者がいた場合、その者には今後一切強化合宿には参加させない。それが悪質な場合、兵の素質が無いと判断し即刻クビとする。以上だ。」

なんてこった!合宿内容もさることながら、ペナルティがヤバすぎる!
これは、何が何でも勝ち残りたい。最下位は絶対に嫌だ!と、みんな負けられないという気持ちに火がついたのだった。



そうして始まった強化合宿。

やはり、事前から過酷だと聞いていただけある訓練内容だった。なので、意気込んでこの合宿に参加したはいいものの、初日早々半分近くの脱落者が出たのだった。

日に日に、脱落者は増え

10日も経てば、2000人程いた参加者達も500人程しか残っていなかった。

しかも、ルールとして最初から決められていたが10日過ぎてからは脱落する事は許されず最後まで強制参加となる。

その事もあり、9日目の夜にはここぞとばかりに多くの脱落者が出たのだった。


ここをのがせば、もう逃げられない

チーム対抗サバイバル訓練は、練連帯責任も出てくるくるので精神的にも追い詰められる


逃げるなら今のうち、今が最後のチャンスなのだ。


そうして、過酷な訓練も中盤に差し掛かれば、肉体的にも精神的にも疲労が溜まり、過度なストレスから、みんな、精神的に追い詰められていた。

その捌け口になるのが、チーム内で足を引っ張っている人や弱そうな人、見た目が良くない人達がターゲットとなる。

その人達に向かい、暴言や無視、悪口、私物を隠すなど陰湿なイジメが始まってきていた。

しかも、ハード過ぎる訓練内容の為、毎日がしんどくて“訓練も終わりが来ないんじゃないか”、“永遠にこのままなのかもしれない”、と、有りもしない妄想に取り憑かれる程までに参っている者も多かった。


そうなると、異常な空間の中生まれてくるのが強い性欲。そこで狙われるのが、見目が良さそうな弱い立場の人間である。特に、学生である訓練生がターゲットになりやすい。


現に、フウライも何度かその現場に出合した事がある。場所や時間帯もバラバラ、複数だったり、極端に女性が少ないせいか男同士だったり、女が男を襲うってのもあった。

特に就寝時間が一番危ない。訓練生や仮入隊生、新人兵には簡易宿泊施設が用意されていて、その中でそれぞれで用意した寝袋で寝る。

上官やペナルティ参加者は天幕を使っている。

その寝てる時が恐ろしい。寝っている室内で、何やらモゾモゾして息が上がってる声が聞こえてくる時、トイレが長い人がいると…あ〜…仕方ないよな、溜まるもんなとは思うが、何とも気まずい気持ちになる。

まあ、それは仕方ないのでいいが

こういう特殊な場所で興奮するのか吊り橋効果なのか、ここで男女どころか同性のカップルもいくつかできあがってる。カップルっていうより…お互いの欲の発散の為に同意の上でヤるヤリ友みたいなものだ。

…一途にハナを思い続けているフウライにとって、その行為は理解不能でしかなかった。

しかし、互いに合意があるし自分には関係ないので別にいいのだが問題は、合意のない一方的な行為の事だ。

誰か分からないが、寝静まった施設内に忍び込み自分の気に入った人を外に連れ出したり、その場で何かしようとする者さえいる。

トイレに行ったやつが狙われるたって事もあったようで…おちおち休んでも寝てもいられない。

訓練場でも、休憩中や訓練中でも少し人の目が離れただけで森の茂みに連れ込まれたり岩陰であったりいくつかパターンがあるようだ。

もちろん、誰しもがという訳ではない。

それは、一部の人間だけであって訓練が終わっても、そんな事があったなんて知らない人の方が多かったりする。

どういった訳か分からないが、さほど見目が良くなくても狙われる人はよく狙われる。美人だからといって必ず狙われるかといえばそうとは限らない。

そこは、置いておいてだ。

知らない人は知らない中、その中の一部ではドロドロとした性事情もあるのだ。性事情だけでない。イジメ、暴力もまた然りである。


だが、暴力・強姦などいずれの場合でも、何故かその場にたまたまハナが通りかかり、“未遂”で終わっている。


しかも、ハナは毎日のように訓練生や新人兵の誰かかしらを自分の寝床や休憩場所にお持ち帰りしているらしい。

らしいというのは、“噂”があったからだ。


ハナって言うペナルティ参加者は、男色家で性欲が強すぎる為に自分が気に入った相手を脅し、連れ込んでは食い散らかしていると。

話では、ハナはこの強化合宿にペナルティ参加者として毎回参加してるらしい。

理由は簡単。まだまだ子供な訓練生と未熟な新人達は、兵歴の長いハナにとって格好の獲物。
自分の欲の為に、わざとペナルティを犯しこの合宿に参加してるとの事だった。

その話を聞いた時は、そんなのは嘘だ!
ハナはそんな事しない!何でこんな根も歯もない噂が立つんだと有り得ない噂話に腹が立って仕方なかった。


だが、しかし…


暴力、強姦があった時、ハナの遭遇率のあまりの高さも引っかかる。たまたまにしては、妙に遭遇率があり過ぎる。

そして、今さっきだが、見目が良さそうな女を自分の寝床に連れ込む姿を目撃した時にはフウライは酷くショックを受け放心状態となってしまった。


…まさか、ハナがそんな…


同じチームになって喜んでたのも束の間。
ハナのこんな醜態を知ることになるなんて…と、フウライは絶望した。


何の為に、俺はここまでして…


と、一瞬目の前が真っ暗になった。

だが、恋は盲目であった。

そうして、ハナの事をグルグルと考えているうちに、こう考えるようになってきていた。


…ハナが俺以外の奴としてるって?


ハナが自分以外の誰かも分からない相手と性行為してるって思っただけで、嫉妬に駆られ相手をボコ殴りにしてこの世から消し去りたい気持ちに襲われた。


…ドクン…


…ハナに相手してもらえて羨ましい…

俺だって、ハナとしたい!



…ドクン…


なんで…?

なんで、そんな奴らを相手にすんだよ。
俺がいるんだから、相手は俺でもいいだろ?

俺がハナの事好きだって知ってるはずなのに!

なのに、なんでっ!

俺なら、いつだって…


と、考えたところでハタっとした。

フウライがハナを好きだって事は、ハナ自身知ってる筈だ。それを知ってるなら、それを利用してフウライを好き勝手にできる筈だ。



何故、それをしない?

俺の顔が見えないから?…いや、それはない

魔法衣で顔を隠しているとはいえ、叔父様からこの話は聞いて知ってるはず

…何か、おかしい


そこまで、考えると

ある事が思い浮かんだ。まさかとは思うが…
いや、そうとしか考えられない。

そもそも、どう考えたってあのハナがそんな事するとは考えられない

もし、自分の考えが正しければ!


そう思い至り


ドクン、ドクン、ドクン…!


ハナが休憩所、寝床としてる天幕に近づき、こっそりと中の様子を見て見た。


すると


< 82 / 125 >

この作品をシェア

pagetop