煌めいて初恋
3章 知りたい
近々に、夏が訪れようとしている。
昨日もセミの鳴き声が辺りを占めるようになった爽やかな朝、8時。
楓はヴァイオリンケースを抱えて、自宅を飛び出した。
「行ってきます!」
「いってらっひゃぃ」
母の寝ぼけた声が聞こえてきた。
母は楓を産んですぐ、夫、楓の父とすぐに離婚した。
そしてそれ以来、夫に養育費を貰わずに一人で子供を育てている。
母は普段、フリーランスのライターをしている。母の書いた文章は誰もいつも好評で、売上は滅茶苦茶高いらしい。
それは母に仕事を持ってくるある編集者から聞いたことだが、その人は母の文章の大ファンだそうで、母と仕事ができることがとても嬉しいのだそう。
いつも楓の前ではのんびりとしていて、仕事をしているのを見たことがない。
けれど、いつもお小遣いは入ってくるし、生活も何不自由なく送れている。
正直言って母の生活はよく理解できない。
だが、母一人で育ててもらったことへの尊敬はとてもしているし、母のことは大好きだ。
ふとそんなことを思いながら、楓は「緑のホール」への道を急いだ。
すると…
「かえでぇーー!ちょっとまってぇ!」
聞き慣れた母の声が聞こえてきて、楓は足を止めた。