怪盗ジャック〜月の輝く夜に〜
ジャックが隠れてすぐに警備の男性たちが部屋のドアを開ける。すると夫人は「ごめんなさい。私のせいなの」と言った。貴族が平民をかばうなどあり得ない。ジャックは驚いてしまった。

警護の男性たちは「失礼しました」と言い扉を閉める。ジャックは恐る恐る夫人の前へと移動した。夫人は穏やかに笑っている。

「坊や、今回は見逃してあげる。でもこんなことはもうしてはダメよ。お母さんやみんなを悲しませるから」

夫人はジャックに目線を合わせ、優しく言う。ジャックはいつもなら「だから何?」と反抗しているだろう。しかし、今はなぜか頷いてしまった。

「私がこの部屋を出たら、左にまっすぐ進みなさい。裏口から出られるから。そっちに行かないように私はみんなを引き止めておくわね」

夫人はそう言い、部屋を出て行く。ジャックは慌てて鶏を抱き抱えたまま屋敷から飛び出した。

「あんな貴族、いるんだ……」

ジャックは走りながらポツリと呟く。その日は、盗みが無事に成功したというのに素直に喜べなかった。
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