煌めいて初恋

「チッ」


彼女も同じか。


昴は小さく舌打ちをした。そしてなんてことないと言う笑顔を貼り付けた。


「ありがとう、錦川さん」


「えっ」


「もう用は終わったから」


昴はそれだけ言うと、絡まった姫李の腕をやんわりと解き、走り出した。


校舎裏に出ると、あまり掃除されていないのか、草だらけの湿地が広がっていた。
足元が少し湿っている。


もう少し裏まで行くと、見覚えのある制服の背中が見えた。


「白波さんッ!」


もしかしたら彼女じゃなかったのかもしれないのに、その名前を呼ばずにはいられなかった。


「……鬼島……くん」


こちらを振り向いた彼女は、大きく目を見開いていた。
楓の口からなんで、と口から漏れ出る。


見たところ、特に何かをされた様子もなく、ただ現れた昴に驚いている様子だった。
しかし何を考えているのか、どこか上の空だった。


楓じゃなかったらこんなことしない、こんな風に聞かない。


何故だろう、彼女のことが他人事と思えないのは。
彼女のことが知りたいと思うのは、何故だろう。


もう、分かっているのかもしれない。


この感情の正体を。


しかし、それに気付くことを拒む自分がいる。


昴は先の見えない感情に支配されていくのを感じた。
< 124 / 134 >

この作品をシェア

pagetop