イケメン従者とおぶた姫。
何故か分からないが、急に引き返してきたかと思ったら、いきなり肩を掴まれたチヨは驚いた表情でソウの顔を見上げ
「…はい。そうですけんど…?」
と、ソウの質問に答えた。
すると、ソウは小さく息を吐き
「探したぞ。」
なんて、よく分からない事を言ってきた。チヨは、ソウの意図が分からず首を傾げていると
「…ハア。察する事もできないのか、お前は。
まあ、ど田舎出身だから低能なのは仕方ないが…いや、こんな話をしに来たんじゃない。
お前の言ってる事が本当だと分かった。」
チヨが田舎出身なのを軽侮して、またよく分からない話をはじめてきた。まるで、言葉の一部だけを言っただけで、主要内容は言わずとも分かって当然のような話ぶりである。
「…本当に、お前は察しが悪すぎて疲れる。
だから、ミミの事だよ。アイツ、俺の他にたくさんの恋人がいたんだ!酷い女だよ。
俺は、ミミに騙されてただけなんだ。」
そこまで話した所で、チヨはハッとした表情を浮かべ
「そうでしたか…」
と、少し悲しそうな顔をしてソウを見た。
「だからさ。俺のチームに戻って来ていいよ。」
「…え?」
「…ハア。お前、鈍過ぎてイライラするよ。
俺の言ってる事ちゃんと聞きなよ。大丈夫?
俺の言ってる意味、わかる?
お前は知らないと思うけど、お前が居なくなってから色々あったんだ。色々あって、色々考える事ができた。
今ならさ。お前の事も何とか受け入れられる気がするんだ。だから、戻って来ていいよって言ってる。分かる?」
チヨの事をとても馬鹿にするような言い方だ。だが、それに対しチヨは怒る事もなくゆっくりと口を開いた。
「…ソウ王子、チームメンバーのお誘いありがとうございます。…ですが、私はメンバーに戻る事はできません。」
チヨは申し訳なさそうに頭を下げると
「…ハ?そこは喜ぶ所じゃないのか?メンバーに復帰していいと言ってるんだぞ?お前が、断る理由が分からない。」
冗談だろ?と、冗談もほどほどにしろとばかりにソウは鼻で笑った。
「まず、第一に一度メンバーから離脱した身。そして、ソウ王子には私が抜けて新しく入ったれっきとした仲間がいます。それは決定事項です。」
「そこは大丈夫だ。」
ソウは、俺達の会話を聞いていますよね?と、ハナをチラリと見た。他の誰でもない、プライベートとはいえ騎士団長がこの場にいるのだ。それを上手く利用しない手はない。
「…それだけじゃないです。見ての通り、私は前よりも体が細くなってしまいました。」
と、チヨが苦笑いすると
「ああ、それは俺も驚いた。最初、見た時お前だって分からなかったくらいだ。
前は、あまりに太過ぎて一緒にいるのも恥ずかしかったが、今なら一緒にいてもギリギリ許せる許容範囲内だ。ダイエットに成功して良かったじゃないか。」
「…え?…い、いえ、そうじゃないんです。
もう、訓練も戦う為の体づくりもしてなくって…そしたら、どんどん痩せてしまって…。
…だから、もう戦える体じゃないんです。仮にチームに戻る事ができたとしても足手纏いにしかなりません。」
チヨは、喋る度に申し訳なさそうにペコペコとソウに頭を下げていた。
「…お前、今まで自分が役に立ってたかのような口ぶりだな。勘違いも甚だしいぞ。
正直、今までもお前は誰の役にも立ってなかっただろう。実力も大したことない、器量も悪ければ太っていて不細工だったろ?」
そんな事を言われ、チヨは全身を雷で受けたような衝撃を受けた。ソウの為、チームの為に
一生懸命がむしゃらに頑張ってきた自信があった。それを全否定された気持ちになり、とても心が痛く感じた。
「…そ、それは、申し訳なかったです。」
チヨは、泣きたい気持ちをグッと堪えソウに頭を下げた。
「分かればいい。そんな、お前をチームに復帰させてやると言ってる。嬉しいだろ?」
と、また、ソウは話を戻してきた。
「…嬉しい話ですが、やはり私はもう戦える体ではないので以前とは比べ物にならないくらい、皆さんの邪魔にしかならないんです。
それに…チーム離脱をした私を、両親は許してくれませんでした。」
そう言ってくるチヨに、ソウは急に何を語り始めるんだ?と、思ったが、少しくらいチヨの話も聞いてやるかと寛大な気持ちでチヨの話に耳を傾けてあげた。
「…恥ずかしい話ですが、旅から離脱したら、出来損ないの娘なんて要らないと絶縁されてしまいました。そこに、ルナ様が救いの手を差し伸べてくださいまして、今があります。」
と、笑って話すチヨの話に頭が追いつかない。
「絶縁されたって…どうして?」
ソウは、とても不思議そうに質問を投げかけた。
「元々、私は両親に好かれてなかったので、これをいい機会に私と縁を切って、優秀で見た目もいい養子をもらってくるそうです。」
そこまで言った所で
「もう、いいだろ!つまり、貴族でもないチヨは、ソウ王子のお友達役からも外されたってわけ。だから、ソウ王子が望んだ通りチヨは、もうソウ王子とは無関係になったんだぜ。」
さっきまで、大人しくソウとチヨの様子を窺っていたルナが、チヨを庇うように話に割り込んできた。
「…え?…いや、それはそうと、なんで、聖騎士団長様やルナ殿がいる中にチヨがいるんだ?
もう、チヨが貴族ではないならそれこそ関係ないだろ?」
「いや、大有りのアリだぞ!なんたって、チヨは俺の許嫁だからな。」
そう言ってルナは、チヨの肩を抱き寄せると親指を立てて自慢するかのようにニッと笑って見せた。
「…え???何の冗談だ。ルナ殿も冗談なんて言うんだな。」
「冗談?なんで、こんな大事な事冗談で言うんだ?」
「…フッ!こんなの冗談以外の何者でもないだろ。
ルナ殿のようなグレードのある人が、チヨみたいな田舎者を選ぶ訳がない。あまりに、釣り合いが取れない。」
ソウは、チヨを見て蔑む笑いを浮かべた。
チヨに対するソウの態度に、さすがにルナはカッチーーーン!!!と、きて何か強い言葉で反撃してやろうとソウを睨んだ。しかし、ルナがいうよりも早くソウが口を開いた。
「ルナ殿とチヨが、釣り合いが取れる部分といったら、…フ。二人とも小さすぎて小学生にしか見えないって所かな?」
と、そこで
「不愉快だ。」
そう、声があがった。
声のする方を見ると、エゲツないくらいの美貌男子が無表情でソウを見てきた。それに対して、ソウは
「…うるさくして、すまない。知り合いに会って少々興奮してしまったようだ。」
と、チヨやルナ以外にも人がいる事を思い出し謝ってきた。すると
「見ての通り、我々は家族団欒中だ。
そして息子から、これから新しく家族に加わる大切なフィアンセを紹介してもらっている大事な時だ。良識があるのならば、察して早々にお引き取り願いたいのだが?」
美貌男子は、そう言ってソウに早く去ってもらいたい趣旨を伝えた。
家族団欒と聞いて非常に驚いた様子のソウに、近くの席で様子を見ていたゴウランも、分かる、分かる!どう見ても家族に見えないよな。と、深く頷いていた。
「…いや、どう見ても家族には見えないが?」
思わず、つい口に出してしまったソウに
「これ以上、赤の他人であるあなたに答える筋合いなどない。お引き取り願いたい。」
美貌男子は、それでも無表情のまま淡々と話した。
「赤の他人って…チヨは……」
ソウは、自分とチヨとの関係を口に出そうとしてそれ以上の言葉は出せなかった。
だって、自分はチヨの事を友達役としても認めてない。だから、顔見知りとでも言うのか…けど、長く一緒にいるから、その言葉もなんだか違う気がして…なんと言ったらいいのかと考え言い淀んでいるうちに
「お引き取り願いたい。」
と、いう美貌男子の強い口調により、ソウはあまりの居心地の悪さに耐えかねて、ハナの方を向きペコリと頭を下げると今度こそその場を去ったのだった。
「ソウ王子の潜在能力の高さに期待していたんだけどな。…非常に残念だ。」
チラリとソウの後ろ姿を見て、美貌男子は呆れたように言葉を吐き出していた。
「まあ、いいじゃないか!今日は、めでたい日だ。気を取り直すとしようじゃないか。あはは。」
と、ハナはバシバシと美貌男子の背中を叩いて笑っていた。そして、美貌男子にだけ聞こえるように
「しっかし、リュウキの奴は相変わらずいい趣味してるね。」
と、話し掛けた。
「ああ。これは、あからさまに個人個人の行動パターンを読んでの配置だよ。計らいとも嫌がらせとも言える。
その目論みに気づける者がいるかどうか。気づけない前提ではあるが、これを機にチームの関係性や人との繋がりが変わってくるのは確かだよね。」
「…え?そうなのか?」
「…逆に、ハナはどう考えてたの?」
「…う〜ん。うまく言えんが、こんなにもタイミング良く揃うもんかねと。
そうなりゃ、リュウキの仕業かなって何となくな。勘だよ、勘!あはは!!」
「…野生の勘って、凄いね。
ただ、ここで大きく二つに分かれる事になるかもしれないね。
自分の心と向き合い見直す事ができるのか。今後それを、どうやって生かしていけるのか。それ次第で、大きな成長にもなるし…転落していくって事も大いにあり得るね。」
「…おまえ、本当に17才かい?数千年生きてる賢者か何かと話してる気分だよ。」
と、美貌男子は言われ、
ハナと話してると幼稚園生と話してる気持ちになるよと、口には出さないが心の中で思っていた。
二人がそんなやり取りをしてる中、チヨは内心
ソウの評価が下がっている事にションボリしていた。
ソウが、ミミという最愛の恋人を見つけて、せっかく前を向き歩き始めたと思ったらミミの裏切りが発覚した。
だから、きっと心が荒んで、自分に八つ当たりしてしまっているのだろうと考えていた。
幼い頃から、ずっと長い事ソウと一緒に過ごしてきたチヨは、ソウに対し強い情がある。
ソウには失礼だけど、手の掛かる弟のように思っていた。
だが、前回と今回の件で
ソウにとって自分は必要とされてない、邪魔なだけの存在だと知り、とてもショックを受け傷ついたチヨ。だが
何もかも諦めきって自分の殻に閉じ籠り、少しも自分の本心を曝け出す事もなかったソウが、
ミミというキッカケができ、こんな風に本心を言えるようになった事は喜ばしい事だと感じた。
そもそも、ソウがこんなに饒舌に喋る事なんてなかったのだから。チヨから見れば、大きな前進の様に思える。
そう考えれば、やはり
ソウの成長の妨げにしかならない自分は、ソウから離れなければならないと強く感じた。
だから
きっと、この先チヨはソウと関わる事はまずないだろう。
だけど、姿は見えなくとも余計なお世話だと思われるかもしれないが、心の中でソウの幸せを祈る事は許してほしいと思うチヨだった。
ーーーーーーー
色々と疑問は残るものの、これ以上の収穫は無さそうなので異色グループの興味はだいぶ落ち着いてきたゴウラン。
そして、未だあまり納得できてないソウは、
チヨのいるフードコートから出るのが躊躇われチヨ達がいる場所から離れた場所に座り、色々悶々と考えていた。
そんな二人に、何やら聞き覚えのある声が聞こえてきた。とてもとても、聞き覚えのある声だ。
何か嫌な予感がしつつも、気にせずにいられない二人は、恐る恐るその声のする方を見てみた。
ドッキーーーーーンッ!!!?
やはり、嫌な予感的中だ。
そこには、ゴウランの元セフレで、ソウの元彼女のミミが…おお!珍しく、女性と一緒に食事をしていた。
…と、思っていたら…
ミミの隣にはイケメンが座っていて、目の前の女性の前で見せつけるようにイチャイチャしていた。
「どういう事なの!?私って彼女がいるって知りつつ、ドレグと付き合ってたっていうの?
それって、浮気よね!?」
と、ミミ達の前に座っている女性は、二人を睨みつけて問いただしてきた。
すると、その形相に怯えた様子のミミが小さな体をプルプル震わせながらドレグというイケメンに助けを求める様に抱きつくと、ポロポロ涙を流しながら
「…クスン。ミミが〜、センリさんよりぃ女としてぇ魅力的で可愛いのがいけないんですぅ〜。…ごめんなさぁ〜い。」
目の前の女性に座るセンリという女性に向かって、震える声でそんな事を言ってきた。
その内容に腹が立ちセンリは、怒りでワナワナと肩を震わせミミを鬼の形相で睨んできた。
そんな彼女から、愛しのミミを守るためドレグはギュッとミミの華奢な体を抱き寄せ頭をヨシヨシと撫でると、ギロッとセンリを睨み
「…ああ、ミミちゃん可哀想に…。あんなに酷い事言われて…ヨシヨシ。
あんな性悪女には、俺がガツンと言ってあげるからね?俺がついてるから大丈夫だよ?」
「…クスン、クスン…!」
「酷いじゃないか!センリのせいでミミちゃんが泣いちゃったじゃないか!!なんて底意地の悪い酷い女なんだ、お前は!
それに、俺とミミちゃんは運命なんだ。」
ドレグは自分が浮気しておいて被害者面した挙句、センリを悪者扱いしている。
そんなドレグとミミの理解不能な行動や言い様に、センリは言葉を失いポカーンとしていた。
ゴウランやソウ、周りの人達もポカーンだ。
「…え?どうして、浮気したあなた達に私が責められなくちゃいけないの!?」
センリはごもっともな事を二人に言い返すと
「…センリさん、こわぁ〜い…!
でもぉ〜、好きになっちゃったら止められないじゃないですかぁ〜。そんな気持ちも分からないんでぇ〜すかぁ?…クスン…」
「…だからって、浮気していい理由にはならないじゃない!お互い好きあってるっていうのなら、今付き合ってる相手とちゃんと別れてから付き合えばいいじゃない!!」
ミミの仕草や挑発するような言い方に腹が立ったセンリだが、罵倒してやりたい気持ちを何とか抑え正論で返した。すると、ミミは体を小さく震わせ怯えた素振りを見せてきた。
それをドレグが可哀想と優しく慰め
「いい加減にしろ!!お前のせいで、ミミちゃんが怯えてるじゃないか。図太い神経してるお前と違って、ミミちゃんの心は見た目同様、繊細で儚いんだ。
それに、浮気される方が悪い!!浮気されるって事は魅力がないって事だ!お前の責任だ。
俺とミミちゃんに謝れ!」
なんて、自分都合の意味不明な事を言ってセンリを怒鳴りつけていた。
「…なっ!?なに、それっ!!?」
センリは、ドレグの理不尽な言い分にカッとなり机をバンと叩いて立ち上がった。
「そういう所だよ。お前は気が強くてダメだ。
お前は強いから俺が居なくても大丈夫だけど、ミミちゃんは違う。ミミちゃんは、俺がついていてあげなきゃいけないんだ!!」
ミミを庇い続けるドレグの胸の中で、ミミはセンリを嘲笑うかのようにフッっと笑って見せた。
「…センリさん、怖ぁ〜い。きっと、ドレグとミミがお似合い過ぎて嫉妬してるんじゃないでぇ〜すかぁ?
自分に女としての魅力がなくってぇ、浮気されてぇ〜、女として終わってるからってぇ〜、ミミ達に当たり散らすのやめて下さぁ〜い。
ミミ達は、とぉ〜っても傷つきましたぁ。謝って下さい。」
ミミも、とんでもない事を言い出す始末。
それからは、ミミとドレグは謝れコールをセンリに浴びせ続けている。
「いつまで待たせるんでぇ〜すかぁ?
謝ったら、許してあげるって言ってるんですよぉ?優しいミミ達に、感謝してもらいたいくらいですぅ。」
「…ミミちゃんは、なんて優しいんだ。
そうだぞ!優しい俺達に謝れ!!」
なんて、ふざけた事を言う二人にセンリは
「…もう、いいっ!別れるわ!!
これからは、二人仲良くやって下さい。私は、もう無関係なのでっ!!!」
と、自分の飲み物代をテーブルの上に置くと、その場を去って行った。
絶対に自分が悪くないのに、どうしてこんなに追い詰めてくるのか。それに対して何も言い返せなかったセンリは、悔しそうにボロ泣きしながらフラフラと歩いていた。
これは、相当なまでに精神的ダメージが強いだろう。…立ち直れるか心配になるレベルだ。
そんなセンリの姿を見て、ミミは何とも言えない高揚感、背徳感、そして、勝利にゾクゾクゾクゥ〜ッ!っと、大興奮していた。
その様子を見ていた、ゴウランとソウは
ミミの姿が、醜く悍ましい妖怪のように見えた。
しかも
「さあ!邪魔者はいなくなったよ。これからは、コソコソ隠れて会わなくても大丈夫。堂々と付き合えるね!」
と、ドレグが興奮したように、ミミに話しかけると
「ウザいです。」
「…え?」
「ミミわぁ、美人なセンリさんとイケメンのドレグがラブラブだったから、ドレグを手に入れたいって思ってただけなんで。」
「…は?」
「なんて言うのかなぁ?
一言で言えば、スリル?あの完璧彼女センリさんよりもミミに夢中にさせるミッションっていうのかぁ。つまりぃ〜、センリさんと別れちゃったドレグには、何の魅力も感じないし興醒めって感じですぅ〜。だから、バァ〜イバイ。」
と、ミミはニッコリ天使の笑顔で、ドレグに可愛らしく手を振ってドレグの元を去って行ったのだった。しかも、席を立ったその瞬間には携帯で、誰かに連絡をしていて
「あ、ムッ君?ふふっ、ムッ君、どうしてるかなぁってぇ。え〜?どぉ〜しよっかなぁ?
うそ、うそ、うふふ。ムッ君、だぁ〜〜い好き!」
なんて、もう別の相手と連絡してデートの約束を取り付けていた。
その姿に、ドレグは信じられないとばかりに、ただただ呆然としてミミの後ろ姿を見送っていた。
ソウは、今のドレグの姿と少し前までの自分の姿とがダブって見えていた。
ミミに捨てられた、あの日。
チヨをチームから追放した、あの時。
自分はドレグと同じ様な行動をしていなかったか?と、段々とそう思えてきて、とても恥ずかしい気持ちになってきた。
ドレグの今の気持ちは、
どうして?…まさか、嘘だ、俺のミミに限って、と、信じられない気持ちでいるだろう。
本当に自分を信じ思ってくれている恋人に対し、コイツになら何を言ってもいい、何をしてもいいと、いう気持ちになり存外に扱ってしまう。
コイツは俺のこと大好きなんだから、どんな理不尽な事をしても許してくれると思ってしまうのだろうか。
いつの間にか自分の中で勝手にランク付けがされて、恋人は自分の召使いか奴隷のような位置付けになってしまっている。平等性もクソもない愚かで最低な考えだという事に自分は気づかない。
ドレグのセンリに対する理不尽かつ外道な言動は、まさにソレだと思った。
考えれば考えるほど、ドレグのあまりに理不尽で最低な行いは、人としてあり得なく、あまりに倫理観が欠けている。と、軽蔑した。
だが、何故か自分の頭の中にチヨの顔が浮かんでくる。
過去の自分とチヨのやり取りが頭の中にチラついては、それを振り払い自分とドレグは違う!絶対に違うと強く否定した。
確かに、あの悪魔の様な女ミミに酷い捨てられ方をされた所は…ドレグと同じ所もあるが、
自分はドレグのように浮気をして彼女を裏切り挙げ句の果ては、理不尽に責め立てる様なゲスな事はしていない。
…チヨの事は…
あの時、自分はミミに騙されて、チヨの話を信じてあげられなかったのは少し申し訳なく思う。
ただ、それ以外は真実を言ったまでに過ぎない。少々、キツく言い過ぎたのかもしれないが、それが現実だ。決して自分は悪くない。
そう、ソウは自分に言い聞かせていた。
けど、何故チヨとルナ殿が婚約者に?
あれを女として見れるなんて、ルナ殿の趣味はどうにかしてる。ブス専なんだろうか?
だが、チヨは何故、旅から離脱しただけで、親から縁を切られるんだ?
そういえば、チヨがお友達役として城に来た時から長期休みの時でさえ実家に帰った様子はなかった気がする。
ずっと俺の側に居て、俺専属の使用人が仕事を放棄してたから代わりに鬱陶しくも俺の身の回りの世話をしてたな。
…まあ、どうでもいいけど。
家から縁を切られた事によって貴族の称号は剥奪。お友達役からも外されたみたいだし、
ムカつく事にせっかく俺のチームに復帰させてやろうと思ってたのに、俺の気持ちを無碍にした。
もう、あんな薄情な奴の事なんて知るか!どうにでもなってしまえと、ソウは苛立ちに身を任せてその場を去って行ったのだった。
その様子を見ていたのは、ゴウランやハナ達だけではない。
「…はい。そうですけんど…?」
と、ソウの質問に答えた。
すると、ソウは小さく息を吐き
「探したぞ。」
なんて、よく分からない事を言ってきた。チヨは、ソウの意図が分からず首を傾げていると
「…ハア。察する事もできないのか、お前は。
まあ、ど田舎出身だから低能なのは仕方ないが…いや、こんな話をしに来たんじゃない。
お前の言ってる事が本当だと分かった。」
チヨが田舎出身なのを軽侮して、またよく分からない話をはじめてきた。まるで、言葉の一部だけを言っただけで、主要内容は言わずとも分かって当然のような話ぶりである。
「…本当に、お前は察しが悪すぎて疲れる。
だから、ミミの事だよ。アイツ、俺の他にたくさんの恋人がいたんだ!酷い女だよ。
俺は、ミミに騙されてただけなんだ。」
そこまで話した所で、チヨはハッとした表情を浮かべ
「そうでしたか…」
と、少し悲しそうな顔をしてソウを見た。
「だからさ。俺のチームに戻って来ていいよ。」
「…え?」
「…ハア。お前、鈍過ぎてイライラするよ。
俺の言ってる事ちゃんと聞きなよ。大丈夫?
俺の言ってる意味、わかる?
お前は知らないと思うけど、お前が居なくなってから色々あったんだ。色々あって、色々考える事ができた。
今ならさ。お前の事も何とか受け入れられる気がするんだ。だから、戻って来ていいよって言ってる。分かる?」
チヨの事をとても馬鹿にするような言い方だ。だが、それに対しチヨは怒る事もなくゆっくりと口を開いた。
「…ソウ王子、チームメンバーのお誘いありがとうございます。…ですが、私はメンバーに戻る事はできません。」
チヨは申し訳なさそうに頭を下げると
「…ハ?そこは喜ぶ所じゃないのか?メンバーに復帰していいと言ってるんだぞ?お前が、断る理由が分からない。」
冗談だろ?と、冗談もほどほどにしろとばかりにソウは鼻で笑った。
「まず、第一に一度メンバーから離脱した身。そして、ソウ王子には私が抜けて新しく入ったれっきとした仲間がいます。それは決定事項です。」
「そこは大丈夫だ。」
ソウは、俺達の会話を聞いていますよね?と、ハナをチラリと見た。他の誰でもない、プライベートとはいえ騎士団長がこの場にいるのだ。それを上手く利用しない手はない。
「…それだけじゃないです。見ての通り、私は前よりも体が細くなってしまいました。」
と、チヨが苦笑いすると
「ああ、それは俺も驚いた。最初、見た時お前だって分からなかったくらいだ。
前は、あまりに太過ぎて一緒にいるのも恥ずかしかったが、今なら一緒にいてもギリギリ許せる許容範囲内だ。ダイエットに成功して良かったじゃないか。」
「…え?…い、いえ、そうじゃないんです。
もう、訓練も戦う為の体づくりもしてなくって…そしたら、どんどん痩せてしまって…。
…だから、もう戦える体じゃないんです。仮にチームに戻る事ができたとしても足手纏いにしかなりません。」
チヨは、喋る度に申し訳なさそうにペコペコとソウに頭を下げていた。
「…お前、今まで自分が役に立ってたかのような口ぶりだな。勘違いも甚だしいぞ。
正直、今までもお前は誰の役にも立ってなかっただろう。実力も大したことない、器量も悪ければ太っていて不細工だったろ?」
そんな事を言われ、チヨは全身を雷で受けたような衝撃を受けた。ソウの為、チームの為に
一生懸命がむしゃらに頑張ってきた自信があった。それを全否定された気持ちになり、とても心が痛く感じた。
「…そ、それは、申し訳なかったです。」
チヨは、泣きたい気持ちをグッと堪えソウに頭を下げた。
「分かればいい。そんな、お前をチームに復帰させてやると言ってる。嬉しいだろ?」
と、また、ソウは話を戻してきた。
「…嬉しい話ですが、やはり私はもう戦える体ではないので以前とは比べ物にならないくらい、皆さんの邪魔にしかならないんです。
それに…チーム離脱をした私を、両親は許してくれませんでした。」
そう言ってくるチヨに、ソウは急に何を語り始めるんだ?と、思ったが、少しくらいチヨの話も聞いてやるかと寛大な気持ちでチヨの話に耳を傾けてあげた。
「…恥ずかしい話ですが、旅から離脱したら、出来損ないの娘なんて要らないと絶縁されてしまいました。そこに、ルナ様が救いの手を差し伸べてくださいまして、今があります。」
と、笑って話すチヨの話に頭が追いつかない。
「絶縁されたって…どうして?」
ソウは、とても不思議そうに質問を投げかけた。
「元々、私は両親に好かれてなかったので、これをいい機会に私と縁を切って、優秀で見た目もいい養子をもらってくるそうです。」
そこまで言った所で
「もう、いいだろ!つまり、貴族でもないチヨは、ソウ王子のお友達役からも外されたってわけ。だから、ソウ王子が望んだ通りチヨは、もうソウ王子とは無関係になったんだぜ。」
さっきまで、大人しくソウとチヨの様子を窺っていたルナが、チヨを庇うように話に割り込んできた。
「…え?…いや、それはそうと、なんで、聖騎士団長様やルナ殿がいる中にチヨがいるんだ?
もう、チヨが貴族ではないならそれこそ関係ないだろ?」
「いや、大有りのアリだぞ!なんたって、チヨは俺の許嫁だからな。」
そう言ってルナは、チヨの肩を抱き寄せると親指を立てて自慢するかのようにニッと笑って見せた。
「…え???何の冗談だ。ルナ殿も冗談なんて言うんだな。」
「冗談?なんで、こんな大事な事冗談で言うんだ?」
「…フッ!こんなの冗談以外の何者でもないだろ。
ルナ殿のようなグレードのある人が、チヨみたいな田舎者を選ぶ訳がない。あまりに、釣り合いが取れない。」
ソウは、チヨを見て蔑む笑いを浮かべた。
チヨに対するソウの態度に、さすがにルナはカッチーーーン!!!と、きて何か強い言葉で反撃してやろうとソウを睨んだ。しかし、ルナがいうよりも早くソウが口を開いた。
「ルナ殿とチヨが、釣り合いが取れる部分といったら、…フ。二人とも小さすぎて小学生にしか見えないって所かな?」
と、そこで
「不愉快だ。」
そう、声があがった。
声のする方を見ると、エゲツないくらいの美貌男子が無表情でソウを見てきた。それに対して、ソウは
「…うるさくして、すまない。知り合いに会って少々興奮してしまったようだ。」
と、チヨやルナ以外にも人がいる事を思い出し謝ってきた。すると
「見ての通り、我々は家族団欒中だ。
そして息子から、これから新しく家族に加わる大切なフィアンセを紹介してもらっている大事な時だ。良識があるのならば、察して早々にお引き取り願いたいのだが?」
美貌男子は、そう言ってソウに早く去ってもらいたい趣旨を伝えた。
家族団欒と聞いて非常に驚いた様子のソウに、近くの席で様子を見ていたゴウランも、分かる、分かる!どう見ても家族に見えないよな。と、深く頷いていた。
「…いや、どう見ても家族には見えないが?」
思わず、つい口に出してしまったソウに
「これ以上、赤の他人であるあなたに答える筋合いなどない。お引き取り願いたい。」
美貌男子は、それでも無表情のまま淡々と話した。
「赤の他人って…チヨは……」
ソウは、自分とチヨとの関係を口に出そうとしてそれ以上の言葉は出せなかった。
だって、自分はチヨの事を友達役としても認めてない。だから、顔見知りとでも言うのか…けど、長く一緒にいるから、その言葉もなんだか違う気がして…なんと言ったらいいのかと考え言い淀んでいるうちに
「お引き取り願いたい。」
と、いう美貌男子の強い口調により、ソウはあまりの居心地の悪さに耐えかねて、ハナの方を向きペコリと頭を下げると今度こそその場を去ったのだった。
「ソウ王子の潜在能力の高さに期待していたんだけどな。…非常に残念だ。」
チラリとソウの後ろ姿を見て、美貌男子は呆れたように言葉を吐き出していた。
「まあ、いいじゃないか!今日は、めでたい日だ。気を取り直すとしようじゃないか。あはは。」
と、ハナはバシバシと美貌男子の背中を叩いて笑っていた。そして、美貌男子にだけ聞こえるように
「しっかし、リュウキの奴は相変わらずいい趣味してるね。」
と、話し掛けた。
「ああ。これは、あからさまに個人個人の行動パターンを読んでの配置だよ。計らいとも嫌がらせとも言える。
その目論みに気づける者がいるかどうか。気づけない前提ではあるが、これを機にチームの関係性や人との繋がりが変わってくるのは確かだよね。」
「…え?そうなのか?」
「…逆に、ハナはどう考えてたの?」
「…う〜ん。うまく言えんが、こんなにもタイミング良く揃うもんかねと。
そうなりゃ、リュウキの仕業かなって何となくな。勘だよ、勘!あはは!!」
「…野生の勘って、凄いね。
ただ、ここで大きく二つに分かれる事になるかもしれないね。
自分の心と向き合い見直す事ができるのか。今後それを、どうやって生かしていけるのか。それ次第で、大きな成長にもなるし…転落していくって事も大いにあり得るね。」
「…おまえ、本当に17才かい?数千年生きてる賢者か何かと話してる気分だよ。」
と、美貌男子は言われ、
ハナと話してると幼稚園生と話してる気持ちになるよと、口には出さないが心の中で思っていた。
二人がそんなやり取りをしてる中、チヨは内心
ソウの評価が下がっている事にションボリしていた。
ソウが、ミミという最愛の恋人を見つけて、せっかく前を向き歩き始めたと思ったらミミの裏切りが発覚した。
だから、きっと心が荒んで、自分に八つ当たりしてしまっているのだろうと考えていた。
幼い頃から、ずっと長い事ソウと一緒に過ごしてきたチヨは、ソウに対し強い情がある。
ソウには失礼だけど、手の掛かる弟のように思っていた。
だが、前回と今回の件で
ソウにとって自分は必要とされてない、邪魔なだけの存在だと知り、とてもショックを受け傷ついたチヨ。だが
何もかも諦めきって自分の殻に閉じ籠り、少しも自分の本心を曝け出す事もなかったソウが、
ミミというキッカケができ、こんな風に本心を言えるようになった事は喜ばしい事だと感じた。
そもそも、ソウがこんなに饒舌に喋る事なんてなかったのだから。チヨから見れば、大きな前進の様に思える。
そう考えれば、やはり
ソウの成長の妨げにしかならない自分は、ソウから離れなければならないと強く感じた。
だから
きっと、この先チヨはソウと関わる事はまずないだろう。
だけど、姿は見えなくとも余計なお世話だと思われるかもしれないが、心の中でソウの幸せを祈る事は許してほしいと思うチヨだった。
ーーーーーーー
色々と疑問は残るものの、これ以上の収穫は無さそうなので異色グループの興味はだいぶ落ち着いてきたゴウラン。
そして、未だあまり納得できてないソウは、
チヨのいるフードコートから出るのが躊躇われチヨ達がいる場所から離れた場所に座り、色々悶々と考えていた。
そんな二人に、何やら聞き覚えのある声が聞こえてきた。とてもとても、聞き覚えのある声だ。
何か嫌な予感がしつつも、気にせずにいられない二人は、恐る恐るその声のする方を見てみた。
ドッキーーーーーンッ!!!?
やはり、嫌な予感的中だ。
そこには、ゴウランの元セフレで、ソウの元彼女のミミが…おお!珍しく、女性と一緒に食事をしていた。
…と、思っていたら…
ミミの隣にはイケメンが座っていて、目の前の女性の前で見せつけるようにイチャイチャしていた。
「どういう事なの!?私って彼女がいるって知りつつ、ドレグと付き合ってたっていうの?
それって、浮気よね!?」
と、ミミ達の前に座っている女性は、二人を睨みつけて問いただしてきた。
すると、その形相に怯えた様子のミミが小さな体をプルプル震わせながらドレグというイケメンに助けを求める様に抱きつくと、ポロポロ涙を流しながら
「…クスン。ミミが〜、センリさんよりぃ女としてぇ魅力的で可愛いのがいけないんですぅ〜。…ごめんなさぁ〜い。」
目の前の女性に座るセンリという女性に向かって、震える声でそんな事を言ってきた。
その内容に腹が立ちセンリは、怒りでワナワナと肩を震わせミミを鬼の形相で睨んできた。
そんな彼女から、愛しのミミを守るためドレグはギュッとミミの華奢な体を抱き寄せ頭をヨシヨシと撫でると、ギロッとセンリを睨み
「…ああ、ミミちゃん可哀想に…。あんなに酷い事言われて…ヨシヨシ。
あんな性悪女には、俺がガツンと言ってあげるからね?俺がついてるから大丈夫だよ?」
「…クスン、クスン…!」
「酷いじゃないか!センリのせいでミミちゃんが泣いちゃったじゃないか!!なんて底意地の悪い酷い女なんだ、お前は!
それに、俺とミミちゃんは運命なんだ。」
ドレグは自分が浮気しておいて被害者面した挙句、センリを悪者扱いしている。
そんなドレグとミミの理解不能な行動や言い様に、センリは言葉を失いポカーンとしていた。
ゴウランやソウ、周りの人達もポカーンだ。
「…え?どうして、浮気したあなた達に私が責められなくちゃいけないの!?」
センリはごもっともな事を二人に言い返すと
「…センリさん、こわぁ〜い…!
でもぉ〜、好きになっちゃったら止められないじゃないですかぁ〜。そんな気持ちも分からないんでぇ〜すかぁ?…クスン…」
「…だからって、浮気していい理由にはならないじゃない!お互い好きあってるっていうのなら、今付き合ってる相手とちゃんと別れてから付き合えばいいじゃない!!」
ミミの仕草や挑発するような言い方に腹が立ったセンリだが、罵倒してやりたい気持ちを何とか抑え正論で返した。すると、ミミは体を小さく震わせ怯えた素振りを見せてきた。
それをドレグが可哀想と優しく慰め
「いい加減にしろ!!お前のせいで、ミミちゃんが怯えてるじゃないか。図太い神経してるお前と違って、ミミちゃんの心は見た目同様、繊細で儚いんだ。
それに、浮気される方が悪い!!浮気されるって事は魅力がないって事だ!お前の責任だ。
俺とミミちゃんに謝れ!」
なんて、自分都合の意味不明な事を言ってセンリを怒鳴りつけていた。
「…なっ!?なに、それっ!!?」
センリは、ドレグの理不尽な言い分にカッとなり机をバンと叩いて立ち上がった。
「そういう所だよ。お前は気が強くてダメだ。
お前は強いから俺が居なくても大丈夫だけど、ミミちゃんは違う。ミミちゃんは、俺がついていてあげなきゃいけないんだ!!」
ミミを庇い続けるドレグの胸の中で、ミミはセンリを嘲笑うかのようにフッっと笑って見せた。
「…センリさん、怖ぁ〜い。きっと、ドレグとミミがお似合い過ぎて嫉妬してるんじゃないでぇ〜すかぁ?
自分に女としての魅力がなくってぇ、浮気されてぇ〜、女として終わってるからってぇ〜、ミミ達に当たり散らすのやめて下さぁ〜い。
ミミ達は、とぉ〜っても傷つきましたぁ。謝って下さい。」
ミミも、とんでもない事を言い出す始末。
それからは、ミミとドレグは謝れコールをセンリに浴びせ続けている。
「いつまで待たせるんでぇ〜すかぁ?
謝ったら、許してあげるって言ってるんですよぉ?優しいミミ達に、感謝してもらいたいくらいですぅ。」
「…ミミちゃんは、なんて優しいんだ。
そうだぞ!優しい俺達に謝れ!!」
なんて、ふざけた事を言う二人にセンリは
「…もう、いいっ!別れるわ!!
これからは、二人仲良くやって下さい。私は、もう無関係なのでっ!!!」
と、自分の飲み物代をテーブルの上に置くと、その場を去って行った。
絶対に自分が悪くないのに、どうしてこんなに追い詰めてくるのか。それに対して何も言い返せなかったセンリは、悔しそうにボロ泣きしながらフラフラと歩いていた。
これは、相当なまでに精神的ダメージが強いだろう。…立ち直れるか心配になるレベルだ。
そんなセンリの姿を見て、ミミは何とも言えない高揚感、背徳感、そして、勝利にゾクゾクゾクゥ〜ッ!っと、大興奮していた。
その様子を見ていた、ゴウランとソウは
ミミの姿が、醜く悍ましい妖怪のように見えた。
しかも
「さあ!邪魔者はいなくなったよ。これからは、コソコソ隠れて会わなくても大丈夫。堂々と付き合えるね!」
と、ドレグが興奮したように、ミミに話しかけると
「ウザいです。」
「…え?」
「ミミわぁ、美人なセンリさんとイケメンのドレグがラブラブだったから、ドレグを手に入れたいって思ってただけなんで。」
「…は?」
「なんて言うのかなぁ?
一言で言えば、スリル?あの完璧彼女センリさんよりもミミに夢中にさせるミッションっていうのかぁ。つまりぃ〜、センリさんと別れちゃったドレグには、何の魅力も感じないし興醒めって感じですぅ〜。だから、バァ〜イバイ。」
と、ミミはニッコリ天使の笑顔で、ドレグに可愛らしく手を振ってドレグの元を去って行ったのだった。しかも、席を立ったその瞬間には携帯で、誰かに連絡をしていて
「あ、ムッ君?ふふっ、ムッ君、どうしてるかなぁってぇ。え〜?どぉ〜しよっかなぁ?
うそ、うそ、うふふ。ムッ君、だぁ〜〜い好き!」
なんて、もう別の相手と連絡してデートの約束を取り付けていた。
その姿に、ドレグは信じられないとばかりに、ただただ呆然としてミミの後ろ姿を見送っていた。
ソウは、今のドレグの姿と少し前までの自分の姿とがダブって見えていた。
ミミに捨てられた、あの日。
チヨをチームから追放した、あの時。
自分はドレグと同じ様な行動をしていなかったか?と、段々とそう思えてきて、とても恥ずかしい気持ちになってきた。
ドレグの今の気持ちは、
どうして?…まさか、嘘だ、俺のミミに限って、と、信じられない気持ちでいるだろう。
本当に自分を信じ思ってくれている恋人に対し、コイツになら何を言ってもいい、何をしてもいいと、いう気持ちになり存外に扱ってしまう。
コイツは俺のこと大好きなんだから、どんな理不尽な事をしても許してくれると思ってしまうのだろうか。
いつの間にか自分の中で勝手にランク付けがされて、恋人は自分の召使いか奴隷のような位置付けになってしまっている。平等性もクソもない愚かで最低な考えだという事に自分は気づかない。
ドレグのセンリに対する理不尽かつ外道な言動は、まさにソレだと思った。
考えれば考えるほど、ドレグのあまりに理不尽で最低な行いは、人としてあり得なく、あまりに倫理観が欠けている。と、軽蔑した。
だが、何故か自分の頭の中にチヨの顔が浮かんでくる。
過去の自分とチヨのやり取りが頭の中にチラついては、それを振り払い自分とドレグは違う!絶対に違うと強く否定した。
確かに、あの悪魔の様な女ミミに酷い捨てられ方をされた所は…ドレグと同じ所もあるが、
自分はドレグのように浮気をして彼女を裏切り挙げ句の果ては、理不尽に責め立てる様なゲスな事はしていない。
…チヨの事は…
あの時、自分はミミに騙されて、チヨの話を信じてあげられなかったのは少し申し訳なく思う。
ただ、それ以外は真実を言ったまでに過ぎない。少々、キツく言い過ぎたのかもしれないが、それが現実だ。決して自分は悪くない。
そう、ソウは自分に言い聞かせていた。
けど、何故チヨとルナ殿が婚約者に?
あれを女として見れるなんて、ルナ殿の趣味はどうにかしてる。ブス専なんだろうか?
だが、チヨは何故、旅から離脱しただけで、親から縁を切られるんだ?
そういえば、チヨがお友達役として城に来た時から長期休みの時でさえ実家に帰った様子はなかった気がする。
ずっと俺の側に居て、俺専属の使用人が仕事を放棄してたから代わりに鬱陶しくも俺の身の回りの世話をしてたな。
…まあ、どうでもいいけど。
家から縁を切られた事によって貴族の称号は剥奪。お友達役からも外されたみたいだし、
ムカつく事にせっかく俺のチームに復帰させてやろうと思ってたのに、俺の気持ちを無碍にした。
もう、あんな薄情な奴の事なんて知るか!どうにでもなってしまえと、ソウは苛立ちに身を任せてその場を去って行ったのだった。
その様子を見ていたのは、ゴウランやハナ達だけではない。