煌めいて初恋

昴の背がやがて見えなくなると、楓は大きなため息をついた。


「仕方ない、帰ろう…」


恵を待とうかななんて昴には言ったが、それは絶対に駄目だ。それに雨もそこまで酷いわけではなさそうだった。



楓は「よし」と気合を入れると、生徒玄関を飛び出した。


ぴしゃぴしゃと、水たまりを駆ける。


とんだ雨粒は、楓の足に飛び散っていく。



一粒。
また一粒。


楓の体を静かに濡らしていく。


どれくらい走っただろうか。
楓は膝に手をついた。


まだ坂の中腹で、上から大粒の雫が一粒、また一粒と落ちてきて、楓の体に落ちて跳ねる。






雨が弾かれていく音がした。


自分の体ではなく、別のものに弾かれていく音。


タンッタンッ


楓はゆっくりと、顔を上げた。


「…鬼島…くん…」


雨が、弾かれていく。


「白波さん、大丈夫?」


昴は顔をしかめていた。


「なっ、なんで?」


驚く楓をよそに、昴はポケットからハンカチを取り出して、楓の顔についた雨粒を拭き取っていく。
< 52 / 134 >

この作品をシェア

pagetop