直球すぎです、成瀬くん




「今、楽しいのは嘘なのかなとか、笑ってるのは周りにいる友達が笑ってるからなのかなとか、どんどん、自分のことがわからなくなってきて…」

「……」

「今日も、昼休み中、考えてたら声をかけられて、咄嗟に嘘が出て…あ、今嘘ついた、って気づいたのが、ショックで……今まで気づいてないだけで、ずっと色んなことに嘘をついてきたのかなって考えたら、もう……自分が、何を考えているのか、わからなくなりました………」



いつの間にか握り締めていた手。

少し伸びていた爪が、手のひらに刺さって痛い。




「…別に、嘘つくのが悪いとか言ってねぇよ」


「………え……、」



それまでずっと黙っていた成瀬くんが、振り返ってそう言った。

十数歩分の距離ができていたのを、成瀬くんはゆっくり歩いて、やがて私の目の前に立った。


「そーやって、本当の気持ちがわからなくなるまで周りに合わせて、苦しくないのかって言ったんだよ」

「……っ、」


握り締めた手。僅かに力が緩む。


恐る恐る見上げると、その目は意外にも、私を真っ直ぐ見ていた。

…いつもなら、もっと鋭くて、逃げ出してしまいたくなるほど冷たいのに………


今の成瀬くんは、真っ直ぐで強い目をしていた。




……成瀬くんは、いつだって自分の言葉を持っていた。

冷たくてもトゲがあっても、これが自分で、自分の思ったことだと、ハッキリとした意思を持っていた。


………あぁ、成瀬くん、強いんだな…………




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