恋のリードは  彼女から!
純一は金曜日の午後多忙な合間のしかも移動時間に百貨店へ寄り

その限りなく短い時間で温子へのプレゼントをセレクトした。

前もって外商部門に準備させ

希望に近いアクセサリーを用意してもらい

その場で決めるしかないと思っていた。

「悩むなぁ。」

純一の思案顔を担当スタッフは

ズラリと並べられた超高額なネックレスを前に黙って見守った。

最上級のお得意様には余計な口出しは無用だと心得ているからだ。

「悪いけど、君、選んでくれない?」

純一がギブアップして声を出した。

「かしこまりました。」

担当の女性スタッフは黒いスーツに白手袋をはめた両手で

ネックレスの一つに触れた。

「こちらのチェーンは希少レベルの繊細なデザインになります。ゴールドが外光を上品に受け止めて華奢な輝きを醸し出し、3粒のエメラルドを引き立てるよう特別にグリーン・レイクとネーミングされております。」

「グリーン・レイク?」

「はい。深い森の中にひっそりと佇む透き通るように輝くグリーンの湖面を細い陽光がキラキラと繊細に波打つさまを表現しております。」

「普段使いでも目立たないかな?」

「はい。上質であるからこその優美さとしとやかさをご演出できるネックレスでございます。」

「よし、これにしよう。包んでもらえる?ちょっと急ぐんだけど。」

「かしこまりました。」

担当は上客からの急ぎの一言でも全く動じず

スマートな身のこなしで奥へ消えた。

事前のリクエストがあったためすべての手筈が整えられていた。

どのアクセサリーを選ばれても直ちに包装できるよう完璧に対応できて当然である。

信じられない速さでショップバッグを手にした担当が純一の前に戻った。

すでに支払いは別の担当によって済ませられ

包みを受け取った純一の背を

外商サロンのスタッフ数人が静かに一礼して見送った。

専用パーキングに駐車した社用車のドライバーは

幾度も腕時計を眺めては気をもんでいた。

「悪い、次へ。」

純一の声を耳にすると同時に返答した。

「かしこまりました。」

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