お疲れ様【短編】
電車に揺られている帰り道。
私の隣の彼は、爆睡している。
今の時刻を例えるとすれば、おやつの時間だ。
今日は昼まで隣町の公園まで行き、お弁当を食べたり、遊んだりして帰ってきた。
少し子どもっぽいのかもしれないが、そういうところが合うのだろうか。
今日の計画を立ててくれたのも彼だ。
私は、それに喜んで賛成した。
やはり、気が合うのだ。
なんでも今日二人で行ってきた公園は、彼が子どもの頃によく遊びに行っていたらしい。
その為、なんでも知っていたのだ。
『でなー、この噴水すげーんだ! 見たら絶対驚くぜ! あ、あと1分でくるっ』
確かに普通の公園の噴水にしては凄かった。
水が余裕で2メートルは噴き上がっていたと思う。
正直感動というよりは、衝撃でしばらく固まっていた。
でも、正直のところは。
『ははっ! やっぱりすげーっ!!』
私はこの彼のはしゃぎ様に驚いて、子どもみたいな表情に見とれていたのだ。
昼時に弁当を広げてみれば。
『え?!こんな凄いの作ったのかよ?』
『嫌だったら、食べなくたっていいけど?』
『嫌! 食べるしっ!』
あの必死な顔、思い出しただけで笑ってしまいそう。
そのあと彼は無難な卵焼きを頬張ると、満面の笑みで「うまいっ」と一言叫んでくれたのだった。
バドミントンもやってみたのだが、ラリーが全く続かずに羽が一方にしか飛ばない。
普通なら呆れてやめてしまうところなのに、この子どもの様な彼は違った。
『ど……ドンマイ、ドンマイ!』
その一言に申し訳なくも、嬉しくなってしまう私は一体何なのだろう。
楽しい時間とは、すぐに過ぎ去るもので、冒頭の電車の中に至る。
今も彼は、私の隣で気持ち良さそうに寝息をたてている。
なんだか、かわいい。
まだまだ最寄り駅に着きそうもない普通電車は、田園の中をのんびりと走っている。
見馴れた景色がずっと続く。
同じ色が線を引いて流れていく。
そんな風に車窓から景色を眺めていた時、右側から温かい感触があった。
ぐっすり眠っている彼が私にもたれ掛かっている。
よほど疲れたのだろう。
今日一日、私を全力で連れ回してくれた彼には感謝だ。
「……楽しかったよ」
また一緒に行きたい。
「ありがとうね、いつも……」
いつも優しい彼からの返事は、寝息となって返ってくる。
規則正しく聞こえてくる寝息は、まだしばらくは起きないことを示しているのかもしれない。
深く心地好い眠りから。
その心地好さは、隣にいる私のせいならいいのに。
「お疲れ様」
このまま居心地の好い、男友達のままで。
お疲れ様
おわり。