あなたに月下美人の花を……
『あなたがこの手紙を読む時、私はもう日本にはいないでしょう。三年は帰って来られません。イギリスに行けと言われた時、いつもなら何とも思わなかったはずなのに、何故か心が苦しさで満たされました。しかし、どうしてこんなにも苦しいのか教えてくれる人はいません。なので、自分で考えました。そしてたどり着いた答えに涙が止まりませんでした。一人が好きでいられたはずなのに、あなたから離れたくないと思ってしまいました。私はきっと、あなたが好きだったのです。知らぬうちに心を奪われていたのです。この想いに気付いた夜、私の家の庭の月下美人の花が咲きました。花言葉は「儚い恋」だそうです。あなたにこの花を捧げます』

誰が書いたのか、名前は書かれていなかった。しかし、月也はかぐやのものだと読み始めた瞬間からわかっている。涙があふれ出し、月也は教室を飛び出した。

「儚い恋だなんて言わせないよ……。だって、また日本に帰ってくるんでしょ?」

泣きながら月也は手紙を抱き締める。夏の香りが風に乗って月也のそばを通り過ぎていった。
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