直球すぎです、成瀬くん
いよいよスタートを迎える成瀬くんは立ち上がると、その表情を変えることなくスタート位置についた。
スタートの合図が鳴り、一斉に走り出す生徒たち。
その中を軽く走りながらスタートした成瀬くんは、数十メートル先のテーブルの上に置いてあるボックスに手を突っ込んだ。
きっとあの中に、お題の書かれた紙が入ってるんだろう。
「…成瀬くん、何引いたんだろね?」
「ね、ちょっと気になる」
さっきの宮城くんの話もあったせいか、私たち4人は自然と成瀬くんの姿を目で追っていた。
引いた紙を開いて中身を確認した成瀬くんは、それをジャージのポケットに突っ込むとどういうわけか、こちらに向かって走ってくる。
「え?え?こっち来たよ?」
「え、何で?え?」
まりなちゃんと玲可ちゃんが口々に驚きを隠せずにいるうちに、成瀬くんはあっという間に目の前まで来た。
「ちょっと来い」
「……っえ……、?」
「えっ、えっ?」
目の前に来た成瀬くんは、なぜか私の手首を掴むと一気に引き上げて、私を立たせた。
そして一言そう言うと、そのまま私の手首を引っ張りグラウンドへ走り出した。
「え!?」
3人の驚きの声を背中に、私は抵抗することもできず引かれるまま、成瀬くんとゴールへ向かって走った。
「はい1位ねー」
「……」
ゴール地点でお馴染みの黄色い紙を渡された成瀬くんは、特に何の反応を示すこともなくそれを受け取った。
「………」
………右手首が、痛い……
成瀬くんに掴まれたままの右手首。どういうわけか、なおも解放されない。
それに、私のことを嫌いに思っているはずなのに、どうして、私をあそこから引っ張り出したんだろう…………
掴まれた右手首に込められた力は、徐々に強くなっていく感覚がした。
私は恐る恐る、その背中に訊いた。
「………あ、あの………ど、どうして、私……なんでしょうか………?」
恐怖で消え入りそうな私の声を聞き取った成瀬くんは、僅かに振り向くと、そのまま手首を引いて歩き始めた。
「…っ、」
私はまた、抵抗することもできずそのまま後ろをついて歩いた。