イケメン従者とおぶた姫。
「…こんなのドラマの世界だけだと思ってた。浮気って、本当にしてる人いるんだね。」

と、ミミ達の様子を見ていたショウは、ポカーンとしている。

どうも、浮気や不倫というものを実際にする人なんて存在しないと思っていた節のあるショウにとって、バリーンッ!と、夢を打ち砕かれた気持ちになっていた。

それは、あくまで演劇やドラマの盛り上げ的なもので非現実的。実際には無い話だと思っていたのに…。

こんな酷い裏切りをする人が存在するなんて…と、ショックを隠しきれない。

そんなショウにすかさず、サクラは


「ショウ様。気にする事はありません。
あれは、ただの気狂いです。常人であれば、あのような外道な事はできませんよ。」

と、あれは頭のおかしい人だから自分達は気にする事はない。そう教えてくれた。


「…ですが、非常に残念な事に、世の中に犯罪がなくならないと同様に、あのようなゲスな真似ができるクズがなくならないのも同じです。
どちらも、どんな理由があろうとあってはならない事ですね。」

ぶっちゃけ、サクラは浮気や不倫をする者と犯罪者の区別がつかない。何故、あいつらは逮捕されないんだろう?と、疑問に思う程だ。


「…ほんに、サクラは手厳しいのぉ。
じゃが、我は理由によっては仕方ない所もあるのかなとも思うのぉ。あくまで、理由によっては…じゃが…う〜む…」

と、ロゼはあくまで理由次第だという。理由次第で許せる可能性もあるみたいだ。


「…俺は、お前の考えが理解できない。俺は、
絶対に許さない。お前は、殺人も理由次第で許せるのか?」

なんて聞いてくるサクラに、殺人って…突拍子もない事いうのぉ〜、極端な奴じゃ。と、若干たじろぎながらも


「…そうじゃな。個々それぞれ様々考えを持っていて、故に自分を反する考えの者とぶつかるのは当たり前の事。じゃから、我は理由次第では許せる事もあるじゃろうな。
サクラは、自分にも厳しいが他人にも厳しいが過ぎる。」

と、自分の考えを述べた。


「俺は、お前のその考え方が大嫌いだ。聞いていて反吐が出る。」

すると、サクラは冷たくそんな言葉を残し、それ以上ロゼに話し掛ける事はなかった。

何故か急にサクラとロゼが、ギスギスしてしまいショウはどうしよう…と、困っていた。

でも、人によって考え方も気持ちもこんなにも違うものなんだなぁとショウは、ミミ達を見て、サクラとロゼの意見の交わし合いを聞いてそう感じた。

…けど、やっぱり不倫や浮気は凄くすっごぉぉ〜〜っく嫌だなぁと思うショウだ。


そして、“面白い事がおこるぞ”と、言って
日時や場所を指定し自分達に必ず行くようにと強制してきたリュウキを恨みがましく思うサクラ。

リュウキの事だから絶対に何か裏があると思っていたのでその話を無視しようと考えていた。

なのにだ。悪知恵の働くリュウキは、ショウを上手くコントロールしてその気にさせてしまった。楽しみにしているショウの気持ちを奪う事なんてできる筈もなく、警戒しながらも渋々リュウキの指定した場所にきた。

指定場所に行くと案内人が現れ、タクシーに乗せられ自分達の宿泊施設から遠いこの場所に連れて来られ事前に用意された料理や楽しいイベントでショウは大はしゃぎしていたのだが…

周りを見て見ると、素行に問題のある見知った輩がちらほらいるのが見えた。しかも、何故か聖騎士団長の姿も見える。

何が、どうなっているやらと思っていた矢先のこれだ。

楽しいはずのファミリーの日が、ミミの行動一つ見せられただけで不愉快極まりない気持ちになった。

これを見せる為に、わざわざここに案内されたのか?

ショウの教育に悪影響過ぎると、サクラはリュウキに対し憤慨していた。

リュウキの意図は読めないが、ただ一つ言える事。…最悪だ。


サクラは、そう思った。
そして、サクラには気になっていた事が他にあった。それは、ショウの様子だ。

この場所に来てから、どうも落ち着きのなかったショウ。
それは、単に見慣れない場所だから緊張しているのか、人見知りからくるものなのか、他の理由があるのか注意深く様子を窺っていたのだが時間が経っても、その様子は変わらなく感じ


「…ショウ様、どうかなされましたか?」

サクラは、優しくショウの手に触れ心配そうにショウの顔を覗き込んできた。

すると、ショウは


「…なんだか、心がね。ソワソワしてるの。」

と、その視線を遠く自分達から離れた席へと向けた。ショウの視線の先を辿ってみると、そこには騎士団長ハナ達のいる席が目に入ってきた。


「あそこに、何があるのですか?」

サクラが、疑問を投げかけると


「…よく分からないんだけど…あそこら辺の時間がおかしいの。…分からないんだけど…時間が…変…」

ショウは、ハナ達のいる場所を指差して、よく分からない事を喋ってきた。
だが、サクラはショウの言っている事が分かるのか


「あそこの場所がおかしいのですか?それとも、あそこにいる誰かがおかしいのですか?」

と、まとを絞り質問をした。


「…場所じゃないよ。ほら、あの子…!ハナさんの斜め前に座ってる綺麗な女の子。あの子の時間がおかしいの。まだ、居ないはずの子。」

ショウが、そこを指差して話していると

たまたまのタイミングで、ショウが気になっている相手…ルナとバチっと目が合った。

そして、ショウを見たルナは何故か目を大きく見開いてショウの顔を凝視していた。


その様子を見ていたロゼは違和感と疎外感を感じていた。


何故に、サクラはお主様のよう分からぬ話も理解できてしまうのじゃ?

少なくとも、我は…お主様が何を伝えたいのかが分からんかった…

やはり、これはお主が赤ん坊の頃からずっと片時も離れず側にいたサクラだからこそ分かる事なのかもしれんが…それは、どうしようもない事なのは理解しているつもりじゃが…

…我だけ分からんなんて…悲しい…

何が悲しいって、大好きなお主様が一生懸命になって伝えようとしているのに、それを理解してあげられない事が悲しい

…あと、いつもサクラはお主様の微妙な変化にもすぐ様気付く事ができるというのに

我はそれに一切気づけんかった…


それに、何故じゃ?

我が、理由次第で浮気は許せると言った時から、お主様と距離を感じる気がする…気のせいじゃろうか?

…おかしい…

お主様の肩に乗り、お主の顔に隙間なくくっ付いておるというのに…距離を感じる…

…どうして?


と、いきなり襲ってきた言い表しようのない強い不安に駆られ、ロゼはゴロゴロと喉を鳴らし全身を使って懸命にお主様大好きアピールをした。

…だが、ショウはロゼを見てくれる事がない気がして寂しく感じ…強い孤独感を感じた。


ドクン…


…どうして?

我は、何を間違えた?


ドクン…


何故か分からぬが、ここで間違えれば我は取り返しのつかない事になる様な気がする…


ドクン…


そう思うのに、急に襲ってきた不安と孤独感に耐えきれずロゼは、ショウの肩からピョーンと飛び降り

大好きなショウにさえ声も掛けずに何処へ行く訳でもない、むしゃくしゃした気持ちを掻き消すかのようにガムシャラに走った。

急に、走り去って行ったロゼに驚いたショウが


「…ろ、ロゼッ!!?」

と、名前を呼んでくれたが…それでも、今は立ち止まりたくなかった。


…悔しい…

…寂しい…

…大好きなのに…大好きなのに何も分かってあげられない!

お主様の気に入らない事を言ってしまったかもしれない…そのせいで、気が合わないねって突き放されたら、どうしよう…怖い…!

サクラなら、お主様の事を分かってあげられるから嫌われる事はない。むしろ、相思相愛でちょっとやそっとでは壊れない強い絆で結ばれているように感じる。…じゃが、我は…

…お主様にとって、我は…


ドクン…


我は、こんなにもお主様が大好きなのに!

お主様は、サクラとばっかりじゃ!!


と、ふと気になって後ろを振り返ると…ショウの姿が見えない。


…ガァ〜〜ン…!!!?


ロゼはショウが自分を追いかけて来てくれない事にズゴーーーンッ!と、雷に打たれたようにショックを受け愕然とした。


…しょ…しょんな…


ロゼは、淡い期待をしていたのだ。

自分のこの不安でどうしよもない気持ちを、ショウなら何とかしてくれる。
きっと、自分が走り去ったら心配して追いかけてくれて、大丈夫だよ。大好きだよって優しく抱き締めてくれると期待していたのだ。

だが、現実のなんとシビアな事…

ショウは、ロゼの事なんか追いかけて来てはくれなかった。


ロゼは自分ばっかりお主様の事が大好きで…辛い。どうして、自分ばっかり…。と、しょんぼりトボトボと歩いていた。

この時、ロゼは気がついていなかった。


ロゼの並外れた素晴らしいスピードで、
ガムシャラに走った結果

全く見知らぬ土地へと来ていてショウの姿どころか、街の風景や雰囲気も全然違う所へ来ていた事に。

こんなの、ショウどころか並大抵の人達でも…いや、足に自信のある者ですら音速のスピードで走る事のできるロゼの足にはついて来れるはずもないのに

不安でいっぱいのロゼには、そこまで考える余裕なんてなかったのだ。

不毛な自分の気持ちが悲しくて寂しくて、
ポロリ、ポロリと大粒の涙を流しながら歩いていると


「……どうして、そんなに泣いてるの?」

と、ロゼは誰かに抱き上げられた。

しょんぼりして、心が弱っていたロゼはどうでもいい気持ちになっていて普段ならショウ以外には触れさせもしない体を持ち上げられても抵抗しなかった。


「…捨てられちゃったのかな?どうしてかな?
君の事…放っておけない。」

ロゼを抱き抱えた人は、そう言って大事そうにロゼを自分の胸に抱き締め自分の家へと連れ帰ったのだった。


…お主様は、我の事なんてどうでもいいのじゃろうか?

我なんて居なくても、どうせサクラとイチャイチャしとるんじゃろ?

こんなに、お主様の事を思うとるのに…我ばっかり馬鹿みたいじゃ…


…我ばっかり…


ショウの事ばかり考えていて、ボ〜…っとしていたロゼは、

誰かに体を洗われてるなぁ…

ご飯出されてるなぁ…

なんて、心ここにあらずといった感じにボンヤリ思っていたが獣化し続けるのはとても疲れるが、今はまだ気持ちの整理がつかずショウの元へは戻りづらい。

声を聞く限り、ロゼを保護してくれた人間は若い女性だ。

…この女には、申し訳ないが気持ちの整理がつくまで利用させてもらおうと考えた。

この女性は、ロゼにたくさん話しかけてきた。たくさん話しかけてくるので、ロゼはボンヤリと女性の姿を見た。

ボン・キュッ・ボンのナイスボディーに、
髪はミルクティー色のボブ。目の色は赤茶。
身長は165cmくらい。色白のアジア系美女が、元気のないロゼを気にかけて、色々とお世話をしてくれている。

一通りお世話を終えると、美女はロゼの側に座り語りかけてきた。


「…元気ないみたいだけど大丈夫?」

と、ロゼの為に用意したご飯が手付かずのままになっている事に、美女はとても心配してロゼの体をそっと撫でてくれた。


「…私ね…。元カレに付きまとわれてて困ってるんだ。」

ロゼが大人しくしてるからか、美女は自分の話を喋り始めた。


「元カレに浮気されちゃってさ。
“どうして浮気したの?”って、怒ったら。
“そういう気の強い所が嫌いだ”“可愛げがない”って、自分が浮気したくせに、悪いのはお前だって開き直ってきたんだ、アイツ。だから、ケンカして別れたんだよね。」

…我が恋で悩んどる時に、恋のもつれの話か…

と、ロゼは今は恋愛関係の話は聞きたくないなぁとげんなりしていた。
いい話ならまだしも、彼氏に浮気されて別れた話とか…


「付き合う前は、その元カレに興味なんかなかったんだけど…学校行く度にたくさんアプローチされてさ。

“君の一生懸命な所が好きだ”
“いつも毅然としてるから疲れないか心配になる。だから、俺が君の心の支えになってあげたい”

とか、毎日のように言ってくるわけ。
…彼の熱烈なアプローチに心打たれちゃって、恋人になって幸せだった…はずなんだけど…」

と、美女はその当時を思い出してか、物に耽った表情をし寂しそうに笑った。


「付き合ってて、いつかこの人と結婚するのかなぁとか考えたりもしてたなぁ。
優しい彼の為に、いつだって綺麗でいたくてオシャレにも力入れてさ。苦手な料理だって、作れるように努力した。もう、ほんと彼に色々尽くしたなぁーって感じで。」

…本当に、彼氏の事が大好きだったんじゃな

とても、いいコのように思うが何故に元彼氏は、このコという恋人がいながら浮気したんじゃろ?


「それが、ある日を境に彼氏の様子がだんだんおかしくなってきて。でも、彼に限ってって思ったよね。嘘のつけない人だったし。
けど…まあ、色々あって浮気が発覚したのよね。」

彼氏を信じたい気持ちと、やはり何処かおかしい様子の彼氏…不安と葛藤の狭間で辛い思いをしたんじゃろうな

ロゼは、美女の話を聞いているうちに、いつの間にか親身になって話を聞いていた。


「それで、彼を問い詰めたらあんな事言われて挙げ句の果ては
“ミミちゃんは、君と違って俺が支えてあげなくちゃいけないようなコなんだ。君は強いから一人でも大丈夫だろ。”
なんて言われちゃってさ。」


…ぬ?

今、聞き覚えのある名前を聞いたような…

いや、しかしな!同じ名前もたくさん存在する

あのキチガイ女と同一人物とは限らんじゃろ

ロゼは、何やら聞き覚えのある名前に反応して、まさかなと思い直した。


「なのにだよ?そんな感じで別れて、立ち直るのに時間は掛かったけど、元カレの事なんて忘れて頑張ろうって思えるようになった時にさ。
いきなり元カレが私の前に現れて
“…ごめん!俺が間違ってた。やり直してくれないか?”
なんて、言ってきたんだよ?」

…彼女をボロクソに悪口を言って捨てたくせに、やり直そうなど、よう言えたもんじゃな


「もちろん断ったんだけど、やり直したいってしつこくてさ。しつこいあまり理由を聞いたら
“俺は騙されてたんだ。ミミは俺の他に浮気相手がいたんだ。”
だって!自分は浮気して正当化してたくせに、相手の浮気は許せないんだって。バッカみたい!
それに、ミミって女がさ。元カレを振る時に言ったんだって。“完璧彼女がいるのに、彼女そっちのけでミミに夢中になってる君がいいのに。完璧彼女と別れちゃったら、つまーんなぁ〜い”って。」


…な、なんと…

元カレもヤバいが、ミミって女子はこれまた…

恐ろしいのぉ〜、こんな奴らとは絶対に関わり合いたくないものじゃ

恐ろしかぁ〜〜〜

ピュアでキュートなお主様には、とてもじゃないが聞かせられん話じゃ…


「それからなの。元カレがしつこくて。
無理だって、ハッキリ断ってるのに。電話とかメールも凄いから着信拒否とかブロックしたんだけど。そしたら、私のアパートまで押し掛けて来るようになっちゃって…怖いんだよね…。」

と、美女はロゼを抱き締めて、恐怖から身を震わせていた。

本当なら、抱っこもショウ以外許さないのだが、あまりに美女が可哀想過ぎて、逃げ出す事も、シャー!と、威嚇する事もできなかった。


…お主様…すまぬ…

じゃが、浮気などではなかよ?

あまりに、この女子が可哀想で少しだけ肩を貸しておるだけじゃ…

…しかし、お主様以外に抱っこされるのは…落ち着かぬ…

早く、離してほしいものじゃが、可哀想で突き放す事もできん

…う〜む…


と、ショウに対し罪悪感を感じていた時だった。

…ピンポーン…

家の呼び鈴が鳴った。途端に、美女はビクリと体を強張らせた。

すると、ドアの向こうから


「キカ!俺だ、開けてくれないか。話を聞いてほしい!」

と、男の声がした。その声に、美女…キカは恐怖心から目をギュッと閉じて両手で耳を塞いでいた。

早く、行って!

来ないで!

もう、私に関わらないで!

彼女からそんな声が聞こえてくるような気がしてロゼは、キカの膝の上でハラハラしながら二人のやり取りを複雑な気持ちで聞いていた。

弱っていた自分を保護してくれた優しいキカ。

彼女は、元カレのしつこい復縁要請に困っている。…助けてあげたいのは山々だが、人の事に他人である自分がしゃしゃり出ていいものか。

下手に関われば、今以上に二人の状況を悪化させてしまうかもしれない。だが、責任はとれない。

それこそ、無責任なのではないかと考える。

…だが、目の前に困ってる人がいる。


…サクラなら…

おそらく、こんな場合でも我関せずでスルーしておるじゃろうな

一見、冷たく思うじゃろうが、それはサクラのお主様を思う一途な表れ

全てはお主様の為

…いや、そもそも

サクラなら、どんな事情があるにせよ、
人の世話になどならぬな

その徹底している様が、お主様にとってとても好感がもてるんじゃろう…

…確かに、お主様の立場になれば我だってそうじゃ

もし、お主様が我の為にサクラのように
徹底してる様を見せてくれたならキュンキュンが止まらぬし

嬉しすぎて、お主様に絡み付いて離れぬくらい夢中になる自信しかないっ!

永遠とチュッチュする!

いにゃぁ〜〜ん!お主様ったら、そんにゃ…

なんて、妄想してるうちにも


「俺は、ミミに騙されてたんだ。キカを失って、ようやくキカの大切さに気づいた。
お願いだ。俺には、君しかいないんだ。愛してる。」

なんて、調子のいい事ばかり喋り続けている声が聞こえて…ハ!と、ロゼは妄想から覚めた。

しかし、近所迷惑もいい所だ。
誰か、警察に通報しろと内心ロゼは思っていたが、こんなキチガイには誰も関わりたくないらしく見て見ぬふりする人ばかりしかいないようだ。

近所の人達は、誰も動く気配がない。

代わりに


「間違いなんて誰にだってある話だろ?
それをお互いに乗り越えてこそ、絆が深まるんじゃないか?」

と、元カレの反省してるように見せかけて、
全然反省してない…
謝ってるようでちっとも謝ってない。

それどころか、何故かこっちを責め立てる様な上から目線の猛攻撃が止まない。

こんなの復縁要請でもなんでもない。

ただの脅迫と脅しだ。

ロゼの頭上からは「…ヤダ…怖い、…助けて…誰か…」と、キカのか細い声が聞こえる。


…ドクン…


…このままでいいのか?

我を助けてくれた人が、恐怖に震え助けを求めている

…自分は…

お主様…我は…どうすれば…!!?


と、ロゼは悩みに悩んだ結果。


「…助けてほしいか?」

「……え?」

キカは、突然聞こえてきた声に驚き、思わず顔を上げキョロキョロした。


「…下じゃ。」

と、言う声に下を向くと

ミッドナイトの毛色、そして夜空色の目の美しい子猫がジッと自分をを見上げていた。
前足から背中に掛けて、自然にできたとは思えない白い紋様が入っている。

よく見れば、座ってる姿は全然猫背なんかではなく犬のようにピーンと背筋が整っている。猫のようで猫じゃない美しい生き物。

最初、見かけた時、この子猫はとても弱っているように見えて、それが自分と重なって見えて放っておけなかった。

…いや、今自分がこんな状況に追い込められてる為、心の拠り所がほしかったのかもしれない。

そんな気持ちで拾ってきた子猫は、今まで見た事もないとても美しい猫だった。


…なんて、綺麗な子猫なんだろう

…綺麗な目…まるで深い闇夜を感じさせるような…吸い込まれそう…

今さらに、そんな事に気づき
思わず子猫に見入っていると


「我が、手を貸そうか?」

「……ね、猫が、しゃ…しゃしゃ喋ったッッッ!!?」

「驚かせて、すまぬ。しかし、我を助けてくれた、ソチを放っておけんくてな。
大好きなお主様に、カッコ悪い姿を見せたくないという我の我儘じゃ。少しばかり、手助けして構わぬか?その場凌ぎくらいはできるぞ?」


キカはビックリのあまり大きく目を見開き驚きの声もあげていたが、今の彼女にとってそれよりも元カレの脅迫めいた復縁要請の恐怖のほうが勝ったらしい。

キカは、藁にもすがる思いだったのだろう。

子猫が喋るという奇怪な状況であるはずにも関わらず


「…た、助けて…ッッッ!!!?」

と、涙をボロボロ流して子猫に助けを求めた。


「…おうおう。そんなに泣くでない。
せっかくの可愛い顔が台無しになるぞ?」


「……え?」

ロゼの言葉に、キカはキョトンとロゼの顔を見て「…うん。」と、嬉しそうに笑った。
そのあと、時間差でロゼの言葉をきちんと思い返したのだろう急にポッと赤くなり少し恥ずかしそうにしていた。

キカの気持ちが少し落ち着いたようで、ロゼはホッと胸を撫で下ろした。

このままキカを見捨てていれば、きっとロゼは後悔する。お節介とは思うが、どうしてもロゼは放っておけなかった。これは、もうロゼの性分だとしか言えない。


「我には、心に決めた大切な人がおるゆえ、
ソチの涙を拭いてやる事も抱き締めてやる事もできぬが、今、我にできる最善を尽くす事を約束しよう。」

「…え?あ、はい。」

ロゼに線引きされた事に、キカは少し寂しく感じるもロゼの優しさが滲み出る言葉に、
素敵な猫だなぁと、キュゥ…と胸がちょっぴりだけど切なく締めつけられた。

そして、こんな素敵な猫に思われる“猫”がとても羨ましく思った。自分も猫だったら、チャンスはあったのかなぁ?とか…


「では、再度確認するぞ?
元カレとは、もう復縁はあり得んのじゃな?」

「…無理!絶対に嫌っ!!」

「今回の事がキッカケで、友達や友人関係にもなれぬ可能性があるが大丈夫かえ?」

「あの人と、友達とか…無理だから!もう、関わりたくない!顔も見たくない!」


「そうか。じゃが、覚えておいてほしい。
今さら起こる事は、単なるキッカケじゃ。」


「…キッカケ…」


「そして、元カレの事は信頼のおける者に相談した方がいい。これは絶対じゃ。自分だけで抱え込もうとしてはならぬぞ?
ソチは、もう十分頑張った。じゃが、心にも限界はある。人を頼ることは決して悪い事ではない。」

と、声を掛け続けるロゼに、キカは気持ちの何かがグッと込み上げてきた。

「頼るんじゃ。誰でもいい。家族でも友人でも警察でも近所の人でも。

そして、今は我を頼れ。」

ロゼの頼れという言葉に、キカは熱い気持ちが込み上げ恐怖の涙が温かい涙へと変わったのを感じた。


「…うん。ありがとう。」

キカの、ありがとうの言葉を聞いてロゼは、
ホッと一安心の小さなため息と共に小さく笑い、うるさいドアの方へと向かった。

何をするつもりなのだろうと、キカはロゼの後ろ姿を見ていると


「……えっっっ!!!??」

ロゼの姿が、いきなり人の姿へと変わり、キカは腰を抜かす程に驚いた。


「…キカ。いつまで、拗ねてんだ。浮気なんて、みんなやってるのにさ。

それに、お前は俺の事が好きだろ?好きだから、新しい彼氏も作らず俺が来るのを待ってたんだろ?それを俺が迎えに来てやったんだ、嬉しいだろ?意地張らなくていいんだ。

……なんで、返事してくれないんだよ。まだ、怒ってるのか?

…悪かった。謝るからさ。お前が、浮気は嫌だってなら二度としない。…俺、お前が居なきゃダメなんだ…」

暴言を吐いたかと思えば、同情でキカの気を引こうとしてるのか妙にしおらしい事も言ってくる。…かなり呆れるし、凄く気持ち悪い。

よく飽きずに、倫理観から外れた事を堂々と喋ってられるなとある意味感心しつつ、ロゼは


ドンッッッ!!!!!

と、拳でドアを叩いて相手を威嚇した。

何事だと相手が怯み、声が引っ込んだのを見計らい


「…さっきから、ごちゃごちゃウルセーな。
テメー、誰だよ?」

と、あえて、威圧的な声を出して乱暴な言葉を使った。


「……へ?…お、男…???なんで、男の声が?…あれ?」

元カレは、部屋を間違えたのかと部屋の番号を再度確認しているようだ。

そして
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