煌めいて初恋

「楽器の管理も演奏と同じで習慣みたいなものだからな。大変とか考えたことなかった」


「そういうもの?」


「そうだね」


そんな話をしているうちに森本のおじいちゃんの家に着いた。


「外で待ってるから、荷物とって来なよ」


楓はヴァイオリンケースを急いで取りに行き、森本のおじいちゃんにお礼を言った。


「今日はごちそうさまでした。森本のおじいちゃん、ありがとう。また来るね」


「こちらこそ、わしも楽しかったよ。また今度は久美枝ちゃんも一緒にな」


西に沈む太陽を背に、森本家を去る。昴は楓が断るより前に森本のおじいちゃんが作った煮物を持って離さなかったため、楓は素直に甘えることにした。


日はだんだんと落ち、半分ほどが地平線に沈みはじめた。


「そういえば、白波さんの1番好きな曲って何だったっけ?アメイジング……」


何の前触れもない質問に、楓は思わずびくりと肩を震わせた。


「あ、えっと、アメイジング・グレイスだよ」


「アメイジング・グレイス……。それは、どういう曲?」


どういう曲、か。楓はある人の言葉を思い出し、反芻した。


「アメイジング・グレイスは、よく赦しの歌と言われるの。昔……奴隷制の世の中で黒人奴隷貿易に関わって富を得ていたイギリス人がいた。その人はある日船に乗っていて、嵐に見舞われたの。その時彼は神に祈りを捧げた。それが、彼にとっては始めて心の底から祈りを捧げた瞬間だった。彼は助かり、牧師になった。そして牧師になった彼が作った曲がこの『アメイジング・グレイス』なの。
この歌の中で彼の黒人奴隷貿易に関わったことへの悔恨と、こんな自分に赦しを与えた神の愛に対する感謝が歌われてる。」
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