直球すぎです、成瀬くん



「何どしたの、そんな険しい顔して」

「も、百叶…」


突然声をかけられて目の前に焦点を合わせると、鞄を肩にかけた百叶が心配そうな顔で立っていた。



「柚の席すごいいいじゃん、外見えるし」

「よ、よくな…」


言いかけて、はっと口をつぐんだ。


よくないなんて、成瀬くんがいる横でそんなこと、間違っても言っちゃーーー



「……柚?どうしたの?」

「……」


ちらりと横目で隣の席を見ると、そこにはもう、成瀬くんの姿はなかった。


…い、いつの間に………



「…ご、ごめん…っ、帰ろう」

「…う、うん…?」


少し首を傾げた百叶だったけれど、それ以上は何も訊くことなく、そのまま教室を出た。





「……も、百叶は、新しい席、どこだったの?」


何となく空気を変えたくて何か新しい話題を、と思ったけれど、いつも周りに合わせてばかりの私には、話題提供能力なんてないことを忘れていた。

結局、変えるどころか似たような内容の話をしてしまった。



「私はね、真ん中の真ん中。1番落ち着かないよ、教室の真ん中なんてー」


つくづく私もくじ運ないなぁ、と笑った百叶。



「あ、まりながね、1番前引いてたの、喚いてたよ」

「えぇ」


思い出したようにそう言った百叶は、その時の様子を思い出したのか少し吹き出した。



「お昼、次はどこの席に集まれるかなー、前回同様みんな席離れちゃってるけど」

「…そ、そうだね…」


いつも通りの様子でそう話す百叶に、私は不甲斐ない気持ちでいっぱいになった。


……気を、遣わせてしまってる気がする………


百叶のことだから、私の様子が少しおかしかったことに気づいていたんだろうけれど…特に何も言わずに、私が失敗して振った話題にも普通に返してくれて、さらには自然に話題まで変えてくれて……



……どうして、私はこうなんだろう………




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