煌めいて初恋
昴の背がやがて見えなくなると、楓は大きなため息をついた。
「仕方ない、帰ろう…」
恵を待とうかななんて昴には言ったが、それは絶対に駄目だ。それに雨もそこまで酷いわけではなさそうだった。
楓は「よし」と気合を入れると、生徒玄関を飛び出した。
ぴしゃぴしゃと、水たまりを駆ける。
とんだ雨粒は、楓の足に飛び散っていく。
一粒。
また一粒。
楓の体を静かに濡らしていく。
どれくらい走っただろうか。
楓は膝に手をついた。
まだ坂の中腹で、上から大粒の雫が一粒、また一粒と落ちてきて、楓の体に落ちて跳ねる。
雨が弾かれていく音がした。
自分の体ではなく、別のものに弾かれていく音。
タンッタンッ
楓はゆっくりと、顔を上げた。
「…鬼島…くん…」
雨が、弾かれていく。
「白波さん、大丈夫?」
昴は顔をしかめていた。
「なっ、なんで?」
驚く楓をよそに、昴はポケットからハンカチを取り出して、楓の顔についた雨粒を拭き取っていく。