煌めいて初恋
「チッ」
彼女も同じか。
昴は小さく舌打ちをした。そしてなんてことないと言う笑顔を貼り付けた。
「ありがとう、錦川さん」
「えっ」
「もう用は終わったから」
昴はそれだけ言うと、絡まった姫李の腕をやんわりと解き、走り出した。
校舎裏に出ると、あまり掃除されていないのか、草だらけの湿地が広がっていた。
足元が少し湿っている。
もう少し裏まで行くと、見覚えのある制服の背中が見えた。
「白波さんッ!」
もしかしたら彼女じゃなかったのかもしれないのに、その名前を呼ばずにはいられなかった。
「……鬼島……くん」
こちらを振り向いた彼女は、大きく目を見開いていた。
楓の口からなんで、と口から漏れ出る。
見たところ、特に何かをされた様子もなく、ただ現れた昴に驚いている様子だった。
しかし何を考えているのか、どこか上の空だった。
楓じゃなかったらこんなことしない、こんな風に聞かない。
何故だろう、彼女のことが他人事と思えないのは。
彼女のことが知りたいと思うのは、何故だろう。
もう、分かっているのかもしれない。
この感情の正体を。
しかし、それに気付くことを拒む自分がいる。
昴は先の見えない感情に支配されていくのを感じた。