煌めいて初恋
楓は足を止めて、小さく息を吸った。
「鬼島くん、あのっ、昨日は…昨日は、ごめんなさい」
勢いよく頭を下げた。
沈黙が続いた。
雨音と、微かな昴の息遣いだけが耳を抜けていく。
「…白波さん」
しばらく、いや、楓がそう感じるだけかもしれないが、ほんの間を置いて昴の戸惑ったような声が静かに響いた。
楓はゆっくりと昴の表情を窺うように顔を上げた。
「その…白波さんが謝ることじゃないから。元はと言えば俺が白波さんに弾いてって、お願いしたのが悪いんだから」
鬼島くんは少し困ったように眉を下げていた。
どうしてそんなに謝るのかと言わんばかりに。
「…そんなこと…ない…よ。せっかく私なんかの演奏を褒めてくれて、弾いてって言ってくたのに。なのに私、弾くことすらできなくて…ほんとに…鬼島くんに申し訳なくて…」
ごめんなさい…
謝ることしか出来ない私。
私は弱くて、うじうじしていて、取り柄もなくて…
だから私は…人前で演奏ができなくなった。
逃げたんだ、あの日。
私は…私は…
「私なんか、なんて、言うなよ」