心がわり
「藤本さん 嫌いな食べ物って ある?」
電車の中で 中井さんに聞かれて。
「何でも 大丈夫です。好き嫌い ないから。」
これは 仕事のお礼。
私は 中井さんの 無理を聞いたから。
一生懸命 自分に 言い訳をする私。
光司と付き合ってから 一度も
私は 男性と2人で 食事をしていない。
「へぇ。珍しいね。肉が苦手とか 生ものが苦手とか。そういう女の子 多いのに。」
銀行では 不愛想と言われているのに
中井さんは 感じよく 話し掛けてくれる。
「そうですか?私 食いしん坊なんです。」
「それで そんなに細いの?小鳥くらいしか 食べないんじゃないの?」
「小鳥?まさか。ラーメンライスとか 食べますよ。」
「へぇ。食べるの 好きな方?」
「はい。美味しい物 大好きです。」
「良かった。それじゃ これからも 時々 食べ歩きに 付き合ってもらえるね。」
これからも? 食べ歩き? 付き合う?
私の頭を 目まぐるしく 回る言葉。
曖昧な笑顔のまま 私は 中井さんを 見上げる。
丁度 大きく電車が 揺れて。
よろめく私を 中井さんは 支える。
「ほら。危ないから。掴まって。」
私は 差し出された腕に 掴まってしまった。