心がわり

「ねぇ。お母さん。お母さんは 結婚する時 不安にならなかった?」

「そりゃ 不安だったわよ。バブルの後で 景気も悪かったし。」

「そういうことじゃなくて…お父さんで 本当に いいのかって。」

「ああ。お父さんが お母さんに ゾッコンで。別れたら 死んじゃいそうだったの。」

「もう。真面目に答えてよ。」

「好きだったから。その時の気持ちに 正直に 従ったの。先のこととか 考えても 仕方ないでしょう。どうなるか わからないし。」

「後悔したことって ない?」

「ないわよ。夢中だったもの。結婚して すぐに お兄ちゃんが産まれたから。仕事と育児で 目が回るようだったわ。そのうち まどかも産まれて。本当に 夢中だったわ。ホッとしたと思ったら まどかに 彼ができたとか。生活って ずっと動いているから。息つく暇も ないけど。それが 幸せなのかな。」

「ずっと 動いている…?」

「そうよ。子供が生まれて。育てて。まどかは 何が 不安なの?」

「わからないけど。私 今は 祥太が好きだけど。嫌いになったら どうしようとか。」

「そんなの まどかだけじゃないでしょう。祥太君だって まどかより 好きな人が できるかもしれないよ?まどかって 自信家なのね。」

「そんなんじゃないわ。お母さん 意地悪ね。」

「まどかは 慎重だから。先の不安を 全部 取り除きたい気持ちは わかるけど。取り越し苦労って知ってる?起こりもしないこと 考えるだけ 時間の無駄じゃない。」

「お母さんって 案外 大胆なのね。」

「そうよ。どうしても うまくいかなければ 途中で 止めることも できるんだから。」


祥太に プロポーズをされた後で 母と 色々話して。


私の中の 不安は 全部 なくなったわけじゃないけど。


意地悪な 人事が 私を 後押ししてくれた。




< 83 / 85 >

この作品をシェア

pagetop