煌めいて初恋
「ったくもう!暗い顔するのはやめやめ!ため息ばっかついてても幸せが逃げるだけ!元気だしな!」
恵は楓の背中をバチンッと叩いて教室を出て行った。
「はァッ!」
恵に言われたばかりの言葉を思い出して、思わず出そうになったため息を堪えた。
「帰る…か」
楓は気持ちを切り替えるように頬をバチンッと叩いた。
そして…
「ほんっとなんなんだろう」
楓は誰もいない生徒玄関で、投げやりにそう呟いた。
気持ちを切り替えて…と思って生徒玄関の傘立てを見たら、そこには楓の傘がなかったのだった。
今日も相変わらず遅刻ギリギリだった楓は、朝「雨降るよー」と言う母の忠告を無視したせいで、傘を持ってくるのを忘れていたのだった上、昨日のことで頭がいっぱいだったために、すっかり今の今まで傘のことを忘れてしまっていた。
雨が止むのを待つにしろ、いつ止むかなんて分からない。
恵の部活が終わるのを待って傘に入れてもらおうか、あるいは雨に濡れて帰るか…
いや、今日は恵は凪と帰る約束をしているのだった。
親友の恋路を邪魔してはいかない。