イケメン従者とおぶた姫。
ショウが居なくなった翌日。
リュウキは、忙しい仕事を少しばかり仕事量を減らし念のためにサクラの様子を見る事にした。
朝食時間、サクラは食卓に現れなかった。
毎朝の鍛錬も、辛うじていつものメニューはこなしてはいたものの全く身が入っていない様子だった。
隠密の話では、昨日は眠れていなく何度もショウの名前を呼んでは一晩中泣いていたようだ。
何となく、そこまでは想像できていたのだが
今朝の私服姿のサクラを見て、リュウキは驚いてしまった。
…ジャージだ。髪もボサボサのままで、いつものように髪を結えてすらない。おそらく、クシも通してないだろう。
リュウキだけではない。屋敷のメイド達もサクラの格好に驚きを隠せずどよめいている。
リュウキやメイド達が驚くのも無理はない。
何故ならサクラは、その日の衣服に合わせバリエーション豊富にその美しい長い髪を結び飾り付け、服やアクセサリーも流行りを取り入れつつ自分流に見事に着こなしていた。
つまり、オシャレなのだ。
なので、屋敷では今日のサクラ様のファッションはどんな装いなのかしら、髪型は?と、メイド達はそれを楽しみにしているのだ。
だが、今日のサクラはどうだろう。
洒落っ気一つ無く、トレーニング用のジャージを着ている。
しかも、毎朝、トレーニング後シャワーを浴びて朝食後はショウと一緒に軽く入浴して清潔だったサクラだが今日はトレーニング後もシャワーも浴びる事なく
学校へ行く時間、制服を着て髪も何の手入れもなくボサボサなまま学校へ行ってしまった。
家に帰って来ると適当にシャワーだけを浴びて夕飯も食べず部屋に入ったきり出て来なかった。
隠密に話を聞くと、学校でも食事という食事はとっていないらしい。
学校でもサクラはぼんやり上の空で勉強や運動に身が入っていないらしい。
部屋に入ったサクラは今日もショウの名前を呼び泣いているらしい。
困ったものだ。
そんな日々が一週間続くと栄養不足と寝不足がたたり学校へ向かう途中サクラは気を失い倒れてしまった。
隠密の迅速な対応により、サクラは屋敷へ運ばれ医師に診てもらい
今は自室で眠っている。眠っていると言うより気を失っていると言う方が正しいのかもしれない。
そこから眠りに入るとサクラは、いつもの悪夢にうなされ悲鳴と共に目を覚ました。
「…ーーーウアァァァッッ!!!?」
その勢いのまま、ガバリと上半身を起こすと胸を押さえゼェゼェと息を切らしていた。恐ろしい夢を見て冷や汗も止まらない。
隣を見ると、いつもいるはずのショウの姿が見当たらない。サクラは、寝ぼけているのかキョロキョロ周りを見渡しショウの姿を探す。
いくら見渡しても、何度自分の隣を確認しても見つからない。
「…ショウ様?」
不安気に、ショウの名前を呼んでショウの存在を確認する。だが、何の返答も気配すらない。珍しく一人でトイレにでも行ったのかとサクラはベットから立ち上がりトイレに向かおうとした。
すると
…ビクッ!
サクラは、ようやく人の気配がするのに気がつき驚きそこを見た。
すると、ドアに寄りかかりこちらを見ているリュウキの姿があった。
「珍しいな。人の気配に敏感なお前が、俺がいる事に気づかないなんてな。いつものお前なら有り得ない話だ。」
そう言って、いつからそこに居たのか分からないリュウキがサクラに近づいてきた。
「…まあ、いい。とりあえず話をしよう。」
リュウキは、サクラに椅子に座るよう促した。しかし
「…ショウ様がいらっしゃらない。トイレに行ったのかと思ったが…気配が…」
サクラは、いるはずもないショウの姿をまだ探していた。気を失って倒れ、今目を覚ましたばかりだ。現実と夢の区別がついてないらしい。
「ショウなら大丈夫だ。とにかく、そこに座れ。」
混乱しているらしいサクラは、いつもならば生意気にもお前の指図は受けないと突っぱねるのに今は素直に聞き入れ勉強机の椅子に力なく座った。
リュウキはサクラのベットにガサツに座り、適当な話をしつつショウが旅行に行き今は家にいない事を話し少しずつサクラの意識を現実に持っていった。
そして、ようやくサクラが正気に戻ったと判断した時リュウキは本題を持ち掛けた。
「お前、どうした?
いつも、ファッションモデルかって思うほど洒落こむお前が、ここのところ毎日ジャージにボサボサ頭。
しかも、風呂にもあまり入ってないそうじゃないか。」
そう言ってきたリュウキに、サクラは面倒臭そうなため息を吐きながら
「…見せる人がいない。」
と、言ってきた。そこにリュウキは、まさかと思いつつ
「いるだろ?清潔と洒落こむのは周りの目を気にしての事だろ。人前に出る時の最低限のマナーだろ?」
「…別に、自分一人ならどうでもいい。
今までは、ショウ様がいたから…。
俺の事でショウ様に恥をかかせたくないから、流行りも勉強しつつファッション選びをしていた。何より、ショウ様が喜んで下さるから。
風呂やスキンケアだって、ショウ様に不快な思いをさせたくないから入念にしていたまで。
…だが、今、ショウ様はここに居ない。だから、どうでもいい。」
なんて、投げやりな事を喋るサクラにリュウキは頭を抱えたし、少しイラついて。つい…
「そんなに、風呂に入るのが面倒、見た目を気にしないってなら、その長い髪を切っていっそのこと丸ボーズにしたらどうだ?」
「それもいいかもしれない。」
なんて、売り言葉に買い言葉で思ってもない適当な言葉をついつい口に出してしまった。
それに対し肯定的な返事を返したサクラに少しばかり引っかかりはしたが、今はそんな事より話さなければならない事がたくさんある。
「勉強やトレーニングにも身が入ってないらしいな?小テストを行った教科、全て白紙で出したとも聞いている。体育の実習もただ突っ立っているだけとも聞いた。
これでは、学校へ行っている意味がないだろ?」
「…そう言われても、自分でも分からない。やらなければと思うが、どうしてもできない。体が思うように動かないし、頭も働かない…何より何に対してもやる気が起きない。」
サクラは喋るのさえ億劫そうだった。
サクラが、こんな風になるのは予測はしていた。だが、ここまで重症だとは想定外であった。それは、リュウキが想定していたものより遥かに大きかった。
しかも、時間が解決すると思っていたリュウキだったが一週間に一度毎回毎回こんな風になってしまうのでは解決の前にサクラは体を壊し取り返しのつかない事にもなりかねない。
現に、日に日にサクラは目に見えるほどやつれ歩行すら困難になっていた。
それもそのハズだ。
ご飯もまともに食べない。食べても口に入れたそばから吐き出してしまう。
寝る事もできず、一週間に一度か二度意識を失い倒れ、目が覚めると夢と現実が入り混じり錯乱し正気を取り戻すまで屋敷中ショウを探す。心も病み精神も鬱状態になり目に光がない。今のこの状態である。
それが、もう二ヶ月ほど続いているのだ。
しかも、日に日に状態も悪化しているように見える。
さすがに、このままではいけないと医者にもお婆にも言われリュウキが動いたのだ。
見れば見るほど、サクラに生気がない。
体もガリガリで目のくまも酷いし肌も水分不足栄養不足でひび割れ荒れ放題だ。
見るも痛々しい姿であった。
そこで、リュウキは考えた。
もしかしたらと!
さっそく、リュウキはそれを実行しようと思い立ちサクラの部屋を出て行った。
リュウキが出て行き、サクラはようやく休めるとばかりに鉛がついたかのように重い体をベットに埋めた。
体は痩せていくばかりで体重は軽いはずなのに、何故か身体中に重りを付けたようにズッシリ重い。動くのがシンドイ。
それから、いつものようにショウを思っては涙を流していた。
その時
…カチャ…
静かに扉が開く音がした。
ああ、鍵を閉め忘れたとあまり働かない頭でボンヤリ考え音のする方へと目線だけ向けた。
すると、見目の美しい女が自分の所に向かい静かに歩いて来た。
ボンヤリ見ていて気がついた。
その女は、透明な下着を身に付けていて裸も同然であった。
なんて下品な女なんだと思うと同時にサクラは思った。この女はリュウキの買った女で、この女は自分とリュウキの部屋を間違えて来たのだろうと。
「…残念だが、ここはリュウキの部屋じゃない。」
声を出すのも億劫であったが、リュウキと間違えられてはたまったものではないし。
何より、自分の部屋に他人に入って来られるのは物凄く嫌だ。寒気がする程に、気持ちが悪い。
すると、その娼婦であろう女はクスクス小さく笑いサクラのベットに座ると、サクラの顔に顔を近づけサクラの耳元に
「間違えておりませんわ。ここは、サクラ様の部屋でしょう?」
そう色を感じさせる甘い声で囁き、そのままサクラの耳に口づけてこようとしていた。
それに対し、サクラは全身に気持ち悪い何かがゾゾゾォッと駆け巡り
「俺に触るなァァァッッ!!!?」
思わず悲鳴にも似た声で怒鳴り付けると
パーーーーンッッ!!!
女の頬を叩き落とした。しかし、それは隠密によって阻止され女は叩かれず済んだのだが。代わりにサクラの手を受け止めた隠密の腕が犠牲になった。
「な、なんのつもりだ?」
驚きを隠せないサクラは女に尋ねた。
女は、サクラの様子に最初こそ驚いたものの、こういう事にも慣れているのだろう。
冷静に話をしてくれた。
「私は、リュウキ様から依頼を受けて来ました。」
「…依頼…だと?」
「はい。リュウキ様から、サクラの夜の相手をしてほしいと依頼がありました。」
女の話に、サクラは一瞬何を言っているのか理解できずポカンとしたが、それを察してか女は
「サクラ様は、まだ女の体を知らない。だから、気違いを起こしている。
サクラに女の体を教えてやってくれ。
もしかしたら、驚きのあまりパニックになるかもしれないが
その時は、伽などせずサクラに添い寝をしてやってほしい。
どうやら、サクラは隣に人が寝ていなければ眠れない体質らしい。
…と。」
サクラに、事の次第を説明してくれた。
説明を受けたサクラは、怒りでワナワナと体を震わせた。
…ふざけ過ぎている!
「…話は分かった。だが、伽も添い寝も必要ない。帰ってもらえるか?」
今すぐにでもリュウキの所へ行き怒りをぶつけ暴れ回りたい気持ちを抑え、震える声で何とか女に自分の意思を伝える。
自分の行動一つで、リュウキの逆鱗にでも触れたらそれこそ大変な事になる。
ここは、ショウに会えるその時まで我慢して耐え凌ぐしかない。
そう思い、サクラは自分の感情をググッと押し殺した。
女は、困ったように少し笑うと
「…はい。」
と、言って静かに出て行った。
女はこれに近い経験を何度もしている。
親や親戚がホモ、ゲイを治したいから、息子の相手をし女の良さを教えてほしいとか
そもそも、病気でもないのに治すってなんだと疑問を感じ腹立だしく感じたが…
身分違いの恋をした息子に、いい女を経験させてもっといい女がいると目を覚ましてやりたいだとか
見目の悪い恋人を紹介され、友人を哀れに思いなど…
その他にも、様々に心苦しかったり腹ただしい依頼が舞い込んでくる事が多々ある。
その時は、相手の乗る気によるが
本当に嫌がっている場合は性行為などせず、依頼主に様々な理由をつけて帰って行く。
しかし、こちらも仕事なのでキャンセル料はちゃっかりいただくが。
それでも、最初こそ拒むが徐々に乗り気になる者が多い。たまに、ヤケクソで抱かれる事もある。もう、痛いし次の仕事に差し支えるしで散々だからヤケクソはやめてほしい。
けど、これで飯を食っているので何も言えないが。
今までの経験上、あの青年は少しでも性的に触れたらその瞬間に命を落としてしまう様な危うさを感じた。
しかし、残念だ。
今回の相手は、見た瞬間驚いてしまったが、この世の者とは思えないほどに美しい青年だったから。正直、腰を抜かすかと思ったほどだ。
こんな美しい男性とエッチできるなんて夢のようだと舞い上がってしまっていた。
ほんの僅かでも隙があったなら、美味しく頂こうと必死になったが…どう足掻いても無理だろうし微塵も隙が無かった。
本当に残念である。
残念すぎて、今日は依頼主のリュウキ様に慰めてもらおうと思った。だって、自分好みのなかなかのイケメンだし
経験上、あの人みたいな男は
若く見目が美しい女が誘えば拒まない。
女の思惑どおり、今回の依頼主のリュウキは自分を拒まずそれはそれは野生的に激しく愛してくれた。垣間見れる優しさも女心をくすぐるものがあり、プロにも関わらず女はリュウキに夢中になり次も会ってくれるならお金はいらないと口説いたが
…経験上…こっちが本気になっても相手に気持ちは無く、もうこの人からは依頼される事はないであろう。
経験上、こういう男は恋愛事には本気にならない。女は遊びと割り切っている。
…残念である。
ところ変わって〜時間も遡り〜。
娼婦の女がサクラの部屋を出て行ってすぐに、サクラは自分の部屋に纏わり付く先程の女の甘い香りとさっきまで他人がこの部屋にいたという心地悪さから
この部屋を捨て
別の部屋を自分の部屋とした。
そして、自分にもあの女の匂いが纏わり付き気持ち悪いと久しぶりに風呂に入った。
何をされたわけでもないのに、それはそれは血が出るんじゃないかと思うほど何度も何度も体を洗って。
それほど、さっきの出来事はサクラにとってショックだったのだ。
なんだかんだで、リュウキの事は信用していた。なのに、ショウと自分を引き剥がす為に女を使い自分を犯そうとしてきた。
…怖かった。
未遂であろうが、男であろうが女であろうが、自分を犯そうとする者がいたならそれは恐怖でしかない。
サクラは湯船の中、ギュッと自分の体を抱き体を震わせていた。そして、青ざめた顔で
「…ショウ様…」
と、呟き涙を流していた。
それを脱衣所からこっそりとサクラの様子を覗き見た、お婆はリュウキに対し怒りも頂点に達していた。
なんて声を掛けたらいいものだろうか?
きっと、少し間違った言葉一つでサクラは悪い方向へドンドン突き進んでしまうだろう。
お婆は、サクラになんて声を掛けたらいいものか悩み声を掛けられずいた。
そんな中、サクラは
湯船に映る自分の顔を見て、何だかやるせない気持ちと不甲斐なさを感じ
湯船に映る自分の顔をバシャンバシャンと叩いた。
「…なんて、情けないっ!ショウ様を守る事もできない!アイツの言いなりになるしか能のない自分が最悪だっ!!…クソッ!クソッ!!」
何度も何度も、湯船に映る自分の顔を叩いては自分の不甲斐なさを感じ悔しさのあまり涙が止まらなかった。
一心不乱に、湯船を叩きつけているうちに髪は乱れ濡れた髪が顔や体に纏わりついて鬱陶しくなった。
苛立ちのあまり、自分の髪にさえ怒りの矛先を向ける。
鬱陶しい自分の髪を掴み見る。
幼い頃の話だ。サクラと同じ色の髪をした
人間は誰一人としていなかった。
そのせいで、サクラは不気味に思われていたのだが
そんなサクラの髪をショウは綺麗だと言ってくれた。ショウにとって、覚えてもないほど些細な言葉だったのだろうが…それが、その時のサクラにとってどれほど救われた事か。
ショウが、綺麗だと褒めてくれた髪。
毎日、服に合わせ髪型を変えればとても喜んでくれた。だから、サクラは髪を伸ばし様々に着飾る。だから、サクラは自分を着飾るのが楽しくてしょうがなかったし自慢の髪だった。
だが、今は自分を見て欲しい相手はここにいない。会えるのは3年も先だという。
…伸ばしていても何の意味も持たない、今は鬱陶しいだけの髪。そう思っていると脳裏に誰だったかの言葉が浮んでくる。
“そんなに、面倒ならボーズにしてしまったらどうだ”
サクラは、これで気が晴れるとも思ってなかったが気がついたら波動で刃を作り一心不乱に自分の髪をザクザクと切っていた。
そこに
「…ヒャァァァッッ!!!!??
何をしておりましゅかぁぁーーーーーー!!!!!」
と、お婆の悲鳴混じりの声が聞こえた。
そして、慌ててサクラの元へ駆け寄りサクラの腕を掴んだ。
「何をなしゃっておりましゅか!」
腕を掴まれたサクラは、ピタリと動きを止めゆっくりとお婆の方を見た。
「…お婆…」
お婆の登場でサクラは安心したのか助けを求める様に悲痛な面持ちでお婆を見てきた。
その様子に、少しホッとしつつお婆はサクラに優しく微笑みかけ
「さぁさ。せっかくの男前が台無しでしゅよ?このお婆が、綺麗に髪を整えてもっと男前にして差し上げましょう!」
声を掛けると、サクラは素直に頷いた。
お婆は、サクラを脱衣所の椅子に座らせるとバリカンを手に持ちサクラの髪をガガガ…と刈っていった。
と、いうのもサクラの無残な頭を見ると一番短く切られた髪は頭の根元近くまで切られていてバラバラの長さになってしまった髪を整るのには一番短く切られた髪に合わせるしかなかったのだ。
お婆は、サクラの無残な髪。サクラの美しい髪を切らなければならない事。
サクラの気持ちが形に現れている様で涙が出そうになった。何もしてやれない自分が悔しくバリカンを持つ手も震える。
だが、お婆はそんな自分を叱咤しサクラの髪を整えていく。
サクラの髪を切りながらお婆はたわいもない話をし、サクラに話しかけていた。それは、サクラとショウが小さかった時の昔話でサクラも懐かしさから時折、小さく笑っている様子が見えた。
そのうち、心が落ち着き緩んできたのだろうサクラも少しづつお婆の会話に加わってきて
ついには
「…なぜ、俺がショウ様を好きだって思っているだけで気違い、勘違い、デブ専、ブス専など言われなければならないのか?人を好きになって何が悪いんだ?」
なんて、いつの間にかサクラの恋愛相談にまで発展していた。
サクラは、自分がショウの事を恋愛対象として好きだという事はとうの昔にお婆とリュウキにバレバレな事は知っているし隠すつもりもない。
時折、お婆に恋愛相談もしているくらいだ。
だが、ショウ本人にはこの気持ちをずっと隠し続けている。
「…確かに、ショウ様はちょっとワガママで見栄っ張りで。不器用過ぎて空回りばかりし失敗をしては気持ちを伏せる事が多い。」
あんなにショウを超溺愛しべったりなくせに、見るところは見ている…けど、辛辣過ぎやしないか?と、お婆はちょっと複雑な気持ちでサクラの話を聞いている。
「…けど、誰より優しい。優しいって言っても!優しさもたくさん種類があると思う。
だが、俺はショウ様の持つ優しさが好き…
あの不器用な優しさが。
人には理解できない様な優しさかもしれないが、俺はショウ様の側にいてずっと見てきたからこそ分かる優しさ。」
と、何かを思い出しているのだろうサクラはフワリと優しい笑みを浮かべている。
「そうでしゅな。お嬢様は、優しく可愛らしい。」
サクラに続き、お婆がそんな事を言うと
サクラは嬉しくてバッと後ろを向きお婆の顔を見てきた。
俺の話をいっぱい聞いて、そのお話をたくさん聞かせてと言っている幼い子どものように目をキラキラ輝かせいる。
「こぉ〜れ。まだ、髪を切り終わっておりましぇんよ?前を向いて下しゃい!」
お婆は、ワザとらしく怒った様な口ぶりで
お喋りがしたいサクラに無理矢理前を向かせる。
お婆は、幼い頃から二人を見ていて知っている。サクラが、どんな気持ちでショウを見ていたのか。
そして、ショウの気持ちも。リュウキの思いも…。
それからサクラのショウがいかに可愛く愛おしいか思い出話を交えての会話で弾んだ。
だが、そんな嬉しくて楽しくてしょうがないといったサクラの姿に、お婆は再度サクラのショウに対する気持ちが見えて微笑ましく嬉しくもあった。
そして、リュウキにサクラの気持ちは“気違い”“ブス専”“洗脳”と罵られ
周りからは“ショウの奴隷”“可哀想な人”など心ない事を言われ辛くて悲しいというサクラの悩みに心を痛めた。
「サクラしゃまは、お嬢様の事がだいしゅきで大事なのでごじゃいましゅのね。」
そう心からそう呟くと、サクラは恥ずかしそうに俯き178センチもある体を小さく縮め顔を真っ赤にし顔を両手で覆ってしまっていた。
首までも赤い。もしかすれば、体を冷やさないように羽織っているバルローブの中の体までも赤くなっているんじゃ無いかと言うほどに真っ赤になっていてうぶな姿であった。
「…好きって言葉だけじゃ表現できないし足りない。
赤ん坊の頃からショウ様を育ててきてるせいか家族愛にも似た愛おしい感情もあるし、
焦がれるような恋愛感情。…あと…性愛も…」
最後の言葉の方は、言葉に出してしまってから言うべきものじゃないと思ったのだろう。恥じらいからか声が尻すぼみになっていた。
二人が幼い頃から面倒を見てきたお婆は知っている。いつの頃からか、サクラはショウを女と意識し始めムラムラ、悶々としている事を。
それを我慢し過ぎるがあまりなのか、少しばかり欲が出てしまうのだろう。
食事中、ショウが顔や服に食べカスをつけていれば躊躇なく舌で舐めとり、たまに思い余ってちゅっちゅ、音を立ててキスをしている事もあったし
入浴中のマッサージ…あれは、ショウがあまりに太り過ぎて血行が悪くなり全身の凝りが酷くなりこのままでは危ないと始めた事。
覗いた事がないので、何とも言えないが…言えないが…おそらく、ちょっぴりサクラの欲が暴走している可能性が極めて高い気がする。
夜、二人が一緒に寝る時だって
サクラの寝巻きが毎回毎回あまりにセクシー過ぎるのだ。
おそらく、いや確実に自分を異性として意識させるためにワザとそんな寝巻きを着ているのだろう。ショウを誘惑し誘っているのだろう。
毎晩、楽しげな会話から何やらごにょごにょ唯ならぬ雰囲気になり…何やら甘美な声が聞こえてくる。ベットの軋む音も…
あまりに気になり覗いて見た事もあったが、寝る前の全身マッサージをしていただけであった。
しかし、マッサージをしているサクラの顔は欲情しきっている雄そのもの。極上の美味しそうな獲物を目の前に“待て状態”の獣。
ショウの体に唇を近づけては、すんでのところでピタッと動きを止め自分の腕を噛み理性を保とうと必死。
マッサージする手も、マッサージから別の手つきに変わり…ショウの胸や大事な所に手を滑り込ませようとして。けど、それもグッと我慢し、最後はショウを寝かしつけてから自分は急いでトイレに駆け込む。
それから、ショウを大切なモノを包み込むように抱き締め眠る。たまに、愛おしくてたまらなくなるのだろう。
嬉しそうに、クフクフだらしなく笑いながらショウに頬ずりしたり頭やほっぺにキスをしている事も多々あったようだ。
その他にも、色々と見て知っている。サクラのムラムラと悶々は年々…日に日に強くなっている事を。
加え、サクラはショウの性格も容姿、能力についてもしっかり分かっている。
ショウは、容姿も優れてはおらず太っている事。人見知りで引っ込み思案、不器用な性格。人付き合いが苦手でよくいじめられる事。
運動も魔法、波動、勉学もまるでダメダメだという事もしっかり理解しているのだ。
その上で、サクラはショウに恋愛感情を抱いている。どこがいいのかと聞かれても答えるのが難しいだろう。
ただ、言える事は、自分に足りないもの、自分が欲しているものがそこにあった。ショウや周りはそれを劣等として醜く感じているが、サクラはソレを愛らしく愛おしく感じている。
自分の心に空いていたたくさんの穴に少しのズレもなく心地よくピタリとハマっちゃったって感じなのかもしれない。
それなのに、気違いや洗脳とリュウキはいう。若いメイド達は、ショウが金や権力を使ってサクラを奴隷扱いする酷い人間だと決め付けている。
そもそも、サクラがショウの事が好きなのはあからさまなのだが。
どうも、周りはそれを認め許してはくれないらしい。
そうして、髪を切り終わり風呂に入って綺麗さっぱりしたサクラは
「…お婆、聞いてほしい事がある。」
と、自分の部屋に招き入れた。
「なんでしゅかな?このお婆で良ければ、話くらいいくらでもききましゅよ?」
そう、お婆が声を掛けるとサクラは少し間を置き
「…お婆に、俺の秘密を聞いてほしい。」
「…秘密でしゅと?」
「…ああ。俺には、ショウ様にも秘密にしている事がいくつかある。」
「おやおや。お嬢様にも内緒なのに、お婆が聞いてしまってもよろしいんでしゅかな?」
お婆が、幼子を相手にする様に少し大げさに驚いた様に見せた。お婆は、自分も知っている様な可愛らしい秘密事なのだと油断していた。
お婆を椅子に座らせるとサクラは、今まで隠してきたと言う秘密をお婆に打ち明けた。
「…な、なんでしゅと!?
しょれは、しょれは…このお婆もビックリしましゅたわ。
そんな大事な話をお婆に話してしまって良かったのでしゅか?」
サクラの秘密を聞いたお婆は、驚きを隠せない様子だった。正直、そんなバカなと腰を抜かし掛けた。
「…ああ。この話は、お婆にしか話してない。ショウ様さえ知らない事だ…と、言うよりこんな話をしたらショウ様に嫌われてしまうだろうな。」
と、サクラは苦笑いしていた。しかし、この話は隠密に筒抜けで既にリュウキの耳に入っているのだろうとお婆はヒヤリとしたが。
「どうせ、どっかの誰かが聞き耳立ててるだろうから防音バリアーを張っておいた。
だから、この話は聞かれてないはずだ。お婆。」
お婆の心を読んだかのようにサクラは苦笑いしていたが、お婆はそんな事もできてしまうのかと驚きはしたがサクラの秘密を知りなるほどなと納得もしてしまっていた。
「サクラしゃま、ご安心くだしゃいましぇ。
お嬢様はそんな事でサクラしゃまを嫌いはしましぇぬ。
そんな事より、いつになったらサクラしゃまはお嬢様に告白をなしゃるのでしゅか?」
なんて、お婆が悪戯っぽく聞いてみると
「…え…!?」
驚いた顔をし、顔を真っ赤にし俯いたサクラは
「…自信がない。…もし、ふられたらと思うと勇気がでない。ふられたとしても諦めもできない…」
なんて女々しい事をごにょごにょ言っていた。いつも、サクラはこうだ。
他の事では、恐れ知らず負け知らずで傲慢な所のあるサクラ。非の打ち所がないが故の傲慢さなのだ。
しかし、ショウの事となれば途端に弱々しく女々しい男になってしまう。
いわば、ショウはサクラにとっての唯一の弱点のようなもの。
「それならば!もし、ふられた時は
お嬢様に振り向いてもらえるよう男を磨きつつアタックあるのみ!
でしゅが、いき過ぎた真似だけは厳禁でしゅよ!」
なんて、お婆の言葉にハッと顔を上げた
サクラに
「お婆は、サクラしゃまを全力で応援しておりましゅ。
なにせ、お嬢様もサクラしゃまも、かわいい孫のように思っておりましゅから。」
と、優しい眼差しでサクラを見て言ってきた。
「…お婆。俺は、お婆には感謝しかない。
いつもいつも、お婆には世話になりっぱなしだ。お婆にしか、こんな話もできないし。
お婆の事は実の母の様に思っている。
それに、ショウ様の次に信頼している。」
サクラは、お婆の気持ちが嬉しくこそばゆい気持ちになりながらも、いつもは恥ずかしくて言えない言葉をお婆に言った。
お婆は、サクラの言葉を聞いてそれはそれは嬉しく感動のあまり涙が溢れてきた。そこに
「きっと、ショウ様そのものが存在しないのであれば、俺はお婆に惚れていたかもしれないな。」
と、サクラは少し悪戯っぽく笑いながらハンカチをお婆に差し出した。
「おやおや。そんな事を言ってしまっては
お婆はお嬢様に恨まれしまいましゅな。」
なんて、冗談交じりのくだらない話をしつつ
「それでは、ゆっくりと体を休めて下しゃいませ。」
「…ありがとう、お婆。」
お婆は、お休みの言葉を残しサクラの部屋を出たのだった。
ある決意を胸に。
リュウキは、忙しい仕事を少しばかり仕事量を減らし念のためにサクラの様子を見る事にした。
朝食時間、サクラは食卓に現れなかった。
毎朝の鍛錬も、辛うじていつものメニューはこなしてはいたものの全く身が入っていない様子だった。
隠密の話では、昨日は眠れていなく何度もショウの名前を呼んでは一晩中泣いていたようだ。
何となく、そこまでは想像できていたのだが
今朝の私服姿のサクラを見て、リュウキは驚いてしまった。
…ジャージだ。髪もボサボサのままで、いつものように髪を結えてすらない。おそらく、クシも通してないだろう。
リュウキだけではない。屋敷のメイド達もサクラの格好に驚きを隠せずどよめいている。
リュウキやメイド達が驚くのも無理はない。
何故ならサクラは、その日の衣服に合わせバリエーション豊富にその美しい長い髪を結び飾り付け、服やアクセサリーも流行りを取り入れつつ自分流に見事に着こなしていた。
つまり、オシャレなのだ。
なので、屋敷では今日のサクラ様のファッションはどんな装いなのかしら、髪型は?と、メイド達はそれを楽しみにしているのだ。
だが、今日のサクラはどうだろう。
洒落っ気一つ無く、トレーニング用のジャージを着ている。
しかも、毎朝、トレーニング後シャワーを浴びて朝食後はショウと一緒に軽く入浴して清潔だったサクラだが今日はトレーニング後もシャワーも浴びる事なく
学校へ行く時間、制服を着て髪も何の手入れもなくボサボサなまま学校へ行ってしまった。
家に帰って来ると適当にシャワーだけを浴びて夕飯も食べず部屋に入ったきり出て来なかった。
隠密に話を聞くと、学校でも食事という食事はとっていないらしい。
学校でもサクラはぼんやり上の空で勉強や運動に身が入っていないらしい。
部屋に入ったサクラは今日もショウの名前を呼び泣いているらしい。
困ったものだ。
そんな日々が一週間続くと栄養不足と寝不足がたたり学校へ向かう途中サクラは気を失い倒れてしまった。
隠密の迅速な対応により、サクラは屋敷へ運ばれ医師に診てもらい
今は自室で眠っている。眠っていると言うより気を失っていると言う方が正しいのかもしれない。
そこから眠りに入るとサクラは、いつもの悪夢にうなされ悲鳴と共に目を覚ました。
「…ーーーウアァァァッッ!!!?」
その勢いのまま、ガバリと上半身を起こすと胸を押さえゼェゼェと息を切らしていた。恐ろしい夢を見て冷や汗も止まらない。
隣を見ると、いつもいるはずのショウの姿が見当たらない。サクラは、寝ぼけているのかキョロキョロ周りを見渡しショウの姿を探す。
いくら見渡しても、何度自分の隣を確認しても見つからない。
「…ショウ様?」
不安気に、ショウの名前を呼んでショウの存在を確認する。だが、何の返答も気配すらない。珍しく一人でトイレにでも行ったのかとサクラはベットから立ち上がりトイレに向かおうとした。
すると
…ビクッ!
サクラは、ようやく人の気配がするのに気がつき驚きそこを見た。
すると、ドアに寄りかかりこちらを見ているリュウキの姿があった。
「珍しいな。人の気配に敏感なお前が、俺がいる事に気づかないなんてな。いつものお前なら有り得ない話だ。」
そう言って、いつからそこに居たのか分からないリュウキがサクラに近づいてきた。
「…まあ、いい。とりあえず話をしよう。」
リュウキは、サクラに椅子に座るよう促した。しかし
「…ショウ様がいらっしゃらない。トイレに行ったのかと思ったが…気配が…」
サクラは、いるはずもないショウの姿をまだ探していた。気を失って倒れ、今目を覚ましたばかりだ。現実と夢の区別がついてないらしい。
「ショウなら大丈夫だ。とにかく、そこに座れ。」
混乱しているらしいサクラは、いつもならば生意気にもお前の指図は受けないと突っぱねるのに今は素直に聞き入れ勉強机の椅子に力なく座った。
リュウキはサクラのベットにガサツに座り、適当な話をしつつショウが旅行に行き今は家にいない事を話し少しずつサクラの意識を現実に持っていった。
そして、ようやくサクラが正気に戻ったと判断した時リュウキは本題を持ち掛けた。
「お前、どうした?
いつも、ファッションモデルかって思うほど洒落こむお前が、ここのところ毎日ジャージにボサボサ頭。
しかも、風呂にもあまり入ってないそうじゃないか。」
そう言ってきたリュウキに、サクラは面倒臭そうなため息を吐きながら
「…見せる人がいない。」
と、言ってきた。そこにリュウキは、まさかと思いつつ
「いるだろ?清潔と洒落こむのは周りの目を気にしての事だろ。人前に出る時の最低限のマナーだろ?」
「…別に、自分一人ならどうでもいい。
今までは、ショウ様がいたから…。
俺の事でショウ様に恥をかかせたくないから、流行りも勉強しつつファッション選びをしていた。何より、ショウ様が喜んで下さるから。
風呂やスキンケアだって、ショウ様に不快な思いをさせたくないから入念にしていたまで。
…だが、今、ショウ様はここに居ない。だから、どうでもいい。」
なんて、投げやりな事を喋るサクラにリュウキは頭を抱えたし、少しイラついて。つい…
「そんなに、風呂に入るのが面倒、見た目を気にしないってなら、その長い髪を切っていっそのこと丸ボーズにしたらどうだ?」
「それもいいかもしれない。」
なんて、売り言葉に買い言葉で思ってもない適当な言葉をついつい口に出してしまった。
それに対し肯定的な返事を返したサクラに少しばかり引っかかりはしたが、今はそんな事より話さなければならない事がたくさんある。
「勉強やトレーニングにも身が入ってないらしいな?小テストを行った教科、全て白紙で出したとも聞いている。体育の実習もただ突っ立っているだけとも聞いた。
これでは、学校へ行っている意味がないだろ?」
「…そう言われても、自分でも分からない。やらなければと思うが、どうしてもできない。体が思うように動かないし、頭も働かない…何より何に対してもやる気が起きない。」
サクラは喋るのさえ億劫そうだった。
サクラが、こんな風になるのは予測はしていた。だが、ここまで重症だとは想定外であった。それは、リュウキが想定していたものより遥かに大きかった。
しかも、時間が解決すると思っていたリュウキだったが一週間に一度毎回毎回こんな風になってしまうのでは解決の前にサクラは体を壊し取り返しのつかない事にもなりかねない。
現に、日に日にサクラは目に見えるほどやつれ歩行すら困難になっていた。
それもそのハズだ。
ご飯もまともに食べない。食べても口に入れたそばから吐き出してしまう。
寝る事もできず、一週間に一度か二度意識を失い倒れ、目が覚めると夢と現実が入り混じり錯乱し正気を取り戻すまで屋敷中ショウを探す。心も病み精神も鬱状態になり目に光がない。今のこの状態である。
それが、もう二ヶ月ほど続いているのだ。
しかも、日に日に状態も悪化しているように見える。
さすがに、このままではいけないと医者にもお婆にも言われリュウキが動いたのだ。
見れば見るほど、サクラに生気がない。
体もガリガリで目のくまも酷いし肌も水分不足栄養不足でひび割れ荒れ放題だ。
見るも痛々しい姿であった。
そこで、リュウキは考えた。
もしかしたらと!
さっそく、リュウキはそれを実行しようと思い立ちサクラの部屋を出て行った。
リュウキが出て行き、サクラはようやく休めるとばかりに鉛がついたかのように重い体をベットに埋めた。
体は痩せていくばかりで体重は軽いはずなのに、何故か身体中に重りを付けたようにズッシリ重い。動くのがシンドイ。
それから、いつものようにショウを思っては涙を流していた。
その時
…カチャ…
静かに扉が開く音がした。
ああ、鍵を閉め忘れたとあまり働かない頭でボンヤリ考え音のする方へと目線だけ向けた。
すると、見目の美しい女が自分の所に向かい静かに歩いて来た。
ボンヤリ見ていて気がついた。
その女は、透明な下着を身に付けていて裸も同然であった。
なんて下品な女なんだと思うと同時にサクラは思った。この女はリュウキの買った女で、この女は自分とリュウキの部屋を間違えて来たのだろうと。
「…残念だが、ここはリュウキの部屋じゃない。」
声を出すのも億劫であったが、リュウキと間違えられてはたまったものではないし。
何より、自分の部屋に他人に入って来られるのは物凄く嫌だ。寒気がする程に、気持ちが悪い。
すると、その娼婦であろう女はクスクス小さく笑いサクラのベットに座ると、サクラの顔に顔を近づけサクラの耳元に
「間違えておりませんわ。ここは、サクラ様の部屋でしょう?」
そう色を感じさせる甘い声で囁き、そのままサクラの耳に口づけてこようとしていた。
それに対し、サクラは全身に気持ち悪い何かがゾゾゾォッと駆け巡り
「俺に触るなァァァッッ!!!?」
思わず悲鳴にも似た声で怒鳴り付けると
パーーーーンッッ!!!
女の頬を叩き落とした。しかし、それは隠密によって阻止され女は叩かれず済んだのだが。代わりにサクラの手を受け止めた隠密の腕が犠牲になった。
「な、なんのつもりだ?」
驚きを隠せないサクラは女に尋ねた。
女は、サクラの様子に最初こそ驚いたものの、こういう事にも慣れているのだろう。
冷静に話をしてくれた。
「私は、リュウキ様から依頼を受けて来ました。」
「…依頼…だと?」
「はい。リュウキ様から、サクラの夜の相手をしてほしいと依頼がありました。」
女の話に、サクラは一瞬何を言っているのか理解できずポカンとしたが、それを察してか女は
「サクラ様は、まだ女の体を知らない。だから、気違いを起こしている。
サクラに女の体を教えてやってくれ。
もしかしたら、驚きのあまりパニックになるかもしれないが
その時は、伽などせずサクラに添い寝をしてやってほしい。
どうやら、サクラは隣に人が寝ていなければ眠れない体質らしい。
…と。」
サクラに、事の次第を説明してくれた。
説明を受けたサクラは、怒りでワナワナと体を震わせた。
…ふざけ過ぎている!
「…話は分かった。だが、伽も添い寝も必要ない。帰ってもらえるか?」
今すぐにでもリュウキの所へ行き怒りをぶつけ暴れ回りたい気持ちを抑え、震える声で何とか女に自分の意思を伝える。
自分の行動一つで、リュウキの逆鱗にでも触れたらそれこそ大変な事になる。
ここは、ショウに会えるその時まで我慢して耐え凌ぐしかない。
そう思い、サクラは自分の感情をググッと押し殺した。
女は、困ったように少し笑うと
「…はい。」
と、言って静かに出て行った。
女はこれに近い経験を何度もしている。
親や親戚がホモ、ゲイを治したいから、息子の相手をし女の良さを教えてほしいとか
そもそも、病気でもないのに治すってなんだと疑問を感じ腹立だしく感じたが…
身分違いの恋をした息子に、いい女を経験させてもっといい女がいると目を覚ましてやりたいだとか
見目の悪い恋人を紹介され、友人を哀れに思いなど…
その他にも、様々に心苦しかったり腹ただしい依頼が舞い込んでくる事が多々ある。
その時は、相手の乗る気によるが
本当に嫌がっている場合は性行為などせず、依頼主に様々な理由をつけて帰って行く。
しかし、こちらも仕事なのでキャンセル料はちゃっかりいただくが。
それでも、最初こそ拒むが徐々に乗り気になる者が多い。たまに、ヤケクソで抱かれる事もある。もう、痛いし次の仕事に差し支えるしで散々だからヤケクソはやめてほしい。
けど、これで飯を食っているので何も言えないが。
今までの経験上、あの青年は少しでも性的に触れたらその瞬間に命を落としてしまう様な危うさを感じた。
しかし、残念だ。
今回の相手は、見た瞬間驚いてしまったが、この世の者とは思えないほどに美しい青年だったから。正直、腰を抜かすかと思ったほどだ。
こんな美しい男性とエッチできるなんて夢のようだと舞い上がってしまっていた。
ほんの僅かでも隙があったなら、美味しく頂こうと必死になったが…どう足掻いても無理だろうし微塵も隙が無かった。
本当に残念である。
残念すぎて、今日は依頼主のリュウキ様に慰めてもらおうと思った。だって、自分好みのなかなかのイケメンだし
経験上、あの人みたいな男は
若く見目が美しい女が誘えば拒まない。
女の思惑どおり、今回の依頼主のリュウキは自分を拒まずそれはそれは野生的に激しく愛してくれた。垣間見れる優しさも女心をくすぐるものがあり、プロにも関わらず女はリュウキに夢中になり次も会ってくれるならお金はいらないと口説いたが
…経験上…こっちが本気になっても相手に気持ちは無く、もうこの人からは依頼される事はないであろう。
経験上、こういう男は恋愛事には本気にならない。女は遊びと割り切っている。
…残念である。
ところ変わって〜時間も遡り〜。
娼婦の女がサクラの部屋を出て行ってすぐに、サクラは自分の部屋に纏わり付く先程の女の甘い香りとさっきまで他人がこの部屋にいたという心地悪さから
この部屋を捨て
別の部屋を自分の部屋とした。
そして、自分にもあの女の匂いが纏わり付き気持ち悪いと久しぶりに風呂に入った。
何をされたわけでもないのに、それはそれは血が出るんじゃないかと思うほど何度も何度も体を洗って。
それほど、さっきの出来事はサクラにとってショックだったのだ。
なんだかんだで、リュウキの事は信用していた。なのに、ショウと自分を引き剥がす為に女を使い自分を犯そうとしてきた。
…怖かった。
未遂であろうが、男であろうが女であろうが、自分を犯そうとする者がいたならそれは恐怖でしかない。
サクラは湯船の中、ギュッと自分の体を抱き体を震わせていた。そして、青ざめた顔で
「…ショウ様…」
と、呟き涙を流していた。
それを脱衣所からこっそりとサクラの様子を覗き見た、お婆はリュウキに対し怒りも頂点に達していた。
なんて声を掛けたらいいものだろうか?
きっと、少し間違った言葉一つでサクラは悪い方向へドンドン突き進んでしまうだろう。
お婆は、サクラになんて声を掛けたらいいものか悩み声を掛けられずいた。
そんな中、サクラは
湯船に映る自分の顔を見て、何だかやるせない気持ちと不甲斐なさを感じ
湯船に映る自分の顔をバシャンバシャンと叩いた。
「…なんて、情けないっ!ショウ様を守る事もできない!アイツの言いなりになるしか能のない自分が最悪だっ!!…クソッ!クソッ!!」
何度も何度も、湯船に映る自分の顔を叩いては自分の不甲斐なさを感じ悔しさのあまり涙が止まらなかった。
一心不乱に、湯船を叩きつけているうちに髪は乱れ濡れた髪が顔や体に纏わりついて鬱陶しくなった。
苛立ちのあまり、自分の髪にさえ怒りの矛先を向ける。
鬱陶しい自分の髪を掴み見る。
幼い頃の話だ。サクラと同じ色の髪をした
人間は誰一人としていなかった。
そのせいで、サクラは不気味に思われていたのだが
そんなサクラの髪をショウは綺麗だと言ってくれた。ショウにとって、覚えてもないほど些細な言葉だったのだろうが…それが、その時のサクラにとってどれほど救われた事か。
ショウが、綺麗だと褒めてくれた髪。
毎日、服に合わせ髪型を変えればとても喜んでくれた。だから、サクラは髪を伸ばし様々に着飾る。だから、サクラは自分を着飾るのが楽しくてしょうがなかったし自慢の髪だった。
だが、今は自分を見て欲しい相手はここにいない。会えるのは3年も先だという。
…伸ばしていても何の意味も持たない、今は鬱陶しいだけの髪。そう思っていると脳裏に誰だったかの言葉が浮んでくる。
“そんなに、面倒ならボーズにしてしまったらどうだ”
サクラは、これで気が晴れるとも思ってなかったが気がついたら波動で刃を作り一心不乱に自分の髪をザクザクと切っていた。
そこに
「…ヒャァァァッッ!!!!??
何をしておりましゅかぁぁーーーーーー!!!!!」
と、お婆の悲鳴混じりの声が聞こえた。
そして、慌ててサクラの元へ駆け寄りサクラの腕を掴んだ。
「何をなしゃっておりましゅか!」
腕を掴まれたサクラは、ピタリと動きを止めゆっくりとお婆の方を見た。
「…お婆…」
お婆の登場でサクラは安心したのか助けを求める様に悲痛な面持ちでお婆を見てきた。
その様子に、少しホッとしつつお婆はサクラに優しく微笑みかけ
「さぁさ。せっかくの男前が台無しでしゅよ?このお婆が、綺麗に髪を整えてもっと男前にして差し上げましょう!」
声を掛けると、サクラは素直に頷いた。
お婆は、サクラを脱衣所の椅子に座らせるとバリカンを手に持ちサクラの髪をガガガ…と刈っていった。
と、いうのもサクラの無残な頭を見ると一番短く切られた髪は頭の根元近くまで切られていてバラバラの長さになってしまった髪を整るのには一番短く切られた髪に合わせるしかなかったのだ。
お婆は、サクラの無残な髪。サクラの美しい髪を切らなければならない事。
サクラの気持ちが形に現れている様で涙が出そうになった。何もしてやれない自分が悔しくバリカンを持つ手も震える。
だが、お婆はそんな自分を叱咤しサクラの髪を整えていく。
サクラの髪を切りながらお婆はたわいもない話をし、サクラに話しかけていた。それは、サクラとショウが小さかった時の昔話でサクラも懐かしさから時折、小さく笑っている様子が見えた。
そのうち、心が落ち着き緩んできたのだろうサクラも少しづつお婆の会話に加わってきて
ついには
「…なぜ、俺がショウ様を好きだって思っているだけで気違い、勘違い、デブ専、ブス専など言われなければならないのか?人を好きになって何が悪いんだ?」
なんて、いつの間にかサクラの恋愛相談にまで発展していた。
サクラは、自分がショウの事を恋愛対象として好きだという事はとうの昔にお婆とリュウキにバレバレな事は知っているし隠すつもりもない。
時折、お婆に恋愛相談もしているくらいだ。
だが、ショウ本人にはこの気持ちをずっと隠し続けている。
「…確かに、ショウ様はちょっとワガママで見栄っ張りで。不器用過ぎて空回りばかりし失敗をしては気持ちを伏せる事が多い。」
あんなにショウを超溺愛しべったりなくせに、見るところは見ている…けど、辛辣過ぎやしないか?と、お婆はちょっと複雑な気持ちでサクラの話を聞いている。
「…けど、誰より優しい。優しいって言っても!優しさもたくさん種類があると思う。
だが、俺はショウ様の持つ優しさが好き…
あの不器用な優しさが。
人には理解できない様な優しさかもしれないが、俺はショウ様の側にいてずっと見てきたからこそ分かる優しさ。」
と、何かを思い出しているのだろうサクラはフワリと優しい笑みを浮かべている。
「そうでしゅな。お嬢様は、優しく可愛らしい。」
サクラに続き、お婆がそんな事を言うと
サクラは嬉しくてバッと後ろを向きお婆の顔を見てきた。
俺の話をいっぱい聞いて、そのお話をたくさん聞かせてと言っている幼い子どものように目をキラキラ輝かせいる。
「こぉ〜れ。まだ、髪を切り終わっておりましぇんよ?前を向いて下しゃい!」
お婆は、ワザとらしく怒った様な口ぶりで
お喋りがしたいサクラに無理矢理前を向かせる。
お婆は、幼い頃から二人を見ていて知っている。サクラが、どんな気持ちでショウを見ていたのか。
そして、ショウの気持ちも。リュウキの思いも…。
それからサクラのショウがいかに可愛く愛おしいか思い出話を交えての会話で弾んだ。
だが、そんな嬉しくて楽しくてしょうがないといったサクラの姿に、お婆は再度サクラのショウに対する気持ちが見えて微笑ましく嬉しくもあった。
そして、リュウキにサクラの気持ちは“気違い”“ブス専”“洗脳”と罵られ
周りからは“ショウの奴隷”“可哀想な人”など心ない事を言われ辛くて悲しいというサクラの悩みに心を痛めた。
「サクラしゃまは、お嬢様の事がだいしゅきで大事なのでごじゃいましゅのね。」
そう心からそう呟くと、サクラは恥ずかしそうに俯き178センチもある体を小さく縮め顔を真っ赤にし顔を両手で覆ってしまっていた。
首までも赤い。もしかすれば、体を冷やさないように羽織っているバルローブの中の体までも赤くなっているんじゃ無いかと言うほどに真っ赤になっていてうぶな姿であった。
「…好きって言葉だけじゃ表現できないし足りない。
赤ん坊の頃からショウ様を育ててきてるせいか家族愛にも似た愛おしい感情もあるし、
焦がれるような恋愛感情。…あと…性愛も…」
最後の言葉の方は、言葉に出してしまってから言うべきものじゃないと思ったのだろう。恥じらいからか声が尻すぼみになっていた。
二人が幼い頃から面倒を見てきたお婆は知っている。いつの頃からか、サクラはショウを女と意識し始めムラムラ、悶々としている事を。
それを我慢し過ぎるがあまりなのか、少しばかり欲が出てしまうのだろう。
食事中、ショウが顔や服に食べカスをつけていれば躊躇なく舌で舐めとり、たまに思い余ってちゅっちゅ、音を立ててキスをしている事もあったし
入浴中のマッサージ…あれは、ショウがあまりに太り過ぎて血行が悪くなり全身の凝りが酷くなりこのままでは危ないと始めた事。
覗いた事がないので、何とも言えないが…言えないが…おそらく、ちょっぴりサクラの欲が暴走している可能性が極めて高い気がする。
夜、二人が一緒に寝る時だって
サクラの寝巻きが毎回毎回あまりにセクシー過ぎるのだ。
おそらく、いや確実に自分を異性として意識させるためにワザとそんな寝巻きを着ているのだろう。ショウを誘惑し誘っているのだろう。
毎晩、楽しげな会話から何やらごにょごにょ唯ならぬ雰囲気になり…何やら甘美な声が聞こえてくる。ベットの軋む音も…
あまりに気になり覗いて見た事もあったが、寝る前の全身マッサージをしていただけであった。
しかし、マッサージをしているサクラの顔は欲情しきっている雄そのもの。極上の美味しそうな獲物を目の前に“待て状態”の獣。
ショウの体に唇を近づけては、すんでのところでピタッと動きを止め自分の腕を噛み理性を保とうと必死。
マッサージする手も、マッサージから別の手つきに変わり…ショウの胸や大事な所に手を滑り込ませようとして。けど、それもグッと我慢し、最後はショウを寝かしつけてから自分は急いでトイレに駆け込む。
それから、ショウを大切なモノを包み込むように抱き締め眠る。たまに、愛おしくてたまらなくなるのだろう。
嬉しそうに、クフクフだらしなく笑いながらショウに頬ずりしたり頭やほっぺにキスをしている事も多々あったようだ。
その他にも、色々と見て知っている。サクラのムラムラと悶々は年々…日に日に強くなっている事を。
加え、サクラはショウの性格も容姿、能力についてもしっかり分かっている。
ショウは、容姿も優れてはおらず太っている事。人見知りで引っ込み思案、不器用な性格。人付き合いが苦手でよくいじめられる事。
運動も魔法、波動、勉学もまるでダメダメだという事もしっかり理解しているのだ。
その上で、サクラはショウに恋愛感情を抱いている。どこがいいのかと聞かれても答えるのが難しいだろう。
ただ、言える事は、自分に足りないもの、自分が欲しているものがそこにあった。ショウや周りはそれを劣等として醜く感じているが、サクラはソレを愛らしく愛おしく感じている。
自分の心に空いていたたくさんの穴に少しのズレもなく心地よくピタリとハマっちゃったって感じなのかもしれない。
それなのに、気違いや洗脳とリュウキはいう。若いメイド達は、ショウが金や権力を使ってサクラを奴隷扱いする酷い人間だと決め付けている。
そもそも、サクラがショウの事が好きなのはあからさまなのだが。
どうも、周りはそれを認め許してはくれないらしい。
そうして、髪を切り終わり風呂に入って綺麗さっぱりしたサクラは
「…お婆、聞いてほしい事がある。」
と、自分の部屋に招き入れた。
「なんでしゅかな?このお婆で良ければ、話くらいいくらでもききましゅよ?」
そう、お婆が声を掛けるとサクラは少し間を置き
「…お婆に、俺の秘密を聞いてほしい。」
「…秘密でしゅと?」
「…ああ。俺には、ショウ様にも秘密にしている事がいくつかある。」
「おやおや。お嬢様にも内緒なのに、お婆が聞いてしまってもよろしいんでしゅかな?」
お婆が、幼子を相手にする様に少し大げさに驚いた様に見せた。お婆は、自分も知っている様な可愛らしい秘密事なのだと油断していた。
お婆を椅子に座らせるとサクラは、今まで隠してきたと言う秘密をお婆に打ち明けた。
「…な、なんでしゅと!?
しょれは、しょれは…このお婆もビックリしましゅたわ。
そんな大事な話をお婆に話してしまって良かったのでしゅか?」
サクラの秘密を聞いたお婆は、驚きを隠せない様子だった。正直、そんなバカなと腰を抜かし掛けた。
「…ああ。この話は、お婆にしか話してない。ショウ様さえ知らない事だ…と、言うよりこんな話をしたらショウ様に嫌われてしまうだろうな。」
と、サクラは苦笑いしていた。しかし、この話は隠密に筒抜けで既にリュウキの耳に入っているのだろうとお婆はヒヤリとしたが。
「どうせ、どっかの誰かが聞き耳立ててるだろうから防音バリアーを張っておいた。
だから、この話は聞かれてないはずだ。お婆。」
お婆の心を読んだかのようにサクラは苦笑いしていたが、お婆はそんな事もできてしまうのかと驚きはしたがサクラの秘密を知りなるほどなと納得もしてしまっていた。
「サクラしゃま、ご安心くだしゃいましぇ。
お嬢様はそんな事でサクラしゃまを嫌いはしましぇぬ。
そんな事より、いつになったらサクラしゃまはお嬢様に告白をなしゃるのでしゅか?」
なんて、お婆が悪戯っぽく聞いてみると
「…え…!?」
驚いた顔をし、顔を真っ赤にし俯いたサクラは
「…自信がない。…もし、ふられたらと思うと勇気がでない。ふられたとしても諦めもできない…」
なんて女々しい事をごにょごにょ言っていた。いつも、サクラはこうだ。
他の事では、恐れ知らず負け知らずで傲慢な所のあるサクラ。非の打ち所がないが故の傲慢さなのだ。
しかし、ショウの事となれば途端に弱々しく女々しい男になってしまう。
いわば、ショウはサクラにとっての唯一の弱点のようなもの。
「それならば!もし、ふられた時は
お嬢様に振り向いてもらえるよう男を磨きつつアタックあるのみ!
でしゅが、いき過ぎた真似だけは厳禁でしゅよ!」
なんて、お婆の言葉にハッと顔を上げた
サクラに
「お婆は、サクラしゃまを全力で応援しておりましゅ。
なにせ、お嬢様もサクラしゃまも、かわいい孫のように思っておりましゅから。」
と、優しい眼差しでサクラを見て言ってきた。
「…お婆。俺は、お婆には感謝しかない。
いつもいつも、お婆には世話になりっぱなしだ。お婆にしか、こんな話もできないし。
お婆の事は実の母の様に思っている。
それに、ショウ様の次に信頼している。」
サクラは、お婆の気持ちが嬉しくこそばゆい気持ちになりながらも、いつもは恥ずかしくて言えない言葉をお婆に言った。
お婆は、サクラの言葉を聞いてそれはそれは嬉しく感動のあまり涙が溢れてきた。そこに
「きっと、ショウ様そのものが存在しないのであれば、俺はお婆に惚れていたかもしれないな。」
と、サクラは少し悪戯っぽく笑いながらハンカチをお婆に差し出した。
「おやおや。そんな事を言ってしまっては
お婆はお嬢様に恨まれしまいましゅな。」
なんて、冗談交じりのくだらない話をしつつ
「それでは、ゆっくりと体を休めて下しゃいませ。」
「…ありがとう、お婆。」
お婆は、お休みの言葉を残しサクラの部屋を出たのだった。
ある決意を胸に。