直球すぎです、成瀬くん
そうなったきっかけはよく覚えていないけれど、女手一つで私を育ててくれた母の些細な仕草や表情、声のトーンから、まだ何も理解できない幼い私なりに、何となくの雰囲気を感じ取っていたのかもしれない。
両親が離婚し母は私を連れて家を出たのだと聞いたのは、私が小学校に上がる頃だった。
小学校に通い始めると自分の周りにいる人が急激に増え、周りの人の顔色をよく見る癖が染みついていた私はよくパニックに陥った。
笑っている、どうしよう…
すごく泣いている、どうしよう……
大声で怒ってる、どうしよう………
全然、頭がついていかなかった。
その人の雰囲気を感じ取ることはできる。
顔色を見て、今どういう気持ちなのか想像できる。
でも、それに対してどうしたらいいのか、全然わからなかった。
どんな顔をして、どんな言葉をかけたらいいのか、どうしたらいいか、全然わからなかった。
母の気持ちは感じ取れた。
けれど、それに対して私が何かできたことはなかった。
いつも静かに、ただ母の傍にいることしかできなかった。
そして幼いなりに考えて考え抜いた答えが、相手に合わせることだった。
そこにいる人が笑っていれば私も笑う。
泣いていれば一緒に泣くし、何かに怒っているなら私も怒る。
そうしてみると、驚くほど気持ちが楽になった。
パニックを起こす回数もどんどん減った。
元々、自分の気持ちや思っていることを人に言うことがあまり得意ではなかったから尚更だった。