煌めいて初恋
5章 自覚して
その日、楓はとても上機嫌に学校までの坂道を登っていた。
やっと人前で演奏できたことで一つ山を越えられたような気がして誇らしさを感じる気持ちと、雲の上の存在の昴たちと一日過ごしたことで未だに夢の中にいるような気持ち。
なんだか落ち着かなくて、でもとても多幸感がある。
周りに生徒がたくさんいるのに思わず大声で歌い出しそうだった。
ところが生徒玄関に入ると、校内は異様な空気に包まれていた。
心なしか注目されている気がする。
最初はなんのことかサッパリだったのだが、生徒玄関でたまたま会ったクラスメイトに、
「鬼島昴とどういう関係?」
と聞かれたのだ。
詳しく話を聞くと、
『あのスーパースター鬼島昴がうちの学校の白波楓と密会していた』
という噂が立っているようだった。
どうやら誰かがあの駅までの道のりの中で楓たちを発見していたらしい。
普段、あまり知り合いと会わないのだが、そうでもないようだ。
密会、と言われて聞こえは悪いが、実際のところはただ、偶然にも、出会って、道案内をした、だけだ。
他のGold Rushメンバーについての噂は聞こえこないので、恐らく日中の駅に向かう途中か昴が楓の家に来る道中のどこかで目撃されていたのだろう。
しかし夜は誰にも会っていないし、暗くてとても離れた人物を特定できないだろうから、日中の駅に向かう前までの間の可能性が高い。
それにしても、ただ道案内をしていただけでそんな噂を立てられるなんて、さすが田舎のコミュニティーだ。
でもそれはそう、相手が昴だったから…