直球すぎです、成瀬くん
「どうしたの、そんな顔して。何かあった?」
そこには百叶が立っていた。
艶々の黒い髪を今日はポニーテールにしている。
季節はすっかり夏本番を迎え、百叶と同様、髪をまとめる女子の姿がここ最近増えていた。
「な、何でもないよ!どうしたの?」
私はかぶりを振って、目の前の百叶を見上げた。
「消しゴム、2つ持ってたりする?さっきの授業中になくしちゃって…」
もしあったら借りたい、と両手を合わせた百叶。
眉尻を下げたその表情でさえ綺麗で、私は思わず見惚れてしまった。
「……柚?」
顔を見たまま言葉を発さない私を不思議に思ったであろう百叶は、しゃがんで私と目線を同じ高さにした。
首を傾げた拍子に、まとめられた長い髪が首の後ろでゆらりと揺れた。
「…っあ、ご、ごめん。私1つしか持ってなくて…」
「だよねぇ、ごめんね。まりなと玲可にも訊いてみるわ」
そう言って立ち上がる。
「あの、ほんと、ごめんね…」
百叶はいつも私に力をくれるのに、私はどうしてこんなに小さなことですら、力になれないんだろう……
「いや、そんな謝らないでよー、そもそもなくした私が悪いんだし」
私の肩をぽんと叩いた百叶は、じゃあまた放課後ね、と、玲可ちゃんの席の方へ向かっていった。
………明日から、消しゴムは2つ常備しよう………
むしろ私は、これくらいのことしか百叶の力になれることがないんだ。
百叶の背中を見ながら私は、確か自分の部屋にあったであろう、もう1つの消しゴムのありかを頭の中で探り始めた。