塩対応彼氏の恋愛事情。
Episode5*
取り戻される記憶
絢都side
“あまり無理に思い出させるようなことはしないでください”
医者の言葉を思い出し、唾を飲む。
もし話してしまったら、無理に記憶を思い出させるようなことをしたら。
「あの日、俺は莉茉を傷つけた。」
───一体どうなってしまうのか。
「喧嘩でも、したんですか?」
俺の事だけ記憶から抜け落ちた彼女は、不安そうな顔をする。
記憶が無い状態でもそれなのに、記憶が戻ってしまったら…。
…そう思って、さっきの質問も忘れたフリを通した。
我ながら最低だと自覚もある。
それでも俺は、愛する人に嫌われたくないという身勝手な感情から何も知らない彼女に何度も嘘をつく。